説明

シンクロナイザリング

【課題】摩擦摩耗特性に優れ、相手部材であるテーパー部に摩擦係合して2つの歯車を同期させるため、相手部材に対する動摩擦係数が大きいこと、相手部材との摺動において、耐摩耗性を有すること、などの特性を具備したシンクロナイザリングを提供すること。
【解決手段】シンクロナイザリング1は、円環状のリング本体2と該リング本体2の円筒状の内周面3に一体に接合された摩擦材4と該摩擦材4の内面に形成された円錐面5と該摩擦材4の円錐面5に形成された複数個の環状溝6とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のマニュアルトランスミッションに用いられるシンクロナイザリングに関する。
【背景技術】
【0002】
シンクロナイザリングは、自動車の変速機に組込まれて、変速機の歯車切換え作動時に、切換え噛合させられる2つの歯車同士が円滑に噛合することができるように2つの歯車を同期回転させるリング状の部材である。そして、シンクロナイザリングには、(1)相手部材であるテーパー部に摩擦係合して2つの歯車を同期させるため、相手部材に対する動摩擦係数が大きいこと、(2)相手部材との摺動において、耐摩耗性を有すること、などの特性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】:特公平7−107182号公報
【特許文献2】:特公昭47−24053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、シンクロナイザリングとしては、Cu−Zn系の高力黄銅製のシンクロナイザリング(特許文献1参照)やCu−Al系のアルミニウム青銅製のシンクロナイザリングが多く使用されているが、近年における自動車等の高出力、高トルク化の傾向に伴い、シフト時にシンクロナイザリングに過大な負荷が加わるようになったため、Cu系のシンクロナイザリングでは、動摩擦係数が小さく、上記特性(1)を満足しないという問題、また鉄系リングのテーパー面にモリブデン(Mo)を溶射したシンクロナイザリングにおいても、上記特性(1)を満足しないという問題を有している。
【0005】
上述したCu系のシンクロナイザリングの問題点を解決するものとして、金属製リングのテーパー面に繊維質を主材とする摩擦材をライニングしたシンクロナイザリングが提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この特許文献2に記載されたシンクロナイザリングにあっては、初期の摩擦係数が非常に高く、またシフト回数の繰り返しにより、摩擦係数が急激に低下し、やはり上記特性(1)を満足しないという問題がある。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、摩擦摩耗特性に優れ、上記特性(1)及び(2)を具備したシンクロナイザリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシンクロナイザリングは、円環状のリング本体を有しており、該リング本体の内周面及び外周面の少なくとも一方には摩擦材が一体に接合されており、該摩擦材は、ミネラル成分を含む多孔質炭素粉末40〜70重量%を分散含有したフェノール樹脂を含んでいる。
【0008】
本発明のシンクロナイザリングによれば、リング本体の内周面及び外周面の少なくとも一方に一体に接合された摩擦材は、フェノール樹脂と該フェノール樹脂中に40〜70重量%の割合で分散含有されたミネラル成分を含む多孔質炭素粉末を有し、摩擦材の表面は該多孔質炭素粉末が表面に露出して多孔質化されているので、相手部材と油中で摩擦接触したとき、摩擦界面に油膜が形成され難く、動摩擦係数を大きくすることができる。
【0009】
本発明において、円環状のリング本体は、鉄若しくは鉄系合金、銅合金などの非鉄合金又はそれらの焼結合金から形成されているとよい。
【0010】
本発明では、ミネラル成分を含む多孔質炭素粉末は、炭素成分65〜75重量%とミネラル成分5〜10重量%と酸素15〜30重量%とを含んでいるとよい。
【0011】
