説明

スピンコート装置、スピンコート方法及び情報記録媒体の製造方法

【課題】被加工体の両面に流動性材料を塗布できる生産効率が良いスピンコート装置、これを用いたスピンコート方法及び情報記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】スピンコート装置10は、回転軸線Xに対し同軸的に配置された筒状部12Bを有し筒状部12Bにおける回転軸線Xの方向の先端部12Aから回転軸線Xの方向の途中の部分までスリット12Cが形成されたコレットと、コレット12の筒状部12Bを径方向の外側に付勢して筒状部12Bの外径を拡大可能である拡径器14と、を備え、中心孔16Aを有する板状の被加工体16の両面が露出するように被加工体16を中心孔16Aにおいてコレット12の筒状部12Bで保持して被加工体16の両面に流動性材料18を塗布可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工体の表面に流動性材料を塗布するために用いられるスピンコート装置、これを用いたスピンコート方法及び情報記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野においてスピンコート装置が用いられている。例えば、CD(Compact Disc)等の光記録媒体の製造工程では記録膜の材料である有機色素の成膜等のためにスピンコート装置が用いられている。スピンコート装置は、被加工体を保持するためのテーブルと、テーブル及び被加工体を回転駆動するための駆動装置と、を有しており、被加工体の上面(テーブルに接する面と反対側の面)における回転中心の近傍に流動性材料を供給し、テーブルと共に被加工体を回転させることにより遠心力で流動性材料を径方向の外側に流動させて流動性材料を被加工体の表面全体に塗り広げるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
又、ハードディスク等の磁気記録媒体の製造工程においてもスピンコート装置を利用して被加工体の表面に流動性材料を塗布することが期待されている。例えば、磁気記録媒体の分野では、記録密度を高めるために記録層がトラックに相当する凹凸パターンで形成されたディスクリートトラックメディアや記録層が記録ビットに相当する凹凸パターンで形成されたパターンドメディアが提案されている。記録層の上に樹脂層を成膜し、樹脂層をインプリントやリソグラフィにより記録層の凹凸パターンに相当する凹凸パターンに加工し、凹凸パターンの樹脂層に基づいて記録層をエッチングすることにより記録層をトラックや記録ビットに相当する凹凸パターンに加工することができる。尚、記録層と樹脂層との間に1層又は2層以上のマスク層を成膜し、樹脂層に基づいてマスク層をエッチングし、マスク層に基づいて記録層をエッチングすることも提案されている。このように記録層やマスク層の上に樹脂層を成膜するためにスピンコート装置を利用することが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2008―52790号公報
【特許文献2】特開2008―217908号公報
【特許文献3】特開2008―171499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えばハードディスク等の磁気記録媒体の場合、基板の両面に記録層を備える両面記録式が採用されることが多い。一方、従来のスピンコート装置は被加工体の片面(上面)のみに流動性材料を塗布することを想定した構成であるため、両面記録式の磁気記録媒体を製造する場合、まず被加工体の片面に流動性材料を塗布し、次に片面に流動性材料が塗布された被加工体を反転させ、更に被加工体の他方の面に流動性材料を塗布する必要があった。このため従来のスピンコート装置を用いて両面記録式の磁気記録媒体を製造する場合、生産効率が低いという問題があった。又、一方の面に流動性材料が塗布された被加工体を反転させる際、塗布された流動性材料が流動する可能性があり、均一な膜厚の保持が困難であるという問題もあった。更に、被加工体を反転させる際、一方の面に塗布された流動性材料が治具等に触れないように被加工体をハンドリングする必要があり、被加工体のハンドリングが煩雑であるという問題もあった。
【0006】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、被加工体の両面に流動性材料を塗布できる生産効率が良いスピンコート装置、これを用いたスピンコート方法及び情報記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の回転軸線に対し同軸的に配置された筒状部を有し筒状部における回転軸線の方向の一方の先端部から回転軸線の方向の途中の部分までスリットが形成されたコレットと、コレットの筒状部を径方向の外側に付勢して筒状部の外径を拡大可能である拡径器と、を含み、中心孔を有する板状の被加工体の両面が露出するように被加工体を中心孔においてコレットの筒状部で保持して被加工体の両面に流動性材料を塗布可能であるスピンコート装置により、上記目的を達成するものである。
