説明

ステアリングコラム用支持装置

【課題】二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングを容易にできて、運転者保護の充実を図れる構造を実現する。
【解決手段】ステアリングコラムと共に前方に変位するコラム側ブラケット12bに固定した係止カプセル47を、車体側ブラケット11の中央部に形成した係止切り欠き45に、二次衝突時の衝撃荷重により前方に離脱可能に設置する。係止カプセル47の下面とコラム側ブラケット12bの上面とを直接当接させた状態で、これら両部材11、12b同士を結合固定する。この構成により、二次衝突時に加わる衝撃荷重の作用線と、両ブラケット12b、11同士の結合部との距離を短くできる。そして、二次衝突時にこの結合部に作用する摩擦力が、モーメントに基づいて過大になる事を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、衝突事故の際に運転者の身体からステアリングホイールに加わった衝撃エネルギを吸収しつつ、このステアリングホイールの前方への変位を可能とすべく、ステアリングコラムを車体に対し前方への変位を可能に支持する為の、ステアリングコラム用支持装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ステアリング装置は、図5に示す様に構成して、ステアリングホイール1の回転をステアリングギヤユニット2の入力軸3に伝達し、この入力軸3の回転に伴って左右1対のタイロッド4、4を押し引きして、前車輪に舵角を付与する様にしている。前記ステアリングホイール1は、ステアリングシャフト5の後端部に支持固定されており、このステアリングシャフト5は、円筒状のステアリングコラム6を軸方向に挿通した状態で、このステアリングコラム6に回転自在に支持されている。又、前記ステアリングシャフト5の前端部は、自在継手7を介して中間シャフト8の後端部に接続し、この中間シャフト8の前端部を、別の自在継手9を介して、前記入力軸3に接続している。尚、前記中間シャフト8は、トルクを伝達可能に、且つ、衝撃荷重により全長を収縮可能に構成している。そして、衝突事故の際(次述する一次衝突の際)に、前記ステアリングギヤユニット2の後方への変位に拘らず、前記ステアリングシャフト5を介して前記ステアリングホイール1が後方に向けて変位する(運転者の身体に向けて突き上げられる)事を防止できる様に構成している。
【0003】
上述の様な自動車用ステアリング装置は、衝突事故の際に、衝撃エネルギを吸収しつつ、ステアリングホイールを前方に変位させる構造にする事が、運転者の保護の為には必要である。即ち、衝突事故の際には、自動車が他の自動車等にぶつかる一次衝突に続いて、運転者の身体がステアリングホイール1に衝突する二次衝突が発生する。この二次衝突の際に、運転者の身体に加わる衝撃を緩和して、運転者の保護を図る為に、前記ステアリングホイール1を支持したステアリングコラム6を車体に対して、二次衝突に伴う前方への衝撃荷重により前方に離脱可能に支持すると共に、前記ステアリングコラム6と共に前方に変位する部分と車体との間に、塑性変形する事で前記衝撃荷重を吸収するエネルギ吸収部材を設ける事が、例えば特許文献1〜2に記載される等により従来から知られており、且つ、広く実施されている。
【0004】
図6〜7は、従前のステアリング装置の1例を示している。ステアリングコラム6aの前端部に、電動式パワーステアリング装置を構成する減速機等を収納するハウジング10を固定している。又、前記ステアリングコラム6aの内側にステアリングシャフト5aを、回転のみ自在に支持しており、このステアリングシャフト5aの後端部で前記ステアリングコラム6aの後端開口から突出した部分に、ステアリングホイール1(図5参照)を固定自在としている。そして、前記ステアリングコラム6a及びハウジング10を、車体に固定された部分である車体側ブラケット11(本発明の実施の形態の1例を示す、図1〜4参照)に対し、前方に向いた衝撃荷重に基づいて前方への離脱を可能に支持している。
【0005】
この為に、前記ステアリングコラム6aの中間部に支持したコラム側ブラケット12と、前記ハウジング10に支持したハウジング側ブラケット13とを、何れも前方に向いた衝撃荷重により前方に離脱する様に、車体に対し支持している。前記両ブラケット12、13は何れも、左右1対の取付板部14a、14bを備え、これら各取付板部14a、14bに、それぞれ後端縁側に開口する切り欠き15a、15bを形成している。そして、これら各切り欠き15a、15bを覆う状態で前記両ブラケット12、13の左右両端寄り部分に、それぞれ滑り板16a、16bを組み付けている。
【0006】
これら各滑り板16a、16bはそれぞれ、表面に、例えばポリアミド樹脂(ナイロン)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)等の滑り易い合成樹脂製の層を形成した、炭素鋼板、ステンレス鋼板等の金属薄板を曲げ形成する事により、上下両板部の後端縁同士を連結板部により連結した、大略コ字形としている。そして、それぞれの上下両板部の互いに整合する部分に、ボルト若しくはスタッドを挿通する為の通孔を形成している。前記各滑り板16a、16bを前記各取付板部14a、14bに装着した状態で、前記各通孔は、それぞれこれら各取付板部14a、14bに形成した、前記各切り欠き15a、15bに整合する。
【0007】
