説明

スパッタ装置とそのターゲット固定構造及び液晶装置の製造装置

【課題】ターゲット交換を容易、且つ迅速に行えるスパッタ装置のターゲット固定構造を提供する。
【解決手段】固定部材30にターゲット5が固定される。固定部材30に対して着脱自在に設けられる保持部材35を有し、ターゲット5が、固定部材30と保持部材35との間で挟持して保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置とそのターゲット固定構造及び液晶装置の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクタ等の投射型表示装置の光変調手段として用いられる液晶装置は、一対の基板間の周縁部にシール材が配設され、その中央部に液晶層が封止されて構成されている。その一対の基板の内面側には液晶層に電圧を印加する電極が形成され、これら電極の内面側には非選択電圧印加時において液晶分子の配向を制御する配向膜が形成されている。このような構成によって液晶装置は、非選択電圧印加時と選択電圧印加時との液晶分子の配向変化に基づいて光源光を変調し、表示画像を形成するようになっている。
【0003】
ところで、前述した配向膜としては、側鎖アルキル基を付加したポリイミド等からなる高分子膜の表面に、ラビング処理を施したものが一般に用いられている。しかし、このようなラビング法は簡便であるものの、物理的にポリイミド膜をこすることでポリイミド膜に対して配向特性を付与するために、種々の不都合が指摘されている。具体的には、(1)配向性の均一さを確保することが困難であること、(2)ラビング処理時の筋跡が残り易いこと、(3)配向方向の制御およびプレチルト角の選択的な制御が可能ではなく、また広視野角を得るために用いられるマルチドメインを使用した液晶パネルには適さないこと、(4)ガラス基板からの静電気による薄膜トランジスタ素子の破壊や、配向膜の破壊が生じ、歩留まりを低下させること、(5)ラビング布からのダスト発生による表示不良が発生しがちであること、などである。
【0004】
また、このような有機物からなる配向膜では、液晶プロジェクタのような高出力光源を備えた機器に用いた場合、光エネルギーにより有機物がダメージを受けて配向不良を生じてしまう。特に、プロジェクタの小型化および高輝度化を図った場合には、液晶パネルに入射する単位面積あたりのエネルギーが増加し、入射光の吸収によりポリイミドそのものが分解し、また、光を吸収したことによる発熱でさらにその分解が加速される。その結果、配向膜に多大なダメージが付加され、機器の表示特性が低下してしまう。
【0005】
そこで、このような不都合を解消するため、ターゲットから放出されるスパッタ粒子が1方向から斜めに基板に入射するようにスパッタリングを実施することにより、基板に対して斜め方向に結晶成長した複数の柱状構造を有する無機材料からなる配向膜を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。このような方法によれば、得られる無機配向膜は高い信頼性を有するものと期待されている。
【特許文献1】特開2004−170744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような従来技術には、以下のような問題が存在する。
上記ターゲットは、バッキングプレートと称される固定部材に溶接により固定されるため、交換作業に手間がかかるとともに、長納期、コスト高という問題が生じる。
特に、製造部門ではなく研究・開発部門においては、材料変更等によりターゲット交換が頻繁に行われることが多いため、上記の問題がより顕著に現れ、迅速な材料開発、評価等に支障を来すという問題が生じる。
【0007】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、材料変更等に対応して、ターゲット交換を容易、且つ迅速に行えるスパッタ装置とそのターゲット固定構造及び液晶装置の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明は、以下の構成を採用している。
本発明のスパッタ装置のターゲット固定構造は、固定部材にターゲットが固定されるスパッタ装置のターゲット固定構造であって、前記固定部材に対して着脱自在に設けられる保持部材を有し、前記ターゲットが、前記固定部材と前記保持部材との間で挟持して保持されることを特徴とするものである。
従って、本発明のスパッタ装置のターゲット固定構造では、保持部材を固定部材から離脱させることにより、ターゲットに対する挟持を解放してターゲットを取り出し、また、別のターゲットを保持部材と固定部材との間で挟持・保持させることにより、ターゲットを固定部材に固定することができる。このように、本発明では、保持部材を固定部材に対して離脱・装着することにより、ターゲットを容易、且つ迅速に交換することが可能になる。
【0009】
また、本発明では、前記保持部材が前記固定部材に臨む側の面に、前記ターゲットの大きさに応じた凹部を有し、前記ターゲットが、前記凹部に装填されて保持される構成も好適に採用できる。
さらに、本発明では、前記固定部材に第2のターゲットが固定され、前記ターゲットが、前記第2のターゲットを介して前記固定部材に固定される構成も好適に採用できる。
これにより、本発明では、予め固定部材に第2ターゲットが固定されている場合でも、保持部材を着脱することにより、異なるターゲットを交換自在に固定することが可能になる。
【0010】
また、本発明では、前記固定部材に、冷媒を用いて前記ターゲットを冷却する冷却装置が設けられる構成も好適に採用できる。
この場合、前記冷却装置が、前記ターゲットが装着される側に開口し、供給された前記冷媒が貯溜される貯溜部を有し、前記ターゲットが、前記貯溜部の開口部を閉塞して前記固定部材に装着される構成とすることができる。
これにより、本発明では、冷却装置の貯溜部に供給された冷媒にターゲットが直接接触するため、冷却効率を大幅に向上させることができる。
【0011】
また、前記冷却装置は、前記開口部から外側に張り出される張出部が設けられた筒状体を有する構成を好適に採用できる。
これにより、本発明では、冷却装置として例えば真空フランジ等の筒状体を用いることが可能になる。
さらに、前記保持部材としては、通電によりプラズマを生成させる電極をなす構成とすることもできる。
【0012】
そして、本発明のスパッタ装置は、先に記載の固定構造でターゲットが固定されることを特徴とするものである。
従って、本発明のスパッタ装置では、保持部材を固定部材に対して離脱・装着することにより、ターゲットを容易、且つ迅速に交換することが可能になり、コスト増を招くことなく、迅速な材料開発、評価を実施することができる。
【0013】