【0008】
このスピンコート装置は、被加工体の両面が露出するように被加工体を中心孔においてコレットの筒状部で保持して被加工体の両面に流動性材料を塗布できるので生産効率が良い。
【0009】
ところで本発明に想到する過程で発明者らは、スリットが形成されたコレットを用いた場合、被加工体に塗布された流動性材料に時々風紋のような膜厚のむらが形成されることがあることに気づいた。具体的には風紋はコレットのスリットの部分から径方向の外側に放射状に延びる略円弧形状であった。コレットのスリットから遠心力で空気が吹き出すことにより、このような風紋が形成されたと推測される。尚、風紋は、特に被加工体の裏面(コレットの筒状部の先端部の回転軸線の方向の端面が臨む側と反対側を臨む面)に形成されやすく、被加工体の表面(コレットの筒状部の先端部の回転軸線の方向の端面が臨む側と同じ側を臨む面)には形成されにくかった。
【0010】
例えば、風紋が被加工体の中心孔の近傍だけに形成され、磁気記録媒体の記録領域に相当する領域に風紋が形成されていないような場合には、風紋は必ずしも重大な問題ではないが、このような風紋の形成はできるだけ抑制することが好ましい。そこで発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、コレットの先端部において筒状部の内側の孔を被覆し、且つ、先端部の回転軸線の方向の端面においてスリットを少なくとも部分的に被覆することにより、上記のような風紋の形成を抑制できることを見出した。
【0011】
即ち、以下の発明により上記目的を達成できる。
【0012】
(1)所定の回転軸線に対し同軸的に配置された筒状部を有し前記筒状部における前記回転軸線の方向の一方の先端部から前記回転軸線の途中の部分までスリットが形成されたコレットと、前記コレットの前記筒状部を径方向の外側に付勢して前記筒状部の外径を拡大可能である拡径器と、を含み、中心孔を有する板状の被加工体の両面が露出するように前記被加工体を前記中心孔において前記コレットの前記筒状部で保持して前記被加工体の両面に流動性材料を塗布可能であることを特徴とするスピンコート装置。
【0013】
(2) (1)において、前記コレットの前記先端部において前記筒状部の内側の孔を被覆し、且つ、前記先端部の前記回転軸線の方向の端面において前記スリットを少なくとも部分的に被覆可能である被覆部材を更に備えることを特徴とするスピンコート装置。
【0014】
(3) (2)において、前記拡径器が前記被覆部材を兼ねていることを特徴とするスピンコート装置。
【0015】
(4) (1)乃至(3)のいずれかにおいて、前記被加工体の両面に流動性材料を塗布するための一対のノズル部を備えることを特徴とするスピンコート装置。
【0016】
(5) (1)乃至(4)のいずれかにおいて、前記コレットの前記筒状部を前記径方向の内側に付勢可能である縮径器を更に備えることを特徴とするスピンコート装置。
【0017】
(6) (1)乃至(5)のいずれかにおいて、前記コレットは前記筒状部の前記先端部に前記回転軸線の方向の両側の部分よりも外径が小さいネック部が形成され該ネック部において前記被加工体の前記中心孔に嵌合して前記被加工体を保持可能であるように構成されたことを特徴とするスピンコート装置。
【0018】
(7) (1)乃至(6)のいずれかに記載のスピンコート装置を用いて前記被加工体の両面に前記流動性材料を塗布することを特徴とするスピンコート方法。
【0019】
(8) (1)乃至(6)のいずれかに記載のスピンコート装置を用いて前記被加工体の両面に前記流動性材料を塗布する工程を含むことを特徴とする情報記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被加工体の両面に流動性材料を塗布できる生産効率が良いスピンコート装置、これを用いたスピンコート方法及び情報記録媒体の製造方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係るスピンコート装置の主要部の概略構造を模式的に示す一部断面図を含む側面図である。図2は、図1のコレット周辺を拡大して示す一部断面図を含む側面図である。図3は、図1における矢視IIIに相当する側面図である。尚、図3では便宜上、被加工体及びノズル部の図示を省略している。図4は、図1におけるIV-IV線に沿う一部断面を含む平面図である。
【0023】
図1〜4に示されるように、本実施形態に係るスピンコート装置10は、回転軸線Xに対し同軸的に配置された筒状部12Bを有し筒状部12Bにおける回転軸線Xの方向の先端部12Aから回転軸線Xの方向の途中の部分までスリット12Cが形成されたコレット12と、コレット12の筒状部12Bを径方向の外側に付勢して筒状部12Bの外径を拡大可能である拡径器14と、を備え、中心孔16Aを有する板状の被加工体16の両面が露出するように被加工体16を中心孔16Aにおいてコレット12の筒状部12Bで保持して被加工体16の両面に同時に流動性材料18を塗布可能である。
