説明

ステンレス鋼製角筒容器の製造方法およびその製造装置。

【課題】ステンレス鋼製角筒容器を高生産能率かつ低コストで製造する。
【解決手段】プレス機10−1〜10−Nと変形加工機50と焼鈍炉30とトリム機40とをこの順序で配置し、A工程(ステンレス鋼製材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形する。)、B工程(プレス絞り加工後の未完角筒容器の製品外フランジ部に変形部を成形する。)、C工程(製品外フランジ部を残したままの未完角筒容器全体に焼鈍処理を施す。)およびD工程(焼鈍処理後の未完角筒容器から製品外フランジ部をトリム加工して完成角筒容器を製造する。)をこの順で実行してステンレス鋼製完成角筒容器を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ステンレス鋼製材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して角筒容器を成形しかつその後に製品外フランジ部をトリムして製品(角筒容器)を製造するステンレス鋼製角筒容器の製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの多角筒状の容器(例えば、電池部品、電子部品)の中には、ステンレス鋼製材料(薄板形状)をプレス絞り加工して成形されものが多い。具体的には、選択形状(円形、楕円形、多角形)のステンレス鋼製材料(ブランク)をダイスにセットしかつパンチで圧力を加えて絞り加工しつつ角筒容器(例えば、四角容器)を成形する。なお、材料厚さとダイス・パンチ間のクリアランスの関係から、絞り加工とシゴキ加工に区分されることもあるが、この明細書中のプレス絞り加工とは、絞り加工および/またはシゴキ加工を意味するものとする。
【0003】
ここに、ステンレス鋼製材料は、種類(オーステナイト系、フェライト系等)によって多少の難易はあるものの、他の材料(例えば、銅合金、アルミニウム合金)と比較して絞り性が極めて低い。歴史的には、室温でのプレス絞り加工では形状精度が悪く、またプレス絞り速度が遅いので生産性が低いとされていた。
【0004】
そこで、人為的にプレス絞り加工温度を制御して薄板形状の絞り性を向上さる温間プレス絞り加工方法が提案(特許文献1)されている。この提案(前者提案)は、ブランクの形状・寸法およびダイス穴形状を等方性塑性体のすべり線場理論に基づき特定しかつダイスおよび/または板押えの温度(60〜150度)、パンチの温度(−10〜10度)を保持しかつ金型断熱を担保する角筒容器の成形方法である。さらに、一段のプレス絞り速度の向上を目指した連続再絞り加工が提案(特許文献2)されている。この提案(後者提案)は、ダイスおよび/または板押えの温度を加熱(60〜150度)し、パンチの温度を冷却(0〜30度)しかつダイス内に潤滑油を圧送する成形方法である。
【0005】
特許文献2の記載(図1)によれば、前者提案方式では、第1〜5段の絞り加工後に焼鈍処理を入れ、第7、8段の絞り加工後にも焼鈍処理が必要である。後者提案方式では、中間の焼鈍処理を省き第1〜5段の絞り加工を連続して行えばよい。つまり、人手操作を必要としていた焼鈍処理工程を一掃できる。したがって、プレス絞り加工による成形速度を速くできるから、製造コストを低減できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−309519号公報
【特許文献2】特開2009−113059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ステンレス鋼製角筒容器の需要拡大は目覚しく、さらなる品質高度化、生産高能率化および低コスト化の要請は高まるばかりである。例えば、電気自動車用のリチウムイオン電池のケースに供される場合を考えただけでも、これら要請に応えることは、世界的な産業経済および環境保全に貢献できるところ絶大である。
【0008】
しかるに、従来のステンレス鋼製角筒容器に関しては、角筒容器の成形方法や成形装置については多くの提案が成されているが、材料から製品(角筒容器)までの一連の製造方法や製造装置についての提案はほとんど見受けられない。つまり、プレス絞り加工、焼鈍処理等のそれぞれの個別的な技術改良に留まっているのが実情である。
【0009】
すなわち、リチウムイオン電池用ケースの場合、供給されたステンレス鋼製材料(ブランク)から角筒容器を成形しかつ封口板をレーザー溶接する直前の角筒容器(製品)に仕上げるまでの全体工程についての改良・改善が成されなければ、リチウムイオン電池の製造に関する真の生産性向上やコスト低減に寄与できない。
【0010】
本出願人などの角筒容器の成形工程に関する検討、分析によると、前者提案方式の場合に比較して、中間(焼鈍処理)工程が無いので、後者提案方法の方が有利である。しかし、多段のプレス絞り加工を連続して行える後者提案方式の場合は、温度管理に費やす設備的、取扱い的、材料限定的な負担が大きい。かくして、中間(焼鈍処理)工程を一掃しかつ温度調整機能を設けないでも、多段連続プレス絞り加工だけで所定の形状精度を満たす角筒容器を成形可能とするための再試行が成されている。昨今では、室温での多段連続プレス絞り加工のみで角筒容器を成形でき得ると、見通しされつつある。
【0011】
さて、角筒容器の製造に関して言えば、プレス絞り加工に関する前者提案方式、後者提案方式、その他のいずれの場合でも、プレス絞り加工後の角筒容器から製品外となるフランジ部をトリム(除去)加工したものが製品(角筒容器)とされる。例えば図3、図4に示す角筒容器70を構成する容器本体71から、これと一体の製品外フランジ部81をトリムする。このトリム加工は、成形(加工)直後の角筒容器が高硬度であるために手間取り長時間を要する場合もある。また、刃先の劣化が早いので頻繁な刃先交換が必要となる。これら点も、経済性、生産性に不利であった。しかも、硬度が高ければ高い程、トリム加工時に角筒容器の形状が機械的に変形する虞が強くなる。
