説明

スパッタ方法による成膜方法、リチウム二次電池用負極の製造方法及びリチウム二次電池

【課題】 ターゲットの交換が容易で、しかもターゲットの冷却を容易に行うことができ、低コストで成膜が可能であり、更には得られる膜の膜厚分布が小さい成膜方法を提供する。
【解決手段】 スパッタ法による成膜方法において、ターゲットとして複数の粒状物を用い、該粒状物がこれを収容可能な凹部5,6を有するターゲットバッキングプレート2内に収容されており、スパッタガス3を、該ガスが粒状物の隙間を通過するように該ターゲットバッキングプレート凹部から供給すること、を特徴とする成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾式成膜法であるスパッタ法による成膜方法、該成膜方法によるリチウム二次電池用負極の製造方法、及び該製造方法で得られた負極を有するリチウム二次電池関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品や電子部品の製造における成膜方法として、スパッタ法は広く利用されている。スパッタ法は、様々な用途の薄膜形成に用いられており、近年、リチウム二次電池の負極をスパッタ法により形成する事も盛んに行なわれている。スパッタ法は、成膜したい材料であるターゲットを、プラズマによりイオン化されたスパッタリングガスによりたたき、ターゲット材料を構成する原子・分子を表面からはじき出すこと(スパッタリング)で成膜を行う方法である。
【0003】
スパッタ法に用いるターゲットとしては、成膜したい材料よりなる一体に加工された円板形状のものを使用するのが一般的であり、場合によっては、異なる材料の板を組み合わせた複合ターゲットが用いられる。又、ターゲットは、一般的に銅などの熱伝導性の良いターゲットバッキングプレート(以下、バッキングプレートということがある。)に、低融点で熱伝導の良いインジウムなどを介してボンディングされ、使用される。又、マグネトロン式カソードターゲット部の場合には、バッキングプレートの下に磁石が配置される。成膜中にターゲットの温度が上昇すると、バッキングプレートからターゲットが外れる危険性が高まる事や得られる膜の膜質、膜組成、成膜速度などの点で好ましくないことから、通常、バッキングプレートと磁石は水冷され、バッキングプレート上のターゲットの温度上昇を抑えている。又、スパッタガスは、装置の側壁又はターゲット近傍から供給されることが広く行われている(例えば、図3参照)。
【0004】
一方、特許文献1には、ターゲット冷却法に関して、ターゲットの裏面から離間してバッキングプレートを配置し、その空隙にスパッタガス等のガスを供給し、そのガスによりターゲットとバッキングプレートを接触させる事なく効率よく冷却する方法が記載されている(図4参照)。
【特許文献1】特開平6-65726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウム二次電池用の負極等の分野においては、例えば膜厚が数μmと比較
的厚い薄膜を成膜する必要があるが、厚い膜を成膜するということは、それだけターゲットの消費が激しくなる事を意味し、ターゲット交換を頻繁に行なう必要が生じ、また、ターゲット交換にはターゲットをバッキングプレートに固定するためのボンディング作業が発生し、生産性上は好ましくない。
【0006】
簡便にターゲット交換出来るようにする工夫として、ボンディング に代えてボルトで
ターゲットとバッキングプレートを固定する方法がある。しかしながら、この場合、ターゲットの裏面とバッキングプレートの表面との粗さと平滑性が影響し、熱膨張などによってターゲットやバッキングプレートに歪みが生じて隙間が空き、冷却効率が低下することがあった。
【0007】
上記特許文献1の方法では、効率的にターゲットを冷却することが可能であるが、この
方法でもターゲットの消耗を抑えることは出来ず、消耗したターゲットの取り替え作業が頻繁に発生する。ターゲット交換は、装置を大気開放して行なうため装置の停止時間が発生し、立上げにも時間を要するので生産性が低下する。さらに、ターゲット交換作業に不具合があった場合は、水漏れ等の危険性もあり、頻繁にターゲット交換することは望ましくない。また、ターゲットを所定のサイズ及び形状に加工する必要があり、煩雑であると共に高コストとなり、工業上不利益である問題がある。
【0008】
