説明

シール材および電気化学装置

【課題】常温を超える運転温度で使用される高温機器において、ガス流路の気密性を良好に確保することのできるシール材を提供すること。
【解決手段】実施形態のシール材14、15は、常温を超える運転温度で使用される高温機器において、ガス流路の気密性を確保するために該ガス流路に配置されるシール材に関する。実施形態のシール材14、15は、常温を超えかつ該運転温度以下の温度で膨張および硬化する材料を含む第1の層31と、該第1の層31に隣接して配置され、該運転温度以下の温度で軟化する材料を含む第2の層32とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態はシール材および電気化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質燃料電池(SOFC)は、通常600〜1000℃前後の運転条件において酸素イオン導伝性を有する電解質膜を介して、水素または炭化水素等の還元剤と、酸素等の酸化剤とを反応させ、そのエネルギーを電気として取り出すものである。一方、高温水蒸気電解法(HTE)は、高温の水蒸気を電気分解することにより水素と酸素とを得る方法で、その動作原理は固体電解質燃料電池の逆反応である。
【0003】
このような電気化学装置の実用化にあたっては、約600〜1000℃の作動温度および酸化/還元雰囲気という作動雰囲気下で、電解質膜の両主面に設けられた一対の電極に異なる種類のガスを供給し、またこれらの電極から生成した異なるガスを排出する必要がある。電気化学装置の効率的な運転の観点から、このような異なる種類のガスが互いに混合、反応しないこと、また装置外に漏出しないこと、さらに他のガスが装置内に侵入しないことが求められる。
【0004】
上記したように、電気化学装置は一般に600〜1000℃の高温下で運転され、常温から運転温度までの昇降温サイクルが繰り返して印加されることから、そのシール構造を主として構成するシール材には、このような昇降温サイクルによる各部の熱膨張差によって生じる応力やゆるみを緩和し、良好な気密性を確保することが求められる。
【0005】
一方、電気化学セルは電解質や触媒等からなる複数のセラミック薄膜が積層されたものであり、電気化学装置への組み付けの際の締め付けにより破損しやすいことから、シール材にはこのような組み付けによる電気化学セルの破損を抑制できることも求められる。また、シール材には、このような組み付けによる自身の破損も抑制できることが求められる。
【0006】
電気化学装置における電気化学セル、特に電解質膜と、これに隣接して配置されるセパレータとの間のシール構造については、これまで様々な検討が行われている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−287585号公報
【特許文献2】特開2009−217959号公報
【特許文献3】特開2010−55951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、常温を超える運転温度で使用される高温機器において、ガス流路の気密性を良好に確保することのできるシール材を提供することを課題としている。また、本発明は、このようなシール材を用いた高効率な電気化学装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態のシール材は、常温を超える運転温度で使用される高温機器において、ガス流路の気密性を確保するために該ガス流路に配置されるシール材に関する。実施形態のシール材は、常温を超えかつ該運転温度以下の温度で膨張および硬化する材料を含む第1の層と、該第1の層に隣接して配置され、該運転温度以下の温度で軟化する材料を含む第2の層とを有することを特徴とする。
【0010】
実施形態の電気化学装置は、電解質膜の両主面に一対の電極が設けられた電気化学セルと、該電気化学セルの少なくとも一方の電極側にガス流路を形成する流路形成材と、該電気化学セルと該流路形成材との間、または該流路形成材中に配置されるシール材とを有し、常温を超える運転温度で使用される電気化学装置に関する。実施形態の電気化学装置は、該シール材が上記した実施形態のシール材であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態のシール材を用いた電気化学装置の一例を示す模式的縦断面図。
【図2】図1に示す電気化学セル、シール材等を示す平面図。
【図3】図1に示すシール材の一部拡大断面図(第1の層の膨張および硬化後)。
