説明

ジャイロセンサ及びナビゲーション装置

【課題】 移動体が傾いた状態でも移動体の相対的な方位を正確に求めることが可能な高性能なジャイロセンサを提供すると共に、このようなジャイロセンサを用いることにより移動体の現在位置の検出精度向上を図った信頼性の高いナビゲーション装置を提供する。
【解決手段】 GPS電波を受信するGPS受信部1と、回転角を出力して自車の相対的な方位を検出するジャイロセンサ2と、走行距離を算出する車速センサ3とが設けられている。さらに、傾斜センサ20及び回転角補正部21が設けられている。傾斜センサ20は走行車両の傾斜角θを求めるものであり、回転角補正部21は前記傾斜角θに基づいてジャイロセンサ2が出力した回転角を補正する部分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャイロセンサ及びこれを構成要素に含むナビゲーション装置に係り、特に、傾斜状態にあるジャイロセンサからの回転角出力を補正する回転角の補正技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体に搭載されるナビゲーション装置において、移動体の現在位置を正確に提示することは、経路誘導を実施する上で極めて重要である。例えば、車載用ナビゲーション装置にて現在の車両位置(以下、自車位置)を検出する場合、GPSを使って絶対的な位置を求める方式や、ジャイロセンサ及び車速センサを使って相対的な位置を求める方式が知られている。前者の方式では、GPS衛星から送られてくるGPS電波を受信して自車位置に関して地表での絶対的な位置座標や方位を求めるものである。ただし、この方式は、長いトンネルや地下駐車場のようにGPS電波が届かないエリアでは、車両の位置を検知することができなくなるという短所がある。そこで、上記2種類の方式を併用することにより、車両の正確な位置を把握するようになっている。
【0003】
ところで、ナビゲーション装置は、搭載される車種ごとに別のタイプの装置を取り付けるのではなく、車種に関係なく共通の装置を取り付ける方が一般的である。そのため、車種の違いによって、ナビゲーション装置を取り付ける際の位置や角度が異なることがあった。このとき、ナビゲーション装置に組み込まれたジャイロセンサの検出面が、基準となる水平面から傾いていると、上記ジャイロセンサの感度が低下するといった不具合が生じる。これは、ジャイロセンサが水平な状態で最大出力を得るように設計されているためである。したがって、ジャイロセンサの検出面が水平になるように、ジャイロセンサの取付角度を調整する作業が必要となっている。
【0004】
しかしながら、ジャイロセンサの取付角度調整をいちいち手作業で行うとなると非常に面倒であり、コスト増大につながる。また、ジャイロセンサの取付角度を機械的に調整する機構を設置することが考えられるが、この場合、ナビゲーション装置の大型化・複雑化を招くことになる。そこで、計算処理により回転角出力に補正を加えることで、ジャイロセンサの取付角度調整を実現する技術が提案されている。
【0005】
すなわち、図4に示すように、ナビゲーション装置の筐体10内に組み込まれたジャイロセンサ2において水平時の最大出力値をAとする。このとき、ジャイロセンサ2の取付角度が水平面よりも傾斜角度θだけ傾いていれば、この状態でのジャイロセンサ2の出力値はAcosθとなる。したがって、この値に1/cosθを乗ずることにより、最大出力値Aを求めることができる。このような従来例としては特許文献1がある。
【0006】
ここに記載の装置では、車種に応じてジャイロセンサの取付角度を特定する特定情報を予め用意しておき、この特定情報を入力したときにそれに基づいて補正係数を設定し、回転角の補正を行っている。これにより、実際のジャイロセンサの取付角度には関係なく、計算処理によって回転角出力を補正し、水平に取り付けた状態のジャイロセンサと同値の回転角出力をを得ることができる。
【特許文献1】特開2004−28841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ナビゲーション装置を搭載した移動体が動いている時、路面が傾いていれば、そこを走る移動体と共に、ナビゲーション装置に組み込んだジャイロセンサも当然傾くことになる。そして、傾いた状態のままで移動体が左右に回転すれば、取付時に傾斜している場合と同じく、ジャイロセンサの出力値は傾斜角度に応じて変化することになる。つまり、センサ感度が低下して、回転角出力に誤差が生じるおそれがあり、自車位置の検出精度が劣化した。
【0008】
ところで、立体交差や山道、あるいは高速道ランプでは、カーブやアップダウンが多い。このため、ここを走る車両は傾斜角度の変化が大きく、相対的な方位についても頻繁に変えて移動していくことになる。しかも、これらの道路状況は通常、複雑であり、ナビゲーション装置による経路誘導の必要性は高い。したがって、車載用のナビゲーション装置では、走行する車両の傾斜角度に左右されることなく、ジャイロセンサから常に正確な回転角出力を得て自車位置の検出精度を高めることが望まれている。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、移動体が傾いた状態でも移動体の相対的な方位を正確に求めることが可能な高性能なジャイロセンサを提供すると共に、このようなジャイロセンサを用いることにより移動体の現在位置の検出精度向上を図った信頼性の高いナビゲーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、請求項1の発明は、移動体の回転角を検出して前記移動体の方位を求めるジャイロセンサにおいて、前記移動体の傾斜角を検出する傾斜角センサと、前記傾斜角に基づいて前記回転角を補正する回転角補正手段とが設けられたことを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載のジャイロセンサにおいて、前記傾斜角センサの検出した前記移動体の傾斜角がθ、補正前の回転角がVである時、前記回転角補正手段はV/cosθを補正値として出力するように構成されたことを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のジャイロセンサにおいて、前記傾斜角センサは加速度センサであることを特徴とする。
