説明

スパッタリング装置

【課題】ディスク基板上に、所望の膜厚分布の薄膜を形成する。
【解決手段】回転するディスク基板11とスパッタターゲット25との間に、ディスク基板に形成しようとする薄膜の膜厚分布に基づいてその形状が形成された遮蔽部材50Aを配置した状態で、ディスク基板11の記録領域10aに対するスパッタリングを行う。これにより、スパッタターゲット25から射出される粒子の一部が、形成しようとする薄膜の膜厚分布に基づいて遮蔽され、ディスク基板11上の記録領域10aに、所望の膜厚分布の薄膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置に係り、更に詳しくは、スパッタターゲットから射出された粒子を基板の表面に付着させることにより薄膜を形成するスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CD(Compact Disk)やDVD(Digital Versatile Disk)に代表される従来型の光ディスクを越えた記録容量をもつ次世代型光ディスクの規格が提案され、波長400nm程度のレーザ光(以下、ブルーレーザ光という)によって情報の記録再生が行われる、例えば、HD DVD(High Definition DVD)、BD−R(Blu-ray Disc Recordable)などの次世代型光ディスクが商品化されるに至っている。
【0003】
一般に、光ディスクでは、情報が記録される記録領域は複数の薄膜が積層形成された多層構造となっており、各層での膜厚分布が光ディスクの記録再生特性を決める1つの要素となっている。このため、ディスク基板上に薄膜を形成する際には、その膜厚分布を精度よく制御する必要があり、この課題を解決するために種々の技術が開示されている(例えば特許文献1、及び特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に記載の技術は、回転するディスク基板とスパッタターゲットとの間に、ディスク基板上の成膜領域の一部を遮蔽する遮蔽板を配置して、成膜領域に間欠的に成膜を行うことで、特性が均質な薄膜を形成することを目的とする方法である。また、特許文献2に記載の技術は、成膜途中でディスク基板の外周部を被覆する外周マスクを取外し、ディスク基板上に成膜される薄膜外縁部の膜厚を確保することを目的とする方法である。
【0005】
【特許文献1】国際公開第2003/036633号パンフレット
【特許文献2】特開2002−324335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された遮蔽板は、薄膜の成膜を間欠的に行うためのチョッパーの役割を担うものであるため、この方法では、ディスク基板上に所望の膜厚分布の薄膜を積極的に形成することができない。また、特許文献2に記載の方法は、薄膜外縁部の膜厚を確保することは可能であるが、ディスク基板上に所望の膜厚分布の薄膜を積極的に形成することはできない。更に、ディスク基板の外縁部にも薄膜が形成されてしまうため、その後のプロセスで付加される紫外線硬化樹脂コーティングよる保護層や、保護フィルムとの良好な接着性が得られないという不都合もある。
【0007】
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、ディスク基板上に所望の膜厚分布の薄膜を形成することが可能なスパッタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転するディスク基板にスパッタターゲットから射出された粒子を付着させて、前記ディスク基板上に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、前記ディスク基板を回転させる回転装置と;前記ディスク基板に形成する薄膜の分布に基づいて、前記ディスク基板表面の前記薄膜が形成される成膜領域の一部を、前記スパッタターゲットから射出された粒子から遮蔽する遮蔽部材と;を備えるスパッタリング装置である。
【0009】