【0012】
次に、トリム加工後の角筒容器にはプレス絞り加工に伴う大きな歪が蓄積(残存)している。このまま放置すると、形状変化が生じかつ経時的に変化が大きくなり不良品となる。例えば、封口板の密封取付けとの関係から角筒容器の些の形状精度変化さえも許し難いとされる傾向にある。この対策として、トリム加工後に焼鈍処理することで歪を除去するものとされている。しかし、トリム加工後の角筒容器をそのまま焼鈍処理すると、焼鈍温度に起因する形状変化が生じてしまう。多くの場合、対向する上部開口縁直辺(例えば、図3の74LL,74LR)が接近する方向の変形(内向き変形)となる。つまり、角筒容器の平面的な上部開口縁形状が鼓形状となる。これでは、焼鈍処理を施すことが本末転倒の結果を招くことになる。
【0013】
かくして、この焼鈍処理に際しては、トリム加工時に発生した変形の矯正および焼鈍処理時の熱的変形の規制(発生防止)の観点から、形状矯正治具が用いられる。この形状矯正治具は、例えば、寸法が高精度で表面が平滑なステンレス鋼製ブロックを主構成要素として成る。しかも、多数の形状矯正治具を装着した形状矯正治具装置と構築されかつ設置されている。
【0014】
つまり、各形状矯正治具に各角筒容器を正確にセットする。焼鈍処理中は、トリム加工時に発生した機械的変形の矯正のための戻り変形を認めつつ、内向き熱的変形を強制的に規制乃至矯正する。焼鈍処理(歪除去および形状補正)後に角筒容器を形状矯正治具から取り出す(リセットする)。このセット・リセット作業には多大な労力・時間が掛かる。作業熟練も必要である。形状矯正治具の採用は、専用の作業員の配置が必要で、操作・取扱いが難しくなり、生産サイクルの長期化ひいては生産(製造)コストの増加を招くという不利不便がある。この製造全体工程上の不利不便は、プレス絞り加工工程における多少の改善では到底払拭できないほどの大きな欠点である。
【0015】
しかも、形状矯正治具は、製品(角筒容器)の寸法、形態、形状精度が異なるごとに準備しなければなければならず、一度に焼鈍炉内に収める数量を揃えることになるので、初期投入費用が莫大額となる。経年劣化による新品交換も必要になるのでランニングコストが上がる。いずれも製品単価に及ぼす影響が非常に大きい。つまり、プレス絞り加工後の形状矯正治具を使用した焼鈍処理が必要不可欠とされていたので、結果として大幅な製品コスト低減を阻止する要因となっていた。
【0016】
さらに、今後は、トリム加工時に発生した変形の矯正および焼鈍処理時の熱的変形の規制(発生防止)とは別の観点、つまり製品機能上や製品低硬度上の観点からプレス絞り加工後の角筒容器を焼鈍処理すべきとの指摘が多くなる傾向にある。焼鈍処理と形状矯正治具との見直しが重要課題になると推測する。
【0017】
本発明の目的は、生産能率が高くかつ大幅な製造コスト低減を達成できるステンレス鋼製角筒容器の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
角筒容器の製造工程全体を顧みれば、プレス絞り加工により角筒容器を成形し、成形後に邪魔となるフランジ部をトリムし、形状矯正治具を用いての焼鈍処理を施して製品(角筒容器)を得るという慣行に疑いなきものとされて来た。各工程別に、マイナーチェンジ的な改良が進められているものの、製造(生産)工程全体に及ぶ改善がなされていない。生産能率および製造コストに影響を及ぼす割合は、焼鈍処理に際して形状矯正治具(装置)を用いる点が一番大きいと分析される。しかし、形状矯正治具の構造や角筒容器のセット・リセット作業方法などについて個々の改良はされていても、全体的観点からの見直しはされていない。
【0019】
本発明は、この慣行を打破するものである。すなわち、形状矯正治具を用いた焼鈍処理中における前工程に起因した機械的変形の矯正および当該処理中の熱的変形の規制(予防矯正)に関する本質および製造工程全体の見直し(分析)に基づき創生されたものである。特に、発想の逆転により、プレス絞り加工においては極めて重要視されるもののプレス絞り加工後には無用の長物として取り扱われている製品外フランジ部を巧みに有効利用しつつ形状変化未然防止可能とすることにより、従来欠点の完全払拭乃至大幅削減ができるように構築されている。
【0020】
詳しくは、請求項1の発明に係るステンレス鋼製角筒容器の製造方法は、ステンレス鋼製材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形し、成形後の未完角筒容器の一部を構成する製品外フランジ部に変形部を成形し、次いで変形部が成形された製品外フランジ部を残したままの未完角筒容器全体に焼鈍処理を施し、しかる後に未完角筒容器から製品外フランジ部をトリム加工して完成角筒容器を製造することを特徴とする。
【0021】
また、請求項2の発明に係るステンレス鋼製角筒容器の製造方法は、A工程(ステンレス鋼製材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形する。)、B工程(プレス絞り加工後の未完角筒容器を構成する容器本体と一体でかつ上部開口縁直辺から外側に広がる製品外フランジ部に当該製品外フランジ部の剛性を高める変形部を成形する。)、C工程(変形部が成形された製品外フランジ部を残したままの未完角筒容器全体に焼鈍処理を施す。)およびD工程(焼鈍処理後の未完角筒容器から製品外フランジ部をトリム加工して完成角筒容器を製造する。)をこの順で実行することを特徴とする。
【0022】
また、請求項3の発明は変形部が上部開口縁直辺に対する断面2次モーメントを大きくする形態とされ、請求項4の発明は未完角筒容器の平面形状が長方形とされかつ変形部が上部開口縁長直辺側の製品外フランジ部のそれぞれに成形される。
【0023】
また、請求項5の発明は、焼鈍処理が移動中の未完角筒容器に連続して行われる。
【0024】
また、請求項6の発明は、完成角筒容器が2次電池ケースとされている。
【0025】
