説明

ジャイレータ回路、広帯域増幅器及び無線通信装置

【課題】差動増幅器が持つ周波数帯域を広げることができるジャイレータ回路、及びこのジャイレータ回路を有する広帯域増幅器及び無線通信装置を提供すること。
【解決手段】ベースを差動入力端子T1,T2とし、コレクタを差動出力端子T3,T4とする一対のトランジスタQ3,Q4からなる第1のトランスコンダクタンスアンプ31と、第1のトランスコンダクタンスアンプ31の差動出力端子T3,T4間に接続されたコンデンサC1と、エミッタを差動入力端子T5,T6とし、コレクタを差動出力端子T7,T8とする一対のトランジスタQ5,Q6からなる第2のトランスコンダクタンスアンプ32とを有し、第1のトランスコンダクタンスアンプ31の差動入力端子T1,T2と第2のトランスコンダクタンスアンプ32の差動出力端子T7,T8とを分離した状態としてジャイレータ回路を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャイレータ回路、広帯域増幅器及び無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ジャイレータ回路を用いた様々な回路が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、差動増幅器の出力周波数特性を可変する手法として、ジャイレータ回路で構成したアクティブインダクタを用いて差動増幅器の負荷にバンドパスフィルタを構成する手法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、ジャイレータ回路で構成したアクティブインダクタを含む共振回路を用いて差動増幅器の負荷にバンドパスフィルタを構成する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−298355号公報
【特許文献2】特開2009−33643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ジャイレータ回路を差動増幅器に接続した上記従来の増幅器は、差動増幅器が持つ周波数帯域のうち一部の出力帯域を制限するものであり、差動増幅器が持つ周波数帯域を広げるものではない。
【0007】
そこで、本願発明は、差動増幅器が持つ周波数帯域を広げることができるジャイレータ回路、及びこのジャイレータ回路を有する広帯域増幅器及び無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ベース又はゲートを差動入力端子とし、コレクタ又はドレインを差動出力端子とする一対のトランジスタからなる第1のトランスコンダクタンスアンプと、前記第1のトランスコンダクタンスアンプの差動出力端子間に接続されたコンデンサと、エミッタ又はソースを差動入力端子とし、コレクタ又はドレインを差動出力端子とする一対のトランジスタからなる第2のトランスコンダクタンスアンプと、を有し、前記第1のトランスコンダクタンスアンプの前記差動入力端子と前記第2のトランスコンダクタンスアンプの前記差動出力端子とが分離されたジャイレータ回路とした。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のジャイレータ回路と、差動増幅器とを有し、前記ジャイレータ回路の前記第1のトランスコンダクタンスアンプの前記差動入力端子に前記差動増幅器の差動入力端子が接続され、前記ジャイレータ回路の前記第2のトランスコンダクタンスアンプの前記差動出力端子に前記差動増幅器の差動出力端子が接続された広帯域増幅器とした。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、前記差動増幅器の入力端子は、エミッタフォロア回路を介して前記第1のトランスコンダクタンスアンプの前記差動入力端子に接続された請求項2に記載の広帯域増幅器とした。