前記両ブラケット12、13は、前記各取付板部14a、14bの切り欠き15a、15b及び前記各滑り板16a、16bの通孔を挿通した、ボルト若しくはスタッドとナットとを螺合し更に締め付ける事により、前記車体側ブラケット11に支持する。二次衝突時には前記ボルト若しくはスタッドが、前記各滑り板16a、16bと共に前記各切り欠き15a、15bから抜け出して、前記ステアリングコラム6a及び前記ハウジング10が、前記両ブラケット11、12及びステアリングホイール1と共に前方に変位する事を許容する。
【0008】
又、図示の例の場合には、前記ボルト若しくはスタッドと前記コラム側ブラケット12との間にエネルギ吸収部材17、17を設けている。そして、このコラム側ブラケット12が前方に変位するのに伴ってこれらエネルギ吸収部材17、17を塑性変形させ、前記ステアリングホイール1から、前記ステアリングシャフト5a及び前記ステアリングコラム6aを介して前記コラム側ブラケット12に伝わった衝撃エネルギを吸収する様にしている。
【0009】
二次衝突時には、図8に示す様に、前記両ボルト若しくはスタッドが前記両切り欠き15a、15aから抜け出して、前記コラム側ブラケット12が前方に変位する事を許容する。そして、前記ステアリングコラム6aが、このコラム側ブラケット12と共に前方に変位する。この際、前記ハウジング側ブラケット13に関しても、前記車体から離脱し、このハウジング側ブラケット13が前方に変位する事を許容する。そして、前記コラム側ブラケット12の前方への変位に伴って、前記両エネルギ吸収部材17、17が塑性変形する。そして、運転者の身体から、ステアリングシャフト5a及び前記ステアリングコラム6aを介して前記コラム側ブラケット12に伝わった衝撃エネルギを吸収し、前記運転者の身体に加わる衝撃を緩和する。
【0010】
上述の図6〜8に示した従前の構造の場合、前記コラム側ブラケット12を左右両側2箇所位置で前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に前方への離脱を可能に支持している。従って、二次衝突時には、左右1対の支持部の係合を同時に外れさせる事が、前記ステアリングホイール1を前方に、安定して(二次衝突発生の瞬間の状態のまま傾斜させずに)変位させる面から重要になる。一方、前記両支持部の係合を同時に外れさせる為のチューニングは、これら両支持部を外れさせる事に対する抵抗(摩擦抵抗、剪断抵抗等)や、前記ステアリングコラム6aと共に前方に変位する部分の慣性質量に関する左右のアンバランス等の影響がある為、手間の掛かる作業となる。
【0011】
この様な問題を解決して、二次衝突時にステアリングコラムの前方への離脱を安定させる事に関しては、特許文献1に記載された構造を採用する事が効果がある。図9〜11は、この特許文献1に記載された従来構造を示している。この従来構造の場合には、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事のない車体側ブラケット11aの幅方向中央部に係止切り欠き18を、この車体側ブラケット11aの前端縁側が開口する状態で形成している。又、ステアリングコラム6b側にコラム側ブラケット12aを支持固定して、二次衝突時にこのコラム側ブラケット12aを、前記ステアリングコラム6bと共に前方に変位可能としている。
【0012】
更に、このコラム側ブラケット12aに固定した係止カプセル19の左右両端部を、前記係止切り欠き18に係止している。即ち、この係止カプセル19の左右両側面にそれぞれ形成した係止溝20、20を、前記係止切り欠き18の左右両側縁部に係合させている。前記車体側ブラケット11aと係止カプセル19とは、前記両係止溝20、20と前記切り欠き19の両側縁部とを係合させた状態で、これら両部材11a、20の互いに整合する部分に形成した係止孔21a、21bに係止ピン22、22(図11にのみ図示)を圧入する事で結合する。これら各係止ピン22、22は、アルミニウム系合金、合成樹脂等の、二次衝突時に加わる衝撃荷重で裂断する、比較的軟質の材料により造っている。
【0013】
二次衝突時に、前記ステアリングコラム6bから前記コラム側ブラケット12aを介して、前記係止カプセル19に、前方に向いた衝撃荷重が加わると、前記各係止ピン22、22が裂断する。そして、前記係止カプセル19が前記係止切り欠き18から前方に抜け出して、前記ステアリングコラム6b(及びステアリングシャフトを介してこのステアリングコラム6bに支持されたステアリングホイール)が前方に変位する事を許容する。
【0014】
上述の図9〜11に示した従来構造の場合、前記コラム側ブラケット12aに固定した係止カプセル19と前記車体側ブラケット11aとの係合部が、幅方向中央部の1個所のみである。この為、二次衝突時にこの係合部を外し、前記ステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易になる。但し、前記係止カプセル19の形状に起因して、次の様な問題がある。
【0015】
先ず、前記係止カプセル19を前記係止切り欠き18から前方に向け円滑に抜け出させて、二次衝突発生の瞬間に前記係止カプセル19を固定した前記ステアリングコラム6bが前方に変位し始める為に要する荷重である離脱開始荷重を、必ずしも十分に低減できない。この理由は、衝撃荷重が作用する位置である、前記ステアリングコラム6bの中心軸と、二次衝突時に離脱する部分である、前記車体側ブラケット11aの係止切り欠き18と前記係止カプセル19の係止溝20、20との係合部との距離Lが長い事による。即ち、二次衝突発生の瞬間に、この距離Lに比例したモーメントが、前記両係止溝20、20と前記係止切り欠き18の左右両側縁との係合部に作用する。そして、この係合部に上述の様なモーメントが作用すると、この係合部をこじる様な力が作用し、この係合部の摩擦傾向が大きくなる。この事は、前記離脱開始荷重を小さく抑え、運転者の保護充実を図る面から不利になる。
