説明

スパッタリングターゲットの製造方法、スパッタリングターゲット、スパッタリング装置

【課題】成膜性に優れる金属酸化物の大型スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなる、被スパッタ面を有する複数の板状のターゲット片を準備することを含む。これらの複数のターゲット片は、各々の被スパッタ面が面一となるように並べられる。これらの複数のターゲット片は、その境界部分に、第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料を充填されることで連結される。境界部分は、被スパッタ面に合わせて平滑化される。
これにより、成膜性に優れる金属酸化物の大型スパッタリングターゲットを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな被スパッタ面積を有するスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等に用いられるFPD(Flat Panel Display)の製造工程の一つに、スパッタリングによりガラス基板に電極膜を成膜する工程がある。スパッタリングでは、成膜材料であるスパッタリングターゲット(以下、ターゲット)をイオンでスパッタし、ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子をガラス基板に付着させる。ここで、FPDサイズの大型化に伴い、用いられるターゲットのサイズも大型化しており、例えば、1m×2m程度の大きさのものが存在する。
【0003】
ターゲットの材料が金属である場合、柔軟で延性が高いため、比較的容易に大型のターゲットを製造することが可能である。一般的には、溶解、焼結等によりインゴットが形成され、鍛造、圧延、熱処理等の後、切削加工されることで、所定形状のターゲットが製造される。
一方、ターゲットの材料が金属酸化物である場合、脆く、硬いため上述のような方法で大型のターゲットを製造することは困難である。そこで、例えば、原料粉末を成型して高温で焼結し、切削加工及び研削加工により製造される(粉末焼結法)。
製造されたターゲットは、冷却機構を有するバッキングプレート上にロウ材(接合媒体)によりボンディング(貼付)される。
【0004】
ここで、ターゲットを上述の粉末焼結法で製造する場合、その大きさは制限を受ける。これは、焼結炉の大きさにより限定されること、及び、加熱時の熱応力により生じる反りやクラックを防止する必要があるためである。このため、複数枚の小型のターゲット片を敷き詰めてボンディングし、大型のターゲットとすることが行われる。
【0005】
この場合、隣接するターゲット片との間に間隙が存在すると、(1)ターゲット片の縁部間での異常放電、(2)ロウ材のターゲット側壁への付着、(3)間隙底部のロウ材に起因するパーティクルの発生、(4)間隙に堆積した膜に起因する異常放電やパーティクルの発生等の問題が生じるおそれがある。そこで、複数のターゲット片を組み合わせて形成される大型ターゲットについて種々の製造方法が開発されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、複数のターゲット片がバッキングプレートに接着されたスパッタリングターゲットにおいて、各ターゲット片の端面が被スパッタ面に対して斜めに形成されている分割型スパッタリングターゲットが開示されている。
また、特許文献2には、複数のITO(Indium Tin Oxide)ターゲット片の間隙に金属Inを充填したITOターゲットが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−105389号公報(段落[0018]、図1)
【特許文献2】特開平08−144052号公報(段落[0034]、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のスパッタリングターゲットでは、ターゲット片間に間隙が存在するため、ターゲット片間で異常放電が生じてパーティクル(不純物粒子)が発生する可能性があり、あるいは間隙内にスパッタ粒子の一部が堆積し(逆デポ膜)、パーティクルの原因となるおそれがある。
特許文献2に記載ITOターゲットでは、インジウムが酸化されて絶縁体となり、ターゲット片間で異常放電が発生するおそれがあり、また、ターゲット片と金属インジウムの材質が異なるため、成膜された透明導電膜の特性にむらが生じるおそれがある。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、成膜性に優れる金属酸化物の大型スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなる、被スパッタ面を有する複数の板状のターゲット片を準備することを含む。