【0024】
コレット12は、筒状部12Bにおける先端部12A及びその近傍の内周面が、先端部12Aから離れる方向に直径が小さくなるテーパ面12Dとなっている。又、筒状部12Bの内側には、テーパ面12Dにおける先端部12Aと反対側の端部から先端部12Aと反対側に突出する環状突起12Eが形成されている。スリット12Cは筒状部12Bにおける複数の箇所(本実施形態では4箇所)に円周方向に適宜な間隔で形成されている。尚、スリット12Cは環状突起12Eにも形成されており、環状突起12Eはスリット12Cにより分割された断続的な環形状である。又、筒状部12Bにおける各スリット12Cの先端部12Aと反対側の部分には回転軸線Xの方向に長い長孔12Fが形成されている。長孔12F及びスリット12Cは連続する切欠きを形成している。又、コレット12は、筒状部12Bの先端部12Aに回転軸線Xの方向の両側の部分よりも外径が小さいネック部12Gが形成されネック部12Gにおいて被加工体16の中心孔16Aに嵌合して被加工体16を保持可能であるように構成されている。又、筒状部12Bにおける回転軸線Xの方向の先端部12Aと反対側の端部にはフランジ部12Hが設けられている。
【0025】
コレット12は、回転軸線Xに対し同軸的に配置された筒状のロータ20の一端にフランジ部12Hにおいてスペーサ22を介して取付けられている。ロータ20は、軸受24を介してベース部26に回転自在に支持されると共に回転軸線Xの方向の動きが規制されている。又、ロータ20の他端近傍にはプーリ28が取付けられており、プーリ28にはベルト30、プーリ32を介してモータ34の回転が伝達されるようになっている。
【0026】
拡径器14は、コレット12のテーパ面12Dに嵌合可能である切頭円錐形の主部14Aと、主部14Aにおける大径側の端部に設けられたフランジ部14Bと、主部14Aにおける小径側の端部から同軸的に突出する連結部14Cと、を有している。拡径器14は、主部14Aが回転軸線Xの方向に付勢されつつコレット12のテーパ面12Dに先端部12A側から当接することにより、コレット12の筒状部12Bを径方向の外側に付勢して筒状部12Bの外径を拡大可能であるように構成されている。
【0027】
又、拡径器14は、コレット12の先端部12Aにおいてコレット12の筒状部12Bの内側の孔を主部14Aで被覆可能であり、先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面においてフランジ部14Bでコレット12のスリット12Cを少なくとも部分的に被覆可能である。即ち、拡径器14は、コレット12の先端部12Aにおいて筒状部12Bの内側の孔を被覆し、且つ、先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面においてスリット12Cを少なくとも部分的に被覆可能である被覆部材を兼ねている。
【0028】
拡径器14は、コレット12及びロータ20の内側に配置された連結バー36の頭部36Aに連結部14Cにおいて連結されている。連結バー36の頭部36Aには、コレット12の先端部12Aの方向に突出する突起36Bが形成されている。突起36Bの径方向内側(回転軸線Xに近い側)の面は、回転軸線Xからの径方向の距離がコレット12の先端部12Aに近づく方向に拡大するテーパ面36Cとなっている。突起36Bのテーパ面36Cが、先端部12Aの方向に付勢されつつコレット12の内側の環状突起12Eに当接することにより、コレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢可能である。即ち、連結バー36は、コレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢可能である縮径器を構成している。
【0029】
連結バー36における頭部36Aと反対側の尾部36Dは、ロータ20から突出しており尾部36Dの近傍にはばね座部材38が取付けられている。ばね座部材38とロータ20の端部との間には、連結バー36を取巻くように圧縮コイルばね40が装架されており、連結バー36は、常態でコレット12の先端部12Aから離れる方向に付勢されている。これにより、拡径器14の主部14Aは常態で、回転軸線Xの方向(ばね座部材38の方向)に付勢されつつコレット12のテーパ面12Dに当接し、コレット12の筒状部12Bを径方向の外側に付勢するように構成されている。
【0030】