一方、本発明の液晶装置の製造装置は、対向する一対の基板間に挟持された液晶層を備え、少なくとも一方の前記基板の内面側に無機配向膜を形成してなる液晶装置の製造装置であって、成膜室と、該成膜室内にて前記基板に配向膜材料をスパッタ法で成膜して無機配向膜を形成するスパッタ装置とを備え、前記スパッタ装置として、先に記載のスパッタ装置が用いられることを特徴とするものである。
従って、本発明に係る液晶装置の製造装置では、ターゲットの交換を容易、且つ迅速に行うことができ、メンテナンスに要する時間を短くして作業性を向上させることができる。
【0014】
前記スパッタ装置としては、プラズマ生成領域を挟んで対向する一対の前記ターゲットと、前記プラズマ生成領域からスパッタ粒子を放出する開口部とを有しており、前記開口部としては、前記基板に対して斜め方向から前記スパッタ粒子を入射させる位置に配置される構成を好適に採用できる。
これにより、本発明では、対向ターゲット型のスパッタ装置を備えたことで、所定の方向に選択的にスパッタ粒子を放出することを可能にし、さらに前記スパッタ装置の開口部を、放出されたスパッタ粒子が基板に対して斜めに入射する位置に配置しているので、基板に対して入射角を規制されたスパッタ粒子を堆積させることができ、柱状構造の無機配向膜を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のスパッタ装置とそのターゲット固定構造及び液晶装置の製造装置の実施の形態を、図1ないし図10を参照して説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
(ターゲット固定構造;第1実施形態)
まず、スパッタ装置のターゲット固定構造について説明する。
図1は、固定部材30に対してターゲット5が固定された部分断面図であり、図2はターゲット5が装着解除された図である。
固定部材30には、絶縁部材31の筒部31Aが嵌合するとともに、鍔部31BがOリング等のシール部材11を介して係合しており、鍔部31Bと固定部材30との間が気密(水密)に封止されている。絶縁部材31には、筒部31Aの内周面に冷却装置33の筒部33Cが嵌合するとともに、冷却装置33の張出部33AがOリング等のシール部材12を介して係合しており、張出部33Aと筒部31Aとの間が気密(水密)に封止されている。また、張出部33Aの上面には、Oリング等のシール部材13を介してターゲット5が係合しており、ターゲット5と張出部33Aとの間が気密(水密)に封止されている。さらに、ターゲット5は、突部5tが保持部材35の貫通孔35Aに嵌合するとともに、鍔部5AがOリング等のシール部材14を介して保持部材35に係合しており、鍔部5Aと保持部材35との間が気密(水密)に封止されている。
【0017】
保持部材35、絶縁部材31の鍔部31Bには円筒状の絶縁材で形成された筒部材15が挿通し、且つ固定部材30に係合して設けられており、この筒部材15内には、固定部材30に螺着する締結手段35が挿通されている。
上記絶縁部材31、冷却装置33、ターゲット5及び保持部材35は、締結手段35が固定部材30に螺着することにより、当該固定部材30にシール部材11〜14を介して一体的に締結固定され、締結手段35が固定部材30に螺着解除することにより、固定部材30に対する固定が解除される(離脱可能となる)。
なお、筒部材15及び絶縁部材31としては、ポリアセタール樹脂等のエンジアリングプラスチックが用いられ、固定部材30(チャンバ)とターゲット5とを電気的に絶縁している。
【0018】
冷却装置33は、ターゲット5が装着される側に開口し、冷媒が供給されて貯留される貯溜部33Bを有する金属製(例えばアルミ)の筒状体に構成されており、上記張出部33Aはこの開口部から外側に張り出して設けられている。そして、上記ターゲット5は、この開口部をシール部材13を介して閉塞するように設置される。また、ターゲット5には、直流電源又は高周波電源からなる電源4が接続され、電源4から供給される電力によりターゲット5が対向する空間(プラズマ生成領域)にプラズマを発生させる電極として機能している。
【0019】
また、冷却装置33には、ターゲット5と反対側に冷媒循環手段18が配管等を介して接続されている。そして、上記貯溜部33Bに対して冷媒循環手段18から供給される冷媒を循環させることでターゲット5の冷却を行うようになっている。
【0020】
保持部材35は、アルミ等の金属材で形成された板状に形成されており、その中央部にはターゲット5の突部5tと嵌合し、且つターゲット5を露出させる貫通孔35Aが形成されている。この保持部材35は、上記締結手段36の締結及び締結解除により、固定部材30に対して着脱自在に設けられる。
【0021】
なお、本実施形態では、保持部材35としてICFフランジが用いられている。また、冷却装置33として、金属製の真空フランジが用いられている。この場合、電源4を冷却装置33に接続し、当該冷却装置33を電極として用いてもよい。
【0022】
上記構成のターゲット固定構造において、ターゲット5を交換する際には、まず、締結手段36による固定部材30に対する保持部材35の固定を解除する。これにより、図2に示すように、絶縁部材31及び冷却装置33を含む固定部材30に対する、ターゲット5及び保持部材35の固定が解除され、ターゲット5を離脱させることが可能になる。
【0023】
そして、交換後のターゲット5を装着する場合には、当該ターゲット5を冷却装置33(の張出部33A)にシール部材13を介して載置した後に、保持部材35の貫通孔35Aにターゲット5の突部5tを嵌合させ、図1に示したように、締結手段36により保持部材35を固定部材30に対して締結固定する。これにより、ターゲット5は、固定部材30と保持部材35との間で挟持して保持された状態で装着・固定される。
【0024】
このように、本実施の形態では、締結手段36による締結及び締結解除によって、保持部材を着脱することにより、ターゲット5を固定部材30に対して固定・固定解除できる。そのため、本実施形態では、溶接等による固定の場合のように手間が掛かることなく、材料変更等に伴ってターゲット5を容易、且つ迅速に交換することが可能になり、材料開発、評価等を迅速に実施することができる。
【0025】
また、本実施形態では、冷媒が貯留される貯溜部33Bの開口部をターゲット5が閉塞するため、冷媒がターゲット5に直接接触することになり、冷却効率を大幅に向上させることができる。さらに、本実施形態では、ターゲット5に電源4が接続されて電極として機能しているため、別途電極を設ける必要がなくなり、装置の低価格化及び小型化に寄与できる。加えて、本実施形態では、冷却装置33が開口部から張り出す張出部33Aを有しているため、同様の形状を有する真空フランジを用いることが可能になり、冷却装置33を特注して製造する場合と比較して大幅に製造コストを削減できる。これは、保持部材35についても同様の効果が得られる。