即ち、本発明は、ターゲットの交換が容易で、しかもターゲットの冷却を容易に行うことができ、低コストで成膜が可能であり、更には得られる膜の膜厚分布が小さい成膜方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、スパッタ装置に使用するターゲットとして粒状物を用い、スパッタ用ガスを、該ガスが粒状物の隙間を通過するように供給することにより、上記課題を解決することを見出し本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、スパッタ法による成膜方法において、ターゲットとして複数の粒状物を用い、該粒状物がこれを収容可能な凹部を有するターゲットバッキングプレート内に収容されており、スパッタガスを、該ガスが粒状物の隙間を通過するように該ターゲットバッキングプレート凹部から供給すること、を特徴とする成膜方法、に存する。
【0010】
他の要旨は、上記の成膜方法を用いてリチウム二次電池用負極を製造する方法であって、ターゲットとして負極活物質層を形成可能な物質を使用し、集電体上に成膜することを特徴とするリチウム二次電池用負極の製造方法、に存する。更に他の要旨は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極、正極と、電解質を備えたリチウム二次電池において、負極が上記記載の製造方法で製造された負極であることを特徴とするリチウム二次電池、に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成膜方法は、板状のターゲットを製造する必要がないため、低コストであると共に、ターゲットをバッキングプレートにボンディングする或いは交換するための煩雑な作業が不要でターゲット交換が簡便で、メンテナンス性に優れ、しかも得られる膜の膜厚の均一性に優れるとの効果を有し、工業上極めて有用である。特に、本発明の成膜方法をリチウム二次電池の負極の製造に適用することにより、工業上有利にリチウム二次電池用の負極の製造が可能であり、膜厚が均一であることから、得られる電池のサイクル特性も良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
本発明の成膜方法は、スパッタ法によるものである。スパッタ法は、上述の通り、成膜したい材料であるターゲットを、プラズマによりイオン化されたスパッタリングガスによりたたき、ターゲット材料を構成する原子・分子を表面からはじき出すこと(スパッタリング)で成膜を行う方法である。
【0013】
スパッタ装置のターゲット部は、成膜する材料よりなるターゲット、ターゲットバッキングプレートなどにより構成される。
本発明におけるターゲットとしては、複数の粒状物(以下、粒状ターゲットということ
がある。)が用いられる。粒状物の形状は特に限定されず、球状、角柱状、不規則な複数の角部を有する不規則な形状の粒等のいずれでもよい。
【0014】
その大きさは、通常、標準ふるいで目開き16.0mmを通過する大きさであり、一方、目開き2.00mmを通過しない程度の大きさである。
又、粒状物の大きさは、平均等面積円径が通常1mm以上、好ましくは、2mm以上、また通常15mm以下、好ましくは10mm以下、特に好ましくは7mm以下、中でも5mm以下である。
【0015】
尚、平均等面積円径は、以下のように測定される。
(平均等面積円径の測定)
測定する粒状物をカメラ台に置いた試料受けにばらまき、重ならないようにピンセットなどを使って動かし、倍率が校正されたカメラによる画像入力を行う。次に自動二値化、穴埋めを行い、手動で光っている部分の追加、重なっている部分の分離、ノイズの除去を行い、粒子の輪郭がはっきりと認識できるようにする。画像処理を行った後に、計測された面積から円に換算した直径を算出し、これを等面積円径とする。標本数は300個とし、その等面積円径の平均値を平均等面積円径とする。
【0016】
又、後述の本発明の成膜方法では、スパッタガスが粒状ターゲットの間隙を通過するためには程よい空隙を有するのが好ましいが、粒状ターゲットの粒径分布が広いと大きな粒状物の間隙が小さな粒状物で埋められスパッタガスの流通が不均一となる怖れがあり、この点から、等面積円形が平均等面積円形±20%の範囲にある粒状物の割合が80%以上であるのが好ましい。
【0017】
又、複数の粒状ターゲットは、通常、後述のバッキングプレートの凹部に少なくとも一部が重なる状態で収容されるため、粒状物の平均等面積円径は、バッキングプレートの凹部に収容された粒状ターゲットの最大厚み(収容された粒状ターゲットの最底面から最上面の高さ)に対して、通常10%以上、好ましくは20%以上、また、通常50%以下、好ましくは40%以下である。
【0018】
粒状物が小さすぎると、スパッタガスの供給により粒状物が舞い上がる怖れがあり、又、大きすぎると粒子間の隙間が大きくなり、バッキングプレートがスパッタされる怖れがある。