又、連結バー36の尾部36Dよりもコレット12の先端部12Aから離れる側には、連結バー36の尾部36Dに対向してプッシュ部42が備えられている。プッシュ部42は、アクチュエータ44に駆動されて回転軸線Xの方向に進退動自在である。プッシュ部42がアクチュエータ44に駆動されて連結バー36の尾部36Dに当接し、連結バー36を圧縮コイルばね40の付勢力に抗してコレット12の先端部12Aの方向に付勢することにより、拡径器14の主部14Aにおける大径側部分がコレット12のテーパ面12Dから離間する方向に移動し、コレット12の弾性力によりコレット12の筒状部12Bの外径が小さくなるように構成されている。又、連結バー36の頭部36Aの突起36Bのテーパ面36Cがコレット12の内側の環状突起12Eに当接し、頭部36Aの突起36Bがコレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢することにより、コレット12の筒状部12Bの外径の縮小を促進するように構成されている。又、連結バー36の頭部36Aの突起36Bがコレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢することにより、コレット12の筒状部12Bの外径を常態(筒状部12Bが拡径器14や連結バー36(縮径器)により径方向に付勢されていない状態)よりも更に小さくすることも可能である。
【0031】
又、スピンコート装置10は、更に、被加工体16の両面に流動性材料を塗布するための一対のノズル部46、48を備えている。ノズル部46、48は、被加工体16の中心孔16Aの近傍に流動性材料18を吐出するように構成されている。
【0032】
被加工体16は、例えばハードディスク等の磁気記録媒体の基板の両面に磁気記録層等が成膜されたものである。被加工体16の外径は、例えば30〜90mmである。又、中心孔16Aの直径は、例えば12〜25mmである。又、被加工体16の厚さは、例えば0.5〜1.2mmである。
【0033】
流動性材料18は、例えば、紫外線硬化性樹脂等の放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、又はレジスト材料である。
【0034】
尚、スピンコート装置10は、図示しないケーシング内に収容されている。ケーシングの底部には必要に応じて被加工体16の外周から飛散する余剰の流動性材料18を排出するためのドレン孔が設けられる。ドレン孔には例えば負圧ポンプが接続され、ケーシング内の空気と共に余剰の流動性材料18が吸引されてケーシングの外部に排出される。
【0035】
次に、図5のフローチャートに沿ってスピンコート装置10を用いたスピンコート方法について説明する。ここでは一例としてスピンコート装置10を用いた情報記録媒体の製造方法について説明する。尚、初期状態でモータ34は停止している。又、プッシュ部42は連結バー36の尾部36Dから離間している。
【0036】
まず、被加工体16の両側の全面に流動性材料18を塗布する(S102)。具体的には、アクチュエータ44でプッシュ部42を連結バー36の尾部36Dの方向に駆動し、連結バー36を圧縮コイルばね40の付勢力に抗してコレット12の先端部12Aの方向に付勢する。これにより、拡径器14の主部14Aにおける大径側部分がコレット12のテーパ面12Dから離間する方向に移動し、コレット12の弾性力によりコレット12の筒状部12Bの外径が縮小する。又、連結バー36の頭部36Aの突起36Bのテーパ面36Cがコレット12の内側の環状突起12Eに当接し、コレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢する。これにより、筒状部12Bの外径の縮小が促進される。又、連結バー36の頭部36Aの突起36Bがコレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢することにより、コレット12の筒状部12Bの外径を常態(筒状部12Bが拡径器14や連結バー36(縮径器)により径方向に付勢されていない状態)よりも更に小さくすることも可能である。この状態で被加工体16を回転軸線Xに対し同軸的に、且つ、被加工体16の中心孔16Aがコレット12の先端部12Aのネック部12Gにほぼ一致するように配置する。
【0037】
次に、アクチュエータ44でプッシュ部42を連結バー36の尾部36Dから離れる方向に駆動する。連結バー36は圧縮コイルばね40に付勢されてコレット12の先端部12Aから離れる方向に移動する。これにより、連結バー36の頭部36Aの突起36Bのテーパ面36Cがコレット12の内側の環状突起12Eから離間する。更に、拡径器14の主部14Aが回転軸線Xの方向に付勢されつつコレット12のテーパ面12Dに先端部12A側から当接することにより、コレット12の筒状部12Bは径方向の外側に付勢される。これにより筒状部12Bの外径が拡大して被加工体16の中心孔16Aの内周にコレット12の先端部12Aのネック部12Gが嵌着し、被加工体16は両面が露出するように中心孔16Aにおいてコレット12の筒状部12Bで保持される。
【0038】
