説明

スペーサ付き成形型およびその製造方法ならびにスペーサ付き成形型を用いたレンズアレイの製造方法

【課題】マイクロレンズアレイ成形時毎にスペーサを設置する手間を省き、効率良く樹脂厚み精度の高いマイクロレンズアレイを形成することを可能にするスペーサ付き成形型を提供する。
【解決手段】スペーサ付き成形型は、ガラス基板100上にエッチング阻止膜102を成膜し、エッチング阻止膜に、開口アレイ104を形成し、液相エッチングによって、開口アレイの下部のガラス基板に凹部アレイ106を形成し、凹部アレイの部分のエッチング阻止膜を除去し、残されたエッチング阻止膜上の少なくとも3個以上の箇所にスペーサを固着することで作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサ付き成形型とその製造方法に関し、さらにはスペーサ付き成形型を用いた、レンズアレイ、特に光利用効率の向上に寄与するレンズ付き発光素子の製造方法に関する。本発明は、また、レンズ付き発光素子アレイを用いた光書込みヘッド、さらには光書込みヘッドを用いた光プリンタ,ファクシミリ,複写機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1次元または2次元に配列した凸形状のマイクロレンズアレイを、単数または複数個、基板に安価で効率良く形成する方法として、凹形状の成形型(スタンパ)にて光硬化型樹脂をマイクロレンズアレイとして成形する2P(Photopolymer)法が知られている。
【0003】
また、これらのマイクロレンズアレイは所望の結像関係を満足するよう、光軸方向におけるギャップ(樹脂厚み)を精密に調整する必要がある。更に、照度バラツキを抑制するために、アレイ内でのギャップが均一であることも要求される。
このような要求を満足するため、例えば特開2001−188107号公報(特許文献1)や特開2002−90506号公報(特許文献2)に、レンズアレイの存在しない非有効エリアにスペーサを設置する方法が開示されている。
【0004】
特許文献1によると、マイクロレンズアレイは、複数の凹部を有する基板に樹脂を充填し、平面基板を貼り合わせた後、樹脂を硬化させる工程により形成される。このマイクロレンズアレイの非有効エリアである外周部に、サイズの揃った球状粒子等で構成されたスペーサを配置し、樹脂層の厚みを高精度で規定している。
【0005】
また特許文献2によると、2P法で形成された凸形状のマイクロレンズアレイを、別の平板と貼り合わせる際に、上記と同様の粒子状スペーサを非有効エリアに配置し、樹脂層の厚みを高精度で規定している。
【0006】
特許文献1にはスペーサの設置方法について詳細な説明が見当たらないが、特許文献2は有効なエリア(マイクロレンズを形成)をテーピングによりマスキングし、その上から熱固着型粒子状スペーサを分散させた水−アルコール混合液をスプレイで噴射し、その後、テープを除去して非有効エリアのみにスペーサを設置し焼成固着する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2001−188107号公報
【特許文献2】特開2002−90506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術には次のような問題点があった。すなわち、従来技術はいずれも貼り合わせを前提とした工程を対象としており、スペーサを非有効領域のみに毎回精度よく設置することは非効率である。
スペーサの設置には、精度良いマスキングが要求されるため、マスキング→噴射→マスキング除去→焼成の工程に時間がかかるからである。
【0008】
本発明の目的は、マイクロレンズアレイ成形時毎にスペーサを設置する手間を省き、効率良く樹脂厚み精度の高いマイクロレンズアレイを形成することを可能にするスペーサ付き成形型およびその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、このようなスペーサ付き成形型の製造方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、このようなスペーサ付き成形型を用いてマイクロレンズアレイを製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、スペーサ付き成形型を用いて製造したレンズ付き発光素子アレイを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、レンズ付き発光素子アレイを用いた光書込みヘッド、さらにはこのような光書込みヘッドを備える光プリンタ,ファクシミリ,複写機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、レンズアレイを成形により製造するための成形型である。本発明の成形型は、レンズを形成する有効エリア以外の非有効エリアに、スペーサが固着されていることを特徴とする。なお、ここに「レンズを形成する有効エリア以外の非有効エリア」とは、レンズを成形するために有効に働く凹部以外のエリアを意味している。