又、本発明の粒状ターゲットは、通常、後述のバッキングプレートの凹部に少なくとも一部が重なる状態で、かつ粒子間をガスが通過しうる適度な間隙を有して収容されるものであり、複数の粒状ターゲットにおける複数の個数は、厳密なものではない。
【0019】
本発明では複数の粒状ターゲットを使用するため、従来使用されていた一体成形された板状のターゲットを用いる場合に比べて、成型が不要であり、コスト上有利であると共に、ボンディング等の固定の操作が不要である利点も有する。
本発明におけるターゲットの材料種は、成膜したい材料に応じて選択すればよく、特に制限はなく、各種金属(含む合金)、金属化合物、混合物等が挙げられる。特に、後述のリチウム二次電池用負極を製造する場合には、電池特性などの面から、シリコン、スズ、ゲルマニウム等の周期律表の第14族の金属、その化合物、及びそれらの混合物などが用いられるが、その中でもシリコンおよびその化合物、混合物が好ましく、特にシリコンが好ましい。
【0020】
第14族金属の化合物としては、第14族元素の酸化物、窒化物、ホウ化物等が挙げられる。又、混合物とは、周期律表の第14族金属及びその化合物から選ばれる少なくとも2種以上の粒状ターゲットを混合して使用することを意味する。
尚、粒状物は、単結晶、多結晶、非晶質のいずれでもよい
本発明のバッキングプレートは、粒状のターゲットを収容可能な凹部を有すし、該凹部にスパッタガスを供給するための開口部(以下、ガス供給口と略する)を有する。粒状タ
ーゲットを収容可能な凹部の形状は、これに収容された複数の粒状ターゲットの間隙をスパッタガスが十分流通する限り特に限定されないが、該凹部は、図1に示されるように、第一の凹部とその内部に形成された第二の凹部を有し、第一の凹部と第二の凹部の境界にスパッタガスが流通可能な孔を有する仕切り板を有し、該粒状物が第一の凹部内の該仕切り板上に収容可能になされているのが、複数の粒状ターゲットの間隙にスパッタガスを均一に供給可能であることから好ましい。また、第二の凹部に更に凹部を有していても良い。
【0021】
第一の凹部の深さ(最上面から第一の凹部の底部までの深さ)は特に限定されないが、上述のとおり、複数の粒状ターゲットが少なくとも一部重なって収容されることから、粒状ターゲットの大きさの通常2〜10倍、好ましくは2〜5倍、より好ましくは2〜3倍程度である。尚、粒状物はできるだけ隙間なく収容するのが好ましく、従って、例えば深さが粒状物の2〜3倍であるとは、粒状物が2〜3個重なる事を意味する。
【0022】
又、第二の凹部の深さ(第一の凹部の底部と、第二の凹部の底部の高さの差)は、通常1mm以下であり、好ましくは0.5mm以下である。深さが大きすぎると、スパッタ時に第二凹部の空間にプラズマが立つ可能性があり、好ましくない。
尚、通常、複数の粒状ターゲットは、第一の凹部の深さいっぱいに粒状物を充填するので、前述の粒状ターゲットの最大厚みは、第一の凹部の深さと略同一となる。
【0023】
又、バッキングプレートは、図1に示されるように第一の凹部と第二の凹部の境界にスパッタリングガスが流通可能な孔を有する仕切り板を備え、粒状ターゲットが第一の凹部内の該仕切り板上に収容されるようになされているのが好ましく、この場合、該仕切り板は、バッキングプレートと一体になって設けられていても、該仕切り板を第一の凹部の底部に配置しても良いが、バッキングプレートの製造の容易さ等から、通常、仕切り板を別途配置されるのが好ましい。
【0024】
該仕切り板の孔は、スパッタガスが流通可能であり、かつ粒状ターゲットを該仕切り板上に保持可能な大きさであれば特に限定されず、該仕切り板としては、パンチングメタルあるいは格子状の網が挙げられる。又、その材質としては熱伝導性の良いものが好ましく、特に好ましくは銅である。
ガス供給口の位置は、収容された複数の粒状ターゲット間にガスが十分に供給される限り限定されないが、複数の粒状ターゲット間に均一にガスを供給する意味から、バッキングプレートが第一の凹部と第二の凹部を有し、ガス供給口が第二の凹部の底部(図1)及び/又は側部(図2)にあるのが好ましい。また、ガス供給口の数は1ヶでも複数個でも
よい。尚、ガス供給口を第二の凹部の底部に1ヶ有する場合には、該底部の中央にあるのが、ガスを均一に供給する上で好ましい。
【0025】
尚、スパッタガスは、通常スパッタリングを行ってターゲット材料の原子・分子を飛ばすために用いられるが、本発明においては、スパッタガスを該ガスが粒状物の隙間を通過するようにバッキングプレート凹部から供給するため、粒状ターゲットの冷却を行う役割も持つ。特に、スパッタガスを第二の凹部に外部から供給する態様においては、第二の凹部内に拡散したスパッタガスが第一の凹部に到達し、粒状ターゲットに到達することとなる。上記のようなバッキングプレート内のスパッタガスの流れは通常下側から上側に向かう方向である。
