説明

スラスト針状ころ軸受

【課題】針状ころの外端面と保持器のポケットとの摺動部に適切な量の潤滑油を保持できるようにして、低コストで保持器の耐摩耗性を向上させることができるスラスト針状ころ軸受を提供する。
【解決手段】このスラスト針状ころ軸受は、複数の針状ころ13を円周方向に転動可能に保持するポケット14を有する保持器15が一枚の板部材により形成され、また、保持器15の外周部には軸方向に延びる外側フランジ16が設けられている。そして、保持器15が、外側フランジ16の内径をDf(mm)、ころ径をDa(mm)、保持器板厚をt(mm)、ポケット14の外側端面15aと外側フランジ16の内径面との径方向距離をe(mm)としたときに、0.05mm≦e≦120/(π・Df・(Da−t))の関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車や産業機械に用いられるスラスト針状ころ軸受に関し、特に、自動車エアコン用コンプレッサやトルクコンバータ、自動車用トランスミッション等の回転支持部に用いられるスラスト針状ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスラスト針状ころ軸受としては、例えば、図4に示すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このスラスト針状ころ軸受は、図4に示すように、軸方向に互いに対向する一対の軌道輪1,2間に複数の針状ころ3が保持器4を介してその軸線を径方向に向けた状態で放射状に配設されている。保持器4は一枚の鋼板等にプレス成形等を施して形成されており、放射状に配置される複数の針状ころ3を円周方向に転動可能に保持する複数のポケット5が形成されているとともに、外周部に軸方向に延びる外側フランジ6が設けられている。
【特許文献1】特開2000−213546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のスラスト針状ころ軸受では、回転時に針状ころ3が遠心力で保持器4のポケット5の保持器径方向外側の端面5aに押し付けられながら転動するため、針状ころ3の径方向外側の端面(以下、針状ころの外端面という)3aとポケット5の保持器径方向外側の端面5aとの間に摺動摩擦が発生する。
【0005】
そして、軸受が高速回転するとこの摺動摩擦力が増大して、ポケット5の保持器径方向外側の端面5aが凹状に異常摩耗し、針状ころ3が保持器4にもぐり込むという不具合が生じる。このもぐり込み摩耗が発生すると、保持器強度低下、回転トルク増大、軸受温度上昇が起こり、軸受のフレーキングや焼付きの原因となる。近年は、自動車性能の向上により、軸受に求められる回転速度も増大しているため、このもぐり込み摩耗を防止することが望まれる。
【0006】
具体的に、軸受回転時は、上述したように、針状ころ3がポケット5の保持器径方向外側の端面5aに押し付けられているため、針状ころ3の外端面3aとポケット5の保持器径方向外側の端面5aとの間に隙間はない。この場合、針状ころ3の外端面3aとポケット5の保持器径方向外側の端面5aとの間の摺動部S(図5参照)に潤滑油を供給するには、針状ころ3の外端面3aと外側フランジ6の内径面との間に潤滑油が溜まり、針状ころ3の外端面3aに潤滑油が付着することが必要となる。
【0007】
しかし、図5に示すように、針状ころ3の外端面3aに付着した潤滑油Tは、針状ころ3の転動に伴い、針状ころ3の外端面3aとポケット5の保持器径方向外側の端面5aとの摺動部Sに移動する一方、軸受回転時には潤滑油にも遠心力が働くため、外側フランジ6と針状ころ3の外端面3aとの間の潤滑油は外側フランジ6側へ移動する。
【0008】
従って、図6(b)に示すように、外側フランジ6の内径面と針状ころ3の外端面3aとの間の空間体積が大きいと、針状ころ3の外端面3aに潤滑油が付着し難くなり、針状ころ3の外端面3aとポケット5の保持器径方向外側の端面5aとの摺動部Sへ潤滑油が供給され難くなる。一方、図6(a)に示すように、外側フランジ6の内径面と針状ころ3の外端面3aとの間の空間体積が小さすぎると、潤滑油の絶対量が少なくなって針状ころ3の外端面3aとポケット5の保持器径方向外側の端面5aとの摺動部Sの潤滑性が低下し、また、保持器5の加工コストが高くなる。
【0009】
本発明はこのような技術的背景を鑑みてなされたものであり、その目的は、針状ころの外端面と保持器のポケットとの摺動部に適切な量の潤滑油を保持できるようにして、低コストで保持器の耐摩耗性を向上させることができるスラスト針状ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 円周方向に亙って形成される複数のポケット、及び、外周部に軸方向に延びる外側フランジを備え、一枚の板部材により形成される保持器と、前記複数のポケットに円周方向に転動可能に保持される複数の針状ころと、を有するスラスト針状ころ軸受であって、
前記保持器が、前記外側フランジの内径をDf(mm)、ころ径をDa(mm)、保持器板厚をt(mm)、前記ポケットの保持器径方向外側の端面と前記外側フランジの内径面との径方向距離をe(mm)としたときに、0.05mm≦e≦120/(π・Df・(Da−t))の関係を満足することを特徴とするスラスト針状ころ軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、e≦120/(π・Df・(Da−t))とすることで、ポケットの保持器径方向外側の端面と外側フランジの内径面との間の空間体積(π・Df・(Da−t))を適正な大きさにすることができるので、外側フランジと針状ころの外端面との間に溜まった潤滑油を針状ころの外端面に付着し易くすることができる。これにより、針状ころの外端面と保持器のポケットとの摺動部に適切な量の潤滑油を保持させることができ、該摺動部の潤滑性が良好になって保持器の耐摩耗性を向上させることができる。
【0012】
