説明

ジヒドロフラボノール化合物、及びその製造方法、並びに、抗炎症剤、抗酸化剤、及び皮膚用化粧料

【課題】抗酸化作用及び抗炎症作用を有し、さらに、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れたジヒドロフラボノール化合物、及びジヒドロフラボノール誘導体の製造方法、並びに、前記ジフラボノール化合物を有効成分とする抗酸化剤、及び抗炎症剤、及び前記ジヒドロフラボノール化合物を含有する皮膚用化粧料の提供。
【解決手段】本発明のジヒドロフラボノール化合物は、下記一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体及びその塩から選択されるものである。


(ただし、一般式(1)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロフラボノール化合物、及びその製造方法、該ジヒドロフラボノール化合物を有効成分とする抗炎症剤及び抗酸化剤、並びに、該ジヒドロフラボノール化合物を含む皮膚用化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体成分を酸化させる要因として、活性酸素が注目されており、その生体への悪影響が問題となっている。
活性酸素は、生体細胞内のエネルギー代謝過程で生じるものであり、スーパーオキサイド〔即ち、酸素分子の一電子還元で生じるスーパーオキシドアニオン(・O)、過酸化水素(H)、一重項酸素()、ヒドロキシラジカル(・OH)等〕がある。これら活性酸素は食細胞の殺菌機構にとって必須なものであり、ウイルスや癌細胞の除去に重要な働きを果たしているが、活性酸素の過剰な生成は生体内の膜や組織を構成する生体内分子を攻撃し、各種疾患を誘発する。即ち、活性酸素は、コラーゲン等の生体組織を分解、変性あるいは架橋し、油脂類を酸化して細胞に障害を与える過酸化脂質を生成する。このような活性酸素によって引き起こされる障害が、皮膚のしわ形成や皮膚の弾力性低下等の老化の原因の一つになるものと考えられている。
したがって、活性酸素や生体ラジカルの発生を阻害又は抑制することにより、皮膚の老化を防止及び改善を図ることができると考えられる。
そこで、活性酸素消去物質やラジカル消去物質を安全性の点で有利な天然物から得る試みがなされており、例えばトゲナシの果汁(特許文献1参照)、メリッサ、エンメイソウ、シラカバ、南天実、キナ、又はエイジツ(特許文献2参照)、ウラジロカシ又はシラカシ(特許文献3参照)、アスチルビン、タキシフォリン等のフラボノイド(特許文献4参照)、藤茶(特許文献5参照)などについて有効性が確認されている。
【0003】
前記文献に記載された発明に、抗酸化作用の指標の一つである活性酸素消去作用を有するアンペロプシン及びタキシフォリン等のジヒドロフラボノール類の記載がある。
しかし、前記ジヒドロフラボノール類は、熱、光等により劣化しやすく、さらに、アルコール、水等への溶解性が低い。特に、水への溶解性が極めて低いため、保存性、取り扱い性、安定性などが十分に得られないという問題があり、前記ジヒドロフラボノールは、使用量及び使用範囲が限定されるという問題があった。
【0004】
したがって、抗酸化作用を有し、さらに、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れた化合物は、未だ提供されていないのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開平3−83548号公報
【特許文献2】特開平3−157334号公報
【特許文献3】特開平5−316963号公報
【特許文献4】特開平6−65074号公報
【特許文献5】特開2001−97873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、抗酸化作用及び抗炎症作用を有し、さらに、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れたジヒドロフラボノール化合物を提供することを目的とする。
また、本発明は、抗酸化作用及び抗炎症作用を有し、さらに、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れたジヒドロフラボノール誘導体を効率よく製造できるジヒドロフラボノール誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記ジヒドロフラボノール化合物を有効成分とすることから、活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、及び脂質過酸化抑制作用の少なくともいずれかに基づく優れた抗酸化作用を有し、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れた抗酸化剤、並びに、ヒアルロニダーゼ阻害作用に基づく優れた抗炎症作用を有し、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れた抗炎症剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記ジヒドロフラボノール化合物を含み、前記抗酸化作用、及び抗炎症作用を有し、皮膚に適用した場合の使用感及び安全性に優れた皮膚用化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らが検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、特定の構造を有するジヒドロフラボノール化合物が、抗酸化作用及び抗炎症作用を有し、さらに、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れるという知見である。
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> 下記一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体、及びその塩から選択されることを特徴とするジヒドロフラボノール化合物である。
【化1】