【0026】
尚、バッキングプレート及び仕切り板の材質としては、銅、真鍮、ステンレス等の金属等の公知のものが使用可能である。
本発明の成膜方法に用いるスパッタ装置としては、特に限定されず、例えば、2極スパッタ装置、3極または4極スパッタ装置、マグネトロンスパッタ装置、高周波スパッタ装
置、リアクティブスパッタ装置、バイアススパッタ装置などが挙げられる。該スパッタ装置のターゲット部は、成膜する材料からなるターゲット及びバッキングプレートを有するターゲット部を有するが、本発明の方法では、該ターゲット部として、上記に詳述した粒状ターゲットとバッキングプレートを用いれば良い。
【0027】
本発明の成膜方法は、ターゲットとして複数の粒状物を用い、該粒状物がこれを収容可能な凹部を有するターゲットバッキングプレート内に収容されており、スパッタガスを、該ガスが粒状物の隙間を通過するようにターゲットバッキングプレート凹部から供給することにより行われる。
該ガスが粒状物の隙間を通過するようにターゲットバッキングプレート凹部から供給するため、上記の成膜方法において、バッキングプレートが、第一の凹部とその内部に形成された第二の凹部を有し、第一の凹部と第二の凹部の境界にスパッタリングガスが流通可能な孔を有する仕切り板を備え、該粒状物が第一の凹部内の該仕切り板上に収容されているのが好ましい。
【0028】
又、スパッタガスを、第二の凹部の底部又は側部から供給するのが好ましい(図1及び図2参照)。
本発明の方法に従って、バッキングプレートの凹部に粒状ターゲットを収容し、該ガスが粒状物の隙間を通過するようにして成膜した場合には、バッキングプレートにインジウムなどによって接着された板状ターゲットを用いて成膜した場合よりも、膜厚分布が改善される。この理由は定かではないが、平らなターゲットよりも粒状物を使用する事によって、粒状物の凸凹部分からスパッタされたクラスター粒子がランダム方向に放射されるためと考えられ、または、スパッタガスの流れが、チャンバー側壁あるいはターゲット近傍に設置された吹き出し冶具から供給する場合よりも粒状物の底から吹上げる方がより均一に供給されるためと考えられる。但し、ターゲット材料由来の材料と反応して反応物を成膜しうるガスを使用し、反応性スパッタ法により成膜してもよい。
<スパッタガス>
スパッタガスとしては、スパッタ法に用いられるものであれば特に制限はないが、通常
は不活性ガス、特にアルゴンガスがコストなどの点で好ましい。
【0029】
スパッタガスの流量は、スパッタ成膜とターゲット冷却が出来れば特に制限はないが、通常1sccm以上、好ましくは5sccm以上、通常500sccm以下、好ましくは200sccm以下である。ここで、sccmは、常温常圧での立方センチを表す。
又、スパッタガスは、上述の通りバッキングプレートの凹部から供給する必要があるが、本発明の効果を損なわない限り、これに加えて、従来の方法に準じてバッキングプレートの凹部以外の任意の個所からスパッタ装置の内部空間に追加して供給しても良い。
【0030】
尚、通常、バッキングプレートは、ターゲットを水冷または空冷により冷却しつつ保持する機能を有しているが、粒状ターゲットを用いた場合には、従来の板状のターゲットを用いる場合に比べてバッキングプレートと粒状ターゲットの接触点が少なく、従ってバッキングプレートによるターゲットの冷却効率が劣り、粒状ターゲットが加熱されて、成膜した膜中にチャンバーからの脱ガスや水分からの酸素が取り込まれやすくなり、膜の品質が劣ることが懸念される。これに対して、本発明においては、スパッタガスが粒状物の隙間を通過することにより、ターゲットである粒状物を十分に冷却することができ、膜の品質の問題も生じない。
【0031】
本発明の成膜方法における具体的条件としては、ターゲットとして粒状ターゲットを使用し、スパッタガスが粒状ターゲットの隙間を通過するように、ガスの供給位置及びガス供給量をコントロールする以外は、従来の方法に準じて行うことができる。必要によりヒーターなどで加熱或いは冷却水などで冷却することにより膜を形成させる基板の温度を0
〜400℃程度、装置内の到達真空度を10-5〜10-1Pa程度、スパッタ時圧力0.1〜100Pa程度、スパッタ電力200W〜1000W程度、成膜時間1分〜120分程度で行われる。
【0032】
尚、上記本発明の成膜方法は、膜を形成させる基板として電池の集電体材料を使用し、ターゲットの材料として負極活物質層を形成可能な物質(例えば、シリコン)を使用することにより、リチウム二次電池用負極の製造に適用可能である。
