説明

スラストフォイル軸受

【課題】スラストフォイル軸受の負荷容量を高める。
【解決手段】回転部材(フランジ部40)及び固定部材(スラスト部材21)にそれぞれ磁石23、24を取り付け、磁石23、24間に生じるスラスト方向の斥力により、回転部材と固定部材とのスラスト方向に支持力を補助する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜状のフォイルに設けられたスラスト軸受面でスラスト軸受隙間を形成し、このスラスト軸受隙間に生じる流体膜で回転部材をスラスト方向に支持するスラストフォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンや過給機(ターボチャージャ等)の軸は高速で回転駆動される。また、軸に取り付けられたタービン翼は高温に晒される。そのため、これらの軸を支持する軸受には、高温・高速回転といった過酷な環境に耐え得ることが要求される。この種の用途の軸受として、油潤滑の転がり軸受や油動圧軸受を使用する場合もある。しかし、潤滑油などの液体による潤滑が困難な場合や、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難な場合、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる場合、等の条件下では、油を用いた軸受の使用は制約を受ける。そこで、上記のような条件下での使用に適合する軸受として、空気動圧軸受が着目されている。
【0003】
空気動圧軸受としては、回転側と固定側の双方の軸受面を剛体で構成したものが一般的である。しかしながら、この種の空気動圧軸受では、回転側と固定側の軸受面間に形成される軸受隙間の管理が不十分であると、安定限界を超えた際にホワールと呼ばれる自励的な軸の触れ回りを生じ易い。そのため、使用される回転速度に応じた隙間管理が重要となる。しかし、ガスタービンや過給機のように、温度変化の激しい環境では熱膨張の影響で軸受隙間の幅が変動するため、精度の良い隙間管理は極めて困難となる。
【0004】
温度変化の大きい環境下でも隙間管理を容易にできる軸受としてフォイル軸受が知られている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(フォイル)で軸受面を構成し、軸受面のたわみを許容することで荷重を支持するものである。フォイル軸受では、フォイルの可撓性により、軸の回転速度や荷重、周囲温度等の運転条件に応じた適切な軸受隙間が形成される。このため、フォイル軸受は安定性に優れるという特徴があり、一般的な空気動圧軸受と比較して高速での使用が可能である。また、一般的な動圧軸受では、数μm程度の軸受隙間を常時確保する必要があるため、製造時の公差、さらには温度変化が激しい場合の熱膨張まで考慮すると、厳密な隙間管理は困難である。これに対して、フォイル軸受の場合には、数十μm程度の軸受隙間に管理すれば足り、その製造や隙間管理が容易となる利点を有する。
【0005】
また、ガスタービンや過給機では、タービンや圧縮機のロータの高速回転によりスラスト方向の気流が発生し、この気流の反力が軸に加わるため、軸をラジアル方向だけでなくスラスト方向にも支持する必要がある。例えば特許文献1〜3には、回転部材をスラスト方向に支持するスラストフォイル軸受の一種として、リーフ型のスラストフォイル軸受が示されている。このスラストフォイル軸受は、固定部材の端面の円周方向複数箇所に複数のリーフを設けたものであり、各リーフの円周方向一端は自由端とされ、各リーフの円周方向他端が固定部材の端面に固定される。回転部材が回転すると、各リーフの軸受面とこれに対向する回転部材の端面との間に楔形のスラスト軸受隙間が形成され、このスラスト軸受隙間の流体膜により回転部材がスラスト方向に非接触支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−36725号公報
【特許文献2】実開昭61−38321号公報
【特許文献3】特開昭63−195412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のようなスラスト軸受隙間の流体膜のみでは、スラスト方向に大きな負荷が加わった場合に、負荷容量が不足し、回転部材の安定性が低下したり、回転部材と固定部材との接触を招いたりする恐れがある。特に、ガスタービンや過給機に用いられるスラスト軸受は、ロータ(羽根)が高速で回転することにより軸に大きなスラスト方向の負荷が加わるため、スラスト方向の負荷容量の向上が強く求められている。
【0008】