本発明の第2の態様は、レンズアレイを成形により作製するための成形型の製造方法である。
本発明の成形型の製造方法は、
(a)ガラス基板を準備する工程と、
(b)前記ガラス基板上にエッチング阻止膜を成膜する工程と、
(c)前記エッチング阻止膜に、開口アレイを形成する工程と、
(d)液相エッチングによって、前記開口アレイの下部の前記ガラス基板に凹部アレイを形成する工程と、
(e)前記凹部アレイの部分のエッチング阻止膜を除去する工程と、
(f)残されたエッチング阻止膜上の少なくとも3個以上の箇所にスペーサを固着する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の成形型の他の製造方法は、
(a)第1のガラス基板を準備する工程と、
(b)前記ガラス基板上にエッチング阻止膜を成膜する工程と、
(c)前記エッチング阻止膜に、開口アレイを形成する工程と、
(d)液相エッチングによって、前記開口アレイの下部の前記ガラス基板に凹部アレイを形成する工程と、
(e)前記凹部アレイの部分のエッチング阻止膜を除去して、スペーサ形成用成形型を得る工程と、
(f)第2の基板を準備する工程と、
(g)前記スペーサ形成用成形型と前記第2の基板との間に、光硬化性樹脂を塗布展開する工程と、
(h)前記光硬化性樹脂に光を照射して硬化させ、少なくとも3個以上の箇所にスペーサを固着する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の態様は、レンズアレイ付き基板の製造方法である。
(a)基板を準備する工程と、
(b)スペーサ付き成形型を準備する工程と、
(c)前記成形型の凹部アレイおよび前記基板の少なくとも一方の表面に、光硬化性樹脂を塗布する工程と、
(d)前記光硬化性樹脂を挟んで、前記スペーサ付き成形型と前記基板とを接触させ、加圧して前記光硬化性樹脂を展開する工程と、
(e)前記光硬化性樹脂に前記スペーサ付き成形型側から光を照射して、前記エッチング阻止膜が除去された部分の光硬化性樹脂を硬化させる工程と、
(f)前記スペーサ付き成形型と前記基板とを剥離する工程と、
(g)前記基板上にある未硬化の光硬化性樹脂を洗浄除去する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の態様は、基板を発光素子レンズアレイとして製造されたレンズ付き発光素子アレイを用いた光書込みヘッド、および光書込みヘッドを備えた光プリンタ,ファクシミリ,複写機である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2P成形型にスペーサを設置することで、高精度な樹脂厚みを確保する共に、貼り合わせの際に必要だった毎回スペーサを非有効エリアに精度良く設置する工程を省くことができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を、光プリンタに用いられるLEDアレイに一体でレンズを形成する方法を例にして説明する。なお、レンズを形成する対象は、LEDの外に、半導体レーザ,フォトディテクタ,光変調素子などの他の光半導体素子なども考えられる。
従来の光プリンタに用いられるLEDアレイ、ロッドレンズアレイ、感光ドラムの代表的な構成例を図1に示す。10はLED、12はロッドレンズアレイ、14は感光ドラムである。
ロッドレンズアレイ12の実効的な口径角θが半角として17〜20°であるのに対し、LED10は基本的にランバーシアン分布で発光しており、光利用効率は極めて低い。
【0016】
この光利用効率を高めるために、図2に示すように、LED発光部の直上にマイクロレンズアレイ18を配置して、LED発光の指向性を少しでも狭めることによって、ロッドレンズアレイ12の口径角内に入射する光線を増やすことが考えられる。
しかしながら、一般に、光プリンタに使用されるLEDアレイの発光部は、図3に示されるように、電極20が発光部分の中央付近を塞いでしまっており、その結果、図3に示されるように発光部22は、略U字形の形状となる。図2に示すような、一般的なマイクロレンズアレイで指向性を狭めようとすると、マイクロレンズ18に入射させたい光軸近傍の光線24がちょうど電極遮光部からの発光位置に対応してしまい、その結果、十分に光利用効率を向上できない。