この状態でモータ34を始動し、被加工体16を例えば数千〜数万rpm(一例を示すと10000rpm)程度の回転速度で回転させる。更に、図2に示されるようにノズル部46、48から被加工体16の両側の面における中心孔16Aの近傍に所定の量の流動性材料18を吐出する。これにより、流動性材料18は遠心力により付勢されて径方向の外側に流動し、被加工体16の両側の全面に流動性材料18が塗布される。尚、被加工体16の裏面(コレット12の筒状部12Bの先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面が臨む側と反対側を臨む面)に吐出された流動性材料18は重力により被加工体16の裏面から離脱する方向に付勢されるが、被加工体16の裏面に吐出された流動性材料18は、その粘性により被加工体16の裏面に付着しつつ、高速で回転する被加工体16の遠心力により径方向の外側に流動する。従って、被加工体16の裏面においても表面におけると同様に流動性材料18が塗布される。所定の時間が経過し、被加工体16の両側の全面に所望の厚さで流動性材料18が塗布されたらモータ34を停止する。
【0039】
次に、アクチュエータ44でプッシュ部42を連結バー36の尾部36Dの方向に駆動し、連結バー36を圧縮コイルばね40の付勢力に抗してコレット12の先端部12Aの方向に付勢する。これにより、拡径器14の主部14Aにおける大径側部分がコレット12のテーパ面12Dから離間する方向に移動し、コレット12の弾性力によりコレット12の筒状部12Bの外径が縮小する。又、連結バー36の頭部36Aの突起36Bのテーパ面36Cがコレット12の内側の環状突起12Eに先端部12と反対側から当接し、コレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢する。これにより、筒状部12Bの外径の縮小が促進される。又、連結バー36の頭部36Aの突起36Bがコレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢することにより、コレット12の筒状部12Bの外径を常態よりも更に小さくすることも可能である。この状態で被加工体16を外径部分において図示しない治具等で保持し、回転軸線Xの方向に移動させて被加工体16をコレット12から取外す。
【0040】
次に、図6に示されるように、インプリント法により流動性材料18に所定の凹凸パターンを転写する(S104)。具体的には、被加工体16の両側の面の流動性材料18にスタンパ60を当接させ、流動性材料18に凹凸パターンを転写する。凹凸パターンは例えばディスクリートトラックメディアやパターンドメディアの記録層の凹凸に相当する凹凸パターンである。インプリント法としては、紫外線等による光インプリント、熱インプリント等を用いることができる。
【0041】
光インプリントの場合、流動性材料18として紫外線硬化性樹脂等の放射線硬化性樹脂を用いる。又、光インプリントの場合、スタンパ60は透光性であり、スタンパ60を介して流動性材料18に紫外線等の放射線を照射することにより転写された凹凸パターンの形状を保持しつつ流動性材料18を硬化させることができる。
【0042】
又、熱インプリントの場合、流動性材料18として熱可塑性樹脂等を用いる。熱インプリントの場合、スタンパ60と共に流動性材料18を冷却することにより転写された凹凸パターンの形状を保持しつつ流動性材料18を硬化させるこことができる。
【0043】
次に、図7に示されるように凹凸パターンの流動性材料18が硬化してなる樹脂層62に基づいて、被加工体16をエッチングする(S106)。これにより、樹脂層62の凹凸パターンに相当する凹凸パターンが被加工体16を両側の面に形成される。エッチング法としては、例えばIBE、RIE等のドライエッチングを用いることができる。図7中における矢印はドライエッチングの加工用ガスの照射方向を模式的に示したものである。尚、被加工体16が、例えば基板の両面に記録層等の加工対象層が形成された構成であり、加工対象層が被加工体16の表面に露出している場合、樹脂層62に基づいて直接加工対象層をエッチングする。又、被加工体16が、例えば基板の両面に記録層等の加工対象層が形成され更に加工対象層の上に更に1層又は複数のマスク層が形成された構成である場合、樹脂層62に基づいてマスク層をエッチングし、更にマスク層に基づいて加工対象層をエッチングする。これにより、両側の面に凹凸パターンの記録層を備えるディスクリートトラックメディアやパターンドメディアが得られる。尚、必要に応じてエッチング工程(S106)の後に非磁性材等を成膜して凹凸パターンの凹部を充填する工程や余剰の非磁性材をエッチングで除去して表面を平坦化する工程を実行してもよい。又、保護層や潤滑層を成膜する工程を実行してもよい。
【0044】
以後同様に、被加工体16の両側の面に流動性材料18を塗布し(S102)、流動性材料18に凹凸パターンを転写し(S104)、被加工体16をエッチングする(S106)工程を繰り返す。
【0045】
以上説明したように、スピンコート装置10は、被加工体16の両面が露出するように被加工体16を中心孔16Aにおいてコレット12で保持して被加工体16の両面に流動性材料18を塗布できるので生産効率が良い。
【0046】