上記複数のターゲット片は、各々の上記被スパッタ面が面一となるように並べられる。
上記複数のターゲット片は、その境界部分に、上記第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料を充填されることで連結される。
上記境界部分は、上記被スパッタ面に合わせて平滑化される。
【0011】
本発明の一形態に係るスパッタリングターゲットは、複数の第1の部分と、第2の部分とを具備する。
上記第1の部分は、第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなり、被スパッタ面を形成する第1の面を有する。
上記第2の部分は、上記複数の第1の部分の境界部分に形成されて上記複数の第1の部分を連結し、上記第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料からなる、上記第1の面と面一な第2の面を有する。
【0012】
本発明の一形態に係るスパッタリング装置は、ターゲットと、スパッタ機構と、真空槽とを具備する。
上記ターゲットは、第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなり被スパッタ面を形成する第1の面を有する複数の第1の部分と、上記複数の第1の部分の境界部分に形成されて上記複数の第1の部分を連結し上記第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料からなる上記第1の面と面一な第2の面を有する第2の部分とを有する。
上記スパッタ機構は、上記ターゲットをスパッタする。
上記真空槽は、上記ターゲットを収容する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなる、被スパッタ面を有する複数の板状のターゲット片を準備することを含む。
上記複数のターゲット片は、各々の上記被スパッタ面が面一となるように並べられる。
上記複数のターゲット片は、その境界部分に、上記第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料を充填されることで連結される。
上記境界部分は、上記被スパッタ面に合わせて平滑化される。
【0014】
上記スパッタリングターゲットの製造方法では、複数のターゲット片の間に当該ターゲット片と同種の合金材料が充填される。このため、各ターゲット片の境界部に起因するパーティクルの発生量は低減され、各ターゲット片間での異常放電も発生しない。また、ターゲット片と充填された合金材料の構成原子種が同一であるため、スパッタ速度も同等である。これにより、成膜性に優れる金属酸化物の大型スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0015】
上記合金材料を充填する工程は、上記合金材料を溶融して流入させる工程と、上記合金材料を固化させる工程とを含んでもよい。
【0016】
これにより、ターゲット片間に上記合金材料を効率的に充填することが可能となる。
【0017】
上記面一となるように並べる工程は、上記ターゲット片を個々にバッキングプレートに接合する工程を含んでもよい。
【0018】
これにより、バッキングプレート付きのスパッタリングターゲットを効率よく製造することができる。また、合金材料の充填前にターゲット片を所望の位置に位置決めすることが可能となる。
【0019】
上記構成原子種は、インジウム、スズ、酸素を含んでもよい。
【0020】
この構成によれば、成膜性に優れた大型のITOターゲットを安定して製造することが可能となる。
【0021】
上記第1の組成は、例えば、In90%−SnO10%とすることができ、上記第2の組成は、In−Sn10%−O(0.5%〜5%)とすることができる。なお、各組成割合の数値は重量%である。
【0022】
本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットは、複数の第1の部分と、第2の部分とを具備する。
上記第1の部分は、第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなり、被スパッタ面を形成する第1の面を有する。
上記第2の部分は、上記複数の第1の部分の境界部分に形成されて上記複数の第1の部分を連結し、上記第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料からなる、上記第1の面と面一な第2の面を有する。
【0023】