(ただし、一般式(1)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)
<2> 一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体が、下記構造式(1)及び(2)のいずれかで表される化合物である前記<1>に記載のジヒドロフラボノール化合物である。
【化2】


<3> 一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体が、下記一般式(2)で表されるジヒドロフラボノールと下記一般式(3)で表されるジカルボン酸とを反応させることにより得られる前記<1>から<2>のいずれかに記載のジヒドロフラボノール化合物である。
【化3】

(ただし、一般式(2)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、Rは、水酸基を表す。)
【化4】

(ただし、一般式(3)中、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)
<4> 一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体の塩が、アルカリ金属塩である前記<1>から<3>のいずれかに記載のジヒドロフラボノール化合物である。
<5> 一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体の製造方法であり、下記一般式(2)で表されるジヒドロフラボノールと下記一般式(3)で表されるジカルボン酸とを反応させることを特徴とするジヒドロフラボノール誘導体の製造方法である。
【化5】

(ただし、一般式(2)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、Rは、水酸基を表す。)
【化6】

(ただし、一般式(3)中、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)
<6> 前記<1>から<4>のいずれかに記載のジヒドロフラボノール化合物を有効成分とすることを特徴とする抗酸化剤である。
<7> 抗酸化剤における抗酸化作用が、活性酸素消去作用及びラジカル消去作用のいずれかによるものである前記<6>に記載の抗酸化剤である。
<8> 前記<1>から<4>のいずれかに記載のジヒドロフラボノール化合物を有効成分とすることを特徴とする抗炎症剤である。
<9> 抗炎症剤における抗炎症作用が、ヒアルロニダーゼ阻害作用である前記<8>に記載の抗炎症剤である。
<10> 前記<1>から<4>のいずれかに記載のジヒドロフラボノール化合物を含有することを特徴とする皮膚用化粧料である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、抗酸化作用及び抗炎症作用を有し、さらに、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れたジヒドロフラボノール化合物を提供することができる。
また、本発明によると、抗酸化作用及び抗炎症作用を有し、さらに、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れたジヒドロフラボノール誘導体を効率よく製造できるジヒドロフラボノール誘導体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によると、前記ジヒドロフラボノール化合物を有効成分とすることにより、活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、及び脂質過酸化抑制作用の少なくともいずれかに基づく優れた抗酸化作用を有し、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れた抗酸化剤、並びに、ヒアルロニダーゼ阻害作用に基づく優れた抗炎症作用を有し、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れた抗炎症剤を提供することができる。
また、本発明によると、前記ジヒドロフラボノール化合物を含み、前記抗酸化作用、及び抗炎症作用を有し、皮膚に適用した場合の使用感及び安全性に優れた皮膚用化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(ジヒドロフラボノール化合物)
本発明のジヒドロフラボノール化合物は、下記一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体、及びその塩のいずれをも含むものであり、これらの中から選択されるものであることを特徴とする。
【化7】

(ただし、一般式(1)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)
【0010】
前記ジヒドロフラボノール誘導体は、前記一般式(1)で表される。
前記一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体は、下記一般式(2)で表されるジヒドロフラボノールと下記一般式(3)で表されるジカルボン酸とを反応させることにより得られることが好ましい。
【化8】

(ただし、一般式(2)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、Rは、水酸基を表す。)
【化9】

(ただし、一般式(3)中、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)
【0011】
前記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記構造式(1)で表される化合物、下記構造式(2)で表される化合物、などが挙げられる。これらは、抗酸化作用及び抗炎症作用の効果により優れ、安全性がより高い点で好ましい。
【化10】