【0026】
(ターゲット固定構造;第2実施形態)
図3は、本発明のターゲット固定構造の第2実施形態を示す断面図であり、図4は、冷却装置及び保持部材の外観斜視図である。
これらの図において、図1及び図2に示した第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。また、図3及び図4においては、便宜上、絶縁部材31等の図示を省略している。
第2実施の形態では、固定部材30に既存のターゲットが固定されている場合に、他のターゲットを装着する場合について説明する。
【0027】
本実施形態では、図3及び図4に示す冷却装置33には、例えばシリコン等のターゲット(第2ターゲット)5’が溶接等により固定され、この冷却装置33を介して固定部材30に固定されている。保持部材35には、固定部材30の臨む側の面に凹部38が形成されている。この凹部38は、ターゲット5の大きさに応じて形成されている。より詳細には、凹部38の径は、ターゲット5、5’が装填可能な大きさに設定され、凹部38の深さは、ターゲット5、5’を合わせたときの厚さと同等、または僅かに浅く設定されている。
他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0028】
上記構成のターゲット固定構造では、ターゲット5は、ターゲット5’上に載置された後に、締結手段36による締結固定で保持部材35が固定部材30に固定されることにより、保持部材35と固定部材30との間で挟持・保持される。この場合、凹部37の深さを、ターゲット5、5’を合わせたときの厚さよりも浅くすることにより、ターゲット5、5’が凹部38内で遊動することなく、確実に挟持されて強固に固定されることになる。
【0029】
本実施形態では、上記第1実施形態と同様の作用・効果が得られることに加えて、予め固定部材30(冷却装置33)にターゲット5’が固定されている場合でも、保持部材35を着脱することにより、他のターゲット5を容易に交換することができ、材料変更等によるターゲット交換を頻繁に行う場合でも、迅速な材料開発、評価等が可能になる。
【0030】
(スパッタ装置及び液晶装置の製造装置)
続いて、上記のターゲット固定構造が用いられたスパッタ装置及び液晶装置の製造装置について、図5を参照して説明する。
図5(a)は本発明に係るスパッタ装置及び液晶装置の製造装置の一実施の形態を示す概略構成図であり、図5(b)はスパッタ装置の要部詳細図である。
【0031】
図5(a)に示すように、製造装置1は、液晶装置の構成部材となる基板W上にスパッタ法により無機配向膜を成膜する装置であり、基板Wを収容する真空チャンバーである成膜室2と、前記基板Wの表面に無機材料からなる配向膜をスパッタ法により形成するスパッタ装置3とを備えている。スパッタ装置3は、そのプラズマ生成領域に放電用のアルゴンガス(第1のスパッタガス)を流通させる第1のガス供給手段21を備えており、成膜室2は、内部に収容された基板W上に飛来する配向膜材料と反応して無機配向膜を形成する反応ガスとしての酸素ガス(第2のスパッタガス)を供給する第2のガス供給手段22を備えている。
【0032】
成膜室2には、その内部圧力を制御し、所望の真空度を得るための排気制御装置20が配管20aを介して接続されている。また、成膜室2の図示下側の壁面から外側に突出するようにして、スパッタ装置3との接続部を成す装置接続部25が形成されている。前記装置接続部25は、成膜室2内部に収容される基板Wの成膜面法線方向(図示Z軸方向)と所定の角度(θ1)を成して斜め方向に延びて形成されており、その先端部に接続されるスパッタ装置3を基板Wに対して所定の角度で斜めに向けて配置することができるようになっている。
前記第2のガス供給手段22は、装置接続部25に関して排気制御装置20と反対側に接続されており、第2のガス供給手段22から供給される酸素ガスは、矢印22fで示すように、成膜室2の+X側から基板W上を経由して排気制御装置20側へ図示−X方向に流通するようになっている。
【0033】
また実際の製造装置では、成膜室2の真空度を保持した状態での基板Wの搬入/搬出を可能とするロードロックチャンバーが、成膜室2のX軸方向外側に備えられている。ロードロックチャンバーにも、これを独立して真空雰囲気に調整する排気制御装置が接続され、ロードロックチャンバーと成膜室2とは、チャンバー間を気密に閉塞するゲートバルブを介して接続されている。かかる構成により、成膜室2を大気に解放することなく基板Wの出し入れを行えるようになっている。
【0034】
スパッタ装置3は、図5(b)に示すように、2枚のターゲット5a、5bを対向配置してなる対向ターゲット型のスパッタ装置であり、第1のターゲット5aは上述した冷却装置33a上に設けられ、第2のターゲット5bは冷却装置33b上に設けられる。各冷却装置33a、33bは、絶縁材31a、31b、受け部材32a、32bを介して固定部材30a、30bにそれぞれ固定される。また、ターゲット5a、5bは、保持部材35a、35bにより挟持・保持され、締結手段36a、36bにより締結・締結解除することにより、固定部材30a、30bにそれぞれ着脱自在に固定される。
【0035】
ターゲット5a、5bは、基板W上に形成する無機配向膜の構成物質を含む材料、例えばシリコンからなるものとされる。またターゲット5a、5bは図示Y方向に延びる細長い板状のものが用いられており、互いの対向面がほぼ平行になるように設置されている。
保持部材35aには直流電源又は高周波電源からなる電源4aが接続され、保持部材35bには直流電源又は高周波電源からなる電源4bが接続されており、各電源4a、4bから供給される電力によりターゲット5a、5bが対向する空間(プラズマ生成領域)にプラズマPzを発生させるようになっている。
【0036】
冷却装置33aには、第1の冷媒循環手段18aが配管等を介して接続されている。また冷却装置33bには、配管等を介して第2の冷媒循環手段18bが接続されている。冷却装置33a、33bは、上述した冷却装置33と同様の構成を有しているため、ここでは詳細な説明を省略するが、各冷却装置33a、33bの貯溜部33Bに対して冷媒循環手段18a、18bから供給される冷媒を循環させることでターゲット5a、5bの冷却を行うようになっている。
【0037】
また、冷却装置33aを取り囲むようにして枠状の永久磁石、電磁石、これらを組み合わせた磁石等からなる第1の磁界発生手段16aが配設されており、冷却装置33bを取り囲む第2の磁界発生手段16bも同様の形状である。なお、本実施形態でも、電源4a、4bを冷却装置33a、33bに接続し、当該冷却装置33a、33bを電極として用いることも可能である。
【0038】