さらに、請求項7の発明に係るステンレス鋼製角筒容器の製造装置は、ステンレス鋼系材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形するプレス機の後方に変形加工機と焼鈍炉とトリム機とを配置し、変形加工機がプレス機においてプレス絞り加工された未完角筒容器を構成する容器本体と一体でかつ上部開口縁直辺から外側に広がる製品外フランジ部に当該製品外フランジ部の剛性を高めるための変形部を成形可能に形成され、焼鈍炉が変形部が成形後の製品外フランジ部を残したままの未完角筒容器を受け入れて焼鈍処理可能とされ、トリム機が焼鈍処理後の未完角筒容器から製品外フランジ部を除去するトリム加工が可能とされ、プレス機と変形加工機と焼鈍炉とトリム機との当該各工程を順番に実行することにより完成角筒容器を製造可能に形成されている。
【0026】
さらにまた、請求項8の発明は変形加工機が金型交換によって変形部の形態を変更可能とされ、請求項9の発明は焼鈍炉が移動中の未完角筒容器に連続焼鈍処理可能とされ、請求項10の発明はトリム機が未完角筒容器の姿勢をプレス機によるプレス絞り加工時の姿勢とは上下反転させた状態としてトリム加工可能である。
【0027】
さらにまた、請求項11の発明は、完成角筒容器がリチウムイオン電池ケースの製造装置である。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば、変形部の成形により従来形状矯正治具を一掃できるから、生産性が高くかつ大幅な製造コスト低減を達成できるとともに形状精度が良好なスンレス鋼製角筒容器を提供できる。
【0029】
請求項2の発明によれば、製品外フランジ部の剛性を高めるための変形部を成形することにより従来形状矯正治具を一掃できるから、請求項1の発明の場合と同様に、生産性が高くかつ大幅な製造コスト低減を達成できるとともに形状精度が良好なスンレス鋼製角筒容器を提供できる。
【0030】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明の奏する効果に加え、変形部の成形が容易化されかつ焼鈍処理時熱的変形の規制機能を一段と強化できる。請求項4の発明によれば、請求項3の発明の場合と比較して、その効果を効率的に得られる。
【0031】
請求項5の発明によれば、焼鈍処理時間の長短に拘わらずに全体生産サイクルタイムの一層の短縮化に寄与できる。
【0032】
請求項6の発明によれば、電気自動車等に求められる低コストで高品質の充放電器を提供でき、世界環境保全にも貢献できる。
【0033】
請求項7の発明によれば、生産性が高くかつ大幅な製造コスト低減を達成できるとともに形状精度が良好なスンレス鋼製角筒容器を提供可能な請求項2の発明を確実に実施することができる。具現化が容易でかつ設備コストが低い。
【0034】
請求項8の発明によれば、構造簡単であり、変形部の形態の選択性を拡大できかつ一段と確実かつ安定して成形できる。
【0035】
請求項9の発明によれば、人手が掛からずに安定した焼鈍処理ができる。しかも、焼鈍処理時間の長短に拘わらずにプレス絞り加工工程の生産サイクルタイムに同期させた運用が容易である。
【0036】
請求項10の発明によれば、未完角筒容器の形状精度を担保しながら正確かつ容易なトリム加工ができる。
【0037】
請求項11の発明によれば、特に電気自動車等に求められる低コストで高品質の充放電器を提供でき、世界環境保全にも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るステンレス鋼製角筒容器の製造装置を説明するための平面図である。
【図2】同じく、最初(1)段〜最終(6)段のプレス絞り加工工程を説明するため図である。
【図3】同じく、未完角筒容器の平面図である。
【図4】同じく、図3の矢視線A−Aに基づく縦断面図である。
【図5】同じく、変形加工機を説明するための図である。
【図6】同じく、変形部が成形された後の未完角筒容器を説明するための平面図である。
【図7】同じく、図6の矢視線B−Bに基づく縦断面図である。
【図8】同じく、ステンレス鋼製角筒容器(未完角筒容器)の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0040】
本ステンレス鋼製角筒容器の製造装置1は、図1〜図8に示す如く、プレス機10と変形加工機50と焼鈍炉30とトリム機40とをこの順序で配置し、A工程(ステンレス鋼製材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形する。)、B工程(プレス絞り加工後の未完角筒容器の製品外フランジ部に変形部を成形する。)、C工程(製品外フランジ部を残したままの未完角筒容器全体に焼鈍処理を施す。)およびD工程(焼鈍処理後の未完角筒容器から製品外フランジ部をトリム加工して完成角筒容器を製造する。)をこの順で実行して完成角筒容器70を製造するための角筒容器製造方法を確実に実施することができる。
【0041】
本願明細書中でいう未完角筒容器とは容器本体71と製品外フランジ部81とが一体である状態の角筒容器70を指すものとし、完成角筒容器とは焼鈍処理終了後のトリム加工により容器本体71から製品外フランジ部81を除去(トリム加工)された後の角筒容器70を指すものとする。図3、図4、図6および図7を参照されたい。
【0042】
図1において、本ステンレス鋼製角筒容器の製造装置1は、プレス機10と変形加工機50と焼鈍炉30とトリム機40とを材料(ブランク)の搬送方向(図1で左側から右側へ向かう)に配置し、各機械において当該各工程を実行することにより、所定の形状精度および硬度の完成角筒容器を低コストで製造可能に形成されている。すなわち、ステンレス鋼製材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形し、成形後の未完角筒容器の一部を構成する製品外フランジ部に変形部を成形し、次いで変形部が成形された製品外フランジ部を残したままの未完角筒容器全体に焼鈍処理を施し、しかる後に未完角筒容器から製品外フランジ部をトリム加工して完成角筒容器を製造可能である。
