説明

スクロール圧縮機

【課題】スクロール圧縮機では、耐圧性確保の為ガラス絶縁端末を上部シェル中央部に配置するため、吐出管を中央部以外に配置する必要が生じるが、気液分離が不十分となり、潤滑油流失による冷凍性能低下、圧縮機内部での潤滑油不足等の問題が生じる。
【解決手段】冷凍サイクルとスクロール圧縮機を接続するための吐出管12の位置を、吐出マフラー40の内容積を構成する凸部の直上部以外で、圧縮機構部と密閉容器内壁の間に設ける冷媒連通路26の直上部近傍以外に設けることにより、冷媒ガスと潤滑油との気液分離性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機、冷凍機器等に使用される圧縮機であって、特に自然冷媒を用いる場合に圧縮室内部に高差圧が存在し、外郭を構成する高圧容器部分の設計が制限される場合においても冷凍サイクル中へ圧縮機内部の潤滑用冷凍機油が流出しないよう気液分離することができるスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の密閉型圧縮機においてはスクロール圧縮機構20の密閉性や摺動部の耐久性確保の観点から潤滑油をスクロール圧縮機構20に強制給油する方式が用いられているが、圧縮工程において冷媒ガスに潤滑油が混合されるため、スクロール圧縮機構20より吐出される冷媒ガスは潤滑油を随伴させ、密閉容器1に設けられる吐出管12を通り冷凍サイクルまで潤滑油を搬送することとなる。
【0003】
排出される潤滑油の大部分は冷凍サイクルを通って吸入工程から圧縮機へと戻されるため圧縮機の耐久性が極端に低下することはないが、一部の潤滑油については冷凍サイクルの凝縮器、蒸発器といった熱交換部分の配管内壁に付着し、配管内部圧力損失や熱交換率低下を引き起こすこととなる。
【0004】
そのため、従来からスクロール圧縮機構20より密閉容器1内に吐出した冷媒ガスが電動機を通ってそれを冷却しながら密閉容器1外に吐出されるまでの冷媒ガスの通路を、潤滑油の衝突分離や遠心分離が繰り返し生じるように設計して密閉容器1外に吐出される冷媒ガスに潤滑油が随伴しない工夫している。
【0005】
また、特許文献1が開示しているように軸受部や圧縮機構から電動機30への潤滑油の排出経路を、スクロール圧縮機構20からの吐出冷媒の電動機30への流路から独立して設け、排出潤滑油は電動機30の固定子32の上に滴下させた後伝い落ちにより下部の潤滑油溜め50に回収されるようにする一方、冷媒ガスは電動機30の片側に向け吐出して固定子32と密閉容器1との間の片側の通路を下降して電動機下部に至った後、固定子32と回転子33との間のエアギャップを上昇して密閉容器外に吐出する整然とした冷媒の流れを作って滴下し伝い落ちる潤滑油を随伴させにくい構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−189963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年の環境保護の観点より自然冷媒R744を用いたスクロール圧縮機が要望されてはじめており、圧縮機の信頼性確保の観点から従来よりも高粘度の潤滑油を用いているため、従来の構成では冷媒ガスとの気液分離効果が十分ではなく、また潤滑油が冷凍サイクル内へ流出すると冷凍サイクルのパイプ内壁に潤滑油が付着して冷凍性能を低下させる率が従来よりも大きく、また圧縮機へ潤滑油が戻りにくくなっているため圧縮機内部に存在する潤滑油の量が不十分となって機械損が増大し圧縮機の効率を低下させ、極端な場合には摺動部の焼き付きを起こす恐れもある等の不具合があった。
【0008】
また、圧縮機の構成としてはまず、密閉容器として自然冷媒の高圧に耐えるため外部電力と電動機の電線を連結するために設けるガラス絶縁端子は圧縮機の最も変形量を抑える
ことのできる上部中心位置に配置する必要があるため、冷媒ガスを冷凍サイクルへ吐出する吐出管についてはガラス絶縁端子から一定距離を置いた部分に配置せざるを得ない。
【0009】
