説明

セラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物及び該組成物を用いた接着フィルム

【課題】 十分な耐熱性を確保しながら、セラミックス基板に対する優れた接着性を有するセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物及び該組成物を用いた接着フィルムを提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表される芳香環を3個以上有するジアミンを用いたジイミドジカルボン酸、一般式(2)で表されるポリオキシプロピレンジアミンを用いたジイミドジカルボン酸及び一般式(3)で表わされるシロキサンジアミンを用いたジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物と、一般式(4a)、(4b)、(4c)、(4d)又は(4e)で表される芳香族ジイソシアネートの少なくとも1以上とを反応させて得られる(A)ポリアミドイミド樹脂並びに(B)熱硬化性樹脂を含有するセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物及び該組成物を用いた接着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物及び該組成物を用いた接着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス基板を用いた配線板としては、混成集積回路や半導体素子を集積する半導体パッケージが挙げられる。これらのセラミックス基板を用いた各種配線板は、セラミックス基板とセラミックス基板上に形成される配線板層とセラミックス基板と配線板層とを接着する接着剤層とからなる。
【0003】
当該接着剤層に用いられる接着剤としては、エポキシ系、アクリル系、ポリエステル系、(例えば、特許文献1参照)、フッ素系、シリコン系等の接着剤が挙げられる。
【0004】
従来の接着剤ではセラミックス基板に対する十分な接着性を得ようとすると十分な耐熱性が得られなくなる傾向があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−281502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、十分な耐熱性を確保しながら、セラミックス基板に対する優れた接着性を有するセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物及び該組成物を用いた接着フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)で表されるジイミドジカルボン酸、下記一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸及び下記一般式(3)で表わされるジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物と、下記一般式(4a)、(4b)、(4c)、(4d)又は(4e)で表される芳香族ジイソシアネートの少なくとも1以上とを反応させて得られる(A)ポリアミドイミド樹脂並びに(B)熱硬化性樹脂を含有するセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物に関する。
【0008】
このようなポリアミドイミド樹脂とを組み合わせることにより、十分な耐熱性を確保しながら、セラミックス基板に対する優れた接着性を有するセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物を得ることができる。
【0009】
【化1】

〔式(1)中、Rは下記一般式(1a)、(1b)、(1c)、(1d)、(1e)、(1f)、(1g)又は(1h)で表される基を示す。〕
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

〔一般式(2)中、Rは、下記一般式(2a)、(2b)、(2c),(2d)、(2e)、(2f)又は(2g)で表される基を示す。〕
【0012】
【化4】

〔一般式(2c)中、nは1〜70の整数を示し、一般式(2d)中、Xは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜3のハロゲン化脂肪族炭化水素基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示し、R、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、メトキシ基、メチル基又はハロゲン化メチル基を示し、一般式(2e)中、Yは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜3のハロゲン化脂肪族炭化水素基、スルホニル基、オキシ基又はカルボニル基を示し、一般式(2f)中、Zは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜3のハロゲン化脂肪族炭化水素基、カルボニル基又は単結合を示す。〕
【0013】
【化5】

〔一般式(3)中、R及びR10はそれぞれ独立に2価の有機基を示し、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜18のアリール基を示し、mは1〜50の整数を示す。〕
【0014】
【化6】