又、拡径器14の主部14Aが回転軸線Xの方向に付勢されつつコレット12のテーパ面12Dに先端部12A側から当接して、コレット12の筒状部12Bを径方向の外側に付勢することにより被加工体16の中心孔16Aの内周にコレット12の先端部12Aのネック部12Gが嵌着し、被加工体16の径方向の動きを確実に規制できる。又、コレット12は、先端部12Aのネック部12Gにおいて被加工体16の中心孔16Aの内周に嵌着するので被加工体16の回転軸線Xの方向の動きも確実に規制できる。従って、高速で回転する被加工体16を確実に保持できる。
【0047】
又、スピンコート装置10は、連結バー36が、コレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢可能である縮径器を構成しているので、筒状部12Bの外径を迅速、且つ、確実に縮小できる。又、拡径器14の主部14Aにおける大径側部分がコレット12のテーパ面12Dから離間する方向に移動し、コレット12の弾性力によりコレット12の筒状部12Bの外径が縮小した状態よりも、筒状部12Bの外径を更に縮小することも可能である。従って、被加工体16をコレット12に取付ける作業や、被加工体16をコレット12から取外す作業が容易である。
【0048】
ところで、スリット12Cが形成されたコレット12を用いることにより、被加工体16に塗布された流動性材料18に風紋のような膜厚のむらが形成されることがある。具体的には、コレット12のスリット12Cの部分から径方向の外側に放射状に延びる略円弧形状の風紋が流動性材料18に形成されることがある。尚、風紋は、特に被加工体16の裏面(コレット12の筒状部12Bの先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面が臨む側と反対側を臨む面)に形成されやすく、被加工体16の表面(コレット12の筒状部12Bの先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面が臨む側と同じ側を臨む面)には形成されにくい。
【0049】
一方、スピンコート装置10は、拡径器14が、コレット12の先端部12Aにおいて筒状部12Bの内側の孔を被覆し、且つ、先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面においてスリット12Cを少なくとも部分的に被覆可能である被覆部材を兼ねているので、被加工体16の表面側から裏面側への空気の流入が抑制される。これにより上記のような風紋の形成が抑制される。尚、風紋の形成を抑制する効果については後述する実施例においても説明する。
【0050】
又、スピンコート装置10は、コレット12の先端部12Aにおいて被加工体16を保持するように構成されているので、被覆部材を兼ねる拡径器14で被覆されるコレット12の先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面と被加工体16との間のスリット12Cの長さが短い。従って、被加工体16の表面側におけるスリット12Cへの空気の流入や、スリット12Cを介した被加工体16の表面側から裏面側への空気の移動が抑制され、風紋の形成を抑制する効果が高められている。
【0051】
又、拡径器14が被覆部材を兼ねているので、スピンコート装置10は構成が簡略化されている。又、拡径器14が連結された連結バー36が、コレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢して筒状部12Bの外径を縮小可能である縮径器を兼ねているので、スピンコート装置10はこの点でも構成が簡略化されている。
【0052】
尚、本実施形態において、拡径器14が被覆部材を兼ねているが、拡径器とは別に、コレットの先端部において筒状部の内側の孔を被覆し、且つ、先端部の回転軸線の方向の端面においてスリットを少なくとも部分的に被覆可能である被覆部材を備えてもよい。
【0053】
又、本実施形態において、スピンコート装置10は、被覆部材(拡径器14)を備えているが、例えば、風紋が形成されにくい場合や、風紋が被加工体の中心孔の近傍だけに形成され、磁気記録媒体の記録領域に相当する領域に風紋が形成されないような場合には、コレットの先端部において筒状部の内側の孔を被覆し、且つ、先端部の回転軸線の方向の端面においてスリットを少なくとも部分的に被覆可能である被覆部材を備えない構成としてもよい。
【0054】
又、本実施形態において、拡径器14は、回転軸線の方向の方向に付勢されつつ主部14Aがコレット12のテーパ面12Dに先端部12A側から当接することにより、コレット12の筒状部12Bを径方向の外側に付勢して筒状部12Bの外径を拡大可能であるように構成されているが、筒状部12Bの外径を拡大可能であればコレットや拡径器の構造は特に限定されない。例えば、主部14Aの外周面又はコレット12の内周面のいずれか一方だけがテーパ面であり他方は円筒形状等のテーパ面ではない構成としてもよい。又、例えば、拡径器のテーパ面がコレットのテーパ面に先端部と反対の側から当接することにより、コレットの筒状部を径方向の外側に付勢して筒状部の外径を拡大可能である構成としてもよい。又、例えば、シリコンゴム等の袋状の拡径器をコレットの筒状部の内側に設置し、拡径器の中に圧縮空気等を供給して筒状部の外径を拡大してもよい。