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、アンテナと、前記アンテナに送信信号を出力して前記アンテナから無線信号を出力させる送信回路と、前記アンテナと前記無線回路との間に接続されたインピーダンスマッチング回路と、前記送信信号の進行波と反射波をそれぞれ検出する検出回路と、前記進行波の電力と前記反射波の電力とを測定する電力測定回路と、前記電力測定回路の測定結果に基づいて、前記インピーダンスマッチング回路を制御する制御回路と、を備え、前記電力測定回路は、請求項2又は3に記載の広帯域増幅器を多段に縦列接続したリミッタアンプ部と、前記広帯域増幅器の出力をそれぞれ検出する複数の検波部と、各前記検波部の出力を加算する加算部とを備えた無線通信装置とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジャイレータ回路によるアクティブインダクタと寄生容量の共振により差動増幅器の帯域の上限の高周波領域でのゲイン低下を改善し、さらに、フィードフォアード動作により差動増幅器の持つゲインを低域で下げることで相対的に高域のゲイン低下を改善することで、周波数帯域を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るジャイレータ回路を用いた広帯域増幅器の構成を示す図である。
【図2】図1に示すジャイレータ回路のアクティブインダクタとしての動作の原理図を示す。
【図3】図1に示す広帯域増幅器の特性を説明するための図である。
【図4】広帯域増幅器の変形例を示す図である。
【図5】ジャイレータの変形例を示す図である。
【図6】ジャイレータの変形例を示す図である。
【図7】広帯域増幅器の変形例を示す図である。
【図8】広帯域増幅器の変形例を示す図である。
【図9】図1に示す広帯域増幅器を適用した無線通信装置の構成を示す図である。
【図10】図9に示す無線通信装置の電力測定回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.ジャイレータ回路の概要]
本発明の一実施形態に係るジャイレータ回路は、第1のトランスコンダクタンスアンプと、コンデンサと、第2のトランスコンダクタンスアンプと、を有している。
【0015】
第1のトランスコンダクタンスアンプは、ベース又はゲートを差動入力端子とし、コレクタ又はドレインを差動出力端子とする一対のトランジスタからなり、コンデンサは、第1のトランスコンダクタンスアンプの差動出力端子間に接続される。また、第2のトランスコンダクタンスアンプは、エミッタ又はソースを差動入力端子とし、コレクタ又はドレインを差動出力端子とする一対のトランジスタからなる。
【0016】
そして、第1のトランスコンダクタンスアンプの差動入力端子と第2のトランスコンダクタンスアンプの差動出力端子とを分離するようにしている。
【0017】
かかるジャイレータ回路を用いることにより差動増幅器が持つ周波数帯域を広げた広帯域増幅器を提供することができる。
【0018】
すなわち、ジャイレータ回路の第1のトランスコンダクタンスアンプの差動入力端子に差動増幅器の差動入力端子を接続し、ジャイレータ回路の第2のトランスコンダクタンスアンプの差動出力端子に差動増幅器の差動出力端子を接続して広帯域増幅器を構成する。
【0019】
このように広帯域増幅器を構成することで、ジャイレータ回路によるフィードフォアード動作により差動増幅器の持つゲインを低域で下げることができ、相対的に高域のゲイン低下を改善することができる。さらに、ジャイレータ回路によるアクティブインダクタと寄生容量の共振により差動増幅器の帯域の上限の高周波領域でのゲイン低下を改善することができる。その結果、差動増幅器が持つ周波数帯域を広げた広帯域増幅器を提供することができる。
【0020】
この広帯域増幅器は、例えば、無線通信装置の電力測定回路の他、様々な回路に適用することができる。
【0021】
[2.広帯域増幅器の具体的構成]
以下、本発明の一実施形態に係るジャイレータ回路を用いた広帯域増幅器の構成について図面を参照して具体的に説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る広帯域増幅器10は、差動増幅器20と、ジャイレータ回路30とから構成される。
【0023】