【0016】
又、前記距離Lが長い事は、前記係止カプセル19を設置した部分の組み立て高さの増大に繋がり、ステアリングコラム用支持装置の小型・軽量化を図る面からも不利になる。
更には、前記係止カプセル19は、左右両側面の厚さ方向中央部に係止溝20、20を設けた形状を有する為、この係止カプセル19を合成樹脂製とする場合でも、或いは金属製とする場合でも、加工コストが嵩む。例えば、合成樹脂製とする場合には射出成形型が複雑になり、金属製とする場合には、単純な鍛造加工により造る事が難しくなる。
【0017】
尚、後述する本発明を実施する場合に関連する技術を記載した刊行物として、特許文献3〜5が存在する。このうちの特許文献3には、二次衝突時にステアリングホイールに衝突した運転者の身体に加わる衝撃を緩和する為、ステアリングホイールと共にステアリングコラムが前方に変位するのに伴って塑性変形する、エネルギ吸収部材が記載されている。又、特許文献4、5には、ステアリングホイールの位置調節可能な構造で、このステアリングホイールを調節後の位置に保持する保持力を大きくする為、複数枚の摩擦板を重ね合わせて摩擦面積を増大させる構造が記載されている。但し、これら特許文献3〜5にも、前記離脱開始荷重を小さく抑える為の技術は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】実開昭51−121929号公報
【特許文献2】特開2005−219641号公報
【特許文献3】特開2000−6821号公報
【特許文献4】特開2007−69821号公報
【特許文献5】特開2008−100597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、しかも、離脱開始荷重を小さく抑え、運転者の保護充実を図れる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のステアリングコラム用支持装置は、前述の図9〜11に示した従来構造と同様に、車体側ブラケットと、係止切り欠きと、コラム側ブラケットと、係止カプセルとを備える。
このうちの車体側ブラケットは、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事がない。
又、前記係止切り欠きは、前記車体側ブラケットの幅方向中央部に形成されたもので、この車体側ブラケットの前端縁側が開口している。
又、前記コラム側ブラケットは、ステアリングコラム側に支持されて、二次衝突時にこのステアリングコラムと共に前方に変位する。
更に、前記係止カプセルは、前記コラム側ブラケットに固定された状態で、両端部を前記係止切り欠きに係止すると共に、上端両側部をこの係止切り欠きの両側部分で前記車体側ブラケットの上側に位置させている。
そして、前記係止カプセルと前記車体側ブラケットとを、前記二次衝突時に加わる衝撃荷重に基づいて裂断する結合部材で結合する事により、前記コラム側ブラケットを前記車体側ブラケットに対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により前方への離脱を可能に支持している。
【0021】
特に、本発明のステアリングコラム用支持装置に於いては、前記係止カプセルとして、前記係止切り欠きの幅寸法以下の幅寸法を有する下半部と、この係止切り欠きの幅寸法よりも大きな幅寸法を有する上半部とから成り、この上半部の幅方向両端部で前記下半部の幅方向両側面よりも幅方向両側に突出した部分を鍔部としたものを使用する。又、この鍔部と、前記車体側ブラケットの一部で前記係止切り欠きを幅方向両側から挟む位置とで互いに整合する位置に、それぞれ小通孔を形成する。
そして、前記係止カプセルの下面を前記コラム側ブラケットの上面に直接当接させると共に、前記鍔部の下面と前記コラム側ブラケットの上面との間で、前記車体側ブラケットの一部で前記係止切り欠きの両側部分を挟持する。
更に、この状態で、前記鍔部に形成した小通孔と前記車体側ブラケットの一部に形成した小通孔とに、前記二次衝突に伴って裂断する材料製の結合部材を掛け渡す。
【0022】
上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記各結合部材を、前記各小通孔内に溶融樹脂を注入するインジェクション成形により造られた、合成樹脂製の係止ピンとする。
そして、これら各係止ピンを構成する合成樹脂の一部を、前記車体側ブラケットの上下両面と、前記コラム側ブラケットの上面及び前記鍔部の下面との間に存在する隙間のうちの少なくとも一方の微小隙間に進入させて、これら各面同士の間に存在する微小隙間に基づくがたつきを防止する。
【0023】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記係止切り欠きの前後方向に関する長さを、前記係止カプセルの同方向の長さよりも大きくして、前記二次衝突時に前記ステアリングコラムと共にこの係止カプセルが前方に変位した状態でも、この係止カプセルの少なくとも一部を前記車体側ブラケットの前端部の上側に位置させて、この係止カプセルが落下するのを防止する。
【発明の効果】
【0024】
上述の様に構成する本発明のステアリングコラム用支持装置によれば、二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、且つ、離脱開始荷重を小さく抑え、更に、部品の製造コストの低減と小型・軽量化とを図れる。