そこで、本発明は、スラストフォイル軸受の負荷容量を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、固定部材と、回転部材と、回転部材の端面と固定部材の端面との間に配され、スラスト軸受面を有するフォイル部材とを備え、フォイル部材のスラスト軸受面でスラスト軸受隙間を形成し、このスラスト軸受隙間に生じる流体膜で回転部材をスラスト方向に支持するスラストフォイル軸受であって、固定部材及び回転部材にそれぞれ磁石を取り付け、これらの磁石を、互いにスラスト方向の斥力が働くように配置したスラストフォイル軸受を提供する。
【0010】
このように、固定部材及び回転部材に、スラスト方向の斥力が働くように磁石を取り付けることにより、スラスト軸受隙間に生じる流体膜の圧力によるスラスト方向の支持力を、磁石間に生じる斥力で補助することができ、スラストフォイル軸受の負荷容量が高められる。
【0011】
ところで、回転部材と固定部材の双方の軸受面を剛体で構成した一般的な動圧軸受では、上述のようにスラスト軸受隙間が常に数μm程度の非常に小さい値となるため、固定部材及び回転部材に磁石を設けると、磁石間の距離が非常に近くなり、磁石間に比較的大きな斥力が作用する。このため、例えば起動直後や停止直前の低回転時など、軸受隙間の流体膜の圧力が十分に高まっていないときには、磁石間の斥力の影響により回転部材が固定部材に対して傾き、回転部材の安定性が低下する恐れがある。これに対し、フォイル軸受では、上述のように、スラスト軸受隙間を比較的大きな値に設定することができるため、固定部材及び回転部材に設けた磁石が比較的離間して配置され、磁石間に生じる斥力が抑えられて回転部材が傾く事態を防止できる。そして、回転部材の回転速度が上昇し、回転部材にスラスト方向の大きな負荷が加わってスラスト軸受隙間が小さくなると、磁石間の距離が小さくなってこれらの間の斥力が大きくなり、スラスト方向の支持力が高められる。このとき、磁石間に生じる斥力が大きくなっても、高速回転により軸受隙間(特にラジアル軸受隙間)の流体膜の圧力が十分に高まっているため、回転部材が傾く事態を防止できる。このように、上記のスラストフォイル軸受では、回転部材の回転数が低いときは磁石間に生じる斥力が小さく、斥力の影響で回転部材が傾く事態を防止でき、回転部材の回転数が高くなると磁石間に生じる斥力が大きくなって、スラスト方向の支持力が高められる。
【0012】
上記の磁石は、例えば、円周方向(回転部材の回転軸心周りの円周方向)に沿って配置することができる。この場合、磁石を全周で連続したリング状とすれば、磁石を固定部材又は回転部材に簡単に取り付けることができる。一方、上記の磁石を、円周方向に離隔して配置した複数の磁石で構成すれば、磁石全体の径を自由に設定することができるため、設計の自由度が高められる。また、この場合、個々の磁石は任意の形状とすることができるため、既製品の磁石を用いて低コスト化を図ることができる。
【0013】
上記のように、磁石を円周方向に沿って配置した場合、回転部材に取り付けた磁石の外径と、固定部材に取り付けた磁石の外径とを異ならせれば、一方の磁石の内径側に他方の磁石が配置され、回転部材のラジアル方向の安定性を増すことができる。すなわち、例えば図13(a)に示すように、同径のリング状の磁石101、102をスラスト方向に対向させると、図13(b)に示すように磁石101、102が僅かにラジアル方向にずれた場合、両磁石101、102間に生じる斥力がラジアル方向のずれを大きくする方向に働く(図中の白抜き矢印参照)。これに対し、図14(a)に示すように、外径の異なるリング状の磁石103、104を同心状に配置し、磁石104の内径側に磁石103を配置すると、図中矢印で示すように、磁石103、104間に生じる斥力が、小径の磁石103を内径向きに付勢する方向に働く。従って、図14(b)に示すように小径の磁石103が大径の磁石104に対して僅かにラジアル方向にずれた場合でも、両磁石103、104間に生じる斥力のラジアル方向成分により、小径の磁石103を大径の磁石104の軸心側に付勢することができる。これにより、磁石103、104のラジアル方向のずれが修正され、回転部材のラジアル方向の安定性が高められる。
【0014】
例えばガスタービンや過給機のような高温環境で使用されるスラストフォイル軸受の場合は、高温環境でも良好な特性を示すサマリウムコバルト磁石を使用することが好ましい。
【0015】
上記のフォイル部材は、例えば、円周方向一端を自由端とし、スラスト軸受面が設けられた複数のリーフと、複数のリーフを連結する連結部とを一体に有するフォイルを具備した構成とすることができる。また、このようなフォイルを複数組み合せてフォイル部材を構成することもできる。
【0016】