【図4】シール材厚みと、ガスリーク量およびシール材圧縮時の破壊確率との関係を説明する説明図。
【図5】シール材の変形例を示す断面図(第1の層の膨張および硬化後)。
【図6】シール材の他の変形例を示す断面図(第1の層の膨張および硬化後)。
【図7】電気化学装置の変形例を示す模式的縦断面図。
【図8】電気化学装置の他の変形例を示す一部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態のシール材および電気化学装置について説明する。
【0013】
実施形態のシール材は、常温を超える運転温度で使用される高温機器において、ガス流路の気密性を確保するために該ガス流路に配置されるシール材に関する。実施形態のシール材は、常温を超えかつ該運転温度以下の温度で膨張および硬化する材料を含む第1の層と、該第1の層に隣接して配置され、該運転温度以下の温度で軟化する材料を含む第2の層とを有することを特徴とする。
【0014】
実施形態のシール材によれば、高温機器の最初の運転時、特に昇温時に、主として第1の層、特に膨張および硬化する材料が膨張および硬化してガス流路の隙間を埋めることにより、該高温機器におけるガス流路の気密性を確保することができる。また、第1の層により必ずしも十分にガス流路の隙間を埋めることができない場合であっても、この隙間部分に第2の層、特に軟化する材料が軟化して充填されるために、ガス流路の気密性を確保することができる。
【0015】
また、その後の運転時に、第1の層の劣化等によりガス流路に隙間が形成された場合や、第1の層自体に亀裂等の損傷により隙間が形成された場合であっても、この隙間部分に第2の層が軟化して充填されるために、ガス流路の気密性を維持することができる。
【0016】
このように、実施形態のシール材によれば、構造材としての役割を有する第1の層に加えて、封止材としての役割を有する第2の層を有することで、第1の層を第2の層によって補完することができ、良好な気密性を確保することができる。また、第1の層と第2の層との2種の層からなるものとすることで、全体構造を比較的簡単なものとし、生産性も良好とすることができる。
【0017】
なお、高温機器としては、常温を超える運転温度で使用されるものであれば特に限定されるものではないが、例えば水素等の還元剤と酸素等の酸化剤とを電気化学的に反応させて電気エネルギーと水蒸気等を得る電気化学装置、また例えば水蒸気を電気分解して水素と酸素とを得る電気化学装置が挙げられる。
【0018】
実施形態の電気化学装置は、電解質膜の両主面に一対の電極が設けられた電気化学セルと、該電気化学セルの少なくとも一方の電極側にガス流路を形成する流路形成材と、該電気化学セルと該流路形成材との間、または該流路形成材中に配置されるシール材とを有し、常温を超える運転温度で使用される電気化学装置に関する。実施形態の電気化学装置は、該シール材が上記した実施形態のシール材であることを特徴とする。
【0019】
実施形態の電気化学装置によれば、上記した実施形態のシール材を用いることで、ガス流路の気密性を良好に確保することができる。結果として、電気化学セルの一方の電極側に供給される反応ガスが他方の電極側に供給される反応ガスと混合して直接反応するいわゆるクロスリークや、反応ガスが電気化学装置外に漏出するいわゆるアウトリークを抑制し、高効率なものとすることができる。
【0020】
なお、電気化学装置としては、例えば水素等の還元剤と酸素等の酸化剤とを電気化学的に反応させて電気エネルギーと水蒸気等を得るもの、また例えば水蒸気を電気分解して水素と酸素とを得るものが挙げられる。
【0021】
以下、実施形態のシール材および電気化学装置について図面を参照して具体的に説明する。図1は、実施形態の電気化学装置の一例を示す模式的縦断面図である。また、図2は、図1に示す電気化学装置の電気化学セルやシール材等を示す平面図である。さらに、図3は、図1に示すシール材(第1の層の膨張および硬化後)の一部拡大断面図である。なお、図1に示す電気化学装置については、説明のために各部材間を分離して図示している。
【0022】
まず、実施形態の電気化学装置10の全体構造について説明する。電気化学装置10は、主として電気化学を行う電気化学セル11と、この電気化学セル11に対向して配置され、電気化学セル11へのガス流路を形成する流路形成材であるセパレータ12、13と、これらの間に配置され、ガス流路の気密性を確保するシール材14、15とを有している。
【0023】