このミネラル成分を含む多孔質炭素粉末は、該多孔質炭素粉末中に含有されたミネラル成分(Na、Mg、P、K)が油中での相手部材との接触において、摩擦界面に介在することにより摩擦材の耐摩耗性の向上に寄与する。このミネラル成分による効果は詳らかでないが、該多孔質炭素粉末中の炭素成分は何ら黒鉛化されておらず、通常の黒鉛(グラファイト)のような低摩擦性を具有していないにも拘らず上記の効果が発揮されることから、ミネラル成分は、油との接触により炭素成分と相手部材との摩擦界面での直接的な接触を防ぐ作用を発揮しているものと推察される。
【0012】
フェノール樹脂は、本発明では、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びメラミン変性フェノール樹脂の1種又は2種以上からなるとよい。
【0013】
フェノール樹脂は、該樹脂中に分散含有される多孔質炭素粉末同士を接合すると共に摩擦材をリング本体の内周面及び外周面の少なくとも一方に接合する接合剤の役割を果たすものである。特に、ノボラック型フェノール樹脂は、摩擦材を製造する際の成形性を容易にすることから好ましいものである。また、摩擦材中に占めるフェノール樹脂量の多寡は、摩擦材の油中での膨潤に影響を及ぼすものであることから十分注意を必要とする。本発明では、摩擦材中に占めるフェノール樹脂量が30〜60重量%が適当であることを確認した。
【0014】
本発明のシンクロナイザリングにおいて、摩擦材は、更に、無機ウイスカ及び/又は多孔質セラミックス、すなわち、無機ウイスカ及び多孔質セラミックスのうちの少なくとも一方を5〜30重量%の割合で含有していてもよく、無機ウイスカは、硫酸カルシウムウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ、酸化亜鉛ウイスカ、硫酸マグネシウムウイスカ、硼酸アルミニウムウイスカ、珪酸カルシウムウイスカ及び酸化チタンウイスカから選択される1種又は2種以上からなるとよい。
【0015】
これらの無機ウイスカは、上記フェノール樹脂及び多孔質炭素粉末に配合されることにより、摩擦材の耐摩耗性を著しく向上させる役割を果たす。無機ウイスカの繊維長さは10〜100μmであり、摩擦材中への一様な分散を行わせるためには、その繊維長さは50μm前後のものが好ましい。
【0016】
また、多孔質セラミックスは、活性アルミナ及び活性マグネシアのうちの少なくとも一方から選択されるとよい。この多孔質セラミックスは、上記フェノール樹脂及び多孔質炭素粉末に配合されることにより又はフェノール樹脂、多孔質炭素粉末及び無機ウイスカに配合されることにより、摩擦材の耐摩耗性を著しく向上させる役割を果たす。多孔質セラミックスは平均粒子径はおおよそ0.5〜10μm程度のものが好ましい。
【0017】
そして、これらの無機ウイスカ及び/又は多孔質セラミックスの配合量は、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜20重量%である。配合量が5重量%より少ないと摩擦材の耐摩耗性の向上に好ましい効果が発揮されず、また30重量%を超えて配合すると、摩擦材の表面に露出する割合が多くなり、摩擦材中の多孔質炭素粉末の耐摩耗性の効果を減少させるばかりでなく、相手部材を損傷させるという欠点が現れる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシンクロナイザリングによれば、円環状のリング本体の内面及び外面の少なくとも一方の円錐面に一体に接合された摩擦材は、相手材との摺動摩擦において、動摩擦係数が高く、耐摩耗性を有しているので、シンクロナイザリングの耐用年数を延ばすことができ、変速機の歯車切換え作動時の2つの歯車の同期回転を確実に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明のシンクロナイザリングの一例を示す縦断面図である。
【図2】図2は、本発明のシンクロナイザリングの他の例を示す縦断面図である。
【図3】図3は、本発明のシンクロナイザリングの他の例を示す縦断面図である。
【図4】図4は、本発明のシンクロナイザリングの他の例を示す縦断面図である。
【図5】図5は、本発明のシンクロナイザリングの他の例を示す一部縦断面図である。
【図6】図6は、本発明のシンクロナイザリングの他の例を示す一部縦断面図である。
【図7】図7は、本発明のシンクロナイザリングの他の例を示す一部縦断面図である。
【図8】図8は、本発明のシンクロナイザリングの他の例を示す一部縦断面図である。
【図9】図9は、試験装置を示す説明図である。