【0012】
前記ジヒドロフラボノール誘導体の塩としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、塩基性アミノ酸塩が好ましい。これらの中でも、水への溶解性、及び安定性が高い点から、アルカリ金属塩がより好ましい。
前記アルカリ金属塩としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ナトリウム、カリウム、などが挙げられる。
前記アルカリ土類金属塩としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、カルシウム、マグネシウム、などが挙げられる。
前記有機アミン塩としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、などが挙げられる。
前記塩基性アミノ酸塩としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、リジン、アルギニン、などが挙げられる。
【0013】
本発明のジヒドロフラボノール化合物は、抗酸化作用及び抗炎症作用を有し、さらに、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れる。そのため、本発明のジヒドロフラボノール化合物は、抗酸化剤、抗炎症剤、及び、皮膚用化粧料に好適に使用することができる。
【0014】
(ジヒドロフラボノール誘導体及びその塩の製造方法)
前記一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体の製造方法としては、ジヒドロフラボノールにジカルボン酸を結合させる方法が挙げられる。
【0015】
前記ジヒドロフラボノールとしては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、収率が高い点から、タキシフォリン、アンペロプシンが好ましい。前記ジヒドロフラボノールは、公知の方法により得ることができる。
【化11】

(ただし、一般式(2)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、Rは、水酸基を表す。)
【0016】
前記ジカルボン酸としては、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、安定性が高い点から、コハク酸が好ましい。前記ジカルボン酸は、公知の方法により得ることができる。
【化12】