【0017】
そこで本発明では、図4に示すような複合マイクロレンズを用いる。
図4(A)には、LEDの略U字形の発光部22に対して、その上に、複合マイクロレレンズ30を設けた状態を示し、図4(B)は複合マイクロレンズの形状を示す。
略U字形の発光部22の発光強度の極大位置を結ぶと、折れ線32が形成される。この折れ線32の3つの線分の各両端またはその近傍に中心が位置する4つの球面レンズの一部分を設け、その中間部分に3つの各線分に平行な軸を有する3つのシリンドリカルレンズの一部分を設け、それらを互いに隣接配置して複合レンズ30が形成される。
【0018】
このような複合レンズの材料には、エポキシ系またはアクリル系の樹脂が用いられる。
図4(B)において、点33,34,35,36は、図4Aに示す略U字形折れ線32の3つの線分32a,32b,32cの各両端を示す。複合レンズ30は、点33を中心とする球面レンズの一部分43と、点34を中心とする球面レンズの一部分44と、点35を中心とする球面レンズの一部分45と、点36を中心とする球面レンズの一部分46とを有している。複合レンズ30は、さらに、線分32aに平行な軸を有するシリンドリカルレンズ48の一部分と、線分32bに平行な軸を有するシリンドリカルレンズ50の一部分と、線分32cに平行な軸を有するシリンドリカルレンズ52の一部分とを有している。これら4つの球面レンズの一部分と、3つのシリンドリカルレンズの一部分とは、図示のように隣接配置されている。
【0019】
図4(B)には、複合レンズの形状を理解させるために、X−X′線断面図およびY−Y′線断面図も示している。
このように複合マイクロレンズ30は、略U字形発光部22の各部に球面レンズの光軸中心、または、シリンドリカルレンズの軸を一致させ、その球面レンズの一部分と、シリンドリカルレンズとを複合した特殊な形状のレンズである。
このような、略U字形の発光部形状に合わせた複合レンズを用いることによって、略U字形発光部の各部分ごとに、複合レンズの各部分を用いて、発光光線を光軸方向、すなわち、ロッドレンズの方向に屈折させることができて、ロッドレンズの方向にランバーシアン発光の指向性を狭めることが可能になる。
【0020】
以上のような複合マイクロレンズのアレイが設けられた発光素子アレイを製造するときに用いるスペーサ付き成形型について以下に説明する。
【実施例1】
【0021】
図5には、スペーサ付き成形型の製造方法の一実施例を示す。なお、成形型は複数個のレンズ付きLEDアレイを同時に成型できるものとする。
【0022】
まず、図5の工程(A)に示すように、石英ガラス基板100上にCr膜102を塗布し、続いてフォトリソグラフィー技術によってCr膜に開口104のアレイを形成する。開口104のピッチは、プリンタ解像度600DPI(Dots Per Inch)に対応させて、42.3μmとした。
【0023】
図6は、このような開口アレイをバターニングしたCr膜付き石英ガラス基板100の平面図である。各開口104の形状は、図示のように略U字形であり、1線分の長さは16μm、幅2μmである。この開口は、LEDの略U字形発光部領域の光量の極大位置にその位置がほぼ一致するようにした。
【0024】
次に、このような開口部アレイをパターンニングしたCr膜付き石英ガラス基板100を、フッ酸を用いて液相エッチングし、図5の工程(B)に示されるような凹部106を作製した。凹部の形状は、図4Aおよび図4Bで説明した球面レンズおよびシリンドリカルレンズが密接配置された複合マイクロレンズの形状に対応している。
今、図6において、略U字形開104の端部および角部を、図示のようにa,b,c,dとする。ガラス基板は、フッ酸により等方的にエッチングされる。従って、開口104の端部a,dと角部b,cからは半球状にエッチングが進む。また、端部aと角部bの中間部、角部bと角部cの中間部、角部cと端部dの中間部からはシリンドリカル状にエッチングが進む。このため、図4(A),(B)に示した複合レンズの形状に対応した凹部形状が形成されることになる。
【0025】
その後、エッチングされて浮いたCr膜102を、粘着テープ(図示せず)を貼った後で、弾性体基板を押し当てて破断し、粘着テープを剥がして、エッチング部のCr膜を除去した。図5の工程(C)に、その状態を示す。レンズを形成する有効エリア以外の非有効エリアには、Cr膜102が残存している。
図7には、以上のようにして作製されたガラスエッチング基板200を示す。複数個のレンズ付LEDアレイを同時に作製する有効エリアを202で示す。非有効エリアには、Cr膜102が存在している。