これによれば、回転するディスク基板上の成膜領域は、遮蔽部材によってその一部がディスク基板に形成する薄膜の所望の膜厚分布に基づいて、スパッタターゲットから射出された粒子から遮蔽される。これにより、ディスク基板上の成膜領域に、所望の膜厚分布の薄膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図8に基づいて説明する。図1は、本実施形態にかかる光ディスク10を示す平面図である。この光ディスク10は、一例として、波長が400nm程度のレーザ光によって情報の記録及び再生が可能なHD DVD−Rであり、図1に示されるように、中央に円形開口11aが形成された円形板状のディスク基板11を有している。ディスク基板11は、例えば直径120mm、厚さ1mm程度の円形板状の基板であり、ディスク基板11の中心oを中心とする半径R1の円と、半径R3の円によって規定される領域が、ブルーレーザ光に対応した記録領域10aとなっている。
【0011】
図2は、光ディスク10断面を示す図である。図2に示されるように、記録領域10aでは、ディスク基板11の表面に、第1誘電体層12、記録層13、第2誘電体層14、反射層15、オーバーコート層16が積層形成され、オーバーコート層16が形成されたディスク基板11の表面には接着層17を介してダミー基板18が接着されている。
【0012】
前記ディスク基板11は、ガラス、セラミック、ポリカーボネイト、アクリル、又はポリオレフィンなどの樹脂を射出成形することにより製造され、その上面には螺旋状のグルーブ溝が形成されている。
【0013】
前記記録層13は、色素材料を含んで構成されている。この記録層13は、第1誘電体層12が形成されたディスク基板11の表面に、色素材料をスパッタリングすることによって形成することができる。
【0014】
なお、前記色素材料としては、シアニン系色素、ピリリウム系・チオピリリウム系色素、アズレニウム系色素、スクワリリウム系色素、Ni、Crなどの金属錯塩系色素、ナフトキノン系・アントラキノン系色素、インドフェノール系色素、インドアニリン系色素、トリフェニルメタン系色素、トリアリルメタン系色素、アミニウム系・ジインモニウム系色素、ニトロソ化合物、アゾ系色素、フタロシアニン系色素等を用いることができる。
【0015】
前記第1誘電体層12、及び前記第2誘電体層14それぞれは、記録層13を保護する保護膜としての機能を有し、記録層13の上下にそれぞれ形成されている。これらの誘電体層12,14は、金属や半導体の酸化物、硫化物、窒化物、炭化物等の透明性が高い高融点材料を、ディスク基板11の表面、又は記録層13が形成されたディスク基板11の表面にスパッタリングすることで形成することができる。各誘電体層12,14の材料としては、SiOx、ZnO、SnO2、Al2O3、TiO2、In2O3、MgO、ZrO2、Ta2O5等の金属酸化物、Si3N4、AlN、TiN、BN、ZrN等の窒化物、ZnS、TaS4等の硫化物、SiC、TaC、B4C、WC、TiC、ZrC等の炭化物を用いることができる。
【0016】
前記反射層15は、レーザ光に対する反射率が高い金属材料を含んで構成されている。この反射層15は、Mg、Se、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ca、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Si、Ndなどの金属及び半金属を、第2誘電体層14が形成されたディスク基板11の表面にスパッタリングすることによって形成することができる。
【0017】
前記オーバーコート層16は、紫外線に対して硬化性を有する紫外線硬化性材料を、上記各層12〜15が積層形成されたディスク基板11の表面にスピンコートし、この材料を紫外線を照射して硬化させることによって形成されている。
【0018】
前記ダミー基板18は、ディスク基板11と同等の素材からなり、接着剤によってオーバーコート層16が形成されたディスク基板11の表面に貼り付けられている。また、前記接着層17は、ダミー基板18とディスク基板11とを接着する接着剤が硬化することにより形成される層である。
【0019】
接着剤としては、例えば、紫外線硬化接着剤やカチオン系紫外線硬化接着剤などの紫外線が照射されることで接着能を発揮する接着剤(紫外線硬化接着剤)などを用いることができる。
【0020】
次に、上述のように構成された光ディスク10のディスク基板11に、第1誘電体層12、記録層13、第2誘電体層14、反射層15を形成するスパッタリング装置100について説明する。
【0021】