【図10】図10は、膨潤量の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明において使用されるミネラル成分を含む多孔質炭素粉末について説明する。
【0022】
<多孔質炭素粒子の製造方法>
(1)米糠や麩等の麩糠類を脱脂し、粒度を調整した麩糠類を準備する工程と、(2)粒度を調整した麩糠類に熱硬化性合成樹脂としてフェノール樹脂及び適量の糊料入り水溶液又は水を加えて混練したのち、所定粒度に造粒する工程と、(3)この造粒した造粒物を不活性ガス雰囲気又は真空中で900〜1100℃の温度で炭化焼成する工程と、からなり、これら(1)〜(3)の工程を経て多孔質炭素粉末(粒子)が製造される。
【0023】
上記の製造方法によって得られた多孔質炭素粉末は、炭素成分65〜75重量%とミネラル成分5〜10重量%と酸素15〜30重量%とを含むものであり、該多孔質炭素粉末の硬さは、おおむね440Hv(ビッカース硬さ)である。そして、この多孔質炭素粉末の具体例として、例えば三和油脂株式会社から市販されている「粉末RBC」は好適なものとして挙げられる。
【0024】
フェノール樹脂は、該樹脂中に分散含有される多孔質炭素粒子同士を接合する役割と、摩擦材をリング本体の内周面及び外周面の少なくとも一方に接合する接合剤の役割とを果たすものであり、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びメラミン変性フェノール樹脂の1種又は2種以上から選択されるとよい。特に、ノボラック型フェノール樹脂は、摩擦材を製造する際の成形性を容易にすることから好ましいものである。また、摩擦材中に占めるフェノール樹脂量の多寡は、摩擦材の油中での膨潤に影響を及ぼすものであることから十分注意を必要とする。本発明では、摩擦材中に占めるフェノール樹脂量が30〜60重量%が適当であることを確認した。
【0025】
本発明のシンクロナイザリングには、上記したミネラル成分を含む多孔質炭素粉末及びフェノール樹脂に、更に耐摩耗性の向上を目的として、所定量の無機ウイスカ及び/又は多孔質セラミックスを配合した摩擦材を用いることができる。無機ウイスカは、硫酸カルシウムウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ、酸化亜鉛ウイスカ、硫酸マグネシウムウイスカ、硼酸アルミニウムウイスカ、珪酸カルシウムウイスカ及び酸化チタンウイスカの1種又は2種以上から選択されるとよい。また、多孔質セラミックスは、活性アルミナ及び活性マグネシアのうちの少なくとも一方から選択されるとよい。無機ウイスカ及び/又は多孔質セラミックスの配合量は、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜20重量%である。配合量が5重量%より少ないと摩擦材の耐摩耗性の向上に好ましい効果が発揮されず、また30重量%を超えて配合すると、摩擦材の表面に露出する割合が多くなり、摩擦材中の多孔質炭素粒子の耐摩耗性の効果を減少させるばかりでなく、相手部材を損傷させるという欠点が現れる。
【0026】
上記した成分組成からなる摩擦材は、ミネラル成分を含む多孔質炭素粉末とフェノール樹脂とを、あるいはミネラル成分を含む多孔質炭素粉末とフェノール樹脂と無機ウイスカとをそれぞれ所定量の割合で配合し、これらをヘンシェルミキサー等の混合機に投入し、通常の混合方法によって均一な混合物として作製される。
【0027】
次に、この混合物を使用したシンクロナイザリングの製造方法について、図面を参照して説明する。
【0028】
<第一の製造方法>
所定量の割合に配合したミネラル成分を含む多孔質炭素粉末とフェノール樹脂との混合物又はミネラル成分を含む多孔質炭素粉末とフェノール樹脂と無機ウイスカ及び/又は多孔質セラミックスとの混合物を金型内に充填し、180〜300℃の温度で圧縮成形して該混合物からなる円筒状の摩擦材を作製する。この摩擦材を、鉄若しくは鉄合金、非鉄合金又はそれらの焼結合金からなるリング本体の円筒状の内周面に接着剤を介して一体的に接合し、ついで、摩擦材の円筒内面を機械加工により円錐面に形成し、リング本体の内周面に摩擦材を一体に接合したシンクロナイザリングを作製する。このように作製されたシンクロナイザリングにおいて、摩擦材の円錐面に環状溝を必要とする場合は、該摩擦材の円錐面に機械加工を施して適宜環状溝を形成すればよい。
【0029】