【0055】
又、本実施形態において、スピンコート装置10は、拡径器14が連結された連結バー36が、コレット12の筒状部12Bを径方向の内側に付勢可能である縮径器を構成しているが、縮径器の構成は特に限定されない。例えば、連結バーと別体の縮径器を備えてもよい。又、例えば、縮径器で筒状部を径方向の内側に付勢しなくても筒状部の外径を迅速、且つ、確実に縮小できる場合や、被加工体16をコレット12に取付ける作業や被加工体16をコレット12から取外す作業が容易である場合は、縮径器は省略してもよい。
【0056】
又、本実施形態において、被加工体16の中心孔16Aの内周に嵌着するコレット12の先端部12Aにはネック部12Gが形成されているが、高速で回転する被加工体を確実に保持できれば、コレットの先端部の形状は特に限定されない。例えば、被加工体の中心孔の内周に嵌着するコレットの先端部の形状は、回転軸線の方向の一方側への被加工体の動きを規制し、他方側への被加工体の動きは規制しない段付形状でもよい。
【0057】
又、本実施形態において、コレット12は先端部12Aにおいて被加工体16を保持するように構成されているが、被加工体の両側の面に流動性材料を良好に塗布できれば、コレットの筒状部における先端部ではない部位において被加工体を保持する構成としてもよい。
【0058】
又、本実施形態において、ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアが例示されているが、スピンコート装置10は、他の情報記録媒体の製造にも用いることができる。又、スピンコート装置10は、情報記録媒体ではない製品の製造にも用いることができる。
【実施例1】
【0059】
上記実施形態に対し、拡径器14のフランジ部14Bが省略されコレット12の先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面においてスリット12Cが被覆されない構成のスピンコート装置を用意し、上記実施形態に示された方法で被加工体16の両側の面に流動性材料18を塗布した。尚、流動性材料18は紫外線硬化性樹脂だった。又、被加工体16は、ハードディスクの基板の両面に記録層等を成膜したものであった。又、流動性材料塗布工程(S102)における被加工体16の回転速度は10000rpmであった。又、被加工体16の具体的な形状は以下のとおりであった。
【0060】
外径 :48mm
中心孔16Aの直径 :12mm
記録領域の内周の直径:20mm
厚さ :0.5mm
【0061】
被加工体16の両側の面に塗布された流動性材料18を確認したところ、表面(コレット12の筒状部12Bの先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面が臨む側と同じ側を臨む面)及び裏面(コレット12の筒状部12Bの先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面が臨む側と反対側を臨む面)のいずれにも被加工体16の記録領域に相当する領域に塗布された流動性材料18の厚さは約35nmであり、記録領域に相当する領域では厚さはほぼ均一であった。
【0062】
一方、図8に示されるように、被加工体16の裏面には、中心孔16Aの近傍に、コレット12のスリット12Cの部分から径方向の外側に放射状に延びる略円弧形状の風紋が形成されていた。又、被加工体16の表面にも、風紋が形成されていたが、表面の風紋は裏面の風紋よりも著しく小さかった(図示省略)。尚、表面の風紋も裏面の風紋も、記録領域に相当する領域よりも径方向の内側の領域に形成されており、記録領域に相当する領域に風紋は形成されていなかった。
【実施例2】
【0063】
上記実施形態と同じ構成のスピンコート装置を用意した。即ち、コレット12の先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面においてスリット12Cが被覆される構成のスピンコート装置10を用意した。その他の条件は上記実施例1と同じ条件に設定し、被加工体16の両側の面に流動性材料18を塗布した。
【0064】
被加工体16の両側の面に塗布された流動性材料18を確認したところ、実施例1と同様に表面及び裏面のいずれにおいても被加工体16の記録領域に相当する領域に塗布された流動性材料18の厚さは約35nmであり、記録領域に相当する領域では厚さはほぼ均一であった。
【0065】
一方、図9に示されるように、実施例2では被加工体16の裏面に実施例1のような風紋は形成されていなかった。又、被加工体16の表面にも風紋は形成されていなかった(図示省略)。
【0066】