フォイル軸受は、高速運転時にはフォイル部材のスラスト軸受面とこれに対向する面との間に流体膜が形成され、これらの面が非接触状態となるが、起動時や停止時の低速回転状態では、フォイル部材のスラスト軸受面やこれに対向する面の表面粗さ以上の流体膜を形成することが困難となる。そのため、回転部材と固定部材とがフォイル部材を挟んで接触し、フォイル部材の表面が損傷する恐れがある。このため、フォイル部材のスラスト軸受面に被膜を設け、損傷を防止することが好ましい。
【0017】
また、フォイル部材を構成するフォイル同士、あるいは、フォイルとフォイルが固定される面との間は、荷重変動や振動に伴い微小変位の摺動が生じている。このため、フォイル部材を構成するフォイルのうち、スラスト軸受面と反対側の面に被膜を設け、摺動による損傷を防止することが好ましい。
【0018】
フォイル軸受は、液体での潤滑が困難な箇所に用いられることが多いので、上記のような被膜には、DLC膜やチタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を用いることができる。DLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質で摩擦係数が低く、強度面で優れている。一方、二硫化モリブデン膜は、スプレー等で噴射することができるため、被膜を簡単に形成することができる。
【0019】
以上のようなスラストフォイル軸受は、ガスタービンや過給機のロータ支持用として好適に使用できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、磁石間に生じる斥力によりスラストフォイル軸受の負荷容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】マイクロガスタービンを概念的に示す図である。
【図2】上記マイクロガスタービンのロータ支持構造を示す断面図である。
【図3】上記ロータ支持構造に組み込まれたラジアルフォイル軸受の断面図である。
【図4】上記ロータ支持構造に組み込まれた、本発明の一実施形態に係るスラストフォイル軸受の断面図である。
【図5】(a)は、図4のX−X線におけるスラスト部材の断面図であり、(b)は図4のY−Y線におけるフランジ部の断面図である。
【図6】上記スラストフォイル軸受の構成部品の斜視図である。
【図7】上記スラストフォイル軸受の断面図である。
【図8】上記スラストフォイル軸受を構成するフォイルの平面図である。
【図9】(a)〜(c)は、2枚のフォイルを組み付ける様子を示す斜視図である。
【図10】(a)は他の実施形態に係るスラスト部材の断面図、(b)は他の実施形態に係るフランジ部の断面図である。
【図11】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受の断面図である。
【図12】過給機を概念的に示す図である。
【図13】(a)は同径の磁石を同心に配置した状態を示す平面図及び断面図であり、(b)は(a)図の磁石をラジアル方向にずらした場合を示す平面図及び断面図である。
【図14】(a)は外径の異なる磁石を同心に配置した状態を示す平面図及び断面図であり、(b)は(a)図の磁石をラジアル方向にずらした場合を示す平面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に、マイクロガスタービンと呼ばれるガスタービン装置の構成を概念的に示す。このマイクロガスタービンは、タービン1と、圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを主に備える。タービン1、圧縮機2、及び発電機3には、水平方向に延びる共通の軸6が設けられ、この軸6と、タービン1および圧縮機2とで一体回転可能のロータが構成される。吸気口7から吸入された空気は、圧縮機2で圧縮され、再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。この圧縮空気に燃料を混合して燃焼させ、このときの高温、高圧のガスでタービン1を回転させる。タービン1の回転力が軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転することにより発電し、この電力がインバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通った後、排ガスとして排出される。
【0024】
図2に、ロータの支持構造、特に、タービン1と圧縮機2との軸方向間における軸6の支持構造を示す。この領域は高温、高圧のガスで回転されるタービン1に隣接しているため、ここでは空気動圧軸受、特にフォイル軸受が好適に使用される。具体的には、ラジアルフォイル軸受10により軸6がラジアル方向に支持されると共に、本発明の一実施形態に係るスラストフォイル軸受20により軸6に設けられたフランジ部40が両スラスト方向に支持される。