【0013】
これら請求項1〜3の発明によれば、回転角補正手段が傾斜角センサの検出した傾斜角に基づいて回転角を補正するので、移動体がどのような角度で傾いていたにせよ、計算処理によってジャイロセンサを水平状態とした最大出力値を求めることができる。したがって、傾いたままで移動体が左右に回転しても、移動体の傾斜角度に関係なく高い感度で相対的な方位の変化を検出することが可能となり、出力誤差を抑えることができる。特に、請求項3の発明では、重力成分を水平成分と垂直成分に分割する加速度センサを傾斜センサとして用いているので、簡単且つ正確に傾斜角度を求めることができる。
【0014】
請求項4の発明は、ジャイロセンサを用いて移動体の相対的な方位を検出し、これを現在位置の決定に利用するナビゲーション装置において、請求項1〜3のいずれか一項に記載の前記ジャイロセンサが構成要素として含まれたことを特徴としている。
このような請求項4の発明によれば、本発明のジャイロセンサを用いて移動体の相対的な方位を検出するため、移動体が傾斜角度を大きく変えながら相対的な方位を変えても、移動体の回転角を補正することができるので、移動体の現在位置を正確に求めることが可能である。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明のジャイロセンサによれば、移動体の傾斜角度を求めてそれに応じて回転角出力を補正するため、移動体が傾いた状態のまま左右に回転しても出力誤差を抑えることができ、移動体の相対的な方位を正確に求めることができる。また、本発明のナビゲーション装置によれば、このような高性能のジャイロセンサを用いることで、移動体の現在位置を高い精度で求めることができ、装置としての信頼性向上に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
続いて、本発明を実施するための最良の形態(以下「実施形態」という)について、図面を参照して具体的に説明する。本発明に係る実施形態は、車載用ナビゲーション装置に組み込まれるジャイロセンサである。
【0017】
〔1.構成〕
〔1−1.全体の構成〕
まず図1の機能ブロック図を用いて、ジャイロセンサを組み込んだ車載用ナビゲーション装置の全体構成について説明する。すなわち、本実施形態は、GPS受信部1と、ジャイロセンサ2と、車速センサ3と、メインCPU及びその周辺回路4と、メモリ群Mと、ユーザインタフェース部9と、表示部10と、入力部11と、ディスク制御部12と、FM多重受信及び処理部13と、外部記録装置制御部14を備えている。
【0018】
メインCPU及びその周辺回路4は、車載用ナビゲーション装置を制御する制御回路の役割を果たす部分であり、自車位置検出部40を有している。ROM5は、BIOSやブートアッププログラムなどが予め格納されており、本装システムの起動時にメインCPU及びその周辺回路4によってアクセスされる。DRAM6はワークエリアなどに使用される。また、SRAM7は不揮発性のメモリであり、車両のアクセサリ電源などメイン電源がオフになっている間も、電池などでバックアップされることでメモリ内容を保持するものである。VRAM8は、表示部10でビデオ表示を行うためのメモリである。
【0019】
ユーザインタフェース部9は、I/O制御回路やドライバなどを使って、表示部10及び入力部11と、メインCPU及びその周辺回路4とを結ぶユーザインタフェースである。表示部10は、地図や操作メニューなど各種の情報を液晶表示パネルや音声合成装置などを使って出力するための部分である。入力部11は、リモコンやタッチパネルなどを使ってユーザが命令や目的地などさまざまな情報を本装置に入力するための部分である。
【0020】
ディスク制御部12は、ナビゲーションプログラムや、交差点や道路を含む地図情報などの各種情報をハードディスクやCD−ROMなどのディスクに記録されたデータベースから読み出す手段である。FM多重受信及び処理部13は、複数のアンテナを受信状態に応じて切り換えることで、ラジオのFM放送波を受信し、この放送波からVICS情報を取得する部分である。外部記録装置制御部14は、外部記録媒体にデータを記録、読み出しを行うためのインターフェースであり、外部記録媒体としてはメモリースティックやメモリカード、CFカードなどがある。
【0021】
〔1−2.自車位置を検出するための構成要素〕
続いて、自車位置検出を担う構成要素について説明する。GPS受信部1は、GPS衛星から送られてくるGPS電波をアンテナやレシーバなどで受信することにより、本装置が搭載された車両の自車位置について地表での絶対的な位置座標や方位を計算する部分である。車速センサ3は、車両より得られる車速パルスを処理することで自車の速度を計算して走行距離を算出する部分である。
【0022】