図5に示すように、固定部材30a、30bは、それらの一端部(−Za側端部)に接続された側壁部材19とともにスパッタ装置3の真空チャンバーとなる箱形筐体を構成している。この箱形筐体は、保持部材35a、35bの側壁部材19と反対側の端部にスパッタ粒子が排出される開口部3aを有している。そして、開口部3aを介して成膜室2に突出形成された装置接続部25と接続され、かかる接続構造により前記箱形筐体の内部は成膜室2の内部と連通している。
【0039】
図5に示すように、ターゲット5a、5bに挟まれるプラズマ生成領域に対して成膜室2と反対側に配置された側壁部材19には、前記第1のガス供給手段が接続されており、第1のガス供給手段21から供給されるアルゴンガスは、側壁部材19側からプラズマ生成領域(ターゲット対向領域)に流入し、装置接続部25を介して成膜室2内に流入するようになっている。そして、成膜室2に流入したアルゴンガスは、矢印21fで示すように、第2のガス供給手段22から供給されて矢印22fに沿って流通する酸素ガスと合流して排気制御装置20側へ流れるようになっている。本実施形態の製造装置1では、第1のスパッタガスであるアルゴンガスを図示Za方向に沿って成膜室2側へ流通させ、成膜室2内を−X方向に流通する酸素ガスと合流させ、その後−X方向に流通させるようになっており、第2のスパッタガスである酸素ガスの流通方向と前記アルゴンガスの流通方向との成す角度が鋭角になるようにしてスパッタガスを円滑に流通させるようになっている。これにより、酸素ガスとアルゴンガスとの合流地点においてガス流が乱れるのを防止することができ、基板Wに対するスパッタ粒子5pの入射角度がばらつくのを防止することができる。
【0040】
第1電極9aのターゲット5aと反対側に第1の磁界発生手段16aが配置され、第2電極9bのターゲット5bと反対側には第2の磁界発生手段16bが配置されている。図2(b)に示すように、第2の磁界発生手段16bは、矩形状のターゲット5bの外周端に沿って配置された矩形枠状であり、第1の磁界発生手段16aも同様である。従って第1の磁界発生手段16aと第2の磁界発生手段16bとは、対向配置されたターゲット5a、5bの外周部で互いに対向して配置されている。そして、これらの磁界発生手段16a、16bがターゲット5a、5bを取り囲むXa方向の磁界をスパッタ装置3内に発生させ、かかる磁界によってプラズマPzに含まれる電子をプラズマ生成領域内に拘束する電子拘束手段を構成している。
【0041】
スパッタ装置3の下方には、基板Wをその被処理面(成膜面)が水平(XY面に平行)になるようにして保持する基板ホルダ6が設けられている。基板ホルダ6には、基板ホルダ6を図示略のロードロックチャンバー(図示せず)側からその反対側へ水平に搬送する移動手段6aが接続されている。移動手段6aによる基板Wの搬送方向は、図5においてX軸方向に平行である。
【0042】
また、基板ホルダ6には、保持した基板Wを加熱するためのヒータ(加熱手段)7が設けられており、さらに、保持した基板Wを冷却するための第3の冷却手段8cが設けられている。ヒータ7は、電源等を具備した制御部7aに接続されており、制御部7aを介した昇温動作により所望の温度に基板ホルダ6を加熱し、これによって基板Wを所望の温度に加熱できるように構成されている。一方、第3の冷却手段8cは、第3の冷媒循環手段18cと配管等を介して接続されており、第3の冷媒循環手段18cから供給される冷媒を循環させることにより所望の温度に基板ホルダ6を冷却し、これによって基板Wを所望の温度に冷却するように構成されている。
【0043】
製造装置1により液晶装置の構成部材である基板W上に無機配向膜を形成するには、第1のガス供給手段21からアルゴンガスを導入しつつ、保持部材35a、35bにDC電力(RF電力)を供給することで、ターゲット5a、5bに挟まれる空間にプラズマPzを発生させ、プラズマ雰囲気中のアルゴンイオン等をターゲット5a、5bに衝突させることで、ターゲット5a、5bから配向膜材料(シリコン)をスパッタ粒子5pとしてたたき出し、さらにプラズマPzに含まれるスパッタ粒子5pのうち、プラズマPzから開口部3a側へ飛行するスパッタ粒子5pのみを選択的に成膜室2側へ放出する。そして、基板Wの面上に斜め方向から飛来したスパッタ粒子5pと、成膜室2を流通する酸素ガスとを基板W上で反応させることで、シリコン酸化物からなる配向膜を基板W上に形成するようになっている。
【0044】
なお、本実施形態では、スパッタ粒子5pとしてのシリコンを、第2のスパッタガスである酸素ガスと反応させることでシリコン酸化物を基板W上に成膜する場合について説明しているが、ターゲット5a、5bとして例えばシリコン酸化物(SiOx)やアルミニウム酸化物(AlOy等)などを用い、ターゲット5a、5bに対してRF電力を入力してスパッタ動作を行うことで、これらシリコン酸化物やアルミニウム酸化物からなる無機配向膜を基板W上に形成することができる。またこの場合において、第2のスパッタガス(酸素ガス)を成膜室2内に流通させておくことで、形成される無機配向膜の酸化物組成からのずれを防止することができ、無機配向膜の絶縁性を高めることができる。
【0045】
上記構成を備えた製造装置1によれば、対向ターゲット型のスパッタ装置3を基板Wに対して所定角度(θ1)傾けて配置しているので、スパッタ装置3の開口部3aから放出されるスパッタ粒子5pを所定角度で斜め方向から基板Wの成膜面に入射させることができる。そして、このようにして斜め方向から入射させたスパッタ粒子5pの堆積により、一方向に配向した柱状構造を具備した無機配向膜を基板W上に形成することができるようになっている。また、対向ターゲット型のスパッタ装置3では、開口部3aから放出されないスパッタ粒子は、主にターゲット5a、5bに入射して再利用されるため、極めて高いターゲット利用効率を得られるようになっている。さらにスパッタ装置3においては、ターゲット間隔を狭めることで開口部3aから放出されるスパッタ粒子5pの指向性を高めることができるので、基板Wに到達するスパッタ粒子5pの入射角は高度に制御されたものとなり、形成される無機配向膜における柱状構造の配向性も良好なものとなる。
【0046】
また、本実施形態では、上述したように、ターゲット5a、5bを容易、且つ迅速に交換することができるため、種々の材料により容易に配向性に優れた無機配向膜を形成することが可能になり、また斜め方向からスパッタ粒子を入射させる場合の材料開発、評価等を迅速に実施することができる。
【0047】
