説明

ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液の製造方法

【課題】 本発明の目的は、非水電解液電池の性能向上に有効な添加剤となりへ、塩素化合物や遊離酸が少ないジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液を提供することである。
【解決手段】 非水溶媒中にヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸を1:1.90〜1:2.10のモル比の範囲で混合し、さらにこれに四塩化ケイ素をヘキサフルオロリン酸リチウムに対するモル比が1:0.95〜1:1.10の範囲で添加して反応させることを特徴とするジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液電池用添加剤に使用されるジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムはリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ等の非水電解液電池用添加剤として用いられる。また、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの製造方法として、ヘキサフルオロリン酸リチウムを有機溶媒中においてSiClを含む反応助剤の存在下で反応させる方法が知られている(特許文献1)。この方法では、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液を晶析により精製することが難しいため、非水電解液電池の電池特性に悪影響を与える塩素化合物や遊離酸が少ないジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムを得ることはきわめて困難である。
【特許文献1】特許第3907446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は非水電解液電池の有効な添加剤となりへ、塩素化合物や遊離酸が少ないジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液を安価で、工業的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、かかる従来技術の問題点に鑑み鋭意検討の結果、反応条件を検討することにより、塩素化合物や遊離酸が少ないジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムを安価で、工業的に製造できる方法を見出し、本発明に至った。
【0005】
すなわち本発明は、非水溶媒中にヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸を1:1.90〜1:2.10のモル比の範囲で混合し、さらにこれに四塩化ケイ素をヘキサフルオロリン酸リチウムに対するモル比が1:0.95〜1:1.10の範囲で添加して反応させることを特徴とするジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液の製造方法を提供するものである。
【0006】
さらには、四塩化ケイ素を添加して反応させる際の温度が30℃〜50℃の範囲であることを特徴とするジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの製造方法、または、非水溶媒が環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、鎖状エステルからなる群から選ばれた少なくとも一種類以上の溶媒であることを特徴とするジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、非水電解液電池の性能向上に有効な添加剤となりうるジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液を、安価で、工業的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
【0009】
本発明のジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液の製造方法は、非水溶媒中でヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸を混合し、さらにこれに四塩化ケイ素を添加して反応させることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの製造に用いるシュウ酸は市販されている二水和物を乾燥したものを用いる。乾燥の方法は特に限定するものではなく、加熱、真空乾燥等の方法を用いることができる。乾燥させたシュウ酸中の水分が300質量ppm以下のものが好ましい。水分濃度が300質量ppmを上回ると、ヘキサフルオロリン酸リチウムおよびジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが加水分解するため、好ましくない。
【0011】
本発明のジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの製造に用いる非水溶媒は環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、鎖状エステルからなる群から選ばれた少なくとも一種類以上の溶媒であり、具体例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステルを挙げることができる。これらの溶媒は脱水されたものを用いることが好ましい。脱水の方法は特に限定されず、例えば、合成ゼオライト等により水を吸着させる方法などを用いることができる。本発明に使用する非水溶媒中の水分濃度は、好ましくは100質量ppm以下である。水分濃度が100質量ppmを上回ると、ヘキサフルオロリン酸リチウムおよびジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが加水分解するため、好ましくない。また、本発明に用いる非水溶媒は、一種類を単独で用いても良く、二種類以上を用途に合わせて任意の組合せ、任意の比率で混合して用いても良い。
【0012】
本発明に使用する非水溶媒中のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度は、特に限定されず任意の濃度とすることができるが、下限は、好ましくは1%、より好ましくは5%であり、また、上限は、好ましくは35%、より好ましくは30%の範囲である。1%を下回ると、得られるジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液は、希薄なため、非水電解液電池の電解液として使用するには長時間の濃縮を要するために経済的ではない。一方、35%を超えると溶液の粘度が上昇することにより、反応がスムーズに行うことが困難なため、好ましくない。
【0013】
ヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸を混合する際のモル比は、好ましくは1:1.90〜1:2.10の範囲で、より好ましくは1:1.95〜1:2.05の範囲である。1:1.90よりもシュウ酸の量が少ないと、副生成物として不揮発性の塩素化合物が多く生成するため、非水電解液電池の添加剤として用いることが困難となる。1:2.10よりもシュウ酸の量が多いと、遊離酸濃度が高くなるため、非水電解液電池の添加剤として用いることが困難となる。
【0014】
四塩化ケイ素は、ヘキサフルオロリン酸リチウムに対するモル比が1:0.95〜1:10の範囲で添加して反応させることが好ましい。より好ましくはモル比が1:1.00〜1:1.05の範囲で添加して反応させることが好ましい。四塩化ケイ素の添加が1:0.95よりも少ないと、中間生成物であるテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが多く含まれるため、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの純度が低くなり好ましくない。四塩化ケイ素の添加が1:1.10よりも多いと、副生成物として不揮発性の塩素化合物が多く生成するため、非水電解液電池の添加剤として用いることが困難となる。
【0015】
四塩化ケイ素を添加して反応させる際の温度は30℃〜50℃の範囲が好ましい。より好ましくは、35℃〜45℃の範囲である。反応させる際の温度が50℃を超えると、得られる溶液中の塩素化合物濃度が増えるため、非水電解液電池の添加剤として用いることが困難となる。また、50℃を超えると四塩化ケイ素の揮発量が多く、好ましくない。反応させる際の温度が30℃より低いと、反応性が低くなるため反応時間が長くする必要があり、経済的でない。
【0016】
四塩化ケイ素の添加方法は特に限定するものではなく、状況に合わせた任意の条件で実施すればよいが、例えば、不活性ガスを用いて圧送する方法、定量ポンプを用いて導入する方法等が挙げられる。
【0017】
四塩化ケイ素の添加時間は特に限定するものではなく、任意の時間とすることができるが、1〜10時間かけて添加することが好ましい。添加時間が1時間を下回ると、未反応のまま揮発する四塩化ケイ素量が多く、好ましくない。導入時間が10時間を上回ると、長時間を要するため経済的でない。四塩化ケイ素の添加が終了後、さらに1時間〜3時間程度保持して反応させることが好ましい。
【0018】
この反応において、生成物のジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムは、水分により加水分解を受けるので、水分を含まない雰囲気で反応を実施することが好ましい。例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気中で反応を行うことが好ましい。
【0019】
反応により得られたジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液に含まれているHCl、SiF、またはSiClは反応器を減圧することで取り除くことができる。減圧処理の後でろ過することで、不溶解物を取り除くことができる。
【0020】
減圧処理およびろ過後に得られるジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液には、減圧処理及びろ過で除去されない塩素化合物、遊離酸、またはテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが含まれる。例えば、塩素化合物についてはジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム1質量%あたりの塩素濃度で5質量ppm程度以下、且つ、遊離酸についてはフッ酸換算した酸濃度で250質量ppm程度以下である、塩素化合物および遊離酸が少ないジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液を得ることができる。塩素濃度が5質量ppmまたは酸濃度が250質量ppmより高い場合、非水電解液電池の添加剤として用いることは困難である。
【0021】
本発明で得られるジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液を非水電解液電池用電解液として用いるために調製する方法については特に限定するものではなく、本発明の製造方法により得られるジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム液に所定の濃度になるように、上記非水溶媒、主電解質、またはその他の添加剤を添加することで、所望の非水電解液電池用電解液を得ることができる。添加する主電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiPF(C、LiB(CF、LiBF(C)等に代表される電解質リチウム塩が挙げられる。また、添加するその他の添加剤としては、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、t−ブチルベンゼン、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジフルオロアニソール、フルオロエチレンカーボネート、プロパンサルトン、ジメチルビニレンカーボネート等の過充電防止効果、負極皮膜形成効果、正極保護効果を有する化合物が挙げられる。
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
露点−50℃のグローブボックス中で1000ml三口フラスコに水分10質量ppmに脱水したジエチルカーボネート460gを加え、攪拌子を入れた。マグネチックスターラーで十分に撹拌しながら、ヘキサフルオロリン酸リチウム75.9gを加えて溶解した。水分150質量ppmに乾燥させたシュウ酸90.0gを加えた。ヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸のモル比は1.00:2.00である。三口フラスコをグローブボックスの外に出し、40℃に設定したウォーターバスに漬けた。ウォーターバスの下にはマグネチックスターラーを設置し、十分に撹拌した。次に、四塩化ケイ素87.5gをコック付きフラスコに入れ、口にはセプタムを付けた。ヘキサフルオロリン酸リチウムと四塩化ケイ素のモル比は1.00:1.03である。セプタムにキャニュラーを刺し、コックを開き窒素ガスを入れることで、ヘキサフルオロリン酸リチウム・シュウ酸・ジエチルカーボネートの混合液にキャニュラーを用いて四塩化ケイ素を圧送し、1時間かけて滴下した。滴下開始と同時にSiFおよびHClガスが発生した。発生したガスはソーダ石灰を充填した缶に流して、吸収させた。未溶解のシュウ酸が溶解し反応が進行した。添加終了後、1時間撹拌を続け反応終了とした。得られた反応液から50℃、133Paの減圧条件でジエチルカーボネートを留去した。この後、三口フラスコをグローブボックスに入れ、ジエチルカーボネート溶液をメンブレンフィルターでろ過した。ろ液をNMR管に数滴取り、内部標準を添加して、アセトニトリル−d3を加えて溶解させた後、NMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが34質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが3質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で84%であった。