上記スパッタリングターゲットは、複数のターゲット片の間に当該ターゲット片と同種の合金材料が充填される。このため、各ターゲット片の境界部に起因するパーティクルの発生量は低減され、各ターゲット片間での異常放電も発生しない。また、ターゲット片と充填された合金材料の構成原子種が同一であるため、スパッタ速度も同等である。これにより、成膜性に優れる金属酸化物の大型スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0024】
本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置は、ターゲットと、スパッタ機構と、真空槽とを具備する。
上記ターゲットは、第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなり被スパッタ面を形成する第1の面を有する複数の第1の部分と、上記複数の第1の部分の境界部分に形成されて上記複数の第1の部分を連結し上記第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料からなる上記第1の面と面一な第2の面を有する第2の部分とを有する。
上記スパッタ機構は、上記ターゲットをスパッタする。
上記真空槽は、上記ターゲットを収容する。
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係るスパッタリング装置1を示す模式図である。
なお、以下に示すスパッタリング装置1はマグネトロンスパッタリング装置であるとするが、これに限られず、他の形式のスパッタリング装置であってもよい。
【0026】
図1に示すように、スパッタリング装置1は、ターゲット部2と、基板ステージ3と、真空槽4を有する。ターゲット部2及び基板ステージ3は真空槽4中に、対向して配置されている。成膜対象物である基板Wが基板ステージ3に載置されている。真空槽4には、真空槽4を所定の真空度に排気するための排気ライン12と、真空槽4にプロセスガスを導入するためのガス導入ライン13とがそれぞれ接続されている。
【0027】
ターゲット部2は、基板Wに対してスパッタ粒子を放出する。ターゲット部2はターゲット5、バッキングプレート6、支持部7、アースシールド8、磁気回路9を有する。ターゲット5はバッキングプレート6にボンディングされ、バッキングプレート6は支持部7により真空槽4に支持されている。バッキングプレート6の裏面(ターゲット5と反対側の面)側には磁気回路9が配置されている。
【0028】
ターゲット5は、真空槽4の内部に生成されたプラズマ中のイオンによりスパッタされる。詳細は後述する。
バッキングプレート6は、基板ステージ3との間に電場を発生させる第1の電極としての機能と、ターゲット5を冷却する機能を有する。バッキングプレート6は導電性を有し、冷却機構を備える。また、バッキングプレート6は図示しない外部電源に接続されている。
支持部7は、バッキングプレート6を支持し、真空槽4に対して電気的に絶縁する。
アースシールド8は、バッキングプレート6や支持部7等のターゲット5以外の部材がスパッタされることを防止する。
磁気回路9は、ヨーク10と、磁石11を有し、ターゲット5のスパッタ表面に磁場分布を形成する。
【0029】
基板ステージ3は、基板Wを支持する機能と、バッキングプレート6との間に電場を発生させる第2の電極としての機能を有する。基板ステージ3は、導電性を有し、図示しない外部電源に接続されている。
真空槽4は、槽内の圧力を維持する。真空槽4には、排気ライン12とガス導入ライン13が接続されている。
【0030】
以上のように構成されるスパッタリング装置1の作用について説明する。
【0031】
基板Wが基板ステージ3に載置され、排気ライン12により真空槽4の槽内が真空排気される。ガス導入ライン13によりアルゴンガスが真空槽4に所定の圧力となるまで導入される。バッキングプレート6と基板ステージ3との間に電圧が印加され、磁気回路9によりターゲット5の表面に磁場が形成されることで、ターゲット5と基板Wの間にアルゴンプラズマが生成される。
【0032】
プラズマ中のイオンがターゲット5の表面(被スパッタ面)に衝突し、ターゲット5の構成材料の原子を含む粒子(スパッタ粒子)が放出される。スパッタ粒子は、対向する基板Wの表面に付着し、薄膜を形成する。
スパッタ粒子の放出と同時に発生する二次電子は、磁場によるローレンツ力によって捉えられ、サイクロイドまたはトロコイド運動することによりアルゴンガスとのイオン化衝突の頻度が増大し、ターゲット5付近に高密度プラズマが生成し、成膜速度が高速化する。
以上のようにして、ターゲット5の構成原子が基板Wに成膜される。
【0033】
ターゲット5について説明する。
図2はターゲット5を示す斜視図である。