これら電気化学セル11、セパレータ12、13、およびシール材14、15は、例えば絶縁シート16、17を介してエンドプレート21、22によって挟持されている。エンドプレート21、22による挟持は、各部材の外周部付近に周方向に一定の間隔となるように設けられた複数のボルト孔23にボルト24を挿入するとともに、これに取り付けたナット25により締め付けることにより行われている。各部材におけるボルト孔23の個数は、作業性を損なわない限度において多いことが好ましく、例えば8〜12個が好ましい。
【0024】
電気化学セル11は、例えば平板状の電解質膜111の両主面に電極112、113が設けられたものである。この電気化学セル11は、電解質膜111によって全体が支持されており、また全体が平板状を有しており、いわゆる電解質支持型平板セルと呼ばれるものである。電極112、113は、例えば一方が酸素極とされ、他方が水素極とされている。
【0025】
電極112、113は、電解質膜111の略中央部に形成されるとともに、これよりも一回り小さく形成されている。そして、電解質膜111のうち、電極112、113が形成されない外周部が支持部として利用されている。電解質膜111、電極112、113は、例えば図2に示すように円形状とされているが、必ずしもこのような形状に限定されるものではなく、例えば四角形状等の非円形状であっても構わない。
【0026】
電解質膜111は、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)等の電子絶縁性と酸素イオン導伝性を持つ固体酸化物材料を膜状に稠密に形成したものである。ここで稠密とは、電解質膜111でのガスリークが実質的に無視できる程度の稠密度であればよい。また、電極112、113のうち、酸素極となるものは、例えばランタン・ストロンチウム・マンガン系ペロブスカイト型酸化物(LSM)からなるものとされ、水素極となるものは、例えばニッケルとYSZとのサーメットの多孔質体からなるものとされている。
【0027】
セパレータ12、13は、電気化学セル11を挟持するように配置されており、エンドプレート21、22によって締め付けられることにより電極112、113と接触している。セパレータ12、13は、例えば円形状とされており、電極112、113に対して均等に電力の取り出しや供給等を行うために、これらよりも径大な略板状とされている。また、セパレータ12、13には、電力の取り出しや供給を行うための外部機器26が電気的に接続されている。
【0028】
セパレータ12、13の電極112、113に接触する接面には、図示しないが所定の間隔でガス供給溝が形成されており、このガス供給溝に図示しないガス供給手段が接続されて反応ガスが供給される。セパレータ12、13のガス供給溝は、通常、互いに直行する向きに形成されている。また、接面におけるガス供給溝以外の部分は、電極112、113に直接接触して電力の取り出しや供給に利用される。ここで、セパレータ12、13のうちシール材14、15が接する接面には全体として大きな凹凸が形成されておらず、平滑であることが好ましい。なお、この接面のうち、後述するシール材14、15の第2の層32と接する部分については、この第2の層32の接着性を向上させるために表面を粗く加工されていてもよい。
【0029】
シール材14、15は、例えばシート状、かつ略環状とされており、電気化学セル11とセパレータ12、13とによって挟持されている。具体的には、シール材14、15は、内径が電極112、113より大きく、かつ電解質膜111よりも小さくされており、内周部が電解質膜111とセパレータ12、13との間に挟持されている。一方、シール材14、15は、外径が電解質膜111よりも大きくされており、外周部がセパレータ12、13に挟持されて互いに直接接触した状態となっている。
【0030】
このように電解質膜111とセパレータ12、13との間にシール材14、15を配置することで、これらの間の気密性を確保することができる。これにより、いわゆるクロスリークやアウトリークを抑制し、高効率なものとすることができる。
【0031】
このような電気化学装置10については、例えば電極112を酸素極とし、電極113を水素極とし、セパレータ12のガス供給溝を通して反応ガス27としての酸素等の酸化剤を供給し、セパレータ13のガス供給溝を通して反応ガス28としての水素等の還元剤を供給する。このようにすることで、セパレータ12、13から電力を取り出すことができる。一方、セパレータ12、13に電力を供給し、水素極となる電極113に水蒸気を供給することで、水蒸気を電気分解することもできる。このような電気化学装置10において、実施形態のシール材14、15を用いることで、良好な気密性を確保して、いわゆるクロスリークやアウトリークを抑制し、高効率なものとすることができる。