先ず、二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングの容易化は、車体側ブラケットと係止カプセルとを、この車体側ブラケットの幅方向中央部のみで係合させる事により図れる。
【0025】
特に本発明の場合には、前記係止カプセルの下面をコラム側ブラケットの上面に当接させると共に、この係止カプセルの鍔部の下面と前記コラム側ブラケットの上面と間で、車体側ブラケットの一部を挟持している為、これら両ブラケット同士の結合部と、ステアリングコラムの中心軸との距離を短くできる。この為、二次衝突時にこの結合部に加わるモーメントを小さく抑えて、前記車体側ブラケットの上下両面と、前記鍔部の下面及び前記コラム側ブラケットの上面との間に作用する摩擦力が過大になる事を抑えられる。この結果、前記ステアリングコラムが前方に変位し始める為に要する荷重である離脱開始荷重を十分に低減できる。
【0026】
又、前記係止カプセルの形状を単純にできるので、この係止カプセルの小型・軽量化を図ると共に、製造コストを低減し、この係止カプセルを組み込んだステアリングコラム用支持装置の小型・軽量化並びにコスト低減を図れる。
又、請求項2に記載した発明によれば、前記車体側ブラケットに対する前記コラム側ブラケットのがたつきを防止して、このコラム側ブラケットに、ステアリングコラムを介して支持されたステアリングシャフトのがたつきを抑えられる。そして、ステアリング装置部分で、不快な異音や振動が発生する事を防止したり、前記ステアリングシャフトの後端部に支持固定したステアリングホイールの操作感を良好にできる。
【0027】
更に、請求項3に記載した発明によれば、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイールが上下方向に過度に変位する事を防止できる。即ち、係止切り欠きの前後方向に関する長さを前記係止カプセルの同方向の長さよりも十分に大きくし、この係止カプセルが前記係止切り欠きから前方に抜け出さない様にすると、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングコラムの支持力を確保して、このステアリングコラムに支持されたステアリングホイールが、過度に下降する事を防止できる。そして、事故後も、事故の程度によっては、このステアリングホイールの操作を行い易くして、例えば、事故車両が自走可能である場合に、この事故車両を事故現場から路肩まで自走移動させる際の運転を行い易くできる。又、自走不能である場合も、路肩まで押し動かす作業を容易に行える可能性を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態の1例を、後上方から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じく、一部を省略して後方から見た状態で示す正投影図。
【図3】同じく、図2の上方から見た状態で示す平面図。
【図4】図3のX−X断面図。
【図5】従来から知られているステアリング装置の1例を示す、部分切断側面図。
【図6】従前のステアリングコラム用支持装置の1例を、通常時の状態で示す平面図。
【図7】同じく側面図。
【図8】従前のステアリングコラム用支持装置の1例に関して、二次衝突に伴ってステアリングコラムが少し傾いた状態を示す側面図。
【図9】従来構造の1例を示す、ステアリングコラムの中心軸に対し直交する方向に存在する仮想平面に関する断面図。
【図10】同じく、車体側ブラケットとコラム側ブラケットとを結合する以前の状態で示す斜視図。
【図11】同じく、ステアリングコラムを省略する代わりに結合ピンを記載した状態で示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1〜4は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例は、ステアリングホイール1(図5参照)の上下位置を調節する為のチルト機構と、同じく前後位置を調節する為のテレスコピック機構との両方を備えた、チルト・テレスコピック式ステアリング装置に本発明を適用した場合に就いて示している。このうちのテレスコピック機構を構成する為に、ステアリングコラム6cを、前側のインナコラム22の後部を後側のアウタコラム23の前部に内嵌して全長を伸縮可能とした、テレスコープ状のものを使用している。そして、前記ステアリングコラム6cの内径側にステアリングシャフト5bを、回転自在に支持している。
【0030】
前記ステアリングシャフト5bは、前側に配置した円杆状のインナシャフトの後部に設けた雄スプライン部と、後側に配置した円管状のアウタシャフト24の前部に設けた雌スプライン部とをスプライン係合させる事により、トルクの伝達を可能に、且つ、伸縮を可能に構成している。前記アウタシャフト24は、後端部を前記アウタコラム23の後端開口よりも後方に突出させた状態でこのアウタコラム23の内径側に、単列深溝型の玉軸受25等、ラジアル荷重及びスラスト荷重を支承可能な軸受により、回転のみ可能に支持している。前記ステアリングホイール1は、前記アウタシャフト24の後端部に支持固定する。このステアリングホイール1の前後位置を調節する際には、このアウタシャフト24と共に前記アウタコラム23が前後方向に変位し、前記ステアリングシャフト5b及び前記ステアリングコラム6cが伸縮する。
【0031】