(ただし、一般式(3)中、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)
【0017】
前記ジヒドロフラボノールと、ジカルボン酸との反応量としては、前記ジヒドロフラボノール1当量に対して、前記ジカルボン酸が1〜10当量反応させることが好ましい。前記ジカルボン酸が1当量未満であると、反応が終了しないことがあり、10当量を超えると、酸無水物を生成することがある。
【0018】
前記ジヒドロフラボノールとジカルボン酸との反応としては、塩基性溶媒を用いることが好ましい。前記塩基性溶媒に前記ジヒドロフラボノール及びジカルボン酸を溶解させて反応させることにより、反応時間を短縮することができる。
前記塩基性溶媒としては、特に制限はなく公知のものの中から適宜選択することができるが、例えば、ジメチルアミノピリジン、ピリジン、ジメチルホルムアルデヒド、などが挙げられる。これらの中でも、反応を速やかに進行させる点で、ジメチルアミノピリジン、ピリジンが好ましい。
前記塩基性溶媒の添加量としては、例えば、前記ジヒドロフラボノール1当量に対して、1〜5当量であることが好ましい。前記添加量が1当量未満であると、反応が進行しないことがあり、5当量を超えると、ジヒドロフラボノールが分解することがある。
【0019】
前記ジヒドロフラボノールとジカルボン酸との反応温度としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、室温(25℃±3℃)から該反応に用いる前記塩基性溶媒の沸点付近の範囲が好ましい。
前記ジヒドロフラボノールとジカルボン酸との反応時間としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、数時間から数日間の範囲が好ましい。
【0020】
前記ジヒドロフラボノール誘導体の塩の製造方法としては、リン酸化、硫酸化、塩酸化、フッ素化、ナトリウム化、アンモニウム化、などが挙げられる。
【0021】
前記ジヒドロフラボノール誘導体及びその塩を確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、核磁気共鳴分析装置(NMR)を用いて吸収ピークを測定することにより、これらの構造を分析する方法が挙げられる。
【0022】
(抗酸化剤)
本発明の抗酸化剤は、本発明のジヒドロフラボノール化合物を有効成分としてなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
本発明の抗酸化剤における抗酸化作用としては、活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、及び脂質過酸化抑制作用の少なくともいずれかに基づく優れた活性酸素消去作用を有している。これらの中でも、活性酸素消去作用、及びラジカル消去作用の少なくともいずれかを有していることが好ましい。
【0023】
本発明の抗酸化剤は、本発明のジヒドロフラボノール化合物を有効成分としているので、活性酸素消去作用、ラジカル消去作用、及び脂質過酸化抑制作用の少なくともいずれかに基づく優れた抗酸化作用を有し、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れている。そのため、皮膚のしわ、しみ、などの抑制、及び過酸化脂質による炎症及び色素沈着による皮膚の老化の抑制に有用であり、さらに、使用感及び保存安定性に優れており、皮膚用化粧料に好適である。なお、前記活性酸素消去作用としては、例えば、一重項酸素消去作用が挙げられる。
【0024】
(抗炎症剤)
本発明の抗炎症剤は、本発明のジヒドロフラボノール化合物を有効成分としてなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
前記抗炎症剤は、抗炎症作用として、ヒアルロニダーゼ阻害作用を有している。
【0025】
本発明の抗炎症剤は、本発明のジヒドロフラボノール化合物を有効成分としているので、ヒアルロニダーゼ阻害作用に基づく優れた抗炎症作用を有し、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れている。そのため、炎症やアレルギーの抑制、炎症による皮膚の老化の抑制、皮膚の弾力の低下の防止及び改善、乾燥による肌荒れ防止に有用であり、さらに、使用感及び保存安定性に優れており、皮膚用化粧料に好適である。
【0026】
(皮膚用化粧料)
本発明の皮膚用化粧料は、本発明のジヒドロフラボノール化合物を含有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなる。
【0027】
ここで、前記皮膚用化粧料の用途としては、特に制限はなく、各種用途から適宜選択することができ、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、入浴剤、アストリンゼント、などが挙げられる。
【0028】
前記ジヒドロフラボノール化合物の前記皮膚用化粧料全体に対する配合量は、皮膚用化粧料の種類や抽出物の生理活性等によって適宜調整することができるが、例えば、皮膚用化粧料全量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%がより好ましい。
【0029】
前記皮膚用化粧料は、更に必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、その皮膚用化粧料の製造に通常使用される各種主剤及び助剤、その他の成分を添加することができる。
前記その他の成分としては、抗酸化作用、及び抗炎症作用の妨げにならない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択した成分が挙げられ、例えば、収斂剤、殺菌、抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、抗老化剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料、などが挙げられる。
【0030】