【0025】
ラジアルフォイル軸受10は、例えばリーフ型のフォイル軸受で構成される。本実施形態では、図3に示すように、内周に軸6が挿入され、ケーシング50に固定された円筒状の外方部材11と、外方部材11の内周面11aに固定され、円周方向等間隔に配された複数のリーフ12とで構成される。
【0026】
リーフ12は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属、例えば鋼材料や銅合金からなる厚さ20μm〜200μm程度の帯状フォイルで形成される。本実施形態のように流体膜として空気を用いる空気動圧軸受では、雰囲気に潤滑油が存在しないため、油による防錆効果は期待できない。鋼材料や銅合金の代表例として、炭素鋼や黄銅を挙げることができるが、一般的な炭素鋼では錆による腐食が発生し易く、黄銅では加工ひずみによる置き割れを生じることがある(黄銅中のZnの含有量が多いほどこの傾向が強まる)。そのため、帯状フォイルとしては、ステンレス鋼もしくは青銅製のものを使用するのが好ましい。
【0027】
各リーフ12は、円周方向一方(軸6の回転方向(矢印参照)先行側)の端部12aが自由端とされ、円周方向他方の端部12bが外方部材11に固定される。リーフ12の固定端12bは、外方部材11の内周面11aに形成された軸方向溝11bに嵌合固定される。リーフ12の自由端12a側の一部領域は、他のリーフ12と半径方向に重ねて配される。複数のリーフ12の内径側の面は、孔や段差のない平滑な曲面状をなしたラジアル軸受面12cを構成する。各リーフ12のラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間には、円周方向一方へ向けて半径方向幅を狭めた楔状のラジアル軸受隙間Rが形成される。尚、実際のラジアル軸受隙間Rの幅は数十μm程度の微小なものであるが、図3ではその幅を誇張して描いている。
【0028】
スラストフォイル軸受20は、図4に示すように、軸6の外周面6aから外径に突出して設けられたフランジ部40(回転部材)と、ケーシング50に固定されたスラスト部材21(固定部材)と、フランジ部40とスラスト部材21との間に配されたフォイル部材22とを備える。本実施形態では、フランジ部40の軸方向両側に一対のスラスト部材21が設けられ、各スラスト部材21の端面21aにフォイル部材22が固定される。フランジ部40の一方の端面41aと一方のフォイル部材22との間、及び、フランジ部40の他方の端面42aと他方のフォイル部材22との間に、それぞれスラスト軸受隙間Tが形成される。
【0029】
スラストフォイル軸受20のフランジ部40及びスラスト部材21には、それぞれ磁石23、24が取り付けられる。磁石23、24は、互いにスラスト方向の斥力が働くように配置され、すなわち、同極同士(N極同士あるいはS極同士)が向き合うように配置される。本実施形態では、磁石23、24が何れも円周方向に沿って配置され、具体的には、図5(a)、(b)に示すように、磁石23、24が全周で連続したリング状を成し、同心上に配置される。図示例では、磁石23、24は同じ形状を成し、何れも断面矩形の中空円盤状を成している。上記のように、磁石23、24が全周で連続したリング状を成すことで、フランジ部40あるいはスラスト部材21に簡単に取り付けることができる。
【0030】
一方の磁石23は、フランジ部40に固定され、本実施形態ではフランジ部40の内部に埋め込まれる。具体的には、図4に示すように、フランジ部40を軸方向中間部で分割してなる一対のフランジ部材41、42を設け、この一対のフランジ部材41、42の対向する端面に環状の凹部41b、42bを形成し、この凹部41b、42bを対向させて形成される空間に、リング状の磁石23が配置される。一方の磁石23は、軸6と共に高速で回転したときに破損する恐れがあるが、上記のように一方の磁石23をフランジ部40の内部に埋め込むことで、高速回転時の破損を防止できる。尚、磁石23の破損を防止する手段は上記に限らず、例えば磁石23を覆うケースを取り付けてもよい。
【0031】
他方の磁石24は、一対のスラスト部材21のそれぞれに固定される。本実施形態では、各スラスト部材21の他方の端面21b(フォイル部材22と反対側の端面)に取り付けられる。具体的には、スラスト部材21の他方の端面21bに環状の凹部21cを形成し、この凹部21cにリング状の磁石24が嵌合固定される。
【0032】