図3は、スパッタリング装置100の概略構成を示す図である。スパッタリング装置100は、図3に示されるように、バッキングプレート23を介してスパッタターゲット25が装着されたスパッタリングカソード21と、スパッタリングカソード21と対向するように、上述した光ディスク10のディスク基板11を回転可能に保持する回転ユニット30、回転ユニット30とスパッタリングカソード21との間で遮蔽部材50Aを支持する環状部材35、上記各部を収容する真空チャンバ20A、真空チャンバ20Aの+X側に固定されたケーシング20B、ケーシング20Bの内部に収容されたマグネット40、及び上記各部を制御する制御装置(不図示)などを含んで構成されている。
【0022】
前記真空チャンバ20Aは、一例として、内部が所定の真空状態に維持された、X軸方向を母線方向とする円筒状のチャンバである。
【0023】
前記スパッタリングカソード21は、ZX断面がT字状の部材であり、回転ユニット30に保持されたディスク基板11に対向する円形板状の電極部と、電極部から+X方向へ延設され、真空チャンバ20Aの内部からケーシング20Bの内部に引き込まれた延設部の2部分を有している。
【0024】
前記電極部の−X側の面にはバッキングプレート23を介してスパッタターゲット25が装着されている。バッキングプレート23は、一例として、内部に冷却水が循環され、スパッタターゲット25及びスパッタリングカソード21と、冷却水との間で熱交換を行うことで、スパッタターゲット25及びスパッタリングカソード21の温度上昇を抑制する。また、前記スパッタターゲット25は、ディスク基板11上に形成される各層12〜15に対応して選択され、スパッタリングカソード21に装着される。
【0025】
前記回転ユニット30は、ディスク基板11を吸着保持する円形板状の基板ホルダ31と、この基板ホルダ31を、X軸に平行な軸回りに所定の回転数で回転させる回転機構32を備えている。
【0026】
図4(A)は、基板ホルダ31を、ディスク基板11とともに示す斜視図であり、図4(B)は、図4(A)における基板ホルダ31及びディスク基板11を−Y側から見た図である。
【0027】
ディスク基板11は、その中心が基板ホルダ31の回転中心に位置決めされた状態で基板ホルダ31に保持されている。また、図4(A)及び図4(B)を総合して見るとわかるように、ディスク基板11の表面(+X側の面)の、円形開口11aを囲む領域が内周マスク34によって遮蔽され、ディスク基板11の表面の外縁部が外周マスク33によって遮蔽されることで、図1に示されるディスク基板11の記録領域10aのみが、スパッタターゲット25に対して露出した状態となっている。
【0028】
また、ディスク基板11を遮蔽する外周マスク33は、ディスク基板11の表面を被覆する部分が、ディスク基板11の内周部に向かって薄くなるテーパー形状となっている。そして、内周マスク34は、ディスク基板11の表面を被覆する部分が、ディスク基板11の外周部に向かって薄くなるテーパー形状となっている。
【0029】
図5(A)は、環状部材35とその近傍を示す斜視図であり、図5(B)は、環状部材35とその近傍を示す側面図である。前記環状部材35は、例えばアルミニウムを素材とし、内径がディスク基板11の外径よりも大きい環状の部材である。この環状部材35は、外周面が真空チャンバ20Aの内壁面に固定されることで、図5(A)及び図5(B)に示されるように、基板ホルダ31の+X側近傍に配置されている。
【0030】
前記遮蔽部材50Aは、長手方向をZ軸方向とする板状の部材である。この遮蔽部材50Aは、図5(A)及び図5(B)に示されるように、その中心が基板ホルダ31の回転軸上に位置決めされた状態で、両端部が環状部材35の上面に例えばネジ等によって固定されている。
【0031】
図6は、遮蔽部材50Aと、ディスク基板11に形成される記録領域10aを模式的に示す図である。上述した遮蔽部材50Aは、その中心が基板ホルダ31に保持されたディスク基板11の中心と一致し、図6に示されるように、その形状は、ディスク基板11の中心部に対応する位置から、ディスク基板11の半径方向に向かって一定の割合で広がり、ディスク基板11上の、半径がR2の円の周上の位置に対応する位置から、半径がR1の円の周上の位置に対応する位置にかけて一定の割合で収束する形状となっている。
【0032】