【0032】
なお、電気化学装置10としては、必ずしも図1に示すような電気化学セル11が電解質支持型平板セルであるものに限られない。図示しないが、電気化学セル11としては、例えば一端が閉塞された円筒状のものであってもよく、このような電気化学セル11へのガス流路を形成する円筒状等の流路形成材の途中にシール材14、15が配置されるものであってもよい。
【0033】
次に、シール材14、15について具体的に説明する。
シール材14、15は、常温を超えかつ運転温度以下の温度で膨張および硬化する材料を含む第1の層31と、運転温度以下の温度で軟化する材料を含む第2の層32とを有する。
【0034】
通常、電気化学装置10の運転温度は1000℃以下であることから、第1の層31における膨張および硬化する材料、第2の層32における軟化する材料は、このような温度以下で膨張および硬化、または軟化すればよいが、900℃以下で膨張および硬化、または軟化することが好ましく、600〜900℃で膨張および硬化、または軟化することがより好ましい。
【0035】
第1の層31や第2の層32は、例えば略環状とされており、第1の層31の外側に第2の層32が配置されている。このようなシール材14、15によれば、電気化学装置10の最初の運転時に、主として第1の層31が膨張および硬化することで、電解質膜111とセパレータ12、13との間の隙間を埋めて、これらの間の気密性を確保することができる。
【0036】
また、第1の層31により電解質膜111とセパレータ12、13との間を必ずしも十分に埋めることができず、これらの間に隙間が形成される場合であっても、この隙間部分に第2の層32が軟化して充填されるために、これらの間の気密性を確保することができる。
【0037】
また、その後の運転時に、第1の層31の劣化等により電解質膜111とセパレータ12、13との間に隙間が形成された場合や、第1の層31自体に損傷が発生して隙間が形成された場合であっても、この隙間部分に第2の層32が軟化して充填されるために、電解質膜111とセパレータ12、13との間の気密性を維持することができる。
【0038】
第1の層31としては、例えば常温を超えかつ運転温度以下の温度で発泡する発泡材料311、運転温度以下の温度で溶融する溶融材料312、およびこれらを成形するためのバインダーを含むものが好ましい。このような第1の層31は、例えば上記成分を混合して得られる混合物をシート状等の所定の形状に成形することによって製造することができる。なお、バインダーについては、成形性を良好にするために含まれるものであり、最初の運転時まで含有されていればよく、その後については熱分解により除去されるために含有されていなくてもよい。
【0039】
このような第1の層31については、最初の運転時に、例えば図3に示すように、発泡材料311が発泡することにより膨張および硬化する。なお、第1の層31(発泡材料311)の硬化は、発泡した発泡材料311どうしが互いにかみ合うことで、言い換えれば発泡材料311が互いにかみ合うように発泡することで達成される。
【0040】
そして、溶融材料312が溶融することにより、発泡した発泡材料311どうしの間、および発泡した発泡材料311と電解質膜111またはセパレータ12、13との間が埋められる。このような第1の層31により、主として電解質膜111とセパレータ12、13との間が埋められ、これらの間の気密性が確保される。
【0041】
発泡材料311としては、常温を超え、かつ運転温度以下の温度で発泡するものであればよいが、特にガラス化する成分と、水蒸気あるいは二酸化炭素等にガス化する成分とを含有するセラミックスが好ましい。このようなものとしては、例えばパーライト、フライアッシュ、黒曜石等が挙げられる。黒曜石に熱処理を施すことにより発泡した物質は、シラスバルーンとして知られている。
【0042】
発泡材料311は、発泡材料311、溶融材料312、およびバインダーの合計量中、1〜20質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。発泡材料311の含有量を1質量%以上とすることで、第1の層31を効果的に膨張させて、電気化学セル11等の熱膨張に効果的に追随させることができる。一方、発泡材料311の含有量を20質量%以下とすることで、溶融材料312の含有量を確保して十分な気密性を確保することができる。
【0043】