フォイル部材22は、図6に示すように中空円盤状のスラスト部材21の端面21aに取り付けられる。本実施形態のフォイル部材22は、複数のフォイルを組み合せて構成され、図示例では同形状を成した2枚の金属製のフォイル30、30’で構成される(図9参照)。フォイル部材22には、各フォイル30、30’に設けられたリーフ31、31’が、円周方向交互に配されている。図7に示すように、各リーフ31、31’の円周方向一方(軸6の回転方向先行側、図中左側)の端部31a、31a’は自由端とされ、これにより各リーフ31、31’は自由に撓むことができる。リーフ31、31’の自由端31a、31a’は、隣のリーフ31’、31の円周方向他方の端部31b’、31bとほぼ同じ円周方向位置に配される。複数のリーフ31、31’のフランジ部40側の面(図中上面)は、フランジ部40側(図中上側)を凸とする円弧状のスラスト軸受面31c、31c’を構成する。スラスト軸受面31c、31c’は、孔や段差のない平滑な曲面状をなす。スラスト軸受面31c、31c’とフランジ部40の端面41aとの間には、円周方向一方へ向けて軸方向幅を狭めたスラスト軸受隙間Tが形成される。尚、実際のスラスト軸受隙間Tの幅は数十μm程度の微小なものであるが、図7ではその幅を誇張して描いている。
【0033】
ここで、フォイル部材22を構成する各フォイル30、30’の構成を説明する。尚、フォイル30、30’は全く同じ構成であるため、一方のフォイル30の構成のみを説明し、他方のフォイル30’の説明は省略する。また、図面では、他方のフォイル30’のうち、一方のフォイル30と対応する箇所に「’」を付して示す。
【0034】
フォイル30は、上記のリーフ12と同様の材質及び厚さを有し、図8に示すように、円周方向等間隔に配置された複数(図示例では4枚)のリーフ31と、複数のリーフ31を連結する連結部32とを一体に有する。フォイル30は円形を成し、その中心に軸6を挿通するための円形の穴33が設けられる。本実施形態では、1枚のフォイル30に、ワイヤカット加工やプレス加工等で切り込みを入れることにより、複数のリーフ31及び連結部32が形成される。具体的には、円形のフォイル30の円周方向等間隔の複数箇所(図示例では4箇所)に、穴33から外径向きに延び、フォイル30の外径端よりも手前で終わる半径方向の切り込み34が設けられる。各切り込み34の外径端から、円周方向他方(軸6の回転方向後方側、図7の反時計周り方向)に円周方向の切り込み35が設けられる。円周方向の切り込み35は、隣り合う半径方向の切り込み34の円周方向中央部まで延び、図示例では全周の1/8の長さである。円周方向の切り込み35の幅t1は、半径方向の切り込み34の幅t2よりも大きい(t1>t2)。半径方向の切り込み34及び円周方向の切り込み35を形成することで、各リーフ31の円周方向一方の端部31aが軸方向に上下動自由な自由端となる。連結部32は、複数のリーフ31の外周を囲む環状部32aと、環状部32aから内径向きに延びた複数(図示例では4つ)の延在部32bとを有し、延在部32bはリーフ31の円周方向他方の端部31b(図8に点線で示す)と連続している。
【0035】
次に、2枚のフォイル30、30’を組みつけてフォイル部材22を形成する方法を、図9を用いて説明する。尚、2枚のフォイル30、30’の材質及び形状は全く同じであるが、図9では、理解しやすいように一方のフォイル30’に散点を付している。また、ここでは、フォイル30、30’の中心軸方向を上下方向として説明する。
【0036】
まず、図9(a)に示す2枚のフォイル30、30’を、図9(b)に示すように上下に重ねて配置し、上側のフォイル30の半径方向の切り込み34から、下側のフォイル30’のリーフ31’の自由端31a’を差し込む。これにより、下側のフォイル30’のリーフ31’の自由端31a’が、上側のフォイル30の連結部32(延在部32b)の上方に配される。そして、2枚のフォイル30、30’を相対的に回転させることにより、図9(c)に示すように、下側のフォイル30’のリーフ31’の自由端31a’が、上側のフォイル30のリーフ31の端部31bの上方に達する。以上により、上側のフォイル30のリーフ31と、下側のフォイル30’のリーフ31’とが、円周方向交互に配されたフォイル部材22が得られる。
【0037】
上記のようにして2枚のフォイル30、30’を一体化したフォイル部材22を、スラスト部材21の端面21aに固定する(図6参照)。固定手段は特に限定されず、例えば接着や溶接により固定される。例えば、2枚のフォイル30、30’を重ねた状態で、連結部32、32’の環状部32a、32a’の円周方向複数箇所を、2枚一度に溶接でスラスト部材21に固定する。こうしてフォイル部材22が取り付けられたスラスト部材21をケーシング50に固定し、フォイル部材22とフランジ部40とをスラスト方向で対向させることにより、スラストフォイル軸受20が完成する(図4参照)。
【0038】