また、上記成膜動作に際して、スパッタ装置3のターゲット5a、5bを取り囲む枠状の磁界発生手段16a、16bにより形成される磁界によって、プラズマPzに含まれる電子5rを捕捉ないし反射させることができ、プラズマPzをターゲット5a、5bが対向する領域内に良好に閉じ込めることができるので、前記電子5rが基板Wの成膜面に入射して基板W表面の濡れ性が上昇するのを防止することができる。これにより、基板Wに付着したスパッタ粒子5pの再配置により柱状構造の形成が阻害されるのを良好に防止することができる。従って本実施形態の製造装置1によれば、配向性の良好な無機配向膜を基板W上に容易に形成することができる。
上記と同様の観点から、開口部3aと基板Wとの間に位置する成膜室2や装置接続部25の壁部は、接地電位に保持しておくことが好ましい。このような構成とすることで、電子拘束手段から漏れ出た電子を前記壁部により捕捉し除去することができ、基板W表面の濡れ性が上昇してしまうのを効果的に防止することができる。
【0048】
また本実施形態の製造装置1では、成膜法としてスパッタ装置3によるスパッタ法を採用しているので、例えば蒸着法やイオンビームスパッタ法に比べて低い圧力で成膜を行うことができ、真空ポンプ等の真空装置(排気制御装置)に関する負担を軽減することができる。さらに、蒸着法に比べて低い圧力で成膜を行うことから、成膜材料(配向膜材料)の平均自由行程が短くなり、従って蒸着法を採用した場合に比べて真空チャンバー等からなる成膜室を小型化することができ、装置に関する負担を軽減することができる。
【0049】
また、スパッタ法によってターゲットから放出されるスパッタ粒子(配向膜材料)の持つエネルギーは例えば10eVであり、蒸着法によって蒸着源から発生するクラスター状粒子の持つエネルギーが例えば0.1eVであるのに比べて格段に大きいため、スパッタ粒子は蒸着法によるクラスター状粒子に比べて密着性が高いものとなる。すなわち、クラスター状粒子の場合、例えば成膜室2や装置接続部25の内壁面に付着した粒子が振動等によって脱落し、発塵を起こしてこれが基板W上に異物となって付着してしまうおそれがあるが、スパッタ粒子の場合には、内壁面などに一旦付着すると、その高密着性によって容易には脱落せず、従ってこれが基板W上に異物となって付着してしまうといった不都合を回避することができる。
【0050】
また、基板ホルダ6に基板Wを冷却するための第3の冷却手段8cを設けているので、成膜時に第3の冷却手段8cによって基板Wを冷却し、基板Wを室温等の所定温度に保持することができ、スパッタによって基板Wに付着した配向膜材料分子の基板上での拡散(マイグレーション)を抑制することができる。これにより、基板W上における配向膜材料の局所的な成長が促進され、一軸方向に柱状に成長した配向膜を容易に得られるようになる。
【0051】
(液晶装置の製造方法)
次に、上記製造装置1を用いた液晶装置の製造方法(基板W上に無機配向膜を形成する工程)について説明する。
まず、基板Wとして、液晶装置用基板としてスイッチング素子や電極等、所定の構成部材が形成された基板を用意する。また、スパッタ装置3においては、保持部材35a、35bを固定部材30a、30bに対して着脱することで、所定材料のターゲット5a、5bに交換しておく。
【0052】
次いで、基板Wを成膜室2に併設されたロードロックチャンバー内に収容し、ロードロックチャンバー内を減圧して真空状態とする。また、これとは別に、排気制御装置を作動させて成膜室2内を所望の真空度に調整しておく。
【0053】
続いて、基板Wを成膜室2内に搬送し、基板ホルダ6にセットする。そして、配向膜形成の前処理として、基板ホルダ6のヒータ7によって基板Wを例えば250℃〜300℃程度で加熱し、基板Wの表面に付着した吸着水やガスなどの脱水・脱ガス処理を行う。次いで、ヒータ7による加熱を停止した後、スパッタリングによる基板温度の上昇を抑制するため、冷媒循環手段18cを作動させて冷却手段8cに冷媒を循環させることで基板Wを所定温度、例えば室温に保持する。
【0054】
次に、アルゴンガスを第1のガス供給手段21からスパッタ装置3内に所定流量で導入し、酸素ガスを第2のガス供給手段22から所定流量で成膜室2内に導入するとともに、排気制御装置20を作動させ、所定の操作圧力、例えば10−1Pa程度に調整する。酸素ガスプラズマでは酸素ラジカル、酸素の負イオンが発生するため、本実施形態の製造装置1では、プラズマ生成領域であるターゲット5a、5bの前面にはアルゴンガスのみを導入し、酸素ガスは別系統のガス供給路から基板W上へ流入させている。また、成膜中にも必要に応じてヒータ7、冷却手段8cを作動させることにより、基板Wを室温に保持することが好ましい。
【0055】
その後、このような成膜条件のもとで、移動手段6aにより基板Wを図5中のX方向に所定の速度で移動させつつ、スパッタ装置3によるスパッタリングを行う。すると、ターゲット5a、5bからは、配向膜材料となるスパッタ粒子(シリコン)が放出されるが、対向ターゲット型のスパッタ装置3では、ターゲット対向方向に進行するスパッタ粒子はプラズマPz内に閉じ込められ、ターゲット面方向の開口部3aに向かって進行するスパッタ粒子5pのみが開口部3aから成膜室2内に放出され、進行方向を規制されたスパッタ粒子5pのみが基板W上に入射するようになる。
【0056】
スパッタ粒子5pは、装置接続部25に臨む基板Wの成膜面に対してのみ選択的に入射、基板W上で酸素ガスと反応してシリコン酸化物の被膜を形成する。このように基板Wに対して斜めに傾けて配置されたスパッタ装置3から放出され、さらに基板Wに対してスパッタ装置3と同様に斜めに傾けて配置された装置接続部25を通過したスパッタ粒子5pは、基板Wの成膜面に対して所定の角度、すなわち前記θ1で入射するようになる。その結果、基板W上で酸素ガスとスパッタ粒子5pとの反応を伴って堆積した無機配向膜は、前記の入射角θ1に対応した角度で傾斜する柱状構造を有した無機配向膜となる。
【0057】
このように、製造装置1により基板W状に形成される無機配向膜は所望の角度で傾斜した柱状構造を有する無機配向膜であり、この配向膜を備えてなる液晶装置は、かかる無機配向膜によって液晶のプレチルト角を良好に制御することがでるものとなる。
【0058】
また、このとき、スパッタ装置3の開口部3aに設けられた電子拘束手段(磁界発生手段16a、16b)によりプラズマPzに含まれる電子やイオン状物質が捕捉又は反射されるため、これらの電子やイオン状物質が基板Wに到達するのを防止することができる。
【0059】
以上の工程により、基板W上に無機配向膜を形成したならば、別途製造した他の基板とシール材を介して貼り合わせ、基板間に液晶を封入することで液晶装置を製造することができる。なお、本発明に係る液晶装置の製造方法において、無機配向膜の形成工程以外の製造工程については公知の製造方法を適用することができる。
【0060】
(液晶装置)
以下、製造装置1を用いて製造することができる液晶装置の一例について図面を参照して説明する。
