説明

スライド式シート

【課題】極めて簡単な構造によって着座者の足元を空調することができるスライド式シートを提供する。
【解決手段】シートクッション40がスライドレール装置10によってスライド可能に支持されると共に、スライドロック機構60によって所望とするスライド位置にロックされ、操作レバー70によってスライドロック機構60のロック解除がなされる。操作レバー70は、シートクッション40の前側に位置して同シートクッション40の幅方向に延びる中空パイプ状の操作部71を有する。操作部71には、その中空部を送風路として送られる空調エアーを吹き出すための単数又は複数の吹出孔90が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として車両用シートとして用いられるスライド式シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に開示されているように、車両用シートのシートクッションの下部又は車室フロアに、着座者の足元を空調するための吹出口を配設したものが知られている。
特許文献1においては、フロントシートの下部に、後席乗員の足先に向けて温風を吹き出すことができるリヤ前方吹出口が設けられ、リヤシートの下部に、後席乗員の足元から膝へ向けて温風を吹き出すことができるリヤ後方吹出口が設けられている。
そして、空調ユニットからリヤ温風ダクトへ供給された温風は、リヤ前方吹出口より後席乗員の足元へ吹き出され、リヤ後方吹出口より後席乗員の足元から膝へ向けて吹き出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−79820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された車両用シートの空調装置においては、フロントシートの下部及びリヤシートの下部に、リヤ前方吹出口及びリヤ後方吹出口が固定状態で配置される。 このため、スライドレール装置によってシートクッションがスライド可能に支持される構造のスライド式シートに対し、前記した空調装置を採用すると、シートクッションのスライド調整によって、シートクッションに対する吹出口の位置が変化し、着座者の足元を効果的に空調することができなくなる。
そこで、シートクッションのスライド動作に伴って吹出口も移動するように、シートクッションの下部に吹出口を配設し、同シートクッションの内部又は下面に吹出口に対する空調用ダクトを配設することが考えられる。
しかしながら、シートクッションの内部又は下面に吹出口に対する空調用ダクトや送風路を配設するスペースを確保することが困難となる場合がある。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、極めて簡単な構造によって着座者の足元を空調することができるスライド式シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係るスライド式シートは、シートクッションがスライドレール装置によってスライド可能に支持されると共に、スライドロック機構によって所望とするスライド位置にロックされ、操作レバーによって前記スライドロック機構のロック解除がなされるスライド式シートであって、
前記操作レバーは、前記シートクッションの前側に位置して同シートクッションの幅方向に延びる中空パイプ状の操作部を有し、
前記操作部には、その中空部を送風路として送られる空調エアーを吹き出すための単数又は複数の吹出孔が形成されていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、シートクッションの前側に位置して同シートクッションの幅方向に延びる操作レバーの中空パイプ状の操作部の中空部を送風路とすると共に、操作部に形成された単数又は複数の吹出孔から空調エアーを吹き出すことで、着座者の足元を空調することができる。
前記したように、操作レバーの中空パイプ状の操作部を送風路として機能させることができると共に、極めて簡単な構造によって着座者の足元を空調することができ、コスト低減に効果が大きい。
【0008】
請求項2に係るスライド式シートは、請求項1に記載のスライド式シートであって、
操作部には、吹出孔の開口面積を調整する調整カバーが設けられていることを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、吹出孔の開口面積を調整カバーによって調整することで、効率よく空調することができる。
【0010】
請求項3に係るスライド式シートは、請求項1又は2に記載のスライド式シートであって、
操作部には、吹き出し方向が上下方向に異なる複数の吹出孔が配設されていることを特徴とする。
【0011】