【0015】
また、本発明は、当該熱硬化性接着剤組成物から得られる硬化物の25〜250℃における貯蔵弾性率が2000MPa以下、熱膨張係数が2000ppm以下及びガラス転移点温度が100〜230℃である、上記のセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物に関する。このように硬化物が十分な耐熱性を有することで、熱硬化性接着剤組成物としての利用価値がより高まる。
【0016】
また、本発明は、(A)ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して(B)熱硬化性樹脂を5〜100質量部含有してなる上記のセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物に関する。熱硬化性樹脂は、このような割合で配合することにより、より優れた硬化剤として機能する。
【0017】
また、本発明は、一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸が、アミン当量200〜2500g/molのポリオキシプロピレンジアミン又はアミン当量が50〜200g/molの脂環式ジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる化合物であり、一般式(3)で表されるジイミドジカルボン酸が、アミン当量200〜2500g/molのシロキサンジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる化合物である、上記のセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物に関する。このようなアミン当量のアミンを用いることにより、熱硬化性接着剤組成物のセラミックス基板に対する接着性がより向上する。
【0018】
また、本発明は、(B)熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であり、エポキシ樹脂の硬化促進剤又は硬化剤をさらに含有してなる、上記のセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物に関する。エポキシ樹脂を用いることにより、熱硬化性接着剤組成物のセラミックス基板に対する接着性及び取り扱い性がより向上する。
【0019】
さらに、本発明は、上記のセラミックス基板用熱硬化性樹脂組成物からなる接着層を有する接着フィルムに関する。上記熱硬化性接着剤組成物を用いることで、十分な耐熱性を確保しながら、セラミックス基板に対する優れた接着性を有するフィルムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、十分な耐熱性を確保しながら、セラミックス基板に対する優れた接着性を有するセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物及び接着フィルムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明する。ただし、本発明は以下の発明を実施するための最良の形態に制限するものではない。
本発明になるセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物(以下、熱硬化性接着剤組成物という)は、セラミックス基板を他の部材と接着するための接着剤として用いられる。例えば、上記熱硬化性接着剤組成物は、セラミックス基板と配線板層(金属箔の層)とを接着して各種配線板(回路基板)を製造するために用いられている。
【0022】
セラミックス基板と配線板層とを接着するには、セラミックス基板上に熱硬化性接着剤組成物からなる層(接着層)を形成し、その上に配線板層を積層する。セラミックス基板上に接着剤層を形成するには、熱硬化性接着剤組成物をセラミックス基板に塗工してもよく、接着フィルムをセラミックス基板にプレス又はラミネートしてもよい。
【0023】
熱硬化性接着剤組成物をセラミックス基板に塗工する場合は、例えば、熱硬化性接着剤組成物の溶液をセラミックス基板に塗布後、加熱により乾燥させて接着剤層を形成することができる。この際の加熱条件は、熱硬化性接着剤組成物の反応率が5〜10%になるようにする。通常、乾燥温度は120〜150℃とすることが好ましい。
【0024】
上記接着フィルムは、離型処理された支持基材と該支持基材に形成された熱硬化性接着剤組成物からなる層(接着層)とを備える。接着フィルムを用いて接着剤層を形成する場合は、接着フィルムをセラミックス基板上に積層する前に支持基材を除去する。
【0025】
支持基材としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレ−トなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリフッ化エチレン系フィルム等が挙げられる。支持基材の厚みは25〜100μmが好ましい。支持基材上に積層された接着層の厚みは5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。
【0026】
接着層の上に配線板層を形成することにより各種配線板を形成することができる。配線板層は、回路パターンを形成したものでもよく、全面を覆うものでもよい。またセラミックス基板の両面に接着剤層を形成し、その外側両面に配線板層を形成してもよい。配線板層を構成する金属としては、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。電気的に接続される場合は、銅が好適である。
【0027】
セラミックス基板に用いられるセラミックスとしては、特に制限はないが、例えば、酸化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体等の酸化物系セラミックスや、窒化アルミニウム質焼結体、炭化珪素質焼結体等の非酸化物系セラミックスが挙げられる。
【0028】
非酸化物系セラミックス基板の表面には、通常、酸化膜が形成されている。
本発明になる熱硬化性接着剤組成物は、これらの中でも特に、酸化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体等の酸化物系セラミックスを被着体としたときに有用なものである。
【0029】
セラミックスが酸化アルミニウム質焼結体である場合は、アルミナ、シリカ、カルシア、マグネシア等の原料粉末に適当な有機溶剤又は溶媒を添加混合してスラリー状とし、ドクターブレード法やカレンダーロール法によりセラミックスグリーンシート(セラミック生シート)を形成する。このセラミックスグリーンシートを打ち抜き、プレス成型等の加工により所定の形状にした後、約1600℃の高温で焼成することにより、セラミックスを得ることができる。
【0030】
本発明になる熱硬化性接着剤組成物は、一般式(1)で表されるジイミドジカルボン酸、一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸及び一般式(3)で表されるジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物と、一般式(4)で表される芳香族ジイソシアネートとを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂、並びに熱硬化性樹脂を含有する。
【0031】
一般式(1)で表されるジイミドジカルボン酸は、芳香族環を3個以上有するジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる。芳香環を3個以上有するジアミンとしては、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、BAPPという)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。ポリアミドイミド樹脂の特性のバランスがよく、コストもかからないため、芳香環を3個以上有するジアミンとしては、BAPPが好ましい。すなわち一般式(1)中のRは一般式(1a)で表される基であることが好ましい。これらは単独で又は2種類以上組み合わせて用いられる。
【0032】
一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸は、ポリオキシプロピレンジアミン又は脂環式ジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる化合物であるが、特に、ポリオキシプロピレンジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる化合物であることが好ましい。
【0033】
すなわち一般式(2)中のRは一般式(2c)で表される基であることが好ましい。ポリオキシプロピレンジアミンは、下記一般式(20)で表される。一般式(20)中、nは1〜70の整数を示す。
【0034】
【化7】