【0026】
次に、非有効エリアのCr膜102上に、複数箇所(少なくとも3箇所)に紫外線(UV)硬化性樹脂を点塗布する。図8に塗布した状態を示す。点塗布したUV硬化性樹脂204を、6mm×1mmの間隔で設けた。1個の樹脂204の直径は100〜300μmである。
【0027】
次に、図9に示すようにガラス板210を用意し、このガラス板上に、球体ビーズ212をピラミッド状に重なり合うことのないように展開させる。ビーズの直径は、光学シミュレーションの結果により600DPIのLEDアレイのときは12.5μm、1200DPIのLEDアレイのときは、6μmとするのが好適であることがわかった。ビーズには、粒径の揃ったシリカビーズを用いるが、プラスチックビーズ、または高さの揃ったピラーなどを用いてもよい。
実際には、ビーズをヘラなどで十分展開させた後、無塵紙とこすり合わせる。これにより、ガラス板210上にピラミッドのように重なり合うことなくビーズが展開できる。
【0028】
図10(A),(B)に示すように、ビーズ212に展開させたガラス板210を、UV硬化性樹脂を点塗布したガラスエッチング基板200に重ね合わせる。ガラス板210を離すと、1個のUV硬化性樹脂部分あたり、0〜50個のビーズがくっついている。図10(C)は、UV硬化性樹脂にビーズがくっついた状態を示す。
【0029】
次に、図11(A)に示すように、ガラスエッチング基板に200にシリコンゴムシート220を重ね合わせる。このとき、シリコンゴムシート220とがガラスエッチング基板200との間に空気が入らない様に、端から除々に重ね合わせる。
【0030】
シリコンゴムシート220をガラスエッチング基板200に重ね合わせた結果、ビーズ212は、基板200に密着する。次に、図11(B)に示すように、UV照射を行ったの後、シリコンゴムシート220を剥がす。このときUV硬化性樹脂のないところにビーズが付着することがあるが、それらは水洗いまたは超音波洗浄で容易に除去できる。
以上のようにして、図11(c)に示すように、スペーサ付き成形型(スタンパ)230を作製できた。
【0031】
次に、スタンパ230を用いて、レンズ付きLEDアレイを製造する方法を、図12を参照して説明する。
スタンパ230の表面に離型剤をコーテングした後、図12(A)に示すように、(UV)硬化性樹脂110をディスペンサーにより、泡の巻き込みがないように滴下し、付着する。UV硬化性樹脂の種類としては、エポキシ系またはアクリル系があり、いずれも使用できる。
次に、図12(B)に示すように、樹脂110上にLEDの形成工程を終了したLEDアレイウェハ112を載せる。ウェハ112には、多数個のLEDアレイチップが形成されている。チップ両端にボンディングパット82が設けられ、LEDの発光部(略U字形)84がチップの縁部に沿って直線状に配列されている。LEDの発光部の形状(略U字形)に位置を合わせて複合マイクロレンズを形成しなければならないので、ウェハ112とスタンパ230は精密に位置合わせする必要がある。このためには、ウェハ112とスタンパ1230とにそれぞれ位置合わせマークを設け、これを利用して位置合わせする。このとき、Cr膜102が、チップのボンティングパット82と対向するようにする。
【0032】
UV硬化性樹脂110とウェハ112とを接触した後、圧力をかけて樹脂を展開する。このとき、ビーズであるスペーサの存在の故にCr膜102の表面とウェハ112の表面との間の距離が規定されるので、LED面とレンズ上面との距離は正確に定められる。
樹脂110を硬化させるため、UV光114をスタンパ230を通して照射し、樹脂を硬化させた。UV光114は、ファイババンドルの射出端から射出させたUV光を石英レンズでコリメートすることによって、略平行な光線とし、これをスタンパ230の裏面に略垂直になるように照射した。
図12の(C)に示すように、スタンパ230を離型させた後、未硬化の樹脂(レンズ部分のCr膜除去部分以外は、Cr膜でUV光が遮光されているため、樹脂が硬化しない)を溶媒で洗浄除去する。結果を、図12(D)に示す。LEDの発光部84上には複合マイクロレンズ30が形成され、ボンディングパッド82は露出していることがわかる。
【0033】
以上の製造方法によれば、LED面とレンズ上面との間の距離は、スタンパ203のスペーサがLEDアレイウェハに接することによって、ウェハ全面で一定間隔に保つことができた。
また、LEDの発光部とレンズ頂点との間の距離のバラツキを低減でき、光量の均一性向上が確認できた。
【0034】
以上説明したレンズ付きLEDアレイの作製では、複合マイクロレンズとして図4に示した形状のものを形成した。複合マイクロレンズの形状は、これに限るものではなく他の形状であってもよい。