図2(A)はバッキングプレート6にボンディングされたターゲット5を示し、図2(B)は図2(A)の一部を拡大して示す。
【0034】
これらの図に示すように、ターゲット5は、ターゲット領域5a(第1の部分)と連結領域5b(第2の部分)から構成されている。2つのターゲット領域5aが連結領域5bを介して隣接している。なお、ターゲット領域5aは2つに限られず、より多くのターゲット領域5aが形成されていてもよい。
本実施形態に係るターゲット5は、ITO(Indium Tin Oxide)ターゲットである。組成比は、例えば、In90%−SnO10%である。
【0035】
ターゲット領域5aは酸化インジウムスズの粉末焼結体からなり、板状の形状を有する。ターゲット領域5aの大きさは、焼結の際の加熱炉の大きさ、あるいは熱応力による変形(クラック、反り等)が生じない大きさなどに応じて適宜設定することができる。
ターゲット領域5aはバッキングプレート6に、図示しないインジウム製のロウ材によりボンディングされている。
連結領域5bは、ターゲット領域5aの材料組成と構成原子種が同一の組成を有する合金材料で構成される。本実施形態では、連結領域5bは、酸化インジウムスズの合金材料からなる。組成は、例えばIn−Sn10%−O0.5%である。連結領域5bは、隣接するターゲット領域5aを連結している。連結領域5bは、ターゲット領域5aの表面に合わせて平滑化され、ターゲット領域5a及び連結領域5bの表面によって、被スパッタ面が構成されている。連結領域5bは直線状に限られず、隣接するターゲット領域5aの形状に合わせて段状、曲線状等であってもよい。
なお、スパッタリング装置1の磁気回路9の配置により、連結領域5bを、スパッタが進行しない、または遅い領域(非エロージョン領域)上とすることも可能である。
【0036】
ターゲット5の製造方法について説明する。
図3は、ターゲット5の製造方法を示す図である。
同図に示すように、本実施形態のターゲットの製造方法は、ターゲット片5cを作製あるいは準備する工程と、ターゲット片5cをバッキングプレート6に接合する工程と、ターゲット片5cの間に合金溶液5dを充填する工程とを有する。
【0037】
ターゲット片5cは、例えば以下のようにして作製することができる。
ITO粉末を型に充填して成型し、焼結する。又は、ホットプレス、HIP(Hot Isostatic Pressing)等により焼成する。
切削加工及び研削加工により所定の厚み、大きさに切り出す。切り出す大きさは、熱応力による変形(クラック、反り等)が発生しない大きさである。
【0038】
合金溶液5dは以下のようにして形成される。
In−Sn合金にITO粉末を添加し、酸素雰囲気中でプラズマ溶解してIn−Sn−O合金インゴットとする。In−Sn−O合金インゴットの酸素含有量はITO添加量及び酸素雰囲気の酸素濃度で制御される。In−Sn−Oの合金材料インゴットを大気中で融点以上に加熱し、合金溶液とする。
【0039】
図3(A)に示すように、ターゲット片5cをバッキングプレート6に、各々の表面(被スパッタ面)が面一となるようにボンディングする。ボンディングの際に、2つのターゲット片5cの間にスペーサーを差し込んで、合金溶液5dを充填するための間隙を形成する。
【0040】
図3(B)に示すように、ボンディングの際に形成されたターゲット片5c間の間隙に、合金溶液5dを流し込む。この際、ターゲット片5c(バッキングプレート6)を例えば100℃に加熱しておく。100℃以下であると、合金溶液5dを流し込むとき、ターゲット片5cが熱応力で割れることがある。これにより、合金溶液5dの凝固を抑制できる。ターゲット片5cの側面に遮蔽板を充てて合金溶液5dの流出を防止する。なお、流し込みを容易にするため、予めターゲット片5cの間隙に面する部分にIn又はIn−Snの薄膜をコーティングし、あるいは流し込む際に超音波振動を与えてもよい。
【0041】
合金溶液5dが冷却されて固化した後、バリをとり平滑化する。
以上のようにして、ターゲット5が製造される。
【0042】
一般に、ターゲットは、スパッタ中にプラズマに曝されて加熱されるが、バッキングプレートは冷却機構により冷却されているため、ターゲットより低温となる。そのため、ターゲットは、バッキングプレートに比較して熱膨張を生じ、熱応力を受ける。ターゲットが熱応力を吸収しきれなければ、反り、クラック等の変形を生じる。
本実施形態に係るターゲット5は、当該変形を生じない程度の大きさであるターゲット領域5aが、延性を有する連結領域5bで連結されて形成されているため、連結領域5bにより熱応力が緩和され、変形を生じない。
【0043】