図6は、本実施形態の液晶装置を構成するTFTアレイ基板80の平面構成図である。図7は、本実施形態の液晶装置の等価回路図である。図8は、TFTアレイ基板80の画像表示領域を拡大して示す平面構成図である。図9は、図8のA−A’線に沿う液晶装置の断面構成図である。
本実施形態の液晶装置は、図9に示すように、対向配置されたTFTアレイ基板(第1基板)80と、対向基板(第2基板)90との間に液晶層50を挟持した構成を備えたTFTアクティブマトリクス方式の透過型液晶装置である。
【0061】
図6に示すように、TFTアレイ基板80の中央には画像表示領域101が形成されている。画像表示領域101の周縁部にシール材89が配設されており、かかるシール材89により前記TFTアレイ基板80と対向基板90とを貼り合わせ、前記両基板80,90とシール材89とに囲まれる領域内に液晶層(不図示)が封止される。シール材89の外側には、後述する走査線に走査信号を供給する走査線駆動回路110と、後述するデータ線に画像信号を供給するデータ線駆動回路120とが実装されている。TFTアレイ基板80の端部には外部回路に接続する複数の接続端子79が設けられており、かかる接続端子79には前記駆動回路110,120から延びる配線が接続されている。シール材89の四隅には前記TFTアレイ基板80と対向基板90とを電気的に接続する基板間導通部70が設けられており、基板間導通部70も配線を介して接続端子79と電気的に接続されている。
【0062】
図7は、液晶装置の等価回路図である。液晶装置の画像表示領域には、複数のデータ線46aと、データ線46aと交差する方向に延びる複数の走査線43aとが形成されており、隣接する2本のデータ線46aと隣接する2本の走査線43aとに囲まれた矩形状の領域に対応して画素電極49が配置されており、画像表示領域全体では画素電極49が平面視マトリクス状に配列されている。各画素電極49には、画素電極49への通電制御を行うためのスイッチング素子であるTFT30が接続されている。TFT30のソースにはデータ線46aが接続されている。各データ線46aには、前述したデータ線駆動回路から画像信号S1、S2、…、Snが供給されるようになっている。
【0063】
また、TFT30のゲートには走査線43aが接続されている。走査線43aには、前述した走査線駆動回路から所定のタイミングでパルス的に走査信号G1、G2、…、Gmが供給される。一方、TFT30のドレインには画素電極49が接続されている。そして、走査線43aから供給された走査信号G1、G2、…、GmによりTFT30を一定期間だけオンすることで、データ線46aから供給された画像信号S1、S2、…、Snが、画素電極49を介して各画素の液晶に所定のタイミングで書き込まれるようになっている。
【0064】
液晶に書き込まれた所定レベルの画像信号S1、S2、…、Snは、画素電極49と後述する共通電極との間に形成される液晶容量で一定期間保持される。なお、保持された画像信号S1、S2、…、Snがリークするのを防止するため、画素電極49と容量線43bとの間に蓄積容量17が液晶容量と並列に接続されている。
【0065】
図8は、TFTアレイ基板80の平面構成図である。本実施形態の液晶装置では、TFTアレイ基板上に、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide;ITO)等の透明導電性材料からなる矩形状の画素電極49(破線49aによりその輪郭を示す)が、マトリクス状に配列形成されている。各画素電極49の縦横の境界に沿って、データ線46a、走査線43a及び容量線43bが設けられている。本実施形態では、各画素電極49の形成領域に対応する矩形状の領域が画素の平面領域に対応しており、マトリクス状に配列された画素毎に表示動作が行われるようになっている。
【0066】
TFT30は、ポリシリコン膜等からなる半導体層41aを備えている。半導体層41aのソース領域(後述)には、コンタクトホール45を介して、データ線46aが接続されている。また、半導体層41aのドレイン領域(後述)には、コンタクトホール48b(48a)を介して、画素電極49が接続されている。一方、半導体層41aにおける走査線43aとの対向部分には、チャネル領域41a’が形成されている。
【0067】
図9は、液晶装置の断面構造を示す図であり、図8のA−A’線に沿う断面構成図である。図9に示すように、本実施形態の液晶装置60は、TFTアレイ基板80と、これに対向配置された対向基板90と、これらの間に挟持された液晶層50とを備えて構成されている。TFTアレイ基板80は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体80A、及びその内側(液晶層側)に形成されたTFT30や画素電極49、さらにこれを覆う配向下地膜85及び無機配向膜86などを備えている。一方の対向基板90は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体90A、およびその内側(液晶層側)に形成された共通電極61、さらにこれを覆う配向下地膜95、無機配向膜92などを備えている。
【0068】
基板本体80Aの内面側には、後述する第1遮光膜51aおよび第1層間絶縁膜52が形成されている。第1層間絶縁膜52上に島状の半導体層41aが形成されている。半導体層41aにおける走査線43aとの対向部分にはチャネル領域41a’が形成されており、チャネル領域41a’の両側にソース領域およびドレイン領域が形成されている。TFT30はLDD(Lightly Doped Drain)構造を採用しており、ソース領域およびドレイン領域に、それぞれ不純物濃度が相対的に高い高濃度領域と、相対的に低い低濃度領域(LDD領域)とが形成されている。チャネル領域41a’側から順に形成された低濃度ソース領域41bと高濃度ソース領域41dとが前記ソース領域を構成し、チャネル領域41a’側から順に形成された低濃度ドレイン領域41cと高濃度ドレイン領域41eとが前記ドレイン領域を構成している。
【0069】
半導体層41aの表面にゲート絶縁膜42が形成されており、ゲート絶縁膜42上に走査線43aが形成されている。走査線43aのうちチャネル領域41a’との対向部分はTFT30のゲート電極を構成している。ゲート絶縁膜42及び走査線43aを覆って第2層間絶縁膜44が形成されている。第2層間絶縁膜44上にデータ線46a、及びドレイン電極46bが形成されており、データ線46aの一部は第2層間絶縁膜44に貫設されたコンタクトホール45内に埋設されて高濃度ソース領域41dと電気的に接続されている。一方、ドレイン電極46bは、第2層間絶縁膜44に貫設されたコンタクトホール48aを介して半導体層41aの高濃度ドレイン領域41eと電気的に接続されている。
【0070】