【0035】
商業的に入手可能なポリオキシプロピレンジアミンとしては、ジェファーミンD−230(アミン当量115)、ジェファーミンD−400(アミン当量200)、ジェファーミンD−2000(アミン当量1,000)、ジェファーミンD−4000(アミン当量2,000)(以上サンテクノケミカル株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上組み合わせて用いられる。
【0036】
ここで、ポリアミドイミド樹脂の接着効果をより一層顕著なものとするために、ポリオキシプロピレンジアミンのアミン当量を200〜2500g/molとすることが好ましい。
また、脂環式ジアミンのアミン当量は、50〜200g/molとすることが好ましい。
【0037】
一般式(3)で表されるジイミドジカルボン酸は、シロキサンジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる。シロキサンジアミンは、下記一般式(30)で表される。
一般式(30)中、R及びR10はそれぞれ独立に2価の有機基を示し、R11〜R14はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜18のアリール基を示し、nは1〜50の整数を示す。
【0038】
【化8】

【0039】
一般式(30)中、R及びR10が示す2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基等のアリーレン基等が挙げられる。
【0040】
一般式(30)中、R11〜R14が示す炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、これらの構造異性体が挙げられる。
【0041】
また、一般式(30)中、R11〜R14 が示す炭素数6〜18のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられ、これらは、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、アリル基、炭素数1〜20のアルキル基等で置換されてもよい。
【0042】
このようなシロキサンジアミンとしては下記一般式(30a)、(30b)又は(30c)で表されるものが挙げられる。式中、nは1〜50の整数を示す。
【0043】
【化9】

