説明

スパッタリングターゲット

【課題】 イオンビームスパッタやマグネトロンスパッタ法で形成された、異なる2種類の膜材料界面で相互拡散や相互反応のない多層膜が形成可能なスパッタリングターゲットの提供。
【解決手段】 炭化硼素を主成分としたターゲットにアルカリ金属又はアルカリ金属の化合物を1種又は2種以上含む炭化硼素(B4C)ターゲットで、前記アルカリ金属又はアルカリ金属の化合物は、リチウム(Li)又はリチウム化合物を1種又は2種以上含む炭化硼素(B4C)ターゲットであるスパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極端紫外(EUV)光を反射する光学素子で、一般に知られているMoとSi構成の多層膜ミラーの界面で起こる相互拡散や相互反応を防止する中間層に関するものである。特に、13.4nm帯のEUV波長で高反射率が要求されているMo/Si構成のEUV多層反射ミラーの中間層材料である炭化硼素膜を成膜するスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられている極端紫外(EUV)光を反射するEUV多層膜ミラーは13.4nmで吸収の少ない軽元素で高屈折率材料あるSiと重元素で低屈折率材料あるMoが交互に所定の膜厚で繰り返し形成された多層構造となっていた。
【0003】
しかしながらMoとSiの界面では、相互拡散や相互反応を起こしシリサイドが形成され界面の粗れや屈折率変化等が起こり期待通りの反射率や帯域幅が得られない等の問題が発生していた。
【0004】
これらの問題を解決するためにMoとSiの界面に水素化層を形成しシリサイド反応を防止する方法(例えば、特許文献1参照。)や、第1及び第2材料であるMoとSiの界面に第3の材料であるRb、RbCl、RbBr、Sr、Y、Zr、Ru、Rh、Tc、Pd、Nb、Beを含む族、並びにそれらの材料の合金および化合物を含む中から選択する(例えば、特許文献2参照。)等が提案されている。
【特許文献1】特開平5−297194号公報
【特許文献2】特開2001−51106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の第1及び第2,第3材料の多層膜形成方法として主にイオンビームスパッタやマグネトロンスパッタが用いられる。一般に前記イオンビームスパッタやマグネトロンスパッタで形成された膜は成膜方法の原理から未結合手が多くせっかく相互拡散や相互反応を防止する第3材料を入れても効果は薄かった。
【0006】
従って、本発明の目的は、イオンビームスパッタやマグネトロンスパッタ法で形成された、異なる2種類の膜材料界面で相互拡散や相互反応のない多層膜が形成可能なスパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のスパッタリングターゲットは、炭化硼素を主成分としたターゲットにアルカリ金属又はアルカリ金属の化合物を1種又は2種以上含む炭化硼素(B4C)ターゲットで、前記アルカリ金属又はアルカリ金属の化合物は、リチウム(Li)又はリチウム化合物を1種又は2種以上含む炭化硼素(B4C)ターゲット。更に前記のアルカリ金属の化合物は、硼化リチウム又は炭化リチウム、フッ化リチウムを1種又は2種以上含む炭化硼素(B4C)ターゲットで達成される。
【発明の効果】
【0008】
実際のEUV多層膜ミラーは、膜構成A/C/B/Cが所望の膜厚で繰り返し形成された構成で、A層は軟X線の使用波長で低屈折率を有する材料、B層は高屈折率を有する材料、C層は前記の異なる2種材料間の相互拡散や相互反応を防止する中間層でアルカリ金属又はアルカリ金属の化合物を含む炭化硼素(B4C)で構成され、イオンビームスパッタやマグネトロンスパッタ法で形成されている。
【0009】
中間層のC層が無い一般的なA層(Mo)/B層(Si)構成の場合、Mo膜上にSi膜を形成した時と逆にSi膜上にMo膜を形成した場合では相互拡散や相互反応が起きたシリサイド層の厚さが異なる。同様にイオンビームスパッタやマグネトロンスパッタ法で形成される成膜方法でもシリサイド層の厚さが異なる。これらは、スパッタ粒子のエネルギーの差によるものと考えられる。
【0010】
シリサイド形成を防止する方法として炭化硼素(B4C)の中間層でMoとSi層を挟み込む対策がとられている。
【0011】
しかしながら一般的にスパッタリングで形成された膜は、アルゴン(Ar)をイオン化してターゲット材料をたたき出す成膜方法なので、特に化合物ターゲット材料の炭化硼素(B4C)を成膜する場合、基板上でストイキオメトリーな炭化硼素膜にすることは非常に困難で、未結合手(ダングリングボンド)を数多く有する炭化硼素膜となってしまう。
【0012】