前記構成によると、吹き出し方向が上下方向に異なる複数の吹出孔から空調エアーを吹き出すことで、着座者の足元を上下方向に広範囲にわたって空調することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施例1に係るスライド式シートを簡略化して示す斜視図である。
【図2】同じくスライドレール装置とスライドロック機構と操作レバーとの各部材を分離して示す斜視図である。
【図3】同じくスライドレール装置を示す横断面図である。
【図4】同じく操作レバーと送風ダクトとの接続部を示す縦断面図である。
【図5】同じく操作レバーの操作部に配設された各吹出孔が調整カバーによって全開された状態を示す横断面図である。
【図6】同じく操作レバーの操作部に配設された下吹出孔が調整カバーによって閉じられた状態を示す横断面図である。
【図7】同じく操作レバーの操作部に配設された上吹出孔が調整カバーによって閉じられた状態を示す横断面図である。
【図8】操作レバーの変更例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0014】
この発明の実施例1を図1〜図7にしたがって説明する。
図1〜図3に示すように、スライド式シートは、スライドレール装置10と、シートクッション40と、シートバック41と、スライドロック機構60と、操作レバー70と、空調装置80とを備えている。
【0015】
図1〜図3に示すように、スライドレール装置10は、左右方向に所定間隔を隔てて前後方向へ延びる対のロアレール20と、これらロアレール20に沿ってスライド可能に嵌込まれる対のアッパレール30とを備えている。
図2と図3に示すように、ロアレール20は、下板部21と、この下板部21の左右両側縁から上方へ突出された左右の両側板部22と、これら両側板部22の上縁から対向状に形成された上板部23と、これら上板部23の対向縁から下向きに折り返された折返し部24とを備えている。
そして、図1に示すように、ロアレール20は、その下板部21の下面の前後部に固定された前ブラケット11と後ブラケット12によって車室のフロア上に固定される。
【0016】
図2と図3に示すように、アッパレール30は、ロアレール20の両折返し部34の対向間隔寸法よりも若干小さい幅寸法の上板部31と、この上板部31の左右両側縁からロアレール20の両折返し部24に沿って下方へ突出された左右の両側板部32と、これら両側板部32の下縁からロアレール20の両側板部22と両折返し部24と間の空間部に上向きに折り返された折返し部34とを備えている。
そして、図3に示すように、ロアレール20の両側板部22と、アッパレール30の折返し部34との対向面の上下部には、これらの面を軌道面として転動可能な各複数のボール37が保持部材36に保持された状態で配設されている。
【0017】
図1に示すように、シートクッション40は、スライドレール装置10のアッパレール30と一体状をなして前後方向へスライド可能で、その後部には、リクライニング機構(図示しない)によってシートバック41が傾き調整可能に装着される。
シートクッション40の骨格部をなすクッションフレーム50は、左右の両アッパレール30の上板部31の上面に固定されて左右方向に所定間隔を隔てる一対のサイドパネル51と、これら両サイドパネル51の後端部に架設されたリア部材52と、両サイドパネル51の前端部に架設されたフロント部材53とを備えて構成されている。
【0018】
図2と図3に示すように、スライドロック機構60は、シートクッション40を所望とするスライド位置にロックするものであり、多数のロック溝61と、これらロック溝61のうち、単数又は複数のロック溝61に係脱可能に係合するロック爪62とを備えている。
この実施例1において、図2と図3に示すように、多数のロック溝61は、ロアレール20の片側(図3では右側)の折返し部24に、前後方向に所定間隔を隔てて形成されている。
これに対し、単数又は複数のロック爪62は、次に詳述する操作レバー70の左右の両側枠部72の後部にそれぞれ一体に形成されている。
【0019】
図2に示すように、操作レバー70は、スライドロック機構60のロック解除操作を行うものであり、横断面中空円形の金属製パイプ材(樹脂製パイプ材であってもよい)が曲げ加工やプレス加工されることによって形成されている。
すなわち、操作レバー70は、シートクッション40の前側に位置してシートクッション40の幅方向に延びる前操作部71(この発明の中空パイプ状の操作部に相当する)と、この前操作部71の左右両端部から後方へ平行状に延出され、アッパレール30の両側板部32の間に挿入される両側枠部72とを備えている。
【0020】
図2と図3に示すように、操作レバー70の両側枠部72の先端部は所定長さだけ扁平に潰され、その扁平部分73の一部に水平方向の単数又は複数のロック爪62が形成されている。