差動増幅器20は、エミッタが共通に接続されて差動対をなすトランジスタQ1,Q2と、各トランジスタQ1,Q2のコレクタと電源VDD間に接続される抵抗R1,R2と、電流源I1とから構成される。電流源I1は、トランジスタQ1,Q2のエミッタとグランドGND間に接続される。この差動増幅器20では、トランジスタQ1,Q2のベースが差動入力端子Ta,Tbとなり、トランジスタQ1,Q2のコレクタが差動出力端子Tc,Tdとなる。
【0024】
ジャイレータ回路30は、差動入力端子Ta,Tbに入力された電圧に応じた電流を差動出力端子Tc,Tdに供給するものである。ジャイレータ回路30は、この第1のトランスコンダクタンスアンプ31(以下、第1gmアンプ31とする)と、第2のトランスコンダクタンスアンプ32(以下、第2gmアンプ32とする)と、コンデンサC1と、電流源I2とから構成される。
【0025】
第1gmアンプ31は、エミッタが共通に電流源I2に接続された一対のトランジスタQ3,Q4から構成されている。トランジスタQ3,Q4のベースは第1gmアンプ31の差動入力端子T1,T2となり、トランジスタQ3,Q4のコレクタは第1gmアンプ31の差動出力端子T3,T4となる。第1gmアンプ31は、電圧電流変換回路であり、差動入力端子T1,T2に入力された電圧と同相の電流を差動出力端子T3,T4から出力する。
【0026】
コンデンサC1は、ジャイレータ回路30が後述する2つの特徴的動作をすることができるように、その容量値が調整される。
【0027】
第2gmアンプ32は、ベースが電源VDDに共通に接続された一対のトランジスタQ5,Q6から構成されている。トランジスタQ5,Q6のエミッタは第2gmアンプ32の差動入力端子T5,T6となり、トランジスタQ5,Q6のコレクタは第2gmアンプ32の差動出力端子T7,T8となる。
【0028】
そして、ジャイレータ回路30では、第1gmアンプ31の差動入力端子T1,T2と第2gmアンプ32の差動出力端子T7,T8とは分離されている。
【0029】
このように構成されるジャイレータ回路30は、第1gmアンプ31の差動入力端子T1,T2がその差動入力端子となり、第2gmアンプ32の差動出力端子T7,T8がその差動出力端子となる。
【0030】
ジャイレータ回路30の差動入力端子は差動増幅器20の差動入力端子Ta,Tbに接続される。また、ジャイレータ回路30の差動出力端子は差動増幅器20の出力端子に接続される。すなわち、第1gmアンプ31の差動入力端子T1,T2に差動増幅器20の差動入力端子Ta,Tbが接続され、ジャイレータ回路の第2gmアンプ32の差動出力端子T7,T8に差動増幅器20の差動出力端子Td,Tcが接続される。
【0031】
[3.広帯域増幅器10の動作・特性]
以上のように構成される広帯域増幅器10は、差動増幅器20にジャイレータ回路30の2つの動作を加えた構成である。1つの動作は、差動増幅器20の帯域上限側におけるアクティブインダクタとしての動作であり、もう1つの動作はフィードフォアードアンプとしての動作である。
【0032】
(アクティブインダクタとしての動作)
まず、アクティブインダクタとしての動作について説明する。図2にジャイレータ回路30のアクティブインダクタとしての動作の原理図を示す。
【0033】
ジャイレータ回路30において、差動増幅器20の差動入力端子Ta,Tbに入力される入力電圧Vinは、差動入力端子T1,T2に入力されて第1gmアンプ31により電流変換され入力電圧Vinと同相の電流Igm1となる。高周波領域においては、この電流Igm1が、この回路の負荷であるコンデンサC1に流れる。その結果、コンデンサC1の両端に電圧Vcが発生する。コンデンサC1の電圧Vcは、第1gmアンプ31により生成される電流Igm1に対して90度位相が遅れている。従って、コンデンサC1は、移相素子として機能することになる。
【0034】
コンデンサC1の電圧Vcは、第2gmアンプ32の差動入力端子T5,T6に入力され、第2gmアンプ32の差動出力端子T7,T8から電圧Vcに応じた電流Igm2が出力される。この電流Igm2は、入力電圧Vinに対して位相が90度遅れている。
【0035】
このように、第1gmアンプ31に負荷として容量であるコンデンサC1が設けられると、ジャイレータ回路30の動作により容量がインダクタに変換されることになる。すなわち、ジャイレータ回路30は、アクティブインダクタとして動作することになる。