又、このステアリングコラム6c(を構成する前記インナコラム22)の前端部に、電動式パワーステアリング装置を構成する減速機等を収納する為のハウジング10aを、結合固定している。このハウジング10aの上面には、前記電動式パワーステアリング装置の補助動力源となる電動モータ26と、この電動モータ26への通電を制御する為の制御器27とを支持固定している。そして、前記チルト機構を構成する為に、前記ハウジング10aを車体に対し、横軸を中心とする揺動変位を可能に支持している。この為に本例の場合には、前記ハウジング10aの上部前端に支持筒28を、左右方向に設けている。そして、この支持筒28の中心孔29に挿通したボルト等の横軸により、前記ステアリングコラム6cの前端部を前記車体に対し、このステアリングコラム6cの後部を昇降させる方向の揺動変位を可能に支持する構成を採用している。
【0032】
又、前記ステアリングコラム6cの中間部乃至後部を構成する、前記アウタコラム23の前半部の内径を、弾性的に拡縮可能としている。この為に、このアウタコラム23の下面にスリット30を、軸方向に形成している。このスリット30の前端部は、このアウタコラム23の前端縁、又は、このアウタコラム23の前端寄り部分の上端部を除いた部分に形成した周方向透孔に開口させている。又、前記スリット30を幅方向両側から挟む部分に、それぞれが厚肉平板状の1対の被支持板部31、31を設けている。これら両被支持板部31、31が、前記ステアリングホイール1の位置調節時に、前記アウタコラム23と共に変位する、変位側ブラケットとして機能する。
【0033】
本例の場合、前記両被支持板部31、31をコラム側ブラケット12bに対し、上下位置及び前後位置の調節を可能に支持している。このコラム側ブラケット12bは、通常時には車体に対し支持されているが、衝突事故の際には、二次衝突の衝撃に基づいて、前方に離脱し、前記アウタコラム23の前方への変位を許容する様にしている。この為に、前記コラム側ブラケット12bを車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により、前方への離脱を可能に支持している。
【0034】
前記ステアリングホイール1が調節後の位置に保持されている状態で、前記両被支持板部31、31は、前記コラム側ブラケット12bを構成する左右1対の支持板部32、32により強く挟持されている。これら両支持板部32、32には、前記支持筒28を車体に対し支持した横軸を中心とする部分円弧形の上下方向長孔33を、前記両被支持板部31、31には、前記アウタコラム23の軸方向に長い前後方向長孔34を、それぞれ形成している。そして、これら各長孔33、34に調節ロッド35を挿通している。この調節ロッド35の基端部(図2の右端部)に設けた頭部36は、一方(図2の右方)の支持板部32に形成した上下方向長孔に、この上下方向長孔に沿った変位のみを可能に(回転を阻止した状態で)係合させている。これに対して、前記調節ロッド35の先端部(図2の左端部)に螺着したナット37と他方(図2の左方)の支持板部32の外側面との間に、駆動側カム40と被駆動側カム41とから成るカム装置42を設けている。そして、このうちの駆動側カム40を、調節レバー43により回転駆動可能としている。
【0035】
前記ステアリングホイール1の位置調節を行う際には、前記調節レバー43を所定方向(下方)に回動させる事により前記駆動側カム40を回転駆動し、前記カム装置42の軸方向寸法を縮める。そして、前記被駆動側カム41と前記頭部36との、互いに対向する内側面同士の間隔を拡げ、前記両支持板部32、32が前記両被支持板部31、31を抑え付けている力を開放する。同時に、前記アウタコラム23の前部で前記インナコラム22の後部を内嵌した部分の内径を弾性的に拡げ、これらアウタコラム23の前部内周面とインナコラム22の後部外周面との当接部に作用している面圧を低下させる。この状態で、前記調節ロッド35が前記上下方向長孔33と前記前後方向長孔34との間で変位できる範囲で、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置を調節できる。
【0036】
このステアリングホイール1を所望位置に移動させた後、前記調節レバー43を前記所定方向とは逆方向(上方)に回動させる事により、前記カム装置42の軸方向寸法を拡げる。これにより、前記被駆動側カム41と前記頭部36との、互いに対向する内側面同士の間隔を縮め、前記両支持板部32、32により前記両被支持板部31、31を強く抑え付ける。同時に、前記アウタコラム23の前部で前記インナコラム22の後部を内嵌した部分の内径を弾性的に縮め、これらアウタコラム23の前部内周面とインナコラム22の後部外周面との当接部に作用している面圧を高くする。この状態で、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置が調節後の位置に保持される。
【0037】
尚、本例の場合には、前記ステアリングホイール1を調節後の位置に保持する為の保持力を高くする為に、前記両支持板部32、32の内側面と前記両被支持板部31、31の外側面との間に、それぞれ摩擦板ユニット44、44を挟持している。これら両摩擦板ユニット44、44は、前記上下方向長孔33と整合する長孔を形成した1乃至複数枚の第一摩擦板と、前記前後方向長孔と整合する長孔を形成した1乃至複数枚の第二摩擦板とを交互に重ね合わせたもので、摩擦面積を増大させ、前記保持力を高くする役目を有する。この様な摩擦板ユニット44、44の具体的な構造及び作用に就いては、例えば特許文献4、5に記載される等により従来から知られており、本発明の要旨とも関係しないので、詳しい図示並びに説明は省略する。
【0038】