図1は、上記第一の製造方法によって作製されたシンクロナイザリングを示すものであり、シンクロナイザリング1は、円環状のリング本体2と該リング本体2の円筒状の内周面3に一体に接合された摩擦材4と該摩擦材4の内面に形成された円錐面5と該摩擦材4の円錐面5に形成された複数個の環状溝6とを具備している。
【0030】
また、上述した第一の製造方法において、混合物を金型内に充填し、180〜300℃の温度で圧縮成形して外面に円筒面を有し、内面に円錐面を有すると共に長さ方向に貫通する複数個の長溝を有する該混合物からなる摩擦材を作製し、この摩擦材をリング本体の円筒状の内周面に接着剤を介して一体的に接合してもシンクロナイザリングを作製することができる。この方法によって作製されたシンクロナイザリングにおいては、上記の製造方法に対し、摩擦材の円筒内面を機械加工により円錐面に形成する工程を省略することができる。そして、摩擦材の円錐面に長溝に加えて環状溝を必要とする場合は、該摩擦材の円錐面に機械加工を施して適宜環状溝を形成すればよい。図2はこの製造方法によって作製されたシンクロナイザリングを示すものであり、シンクロナイザリング1は、円環状のリング本体2と該リング本体2の円筒状の内周面3に一体に接合された摩擦材4と該摩擦材4の内面に形成された円錐面5と該円錐面5に形成された複数個の竪溝7とを具備している。
【0031】
更に、上述した第一の製造方法において、混合物を金型内に充填し、180〜300℃の温度で圧縮成形して内面及び外面に円錐面を有すると共に内面の円錐面に長さ方向に貫通する複数個の長溝を有する該混合物からなる摩擦材を作製し、この摩擦材をリング本体の円錐状の内周面に接着剤を介して一体的に接合してもシンクロナイザリングを作製することができる。この方法によって作製されたシンクロナイザリングにおいても、摩擦材の内面の円錐面に環状溝を必要とする場合は、該摩擦材の内面の円錐面に機械加工を施して適宜環状溝を形成すればよい。図3はこの製造方法によって作製されたシンクロナイザリングを示すものであり、シンクロナイザリング1は、円環状のリング本体2と該リング本体2の円錐状の内周面8に一体に接合された摩擦材4と該摩擦材4の内面の円錐面5と該円錐面5に形成された複数個の竪溝7とを具備している。
【0032】
また、図4は、図3に示すシンクロナイザリング1の摩擦材4の内面の円錐面5に、更に複数個の環状溝を形成したシンクロナイザリング1を示すものであり、シンクロナイザリング1は、円環状のリング本体2と該リング本体2の円錐状の内周面8に一体に接合された摩擦材4と該摩擦材4の内面の円錐面5と該円錐面5に形成された複数個の竪溝7と該円錐面5に形成された複数個の環状溝6とを具備している。
【0033】
<第二の製造方法>
成形金型内に、上記と同様のリング本体を配置し、このリング本体の円筒状の外周面に、上記と同様の混合物を充填し、180〜300℃の温度で圧縮成形してリング本体の外周面に、外面に円錐面を有すると共に長さ方向に貫通する複数個の長溝を有する摩擦材を一体的に接合し、リング本体の外周面に摩擦材を一体に接合したシンクロナイザリングを作製する。この方法によって作製されたシンクロナイザリングにおいても、摩擦材の円錐面に環状溝を必要とする場合は、該摩擦材の円錐面に機械加工を施して適宜環状溝を形成すればよい。
【0034】
上述した第二の製造方法において、成形金型内に、内周面及び外周面の少なくとも一方を円錐状に形成したリング本体を配置し、このリング本体の円錐状に形成した内周面及び外周面の少なくとも一方に混合物を充填し、180〜300℃の温度で圧縮成形してリング本体の円錐状に形成した内周面及び外周面の少なくとも一方に長さ方向に貫通する複数個の長溝を有する摩擦材を一体的に接合し、リング本体の円錐状に形成した内周面及び外周面の少なくとも一方に摩擦材を一体に接合したシンクロナイザリングを作製してもよい。この方法によって作製されたシンクロナイザリングにおいても、摩擦材の円錐面に環状溝を必要とする場合は、該摩擦材の円錐面に機械加工を施して適宜環状溝を形成すればよい。図5はこの製造方法によって作製されたシンクロナイザリングを示すものであり、シンクロナイザリング1は、円筒状の内周面3を有し、円錐状の外周面9を有するリング本体2と該リング本体2の円錐状の外周面9に一体に接合されていると共に円錐面11を有する摩擦材4と該摩擦材4の円錐面11に長さ方向に貫通して形成された複数個の竪溝12とを具備している。