ターゲットは、スパッタ中に高電圧を印加されるため、スパッタ面に異常放電(アーキング)が発生し得る。異常放電が発生するとパーティクルが生じ、成膜品質が低下する。ターゲット間に間隙(絶縁体)が存在していると、間隙を挟んで隣接するターゲット間で異常放電が発生し易くなる。
本実施形態に係るターゲット5は、ターゲット領域5aが導電性を有する連結領域5bで連結されて形成され、かつ、平滑化されているため、間隙に起因する異常放電は発生し得ない。
【0044】
ターゲットはバッキングプレートにロウ材によりボンディングされる。ターゲットの間に間隙が存在する場合、ロウ材がターゲットの間隙に面する面に付着し、あるいは、間隙の底部に存在し、スパッタ時にパーティクルの原因となる。
本実施形態に係るターゲット5は、ロウ材が連結領域5bにより封止されているため、ロウ材に起因するパーティクルが発生しない。また、連結領域5bは、ターゲット領域5aと構成原子種が同一であるため、連結領域5bがスパッタされてもパーティクルの発生量を低減することができる。
【実施例】
【0045】
実際にターゲット5を製造し、そのターゲット5を用いて成膜し、パーティクル数の評価を行った。以下に実施例及び比較例を示す。
【0046】
(実施例1)
ITO(In90%−SnO10%)焼結体からなるターゲット片5cを2枚作製した。密度は99%、大きさは150mm×400mmで、厚さは6mmとした。
In−Sn10%−O0.5%の合金材料インゴットを加熱し、合金溶液5dを作製した。
【0047】
バッキングプレート6に、2枚のターゲット片5cを、その短辺(150mm)が隣接するように配置し、Inロウ材によりボンディングした。その際に0.5mmのスペーサーを差し込み、0.5mmの間隙を設けた。
【0048】
ボンディングされた2枚のターゲット片5cの間隙に、合金溶液5dを流し込んだ。
合金溶液5dが冷却され固化した後、バリを取り平滑化した。
以上のようにして、ターゲット領域5aが連結領域5bにより連結された、大きさ150mm×800mm、厚さ6mmのITOターゲット5が作製された。
【0049】
次に、ターゲット5をスパッタリング装置1に取り付けてスパッタし、パーティクルを評価した。
スパッタ条件は、スパッタガス(アルゴンガス)圧力0.5Pa、酸素濃度1%、投入電力はターゲット面積当たり1W/cmである。成膜対象物である基板Wとしてガラス基板を用いた。
【0050】
事前に別の成膜対象物に200μm成膜してターゲット5の被スパッタ面を安定させ、基板Wを基板ステージ3に取り付けて1500Å成膜した。
基板W上に成膜されたITO薄膜について粒径0.5μm以上のパーティクルの個数を計数した。
【0051】
図4は、基板W上の測定点を示す。
同図に示すように、基板W上の、ターゲット領域5aと対向する4点と、連結領域5bと対向する3点でパーティクルを計測した。ターゲット領域5a上の測定点Paにおけるパーティクル数の平均値は13個であり、連結領域5b上の測定点Pbにおけるパーティクル数の平均値は15個であった。
【0052】
(実施例2)
実施例1と同様に、ターゲット5を製造して成膜を行い、パーティクル数を計測した。
実施例1と異なる点は、合金溶液5dとなる合金材料インゴットの組成が、In−Sn10%−O2%である点である。
Paにおけるパーティクル数の平均値は14個、Pbにおける同平均値は15個であった。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同様に、ターゲットを製造して成膜を行い、パーティクル数を計測した。
実施例1と異なる点は、合金溶液5dとなる合金材料インゴットの組成が、In−Sn10%−O0.1%である点である。
Paにおけるパーティクル数の平均値は15個、Pbにおける同平均値は23個であった。
【0054】
(比較例2)
実施例1と異なり、連結領域を有しない(間隙を有する)ターゲットを製造して成膜を行い、パーティクル数を計測した。
実施例1と同一のターゲット片を2枚作製し、バッキングプレートに実施例1と同様にボンディングした。
ターゲット片の隔壁に面する面を洗浄してInロウ材等の付着物を除去し、ターゲット5とした。
実施例1と同様に成膜を行い、パーティクル数を計測した。
Paにおけるパーティクル数の平均値は20個、Pbにおける同平均値は35個であった。なお、Pbは、ターゲットの間隙と対向する点である。
【0055】
以上のように、実施例1及び2では、PaとPbにおけるパーティクル数の平均値が同程度であった。これは、ターゲット片5cを合金溶液5dにより連結することにより、パーティクル数を増加させることなく大型のターゲットを製造することが可能であることを示す。
【0056】
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得る。
【0057】