【0036】
第1gmアンプ31のトランスコンダクタンスをgm1,第2gmアンプ32のトランスコンダクタンスをgm2,コンデンサC1のキャパシタンスをCとすると、このインダクタのインダクタンスLは以下の式(1)のように表すことができる。
L=C/(gm1×gm2) ・・・(1)
【0037】
一方、差動増幅器20は、差動入力端子Ta,Tbから入力される電圧Vinに応じた電圧Voutを差動出力端子Tc,Tdから出力する。差動増幅器20のゲインをGとすると、ジャイレータ回路30が接続されていないときには、差動増幅器20の電圧Voutは以下のように表すことができる。
Vout=−G×Vin
【0038】
上述したように、差動増幅器20の差動出力端子Tc,Tdには、ジャイレータ回路30の差動出力端子T8,T7が接続されている。従って、入力電圧Vinが変化して差動増幅器20の電圧Voutが変化する場合には、電圧Voutに対して90度位相が遅れた電流Igm2が差動出力端子Tc,Tdに流れる。その結果、差動増幅器20の差動出力端子Tc,Tdにインダクタが接続された場合と同等の動作が得られる。
【0039】
このように広帯域増幅器10においては、ジャイレータ回路30の差動入力端子T1,T2と差動出力端子T7,T8とを互いに異なる端子(ノード)としている。そのため、コンデンサC1の容量値を調整することにより、差動増幅器20の帯域の上限の高周波領域において、差動増幅器20の差動出力端子Tc,Tdにインダクタが接続された場合と同等の動作を得ることができる。
【0040】
(フィードフォアードアンプとしての動作)
次に、ジャイレータ回路30によるフィードフォアードアンプとしての動作について説明する。
【0041】
ジャイレータ回路30において、差動増幅器20の差動入力端子Ta,Tbに入力される入力電圧Vinは、差動入力端子T1,T2に入力されて第1gmアンプ31により電流変換され入力電圧Vinと同相の電流Igm1となる。
【0042】
上述のように差動増幅器20の帯域の上限の高周波領域においては、電流Igm1がコンデンサC1に流れる。しかし、低周波領域においては、コンデンサC1のインピーダンスが高いため、電流Igm1がコンデンサC1にほとんど流れずに、電流Igm1のほとんどは第2gmアンプ32の差動入力端子T5,T6に流れる。そのため、第2gmアンプ32の差動出力端子T7,T8に流れる電流Igm2は、入力電圧Vinと同相の電流となる。
【0043】
一方、差動増幅器20の差動出力端子Tc,Tdには、トランジスタQ1,Q2により入力電圧Vinと逆相のコレクタ電流が流れる。
【0044】
従って、低周波領域においては、ジャイレータ回路30によって差動増幅器20の差動出力端子Tc,Tdに流れる電流Igm2は、トランジスタQ1,Q2のコレクタ電流とは逆相となる。そのため、広帯域増幅器10のゲインは、差動増幅器20のゲインよりも低くなる。
【0045】
すなわち、広帯域増幅器10は、低周波領域においては、フィードフォアードアンプとして動作してゲインが低下することになる。
【0046】
以上のように、広帯域増幅器10のジャイレータ回路30は、高周波領域においては、通過帯域上限側におけるアクティブインダクタとして動作し、低周波領域においては、広帯域増幅器10をフィードフォアードアンプとして動作させる。
【0047】
(広帯域増幅器10の特性)
次に、以上のように構成された広帯域増幅器10の特性を説明する。
【0048】
図3に、ジャイレータ回路30が接続されていない差動増幅器20の周波数特性A、コンデンサC1を除いた広帯域増幅器10の周波数特性B、及び広帯域増幅器10の周波数特性Cをそれぞれ示す。
【0049】
周波数特性Aと周波数特性Bとの差分が、ジャイレータ回路30によるフィードフォアード動作による作動アンプのゲイン改善効果である。すなわち、ジャイレータ回路30によるフィードフォアード動作により、低周波領域でゲインが低下し、1GHzを超える領域からこのゲインの低下量が減少する。その結果、周波数帯域幅が拡大する。
【0050】