この未結合手は、活性で膜構成A層のMoやB層のSiと結合し相互拡散や相互反応が起きて安定する。
【0013】
実際にB4Cターゲットを用い20nm以上の膜厚の単層膜を成膜して大気中に取り出すとB4C膜中のダングリングボンドと大気中の酸素や水と反応し体積が膨張して膜の密着力よりも膜の応力が大きくなり膜が剥離する現象が現れる。一方、本発明のLi入りのB4Cターゲットを用いて前記同様の単層膜を形成して大気にさらしてもダングリングボンドがターミネートされているので膜が剥離する現象は見られなかった。
【0014】
この様に本発明では、中間層C層を成膜する時、炭化硼素(B4C)ターゲット中に1価のアルカリ金属又はアルカリ金属の化合物を入れたターゲットでスパッタリングすることにより前記の未結合手をターミネートして安定化させることで相互拡散や相互反応を抑えさらに防止効果を高めるものである。
【0015】
特にアルカリ金属は、極端紫外(EUV)光波長で吸収の少ないリチウムが好ましく又、アルカリ金属化合物は、前記同様に極端紫外(EUV)光波長でB4Cに比べ吸収係数の小さいボロンとリチウム化合物であるLiB2、LiB12やフッ化リチウムが好ましい。
【0016】
更に効率良くダングリングボンドをターミネートさせるには、膜中のリチウム量が多くなるLiF入りのB4Cターゲットが好ましい。このターゲットはスパッタ中にLiFは分解されLiとFになり一部のFはF2ガスとなって排気される。従って膜中には、LiリッチのB4C膜となる。
【0017】
又、リチウムは金属元素の中で一番イオン半径が0.074nmと小さくボロン、炭素の隙間に入り込むことが可能で未結合手をターミネートする確率が高いことが言える。
【0018】
以上の様に、本発明は、軟X線を光源としたEUV多層膜ミラーの膜構成A/C/B/Cが所望の膜厚で繰り返し形成されている多層膜ミラーに於いて、A層は前記軟X線の使用波長で低屈折率を有する材料、B層は高屈折率を有する材料、C層は前記の異なる2種材料間の相互拡散や相互反応を防止する中間層でアルカリ金属又はアルカリ金属の化合物を含む炭化硼素(B4C)更に詳細に言えばリチウム(Li)又はリチウム化合物であるLiB2、LiB12やLiFを含む炭化硼素(B4C)のターゲットで成膜することで中間層C層を成膜時に発生する未結合手を1価のアルカリ金属であるLiでターミネートが出来、相互拡散や相互反応を抑えさらに防止効果を高めるものである。
【0019】
相互拡散や相互反応の防止を更に高めた界面は滑らかな界面が形成される。従って各層の滑らかな界面が反射面となり更に干渉で強め合い高反射率のEUV多層膜ミラーを提供することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態による極端紫外(EUV)光を反射するEUV多層膜ミラーの断面図である。図1に示す実施形態のEUV多層膜ミラーの断面は、表面が平滑なミラー基板1に極端紫外(EUV)光に対し吸収が小さく且つ屈折率の大きな材料2及び屈折率の小さな材料3と前記同様使用波長に対し吸収が小さく且つ材料2と3の中間の屈折率を有する材料4をサンドイッチさせた構成を繰り返し積層する。例えば材料2はシリコン(Si)ターゲットで、材料3はモリブデン(Mo)ターゲットで、材料4はアルカリ金属やアルカリ金属化合物を含む炭化硼素ターゲットでそれらを繰り返し成膜して積層したものである。
【0022】
この多層構造における各層の厚さは、各層の境界面で反射される前記EUV光が互いに強め合う値に設定され、モリブデンは約4nmでシリコンは約3nm又、材料4のアルカリ金属やアルカリ金属化合物を含む炭化硼素は約0.5nmである。
【実施例】
【0023】
本発明の実施形態による極端紫外(EUV)光を反射するEUV多層膜ミラーのMoとSi及びアルカリ金属化合物を含む炭化硼素の多層膜成膜は、下記の手順で行われる。
【0024】
図2は成膜装置概略構成で、凹凸又は平面の形状を有する表面が滑らかな基板1が基板ホルダーにセットされた状態で真空チャンバー5の内部をメインバルブ6を介してメインポンプであるクライオポンプやターボ分子ポンプ等の排気系7で排気する。真空チャンバー内部の到達圧力が1*10−5Pa以下に十分に排気された後、ガス供給系8よりマスフローコントローラ9で制御されたアルゴンガスをモリブデン(Mo)ターゲット10とシリコン(Si)ターゲット11、アルカリ金属化合物と炭化硼素の比率が異なるターゲット12、13に各々10sccm供給する。マスフローコントローラで制御されたアルゴンガスは、回転ガス導入機構を介してモリブデン(Mo)とシリコン(Si)カソードに供給され真空チャンバー内部の圧力は、0.06Paとなる。次にスパッタ電源14より各カソードに200Wのスパッタ電力を供給すると各ターゲットとアース間で放電が形成される。