【0043】
ステンレス鋼製材料(ブランク)乃至未完角筒容器70は、プレス機10内では自動間歇搬送され、焼鈍炉30内では自動連続搬送されてトリム機40側へ搬出される。変形加工機50へはプレス機10から図3、図4に示す未完角筒容器が自動搬入されかつ変形加工機50から焼鈍炉30へ変形部が加工された未完角筒容器(図6、図7を参照)が自動搬出される。作業員は、サイクルタイム毎に搬出された未完角筒容器をトリム機40にセットしてトリム加工すればよい。従来例の場合のように一時に多数の未完角筒容器を多数の形状矯正治具にセット・リセットする慎重な取付け・取り外し作業を必要としないから、作業員の精神的・肉体的負担が大幅に軽減され、待ち時間も少なく能率が高い。歩留まりも大幅に向上する。
【0044】
つまり、従来例の問題点(製品外フランジ部81をトリムした後に格別な形状矯正治具を用いて焼鈍処理する。)を一掃することができるから、形状矯正治具に関する初期経済負担およびランニングコストの零(0)化を達成きるとともに製品(角筒容器)の形態(形状、大きさ)ごとに対応させた形状矯正治具の準備や交換作業が不必要である。これらの点からしても、製品コストを大幅に削減できるわけである。
【0045】
ステンレス鋼製材料(ブランク)から製造される完成角筒容器(製品)70は、2次電池の一種であるリチウムイオン電池の電池ケースとした場合について説明する。この実施の形態では、SUS430(フェライト系ステンレス鋼)、SUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)を選択して実施した。
【0046】
さて、プレス機10は、ステンレス鋼製材料(ブランク)に複数(n)段のプレス絞り加工を順番に施して角筒容器(未完角筒容器)を成形することができる。n段のnは、例えば5〜8の中から選択されるが、この実施の形態では、n=6に選択してある。
【0047】
各段のプレス絞り加工を実行するn(6)台の単機型プレス機10をブランク搬送方向に配列し、単機型プレス機10間のブランク(乃至未完角筒容器)の移送(自動間歇搬送)は搬送ロボットで行われる。すなわち、この実施形態におけるプレス絞り加工用プレス機10は、材料組成、プレス機械の構造、角筒容器の形態、プレス絞り加工工程の数の選択、プレス絞り速度、絞り加工態様、潤滑性等々の研究と改良により、自動的連続成形が可能に構築されている。上記の前者提案の場合のように途中に焼鈍処理工程を必要としない。また、後者提案の場合のような温度調整は行っていない。
【0048】
プレス機10のプレス絞り加工速度は、例えば6〜15spmの中から指定した値を設定することができる。今、10spmを設定したとすると、最終段用のプレス機(10−N)から変形加工機50を介して焼鈍炉30側へ1分間に10個の未完角筒容器が搬出される。
【0049】
なお、プレス機10は、単機型プレス機に限定されない。例えば、n(6)段分のプレス絞り加工用ステージ(ダイス、パンチの組)を共通ベッド(ボルスタ)に配置して、各ステージ間はブランク(乃至未完角筒容器)を同期移送するいわゆるトランスファープレス機10から構築してもよい。
【0050】
なおまた、この実施の形態に係るプレス機10は、上記の通り、n段のプレス絞り加工を連続して順番に施して未完角筒容器を成形可能に形成されているが、これに限定する必要はない。補助的に、任意のプレス絞り加工工程間に上記の前者提案方法(装置)の場合の中間焼鈍処理工程を導入し、あるいは、任意または全部のプレス絞り加工を上記の後者提案方法(装置)の場合のような温度調整をしながら実行可能に構築してもよい。従来例において使用された形状矯正治具の一掃化に基づく本発明の格別の効果(生産性向上およびコスト低減)の顕著性に比較すれば、それら負担は比較的に軽いと言えるからである。もとより、本実施の形態のように、中間焼鈍処理および温度調整を一切不用とするプレス絞り加工方法(装置)とすれば、その効果を飛躍的に向上できること明白である。
【0051】
未完角筒容器70(詳しくは、容器本体71)の平面形状は、図3、図6に示すように、各2つの長直辺(74L)と短直辺(74S)とからなる長方形である。完成角筒容器(容器本体71)の横断面形状も同じである。この容器本体71の上部は開口(73)され、底部は塞がれている。いわゆる有底角筒容器である。
【0052】
製品(完成角筒容器)の寸法がW30〜60mm×L150〜200mm×H80〜130mmから選択された範囲内であれば、上記の通り、中間焼鈍処理を取り入れずかつプレス絞り加工毎の温度調整をしなくても、連続的に多段プレス絞り加工して未完角筒容器を成形できることを確認している。
【0053】
ここに、各段用のプレス械10は、図2に示すごとく、図示しないベッドにダイス11が取付けられ、図示しないスライドにパンチ21が設けられている。パンチ21には、板押え24と一体のスリーブ23が被嵌装着されている。このスリーブ23の基本的機能は、製品外フランジ部81をダイス11のガイド面13に押えつつ、プレス絞り加工を順調に遂行可能とするために必要とするパンチ力に対する適宜な抗力を発生させかつプレス絞り加工の進展に応じて必要十分な素材(製品外フランジ部81)の量(長さ)をダイス穴部12内に円滑・安定供給することである。
【0054】
かくして、スリーブ23の形態は、外周面全体が曲率半径の大きな緩やかで滑らかな曲面形状、曲面形状と平面形状の組合せあるいは平面形状の組合せとされる。この実施の形態では、2つの平面形状の組合せとしている。両者のつなぎ目は曲面形状である。
【0055】
したがって、各(1〜6)段でのプレス絞り加工終了後の各未完角筒容器70は、図3、図4に示すごとく、平面形状が長方形の容器本体71となる。各段では、主に容器本体71の深さ寸法が異なる。最終段に向かって次第に深くなる。製品外フランジ部81の外への広がり(幅長)は最終段に向かって次第に狭く(短く)なる。