つまり、遮蔽部材50Aが、ディスク基板11上の記録領域10aとの関係で、記録領域10aの内周縁から半径R2の円の周上の位置に対応する位置までは角度がθ1の扇状となり、記録領域10aの半径R2の円の周上の位置に対応する位置から、半径R1の円の周上の位置に対応する位置までは所定の割合で収束する形状に成形されることで、遮蔽部材50Aと記録領域10aの外縁部とで規定されるギャップGPが形成されている。
【0033】
ここで、記録領域10aの内周縁から扇状に広がる部分を、説明の便宜上、単に扇状部と略述する。また、本実施形態では遮蔽部材50Aの扇状部外縁の角度θ1は、42.6度であり、半径R1の値は59.5mm、半径R2の値は55mm、半径R3の値は25mmとなっている。
【0034】
また、本実施形態では、遮蔽部材50Aの表裏面は、例えばアルミニウムによる溶射処理が施されている。なお、溶射処理とは、溶融、又は軟化したコーティング材料(金属、セラミック、プラスチックなど)を、対象物に吹き付けることにより、被膜を形成する表面処理技術の一つである。遮蔽部材50Aに溶射処理を施すことにより、その表面に、微粒子が重なり合った構造の、表面が粗い多孔質の膜を形成することができる。一般的な溶射処理の方法としては、アーク溶射、フレイム溶射、プラズマ溶射などが挙げられ、コーティング材料の種類や対象物の種類によって使い分けられている。
【0035】
図1に戻り、前記マグネット40は、前記スパッタリングカソード21の延設部が挿入された環状の電磁石であり、真空チャンバ20Aに固定されたケーシング20Bの内部に収容されている。このマグネット40は、真空チャンバ20Aの内部の磁界を制御することで、真空チャンバ20Aの内部のプラズマ密度を調整する。
【0036】
前記制御装置(不図示)は、一例としてCPUや、上記各部を制御するプログラムやパラメータが格納されたメモリなどを含んで構成された制御用コンピュータである。この制御装置は、上位装置又はユーザからの指令に基づいて、上記各部を制御する。
【0037】
次に、上述したスパッタリング装置100を用いてディスク基板11に薄膜を形成する方法について説明する。前提として、ディスク基板11には、第1誘電体層12を形成することとし、スパッタターゲット25としては、第1誘電体層12を構成する材料を含むものが選択されているものとする。また、真空チャンバ20Aの内部のプラズマ密度は、グネット40によって、スパッタリングに最適な状態に調整されているものとする。
【0038】
スパッタリング装置100では、制御装置が、上位装置又はユーザからの運転開始指令を受け取ると、回転機構32によって基板ホルダ31が所定の回転数で回転される。これによって、記録領域10aのみが露出するディスク基板11が所定の回転数で回転される。
【0039】
そして、スパッタリングカソード21が通電されることで、スパッタターゲット25からは、ディスク基板11に形成される薄膜(第1誘電体層12)の原料となる粒子が射出される。射出された粒子のうち、一部は遮蔽部材50Aによって遮蔽され、残りが回転するディスク基板11表面の記録領域10aに到達し付着することで、ディスク基板11の表面に第1誘電体層12が形成される。
【0040】
なお、光ディスク10に形成される他の記録層13、第2誘電体層14、反射層15も同様に形成される。
【0041】
図7は、スパッタリング装置100によって、ディスク基板11の記録領域10aに形成された薄膜(例えば第1誘電体層12)の、半径位置に対する膜厚の相対値(以下、膜厚相対値という)を示す図である。なお、図中の曲線Lで示される膜厚相対値は、遮蔽部材50Aを取外した状態で、ディスク基板11へ形成した薄膜の膜厚相対値であり、曲線Lで示される膜厚相対値は、上述のように遮蔽部材50Aを用いてスパッタターゲット25からの粒子の一部を遮蔽した状態で、ディスク基板11へ形成した薄膜の膜厚相対値であり、曲線Lで示される膜厚相対値は、後述する遮蔽部材50Bを用いてスパッタターゲット25からの粒子の一部を遮蔽した状態で、ディスク基板11へ形成した薄膜の膜厚相対値である。また、膜厚相対値とは、ディスク基板11の中心から40mmの位置(半径が40mmの円周上の位置)における膜厚を1としたときの各位置で膜厚の相対値をいう。
【0042】