【0024】
含まれる塩素化合物濃度を測定するため、蛍光X線測定を行った。サンプル中の塩素濃度を求めた。このサンプル中の塩素濃度をジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、0.7質量ppmとなった。
【0025】
滴定法で含まれる酸の濃度を測定した。酸の濃度をジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、フッ酸換算で90質量ppmであることが分かった。
【実施例2】
【0026】
シュウ酸93.6gを用い、ヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸のモル比は1.00:2.08とした他は実施例1と同様に合成した。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが33質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが2質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で84%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、0.7質量ppmとなった。滴定により、酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で105質量ppmであることが分かった。
【実施例3】
【0027】
シュウ酸86.4gを用い、ヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸のモル比は1.00:1.92とした他は実施例1と同様に合成した。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが31質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが4質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で77%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、1.4質量ppmとなった。滴定により、酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で50質量ppmであることが分かった。
【実施例4】
【0028】
四塩化ケイ素91.7gを用い、ヘキサフルオロリン酸リチウムと四塩化ケイ素のモル比は1.00:1.08とした他は実施例1と同様に合成した。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが33質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが1質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で83%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、1.1質量ppmとなった。滴定により、酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で70質量ppmであることが分かった。
【実施例5】
【0029】
四塩化ケイ素82.4gを用い、ヘキサフルオロリン酸リチウムと四塩化ケイ素のモル比は1.00:0.97とした他は実施例1と同様に合成した。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが30質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが5質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で76%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、0.8質量ppmとなった。滴定により、酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で120質量ppmであることが分かった。
【実施例6】
【0030】
反応温度を25℃として、他は実施例1と同様に合成したが、反応性が低いため、四塩化ケイ素を添加した後、24時間反応させた。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが32質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが4質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で75%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、0.9質量ppmとなった。滴定により、含まれる酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で200質量ppmであることが分かった。
【実施例7】
【0031】
反応温度を60℃とした他は実施例1と同様に合成した。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが31質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが2質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で77%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、4.1質量ppmとなった。滴定により、含まれる酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で90質量ppmであることが分かった。
【実施例8】
【0032】