例えば、図13に示すように、略U字状発光部22の上に、各々中心を位置させた3つの球面レンズの一部分を、「三つ葉のクローバ」のような形状に組み合わせたような形状であってもよい。
【0035】
このような複合マイクロレンズは、次のようにして設計される。略U字形のLED発光部の発光強度の極大位置を結ぶと、折れ線32が形成される。この折れ線32の3つの線分の中間位置近傍に中心53,54,56が位置する3つの球面レンズ63,64,66の一部分を設け、それらを互いに隣接配置する。
【0036】
このような複合マイクロレンズを作製するスタンパを作製するには、図14に示すような開口アレイをパターニングしたCr膜付き石英ガラス基板124を用いる。開口126は、三角形の頂上に位置する3個の微小円形開口126a,126b,126cよりなり、等ピッチで配列されている。微小円形開口の位置は、図13に示した点53,54,56に対応している。
このような開口アレイを有するCr膜付き石英ガラス基板124をフッ酸でエッチングすると、各微小開口からエッチングが等方的に行われる。従って、各微小円形開口から半球状にエッチングが進み、図13に示した複合ガラスの形状に対応した凹部形状が形成されることになる。
【実施例2】
【0037】
実施例1では、スペーサとして積極的にビーズを用いた。本実施例では、スタンパにスペーサを成形により作り込む例について説明する。
【0038】
図15(A),(B),(C)は、スタンパに作り込むスペーサの種々の形状を示す。各図において上側の図は側面図、下側の図は平面図である。
各スペーサ90は凸状の突起であり、基板92に固着されている。各スペーサ90は、基板92上のベース部90Bと、ベース部92B上の頂部90Aとで構成される。
【0039】
このような形状のスペーサを有するスタンパは、以下のような工程で作製される。
(1)図16(A),(B)に示すように、石英ガラス基板300上にフッ酸系エッチャントに対する阻止膜としてCr膜302を成膜する。なお、図16(B)は、図16(A)のA−A’線断面図である。
(2)Cr膜302をフォトリソグラフィー技術を用いたパターニングにより開口アレイを形成した。開口形状は、図のように直径5μmの円形開口304Aと線幅2μmの長方形開口304Bを含むパターンとした。
(3)これをフッ酸系エッチャントでエッチングして、開口部分に凹部アレイを形成した。
(4)凹形状の部分のみCr膜を除去し、平坦部のCr膜は残した。凹形状部分のみのCr膜を除去する方法としては、フォトリソグラフィー技術を用いてパターニングによって選択的に除去する方法、ゴムやスポンジなどの弾性体を押しつけて除去する方法、粘着テープなどの粘性体を貼って剥がすことで、凹形状部分のみのCr膜を除去する方法などがある。
【0040】
図17には、凹形状の部分のみCr膜を除去した石英ガラス基板300を示す。図17(B)は、図17(A)のA−A’線断面図である。円形開口304Aに対応する凹部を306Aで、円形開口304Bに対応する凹部を306Bで示す。
このようにして作製した凹部アレイ基板に離型剤を塗布し、スペーサ形成のためのスタンパとした。
【0041】
図18に示すように、このようなスペーサ形成用スタンパ310に紫外線硬化性のエポキシ樹脂312をディスペンスし、その上に被成形基材、すなわち凹部を有する厚さ約5mmの石英ガラス基板320を貼り合わせ、樹脂を展開させた。十分な時間をかけて均一な荷重をかけ、スペーサ形成用スタンパ310と石英ガラス基板320とを密着させた後に、UV照射し、樹脂を硬化させた。
本実施例では、被成形基材として凹部を有する厚み約5mmの石英ガラス基板320を用いたが、UV光が石英ガラス基板中を透過してステージに達し、反射して表面の樹脂に当たって硬化することを抑制するために、反射しないような黒色のステージを用いた。
【0042】
スペーサ形成用スタンパ310を離型させた後、未硬化の樹脂(凹パターンのCr除去部分以外は、Cr膜でUV光が遮光されているため、樹脂は硬化しない)を溶媒で洗浄除去し、石英ガラス基板320にスペーサ90を形成することができた。
【0043】
図19に、スペーサ90が形成された石英ガラス基板320を示す。図19(A)は平面図、図19(B),(C)はそれぞれA−A’線断面図,B−B’線断面図である。
図中、92は、石英ガラス基板320に設けられている凹部を示している。
石英ガラス基板320の面とスペーサ90の頂上部との間の距離、すなわちスペーサ90の高さは、図15で示したように、頂部90Aの厚さとベース部90Bの厚さとの和である。頂部90Aの厚さは、スペーサ形成用スタンパ310の凹部の深さで決まる。また、ベース部90Bの厚さは、図18に示したように、スタンパ310の面と、スタンパ310に密着させた石英ガラス基板312の面との間の距離で決まる。