【0035】
また、図6は、図5に示すシンクロナイザリング1の摩擦材4の円錐面11に、更に複数個の環状溝13を形成したシンクロナイザリング1を示すものであり、シンクロナイザリング1は、円筒状の内周面3を有し、円錐状の外周面9を有するリング本体2と該リング本体2の円錐状の外周面9に一体に接合されていると共に外面に円錐面11を有する摩擦材4と該摩擦材4の円錐面11に長さ方向に貫通して形成された複数個の竪溝12と該摩擦材4の円錐面11に形成された複数個の環状溝13とを具備している。
【0036】
図7は、上記第二の製造方法によって作製されたシンクロナイザリングを示すものであり、図7に示すシンクロナイザリング1は、円錐状の内周面8及び円錐状の外周面9を有するリング本体2と該リング本体2の円錐状の内周面8及び円錐状の外周面9に一体的に接合された摩擦材4、4と該摩擦材4、4に形成された長さ方向に貫通して長く伸びた複数個の竪溝7、12とを具備している。図8は、図7に示すシンクロナイザリング1の円錐状の内周面8及び円錐状の外周面9に一体に接合された摩擦材4、4に、更に複数個の環状溝6、13を形成したシンクロナイザリング1を示すものであり、シンクロナイザリング1は、円錐状の内周面8及び円錐状の外周面9を有するリング本体2と該リング本体2の円錐状の内周面8及び円錐状の外周面9に一体的に接合された摩擦材4、4と該摩擦材4、4に形成された長さ方向に貫通する複数個の竪溝7、12と該摩擦材4、4に形成された複数個の環状溝6、13とを具備している。
【0037】
<第三の製造方法>
上述した第二の製造方法において、リング本体の円筒状の外周面又はリング本体の円錐状の内周面8及び円錐状の外周面9の少なくとも一方に圧縮成形により該混合物からなる摩擦材を一体的に接合する代わりに、該混合物をリング本体の円筒状の外周面又はリング本体の円錐状の内周面8及び円錐状の外周面9の少なくとも一方に射出成形により該混合物からなる摩擦材を一体的に接合してシンクロナイザリングを作製する。この方法によって作製されたシンクロナイザリングにおいても、摩擦材の円錐面に環状溝を必要とする場合は、該摩擦材の円錐面に機械加工を施して適宜環状溝を形成すればよい。
【0038】
上記したいずれかの製造方法によって作製されたシンクロナイザリングでは、リング本体の内周面又は内周面及び外周面にミネラル成分を含む多孔質炭素粉末とフェノール樹脂との混合物又はミネラル成分を含む多孔質炭素粉末とフェノール樹脂と無機ウイスカ及び/又は多孔質セラミックスとの混合物からなる摩擦材が一体的に接合されているので、相手材との摩擦摺動において、前記した(1)相手部材であるテーパー部に摩擦係合して2つの歯車を同期させるため、相手部材に対する動摩擦係数が大きいこと、(2)相手部材との摺動において、耐摩耗性を有すること、などの特性が発揮される。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に何等限定されないのである。
【0040】
実施例1〜3
炭素成分72.8重量%、酸素19.8重量%、ミネラル成分7.4重量%(Na:1.9重量%、Mg:0.8重量%、P:2.8重量%、K:1.9重量%)を含む平均粒径150μmの多孔質炭素粉末を準備し、この多孔質炭素粉末50〜70重量%とノボラック型フェノール樹脂30〜50重量%とをヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合して混合物を得た。
【0041】
銅合金製のリング本体を準備し、該リング本体を成形金型内に予め配置し、リング本体の内面に前記混合物を充填した。ついで、300℃の温度に加熱し、圧縮成形してリング本体の内面に摩擦材を一体的に接合した。成形後、金型から取出し、摩擦材の内面を円錐面に機械加工すると共に該摩擦材の円錐面に機械加工により環状溝を形成した。このようにして、リング本体の内面に摩擦材を一体的に接合したシンクロナイザリングを作製した。
【0042】
実施例4〜9
前記実施例と同様の多孔質炭素粉末を準備した。耐摩耗性向上剤としての無機ウイスカとして、繊維長さが50μmの硫酸カルシウムウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ及び硼酸アルミニウムウイスカを準備した。多孔質炭素粉末50重量%と無機ウイスカ0〜20重量%とノボラック型フェノール樹脂30〜40重量%とをヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合して混合物を得た。以下、前記実施例と同様の方法で、リング本体の内面に摩擦材を一体的に接合したシンクロナイザリングを作製した。