【0056】
容器本体71の上部開口73の周縁つまり各上部開口縁直辺74から外側に広がる傾斜平面形状の製品外フランジ部81(81L、81R、81B、81A)が一体に成形されている。上部開口縁直辺74は、左右の上部開口縁長直辺74LL,74LRと前後の上部開口縁短直辺74SB,74SAからなる。
【0057】
以下では、図6に示すように、各上部開口縁長直辺74LL,74LRと平行な仮想軸線をXL,XR、第2の仮想軸線をXLA,XRAとし、各上部開口縁短直辺74SB,74SAと平行な仮想軸線をYB,YA、第2の仮想軸線をYBA,YAAとする。
【0058】
本発明の技術的特徴の1つは、プレス絞り加工終了後において、製品外フランジ部81のそれぞれに変形部85を成形することである。全方向の製品外フランジ部81L、81R、81B、81Aのそれぞれに変形部85,85Aを成形するものとしている。
【0059】
ここに、変形加工機50は、基本的構造がプレス機10の構造と同等とされ、それに変形加工部が付設されている。この変形加工機50によれば、プレス機10においてプレス絞り加工された未完角筒容器(容器本体)の品質(寸法精度等)を担保しつつ変形部を成形加工することができる。また、設備コスト低減化を達成できる。しかも、取扱い簡単でかつ適応性が広い。
【0060】
すなわち、変形加工機50は、未完角筒容器70の一部を構成する製品外フランジ部81のそれぞれに変形部(85、85A)を成形可能に形成されている。変形部85、85Aは、プレス絞り加工終了後であるから、その形態は自由に選択成形できる。曲率が大きい(曲率半径が小さい)ものとするのが好ましい。つまり、プレス絞り加工時に要求されるブランク(製品外フランジ部81)の場合のように、プレス絞り加工の進展に応じて材料を円滑供給するために曲率を小さく(曲率半径を大きく)しなければならないというような制約はない。
【0061】
要するに、大曲率の変形部85、85Aを積極的に成形することができる。この変形部を設けることが、本発明(請求項1、2、請求項7)の最大の技術的特徴である従来形状矯正治具の一掃化を達成するための要件である。
【0062】
ここで、製品外フランジ部81に変形部を成形することと従来使用の形状矯正治具の一掃化との関係および技術的根拠を説明しておく。
【0063】
トリム加工後の角筒容器70をそのまま焼鈍処理すると、上記の通り、形状変化が発生しまうことが実証されている。つまり、図3に示す角筒容器の左右の上部開口縁直辺(長直辺74LL,74LR)が接近する方向に変形(内向き変形)するので、上部開口縁形状が鼓形状(内側に凸の弓なり形状である。)になると確認されている。
【0064】
この変形は、基本的には熱応力と熱(温度)変形の問題であるが、形状複雑でかつ平面応力も関係する。しかし、焼鈍処理中に製品外フランジ部81が角筒容器側の熱的変形に引き摺られなければ角筒容器側の変形を防止できる筈である。つまり、製品外フランジ部の剛性を高めればよい。
【0065】
すなわち、角筒容器(容器本体71)の熱的変形に抗することのできるように製品外フランジ部81の特性[強度・剛性・断面係数など]を改変すればよい。製品外フランジ部81が平板形状であることからすれば、その平板形状にプレス加工等を積極的に付与すれば、その形状変化により剛性等を変えられる。具体的に、製品フランジ部81に変形部(例えば、波板形状、ランダム位置の凹凸組合せ形状、縦横溝形状等)を成形すればよい。
【0066】
この際、変形部の簡素化を探求する。実証されている上部開口縁長直辺74LL,74LRの内向き変形曲線は、丁度、上部開口縁長直辺の中央域(位置)に集中荷重(あるいは全域に等分布荷重)が掛かった場合の両端支持梁(上部開口縁長直辺)の撓み曲線に似ている。機械的には、上部開口縁長直辺(両端支持梁)の強さを上げれば、最大撓みの値を小さくできる。しかし、製品仕様上、容器本体81の肉厚を勝手に厚くすることはできない。
【0067】
一方、トリム加工以前は、角筒容器(容器本体71)と製品外フランジ部81とは一体であり、製品外フランジ部は外側に広がる平面板形状である。このフランジ部81を、上部開口縁長直辺74LL,74LRと平行な複数の両端支持梁を一体的に組み合わせた重ね両端支持梁構造であると仮定すると、重ね両端支持梁構造の強化策を講ずれば上部開口縁長直辺に掛かる荷重に基づく上部開口縁長直辺74LL,74LRの内向き変形を小さくできる筈である。
【0068】
つまり、従来使用の形状矯正治具が、型外からはみ出でないように強制的に規制することで角筒容器の変形を抑える型枠(外的)規制方式であったのに対して、内的に撓み変形を極小化するフランジ(内的)規制方式の具現化を目指す。
【0069】
まず、プレス絞り加工された未完角筒容器(製品外フランジ部が付いている。)に焼鈍処理を施してみた。形状矯正治具は用いない。すると、製品外フランジ部81をトリムした後に焼鈍処理した場合に比較して、上部開口縁長直辺の内向き変形を大幅に軽減できた。従来例によるトリム加工後の角筒容器を焼鈍処理した場合の内向き変形に比較して2/10〜4/10の形に抑えることができた。つまり、上記の仮定はほぼ正しいと理解される。
【0070】
したがって、製品外フランジ部81を一段と大きくすれば、その内向き変形発生を未然防止できるものと推測できる。しかし、製品外フランジ部の大きさ(量)は、プレス絞り加工の特性、絞り深さ、プレス機10の構造等々に整合しかつ必要十分でかつ最小とするように選択されるので、現実的にはその大きさや厚さを変更することは許され難い。
【0071】