また、周波数特性Bと周波数特性Cとの差分が、ジャイレータ回路30によるアクティブインダクタの効果である。すなわち、差動増幅器20の帯域の上限の高周波領域である2GHz〜3GHzの周波数において、広帯域増幅器10の出力段(差動出力端子Tc,Td)に付く寄生容量とアクティブインダクタの共振によりゲインの低下を改善する効果が得られる。
【0051】
このように、本実施形態に係る広帯域増幅器10は、ジャイレータ回路30を差動増幅器20に接続することにより、周波数帯域幅の改善を可能としている。すなわち、差動増幅器20の通過帯域上限側におけるアクティブインダクタとしての動作と低周波帯域におけるフィードフォアードアンプとしての動作をジャイレータ回路30により差動増幅器20に加え、トータル特性としての帯域幅の最大化が可能としている。
【0052】
また、ジャイレータ回路30は、その構成を、第1gmアンプ31と第2gmアンプ32を縦積みして差動カスコードアンプとしている。そのため、上記特許文献(特開2009−33642号公報)に記載されているような構成(差動増幅器とエミッタフォロアとを組み合わせた構成)よりも電流源が少なくて済み、省電力を図ることができる。
【0053】
なお、上記実施形態においては、トランジスタQ1〜Q6をバイポーラトランジスタで構成することとしたが、図4に示すようにトランジスタQ1〜Q6をMOSトランジスタで構成するようにしてもよい。
【0054】
また、ジャイレータ回路を、図5や図6に示すような構成としてもよい。なお、ここでは、説明の便宜上、差動構成ではなくシングル構成のジャイレータ回路を示している。
【0055】
図5に示すジャイレータ回路30aでは、トランジスタQ3が第1gmアンプとして、トランジスタQ5が第2gmアンプとして機能する。このジャイレータ回路30は、コンデンサC2が入出力間に設けられており、入出力間のDC動作点を分離している。
【0056】
図6に示すジャイレータ回路30bでは、図5に示すジャイレータ回路30aのコンデンサC2に代えてダイオード接続したトランジスタQ9を入出力間に設け、入力とグランドGNDとの間に電流源I5を設けている。このようにすることで、入出力間のDC動作点を合わせている。
【0057】
図6のジャイレータ回路を差動構成にして差動増幅器20に接続した広帯域増幅器10aの構成を、図7に示す。この広帯域増幅器10aは、差動増幅器20の差動出力端子Tc,Tdに、ジャイレータ回路の入出力が接続されるため、フィードフォアード動作はなくアクティブインダクタと寄生容量の共振特性による周波数特性の改善のみとなる。なお、図5のジャイレータ回路を差動構成にして差動増幅器20に接続した広帯域増幅器でも同様に、アクティブインダクタと寄生容量の共振特性による周波数特性の改善のみとなる。
【0058】
なお、図1に示す広帯域増幅器10では、ジャイレータ回路の動作点を確保するための素子(例えば、図5に示すコンデンサC2や図6に示すトランジスタQ9)が不要となり、ジャイレータ回路30の寄生容量が少なく高周波特性に優れている。その結果、広帯域増幅器10では、アクティブインダクタ動作をより高い周波数で動作させることが可能となり、周波数帯域幅を広くすることができる。
【0059】
また、図8に示す広帯域増幅器10bのように、差動増幅器20に、トランジスタQ11と電流源I5とからなるエミッタフォロアとトランジスタQ12と電流源I6とからなるエミッタフォロアを介して、ジャイレータ回路30を接続するようにしてもよい。このようにすることで、ジャイレータ回路30のトランジスタQ3,Q4の動作点に余裕ができ、トランジスタQ1,Q2,Q11,Q12のベース電位をトランジスタQ11,Q12のベース−エミッタ電圧Vbe分だけ高く設定することが可能となる。
【0060】
[4.無線通信装置]
次に、上述した広帯域増幅器10,10a,10bを適用した無線通信装置を図9及び図10を参照して具体的に説明する。なお、本実施形態に係る無線通信装置50は、携帯電話機としており、一例として広帯域増幅器10を適用している。
【0061】
図9に示すように、無線通信装置50は、送受信回路51、カプラ回路52、マッチング回路53、アンテナ54、電力測定回路55、バス制御回路56、メモリ回路57、制御回路58などから構成される。