【0043】
実施例10〜12
前記実施例と同様の多孔質炭素粉末を準備した。耐摩耗性向上剤としての多孔質セラミックスとして平均粒径0.5μmの活性アルミナを、無機ウイスカとして繊維長さが50μmのチタン酸カリウムウイスカの夫々を準備した。多孔質炭素粉末50〜60重量%、活性アルミナ10〜20重量%及びノボラック型フェノール樹脂30重量%をヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合して得た混合物と、多孔質炭素粉末50重量%、活性アルミナ10重量%、チタン酸カリウムウイスカ10重量%及びノボラック型フェノール樹脂30重量%をヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合して得た混合物とを夫々準備した。以下、前記実施例と同様の方法で、リング本体の内周面に摩擦材を一体的に接合したシンクロナイザリングを作製した。
【0044】
比較例1
炭素繊維40重量%、珪酸カルシウム粉末20重量%、黄銅粉末10重量%及びノボラック型フェノール樹脂30重量%をヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合して混合物を得た。以下、前記実施例と同様の方法で、リング本体の内面に摩擦材を一体的に接合したシンクロナイザリングを作製した。
【0045】
比較例2
前記実施例1と同様の多孔質炭素粉末を準備した。この多孔質炭素粉末30重量%とノボラック型フェノール樹脂70重量%とをヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合して混合物を得た。以下、前記実施例と同様の方法で、リング本体の内面に摩擦材を一体的に接合したシンクロナイザリングを作製した。
【0046】
比較例3
前記実施例1と同様の多孔質炭素粉末を準備した。この多孔質炭素粉末80重量%とノボラック型フェノール樹脂20重量%とをヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合して混合物を得た。以下、前記実施例と同様の方法で、リング本体の内面に摩擦材を一体的に接合したシンクロナイザリングを作製した。
【0047】
比較例4
内面に円錐面を備えた黄銅(Zn30重量%、Al4.5重量%、Ni2.0重量%、Fe1.0重量%、Ti0.8重量%、Nb0.2重量%、銅残部)製のシンクロナイザリングを作製した。
【0048】
次に、上述した各実施例からなるシンクロナイザリング及び各比較例からなるシンクロナイザリングについて、図9に示す試験装置を使用して、シンクロナイザリングの摩擦摩耗特性を試験した結果を説明する。図9において、符号1はシンクロナイザリング、15はテーパコーン、16及び17はテーパコーン取付治具、18及び19はシンクロナイザリング押当治具である。
【0049】
<連続回転試験>
<試験条件>
回転数 1500rpm
押当荷重 60kgf(面圧8.83MPa)
【0050】
<試験方法>
図9に示す試験装置を使用し、70℃の潤滑油〔ISUZU BESCO 5W−30(商品名)〕中で、上記回転数で回転しているテーパコーン15に、シンクロナイザリング1を0.3秒間押当て、1.5秒間離すことを1回として、押当回数2000回行う。摩擦係数は、押当回数10回、500回、1000回、1500回、2000回時点の値を、摩耗量は、押当回数2000回時点の値を測定した。
【0051】
<膨潤試験>
<試験方法>
潤滑油として、ISUZU BESCO 5W−30(商品名)を使用し、該潤滑油を充填したオイルバスを準備し、該オイルバス中の潤滑油を70℃の温度に保持した状態で、該オイルバス中の潤滑油を撹拌しながら該オイルバス中に試験片(上記実施例及び比較例からなるシンクロナイザリング)を200時間浸漬し、該試験片の試験前と試験後の内面の変位量(μm)を測定する。
【0052】