以下、本発明の成膜方法で製造された負極を用いたリチウム二次電池について説明する。リチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極、正極と、電解質とを備え、また更には、セパレータ、それらを収める外缶などからなる。
以下において、本発明のリチウム二次電池を構成する部材の材料等を例示するが、使用し得る材料はこれらの具体例に制限されるものではない。
【0033】
(負極)
負極活物質としては、従来、理論放電容量が質量当り372mAh/g、体積当たり859mAh/ccである黒鉛化炭素材が用いられてきた。しかし、黒鉛化炭素材については、長年の改良研究により実用化での放電容量の向上が限界に近づいたことから、これに代わる高い理論容量をもつ材料、例えばシリコン、錫などの合金系材料が用いられる。
【0034】
負極活物質の膜厚は、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、また通常30μm以下、好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下である。活物質薄膜の膜厚がこの範囲を下回ると、1枚当たりの容量が小さく、大容量の電池を得るには数多くの負極が必要となり、従って、併せて必要な正極、セパレータ、薄膜負極自体の集電体の総容積が大きくなり、電池容積当たりに充填できる負極活物質量が実質的に減少し、電池容量を大きくすることが困難になる。一方、この範囲を上回ると、充放電に伴う膨張・収縮で、活物質薄膜が集電体基板から剥離する虞があり、サイクル特性が悪化する可能性がある。
【0035】
(負極集電体)
集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス等が挙げられ、中でも薄膜に加工しやすく、安価な銅が好ましい。銅箔には、圧延法による圧延銅箔と、電解法による電解銅箔があり、どちらも集電体として用いることができる。銅箔の片面又は両面には、粗面化処理や表面処理(例えば、クロメート処理、Ti下地処理など)がなされていても良い。
【0036】
(正極)
非水電解質二次電池を構成する正極は、集電体基板上に、正極活物質と、結着及び増粘効果を有する有機物(結着剤)を含有する活物質層を形成してなり、通常、正極活物質と結着及び増粘効果を有する有機物を水或いは有機溶媒中に分散させたスラリー状のものを、集電体基板上に薄く塗布・乾燥する工程、続いて所定の厚み・密度まで圧密するプレス工程により形成される。
【0037】
正極活物質としては、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物;二酸化マンガン等の遷移金属酸化物材料;フッ化黒鉛等の炭素質材料などのリチウムを吸蔵・放出可能な材料を使用することができる。具体的には、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24及 びこれらの非定比化合物、MnO2、TiS2、FeS2、Nb34、Mo34、CoS2、CoS2、V25、P25、CrO3、TeO2、GeO2等の1種又は2種以上を用いる事ができる。
【0038】
正極活物質層には、正極用導電剤を用いることができる。正極用導電剤は、用いる正極活物質材料の充放電電位において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば何でも
良い。
正極活物質層の形成に用いられる結着及び増粘効果を有する有機物としては、特に制限はなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであっても良い。これらの材料を単独又は混合物として用いることができる。好ましい材料としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0039】
正極活物質、結着剤である結着及び増粘効果を有する有機物及び必要に応じて配合される正極用導電剤、その他フィラー等をこれらの溶媒に混合して正極活物質スラリーを調製し、これを正極用集電体基板に所定の厚みとなるように塗布、乾燥、圧密することにより正極活物質層が形成される。
【0040】
(正極集電体)
正極集電体には、電解液中での陽極酸化によって表面に不動態皮膜を形成する弁金属又はその合金を用いるのが好ましい。弁金属としては、13族、14族、15族(3族、4族、5族)に属する金属及びこれらの合金を例示することができる。具体的にはAl、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta及びこれらの金属1種又は2種以上を含む合金などを例示することができ、Al、Ti、Ta及びこれらの金属を含む合金を好ましく使用することができる。特にAl及びその合金は軽量でエネルギー密度が高いため有利である。