軸6が円周方向一方に回転すると、ラジアルフォイル軸受10のリーフ12のラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間のラジアル軸受隙間Rに流体膜が生じ、この流体膜で軸6がラジアル方向に非接触支持される(図3参照)。これと同時に、スラストフォイル軸受20の一対のフォイル部材22のスラスト軸受面(リーフ31、31’の軸受面31c、31c’)とフランジ部40の端面41a、42aとの間のスラスト軸受隙間Tに流体膜が生じ、この流体膜で軸6が両スラスト方向に非接触支持される(図4参照)。このとき、ラジアルフォイル軸受10のリーフ12及びスラストフォイル軸受20のリーフ31、31’の有する可撓性により、各リーフ12、31、31’の軸受面12c、31c、31c’が、荷重や軸6の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて任意に変形するため、ラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tは運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温、高速回転といった過酷な条件下でも、ラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tを最適幅に管理することができ、軸6を安定して支持することが可能となる。
【0039】
また、スラストフォイル軸受20に設けられた磁石23、24のスラスト方向の斥力により、軸6のスラスト方向の支持力がさらに高められる。すなわち、磁石23、24間の斥力により、フランジ部40とスラスト部材21とをスラスト方向に離反する方向に付勢し、スラスト軸受隙間Tの流体膜によるスラスト方向の支持を補助する。特に、タービン1の高速回転により軸6にスラスト方向の大きな負荷が加わり、スラスト軸受隙間Tが小さくなった場合には、磁石23、24の距離が近づくため、これらの間に働く斥力が大きくなる。これにより、フランジ部40がフォイル部材22やスラスト部材21と接触する自体を回避できる。尚、磁石23、24間の斥力が大きくなると、フランジ部40に作用する力が大きくなり、フランジ部40がスラスト部材21に対して傾いてスラスト軸受隙間Tが円周方向で不均一となることが懸念されるが、軸6が高速で回転することで、ラジアル軸受隙間Rにおける流体膜の圧力が高まり、軸6のモーメント剛性が高くなるため、かかる不具合を防止できる。
【0040】
フォイル軸受10、20では、軸6の停止直前や起動直後の低速回転時において、リーフ12のラジアル軸受面12c及びリーフ31、31’のスラスト軸受面31c、31c’や軸6の外周面6a及びフランジ部40の端面41に表面粗さ以上の厚さの空気膜を形成することが困難となる。そのため、ラジアル軸受面12cと軸6の外周面6aとの間、及び、スラスト軸受面31c、31c’とフランジ部40との間で金属接触を生じる。この時の金属接触による摩擦力を減じて、リーフ12、31、31’の損傷及びトルク低減を図るため、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面31c、31c’には、表面を低摩擦化する被膜を形成するのが望ましい。この種の被膜としては、例えばDLC膜、チタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を使用することができる。DLC膜、チタンやアルミナイトライド膜はCVDやPVDで形成することができ、二硫化モリブデン膜はスプレーで簡単に形成することができる。特にDLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質であるので、これらで被膜を形成することにより、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面31c、31c’の耐摩耗性をも向上させることができ、軸受寿命を増大させることができる。尚、上記のような被膜は、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面31c、31c’に形成する代わりに、あるいはこれに加えて、これらの面と対向する軸6の外周面6a及びフランジ部40の端面に形成してもよい。
【0041】
軸受の運転中は、リーフ12の裏面(ラジアル軸受面12cと反対側の面)と外方部材11の内周面11aとの間や、リーフ31、31’の裏面(スラスト軸受面31c、31c’と反対側の面)とスラスト部材21の端面21aとの間でも微小摺動が生じる。このため、これらの面の摺動部分、すなわちリーフ12、31、31’の裏面やこれと接触する外方部材11の内周面11a及びスラスト部材21の端面21aの一方又は双方にも上記の被膜を形成してもよい。なお、振動の減衰作用を向上させるためには、この摺動部である程度の摩擦力が存在する方が好都合な場合もあるので、この部分の被膜にはそれほど低摩擦性は要求されない。従って、この部分の被膜としては、DLC膜やチタンやアルミナイトライド膜を使用するのが好ましい。