【0044】
商業的に入手可能なシロキサンジアミンとしては、シロキサン系両末端アミンであるアミノ変性シリコーンオイルX−22−161AS(アミン当量450)、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1500)(以上、信越化学工業株式会社製、商品名)、BY16−853(アミン当量650)、BY16−853B(アミン当量2200)(以上、東レダウコーニングシリコーン株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上組み合わせて用いられる。
【0045】
ここで、ポリアミドイミド樹脂の接着効果を、より一層顕著なものとするために、シロキサンジアミンのアミン当量を200〜2500g/molとすることが好ましい。このようなシロキサンジアミンの例としては、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1540)(以上、信越化学工業株式会社製商品名)等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上組み合わせて用いられる。
【0046】
一般式(4)で表される芳香族ジイソシアネートとしては、一般式(4a)で表される4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIという)、一般式(4b)で表される2,4−トリレンジイソシアネート(以下、TDIという)、一般式(4c)で表される2,6−トリレンジイソシアネート、一般式(4d)で表される2,4−トリレンダイマー、一般式(4e)で表されるナフタレン−1,5−ジイソシアネート等が挙げられる。
【0047】
可とう性付与及び結晶性防止の効果に優れるため、上記芳香族ジイソシアネートとしては、MDIとTDIが特に好ましい。これらは単独で又は2種類以上組み合わせて用いられる。
【0048】
また、耐熱性をよくするためにヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートを芳香族ジイソシアネートに対して5〜10モル%程度の割合で併用することができる。
【0049】
ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量は、30,000〜300,000であることが好ましく、40,000〜200,000であることがより好ましく、50,000〜100,000であることが特に好ましい。重量平均分子量が30,000未満であると、フィルム状態での強度や可とう性の低下、タック性の増大及びミクロ層分離構造が消失をもたらす傾向があり、300,000を超えるとフィルム状態での可とう性及び接着性が低下する傾向がある。
【0050】
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定され、標準ポリスチレンを用いて作製した検量線により換算されたものである。
【0051】
以下に本発明で用いるポリアミドイミド樹脂の製造法について説明する。まず、芳香族環を3個以上有するジアミン(1’)、ポリオキシプロピレンジアミン(2’)及びシロキサンジアミン(3’)のジアミン混合物と無水トリメリット酸(以下、TMAという)を非プロトン性極性溶媒の存在下に、50〜90℃で0.2〜1.5時間反応させる。
【0052】
次に、水と共沸可能な芳香族炭化水素を非プロトン性極性溶媒の0.1〜0.5重量比で投入し、120〜180℃で反応させる。この反応によって一般式(1)で表される芳香族ジイミドジカルボン酸と一般式(2)で表されるポリオキシプロピレンジイミドジカルボン酸と一般式(3)で表されるシロキサンジイミドジカルボン酸とを含むジイミドジカルボン酸混合物が得られる。
【0053】
得られたジイミドジカルボン混合物と一般式(4)で表される(4’)芳香族ジイソシアネートとを150〜250℃程度で0.5〜3時間程度反応させることにより、本発明で用いるポリアミドイミド樹脂を製造できる。
【0054】
芳香環を3個以上有するジアミン(1’)、ポリオキシプロピレンジアミン(2’)及びシロキサンジアミン(3’)の混合物の混合比としては、(1’)/(2’)/(3’)=0.01〜70.0/10.0〜70.0/10.0〜50.0(各数値の単位はモル%であり(1’)、(2’)及び(3’)の合計量を100モル%とする。)であることが好ましい。
【0055】
この範囲から外れた混合比のジアミン混合物を用いて得られる樹脂は、反りを生じたり、分子量が低下する傾向がある。この混合比は、(0.01〜65.0)/(20.0〜60.0)/(10.0〜40.0)(モル%)であることがより好ましい。
【0056】
上記混合物と無水トリメリット酸(TMA)とを反応させ、一般式(1)で表されるジイミドジカルボン酸、一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸及び一般式(3)で表されるジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物を得るための原料の使用量は、芳香環を3個以上有するジアミン(1’)、ポリオキシプロピレンジアミン(2’)、及びシロキサンジアミン(3’)の合計モル数とTMAのモル数のモル比((1’)+(2’)+(3’)/TMA=1/2.20〜1/2.05であることが好ましく、1/2.15〜1/2.10であることがより好ましい。このモル比が1/2.20未満ではTMAが残存し、最終的に得られる樹脂の分子量が低下する傾向があり、1/2.05を超えるとジアミンが残存し、最終的に得られる樹脂の分子量が低下する傾向がある。
【0057】
一般式(1)で表されるジイミドジカルボン酸、一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸及び一般式(3)で表されるジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物((1)+(2)+(3))と一般式(4)で表される(4’)芳香族ジイソシアネートとを反応させ、ポリアミドイミド樹脂を得るためのモル比は、((1)+(2)+(3))/(4)=1/1.50〜1/1.05であることがより好ましく、1/1.3〜1/1.1であることがより好ましい。このモル比が1/1.50未満であるか1/1.05を超えると得られる樹脂の分子量が低下する傾向がある。
【0058】
非プロトン性極性溶媒としては、芳香族環を3個以上有するジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、脂環式ジアミン、シロキサンジアミン、TMAと反応しない有機溶媒であることが好ましく、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、シクロヘキサノン等が挙げられる。イミド化反応には、高温を要するため沸点の高い、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0059】