なお、ベース部90Bの厚さは、樹脂塗布量、加圧力、加圧時間を最適化することによって最適化できる。
また、図18における工程において、樹脂312に粒径の揃ったビーズを分散させておくと、ビーズがスペーサとなり、ベース部の厚さを一定にすることが容易になる。
ベース部の厚さは、図15に示すように、スペーサ90の側面において、基板から上方に向かってなぞっていったとき、初めての変曲点となる位置までの高さである。
【実施例3】
【0044】
本実施例は、実施例2において、Cr膜に設けた開口形状を、10mm×10mmの正方形としたものである。スペーサ用スタンパの作製方法は、実施例2で説明した方法と同一である。
本実施例では、スペーサを形成する被成形基材として、Siウェハを用いた。Siウェハ上にスペーサ90を形成する方法は、実施例2で説明した方法と同一である。最終的に得られるスペーサ90の断面形状は、図15(C)に示したものとなる。図20に、スペーサ90が形成されたSiウェハ330を示す。
本実施例では、スペーサ形成用スタンパのCr膜302に設ける開口は正方形としたが、他にも、三角形、長方形、楕円、多角形や曲線を組み合わせることにより、2次元的に自在な形状のスペーサを得ることができる。
【0045】
図21は、正方形と正三角形の開口をCr膜300に設けた基板300を示す。図21(A)は平面図を、図21(B)は断面図を示している。
以上の実施例1では、スペーサとしてビーズを用いたスタンパを、実施例2および3では、凸状のスペーサを作り込んだスタンパについてそれぞれ説明した。このようなスタンパは、発光素子アレイに、レンズアレイを作製するのに用いられる。
発光素子アレイとして、LEDアレイについて前述した。次に、発光素子アレイの他の例、いわゆる「自己走査型発光素子アレイ」を説明する。
自己走査型発光素子アレイは、発光素子アレイの構成要素としてpnpn構造を持つ発光サイリスクを用い、発光素子の自己走査が実現できるように構成したものであり、特開平1−238962号公報、特開平2−14584号公報、特開平2−92650号公報、特開平2−92651号公報に開示されている。また、特開平2−263668号には、転送素子アレイを転送部として、発光部である発光素子アレイと分離した構造の自己走査型発光素子アレイが開示されている。
【0046】
図22に、分離タイブの自己走査型発光素子アレイの等価回路図を示す。この自己走査型発光素子アレイは、転送用サイリスタT1,T2,T3,…、書込み用発光サイリスタL1,L2,L3…からなる。転送部の構成は、ダイオード接続を用いている。VGKは電源(通常5V)であり、電源ライン72から各負荷抵抗Rを経て各転送用サイリスクのゲート電極G1,G2,G3‥‥に接続されている。また、転送用サイリスタのゲート電極G1,G2,G3}‥‥は、書込み用発光サイリスクのゲート電極にも接続される。転送用サイリスクT1のゲート電極にはスタートパルスφが加えられ、転送用サイリスクのアノード電極には、交互に転送用クロックパルスφ1,φ2が加えられる。これらクロックパルスは、クロックパルスライン74,76を経て供給される。書込み用発光サイリスタのアノード電極には、信号ライン78を経て、書込み信号φIが加えられている。
【0047】
図23に、このような自己走査型発光素子アレイのチップ80を示す。チップ両端にボンディングパッド82が設けられ、発光用サイリスタの発光部(略U字形)84がチップ縁部に沿って直線状に配列されている。なお、転送用サイリスタアレイは、図示を省略してある。
【0048】
本発明は、以上のような自己走査型発光素子アレイの発光用サイリスタアレイに適用できる。複合マイクロレンズアレイを設けた発光用サイリスタアレイの一部拡大図を図24に示す。この拡大部分は、図23に点線で囲った部分に相当している。
【0049】
このようなレンズ付き発光素子アレイは、光プリンタ,ファクシミリ,複写機などに用いられる光書込みヘッドの光源として利用できる。
【0050】
図25に、本発明の発光素子アレイを用いた光書込みヘッドの一例を示す。チップ実装基板370上に、発光素子を列状に配置した複数個の発光素子アレイチップ371が、主走査方向に実装され、この発光素子アレイチップ371の発光素子が発光する光の光路上には、主走査方向に長尺な正立等倍のロッドレンズアレイ372が、樹脂ハウジング373により固定されている。ロッドレンズアレイ372上には、感光ドラム374が設けられる。また、チップ実装基板370の下地には発光素子アレイチップ371の熱を放出するためのヒートシンク375が設けられ、ハウジング373とヒートシンク375は、チップ実装基板370を間に挟んで止め金具376により固定されている。