また、扁平部分のロック爪62が形成されない部分の左右部は、アッパレール30の両側板部32の内側面に沿って上方へ曲げられた両側壁部74が形成されている。
また、図3に示すように、アッパレール30の両側板部32と操作レバー70の扁平部分73の両側壁部74との相互には、回動可能に嵌合して操作レバー70の回動支点をなす凹部75と凸部76とがそれぞれ形成されている。
そして、操作レバー70の前操作部71が上方へ引き上げ操作されることで、操作レバー70が凹部75と凸部76と嵌合部を支点として回動され、これによって、ロック溝61の下方へロック爪62が変位されてロック解除される。
【0021】
また、図2と図3に示すように、操作レバー70の扁平部分73とアッパレール30の上板部31との間には、ロック溝61にロック爪62が係合するロック方向へ操作レバー70を常時付勢する付勢手段(付勢部材)としてのばね78が介在されている。
この実施例1において、ばね78は、板ばね材がくの字状に屈曲されて形成され、一片78aがアッパレール30の上板部31に圧接し、他片78bが操作レバー70の扁平部分73に圧接して組み付けられる。
なお、操作レバー70の両側枠部72の中空部は、扁平部分73において密閉されている。
【0022】
図2に示すように、空調装置80は、送風ブロアが内設された送風器81と、熱交換器83と、送風ダクト85と、中空部を送風路とする操作レバー70と、操作レバー70の前操作部71に配設された単数又は複数の吹出孔90と、調整カバー95とを備えている。
すなわち、図1と図2に示すように、シートクッション40のリア部材52にはブラケット55が固定されており、このブラケット55に、送風器81と熱交換器83とが隣接して装着されている。
そして、送風器81に通じる熱交換器83の送風出口には、可撓性を有するパイプ(例えばゴムパイプ)よりなる送風ダクト85が接続される。
送風ダクト85は、その中間部において二股に分岐され、それぞれの分岐ダクト85aの先端は、図4に示すように、操作レバー70の両側枠部72の中空部に接続筒88を介して接続される。
【0023】
図2と図5に示すように、操作レバー70の前操作部71の前側外周面には、吹出孔90を構成する上吹出孔91と、中間吹出孔92と、下吹出孔93とが上下方向及び左右方向に所定間隔を隔ててそれぞれ複数個貫設されている。
また、操作レバー70の前操作部71の外周面には、上、中、下の各吹出孔91、92、93の開口面積と吹き出し方向とを調整する断面C字状の調整カバー95が回動可能に装着されている。
そして、図5に示すように、調整カバー95が第1位置に配置されたときには、上、中、下の各吹出孔91、92、93が全開状態に調整される。
また、調整カバー95が、図6に向かって反時計回り方向へ回動されて第2位置に配置切換されたときには、上、中の各吹出孔91、92が全開状態で下吹出孔93が全閉状態に調整される。
また、調整カバー95が、図7に向かって時計回り方向へ回動されて第3位置に配置切換されたときには、中、下の各吹出孔92、93が全開状態で上吹出孔91が全閉状態に調整される。
【0024】
この実施例1に係るスライド式シートは上述したように構成される。
したがって、送風器81から熱交換器83を通して送風される空調エアー(温風又は冷風)は送風ダクト85の分岐ダクト85aを経て操作レバー70の左右の側枠部72内に送られる。そして、前操作部71の中空部を送風路とすると共に、前操作部71の上、中、下の各吹出孔91、92、93から空調エアーが吹き出される。これによって、着座者の足元を空調することができる。
前記したように、操作レバー70の中空パイプ状の前操作部71を送風路として機能させることができると共に、極めて簡単な構造によって着座者の足元を空調することができ、コスト低減に効果が大きい。
【0025】
また、この実施例1において、操作レバー70の前操作部71に対し調整カバー95を回動操作して図5〜図7に示す第1〜第3位置に配置切換することで、上、中、下の各吹出孔91、92、93の開口面積及び吹き出し方向を容易に調整することができ、効率のよい空調を行うことができる。
すなわち、図5に示すように、調整カバー95が第1位置に配置されたときには、上、中、下の各吹出孔91、92、93が全開状態に調整されるため、着座者の足元を上下方向に広範囲にわたって空調することができる。
また、図6に示すように、調整カバー95が第2位置に配置切換されたときには、上、中の各吹出孔91、92が全開状態で下吹出孔93が全閉状態に調整されるため、着座者の足元の上部を主として空調することができる。
また、図7に示すように、調整カバー95が第3位置に配置切換されたときには、中、下の各吹出孔92、93が全開状態で上吹出孔91が全閉状態に調整されるため、着座者の足元の下部を主として空調することができる。
【実施例2】
【0026】