引き続き、上記の重ね両端支持梁の断面2次モーメントを大きくすることで、同一荷重に対する撓み(変形)を最小化する実験を行った。断面2次モーメント(の値)は、梁高さ(h)の3乗と梁幅(w)との積に比例する。そこで、組み合わされた複数梁の断面2次モーメントを大きくして焼鈍処理したところ、変形は発生しなかった。梁数および当該各断面2次モーメントの大きさを変えた実験を繰り返した結果、その1つの梁の断面2次モーメントを適宜な大きさにするだけでも、焼鈍処理中に内向き熱変形が生じないことを突き止めた。なお、1つの両端支持梁の断面2次モーメントの変更(強化)は、容器本体71に対する製品外フランジ部全体の剛性を高くすることにもなりかつこの高剛性化が角筒容器の変形防止効果を助長することも考えられる。
【0072】
断面2次モーメントを大きくするには、例えば、重ね方式による部分的な見掛け板厚の増大や、水平方向に不連続な折曲部、垂直方向に延びる折曲部、水平・垂直方向の組合せ溝、水平複数列のリブ構造、垂直複数列のリブ構造、撓み曲線に対応するアーチ型帯形状の筋目等を製品外フランジ部に積極的に成形すればよい。いずれも変形部を形成する。
【0073】
ここに、製品外フランジ部自体を利用して製品外フランジ部の断面2次モーメントを大きくすることができるとしても、産業上の利用上、製品外フランジ部の断面2次モーメントを拡大変更する手段の一層の簡素化および加工容易化が必要である。上記の幾多の試験研究によると、変形部を折曲部から形成するのが望ましい。
【0074】
かくして、変形加工機50は基本的構造を図2に示すプレス機10の構造と同等(金型:ダイス、パンチ、スリーブ)に構築してある。設備経済上も有利でありかつ取扱いも簡単である。この変形加工機50の主要部である変形加工部(折曲成形部)は、図5に示すスリーブ63の外周面の一部に設けた変形加工凹部65,変形加工凸部65Aと、この変形加工凹部65,変形加工凸部65Aに対向(対応)するダイス51側の変形加工凸部55,変形加工凹部55Aとから形成されている。
【0075】
すなわち、変形加工部は、大きな段差部(あるいは、大きな曲率)とされている。製品外フランジ部81の左右それぞれに変形部(折曲部)を成形するために、ダイス内の未完角筒容器の上部開口縁長直辺74LL,74LRに対応する位置つまりスリーブ63の左右の位置に一対として設けてある。この実施の形態では、上部開口縁短直辺74SB,74SAに対応する位置つまりスリーブ63の前後の位置にも一対が設けられている。
【0076】
なお、容器本体71の平面的寸法(前後方向寸法)が一段と細長である場合には、上部開口縁短直辺74SB,74SAの内向き変形は起こり難いから仮想軸線をYB、YAを中心とする変形部は成形しないで、上部開口縁長直辺74LL,74LR側だけに仮想軸線をXL、XRを中心とする変形部85、85Aを成形するようにしても実施することができる。変形部の位置および数についての簡素化を図れる。
【0077】
変形加工部は、スリーブ外周面の上下方向の一部領域において水平方向に延びる。図6、図7に示すように、製品外フランジ部81に仮想軸線XL,XRに沿って延びる帯形状の変形部(折曲部85)を形成することができる。第2の仮想軸線XLA,XRAに沿って延びる帯形状の変形部(折曲部85A)も形成することができる。同様に、仮想軸線YB,YAに沿って延びる帯形状の変形部(折曲部85)を形成することができる。第2の仮想軸線YBA,YAAに沿って延びる帯形状の変形部(折曲部85A)も形成することができる。
【0078】
かかるリブ形状・機能を持つ変形部85、85Aを成形することにより、仮想両端支持梁の断面2次モーメントを大きくすることができるから、焼鈍処理中に各上部開口縁長直辺74LL,74LRに加わる熱的要因荷重に基づき発生される当該各上部開口縁長直辺の内向き撓み(曲がり変形)の値を最小化することができる。
【0079】
変形加工部(65、55)、(65A、55A)を設ける位置(スリーブ63の水平方向の一部領域)は、プレス絞り加工後の製品外フランジ部81に、予め決められた仮想軸線XL,XR、XLA,XRAを中心とした折り曲げ加工により目標の変形部(折曲部)85、85Aを成形することができる位置とされる。仮想軸線YB,YA、YBA,YAAを中心とした折り曲げ加工の場合も同様である。
【0080】
この実施の形態においては、仮想軸線XL,XRが上部開口縁長直辺74LL,74LRと当該製品外フランジ部81の外側端とのほぼ中間の位置とされている。仮想軸線74SB,74SA側の場合も同様である。
【0081】
図5において、変形加工機50は、この実施の形態では、ダイス51側にスリーブ63側の起立面63Vに対向する起立面51Vを形成し、さらにダイス51側にスリーブ63側の水平面63Hに対向する水平面51Hを形成してある。したがって、製品外フランジ部81には最終的に、図5、図7に示す傾斜部81Kと水平部81Hとの交点が折曲部85とされ、水平部81Hと起立面81Vとの交点が第2の折曲部85Aとされる。つまり、図2、図4の場合に比較して平板形状の製品外フランジ部81に2つの折曲部85、85Aを含む逆向きの2つの三角山形状変形部(リブ相当)を成形できるわけである。よって、角筒容器70(容器本体71)に対する断面2次モーメントを著しく大きできる。
【0082】
この折曲部85、85Aの成形は、スリーブの形態との関係においてパンチ下降運動を利用して変形部(折曲部)を成形する。もとより、変形部である折曲部85、85Aの形態は、金型(主に、スリーブ63とダイス51)の交換により変更することができる。
【0083】
次に、焼鈍炉30は、炉本体内にコンベアを装備した構造であり、コンベアの搬送速度は設定変更(例えば、400〜500mm/分)できる。折曲部85、85Aが成形された製品外フランジ部81を残したままの未完角筒容器70を受け入れてその全体(71、81)に焼鈍処理を施すことができる。従来例のようにプレス絞り加工後の大きな歪を内在する未完角筒容器を長時間放置する事態を払拭できるから、無用な変形発生を誘発することがなくかつ不必要で過度の焼鈍処理を回避できる。炉内搬送方式をループ方式、水平方向の複数列並走方式、上下方向の複数並走方式とすれば、炉本体の搬送方向寸法を小さくすることができる。
【0084】