実施例1及び2に示されるように、被加工体16の両面が露出するように中心孔16Aにおいて被加工体16をコレット12で保持することで、被加工体12の両面に流動性材料18を良好に塗布できることが確認された。
【0067】
更に、実施例2に示されるように、コレット12の先端部12Aにおいて筒状部12Bの内側の孔を被覆し、且つ、先端部12Aの回転軸線Xの方向の端面においてスリット12Cを被覆することにより、実施例1のような風紋の形成を抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、例えば情報記録媒体の製造工程において被加工体の両面に流動性材料を塗布するために利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態に係るスピンコート装置の主要部の概略構造を模式的に示す一部断面図を含む側面図
【図2】図1のコレット周辺を拡大して示す一部断面図を含む側面図
【図3】図1における矢視IIIに相当する拡大側面図
【図4】図1におけるIV-IV線に沿う一部断面を含む平面図
【図5】同スピンコート装置を用いた情報記録媒体の製造方法の概要を示すフローチャート
【図6】同情報記録媒体の製造方法における凹凸パターン転写工程を模式的に示す側断面図
【図7】同情報記録媒体の製造方法におけるエッチング工程を模式的に示す側断面図
【図8】実施例1の被加工体の裏面を示す写真
【図9】実施例2の被加工体の裏面を示す写真
【符号の説明】
【0070】
10…スピンコート装置
12…コレット
12A…先端部
12B…筒状部
12C…スリット
12D…テーパ面
12E…環状突起
12F…長孔
12G…ネック部
12H…フランジ部
14…拡径器(被覆部材)
14A…主部
14B…フランジ部
14C…連結部
16…被加工体
16A…中心孔
18…流動性材料
20…ロータ
36…連結バー(縮径器)
36A…頭部
36B…突起
36C…テーパ面
36D…尾部
46、48…ノズル部
S102…流動性材料塗布工程
S104…凹凸パターン転写工程
S106…エッチング工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転軸線に対し同軸的に配置された筒状部を有し前記筒状部における前記回転軸線の方向の一方の先端部から前記回転軸線の方向の途中の部分までスリットが形成されたコレットと、前記コレットの前記筒状部を径方向の外側に付勢して前記筒状部の外径を拡大可能である拡径器と、を含み、中心孔を有する板状の被加工体の両面が露出するように前記被加工体を前記中心孔において前記コレットの前記筒状部で保持して前記被加工体の両面に流動性材料を塗布可能であることを特徴とするスピンコート装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記コレットの前記先端部において前記筒状部の内側の孔を被覆し、且つ、前記先端部の前記回転軸線の方向の端面において前記スリットを少なくとも部分的に被覆可能である被覆部材を更に備えることを特徴とするスピンコート装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記拡径器が前記被覆部材を兼ねていることを特徴とするスピンコート装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記被加工体の両面に流動性材料を塗布するための一対のノズル部を備えることを特徴とするスピンコート装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記コレットの前記筒状部を前記径方向の内側に付勢可能である縮径器を更に備えることを特徴とするスピンコート装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記コレットは前記筒状部の前記先端部に前記回転軸線の方向の両側の部分よりも外径が小さいネック部が形成され該ネック部において前記被加工体の前記中心孔に嵌合して前記被加工体を保持可能であるように構成されたことを特徴とするスピンコート装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のスピンコート装置を用いて前記被加工体の両面に前記流動性材料を塗布することを特徴とするスピンコート方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載のスピンコート装置を用いて前記被加工体の両面に前記流動性材料を塗布する工程を含むことを特徴とする情報記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−137153(P2010−137153A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314921(P2008−314921)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】