上記試験による試験片の試験前及び試験後の内面の変位量の測定方法は、図10に示す測定治具を使用して行った。すなわち、外面にテーパー面20を具備したテーパーゲージGを準備し、このテーパーゲージGのテーパー面20に上記各試験片Sの内面の円錐面を挿入し、該テーパーゲージGの端面21と各試験片Sの端面22との試験前の寸法L1と試験後の寸法L2とを測定し、その寸法L1及び寸法L2の差を変位量(膨潤量)とする。
【0053】
前記実施例及び比較例からなるシンクロナイザリングについて、上記試験の試験結果を表1〜表6に示す。
【0054】
【表1】







【0055】
【表2】

【0056】
【表3】









【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】





【0060】
以上の試験結果から、実施例のシンクロナイザリングは、動摩擦係数が高く、耐摩耗性に優れていることが確認され、また試験後の相手材表面(摩擦面)には何らの損傷もないことが確認された。一方、比較例1からなるシンクロナイザリングの動摩擦係数は初期において良好な値を示すが、押当回数の増加に伴い動摩擦係数が低下するという問題を有し、シンクロナイザリングとして使用に供し難い。比較例2からなるシンクロナイザリングは、多孔質炭素粉末を含有しているにもかかわらずその含有量が少ないため、接合剤のフェノール樹脂の摩擦挙動が顕著となり、動摩擦係数が低く、耐摩耗性に劣り、膨潤量が非常に大きいことが確認された。また、比較例3からなるシンクロナイザリングは、前記比較例2とは反対に、多孔質炭素粉末の含有量が多すぎるため、摩擦材の強度が小さくなり、結果として耐摩耗性が不足する。更に、比較例4からなるシンクロナイザリングは耐摩耗性は充分であるが、動摩擦係数が低く、やはりシンクロナイザリングとしては問題がある。
【符号の説明】
【0061】
1 シンクロナイザリング
2 リング本体
3 円筒内周面
4 摩擦材
5 円錐面
6 環状溝
7 竪溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のリング本体を有しており、該リング本体の内周面及び外周面の少なくとも一方には摩擦材が一体に接合されており、該摩擦材は、ミネラル成分を含む多孔質炭素粉末40〜70重量%を分散含有したフェノール樹脂を含んでいることを特徴とするシンクロナイザリング。
【請求項2】
リング本体は、鉄若しくは鉄合金、非鉄合金又はそれらの焼結合金からなる請求項1に記載のシンクロナイザリング。
【請求項3】
ミネラル成分を含む多孔質炭素粉末は、炭素成分65〜75重量%とミネラル成分5〜10重量%と酸素15〜30重量%とを含んでいる請求項1又は2に記載のシンクロナイザリング。
【請求項4】
フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びメラミン変性フェノール樹脂から選択される1種又は2種以上からなる請求項1から3のいずれか一項に記載のシンクロナイザリング。
【請求項5】
摩擦材は、無機ウイスカ及び/又は多孔質セラミックスを5〜30重量%の割合で含有する請求項1から4のいずれか一項に記載のシンクロナイザリング。
【請求項6】
無機ウイスカは、硫酸カルシウムウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ、酸化亜鉛ウイスカ、硫酸マグネシウムウイスカ、硼酸アルミニウムウイスカ、珪酸カルシウムウイスカ及び酸化チタンウイスカから選択される1種又は2種以上からなる請求項5に記載のシンクロナイザリング。
【請求項7】
多孔質セラミックスは、活性アルミナ及び活性マグネシアのうちの少なくとも一方から選択される請求項5に記載のシンクロナイザリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−7863(P2010−7863A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238101(P2009−238101)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【分割の表示】特願2005−506902(P2005−506902)の分割
【原出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【出願人】(390036593)中越合金鋳工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】