【0051】
次に、このような光書込みヘッドを用いた光プリンタについて説明する。光プリンタの基本構造を図26に示す。
【0052】
光プリンタには、光書込みヘッド400が設置される。円筒形の感光ドラム402の表面に、アモルファスSi等の光導電性を持つ材料(感光体)が作られている。このドラムは、プリントの速度で回転している。回転しているドラムの感光体表面を、帯電器404で一様に帯電させる。そして、光書込みヘッド400で、印字するドットイメージの光を感光体上に照射し、光の当たったところの帯電を中和し、潜像を形成する。続いて、現像器406で感光体上の帯電状態にしたがって、トナーを感光体上につける。そして、転写器408でカセット410中から送られてきた用紙412上に、トナーを転写する。用紙は、定着器414にて熱等を加えられ定着され、スタッカ416に送られる。一方、転写の終了したドラムは、消去ランプ418で帯電が全面にわたって中和され、清掃器420で残ったトナーが除去される。
【0053】
このような光書込みヘッドは、プリンタのみならずファクシミリ,複写機にも利用することができる。図27は、ファクシミリまたは複写機の基本構造を示す。図26と同一の構成要件には、同一の参照番号を付して示す。
【0054】
紙送りローラ430で搬送される読取り原稿422に光源424から光を照射し、反射光を結像レンズ426を介して、イメージセンサ428で受光する。イメージセンサ428の出力に基づいて、光書込みヘッド400の発光素子アレイ432が点灯し、ロッドレンズアレイ434を介して感光ドラム402に照射される。用紙412への印字は、光プリンタで説明したとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】従来の光プリンタに用いられるLEDアレイ,屈折率分布型ロッドレンズアレイ,感光ドラムの代表的な構成例を示す図である。
【図2】従来のレンズ付きLEDアレイを用いた場合の感光ドラムの光線の状態を示す図である。
【図3】発光部領域の形状を示す図である。
【図4】複合マイクロレンズの一例を示す図である。
【図5】成形型の製造工程を示す図である。
【図6】開口アレイをパターニングしたCr膜付き石英ガラス基板の平面図である。
【図7】ガラスエッチング基板を示す図である。
【図8】UV硬化性樹脂を点塗布したガラスエッチング基板を示す図である。
【図9】ビーズを展開させたガラス板を示す図である。
【図10】ビーズをガラスエッチング基板に密着させる工程を示す図である。
【図11】UV光を照射してビーズをガラスエッチング基板に固着させる工程を示す図である。
【図12】スペーサ付き成形型を用いてレンズ付きLEDアレイを製造する工程を示す図である。
【図13】複合マイクロレンズの他の例を示す図である。
【図14】開口アレイをパターニングしたCr膜付き石英ガラス基板の平面図である。
【図15】凸状のスペーサの形状を示す図である。
【図16】エッチング前のスペーサ用スタンパを示す図である。
【図17】エッチング後のスペーサ用スタンパを示す図である。
【図18】スペーサ用スタンパにより被成形基材に凸状スペーサを形成する方法を説明する図である。
【図19】凸状スペーサが形成された石英ガラス基板を示す図である。
【図20】凸状スペーサが形成されたSiウェハを示す図である。
【図21】Cr膜に設けられた開口の他の例を示す図である。
【図22】自己走査型発光素子アレイの等価回路を示す図である。
【図23】自己走査型発光素子アレイのチップを示す図である。
【図24】複合レンズアレイを設けた自己走査型発光素子アレイの一部拡大図である。
【図25】光書込みヘッドの構造を示す図である。
【図26】光プリンタの基本構造を示す図である。
【図27】ファクシミリまたは複写機の基本構造を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
90 スペーサ
100,300 石英ガラス基板
102,302 Cr膜
110,312 UV樹脂
112 LEDアレイウェハ
82 ボンディングパット
200 ガラスエッチング基板
204 点塗布されたUV硬化性樹脂
212 ビーズ
220 シリコンゴムシート
230 スペーサ付き成形型
310 スペーサ形成用スタンパ
320 石英ガラス基板
330 Siウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズアレイを成形により製造するための成形型において、