【0042】
本発明は上記の実施形態に限られない。尚、以下の説明において、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0043】
例えば、上記の実施形態では、磁石23、24を、何れも全周で連続したリング状に形成した場合を示したが、これに限らず、磁石23、24の一方又は双方を、円周方向に離隔して配置した複数の磁石で構成してもよい。例えば図10に示す例では、磁石23、24の双方を、円周方向等間隔の複数箇所(図示例では8箇所)に配置した複数の磁石23a、24aで構成している。複数の磁石23a、24aは、それぞれスラスト部材21の端面21b及びフランジ部材41の端面に固定される。この場合、磁石23a、24aの配置を変えるだけで、磁石23、24全体の径を自由に変更することができる。例えば図示例では、磁石23の外径D1と磁石24の外径D2とが等しくなるように配置しているが、これに限らず、磁石24を構成する各磁石24aを図示より外径側に配置して、磁石24の外径D2を磁石23の外径D1よりも大きくする設計も可能である。また、個々の磁石23a、24aは、特別な形状である必要は無く、例えば図示例のような矩形状(直方体)の磁石23a、24aを用いることができる。このように磁石23a、24aの形状が単純であれば、既製品の廉価な磁石を用いることができるため、製造コストの低減を図ることができる。
【0044】
また、上記の実施形態では、フランジ部40及びスラスト部材21に同形状のリング状の磁石23、24を取り付けた場合を示したが、これに限られない。例えば、図11に示す実施形態では、フランジ部40に取り付けられる磁石23の外径と、スラスト部材21に取り付けられる磁石24の外径とを異ならせ、これらを同心上に配置している。具体的には、磁石24の外径を磁石23の外径よりも大径とし、大径の磁石24の内径側に小径の磁石23を配置している。磁石23、24は、全周で連続したリング状としてもよいし(図5参照)、円周方向に離隔して配置した複数の磁石で構成してもよい(図10参照)。この場合、両磁石23、24の間に生じる斥力のラジアル方向成分により、小径の磁石23を内径側に付勢することができるため、両磁石23、24のラジアル方向のずれ、ひいては、フランジ部40とスラスト部材21とのラジアル方向のずれを修正し、フランジ部40の磁石23、24による支持を安定させることができる。
【0045】
また、以上の実施形態では、固定部材(スラスト部材21)にフォイル部材を固定した場合を示したが、これとは逆に、フォイル部材を回転部材(軸6のフランジ部40)に固定してもよい。この場合、フォイル部材のリーフに設けられたスラスト軸受面と固定部材の端面との間に、楔状のスラスト軸受隙間が形成される。ただし、フォイル部材を回転部材に固定すると、フォイル部材が高速で回転することとなるため、遠心力によりフォイルが変形する恐れがある。従って、フォイルの変形を回避する観点からは、フォイル部材を固定部材に取り付けることが好ましい。
【0046】
また、以上の実施形態では、フランジ部40の軸方向両側にスラスト部材21及びフォイル部材22を設け、フランジ部40を両スラスト方向に支持する構成を示したが、これに限らず、フランジ部40の軸方向一方にのみスラスト部材21及びフォイル部材22を設け、スラスト方向一方にのみ支持する構成としてもよい。このような構成は、スラスト方向他方の支持が不要な場合や、スラスト方向他方の支持を他の構成で達成する場合などに適用できる。
【0047】
また、以上の実施形態では、スラストフォイル軸受20のフォイル部材22が、複数のリーフ31を一体に有するフォイル30と複数のリーフ31’を一体に有するフォイル30’とを組み合せて構成されているが、これに限られない。例えば、複数のリーフを一枚ずつスラスト部材21に固定する構成としてもよい。あるいは、スラスト軸受面を有するトップフォイルと、トップフォイルとスラスト部材との間に配置された波形のバックフォイルとで構成されるバンプフォイル型のフォイル部材を採用してもよい。
【0048】
また、以上の実施形態では、本発明に係るスラストフォイル軸受20をガスタービンに適用した場合を示したが、これに限らず、例えば図12に示すような過給機に適用してもよい。この過給機は、エンジン63に空気を送り込むいわゆるターボチャージャであり、圧縮機61と、タービン62とを備える。圧縮機61及びタービン62は軸6で連結されている。軸6は、ラジアルフォイル軸受10とスラストフォイル軸受20とでラジアル方向及び両スラスト方向に支持される。図示例では、ラジアルフォイル軸受10を軸方向に離隔した2箇所に設けている。図示しない吸気口から吸入された空気は、圧縮機61で圧縮され、燃料を混合してエンジン63に供給される。エンジン63で燃料を混合した圧縮空気を燃焼させ、エンジン63から排気された高温、高圧のガスでタービン62を回転させる。このときのタービン62の回転力が、軸6を介して圧縮機61に伝達される。タービン62を回転させた後のガスは、排ガスとして外部に排出される。