ジャイロセンサ2は本実施形態の主要部であり、傾斜角センサ20、回転角補正部21及び取付角度補正部22が設けられている。ジャイロセンサ2は、車両が左右に回転した際の出力が変化する角速度センサであり、回転角を出力して自車の相対的な方位を検出する部分である。傾斜角センサ20は図2に示すように重力成分Gを水平成分xと垂直成分yに分割する2軸の加速度センサであり、走行車両の傾斜角θを、tanθ=x/yよりθ=tan−1(x/y)から求める部分である。
【0023】
回転角補正部21は傾斜角センサ20の検出した傾斜角θに基づいてジャイロセンサ2が出力した回転角を補正するものである。より詳しくは、車両の傾斜角がθ、補正前の回転角がVである時、回転角補正部21はV/cosθを補正値として出力するように構成されている。なお、取付角度補正部22は、車両に対するジャイロセンサ2の取付角度が水平になるように補正する部分である。
【0024】
〔2.作用〕
次に、本実施形態の作用について説明する。図3は自車位置検出処理のフローチャートである。まず、取付角度補正部22の計算処理により車両に対するジャイロセンサ2の取付角度が水平となるように補正し(ステップ1)、ジャイロセンサ2の取付角度に応じて生じる感度の低下分を補償する。続いて、ディスク制御部12から地図情報を、GPS受信部1からGPS情報を、車速センサ3から車速情報をそれぞれ取得する(ステップ2)。ステップ3において、ジャイロセンサ2から回転角情報を取得し、傾斜センサ20から傾斜角情報を取得する。次に、回転角補正部21の計算処理によりV/cosθを補正値として出力し、角度を補正する(ステップ4)。これにより、ジャイロセンサ2の傾斜角度に応じた感度低下分を補償する。ステップ5では自車位置を出力し、電源がオフとなるまでステップ2〜5をループし、自車位置の出力を繰り返す。
【0025】
〔3.効果〕
以上のような本実施形態によれば、ジャイロセンサ2が回転角を出力する際、加速度センサである傾斜センサ20により車両の傾斜角度θを求め、それに応じて回転角出力を補正することができる。このため、車両が傾いたまま左右に回転した場合でも、回転角出力の誤差を最小限に抑えることができる。このようなジャイロセンサ2をナビゲーション装置に組み込むことにより、車両の相対的な方位を正確に求めることができるので、自車位置を高い精度で検出することが可能である。したがって、立体交差や山道、あるいは高速道ランプといったカーブやアップダウンの多い道路状況であっても、走行中の車両の傾斜角度に左右されることなく、ジャイロセンサ2から常に正確な回転角出力を得ることができ、自車位置の検出精度が高いため、ナビゲーション装置による的確な経路誘導を実施することができる。
【0026】
〔4.他の実施形態〕
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、ジャイロセンサや傾斜センサの構成は適宜変更可能であり、例えば、傾斜角センサとして、重力加速度を含む加速度を計測するGセンサと、加速度のみを計測する加速度センサとを組み合わせたものを使用してもよい。また、本発明は周辺装置を備えたコンピュータをプログラムで制御することで実現されるが、この場合のハードウェアやプログラムの実現態様は各種変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るナビゲーション装置の構成を示す機能ブロック図。
【図2】本実施形態の原理を説明するための説明図。
【図3】本実施形態におけるフローチャート。
【図4】従来技術の原理を説明するための説明図。
【符号の説明】
【0028】
1…GPS受信部
2…ジャイロセンサ
3…車速センサ
4…メインCPU及びその周辺回路
M…メモリ群
5…ROM
6…DRAM
7…SRAM
8…VRAM
9…ユーザインタフェース部
10…表示部
11…入力部
12…ディスク制御部
13…FM多重受信及び処理部
14…外部記録装置制御部
20…傾斜角センサ
21…回転角補正部
22…取付角度補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の回転角を検出して前記移動体の方位を求めるジャイロセンサにおいて、
前記移動体の傾斜角を検出する傾斜角センサと、
前記傾斜角に基づいて前記回転角を補正する回転角補正手段とが設けられたことを特徴とするジャイロセンサ。
【請求項2】
前記傾斜角センサの検出した前記移動体の傾斜角がθ、補正前の回転角がVである時、前記回転角補正手段はV/cosθを補正値として出力するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のジャイロセンサ。
【請求項3】
前記傾斜角センサは加速度センサであることを特徴とする請求項1又は2に記載のジャイロセンサ。
【請求項4】
ジャイロセンサを用いて移動体の相対的な方位を検出し、これを現在位置の決定に利用するナビゲーション装置において、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の前記ジャイロセンサが構成要素として含まれたことを特徴とするナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−145398(P2006−145398A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336305(P2004−336305)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】