遮蔽部材50Aを用いることなく、ディスク基板11の記録領域10aに薄膜を形成した場合には、曲線Lに示されるように、記録領域10aの外周部、具体的には、ディスク基板11の中心から45mmの位置近傍から59.5mmの位置近傍までの領域(以下、最外周部という)で膜厚相対値の低下が見られた。そして、その最小相対値は0.98程度であった。一方、遮蔽部材50Aを用いて、ディスク基板11の記録領域10aに薄膜を形成した場合には、記録領域10aの最外周部で、膜厚相対値の低下が見られず、最外周部での膜厚相対値を最大1.06まで増加させることができた。
【0043】
このような結果となるのは、スパッタターゲット25からの粒子が、図6に示される記録領域10aの外縁と遮蔽部材50Aとによって規定されるギャップGPを通過して、ディスク基板11の中心へ向かって回りこみ、その粒子がディスク基板11表面の、半径R2の円の少し内側から半径R1の円の近傍の領域にかけて堆積するためである。
【0044】
また、遮蔽部材50Aに代えて、スパッタリング装置100に、図8に示される遮蔽部材50Bを装着して、ディスク基板11に薄膜を形成したところ、その膜厚相対値は図7の曲線Lで示されるようになった。なお、遮蔽部材50Bは、図8を参酌するとわかるように、その扇状部の外縁の角度θ2が31.4度となっている点で遮蔽部材50Aと相違している。
【0045】
遮蔽部材50Bを用いて形成された薄膜では、記録領域10aの最外周部では、膜厚の相対値の低下が見られず、最外周部での膜厚相対値が最大1.01まで増加した。図7に示されるように、この薄膜の膜厚相対値は、曲線L及び曲線Lでそれぞれ示される膜厚相対値のほぼ中間の値となった。
【0046】
このような結果となるのは、遮蔽部材50Bは遮蔽部材50Aに比べて、半径R2の円で規定される領域を遮蔽する面積が小さいため、記録領域10aの、外縁部の膜厚に対して、外縁部以外の領域の膜厚が相対的に大きくなるためである。
【0047】
以上説明したように、本実施形態にかかるスパッタリング装置100では、遮蔽部材50A,50Bを用いることで、記録領域10aの外縁部で膜厚が減少することを回避することができる。また、遮蔽部材50Aの扇状部の形状(角度)を変更することで、記録領域10aの外縁部の膜厚を増減させることも可能である。すなわち、ディスク基板11上に形成される薄膜に要求される膜厚分布に応じて、遮蔽部材の扇状部の形状(角度)を変えることで、所望の膜厚分布の薄膜をディスク基板11上に形成することが可能となる。
【0048】
一般に、スパッタリング装置によってディスク基板上に形成される薄膜の形状は、上に凸の弓形をしており、その膜厚の均一性は、平均膜厚に対して約±3%以下程度である。特に、ディスク基板の外周縁付近では、外周マスク33の影響を受け、急激に膜厚が低下する傾向にある。膜厚分布や膜厚の均一性は、主にディスク基板に対するスパッタターゲットの材料のサイズや距離、プラズマの密度と分布を制御しているマグネトロンの磁界によって決まる。基本的に、スパッタターゲットの材料やマグネトロンのサイズが大きくなれば、膜厚の均一性は改善されるが、必然的にスパッタリグ装置のサイズも大きくなってしまい、装置の高コスト化、装置の設置面積の拡大など、光ディスクの生産コストに影響を及ぼしてしまう。本実施形態にかかるスパッタリング装置100では、スパッタリング装置自体の大幅な改造を必要とすることなく、所望の膜厚分布の薄膜をディスク基板11上に形成することが可能となる。
【0049】
また、記録領域10a上にディスク基板11の中心を中心とする半径rの円Cを規定したときに、円Cの円周の長さをA(r)、円Cの円周のうち遮蔽部材によって遮蔽される円周の長さをB(r)、スパッタターゲット25からの回り込み係数をkとすると、k・(B(r)/A(r))によって定義される遮蔽率によって、遮蔽部材の形状を規定することができる。
【0050】
rの値が図6におけるR4からR1までの範囲で変化するときに、遮蔽率が一定である場合には、例えば遮蔽部材50A,50BのギャップGAのような遮蔽部材に粒子が回りこむ回り込み部が形成されないが、遮蔽率が変化する場合には、遮蔽部材に粒子が回りこむ回り込み部が形成される。したがって、k・(B(r)/A(r))で表される遮蔽率(R4≦r≦R1)を、ディスク基板11上に形成される薄膜に要求される膜厚分布に応じて、決めることで、所望の膜厚を形成するための遮蔽部材の形状を定義することができる。
【0051】
特に、上記遮蔽率を記録領域10aの外縁部で最も小さくして、粒子が回りこむ部分を形成することで、記録領域10aの外縁での膜厚の減少を回避することができる。