溶融材料312としては、運転温度以下の温度で溶融するものであれば必ずしも制限されるものではないが、運転温度で安定した溶融状態を維持するものが好ましい。このようなものとしてはガラス材料が挙げられ、例えば珪酸ソーダ、硼珪酸ガラス等のガラス転移温度が運転温度以下となるものが挙げられる。なお、溶融材料312は、第1の層31からの漏出を抑制するために、運転温度における流動性が大きくなりすぎないように組成が調整されていることが好ましい。溶融材料312は、例えば粉状またはファイバー状として含有させることができる。
【0044】
溶融材料312は、発泡材料311、溶融材料312、およびバインダーの合計量中、30〜40質量%が好ましい。溶融材料312の含有量を30質量%以上とすることで、発泡した発泡材料311どうしの間隙を効果的に埋めることができる。また、溶融材料312の含有量を40質量%以下とすることで、第1の層31からの溶融材料312の漏出も抑制することができる。
【0045】
バインダーとしては、発泡材料311、および溶融材料312と混合して成形できるものであれば必ずしも制限されるものではないが、常温で安定した成形状態を維持できるものが好ましく、また運転温度以下の温度で熱分解により除去できるものが好ましい。このようなものとしては、例えばメチルセルロース等の一般的な有機バインダーが挙げられる。また、バインダーとしては、Cr、S等、電気化学セル11への被毒成分を含まないものが好ましい。
【0046】
バインダーの含有量は、発泡材料311、溶融材料312、およびバインダーの合計量中、10〜30質量%が好ましい。バインダーの含有量を10質量%以上とすることで、成形性を良好にすることができる。また、バインダーの含有量を30質量%以下とすることで、最初の運転時にバインダーを熱分解により除去しやすくなる。
【0047】
第1の層31は、さらに絶縁性を有する絶縁材料を含んでいてもよい。絶縁材料としては、電気化学セル11を構成するセラミックス材料と同様の熱膨張率を有するものが好ましく、例えばイットリア安定化ジルコニア、アルミナ等のセラミックス材料が好適なものとして挙げられる。
【0048】
第1の層31に絶縁材料を含有させる場合、発泡材料311、溶融材料312、絶縁材料、およびバインダーの合計量中、発泡材料311は1〜20質量%、溶融材料312は30〜40質量%、絶縁材料は20〜30質量%、バインダーは10〜30質量%が好ましい。なお。発泡材料311は5〜20質量%がより好ましい。このようなものとすることで、絶縁性を十分なものとするとともに、その他の特性についても十分なものとすることができる。
【0049】
第2の層32としては、例えば運転温度以下の温度で溶融する溶融材料321、およびこれを常温にて成形するためのバインダーを含むものが挙げられる。このような第2の層32については、例えば上記成分を混合して得られる混合物をシート状等の所定の形状に成形することによって製造することができる。なお、バインダーについては、成形性を良好にするために含まれるものであり、最初の運転時まで含有されていればよく、その後については熱分解により除去されるために含有されていなくてもよい。
【0050】
このような第2の層32によれば、最初の運転時に、第1の層31における発泡した発泡材料311と電解質膜111またはセパレータ12、13との間が第1の層31における溶融材料312によって必ずしも十分に埋められず、隙間が形成された場合であっても、この隙間部分を溶融材料321によって埋めることができ、電解質膜111とセパレータ12、13との間の気密性を確保することができる。
【0051】
また、その後の運転時に、第1の層31における溶融材料312が流出等により減少し、発泡した発泡材料311どうしの間に隙間が発生したり、また発泡した発泡材料311と電解質膜111またはセパレータ12、13との間に隙間が発生したりした場合であっても、この隙間部分を溶融材料321によって埋めることができ、電解質膜111とセパレータ12、13との間の気密性を確保することができる。
【0052】
溶融材料321としては、運転温度以下の温度で溶融するものであれば必ずしも制限されるものではないが、運転温度で安定した溶融状態を維持するものが好ましい。このようなものとしては、第1の層31に用いられる溶融材料312と同様のガラス材料が挙げられ、例えば珪酸ソーダ、硼珪酸ガラス等のガラス転移温度が運転温度以下となるものが挙げられる。この溶融材料321についても、第2の層32からの漏出を抑制するために、運転温度における流動性が大きくなりすぎないように組成が調整されていることが好ましい。溶融材料321は、例えば粉状またはファイバー状として含有させることができる。
【0053】