【0049】
本発明にかかるフォイル軸受は、ガスタービンや過給機に限らず、潤滑油などの液体による潤滑が困難である、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難である、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる等の制限下で使用される自動車等の車両用軸受、さらには産業機器用の軸受として広く使用することが可能である。
【0050】
なお、以上に述べたフォイル軸受は、圧力発生流体として空気を使用した空気動圧軸受のみならず、圧力発生流体として潤滑油を使用した油動圧軸受としても使用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 タービン
2 圧縮機
3 発電機
4 燃焼器
5 再生器
6 軸
10 ラジアルフォイル軸受
11 外方部材
12 リーフ
20 スラストフォイル軸受
21 スラスト部材(固定部材)
22 フォイル部材
23 磁石
24 磁石
30 フォイル
31 リーフ
31c スラスト軸受面
40 フランジ部(回転部材)
41 フランジ部材
R ラジアル軸受隙間
T スラスト軸受隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、回転部材と、回転部材の端面と固定部材の端面との間に配され、スラスト軸受面を有するフォイル部材とを備え、前記スラスト軸受面でスラスト軸受隙間を形成し、このスラスト軸受隙間に生じる流体膜で回転部材をスラスト方向に支持するスラストフォイル軸受であって、
固定部材及び回転部材にそれぞれ磁石を取り付け、これらの磁石を、互いにスラスト方向の斥力が働くように配置したスラストフォイル軸受。
【請求項2】
前記磁石を円周方向に沿って配置した請求項1記載のスラストフォイル軸受。
【請求項3】
前記磁石が全周で連続したリング状である請求項2記載のスラストフォイル軸受。
【請求項4】
前記磁石が、円周方向に離隔して配置した複数の磁石からなる請求項2記載のスラストフォイル軸受。
【請求項5】
回転部材に取り付けた磁石の外径と、固定部材に取り付けた磁石の外径とを異ならせた請求項2〜4の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項6】
前記磁石としてサマリウムコバルト磁石を用いた請求項1〜5の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項7】
前記フォイル部材が、円周方向一端を自由端とし、前記スラスト軸受面が設けられた複数のリーフと、複数のリーフを連結する連結部とを一体に有するフォイルを具備した請求項1〜6の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項8】
前記フォイル部材が、前記フォイルを複数組み合せて構成された請求項7記載のスラストフォイル軸受。
【請求項9】
前記フォイル部材のスラスト軸受面に被膜を設けた請求項1〜8の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項10】
前記フォイル部材を構成するフォイルのうち、スラスト軸受面と反対側の面に被膜を設けた請求項1〜9の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項11】
前記被膜が、DLC膜、チタンアルミナイトライド膜、二硫化モリブデン膜の何れかである請求項9又は10記載のスラストフォイル軸受。
【請求項12】
ガスタービンのロータ支持に用いられる請求項1〜11の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項13】
過給機のロータ支持に用いられる請求項1〜11の何れかに記載のスラストフォイル軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−44394(P2013−44394A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182717(P2011−182717)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】