次に、この発明の実施例2を図8にしたがって説明する。
この実施例2においては、スライドロック機構のロック溝に対するロック爪が操作レバー170とは別部材の爪部材(図示しない)に形成され、操作レバー170の前操作部171が上方へ引き上げ操作されることで連動される連動部材(図示しない)を介してロック爪がロック解除方向へ変位されるように構成される。このようなスライドロック機構は周知である。
【0027】
また、この実施例2においては、シートクッションのリア部材に固定のブラケット(図示しない)には、空調装置180の送風器181と熱交換器183とが隣接して装着される。送風器181に通じる熱交換器183の送風出口には、可撓性を有するパイプよりなる送風ダクト185が接続される。
送風ダクト185は、熱交換器183の送風出口の近傍で二股に分岐され、それぞれの分岐ダクト185aの先端は、操作レバー170の左右の側枠部172の後端開口部に接続される。
【0028】
この実施例2のその他の構成は、実施例1と同様にして構成される。
すなわち、操作レバー170の前操作部171の前側外周面には、吹出孔190を構成する上吹出孔191と、中間吹出孔192と、下吹出孔193とが上下方向及び左右方向に所定間隔を隔ててそれぞれ複数個貫設されている。
また、操作レバー170の前操作部171の外周面には、上、中、下の各吹出孔191、192、193の開口面積と吹き出し方向とを調整する断面C字状の調整カバー195が回動可能に装着されている。
【0029】
この実施例2に係るスライド式シートは上述したように構成される。
したがって、この実施例2においても、実施例1と同様にして、操作レバー170の中空パイプ状の前操作部171を送風路として機能させることができると共に、極めて簡単な構造によって着座者の足元を空調することができ、コスト低減においても効果ある。
また、操作レバー170の前操作部171に対し調整カバー195を回動操作して第1〜第3位置に配置切換することで、上、中、下の各吹出孔191、192、193の開口面積及び吹き出し方向を容易に調整することができ、効率のよい空調を行うことができる。
【0030】
なお、この発明は前記実施例1及び2に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1及び2においては、操作レバー70(170)の前操作部71(171)に、上、中、下の各吹出孔91、92、93(191、192、193)を形成して空調エアーを吹き出すようにしたが、前操作部71(171)に横方向に長尺の一つ吹出孔を形成して空調エアーを吹き出すように構成してもこの発明を実施することができる。
また、調整カバー95(195)は必ずしも設けなくてこの発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 スライドレール装置
20 ロアレール
30 アッパレール
40 シートクッション
41 シートバック
50 クッションフレーム
60 スライドロック機構
61 ロック溝
62 ロック爪
70 操作レバー
71 前操作部(操作部)
80 空調装置
81 送風器
83 熱交換器
85 送風ダクト
90 吹出孔
91 上吹出孔(吹出孔)
92 中間吹出孔(吹出孔)
93 下吹出孔(吹出孔)
95 調整カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションがスライドレール装置によってスライド可能に支持されると共に、スライドロック機構によって所望とするスライド位置にロックされ、操作レバーによって前記スライドロック機構のロック解除がなされるスライド式シートであって、
前記操作レバーは、前記シートクッションの前側に位置して同シートクッションの幅方向に延びる中空パイプ状の操作部を有し、
前記操作部には、その中空部を送風路として送られる空調エアーを吹き出すための単数又は複数の吹出孔が形成されていることを特徴とするスライド式シート。
【請求項2】
請求項1に記載のスライド式シートであって、
操作部には、吹出孔の開口面積を調整する調整カバーが設けられていることを特徴とするスライド式シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスライド式シートであって、
操作部には、吹き出し方向が上下方向に異なる複数の吹出孔が配設されていることを特徴とするスライド式シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−171500(P2012−171500A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35637(P2011−35637)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】