正極用集電体基板の厚みは特に限定されないが通常1〜50μm程度である。
【0041】
(電解質)
リチウム二次電池に使用する電解質としては、電解液や固体電解質など、任意の電解質を用いることができる。なおここで電解質とはイオン導電体すべてのことをいい、電解液及び固体電解質は共に電解質に含まれるものとする。
【0042】
(電解液)
電解液としては、例えば、非水系溶媒に溶質(電解質)を溶解したものを用いることができる。溶質としては、アルカリ金属塩や4級アンモニウム塩などを用いることができる。具体的には、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(CF3CF2SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC
CF(CF3SO23からなる群から選択される化合物を用いるのが好ましい。
【0043】
電解液中のこれらの溶質の含有量は、0.2mol/L以上、特に0.5mol/L以上で、2mol/L以下、特に1.5mol/L以下であることが好ましい。
非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル化合物;1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル;クラウンエーテル、2−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジメチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドルフラン等の環状エーテル;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の鎖状カーボネートなどを用いることができる。
溶質及び溶媒はそれぞれ1種類を選択して使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも非水系溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含有するものが好ましい。
【0044】
(その他材料)
非水電解質二次電池には、非水系電解液、負極、正極の他に、必要に応じて、外缶、セパレータ、ガスケット、封口板、セルケースなどを用いることができる。
非水電解質二次電池に使用するセパレータの材料は特に制限されない。セパレータは正極と負極が物理的に接触しないように分離するものであり、イオン透過性が高く、電気抵抗が低いものが好ましい。また、セパレータは電解液に対して安定で保液性が優れた材料
の中から選択するのが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布をセパレータとして用いて、上記電解液を含浸されることができる。
【0045】
(リチウム二次電池の製造)
電解質、負極及び正極を少なくとも有する非水電解質二次電池を製造する方法は、特に限定されず、通常採用されている方法の中から適宜選択することができる。例えば、外缶上に負極を載せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を載せて、ガスケット、封口板と共にかしめて電池とすることができる。
本発明の非水電解質二次電池の形状には特に限定されず、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等を採用することができる。
上記方法に従って製造した負極を使用し、通常使用されるリチウム二次電池用の正極及びカーボネート系溶媒を主体とする有機電解液を組み合わせて構成したリチウム二次電池は、初期効率が高く、かつサイクル特性に優れている。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
尚、粒状ターゲットの等面積円径の測定、成膜された膜の組成分析、及び膜厚測定は以下の方法により行った。
【0047】
(等面積円径の測定)
粒状物をカメラ台に置いた試料受けにばらまき、重ならないようにピンセットを使って動かし、画像入力(640画素X480画素)を行った。較正値は、0.166mm/画素となった。次に
自動二値化、穴埋めを行い、手動で光っている部分の追加、重なっている部分の分離、ノイズの除去を行った。これら画像処理を行った後に計測された面積から等面積円径を算出した。標本数は300個とした。