第2層間絶縁膜44、データ線46a、及びドレイン電極46bを覆って第3層間絶縁膜47が形成されている。第3層間絶縁膜47の表面に画素電極49が形成されており、画素電極49は第3層間絶縁膜47を貫通してドレイン電極46bに達する画素コンタクトホール48bを介してドレイン電極46bと電気的に接続されている。かかる構造により、画素電極49とTFT30とが電気的に接続されている。さらに、画素電極49を覆って、配向下地膜85が形成され、配向下地膜85上に無機配向膜86が形成されている。
無機配向膜86は、先に記載のようにシリコン酸化物によって好適に構成されるが、シリコン酸化物に限らず、アルミニウム酸化物、亜鉛酸化物、マグネシウム酸化物、インジウム錫酸化物、あるいはシリコン窒化物、チタン窒化物などにより形成してもよい。後述する無機配向膜92についても同様である。
【0071】
半導体層41aを延設して第1蓄積容量電極41fが形成されている。また、ゲート絶縁膜42を延設して誘電体膜が形成されており、かかる領域のゲート絶縁膜42を介して前記第1蓄積容量電極41fと対向する位置に第2蓄積容量電極を成す容量線43bが配置されている。これにより、前記第1蓄積容量電極41fと容量線43bとが平面的に重なる位置に前述の蓄積容量57が形成されている。
また、TFT30の形成領域に対応する基板本体80Aの表面に、第1遮光膜51aが形成されている。第1遮光膜51aは、TFTアレイ基板80の外側からの光が、半導体層41aのチャネル領域41a’、低濃度ソース領域41bおよび低濃度ドレイン領域41cに入射して光リークを生じるのを防止するものである。
【0072】
一方、対向基板90における基板本体90A上には、第2遮光膜63が形成されている。第2遮光膜63は、対向基板90側からの光が半導体層41aのチャネル領域41a’や低濃度ソース領域41b、低濃度ドレイン領域41c等に入射するのを防止するものであり、平面視において半導体層41aと重なる領域に設けられている。前記第2遮光膜63を覆う対向基板90のほぼ全面にITO等の透明導電材料からなる共通電極61が形成されている。そして、共通電極61を覆って配向下地膜95が形成され、かかる配向下地膜95上に無機配向膜92が形成されている。
【0073】
TFTアレイ基板80と対向基板90との間には、ネマチック液晶等からなる液晶層50が挟持されている。ネマチック液晶分子は、正の誘電率異方性を有するものであり、非選択電圧印加時には基板に沿って水平配向し、選択電圧印加時には電界方向に沿って垂直配向する。またネマチック液晶分子は、正の屈折率異方性を有するものであり、その複屈折と液晶層厚との積(リタデーション)Δndは、例えば約0.40μm(60℃)となっている。TFTアレイ基板80側の無機配向膜86による配向規制方向と、対向基板90側の無機配向膜92による配向規制方向とは、約90°ねじれた状態に設定されている。基板本体80A、90Aのそれぞれの外側(液晶層50と反対側)には、偏光板58、68が互いの透過軸を直交させた状態(クロスニコル)で配置されている。従って、本実施形態の液晶装置60は、TNモードで動作し、捻れ配向した液晶の旋光性を利用した白表示と、電圧印加により垂直配向させた液晶の透過性を利用した黒表示との間で階調表示を行うものとなっている。
なお、本液晶装置60をプロジェクタのライトバルブとして用いる場合には、偏光板58、68については、サファイヤガラスや水晶等の高熱伝導率材料からなる支持基板上に装着して、液晶装置60から離間して配置することが望ましい。
【0074】
以上説明した液晶装置60にあっては、特に無機配向膜86、92として、前述したように製造装置1により形成できる配向性の良好な無機配向膜を備えているので、これらの無機配向膜86、92によって液晶分子のプレチルト角等の配向状態をより良好に制御することができ、高輝度、高コントラストの表示が可能であり、また耐熱性、耐光性に優れた信頼性の高い液晶装置となる。
【0075】
(プロジェクタ)
次に、本発明の電子機器としてプロジェクタの一実施形態について、図10を用いて説明する。図10は、プロジェクタの要部を示す概略構成図である。このプロジェクタは、前述した実施形態に係る液晶装置を光変調手段として備えたものである。
【0076】
図10において、810は光源、813、814はダイクロイックミラー、815、816、817は反射ミラー、818は入射レンズ、819はリレーレンズ、820は出射レンズ、822、823、824は本発明の液晶装置からなる光変調手段、825はクロスダイクロイックプリズム、826は投射レンズである。光源810は、メタルハライド等のランプ811とランプの光を反射するリフレクタ812とからなる。
【0077】
ダイクロイックミラー813は、光源810からの白色光に含まれる赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する。透過した赤色光は反射ミラー817で反射されて、赤色光用光変調手段822に入射される。また、ダイクロイックミラー813で反射された緑色光は、ダイクロイックミラー814によって反射され、緑色光用光変調手段823に入射される。さらに、ダイクロイックミラー813で反射された青色光は、ダイクロイックミラー814を透過する。青色光に対しては、長い光路による光損失を防ぐため、入射レンズ818、リレーレンズ819および出射レンズ820を含むリレーレンズ系からなる導光手段821が設けられている。この導光手段821を介して、青色光が青色光用光変調手段824に入射される。
【0078】
各光変調手段822、823、824により変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム825に入射する。このクロスダイクロイックプリズム825は4つの直角プリズムを貼り合わせたものであり、その界面には赤光を反射する誘電体多層膜と青光を反射する誘電体多層膜とがX字状に形成されている。これらの誘電体多層膜により3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ826によってスクリーン827上に投影され、画像が拡大されて表示される。
【0079】
前述したプロジェクタは、前記の液晶装置を光変調手段として備えている。この液晶装置は、前述したように信頼性が高く、高画質の表示が得られるものとなっているので、このプロジェクタ(電子機器)自体も信頼性が高く、高画質のプロジェクタとなる。
【0080】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0081】
例えば、上記図5で示した製造装置1では、第1実施形態で示したターゲット固定構造を適用する構成としたが、これに限定されるものではなく、第2実施形態で示したターゲット固定構造を適用する構成としてもよい。