各ターゲット表面のクリーニング及びターゲット温度が一定となり成膜速度が安定したところでSiターゲット前面のシャッター15を開き凹凸又は平面形状を有する基板の膜厚が均一となる条件で第1層を成膜する。シリコンの膜厚が3nm成膜した後Siのシャッターを閉じる。次にターゲット切り替え駆動系16でターゲットを切り替え上記同様な操作でアルカリ金属やアルカリ金属化合物を含む炭化硼素を0.5nm、Moの成膜を4nm、アルカリ金属やアルカリ金属化合物を含む炭化硼素0.5nm形成する。これらのシリコン(Si)とモリブデン(Mo)、アルカリ金属やアルカリ金属化合物を含む炭化硼素の4層を1対として40から50対繰り返し積層する。更に最終層をSi膜で成膜して終了する。
【0025】
尚、アルカリ金属やアルカリ金属化合物を含む炭化硼素ターゲットは、B4C粉末とリチウム化合物であるLiB2、LiB12やLiF粉末を最適な比率で混合し高圧にてプレスしたターゲットや更に高温で焼成したターゲットを用いる。この場合前記材料の混合比率は、13.5nmの屈折率変化がするが、最適設計を行えば反射率に影響しない。
【0026】
又、前記材料の13.5nmにおける吸収係数はほぼ等しいので前記同様反射率に影響を与えることは無い。従って、ダングリングボンドをターミネートさせる最適な比率のターゲットを用いることが出来る。
【0027】
最後にスパッタ電力の供給及びガス導入を停止した後、メインバルブを閉じ真空チャンバー内部にN2ガスを供給して大気開放し基板を取り出し成膜工程は終了する。
【0028】
本発明は上述のとおり構成されている極端紫外(EUV)光を反射するEUV多層膜ミラーを作成出来、以下に記載するような効果を奏する。
【0029】
膜構成A/C/B/Cが所望の膜厚で繰り返し積層されている多層膜ミラーに於いて、A層は前記極端紫外(EUV)光の使用波長で低屈折率を有する材料、B層は高屈折率を有する材料、C層は前記の異なる2種材料間の相互拡散や相互反応を防止する中間層でアルカリ金属又はアルカリ金属の化合物を含む炭化硼素(B4C)更に詳細に言えばリチウム(Li)又はリチウム化合物であるLiB2、LiB12、LiFを含む炭化硼素(B4C)のターゲットで成膜することで中間層C層を成膜時に発生する未結合手を1価のアルカリ金属であるLiでターミネートすることで相互拡散や相互反応を抑えさらに防止効果を高めるものである。
【0030】
相互拡散や相互反応の防止を更に高めた界面は滑らかな界面が形成される。その結果、各層の滑らかな界面が反射面となり更に干渉で強め合い高反射率のEUV多層膜ミラー光学部品を提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態によるEUV多層膜ミラーの断面図
【図2】本発明の実施の形態によるスパッタ装置の断面模式図
【符号の説明】
【0032】
1 ミラー基板
2 材料(シリコン(Si))
3 材料(モリブデン(Mo))
4 材料(アルカリ金属やアルカリ金属化合物を含む炭化硼素)
5 真空チャンバー
6 メインバルブ
7 排気系
8 ガス供給系
9 マスフローコントローラ
10 モリブデン(Mo)ターゲット
11 シリコン(Si)ターゲット
12 アルカリ金属化合物を含む炭化硼素ターゲット(高濃度)
13 アルカリ金属化合物を含む炭化硼素ターゲット(低濃度)
14 スパッタ電源
15 シャッター
16 ターゲット切り替え駆動系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化硼素を主成分としたターゲットにアルカリ金属又はアルカリ金属の化合物を1種又は2種以上含む炭化硼素(B4C)ターゲットであることを特徴としたスパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1記載のスパッタリングターゲットにおいて、リチウム(Li)又はリチウム化合物を1種又は2種以上含む炭化硼素(B4C)ターゲットであることを特徴としたスパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項2記載のスパッタリングターゲットに於いて、硼化リチウム又は炭化リチウム、フッ化リチウムを1種又は2種以上含む炭化硼素(B4C)ターゲットであることを特徴としたスパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−249553(P2006−249553A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70938(P2005−70938)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】