【0048】
(成膜された膜の組成分析)
成膜された膜はXPS(PHI Quantum2000)によって分析を行なった。分析試料は厚さ18μmの銅箔上に約5μm成膜したSi膜を分析装置にセットし測定した。分析領域は500μm角で、表面からアルゴンでエッチングした約200nmの深さ位置を分析点とした。この深さ位置では表面汚染のカーボンは検出されず、膜本来の組成である。
【0049】
(試料の膜厚分布測定)
ターゲットから50mm離れて対向する基板ホルダーに、レジストペンで径方向に線を引いたスライドガラスを貼り付けて成膜し、成膜後スライドガラス表面のレジストをアセトンで拭き取り、膜の無い部分を露出させ、段差計(Tencor P−15)を使用し
て基板ホルダー中央と半径30mm離れた位置の膜厚を比較した。
【0050】
(実施例1)
島津(株)製スパッタ装置(SHM−552)の、直径4インチのマグネトロンターゲットに使用する直径125mmのバッキングプレートの表面中央に、深さ5.5mm×直径100mmの窪みを切削加工し、第一の凹部とした。更にその面から深さが1mm×直径95mmを切削加工し、第二の凹部とした。第二の凹部の最上部に、1mm直径の穴を5mm間隔に縦横均等に開けた銅板(厚さ1mm×直径100mm)を設置し、第一の凹部の底部とし、粒状物を収容可能な凹部を有するバッキングプレートを得た。
【0051】
平均等面積円径が2.2mmの多結晶シリコン(高純度化学(株)製)を、上記バッキングプレートの深さ一杯(粒状ターゲットの最大厚み:5.5mmの厚さ)に収容した。平均等面積円径は、粒状ターゲットの最大厚みの約40%であった。
成膜用基板として18μmの銅箔を使用し、該基板をカソードから50mm離れて対向する基板ホルダーに貼り付け、スパッタ用ガス(アルゴンガス)を、バッキンブプレートの第二の凹部の底部中央からSUS配管を介して供給し成膜を行った。このとき、ガスの供給量はMFC(マスフローコントローラー)により40sccm一定量流し、排気系に繋がるメインバルブの開度を調整して装置内圧力を12mtorr(1.6Pa)の雰囲気とした。又、RF電源を使用し400Wで、約28分印加することにより行なった。その結果、膜厚5μmのシリコン薄膜試料を得た。
膜厚分布の結果を表1に示した。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、銅板を1mmの孔が1mm間隔である銅網に変えた以外は同様にして行った。これを用いて実施例1と同様にして膜厚5μmのシリコン薄膜試料を得た。膜
厚分布の結果を表1に示した。
【0053】
(実施例3)
粒状ターゲットとして、平均等面積円径が6.5mmの多結晶シリコン(高純度化学(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして、膜厚5μmのシリコン薄膜試料を得た
。尚、この例における平均等面積円径は、粒状物最大厚みの118%であった。
膜厚分布の結果を表1に示した。
【0054】
(実施例4)
実施例3で用いた平均等面積円径が6.5mmの多結晶シリコンを用い、第1凹部の深さが15mmであること以外は実施例1〜3に使用したバッキングプレートと同様の構造を有するバッキングプレートを用いて、実施例1と同様の条件で膜厚5μmのシリコン薄膜試料を得た。尚、実施例4における平均等面積円形は粒状ターゲット最大厚みの43%であった。膜厚分布の結果を表1に示した。
【0055】
(実施例5)
実施例4で用いたバッキングプレートに、平均等面積円径が13mmの多結晶シリコンを深さ一杯に収容した以外は実施例1と同様にして膜厚5μmのシリコン薄膜試料を得た。尚、実施例5における平均等面積円径は粒状ターゲット最大厚みの87%であった。膜厚分布の結果を表1に示した。
【0056】
(比較例1)
実施例1と同様な装置使用して成膜を行った。但し、表面が平滑な4インチマグネトロン用バッキングプレート及び直径4インチ、厚さ5mmのSiターゲットの貼り合わせ表面に、超音波半田ごてで溶融させたインジウムを馴染ませた後、両者を貼り合せて使用した。又、アルゴンガスは装置のチャンバー側壁からSUS配管を介して供給し、流量はマスフローコントローラーで40sccmで一定量とし、排気系に繋がるメインバルブの開度を調整して12mTorr(1.6Pa)の雰囲気とした。上記以外は実施例1と同様に
して成膜した。膜厚分布の結果を表1に示した。
【0057】
(比較例2)
実施例1において、アルゴンガスを、バッキンブプレートの第二の凹部の底部中央からSUS配管を介して供給することなく、比較例1と同様に装置のチャンバー側壁からSUS配管を介して供給した以外は、同様に行ったところ、数分で多結晶シリコンが赤熱した