本発明の皮膚用化粧料は、本発明のジヒドロフラボノール化合物を含んでいることから、優れた抗酸化作用及び抗炎症作用を有している。そのため、皮膚のしわ、しみ、などの抑制、及び過酸化脂質による炎症及び色素沈着による皮膚の老化の抑制、並びに、皮膚の炎症やアレルギーの抑制、炎症による皮膚の老化の抑制、皮膚の弾力の低下の防止及び改善、乾燥による肌荒れ防止などに有用である。本発明の皮膚用化粧料を、しわなどが目立つ部分に塗布することにより、しわなどを改善でき、また、しわができやすい部分に予め塗布しておくことにより、しわの形成を防ぐことができる。
また、本発明の皮膚用化粧料は、本発明のジヒドロフラボノール化合物を含んでいることから、水への溶解性が高く、保存性、取り扱い性、安定性に優れている。そのため、使用感及び保存安定性に優れており、広い用途に用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
−構造式(1)で表される化合物(アンペロプシン 3−O−サクシネート)の合成−
アンペロプシン(320mg)をピリジン(10mL)に溶解し、これにコハク酸無水物(200mg)及びジメチルアミノピリジン(40mg)を加え、室温で16時間撹拌した。反応終了後、反応液に水を加え、ODS(富士シリシア化学(株))を充填したガラス製のカラム上部より流入した。移動相として水、メタノールを流し、分画した。メタノール溶出液を集め、減圧下溶媒留去し、組生成物を得た。この組生成物を下記の条件で液体クロマトグラフィーを用いて分画した。
【0033】
<液体クロマトグラフィー条件>
固定相:YMC−Pack ProC18(YMC製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相流量:9mL/min
検出:RI
ここで、保持時間20分間〜30分間に流出する画分を、精製し、アンペロプシン 3−O−サクシネートを単離した。
この単離したアンペロプシン 3−O−サクシネートについてESI−マススペクトル、H−NMR及び13C−NMR分析を行った。結果を下記に示す。
【0034】
<ESI−マススペクトル>m/z 421(M+H)
H−NMRケミカルシフトd(帰属水素):
2.30−2.70(4H,m,2’’,4’’−H2),5.31,5.70(1H each,both d,J=11.0Hz,2,3−H),5.91,5.93(1H each,both d,J=2.0Hz,6,8−H),6.39(2H,br s,2’,6’−H).
13C−NMRケミカルシフトd(帰属炭素):
28.4(2’’−C),28.5(3’’−C),72.1(3−C),80.2(2−C),95.2(6−C),96.2(8−C),100.5(10−C),106.3(2’,6’−C),125.2(1’−C),133.6(4’−C),145.7(3’,5’−C),162.1(5−C),163.0(9−C),167.1(7−C),170.4(1’’−C),172.4(4’’−C),190.7(4−C).
以上の結果から、多孔性樹脂による精製、ODSによる分離、更に液体クロマトグラフィーで単離して得られたアンペロプシン 3−O−サクシネートが、前記の構造式(1)で表されることが確定した。
【0035】
(実施例2)
−構造式(2)で表される化合物(タキシフォリン 3−O−サクシネート)の合成−
製造例1のアンペロプシンをタキシフォリンに代え、製造例1と同様の操作を行い、タキシフォリン 3−O−サクシネートを得た。
この単離したタキシフォリン 3−O−サクシネートについてESI−マススペクトル、H−NMR及び13C−NMR分析を行った。結果を下記に示す。
【0036】
<ESI−マススペクトル>m/z 405(M+H)
H−NMRケミカルシフトd(帰属水素):
2.30−2.50(4H,m,2’’,4’’−H2),5.38,5.77(1H each,both d,J=11.5Hz,2,3−H),5.89,5.92,5.93(1H each,all br s,8,6,2’−H),6.73(2H,br s,5’,6’−H).
13C−NMRケミカルシフトd(帰属炭素):
28.3(2’’−C),28.5(3’’−C),72.1(3−C),80.1(2−C),95.3(8−C),96.3(6−C),100.6(10−C),114.6(2’−C),115.2(5’−C),118.2(6’−C),126.0(1’−C),144.9(3’−C),146.0(4’−C),162.1(9−C),163.0(5−C),167.0(7−C),170.3(1’’−C),172.4(4’’−C),190.9(4−C).
以上の結果から、多孔性樹脂による精製、ODSによる分離、更に液体クロマトグラフィーで単離して得られたタキシフォリン 3−O−サクシネートが、前記の構造式(2)で表されることが確定した。
【0037】
<一重項酸素消去作用の評価>
前記実施例1及び2より得られたジヒドロフラボノール誘導体について、下記の試験法により一重項酸素消去作用を試験した。
透明ガラス瓶(10mL容)中で2%赤血球懸濁液5mL、試料を所定濃度で含むpH7.4の等張リン酸緩衝液5mL、及び光増感剤(10mMヘマトポルフイリン−20mM水酸化ナトリウム溶液)0.01mLを混合した。得られた溶液をメリーゴーランド上、7.5Wハロゲンランプで35分間均一に照射して一重項酸素(2)を発生させ、赤血球の溶血を生じさせた。この反応溶液1mLを採取し、等張リン酸緩衝液2mLを加えて混合後、4℃、3,000rpmで5分間遠心分離を行った。次いで上清を採取し、波長540nmの吸光度を測定した。別に、赤血球を一部溶血させた上記反応溶液1mLをとり、これに蒸留水2mLを加えて完全に溶血させたものをコントロールとし、同様に吸光度測定を行った。測定された吸光度より次式により一重項酸素消去率を求めた。
一重項酸素消去率(%)=(1−B/A)×100
(ただし、Aは、コントロールの吸光度を表し、Bは、反応溶液上清の吸光度を表す。)
さらに、試料濃度を段階的に減少させて上記消去率の測定を行い、一重項酸素の消去率が50%になる試料濃度(ppm)を内挿法により求めた。その結果を表1に示す。
【表1】