バインダーとしては、溶融材料321と混合して成形できるものであれば必ずしも制限されるものではないが、常温で安定した成形状態を維持できるものが好ましく、また運転温度以下の温度で熱分解により除去できるものが好ましい。このようなものとしては、第1の層31に用いられるバインダーと同様のものが挙げられ、例えばメチルセルロース等の一般的な有機バインダーが挙げられる。また、バインダーとしては、Cr、S等、電気化学セル11への被毒成分を含まないものが好ましい。バインダーは、成形性や分解性の観点から、溶融材料321、およびバインダーの合計量中、10〜30質量%が好ましい。
【0054】
また、第2の層32としては、上記したもの以外に、例えば上記した溶融材料321、および運転温度で溶融しないガラスまたはセラミックスの繊維を含むものとしてもよい。このような繊維は、例えば織布または不織布であることが好ましい。また、溶融材料321は、このような織布または不織布の間隙に担持されていることが好ましい。
【0055】
このような溶融材料321と繊維とを含む第2の層32は、繊維、例えば織布または不織布に、溶融材料312、必要に応じて上記したようなバインダーを分散させたスラリーを塗布することにより、また上記したスラリーに繊維、例えば織布または不織布を浸漬することにより製造することができる。このような第2の層32によれば、本来の効果に加えて、運転時に溶融した溶融材料321を繊維に保持させることができ、他の部分に漏出することを抑制することができる。
【0056】
溶融材料321と繊維とを含む第2の層32については、溶融材料321と繊維との合計量中、繊維が1〜20質量%であることが好ましい。このようなものとすることで、本来の効果を得つつ、運転時に溶融した溶融材料321を繊維に十分に保持させ、他の部分に漏出することを抑制することができる。
【0057】
このような第1の層31と第2の層32とからなるシール材14、15の大きさは、電気化学セル11の大きさによっても異なるが、その幅、すなわち外径と内径との差は1cm以上が好ましい。シール材14、15の幅を1cm以上とすることで、十分な気密性を確保することができる。また、シール材14、15の幅は3cm以下が好ましい。シール材14、15の幅を3cm以下とすることで、電気化学装置10の大型化を抑制することができる。
【0058】
また、第1の層31の幅は、シール材14、15の全体の幅の1/2〜9/10が好ましい。第1の層31の幅をシール材14、15の全体の幅の1/2以上とすることで、主として気密性を確保する第1の層31の効果を十分に得ることができる。また、第1の層31の幅をシール材14、15の全体の幅の9/10以下とすることで、第2の層32の幅も十分に確保し、第2の層32の効果も十分に得ることができる。
【0059】
一方、第1の層31、第2の層32の厚さはシール材14、15の全体の表面が平滑となるように略同様とすることが好ましく、例えば0.1〜0.5mmが好ましく、0.3〜0.5mmがより好ましい。図4は、電気化学装置10にシール材14、15を適用したときのシール材14、15の厚みと、ガスリーク量およびシール材14、15の破壊確率との関係を模式的に図示したものである。
【0060】
図4に示すように、シール材14、15の厚みを増加させることで、ガスリーク、例えば電解質膜111とセパレータ12、13との間からのガスリークを抑制しやすくなる。しかし、シール材14、15の厚みを増加させると、シール材14、15の破壊確率、具体的には電気化学装置10を製造する際の電解質膜111とセパレータ12、13との締め付けなどによる破壊確率が高くなる。また、シール材14、15の厚みが増加すると、電気化学装置10も大型化しやすい。このためシール材14、15の厚さは0.1〜0.5mmが好ましい。
【0061】
以上、シール材14、15について一例を挙げて説明したが、シール材14、15としては、例えば図5に示すように第1の層31の内側に、さらに別な第2の層32が環状に配置されたものであっても構わない。また、図示しないが、第1の層31についても2層以上配置されていても構わない。このように第1の層31および第2の層32を内外方向に複数配置する場合、例えば第1の層31を合計した幅や第2の層32を合計した幅について上記した関係を満たしていればよい。
【0062】
また、シール材14、15としては、例えば図6に示すように第1の層31の厚さ方向の両主面が第2の層32によって覆われたものであっても構わない。この場合、第1の層31の膨張による気密性の確保等の観点から、シール材14、15の全体の厚さの1/5〜1/10程度を第1の層31とすることが好ましい。