【0052】
なお、上述した遮蔽部材50A,50Bのように、ディスク基板11上に形成される薄膜の外縁部の膜厚の減少を回避するだけではなくて、遮蔽部材の形状を調整することで、記録領域10aの所望の位置における膜厚を増加あるいは減少させることができる。例えば図9に示される形状の遮蔽部材50Cを用いて、ディスク基板11の記録領域10aに薄膜を形成することで、薄膜の膜厚相対値は、例えば、図10の曲線Lで示されるようになる。この曲線Lは、曲線Lを上下反転させた形状であり、薄膜の内周側と外周側の膜厚が増加していることを示している。なお、遮蔽部材50Cは、図9に示されるように、遮蔽部材50Aと異なり、扇状部が、ディスク基板11の中心を中心とする半径R4の円の周上の位置に対応する位置から半径R2の円の周上の位置に対応する位置にかけて形成されている。
【0053】
このように、遮蔽部材の形状を調整することで、ディスク基板11の記録領域10aに、任意の膜厚分布の薄膜を形成することができる。なお、遮蔽部材には、必ずしも扇状部が形成されている必要はなく、例えば扇状部に代えて、上述の遮蔽率が連続的に変化する曲線状の輪郭を有する部分を設けてもよい。
【0054】
なお、遮蔽部材によって遮蔽される記録領域10aの面積は、記録領域10a全体の面積の50%未満とすることが好ましい。記録領域10aを遮蔽すると、記録領域10aに形成される薄膜の成膜速度が低下してしまい、結果的に光ディスク10の生産性が低下してしまうからである。
【0055】
また、本実施形態にかかる遮蔽部材50A,50Bは、ディスク基板11の回転軸に対して対称な形状となっている。記録領域10aの一部を遮蔽することにより、薄膜の膜厚分布を変化させる場合には、成膜時間に対して、ディスク基板11の回転速度が速くなければ円周方向の膜厚分布が悪化してしまうことが考えられるが、遮蔽部材50A,50Bの形状を点対称とすることで、円周方向の膜厚分布の悪化を回避することが可能となる。
【0056】
また、ディスク基板11の周期をT、薄膜の成膜時間をSとすると、周期Tと成膜時間Sは次式(1)に示される関係であることが望ましい。なお、nは自然数であり、Cは周期Tより小さい定数である。
【0057】
S=T×n+C …(1)
【0058】
これにより、遮蔽部材50A,50Bを用いて薄膜の膜厚分布の調整を行う際に、円周方向の膜厚分布が悪化することを回避することができる。
【0059】
また、本実施形態では、遮蔽部材50A,50Bの表裏面は、例えばアルミニウムによる溶射処理が施されている。溶射処理を施すことにより、遮蔽部材50A,50Bの表面粗さの値が大きくなり、スパッタターゲットからの粒子が付着する表面積を大きくすることができる。また、溶射被膜の表面の凹凸により、付着した粒子を機械的に食い付かせて保持するアンカー効果も期待できる。さらに、溶射被膜は、微粒子が重なり合った構造をしており、遮蔽部材の母材の表面より機械的柔軟性に富み、粒子の堆積により形成される膜により生じる応力を緩和する効果も期待できる。つまり、遮蔽部材表面に形成された膜が剥がれてパーティクルとなり、ディスク基板に形成される薄膜の欠陥となることを抑制することができる。
【0060】
また、溶射処理はアルミニウム以外の材料である、例えば銅などを用いてもよいが、膜の保持力、表面粗さ、マスク母材との密着性、材料コスト、安定性などの観点からアルミニウムを用いるのが最適である。また、溶射被膜は50μm以上とすることが望ましい。
【0061】
また、本実施形態では光ディスク10を、HD DVD−Rとした説明を行ったが、これに限らず、光ディスク10は、BDなど薄膜が積層された記録領域を有する光記録媒体であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明のスパッタリング装置は、ディスク基板上に薄膜を製造するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る光ディスク10の平面図である。
【図2】光ディスク10の断面を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置100の概略構成を示す図である。
【図4】図4(A)は、基板ホルダ31を、ディスク基板11とともに示す斜視図であり、図4(B)は、基板ホルダ31及びディスク基板11を−Y側から見た図である。