しかしながら冷凍サイクルへの潤滑油流出と電動機冷却の観点から圧縮機構から吐出されるガスが、マフラーにより圧縮機構の下部に連通させる圧縮機構連通路、この圧縮機構連通路から回転子上部室に続く連絡路、回転子上部室と回転子下部室を連通させるように回転子に設けた回転子通路、回転子下部室、を順次経て電動機下に至り、さらに固定子の下部と上部とを連通させるように固定子または固定子と密閉容器との間に設けられた固定子通路を通って前記連絡路外まわりの固定子上部室に抜けた後、密閉容器の固定子上部室の位置以上の部分に設けられた圧縮機連通路を通り、圧縮機上部空間に至り吐出管から圧縮された冷媒ガスを吐出するような複雑な構成を持つ場合、その圧縮機後部外周に設けた圧縮機機構連通路の直上に吐出管が位置することとなり、十分な気液分離効果が得られない。
【0010】
一方で圧縮機構部より吐出された冷媒ガスの流路導入や消音のためのマフラーも配置する必要があるため、吐出管が配置される圧縮機上部空間にも圧縮された冷媒ガスが撹拌し気液分離を行えるような空間容積を設けることが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために圧縮機上部空間における吐出管配置部分に着目し、と出管配置位置を限定する。冷媒ガスが流れる連通路の直上以外で更に電動機回転方向の上流側に配置し且つマフラーの膨らみのない部分、すなわち図1であるような部分とすることにより、冷媒ガスが直接に吐出管へ流入せず、圧縮機上部空間にて冷媒ガスが撹拌され気液分離効果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスクロール圧縮機は実験測定上において約30%の潤滑油吐出量低減効果が得られ、排出される潤滑油量が0.6wt%以下になり冷凍サイクル性能についても従来と比較し1%程度の熱交換効率向上効果をもたらすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態における密閉型圧縮機の上面図
【図2】本発明の一実施の形態における密閉型圧縮機の断面図
【図3】本発明の一実施の形態における概略図
【図4】従来例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の発明は、密閉容器内にスクロール圧縮機構を持ち、この圧縮機構の下方に設けた圧縮機構を駆動するための電動機と、この電動機の回転力を圧縮機構部に伝達するためのクランク軸と、密閉容器内の下部に設けた潤滑油溜めからクランク軸を通じてクランク軸の軸受部や圧縮機構摺動部に供給する給油機構とを備える。
【0015】
さらに、圧縮機構部と密閉容器内壁の間に冷媒連通路を設け、圧縮ガスを圧縮機構部上部に配置したマフラーとマフラー内部に設けた連通孔にて一度圧縮機下部へと導き、電動機の冷却と冷媒ガスと潤滑油の気液分離を行い、さらに前記冷媒連通路を通して圧縮機上部空間へと導き、吐出管から冷凍サイクルへと排出する構成を有する。
【0016】
そして、自然冷媒の14MPa以上の高圧についても密閉容器の耐圧性を確保するために電動機と外部電源を接続するためのガラス絶縁端末を上部シェル中央部に配置し、吐出管を上部シェルの内壁近傍に配置せざるを得ない構成において、吐出管位置を前記マフラ
ーの内容積を構成する凸部の直上部以外に配置することにより、吐出管から冷凍サイクルに冷媒ガスと共に排出される潤滑油量を削減できる気液分離効果を発揮することができるものである。
【0017】
第2の発明は、特に第1の発明の吐出管位置を圧縮機構部と密閉容器内壁の間に設ける冷媒連通路の直上部近傍以外で、且つ圧縮機構部を駆動させる電動機の回転方向から上流側に対向する上部シェルに配置することにより、吐出管から冷凍サイクルに冷媒ガスと共に排出される潤滑油量を削減できる気液分離効果を発揮することができる。
【0018】
第3の発明は、特に第1および第2のスクロール圧縮機において、自然冷媒の高圧などの特性下においても圧縮機の耐久性を確保するために粘度が60m/S以上の潤滑油を用いているために気液分離が困難な圧縮機においても、吐出管から冷凍サイクルに冷媒ガスと共に排出される潤滑油量を削減できる気液分離効果を発揮することができる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態1)