レンズを形成する有効エリア以外の非有効エリアに、スペーサが固着されていることを特徴とする成形型。
【請求項2】
前記スペーサは、前記非有効エリアに、少なくとも3個以上の箇所に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の成形型。
【請求項3】
前記スペーサは、光硬化性樹脂によって、前記非有効エリアに固着されていることを特徴とする請求項2に記載の成形型。
【請求項4】
前記スペーサは、粒径の揃ったビーズよりなることを特徴とする請求項1,2または3に記載の成形型。
【請求項5】
前記スペーサは、凸状の突起よりなることを特徴とする請求項1,2または3に記載の成形型。
【請求項6】
レンズアレイを成形により作製するための成形型の製造方法において、
(a)ガラス基板を準備する工程と、
(b)前記ガラス基板上にエッチング阻止膜を成膜する工程と、
(c)前記エッチング阻止膜に、開口アレイを形成する工程と、
(d)液相エッチングによって、前記開口アレイの下部の前記ガラス基板に凹部アレイを形成する工程と、
(e)前記凹部アレイの部分のエッチング阻止膜を除去する工程と、
(f)残されたエッチング阻止膜上の少なくとも3個以上の箇所にスペーサを固着する工程と、
を含むことを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項7】
前記スペーサは、粒径の揃ったビーズよりなることを特徴とする請求項6に記載の成形型の製造方法。
【請求項8】
前記工程(f)は、
(g)前記エッチング阻止膜上に、光硬化性樹脂を点塗布する工程と、
(h)前記光硬化性樹脂に前記ビーズを付着させる工程と、
(i)前記ビーズを、前記残されたエッチング阻止膜に密着させる工程と、
(j)前記光硬化性樹脂に光を照射して硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする請求項7に記載の成形型の製造方法。
【請求項9】
レンズアレイを成形により作製するための成形型の製造方法において、
(a)第1のガラス基板を準備する工程と、
(b)前記ガラス基板上にエッチング阻止膜を成膜する工程と、
(c)前記エッチング阻止膜に、開口アレイを形成する工程と、
(d)液相エッチングによって、前記開口アレイの下部の前記ガラス基板に凹部アレイを形成する工程と、
(e)前記凹部アレイの部分のエッチング阻止膜を除去して、スペーサ形成用成形型を得る工程と、
(f)第2の基板を準備する工程と、
(g)前記スペーサ形成用成形型と前記第2の基板との間に、光硬化性樹脂を塗布展開する工程と、
(h)前記光硬化性樹脂に光を照射して硬化させ、少なくとも3個以上の箇所にスペーサを固着する工程と、
を含むことを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項10】
レンズアレイ付き基板の製造方法であって、
(a)基板を準備する工程と、
(b)請求項1〜5のいずれかに記載のスペーサ付き成形型を準備する工程と、
(c)前記成形型の凹部アレイおよび前記基板の少なくとも一方の表面に、光硬化性樹脂を塗布する工程と、
(d)前記光硬化性樹脂を挟んで、前記スペーサ付き成形型と前記基板とを接触させ、加圧して前記光硬化性樹脂を展開する工程と、
(e)前記光硬化性樹脂に前記スペーサ付き成形型側から光を照射して、前記エッチング阻止膜が除去された部分の光硬化性樹脂を硬化させる工程と、
(f)前記スペーサ付き成形型と前記基板とを剥離する工程と、
(g)前記基板上にある未硬化の光硬化性樹脂を洗浄除去する工程と、
を含むことを特徴とするレンズアレイ付き基板の製造方法。
【請求項11】
前記基板は、発光素子アレイであることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項11の製造方法により製造されたレンズ付き発光素子アレイを有する光書込みヘッド。
【請求項13】
請求項12に記載の光書込みヘッドを備える光プリンタ。
【請求項14】
請求項12に記載の光書込みヘッドを備えるファクシミリ。
【請求項15】
請求項12に記載の光書込みヘッドを備える複写機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2006−327182(P2006−327182A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90292(P2006−90292)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】