【図5】図5(A)は、環状部材35とその近傍を示す斜視図であり、図5(B)は、環状部材35とその近傍を示す側面図である。
【図6】遮蔽部材50Aと、ディスク基板11に形成される記録領域10aを模式的に示す図である。
【図7】記録領域10aに形成された薄膜の膜厚相対値を示す図(その1)である。
【図8】遮蔽部材50Bと、ディスク基板11に形成される記録領域10aを模式的に示す図である。
【図9】遮蔽部材50Cと、ディスク基板11に形成される記録領域10aを模式的に示す図である。
【図10】記録領域10aに形成された薄膜の膜厚相対値を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0064】
10…光ディスク、10a…記録領域、11…ディスク基板、11a…円形開口、12…第1誘電体層、13…記録層、14…第2誘電体層、15…反射層、16…オーバーコート層、17…接着層、18…ダミー基板、20A…真空チャンバ、20B…ケーシング、21…スパッタリングカソード、23…バッキングプレート、25…スパッタターゲット、30…回転ユニット、31…基板ホルダ、32…回転機構、33…外周マスク、34…内周マスク、35…環状部材、40…マグネット、100…スパッタリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するディスク基板にスパッタターゲットから射出された粒子を付着させて、前記ディスク基板上に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
前記ディスク基板を回転させる回転装置と;
前記ディスク基板に形成する薄膜の分布に基づいて、前記ディスク基板表面の前記薄膜が形成される成膜領域の一部を、前記スパッタターゲットから射出された粒子から遮蔽する遮蔽部材と;を備えるスパッタリング装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、前記ディスク基板の回転軸からの距離が異なる少なくとも2つの位置で、前記成膜領域に対する遮蔽率が異なっていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記遮蔽部材は、前記成膜領域上の前記ディスク基板の回転軸から最も離れた位置に対応する位置での前記遮蔽率が最も小さいことを特徴とする請求項2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材には、前記成膜領域上の前記ディスク基板の回転軸から最も離れた位置に対応する位置に、前記ディスク基板に到達する前記粒子が回り込む回り込み部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記遮蔽部材によって遮蔽される成膜領域の面積は、成膜領域全体の面積の50%未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記遮蔽部材は、前記ディスク基板の回転軸に関して対称形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記ディスク基板に薄膜を形成する時間は、前記ディスク基板が回転される回転周期の正数倍に、前記回転周期より小さい時間を加えた時間であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記遮蔽部材は、少なくとも前記成膜領域に対向する面とは反対側の面に溶射処理がなされていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記遮蔽部材は、アルミニウムによる溶射処理が施されていることを特徴とする請求項8に記載のスパッタリング装置。
【請求項10】
前記溶射処理によって、前記遮蔽部材の表面に形成される被膜の厚さは50μm以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−54247(P2009−54247A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221586(P2007−221586)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】