図2はスクロール圧縮機の断面図である。スクロール圧縮機構20は固定スクロール部材21と旋回スクロール部材22が噛み合って三日月型の圧縮空間23を形成している。40は吐出マフラーであり、固定スクロール部材21の背面に密着して消音空間43を形成している。24は固定スクロール部材の径方向中心に設けられたスクロール吐出口であり、消音空間43に開口している。25は連通孔であり消音空間43と下側空間15を連通して冷媒ガスを消音空間43から下側空間15に導く。33は電動機30の回転子で軸方向に貫通する回転子貫通孔34と潤滑油セパレータ35を有している。32は電動機30の固定子で外周部に固定子貫通孔36を有している。26は圧縮機構外周部に設けた冷媒連通路で下側空間15と上側空間14とを連通している。
【0021】
ガラス絶縁端子13を介して電流が供給されて電動機30が回転し、スクロール圧縮機構20を駆動して吸入管11から吸入した冷媒ガスを圧縮すると同時に、密閉容器10底部の油溜り50から汲み上げられた潤滑油はクランクシャフト8により回転運動を与えられるトロコイドポンプ7により圧縮機下部から吸い上げられ、クランクシャフト8内部にある潤滑油供給用の貫通穴8aを通り旋回スクロール部材22の偏心軸受の内部空間22aへと導かれ、圧縮機構の摺動部を潤滑する。
【0022】
スクロール吐出口24から吐出された潤滑油を含んだ高圧冷媒ガスは消音空間43で一度拡張された後、狭い連通孔25を通ることによって圧力脈動が低減される。連通孔25を通った冷媒ガスはガイド28により電動機30の回転子33に導かれて回転子貫通孔34を通ったのち、潤滑油セパレータ35に衝突して冷媒ガスと潤滑油が分離される。
【0023】
分離された潤滑油は遠心力で電動機固定子巻き線のコイルエンドに飛ばされた後、自重で密閉容器10底部の油溜り50に向かって落下して行く。潤滑油と分離された冷媒ガスは電動機30の固定子32の外周部に設けられた固定子貫通孔を通って密閉容器10上方に向かい、さらに圧縮機構外周部に設けられた冷媒連通路26を通って上側空間14に達し、最終的に吐出管12から冷凍サイクルに出て行く。
【0024】
通常、このような構成において気液分離効果を発揮させるためには吐出管12の位置は密閉容器10を構成する上部シェル16の端部、すなわち冷媒連通路26の直上または消音の中心部分に配置する。これにより上側空間14において吐出管12に到達する前に十分な距離と空間が確保され、気液分離が行われる。
【0025】
しかしながら自然冷媒R744などでは耐圧性能が42MPa以上を求められるため、この部分には最も耐圧性に問題があるガラス絶縁端子13を配置せざるを得ない。そのため、吐出管12は上部シェル16の端部に配置されることとなり、冷媒連通路26や吐出マフラー40の直上に配置されてしまう。
【0026】
その場合には冷媒連通路26から上側空間14に達した冷媒ガスは気液分離されることなく直に吐出管12へ流入し、冷凍サイクルへと潤滑油を搬送してしまうため、オイル吐出量としては一般的なヒートポンプ式給湯機の夏期定格条件において1.0%を越える量となってしまう。
【0027】
そこで吐出管12の配置を検討した。図1は上側空間14を上側より俯瞰した図であるが、冷媒連通路26は大きく3箇所設けられている。電動機30の固定子32の電線31もこの冷媒連通路26より上側空間14に引き出され、ガラス絶縁端子13と結線されている。
【0028】
図3は図1のエリアを明確化したものである。電動機30の回転方向も併せて記載されている。従来はこの吐出管配置エリア41aは電線31と干渉しない位置に吐出管12を構成していたが、この部分は冷媒連通路26に両側から囲まれているため、オイル吐出量は実験の結果では1.0wt%程度であった。
【0029】
吐出管配置エリア41bは冷媒連通路26および吐出マフラー40の凸部分の影響を最も受ける部分であり、冷媒ガスの流入量が多く、且つ吐出マフラー40のため吐出管12から下部までの空間距離が微小なためにオイル吐出量は増加する傾向に有り、実験結果で1.1〜1.2wt%であった。