ので成膜を中止した。
尚、実施例1〜5及び比較例で用いた粒状ターゲットは標準篩で目開き16.0mmを通過し、2.00mmを通過しない大きさである。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の実施例1〜5に示すように、ターゲットとして粒状シリコンを用いて成膜すると
、比較例1の円盤状シリコンターゲットで成膜した場合より、膜厚分布が改善されていることが分かる。
実施例1、実施例2及び実施例4に示すように粒状ターゲットの最大厚みに対して適切な大きさの粒状物シリコンを用いると、スパッタ成膜された膜中の成分はSiのみであったのに対し、実施例3及び実施例5に示すように粒状ターゲットの最大厚みとの関係で比較的大きな粒状シリコンを用いてスパッタすると、銅板(膜中に第一の凹部と第二の凹部の境界の仕切り板)成分である銅が約0.1原子%検出された。
【0060】
また、上記仕切り板としては、粒状物が落下しない程度の穴や格子状の隙間を有する構造であれば実施例1、実施例2に示すように有意差は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第一の態様のスパッタ装置におけるターゲットとバッキングプレートとガス供給の関係を示す模式図である。
【図2】本発明の第二の態様のスパッタ装置におけるターゲットとバッキングプレートとガス供給の関係を示す模式図である。
【図3】従来のスパッタ装置におけるターゲットとバッキングプレートとガス供給の関係を示す模式図である。
【図4】従来のスパッタ装置におけるターゲットとバッキングプレートとガス供給の関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1:粒状ターゲット
2:バッキングプレート
3:スパッタガス
4:仕切り板
5:第一の凹部
6:第二の凹部
7:板状ターゲット
8:スパッタ装置内部
9:冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ法による成膜方法において、ターゲットとして複数の粒状物を用い、該粒状物がこれを収容可能な凹部を有するターゲットバッキングプレート内に収容されており、スパッタガスを、該ガスが粒状物の隙間を通過するように該ターゲットバッキングプレート凹部から供給すること、を特徴とする成膜方法。
【請求項2】
ターゲットバッキングプレートが、第一の凹部とその内部に形成された第二の凹部を少なくとも有し、第一の凹部と第二の凹部の境界にスパッタリングガスが流通可能な孔を有する仕切り板を備え、該粒状物が第一の凹部内の該仕切り板上に収容されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
スパッタガスを、第二の凹部の底部又は側部から供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
粒状物の平均等面積円径が2〜10mmであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
粒状物の平均等面積円径が、ターゲットバッキングプレートに収容された粒状物の最大厚みの10%〜50%であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の成膜方法。
【請求項6】
粒状物がシリコンであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の成膜方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の成膜方法を用いてリチウム二次電池用負極を製造する方法であって、ターゲットとして負極活物質層を形成可能な物質を使用し、集電体上に成膜することを特徴とするリチウム二次電池用負極の製造方法。
【請求項8】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極、正極と、電解質を備えたリチウム二次電池において、負極が請求項7に記載の製造方法で製造された負極であることを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−241553(P2006−241553A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60901(P2005−60901)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】