更に、前記コラム側ブラケット12bは、前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突の衝撃荷重により前方に離脱はするが、二次衝突が進行した状態でも、落下しない様に支持している。前記車体側ブラケット11は、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事がないもので、鋼板等の十分な強度及び剛性を有する金属板に、プレスによる打ち抜き加工及び曲げ加工を施す事により造っている。この様な車体側ブラケット11は、両側縁部及び後端縁部を下方に折り曲げる事により曲げ剛性を向上させ、幅方向中央部に前端縁側が開口した係止切り欠き45を、後部のこの係止切り欠き45を左右両側から挟む位置に1対の取付孔46、46を、それぞれ形成している。前記係止切り欠き45は、次述する係止カプセル47により覆われた、前記車体側ブラケット11の後端部近傍まで形成している。この様な前記車体側ブラケット11は、これら両取付孔46、46を挿通したボルト或いはスタッドにより、車体に対し支持固定される。
【0039】
上述の様な車体側ブラケット11に対して前記コラム側ブラケット12bを、係止カプセル47を介して、二次衝突時に前方への離脱を可能に結合している。この係止カプセル47は、アルミニウム軽合金、低炭素鋼等の金属材料に、鍛造等の塑性加工を施す事により、或いは、アルミニウム系合金、マグネシウム系合金等の軽合金をダイキャスト成形する事により、更には、ポリアセタール等の高強度の高機能樹脂を射出成形する事により、一体に造っている。そして、左右方向に関する幅寸法、並びに、前後方向に関する長さ寸法を、下半部に比べ上半部で大きくして、前記係止カプセル47の左右両側面及び後側面の上半部に、両側方及び後方に突出する鍔部48を設けている。この様な係止カプセル47は、下半部を前記係止切り欠き45に係合(内嵌)した状態で、前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重に基づいて前方への離脱を可能に支持している。この為に、前記鍔部48と、前記車体側ブラケット11の一部で前記係止切り欠き45の周縁部との、互いに整合する複数箇所(図示の例では8箇所ずつ)に、それぞれ小通孔49a、49bを形成している。そして、これら各小通孔49a、49b同士の間に、それぞれ係止ピン50、50を掛け渡している。
【0040】
これら各係止ピン50、50は、前記各小通孔49a、49bを整合させた状態でこれら各小通孔49a、49b内に合成樹脂を注入する(インジェクション成形する)事により、或いは、予め円柱状に成形した、合成樹脂製或いは軽合金製の素ピンを前記各小通孔49a、49a内に圧入する(軸方向に大きな力で押し込む)事により、前記各小通孔49a、49b同士の間に掛け渡す。何れの場合でも、前記各係止ピン50、50を構成する合成樹脂材料或いは軽合金材料の一部が、前記車体側ブラケット11の上下両面と、相手面である、前記鍔部48の下面及び前記コラム側ブラケット12bの上面との間に入り込む。そして、これら各面同士の間に存在する微小隙間に拘らず、前記車体側ブラケット11に対する前記コラム側ブラケット12bの取付部のがたつきを解消する。従って、前記各隙間を確実に塞ぎ、このがたつきを確実に解消する為には、前記各係止ピン50、50を、合成樹脂の射出成形(インジェクション成形)により形成する事が好ましい。尚、前記車体側ブラケット11の上下両面と、相手面である、前記鍔部48の下面又は前記コラム側ブラケット12bの上面との間に存在し、前記合成樹脂材料或いは軽合金材料の一部を進入させる隙間は、少なくとも一方の隙間であれば良い。即ち、前記車体側ブラケット11の上下両面のうちの一方の面と相手面とを当接させて、他方の面と相手面との間の隙間にのみ、前記合成樹脂材料或いは軽合金材料の一部を進入させても良い。又、図4には、明りょう化の為に、前記がたつきの原因となる隙間の高さを、実際よりも大きく描いている。
【0041】
前記各係止ピン50、50をインジェクション成形する場合には、溶融樹脂が前記各面同士の間の微小隙間に入り込んで冷却固化し、前記がたつきを解消する。これに対して、素ピンを圧入する場合には、この素ピンに加わる軸方向の力に基づいて、この素ピンの軸方向中間部で前記各隙間に対応する部分が径方向外方に拡がり、これら各隙間の存在に基づくがたつきを解消する。何れにしても、前記各小通孔49a、49b同士の間に前記各係止ピン50、50を掛け渡す事により、前記係止カプセル47を前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により前方への離脱を可能に支持する。
【0042】
上述の様な係止カプセル47は前記コラム側ブラケット12bに対し、複数本(図示の例では3本)のボルト51、51とナット52、52とにより、前記衝撃荷重に拘らず非分離な状態で、結合固定している。即ち、前記係止カプセル47及び前記コラム側ブラケット12bの互いに整合する位置に形成した通孔を下方から挿通した、前記各ボルト51、51の先端部(上端部)で前記係止カプセル47の上面から突出した部分に、前記各ナット52、52を螺合し更に締め付ける事で、前記係止カプセル47と前記コラム側ブラケット12bとを結合固定している。従って、二次衝突時に前記アウタコラム23からこのコラム側ブラケット12bに伝わった前記衝撃荷重は、そのまま前記係止カプセル47に伝わり、前記各係止ピン50、50の裂断に伴ってこの係止カプセル47が前方に変位するのと同期して、前記アウタコラム23も前方に変位する。
【0043】