【0030】
また吐出管配置エリア41bの反時計側に吐出管を移動させるとオイル吐出量が増加したことより、電動機30の回転方向についても考慮する必要があることが判明している。
【0031】
そこで、吐出管配置エリア41cについては吐出マフラー40の凸部分に当たるためオイル吐出量は実験結果で1.1〜1.0wt%程度であった。
【0032】
そこで図にあるような吐出管配置エリア41dに配置することとした。この部分は電動機30の回転方向から考えると冷媒連通路26の上流側にあり、冷媒連通路26の直上でもなく、吐出マフラー40の凸部分の直上にも値しない部分である。
【0033】
電線31の結線時に作業性の問題で従来には考慮しにくい位置であったが、近年のセル生産方式導入等の環境変化により組立が可能となった。
【0034】
この部分に配置することによりオイル吐出量は0.6wt%程度まで低減することが可能となった。本スクロール圧縮機を本体にて実験評価した結果、従来の吐出管配置エリア41aに配置した圧縮機から吐出管配置エリア41dに配置した圧縮機へと変更するだけで一般的なヒートポンプ式給湯機に適用してAPF数値として1%程度の向上が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明にかかる密閉型スクロール圧縮機は、従来の圧縮機に対して吐出管の位置を限定することにより、気液分離効果を高め、冷凍サイクルへの冷媒ガスに含まれる潤滑油の吐出量を低減させることが可能となり、冷凍サイクルの熱交換効率向上に寄与することが可能となる圧縮機を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 密閉容器
7 トロコイドポンプ
8 クランクシャフト
8a 貫通穴
10 密閉容器
11 吸入管
12 吐出管
13 ガラス絶縁端子
14 上側空間
15 下側空間
16 上部シェル
20 スクロール圧縮機構
21 固定スクロール部材
22 旋回スクロール部材
22a 内部空間
23 圧縮空間
24 スクロール吐出口
25 連通孔
26 冷媒連通路
28 ガイド
30 電動機
31 電線
32 固定子
33 回転子
34 回転子貫通孔
35 潤滑油セパレータ
36 固定子貫通孔
40 吐出マフラー
41a 吐出管配置エリア
41b 吐出管配置エリア
41c 吐出管配置エリア
41d 吐出管配置エリア
43 消音空間
50 油溜り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内にスクロール式の圧縮機構を持ち、前記圧縮機構の下方に電動機と、前記電動機の回転力を圧縮機構に伝達するためのクランク軸と、前記密閉容器内の下部に設けた潤滑油溜めから前記クランク軸を通じて軸受部や前記圧縮機構の摺動部に給油する給油機構とを備え、前記圧縮機構と密閉容器内壁の間に冷媒ガスを通す冷媒連通路を設け、圧縮ガスを前記圧縮機構の上部に配置したマフラー内部に吐出した後、マフラー内部空間に開口する連通孔にて圧縮機構下部へと導き、電動機の冷却と気液分離を行い、さらに前記冷媒連通路を通して圧縮機構上部空間へと導き、吐出管から冷凍サイクルへと排出し、ガラス絶縁端末を圧縮機上シェル中心部分に配置し、前記吐出管位置を前記マフラーの内容積を構成する凸部の直上部以外に対抗する上シェルに配置したスクロール圧縮機。
【請求項2】
吐出管位置を圧縮機構部と密閉容器内壁の間に設ける冷媒ガス連通路の直上部近傍以外に配置した請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
粘度が60m/S以上の潤滑油を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−247095(P2011−247095A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118004(P2010−118004)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】