この焼鈍炉30は、トリム機40に向かって移動中の未完角筒容器に連続焼鈍処理可能である。所定温度(例えば、800〜900度)で所定時間(10〜30分)の焼鈍処理を行える。なお、焼鈍炉30は、バッチ式の炉から形成しても実施することができる。
【0085】
そして、プレス機10の生産サイクルタイムに合わせて未完角筒容器を入口側から受入れかつ出口側から焼鈍処理後の未完角筒容器を送出すことができる値に設定することができる。
【0086】
なお、より十分な降温冷却時間を必要とする場合には、焼鈍炉30の後に降温冷却装置を設けてもよい。この実施の形態では、焼鈍炉30の後にバッチ式の降温冷却炉を設けてある。
【0087】
トリム機40は、プレス機構造方式として構成され、焼鈍処理後の未完角筒容器70(71)から製品外フランジ部81を除去するトリム加工を行う。未完角筒容器の姿勢をプレス絞り加工時の姿勢とは上下反転させた状態として製品外フランジ部を除去するので、トリムカット後のスクラップ(製品外フランジ部)の排出が容易で、安定したトリム加工ができる。
【0088】
因みに、従来例(前者提案方法)の場合は、プレス絞り加工工程内にトリム加工工程が組み込まれているので、未完角筒容器の姿勢を反転しかつトリム加工後に再反転させることが至難であるから、不安定運転となる。機械設備経済の負担も過大となる。
【0089】
未完角筒容器の硬度が焼鈍処理により下げられているから、トリム機40の容量は従来例の場合に比較して半減でき、無理なくトリム加工できかつ刃先寿命も長く、経済的である。製品(完成角筒容器)の形状精度を高く維持できる。つまり、高硬度状態でトリムする従来例の場合に比較して過度な機械的外力による容器変形を招来しない。
【0090】
このトリム機40の取扱いは簡単である。作業者は、生産サイクルタイム毎に未完角筒容器を金型にセットして製品外フランジ部を除去すればよい。また、短時間内に多数の角筒容器を形状矯正治具にセットし、焼鈍処理時間中に待機し、その後に慌しくリセットする従来作業と比較すれば、作業員の精神的、肉体的負担は大幅に軽減でき、生産能率を飛躍的に向上できる。
【0091】
かかる実施の形態に係る角筒容器の製造装置では、次のようにして角筒容器の製造方法が実施される。
【0092】
(プレス絞り加工)
図1、図2において、第1段プレス機(10−1)において、スリーブ23(板押え24)がブランク(製品外フランジ部81)をダイス11(ガイド面13)に押付ける。パンチ21の下降により、ブランクはダイス12内でプレス絞り加工されて図3、図4に示す未完角筒容器70(容器本体71)に成形される。ブランク(製品外フランジ部81)はスリーブ23の先端を通しダイス穴12内に供給される。各段プレス機(10−2)〜(10−6)において、同様にプレス絞り加工が行われる。容器本体71の深さは次第に大きく、製品外フランジ部81の残り量は少なくなる。ステンレス鋼製材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形(A工程)する。その後、パンチ21が上昇し、次のプレス絞り加工待ち状態となる。
【0093】
(変形加工)
図1、図5において、変形加工機50において、板押え64およびパンチ61の下降とともにスリーブ63がブランク(製品外フランジ部81)をダイス51側に押付けると、変形加工凹部65(変形加工凸部65A)と変形加工凸部55(変形加工凹部55A)との協働により変形部である折曲部85(85A)が成形される。同時的に起立面63Vと起立面51Vとの協働により起立部81Vが成形されかつ水平面63Hと水平面51Hとの協働により水平部81Hが成形される。ここに、未完角筒容器を構成する容器本体71と一体でかつ上部開口縁直辺から外側に広がる製品外フランジ部81に曲率の大きな折曲部85、85Aを積極的に成形加工(B工程)することができる。未完角筒容器70は、図6、図7に示す形態となる。ステンレス鋼製角筒容器(未完角筒容器)の外観斜視図を図8に示す。
【0094】
(焼鈍処理)
変形部(折曲部)85、85Aが成形された製品外フランジ部81を残したままの未完角筒容器70(71、81)を受入れかつ未完角筒容器全体に焼鈍処理を施す(C工程)。この際、折曲部付の製品外フランジ部81が、容器本体71の熱変形を規制する。製品寸法精度を保証することができる。また、この焼鈍処理は、製品の光沢や硬度を所望のものに仕上げることにも有効である。
【0095】
(トリム加工)
上部開口73を下向きにしてダイス側の上向き受台に角筒容器71を嵌装させることで未完角筒容器をトリム機40にセットする。パンチを下降させ、焼鈍処理後の未完角筒容器から製品外フランジ部81をトリム加工して完成角筒容器を製造する(D工程)。製品外フランジ部81を含む全体が焼鈍処理されている。したがって、プレス絞り加工終了直後の高硬度でトリム加工していた従来例の場合に比較して、トリム加工が極めて容易でかつ無理で過大な機械的外力を加えないから製品(角筒容器)の寸法精度を維持できる。
【0096】
(製品取り出し)
以上のA,B、CおよびD工程をこの順で実行することにより、ステンレス鋼製角筒容器を製造することができる。
【0097】
しかして、この実施の形態によれば、プレス機10と変形加工機50と焼鈍炉30とトリム機40とをこの順序で配置したステンレス鋼製角筒容器の製造装置1であるから、A工程(未完角筒容器の成形)、B工程(製品外フランジ部に変形部を成形)、C工程(製品外フランジ部を残したままでの焼鈍処理)およびD工程(製品外フランジ部のトリム加工)をこの順で実行する角筒容器製造方法を確実に実施することができる。低コストで具現化容易である。
【0098】
この角筒容器製造方法によれば、従来形状矯正治具およびその取扱い作業を一掃できるから、生産性が高くかつ大幅な製造コスト低減を達成できる。すなわち、形状精度が高く廉価なステンレス鋼製角筒容器を提供できる。
【0099】
また、変形加工機50がパンチ61に被嵌されたスリーブ63の形状とパンチ61の下降運動を利用して折曲部85,85Aを成形可能であるから構造簡単で、確実かつ安定した加工(成形)ができる。金型(51、61、63)を交換することで、変形部(折曲部85、85A)の構造・形態を容易に変更できる。