【0038】
<ラジカル消去作用の評価>
前記実施例1より得られたジヒドロフラボノール誘導体について、下記の試験法によりラジカル消去作用を試験した。
1.5×10-4MのDPPHエタノール溶液3mLに試料溶液3mLを加え、直ちに容器を密栓して振り混ぜ、30分間静置した。その後、波長520nmの吸光度を測定した。コントロールとして、試料溶液の代わりに試料溶液を溶解した溶媒を用いて同様に操作し、波長520nmの吸光度を測定した。また、ブランクとして、エタノールに試料溶液3mLを加えたのち直ちに波長520nmの吸光度を測定した。測定された各吸光度より、次式によりラジカル消去率を算出した。
消去率(%)={1−(B−C)/A}×100
(ただし、Aは、コントロールの吸光度を表し、Bは、試料溶液を添加した場合の吸光度を表し、Cは、ブランクの吸光度を表す。)
さらに、試料濃度を段階的に減少させて上記消去率の測定を行い、DPPHラジカルの消去率が50%になる試料濃度(ppm)を内挿法により求めた。その結果を表2に示す。
【表2】

【0039】
<ヒアルロニダーゼ阻害作用の評価>
前記実施例1より得られたジヒドロフラボノール誘導体について、下記の試験法によりヒアルロニダーゼ阻害作用を試験した。
ヒアルロニダーゼ溶液(400ユニット/mL,pH3.5酢酸緩衝液)0.1mLと試料溶液0.2mLを混合し、37℃で20分間インキュベーションしたのち、活性化剤溶液(2.5mM−CaCl)0.2mLを加え、37℃で20分間インキュベーションして酵素を活性化した。ヒアルロン酸カリウム緩衝液0.5mLを加え、37℃で40分間インキュベーションした後、0.4N水酸化ナトリウム0.2mlを加えると共に氷冷して反応を停止させた。次いで0.8Mホウ酸溶液(pH9.1)0.2mLを加え、沸騰浴中で3分間加熱後、直ちに20分間氷冷した。p−DABA試薬(p−ジメチルアミノベンズアルデヒド10gを10N塩酸12.5mLと酢酸87.5mLの混合液に溶解し、酢酸で10倍に希釈したもの)6.0mLを加えて37℃で20分間インキュベーションしたことにより、上記酵素反応で遊離したN−アセチルグルコサミンを発色させ、波長585nmの吸光度を測定した。同様の操作と吸光度測定を、酵素を添加せずに行った。さらに、試料溶液を添加せずに蒸留水を添加した場合についても同様の測定を行い、次式によりヒアルロニダーゼの阻害率を求めた。
阻害率(%)={1−(A−B)/(C−D)}×100
(ただし、Aは、酵素を添加し、且つ試料溶液を添加した時の吸光度を表し、Bは、酵素を添加せず、試料溶液を添加した時の吸光度を表し、Cは、酵素を添加し、且つ試料溶液を添加しない時の吸光度を表し、Dは、酵素を添加せず、且つ試料溶液を添加しない時の吸光度を表す。)
試料濃度を段階的に減少させて上記阻害率の測定を行い、ヒアルロニダーゼ阻害率が50%になる試料濃度IC50(ppm)を内挿法により求めた。その結果を表3に示す。
【表3】

【0040】
実施例1から2では、本発明のジヒドロフラボノール化合物が、優れた一重酸素消去作用及びラジカル消去作用、並びに、ヒアルロニダーゼ阻害作用を有していることが判った。
【0041】
−皮膚用化粧料の調製−
(実施例3、実施例4、及び比較例1)
実施例3、実施例4、及び比較例1では、表4に示した処方に従い、皮膚用化粧料を調整した。
【表4】

【0042】
実施例3及び4、並びに比較例1について、以下の試験を行った。
25〜45代の女性20名を4名ずつ5群に分け、朝夕1日2回、2週間、洗顔後に、右顔面に実施例化粧水を、左顔面に比較例化粧水を塗布した。その際、使用時の感触、使用後のべたつき、シミ・ソバカスの改善効果、くすみの改善効果の4項目について評価を行なった。
評価は、1〜5点の5段階評価によって行い、「5点」が「非常によい」(使用時の感触が非常によい、使用後のべたつきが全くない、シミ・ソバカス改善効果が非常に高い、くすみ改善効果が非常に高い)、「4点」が「よい」(使用時の感触がよい、使用後のべたつきがほとんどない、シミ・ソバカス改善効果が高い、くすみ改善効果が高い)、「3点」が「ふつう」(使用時の感触はふつう、使用後のべたつきはあまりない、シミ・ソバカス改善効果はややある、くすみ改善効果はややある)、「2点」が「ややわるい」(使用時の感触はややわるい、使用後のべたつきがややある、シミ・ソバカス改善効果はあまりない、くすみ改善効果はあまりない)、「1点」が「わるい」(使用時の感触がわるい、使用後のべたつきがかなりある、シミ・ソバカス改善効果が全くない、くすみ改善効果が全くない)とした。評価点の平均を表5に示す。
【表5】