【0063】
次に、電気化学装置10の変形例について説明する。
電気化学装置10としては、例えばセパレータ12、13のうち少なくとも一方が略皿状であるものが好ましい。図7は、セパレータ12、13のうち鉛直方向の下側に配置されるセパレータ13を略皿状としたものである。
【0064】
セパレータ13は、中央部に略水平部131を有し、この略水平部131に対して外周部が鉛直方向の上側に傾斜されることにより傾斜部132が設けられている。このようなセパレータ13によれば、いわゆるリザーバとして機能させることができ、運転時にシール材14、15の第2の層32から溶融材料321が軟化して漏出したとしても、この漏出した溶融材料321を受け止めることができ、その他の部分への漏出を効果的に抑制することができる。
【0065】
また、図8は、電気化学装置10の他の変形例を示す一部拡大断面図である。
図8に示すように、例えばセパレータ12はシール材14との接面に穴部33を有し、この穴部33に運転温度で溶融する溶融材料34が充填されていることが好ましい。このような溶融材料34が充填される穴部33は、例えばセパレータ13に設けられていてもよい。また、溶融材料34としては、例えば第1の層31における溶融材料312や第2の層32における溶融材料321と同様のものが挙げられる。
【0066】
このようにシール材14、15に隣接するセパレータ12、13等に穴部33を設けて溶融材料34を充填することで、例えば運転時間の経過に伴って第1の層31の溶融材料312や第2の層32の溶融材料321が減少した場合に、溶融材料34を補充することができ、結果として電解質膜111とセパレータ12、13との間の気密性を維持することができる。
【0067】
穴部33は、第1の層31および第2の層32のいずれに達するものであってもよいが、通常は第2の層32の溶融材料321を補充する観点から、第2の層32に達することが好ましい。なお、穴部33は、部材を貫通しない単なる凹部であってもよいし、部材を貫通する貫通孔であってもよく、その孔径、個数、配置場所等も適宜選択することができる。
【0068】
通常、各部材、すなわちセパレータ12、13、絶縁シート16、17、およびエンドプレート21、22には、それぞれ外周部に一定の間隔で複数のボルト孔23が設けられていることから、このようなボルト孔23を上記した穴部33として利用することができる。ボルト孔23を穴部33として利用する場合、少なくともシール材14、15に直接接触するセパレータ12、13のボルト孔23に溶融材料34を充填することが好ましい。
【0069】
次に、実施形態のシール材14、15の製造方法について説明する。
実施形態のシール材14、15は、例えば第1の層31と第2の層32とを別々に作製した後、両者を一体化することにより作製することができる。
【0070】
第1の層31は、例えば発泡材料311、溶融材料312、およびバインダー、必要に応じて絶縁材料を配合し、混合して混合物を調製した後、この混合物をカレンダーロール等の公知の成形方法によってシート状に成形し、さらに環状等の所定の形状に切り出すことによって製造することができる。
【0071】
第2の層32についても、第1の層31と略同様にして作製することができ、例えば溶融材料321、およびバインダー、必要に応じて繊維を配合し、混合して混合物を調製した後、この混合物をカレンダーロール等の公知の成形方法によってシート状に成形し、さらに環状等の所定の形状に切り出すことによって製造することができる。
【0072】
そして、このようにして得られたシート状の第1の層31と第2の層32とを所定の位置関係に配置することで、シール材14、15を得ることができる。この際、第1の層31と第2の層32とは隙間なく配置することが好ましい。また、このシール材14、15には、所定の位置にボルト孔23を形成しておくことが好ましい。
【0073】
また、実施形態の電気化学装置10は、電気化学セル11の両面にシール材14、15を貼り付けるようにして配置した後、このシール材14、15が貼り付けられた電気化学セル11をセパレータ12、13、絶縁シート16、17、およびエンドプレート21、22で順次挟持し、最終的にボルト24とナット25とを利用して、例えば全体を8〜16Nm程度の締め付け力で締め付けることにより製造することができる。
【0074】
実施形態の電気化学装置10によれば、シール材14、15、特に第1の層31が膨張および硬化するために、必ずしも強固な締め付けを行う必要がなく、電気化学セル11の破損を抑制することができる。また、必ずしも強固な締め付けを行う必要がないために、生産性も向上させることができる。また、第2の層32を有するために、気密性を維持し、高効率なものとすることができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