【0100】
また、焼鈍処理が移動中の未完角筒容器に連続して行われるので、焼鈍処理時間の長短に拘わらずに全体の生産サイクルタイムの一層の短縮化に寄与できる。
【0101】
さらに、焼鈍炉30は、トリム機40に向かって移動中の未完角筒容器に連続焼鈍処理可能であるから、人手が掛からずに安定した焼鈍処理ができる。しかも、焼鈍処理時間の長短に拘わらずにプレス絞り加工工程の生産サイクルタイムに同期させた運用が容易である。
【0102】
さらに、トリム機40がプレス絞り加工時の姿勢とは上下反転させた姿勢の未完角筒容器から製品外フランジ部をトリム加工できるので、未完角筒容器の形状精度を担保しながら正確かつ迅速・容易にトリムできる。
【0103】
さらにまた、完成角筒容器70が、2次電池(リチウムイオン電池)用ケースであるから、電気自動車等に求められる低コストで高品質の充放電器を提供できるとともに世界環境保全にも大きく貢献できる。
【0104】
なお、以上の実施の形態では、ステンレス鋼製角筒容器が2次電池用ケース(リチウムイオン電池用ケースを含む。)とされていたが、これらに限定されるものでなく、電子部品、化学機器等々にも適応される。
【符号の説明】
【0105】
1 角筒容器の製造装置
10 プレス機
11 ダイス
21 パンチ
23 スリーブ
30 焼鈍炉
40 トリム機
50 変形加工機
51 ダイス(金型)
55 変形加工凸部
55A 変形加工凹部
61 パンチ(金型)
63 スリーブ(金型)
65 変形加工凹部
65A 変形加工凸部
70 角筒容器
71 容器本体
74 上部開口縁
74L 上部開口縁長直辺
74S 上部開口縁短直辺
81 製品外フランジ部
85、85A 折曲部(変形部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼製材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形し、
成形後の未完角筒容器の一部を構成する製品外フランジ部に変形部を成形し、
次いで変形部が成形された製品外フランジ部を残したままの未完角筒容器全体に焼鈍処理を施し、
しかる後に未完角筒容器から製品外フランジ部をトリム加工して完成角筒容器を製造することを特徴とする、ステンレス鋼製角筒容器の製造方法。
【請求項2】
A工程:ステンレス鋼製材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形する。
B工程:プレス絞り加工後の未完角筒容器を構成する容器本体と一体でかつ上部開口縁直辺から外側に広がる製品外フランジ部に当該製品外フランジ部の剛性を高める変形部を成形する。
C工程:変形部が成形された製品外フランジ部を残したままの未完角筒容器全体に焼鈍処理を施す。
D工程:焼鈍処理後の未完角筒容器から製品外フランジ部をトリム加工して完成角筒容器を製造する。
以上のA,B、CおよびD工程をこの順で実行することを特徴とする、ステンレス鋼製角筒容器の製造方法。
【請求項3】
前記変形部は、上部開口縁直辺に対する断面2次モーメントを大きくする形態とされている、請求項2記載のステンレス鋼製角筒容器の製造方法。
【請求項4】
前記未完角筒容器の平面形状が各2つの長直辺と短直辺とからなる長方形とされかつ前記変形部が上部開口縁長直辺側の製品外フランジ部のそれぞれに成形されている、請求項2または3に記載されたステンレス鋼製角筒容器の製造方法。
【請求項5】
前記焼鈍処理が移動中の未完角筒容器に連続して行われる、請求項2〜4のいずれか1項に記載されているステンレス鋼製角筒容器の製造方法。
【請求項6】
前記完成角筒容器が2次電池ケースである、請求項2〜5のいずれか1項に記載されているステンレス鋼製角筒容器の製造方法。
【請求項7】
ステンレス鋼系材料に複数段のプレス絞り加工を順番に施して未完角筒容器を成形するプレス機の後方に変形加工機と焼鈍炉とトリム機とを配置し、
変形加工機が、プレス機においてプレス絞り加工された未完角筒容器を構成する容器本体と一体でかつ上部開口縁直辺から外側に広がる製品外フランジ部に当該製品外フランジ部の剛性を高めるための変形部を成形可能に形成され、
焼鈍炉が、該変形部が成形された製品外フランジ部を残したままの未完角筒容器を受け入れて焼鈍処理可能とされ、
トリム機が、焼鈍処理後の未完角筒容器から製品外フランジ部を除去するトリム加工が可能とされ、
プレス機と変形加工機と焼鈍炉とトリム機との当該各工程を順番に実行することにより完成角筒容器を製造可能に形成されている、ステンレス鋼製角筒容器の製造装置。
【請求項8】
前記変形加工機は、金型交換によって前記変形部の形態を変更可能に形成されている、請求項7記載のステンレス鋼製角筒容器の製造装置。
【請求項9】
前記焼鈍炉は、前記変形加工機側から前記トリム機側に向かって移動中の未完角筒容器に連続焼鈍処理可能である、請求項7または8に記載されているステンレス鋼製角筒容器の製造装置。
【請求項10】
前記トリム機は、未完角筒容器の姿勢を前記プレス機によるプレス絞り加工時の姿勢とは上下反転させた状態として前記製品外フランジ部を除去するトリム加工が可能に形成されている、請求項7〜9のいずれか1項に記載されているステンレス鋼製角筒容器の製造装置。
【請求項11】
前記完成角筒容器が、リチウムイオン電池ケースである、請求項7〜11のいずれか1項に記載されているステンレス鋼製角筒容器の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−6024(P2012−6024A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142238(P2010−142238)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】