【0043】
表5に示す結果から、実施例3及び4のジヒドロフラボノール誘導体を含有する化粧水は、使用時の感触がよく、使用後のべたつきが少なく、保湿の持続性及び肌荒れ改善効果に優れていることが判った。
【0044】
(配合実施例1)
−乳液−
下記組成の乳液を、常法により製造した。
・ホホバオイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.0g
・プラセンタエキス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.1g
・オリーブオイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.0g
・スクワラン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.0g
・セタノール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.0g
・モノステアリン酸グリセリル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.0g
・ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O)・・・・・・・・・・・・2.5g
・オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O)・・・・・・・・・2.0g
・1.3-ブチレングリコール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.0g
・ヒノキチオール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.15g
・香料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.05g
・構造式(1)で表されるアンペロプシン 3−O−サクシネート・・・・・・1.0g
・精製水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・残部
・全量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100g
【0045】
(配合実施例2)
−クリーム−
下記組成のクリームを、常法により製造した。
・流動パラフィン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.0g
・サラシミツロウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.0g
・セタノール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.0g
・スクワラン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10.0g
・ラノリン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.0g
・ステアリン酸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.0g
・オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O)・・・・・・・・・1.5g
・モノステアリン酸グリセリル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.0g
・1,3−ブチレングリコール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6.0g
・パラオキシ安息香酸メチル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.5g
・香料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.1g
・構造式(2)で表されるタキシフォリン 3−O−サクシネート・・・・・・0.5g
・精製水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・残部
・全量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100g
【0046】
(配合実施例3)
−パック−
下記組成のパックを、常法により製造した。
・ポリビニルアルコール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15.0g
・ポリエチレングリコール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.0g
・プロピレングリコール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.0g
・エタノール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10.0g
・パラオキシ安息香酸エチル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.05g
・香料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.05g
・構造式(2)で表されるタキシフォリン 3−O−サクシネート・・・・・・0.5g
・精製水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・残部
・全量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100g
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のジヒドロフラボノール化合物は、優れた抗酸化作用及び抗炎症作用を有するため、活性酸素や生体ラジカルの発生等が関与する皮膚の炎症、しみ、そばかす、くすみ、しわ等を抑制することができる。さらに、本発明のジヒドロフラボノール化合物は、水溶性が高く、優れた保存性、取り扱い性、安定性を発揮することができ、使用感及び保存安定性に優れており、広い用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体、及びその塩から選択されることを特徴とするジヒドロフラボノール化合物。
【化1】

(ただし、一般式(1)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)
【請求項2】
一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体が、下記構造式(1)及び(2)のいずれかで表される化合物である請求項1に記載のジヒドロフラボノール化合物。
【化2】


【請求項3】
一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体が、下記一般式(2)で表されるジヒドロフラボノールと下記一般式(3)で表されるジカルボン酸とを反応させることにより得られる請求項1から2のいずれかに記載のジヒドロフラボノール化合物。
【化3】

(ただし、一般式(2)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、Rは、水酸基を表す。)
【化4】

(ただし、一般式(3)中、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)
【請求項4】
一般式(1)で表されるジヒドロフラボノール誘導体の製造方法であり、下記一般式(2)で表されるジヒドロフラボノールと下記一般式(3)で表されるジカルボン酸とを反応させることを特徴とするジヒドロフラボノール誘導体の製造方法。
【化5】

(ただし、一般式(2)中、R〜Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水酸基、及び水素原子のいずれかを表し、Rは、水酸基を表す。)
【化6】

(ただし、一般式(3)中、nは、1〜8のいずれかの整数を表す。)
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のジヒドロフラボノール化合物を有効成分とすることを特徴とする抗酸化剤。
【請求項6】
抗酸化剤における抗酸化作用が、活性酸素消去作用及びラジカル消去作用のいずれかによるものである請求項5に記載の抗酸化剤。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載のジヒドロフラボノール化合物を有効成分とすることを特徴とする抗炎症剤。
【請求項8】
抗炎症剤における抗炎症作用が、ヒアルロニダーゼ阻害作用である請求項7に記載の抗炎症剤。
【請求項9】
請求項1から3のいずれかに記載のジヒドロフラボノール化合物を含有することを特徴とする皮膚用化粧料。

【公開番号】特開2008−7449(P2008−7449A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178225(P2006−178225)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】