この様に、二次衝突時にこのアウタコラム6cと共に前方に変位する、前記係止カプセル47を係止した、前記係止切り欠き45の前後方向に関する長さL45は、この係止カプセル47の同方向の長さL47よりも十分に大きい(L45≫L47)。本例の場合には、前記係止切り欠き45の長さL45を、前記係止カプセル47の長さL47の2倍以上(L45≧2L47)確保している。そして、二次衝突時に前記アウタコラム23と共に前記係止カプセル47が前方に変位し切った(ステアリングホイール1から加わった衝撃荷重では、それ以上前方に変位しなくなった)状態でも、この係止カプセル47を構成する前記鍔部48の少なくとも後端部で、前記ステアリングコラム6c及び前記コラム側ブラケット12b等の重量を支承可能な部分が、前記係止切り欠き45から抜け出ない様にしている。即ち、二次衝突が進行した状態でも、前記係止カプセル47の上半部の幅方向両側部分に形成した前記鍔部48のうちの後端部が、前記車体側ブラケット11の前端部の上側に位置して、前記係止カプセル47が落下するのを防止できる様にしている。
【0044】
上述の様に構成する本例のステアリングコラム用支持装置によれば、二次衝突時に前記ステアリングホイール1を前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、しかも、この変位を開始させる為に要する離脱開始荷重を十分に安定させる事ができる。更には、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイール1が過度に下方に変位する事を防止できる。
【0045】
先ず、二次衝突時にステアリングホイール1を前方に安定して変位させる為のチューニングの容易化は、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル47とを、この車体側ブケット11の幅方向中央部のみで係合させる事により図れる。即ち、前記単一の係止カプセル47を、前記アウタコラム23の直上部分に配置している為、二次衝突時に前記ステアリングホイール1から前記アウタシャフト24及び前記アウタコラム23を通じて前記係止カプセル47に伝わった衝撃荷重が、この係止カプセル47と前記車体側ブラケット11とを結合している、前記各係止ピン50、50に、ほぼ均等に加わる。要するに、前記衝撃荷重は、ほぼ前記係止カプセル47の中央部に、前記アウタコラム23の軸方向に作用する。そして、この単一の係止カプセル47が、前記係止切り欠き45から前方に抜け出る方向の力が加わる。この為、この係止カプセル47と前記車体側ブラケット11とを結合している前記各係止ピン50、50が、実質的に同時に裂断する。この結果、前記コラム側ブラケット12b等を介して前記係止カプセル47と結合された前記アウタコラム23の前方への変位が、中心軸を過度に傾斜させたりする事無く、安定して行われる。
【0046】
特に、本例の構造の場合には、前記係止カプセル47の形状を工夫して、前記車体側ブラケット11の下面と前記コラム側ブラケット12bの上面とを、前記微小隙間の存在を除き、実質的に直接当接させている。この為、これら両ブラケット11、12b同士の結合部と、前記アウタコラム23の中心軸との距離を短くできる。例えば、前述の図9に示した従来構造と比較した場合、係止カプセル19、47以外の部分の構造及び寸法を同じにしたと仮定した場合でも、係止カプセル19のうちで係止溝20、20よりも下側部分の厚さt(図9参照)分だけ、前記距離を短く(L−tに)できる。この為、前記二次衝突が開始する瞬間に、前記車体側ブラケット11の上下両面と、前記コラム側ブラケット12bの上面及び前記鍔部48の下面との当接部の面圧を高くする方向に加わるモーメントを低く抑えられる。この為、離脱開始荷重をより低く抑えて、二次衝突時に於ける運転者の保護を、より充実させる事ができる。
【0047】
尚、本例の場合には、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置を調節する為のチルト・テレスコピック機構を設けると共に、このステアリングホイール1を調節後の位置に保持する保持力を高める為の摩擦板ユニット44、44を設置している。これらチルト・テレスコピック機構や摩擦板ユニット44、44を設ける事は、製作誤差の蓄積等により、二次衝突時の離脱荷重のばらつきを大きくする原因となり易いが、本例の場合には、前記単一の係止カプセル47と前記車体側ブラケット11との係合により、前記離脱荷重のばらつきを抑えられる。この結果、二次衝突時に前記ステアリングホイール1に衝突した運転者の身体に加わる衝撃を緩和する為のチューニングを適正に行って、この運転者の保護充実を図り易くなる。又、二次衝突時にも変位しない部分(例えば車体側ブラケット11)と、二次衝突に伴って前方に変位する部分(例えばアウタコラム23)との間には、この前方への変位に伴って塑性変形しつつ衝撃エネルギを吸収する、エネルギ吸収部材を設ける。このエネルギ吸収部材に関しても、前記アウタコラム23の幅方向中央部に設置して、このアウタコラム23の前方への変位に基づいて効果的に塑性変形する様にする。尚、この様なエネルギ吸収部材は、特許文献3に記載される等により従来から各種構造のものが知られており、本発明の要旨とも関係しない為、図示並びに詳しい説明は省略する。
【0048】
又、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイール1が過度に下方に変位するのを防止する事は、前記係止切り欠き45の前後方向長さL45を前記係止カプセル47の前後方向の長さL47よりも十分に大きくしている事により図れる。即ち、これら各長さL45、L47をこの様に規制している為、二次衝突が進行し、前記ステアリングホイール1と共に、前記係止カプセル47が前方に変位し切った状態でも、この係止カプセル47全体が前記係止切り欠き45から前方に抜け出る事はない。この為、二次衝突が進行した状態でも、前記アウタコラム23の支持力を確保して、このアウタコラム23及び前記アウタシャフト24を介してこのアウタコラム23に支持された、前記ステアリングホイール1が、過度に下降する事を防止できる。そして、事故後も、事故の程度によっては、このステアリングホイール1の操作を行い易くして、例えば、事故車両が自走可能である場合に、この事故車両を事故現場から路肩まで自走移動させる際の運転を行い易くできる。又、自走不能である場合も、路肩まで押し動かす作業を容易に行える可能性を高くできる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