露点−50℃のグローブボックス中で1000ml三口フラスコに水分10質量ppmに脱水したエチルメチルカーボネート425gを加え、攪拌子を入れた。マグネチックスターラーで十分に撹拌しながら、ヘキサフルオロリン酸リチウム106.3gを加えて溶解した。水分150質量ppmに乾燥させたシュウ酸126.1gを加えた。ヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸のモル比は1.00:2.00である。三口フラスコをグローブボックスの外に出し、40℃に設定したウォーターバスに漬けた。ウォーターバスの下にはマグネチックスターラーを設置し、十分に撹拌した。次に、四塩化ケイ素123.7gをコック付きフラスコに入れ、口にはセプタムを付けた。ヘキサフルオロリン酸リチウムと四塩化ケイ素のモル比は1.00:1.04である。セプタムにキャニュラーを刺し、コックを開き窒素ガスを入れることで、ヘキサフルオロリン酸リチウム・シュウ酸・エチルメチルカーボネートの混合液にキャニュラーを用いて四塩化ケイ素を圧送し、1時間かけて滴下した。滴下開始と同時にSiFおよびHClガスが発生した。発生したガスはソーダ石灰を充填した缶に流して、吸収させた。未溶解のシュウ酸が溶解し反応が進行した。添加終了後、1時間撹拌を続け反応終了とした。得られた反応液から50℃、133Paの減圧条件でエチルメチルカーボネートを留去した。この後、三口フラスコをグローブボックスに入れ、エチルメチルカーボネート溶液をメンブレンフィルターでろ過した。ろ液をNMR管に数滴取り、内部標準を添加して、アセトニトリル−d3を加えて溶解させた後、NMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが37質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが2質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で85%であった。
【0033】
含まれる塩素化合物濃度を測定するため、蛍光X線測定を行った。サンプル中の塩素濃度を求めた。このサンプル中の塩素濃度をジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、0.7質量ppmとなった。
【0034】
滴定法で含まれる酸の濃度を測定した。酸の濃度をジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、フッ酸換算で90質量ppmであることが分かった。
[比較例1]
シュウ酸98.6gを用い、ヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸のモル比は1.00:2.19とした他は実施例1と同様に合成した。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが33質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが3質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で81%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、0.8質量ppmとなった。滴定により、酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で500質量ppmであることが分かった。
[比較例2]
四塩化ケイ素99.4gを用い、ヘキサフルオロリン酸リチウムと四塩化ケイ素のモル比は1.00:1.17とした他は実施例1と同様に合成した。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが33質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが0.5質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で80%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、80質量ppmとなった。滴定により、酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で5質量ppmであることが分かった。
[比較例3]
シュウ酸81.5gを用い、ヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸のモル比は1.00:1.81とした他は実施例1と同様に合成した。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが28質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが8質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で71%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、70質量ppmとなった。滴定により、酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で10質量ppmであることが分かった。
[比較例4]
四塩化ケイ素73.9gを用い、ヘキサフルオロリン酸リチウムと四塩化ケイ素のモル比は1.00:0.87とした他は実施例1と同様に合成した。実施例1と同様にNMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる含有率を計算した。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが25質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが11質量%含まれていた。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で60%であった。このサンプル中の塩素濃度を実施例1と同じ方法で測定し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、0.9質量ppmとなった。滴定により、酸の濃度を調べたところ、フッ酸換算で450質量ppmであることが分かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒中にヘキサフルオロリン酸リチウムとシュウ酸を1:1.90〜1:2.10のモル比の範囲で混合し、さらにこれに四塩化ケイ素をヘキサフルオロリン酸リチウムに対するモル比が1:0.95〜1:1.10の範囲で添加して反応させることを特徴とするジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液の製造方法。
【請求項2】
四塩化ケイ素を添加して反応させる際の温度が30℃〜50℃の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液の製造方法。
【請求項3】
非水溶媒が環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、鎖状エステルからなる群から選ばれた少なくとも一種類以上の溶媒であることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項に記載のジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム溶液の製造方法。


【公開番号】特開2010−143835(P2010−143835A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319834(P2008−319834)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】