ターゲットの材質はITO(Indium Tin Oxide)であるとしたが、これに限られない。AZO(Aluminum Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)等の材質からなるターゲットについても、本発明を適用することが可能である。
【0058】
ターゲット片5cがボンディングされた際に形成される間隙は直線状に限られない。例えば、ターゲット片5cがマトリクス状に配列された場合には、格子状の間隙が形成される。この場合、合金溶液5dは、一度の操作により充填されてもよく、複数回に分けて充填されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態に係るスパッタリング装置1を示す模式図である。
【図2】ターゲット5を示す斜視図である。
【図3】ターゲット5の製造方法を示す図である。
【図4】基板W上の測定点を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 スパッタリング装置
2 ターゲット部
3 基板ステージ
4 真空槽
5 ターゲット
5a ターゲット領域
5b 連結領域
5c ターゲット片
5d 合金溶液
6 バッキングプレート
7 支持部
8 アースシールド
9 磁気回路
10 ヨーク
11 磁石
12 排気ライン
13 ガス導入ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなる、被スパッタ面を有する複数の板状のターゲット片を準備し、
前記複数のターゲット片を各々の前記被スパッタ面が面一となるように並べ、
前記複数のターゲット片の境界部分に、前記第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料を充填することで前記複数のターゲット片を連結し、
前記境界部分を前記被スパッタ面に合わせて平滑化する
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記合金材料を充填する工程は、
前記合金材料を溶融して流入させる工程と、
前記合金材料を固化させる工程とを含む
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記面一となるように並べる工程は、前記ターゲット片を個々にバッキングプレートに接合する工程を含む
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記構成原子種は、インジウム、スズ、酸素を含む
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記第1の組成は、In90%−SnO10%であり、
前記第2の組成は、In−Sn10%−O(0.5%〜5%)である
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなり、被スパッタ面を形成する第1の面を有する複数の第1の部分と、
前記複数の第1の部分の境界部分に形成されて前記複数の第1の部分を連結し、前記第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料からなる、前記第1の面と面一な第2の面を有する第2の部分と、
を具備するスパッタリングターゲット。
【請求項7】
請求項6に記載のスパッタリングターゲットであって、
前記構成原子種は、インジウム、スズ、酸素を含む
スパッタリングターゲット。
【請求項8】
請求項7に記載のスパッタリングターゲットであって、
前記第1の組成は、In90%−SnO10%であり、
前記第2の組成は、In−Sn10%−O(0.5%〜5%)である
スパッタリングターゲット。
【請求項9】
第1の組成を有する金属酸化物焼結体からなり被スパッタ面を形成する第1の面を有する複数の第1の部分と、前記複数の第1の部分の境界部分に形成されて前記複数の第1の部分を連結し前記第1の組成と構成原子種が同一である第2の組成を有する合金材料からなる前記第1の面と面一な第2の面を有する第2の部分とを有するターゲットと、
前記ターゲットをスパッタするスパッタ機構と、
前記ターゲットを収容する真空槽と、
を具備するスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−106330(P2010−106330A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281023(P2008−281023)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000192372)アルバックマテリアル株式会社 (21)
【Fターム(参考)】