上述した実施の形態は、本発明を、ステアリングホイールの上下位置を調節する為のチルト機構と、同じく前後位置を調節する為のテレスコピック機構との両方を備えたステアリングコラム用支持装置に適用した場合に就いて説明した。但し、本発明は、チルト機構のみ、又はテレスコピック機構のみを備えたステアリングコラム用支持装置、更には、これら両機構を何れも備えていない、ステアリングホイールの位置固定式のステアリングコラム用支持装置で実施する事もできる。
【符号の説明】
【0050】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングギヤユニット
3 入力軸
4 タイロッド
5、5a、5b ステアリングシャフト
6、6a、6a、6b、6c ステアリングコラム
7 自在継手
8 中間シャフト
9 自在継手
10、10a ハウジング
11、11a 車体側ブラケット
12、12a、12b コラム側ブラケット
13 ハウジング側ブラケット
14a、14b 取付板部
15a、15b 切り欠き
16a、16b 滑り板
17 エネルギ吸収部材
18 係止切り欠き
19 係止カプセル
20 係止溝
21a、21b 係止孔
22 インナコラム
23 アウタコラム
24 アウタシャフト
25 玉軸受
26 電動モータ
27 制御器
28 支持筒
29 中心孔
30 スリット
31 被支持板部
32 支持板部
33 上下方向長孔
34 前後方向長孔
35 調節ロッド
36 頭部
37 ナット
40 駆動側カム
41 被駆動側カム
42 カム装置
43 調節レバー
44 摩擦板ユニット
45 係止切り欠き
46 取付孔
47 係止カプセル
48 鍔部
49a、49b 小通孔
50 係止ピン
51 ボルト
52 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事のない車体側ブラケットと、この車体側ブラケットの幅方向中央部に形成された、この車体側ブラケットの前端縁側が開口した係止切り欠きと、ステアリングコラム側に支持されて、二次衝突時にこのステアリングコラムと共に前方に変位するコラム側ブラケットと、このコラム側ブラケットに固定された状態で、両端部を前記係止切り欠きに係止すると共に、上端両側部をこの係止切り欠きの両側部分で前記車体側ブラケットの上側に位置させた係止カプセルとを備え、この係止カプセルと前記車体側ブラケットとを、前記二次衝突時に加わる衝撃荷重に基づいて裂断する結合部材で結合する事により、前記コラム側ブラケットを前記車体側ブラケットに対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により前方への離脱を可能に支持したステアリングコラム用支持装置に於いて、前記係止カプセルは、前記係止切り欠きの幅寸法以下の幅寸法を有する下半部と、この係止切り欠きの幅寸法よりも大きな幅寸法を有する上半部とから成り、この上半部の幅方向両端部で前記下半部の幅方向両側面よりも幅方向両側に突出した部分を鍔部としており、この鍔部と、前記車体側ブラケットの一部で前記係止切り欠きを幅方向両側から挟む位置とで互いに整合する位置にそれぞれ小通孔が形成されており、前記係止カプセルの下面を前記コラム側ブラケットの上面に当接させると共に、前記鍔部の下面と前記コラム側ブラケットの上面との間で、前記車体側ブラケットの一部で前記係止切り欠きの両側部分を挟持した状態で、前記鍔部に形成した小通孔と前記車体側ブラケットの一部に形成した小通孔とに、前記二次衝突に伴って裂断する材料製の結合部材を掛け渡した事を特徴とするステアリングコラム用支持装置。
【請求項2】
前記各結合部材が、前記各小通孔内に溶融樹脂を注入するインジェクション成形により造られた、合成樹脂製の係止ピンであり、これら各係止ピンを構成する合成樹脂の一部が、前記車体側ブラケットの上下両面と、前記コラム側ブラケットの上面及び前記鍔部の下面との間に存在する隙間のうちの少なくとも一方の隙間に進入して、これら各面同士の間に存在する隙間に基づくがたつきを防止している、請求項1に記載したステアリングコラム用支持装置。
【請求項3】
前記係止切り欠きの前後方向に関する長さが前記係止カプセルの同方向の長さよりも大きく、前記二次衝突時に前記ステアリングコラムと共にこの係止カプセルが前方に変位した状態でも、この係止カプセルの少なくとも一部が前記車体側ブラケットの前端部の上側に位置して、この係止カプセルが落下するのを防止できるだけの長さを有する、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したステアリングコラム用支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−86588(P2012−86588A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232444(P2010−232444)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】