10…電気化学装置、11…電気化学セル、111…電解質膜、112、113…電極、12、13…セパレータ、131…傾斜部、14、15…シール材、16、17…絶縁シート、21、22…エンドプレート、23…ボルト孔、24…ボルト、25…ナット、31…第1の層、311…発泡材料、312…溶融材料、32…第2の層、321…溶融材料、33…穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温を超える運転温度で使用される高温機器におけるガス流路の気密性を確保するために前記ガス流路に配置されるシール材であって、
常温を超えかつ前記運転温度以下の温度で膨張および硬化する材料を含む第1の層と、前記第1の層に隣接して配置され、前記運転温度以下の温度で軟化する材料を含む第2の層とを有することを特徴とするシール材。
【請求項2】
前記第1の層および前記第2の層は略環状を有し、前記第1の層の外側に前記第2の層が配置されていることを特徴とする請求項1記載のシール材。
【請求項3】
前記第1の層は、常温を超えかつ前記運転温度以下の温度で発泡する発泡材料、前記運転温度以下の温度で溶融する溶融材料、およびこれらを成形するためのバインダーを含むことを特徴とする請求項1または2記載のシール材。
【請求項4】
前記第2の層は、前記運転温度以下の温度で溶融する溶融材料、およびこれを成形するためのバインダーを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のシール材。
【請求項5】
前記第2の層に含まれるバインダーは、常温を超えかつ前記運転温度以下の温度で分解するものであり、前記電気化学セルに対する被毒成分を含まないことを特徴とする請求項4記載のシール材。
【請求項6】
前記第2の層は、前記溶融材料と前記バインダーとの合計量中、前記バインダーが10〜30質量%であることを特徴とする請求項4または5記載のシール材。
【請求項7】
前記第2の層は、前記運転温度以下の温度で溶融する溶融材料、および前記運転温度で溶融しないガラスまたはセラミックスからなる繊維を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のシール材。
【請求項8】
前記第2の層は、前記繊維からなる織布または不織布を有し、前記織布または不織布の間隙に前記溶融材料を有することを特徴とする請求項7記載のシール材。
【請求項9】
前記第2の層は、前記溶融材料および前記繊維の合計量中、前記繊維が1〜20質量%であることを特徴とする請求項7または8記載のシール材。
【請求項10】
前記第2の層に含まれる溶融材料は、珪酸ソーダまたは硼珪酸ガラスからなり、粉状またはファイバー状であることを特徴とする請求項4乃至9のいずれか1項記載のシール材。
【請求項11】
前記シール材は厚みが0.1〜0.5mmであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載のシール材。
【請求項12】
電解質膜の両主面に一対の電極が設けられた電気化学セルと、前記電気化学セルの少なくとも一方の電極側にガス流路を形成する流路形成材と、前記電気化学セルと前記流路形成材との間、または前記流路形成材中に配置されるシール材とを有し、常温を超える運転温度で使用される電気化学装置であって、
前記シール材が請求項1乃至11のいずれか1項記載のシール材であることを特徴とする電気化学装置。
【請求項13】
前記電気化学セルに対向して前記流路形成材としてのセパレータが配置され、前記電気化学セルと前記セパレータとの間に前記シール材が配置されていることを特徴とする請求項12記載の電気化学装置。
【請求項14】
前記セパレータは前記シール材との接面に穴部を有し、前記穴部に前記運転温度で溶融する溶融材料が充填され、
前記穴部は、前記シール材の前記第2の層に達することを特徴とする請求項13記載の電気化学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−31265(P2012−31265A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170967(P2010−170967)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】