また、ポケットの保持器径方向外側の端面と外側フランジの内径面との径方向距離eを0.05mm以上としているので、潤滑油の絶対量を適正に確保しつつ保持器の加工コストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るスラスト針状ころ軸受について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態のスラスト針状ころ軸受10は、軸方向に互いに対向する一対の軌道輪11,12と、一対の軌道輪11,12間にその軸線を径方向に向けた状態で放射状に配設される複数の針状ころ13と、該針状ころ13を円周方向に転動可能に保持する複数のポケット14が円周方向に亙って形成された保持器15と、を備える。
【0015】
保持器15は一枚の鋼板等にプレス成形等を施して形成されており、保持器15の外周部には軸方向に延びる外側フランジ16が設けられ、保持器15の内周部には軸方向に延びる内側フランジ17が設けられている。また、保持器15のポケット14の円周方向側面には、針状ころ13を保持する保持部18が設けられている。なお、外側フランジ16は、径方向外側で折り返されて折り返し部分が重ね合わされている。
【0016】
ここで、図2を参照して、保持器15は、外側フランジ16の内径をDf(mm)、針状ころ13のころ径をDa(mm)、保持器15の板厚をt(mm)、ポケット14の保持器径方向外側の端面(以下、ポケット14の外側端面という)15aと外側フランジ16の内径面との径方向距離をe(mm)としたときに、0.05mm≦e≦120/(π・Df・(Da−t))の関係を満足する。
【0017】
このように、本実施形態では、e≦120/(π・Df・(Da−t))としているので、ポケット14の外側端面15aと外側フランジ16の内径面との間の空間体積(π・Df・(Da−t))を適正な大きさにすることができる。
【0018】
これにより、外側フランジ16と針状ころ13の外端面13aとの間に溜まった潤滑油を針状ころ13の外端面13aに付着し易くすることができ、針状ころ13の外端面13aと保持器15のポケット14の外側端面15aとの摺動部に適切な量の潤滑油を保持させることができる。この結果、該摺動部の潤滑性が良好になって保持器15の耐摩耗性が向上し、軸受の高速回転時に、ポケット14の外側端面15aに針状ころ13がもぐり込む、もぐり込み摩耗が発生するのを回避することができる。
【0019】
また、ポケット14の外側端面15aと外側フランジ16の内径面との径方向距離eを0.05mm以上としているので、潤滑油の絶対量を適正に確保しつつ保持器15の加工コストを抑えることができる。
【実施例】
【0020】
外側フランジ16の内径Dfが45〜91mm、ポケット14の外側端面15aと外側フランジ16の内径面との間の径方向距離eが0.09〜0.49mm、針状ころ13のころ径Daが2〜4mm、保持器15の板厚tが0.5〜1.0mmの8種類の保持器15を用いて比較試験を行った。
【0021】
試験条件は、保持器回転速度をN(min-1)、潤滑油量をq(mm3 /min)として、保持器1回転あたりに供給される油量q/Nを2.8〜15.6mm3 の範囲とし、ポケット14の外側端面15aと外側フランジ16の内径面との間の空間体積(π・Df・(Da−t))を変化させて、ポケット14の外側端面15aに針状ころ13がもぐり込む、もぐり込み摩耗の発生の有無を調査した。
【0022】
試験結果を図3に示す。図3から判るように、π・Df・e・(Da−t)≦120、即ち、e≦120/(π・Df・(Da−t))のときに、潤滑油量が少ない場合であってももぐり込み摩耗は発生しないことを確認できた。なお、試験結果は、8種類いずれの保持器においてもほぼ同様な結果が得られた。
【0023】
なお、本発明のスラスト針状ころ軸受は、本実施形態のものに限定されるものでなく、軌道輪、針状ころ、ポケット、保持器、外側フランジ等、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態の一例であるスラスト針状ころ軸受を説明するための断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】ポケット外側端面と外側フランジ間の体積と、保持器1回転あたりの供給油量と、もぐりこみ摩耗発生の有無との関係を示すグラフ図である。
【図4】従来のスラスト針状ころ軸受の一例を示す要部断面図である。
【図5】針状ころの転動に伴う潤滑油の移動を説明するための説明図である。
【図6】外側フランジの内径面と針状ころの外端面との間の隙間の大小を示す要部断面図であり、(a)は隙間小、(b)は隙間大である。
【符号の説明】
【0025】
10 スラスト針状ころ軸受
11 軌道輪
12 軌道輪
13 針状ころ
14 ポケット
15 保持器
15a ポケットの外側端面(ポケットの保持器径方向外側の端面)
16 外側フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に亙って形成される複数のポケット、及び、外周部に軸方向に延びる外側フランジを備え、一枚の板部材により形成される保持器と、前記複数のポケットに円周方向に転動可能に保持される複数の針状ころと、を有するスラスト針状ころ軸受であって、
前記保持器が、前記外側フランジの内径をDf(mm)、ころ径をDa(mm)、保持器板厚をt(mm)、前記ポケットの保持器径方向外側の端面と前記外側フランジの内径面との径方向距離をe(mm)としたときに、0.05mm≦e≦120/(π・Df・(Da−t))の関係を満足することを特徴とするスラスト針状ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−75723(P2008−75723A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254547(P2006−254547)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】