また、上記実施形態では、ターゲット5、5a、5bが冷却装置33、33a、33bの貯溜部33Bを閉塞する構成としたが、これに限定されるものではなく、貯溜部33Bが開口することなく冷却装置33、33a、33bの内部に設けられ、この冷却装置33、33a、33bの表面にターゲット5、5a、5bが当接して設けられる構成であってもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、スイッチング素子としてTFTを備えた液晶装置を例にして説明したが、スイッチング素子として薄膜ダイオード(Thin Film Diode)等の二端子型素子を備えた液晶装置に本発明を適用することも可能である。また、前記実施形態では透過型液晶装置を例にして説明したが、反射型液晶装置に本発明を適用することも可能である。
また、前記実施形態ではTN(Twisted Nematic)モードで機能する液晶装置を例にして説明したが、VA(Vertical Alignment)モードで機能する液晶装置に本発明を適用することも可能である。また、実施形態では3板式の投射型表示装置(プロジェクタ)を例にして説明したが、単板式の投射型表示装置や直視型表示装置に本発明を適用することも可能である。
【0083】
また、本発明の液晶装置を、プロジェクタ以外の電子機器に適用することも可能である。その具体例として、携帯電話を挙げることができる。この携帯電話は、前述した各実施形態またはその変形例に係る液晶装置を表示部に備えたものである。また、その他の電子機器としては、例えばICカード、ビデオカメラ、パーソナルコンピュータ、ヘッドマウントディスプレイ、さらに表示機能付きファックス装置、デジタルカメラのファインダ、携帯型TV、DSP装置、PDA、電子手帳、電光掲示盤、宣伝公告用ディスプレイ等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】固定部材に対してターゲットが固定された部分断面図である。
【図2】保持部材、ターゲット等が固定部材に対して離脱している図である。
【図3】本発明のターゲット固定構造の第2実施形態を示す断面図である。
【図4】冷却装置及び保持部材の外観斜視図である。
【図5】スパッタ装置及び液晶装置の製造装置の一実施の形態を示す図である。
【図6】実施形態に係るTFTアレイ基板の全体構成図である。
【図7】同、等価回路図である。
【図8】同、画素の詳細構成を示す図である。
【図9】図8のA−A’線に沿う断面構成図である。
【図10】電子機器の一例であるプロジェクタの概略構成図である。
【符号の説明】
【0085】
W…基板、 1…製造装置、 2…成膜室、 3…スパッタ装置、 3a…開口部、 5、5a、5b…ターゲット、 5’…ターゲット(第2ターゲット)、 30、30a、30b…固定部材、 33、33a、33b…冷却装置、 33A…張出部、 33B…貯溜部、 35、35a、35b…保持部材、 38…凹部、 50…液晶層、 60…液晶装置、 80…TFTアレイ基板(第1基板)、 86、92…無機配向膜、 90…対向基板(第2基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材にターゲットが固定されるスパッタ装置のターゲット固定構造であって、
前記固定部材に対して着脱自在に設けられる保持部材を有し、
前記ターゲットが、前記固定部材と前記保持部材との間で挟持して保持されることを特徴とするスパッタ装置のターゲット固定構造。
【請求項2】
請求項1記載のスパッタ装置のターゲット固定構造において、
前記保持部材は、前記固定部材に臨む側の面に、前記ターゲットの大きさに応じた凹部を有し、
前記ターゲットは、前記凹部に装填されて保持されることを特徴とするスパッタ装置のターゲット固定構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のスパッタ装置のターゲット固定構造において、
前記固定部材には、第2のターゲットが固定され、
前記ターゲットは、前記第2のターゲットを介して前記固定部材に固定されることを特徴とするスパッタ装置のターゲット固定構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のスパッタ装置のターゲット固定構造において、
前記固定部材には、冷媒を用いて前記ターゲットを冷却する冷却装置が設けられることを特徴とするスパッタ装置のターゲット固定構造。
【請求項5】
請求項4記載のスパッタ装置のターゲット固定構造において、
前記冷却装置は、前記ターゲットが装着される側に開口し、供給された前記冷媒が貯溜される貯溜部を有し、
前記ターゲットは、前記貯溜部の開口部を閉塞して前記冷却装置に装着されることを特徴とするスパッタ装置のターゲット固定構造。
【請求項6】
請求項5記載のスパッタ装置のターゲット固定構造において、
前記冷却装置は、前記開口部から外側に張り出される張出部が設けられた筒状体を有することを特徴とするスパッタ装置のターゲット固定構造。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のスパッタ装置のターゲット固定構造において、
前記保持部材は、通電によりプラズマを生成させる電極をなすことを特徴とするスパッタ装置のターゲット固定構造。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の固定構造でターゲットが固定されることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項9】
対向する一対の基板間に挟持された液晶層を備え、少なくとも一方の前記基板の内面側に無機配向膜を形成してなる液晶装置の製造装置であって、
成膜室と、該成膜室内にて前記基板に配向膜材料をスパッタ法で成膜して無機配向膜を形成するスパッタ装置とを備え、
前記スパッタ装置として、請求項7記載のスパッタ装置が用いられることを特徴とする液晶装置の製造装置。
【請求項10】
請求項9記載の液晶装置の製造装置において、
前記スパッタ装置は、プラズマ生成領域を挟んで対向する一対の前記ターゲットと、前記プラズマ生成領域からスパッタ粒子を放出する開口部とを有しており、
前記開口部は、前記基板に対して斜め方向から前記スパッタ粒子を入射させる位置に配置されていることを特徴とする液晶装置の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−184674(P2008−184674A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20879(P2007−20879)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】