【0062】
送受信回路51は、送信回路51aと、受信回路51bと、切り替えスイッチ51cとから構成される。送信回路51aは、他の無線通信装置との間で通信を行うための送信信号を出力する回路である。この送信回路51aは、アンテナチューニングを行うための送信信号を送出する場合にも使用される。受信回路51bは、他の無線通信装置間で通信を行う際に、アンテナ54から出力される受信信号を入力する回路であり、アンテナチューニング終了後に用いられる。なお、受信信号は、無線通信装置から送信された無線信号がアンテナ54により変換されて生成されるものである。切り替えスイッチ51cは、送信信号と受信信号を分離する回路であり、例えばスイッチ回路などが使われる。
【0063】
カプラ回路52は、送信回路51aから出力される送信信号の進行波と反射波をそれぞれ検出する検出回路である。
【0064】
マッチング回路53は、インピーダンスが可変であるインピーダンスマッチング回路であり、内部の定数(例えば、調整用コンデンサの値)を制御回路58からの制御により変更することにより、インピーダンスを調整可能としている。
【0065】
電力測定回路55は、上述した広帯域増幅器10が用いられている電力測定回路であり、カプラ回路52により検出した進行波と反射波の電力を測定する回路である。
【0066】
バス制御回路56は、制御回路58を図示しないマイコン等で制御するためのバス制御回路であり、メモリ回路57は、制御回路58を制御するデータなどを記憶するメモリ回路である。
【0067】
制御回路58は、電力測定回路55の測定結果に基づいてマッチング回路53のインピーダンスを制御する制御回路であり、送信電力を効率よくアンテナ54に送り込めるようにする。
【0068】
このように構成された無線通信装置50では、送受信周波数が大きく変わった場合に、アンテナ54と送受信回路51との間でインピーダンスマッチングがずれてしまうことを改善することができるものであり、以下のように動作する。
【0069】
まず、無線通信装置50は、インピーダンスマッチングの状態を測定する。このとき、送信回路51aはテスト信号を送信信号として出力し、カプラ回路52を介してアンテナ54にテスト信号を入力する。出力されたテスト信号の一部はインピーダンスのずれ量に応じて、アンテナ54で反射して反射波としてカプラ回路52に入力される。
【0070】
カプラ回路52では、送信信号であるテスト信号の進行波と反射波に比例した信号V1,V2を分離してそれぞれ検出し、電力測定回路55へ信号V1,V2を出力する。電力測定回路55では、信号V1,V2の大きさを検出して、制御回路58に通知する。制御回路58では、信号V1,V2の大きさを比較することにより、送受信回路51とアンテナ54とのマッチング状態を示す反射係数rを判定する。なお、信号V1,V2と反射係数rとの関係は以下に示す式(2)で表すことができる。
r=V2/V1 ・・・(2)
【0071】
制御回路58は、判定した反射係数rに応じてマッチング回路53を制御する。例えば、制御回路58は、マッチング回路53の調整用コンデンサの値をスイッチで切り替えることなどにより変更することで、マッチング回路53のインピーダンスを調整する。これにより、送信信号を効率よくアンテナ54に送り込むことができる。
【0072】
ここで、図10に電力測定回路55の構成を示す。本実施形態に係る電力測定回路55は、広帯域増幅器10を多段に縦列接続したリミッタアンプ部60と、広帯域増幅器10の出力を検出する複数の検波部61を有する検波部群62と、各前記検波部61の出力を加算して出力する加算部63とを備えている。
【0073】
図10に示す電力測定回路55では、縦列接続された広帯域増幅器10の出力をそれぞれ検波し加算することで対数コンバータとして動作する。この電力測定回路55に電圧Vi(Vrms)が入力されたとき、加算部63から出力される電圧Vo(V)は、以下の式(3)のように表すことができる。
Vo=0.8×log(Vi/0.224)+2 ・・(3)
【0074】
従って、例えば、Vi=0.224(Vrms)のとき、Vo=2(V)の直流出力となる。また、Vi=2.24(mVrms)のとき、Vo=0.4(V)直流出力となる。
【0075】
携帯電話機である無線通信装置50は、多バンド対応のために、例えば、100MHzから2.5GHzまでの広帯域が必要となる。電力測定回路55は増幅器が縦列接続されて構成されるため、増幅器1段あたりの僅かな高域ゲインの低下でも段数倍されて大きなゲイン低下となり周波数帯域が確保しにくくなる。
【0076】
従来の増幅器では、この高域ゲインの低下は、差動増幅器の出力インピーダンスと差動出力端子に生じる寄生容量とによるローパスフィルタ特性により出力信号帯域が制限されることによって生じている。しかし、本実施形態に係る無線通信装置50では、縦列接続する各増幅器に、上述した広帯域増幅器10を用いているため、高域ゲインの低下を抑制して周波数帯域幅が拡大することができる。例えば、無線通信装置50では、図3に示すように、100MHzから2.5GHzまでの広帯域を確保することが可能となる。
【0077】
このように、広帯域増幅器10を用いることで、電力測定回路55の周波数特性を改善することができ、高い周波数においても電力測定のダイナミックレンジが確保できる。そのため、高周波でも精度よくインピーダンスマッチングを行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0078】
10 広帯域増幅器
20 差動増幅器
30 ジャイレータ回路
31 第1のトランスコンダクタンスアンプ
32 第2のトランスコンダクタンスアンプ
50 無線通信装置
51a 送信回路
52 カプラ回路(検出回路)
53 マッチング回路(インピーダンスマッチング回路)
54 アンテナ
55 電力測定回路
58 制御回路
60 リミッタアンプ部
61 検波部
62 加算部
C1 コンデンサ
Q1〜Q11 トランジスタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース又はゲートを差動入力端子とし、コレクタ又はドレインを差動出力端子とする一対のトランジスタからなる第1のトランスコンダクタンスアンプと、
前記第1のトランスコンダクタンスアンプの差動出力端子間に接続されたコンデンサと、
エミッタ又はソースを差動入力端子とし、コレクタ又はドレインを差動出力端子とする一対のトランジスタからなる第2のトランスコンダクタンスアンプと、を有し、
前記第1のトランスコンダクタンスアンプの前記差動入力端子と前記第2のトランスコンダクタンスアンプの前記差動出力端子とが分離されたジャイレータ回路。
【請求項2】
請求項1に記載のジャイレータ回路と、差動増幅器とを有し、
前記ジャイレータ回路の前記第1のトランスコンダクタンスアンプの前記差動入力端子に前記差動増幅器の差動入力端子が接続され、
前記ジャイレータ回路の前記第2のトランスコンダクタンスアンプの前記差動出力端子に前記差動増幅器の差動出力端子が接続された
広帯域増幅器。
【請求項3】
前記差動増幅器の入力端子は、エミッタフォロア回路を介して前記第1のトランスコンダクタンスアンプの前記差動入力端子に接続された請求項2に記載の広帯域増幅器。
【請求項4】
アンテナと、
前記アンテナに送信信号を出力して前記アンテナから無線信号を出力させる送信回路と、
前記アンテナと前記無線回路との間に接続されたインピーダンスマッチング回路と、
前記送信信号の進行波と反射波をそれぞれ検出する検出回路と、
前記進行波の電力と前記反射波の電力とを測定する電力測定回路と、
前記電力測定回路の測定結果に基づいて、前記インピーダンスマッチング回路を制御する制御回路と、を備え、
前記電力測定回路は、
請求項2又は3に記載の広帯域増幅器を多段に縦列接続したリミッタアンプ部と、前記広帯域増幅器の出力をそれぞれ検出する複数の検波部と、各前記検波部の出力を加算する加算部とを備えた無線通信装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−250084(P2011−250084A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120552(P2010−120552)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】