非プロトン性極性溶媒中に含まれる水分量は0.1〜0.2質量%とすることが好ましい。この水分量が0.2質量%を越えるとTMAが水和して生成するトリメリット酸により、十分に反応が進行せず、ポリマの分子量が低下する傾向がある。
【0060】
また、非プロトン性極性溶媒の使用量は、芳香族環を3個以上有するジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、脂環式ジアミン、シロキサンジアミン及びTMAの総量に対して10〜80質量%の範囲になることが好ましく、50〜80質量%の範囲になることが好ましい。この使用量が10%未満ではTMAの溶解性が低下し、反応の進行が十分でなくなる傾向がある。
【0061】
本発明になる熱硬化性接着剤組成物から得られる硬化物は、25〜250℃における貯蔵弾性率が2000MPa以下、熱膨張係数が2000ppm以下、ガラス転移点温度が100〜230℃であることが好ましい。このような硬化物は、上記のジイミドジカルボン酸や芳香族ジイソシアネート及び熱硬化性樹脂を適宜組み合わせることにより当業者が実施することが可能である。
【0062】
本発明で用いる熱硬化性樹脂としては、液状で変性ポリアミドイミド樹脂骨格中のアミド基と熱等によって反応すれば制限はないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂等が好ましい。接着性及び取り扱い性がよいことから、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0063】
エポキシ樹脂としては、液状の2官能以上のエポキシ樹脂であればよく特に制限されるものではないが、ビスフェノ−ルA型、ビスフェノ−ルF型等の液状エポキシ樹脂を用いることができる。これらの液状樹脂としては、エピコ−ト827,エピコ−ト828(油化シェルエポキシ株式会社製)、エポミックR140P,エポミックR110(三井石油化学株式会社製)、YD127,YD128,YDF170(東都化成株式会社)等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて用いられる。エポキシ樹脂は、エポキシ当量が150〜250であることが好ましく、160〜200であることがより好ましい。
【0064】
熱硬化性樹脂の配合量は、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して5〜100質量部であることが好ましく、30〜80質量部であることがより好ましく、20〜50質量部であることが特に好ましい。この配合量が5質量部未満では、硬化剤としての機能が十分でなくなる傾向があり、100質量部を超えると硬化後の樹脂の架橋構造が密となり、脆弱化する傾向がある。
【0065】
本発明になる熱硬化性接着剤組成物は、さらに上記熱硬化性樹脂の硬化促進剤又は硬化剤を含むことが好ましい。硬化促進剤又は硬化剤としては、エポキシ樹脂と反応するもの、又は硬化反応を促進させるものであれば特に制限はなく、例えば、アミン類、イミダゾール類が用いられる。これらは単独で又は2種類以上組み合わせて用いられる。
【0066】
アミン類としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、グアニル尿素等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上組み合わせて用いられる。イミダゾール類としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のアルキル基置換イミダゾール、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上組み合わせて用いられる。
【0067】
硬化促進剤又は硬化剤の配合量は、アミン類の場合はアミンの活性水素の当量とエポキシ樹脂のエポキシ当量が、それぞれほぼ等しくなる量が好ましい。イミダゾールの場合は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1〜2.0重量部であることが好ましい。この配合量は、少なければ未硬化のエポキシ樹脂が残存して、架橋樹脂のガラス転移温度が低くなり、多すぎると未反応の硬化促進剤又は硬化剤が残存して、ポットライフ、絶縁性等が十分に得られなくなる傾向がある。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに制限するものではない。
(ポリアミドイミド樹脂の合成)
還流冷却器を連結したコック付き25mlの水分定量受器、温度計、撹拌器を備えた1リットルのセパラブルフラスコを用意した。
【0069】
そこへ、芳香族環を3個以上有するジアミンであるBAPP(2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン)、ポリオキシプロピレンジアミンであるジェファーミンD−2000(サンテクノケミカル株式会社製商品名、アミン当量1000)、シロキサンジアミンである反応性シリコーンオイルX−22−161−B(信越化学工業株式会社製商品名、アミン当量1540)、TMA(無水トリメリット酸)、非プロトン性極性溶媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)及びγ−BL(γ−ブチロラクトン)をそれぞれ表1に示した配合比で添加し、反応液を調整した。
【0070】
反応液を80℃で30分間撹拌しながら反応させた。次いで、水と共沸可能な芳香族炭化水素であるトルエン100mlを投入した後、反応液を昇温させ、約160℃で2時間還流させた。水分定量受器に水が約3.6ml以上溜まっていること及び水の流出が見られなくなっていることを確認し、水分定量受器に溜まっている流出水を除去しながら、190℃まで反応液を昇温させてトルエンを除去した。
【0071】
反応液を室温に戻した後、芳香族ジイソシアネートであるMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)及びTDI(2,4−トリレンジイソシアネート)を表1に示した配合比で添加した。再び反応液を昇温させて190℃で2時間反応させた。反応物をNMPに溶解させて、ポリアミドイミド樹脂A−1〜A−3を得た。
【0072】
【表1】

*1:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
*2:ジェファーミンD−2000(サンテクノケミカル(株)製、商品名、アミン等量 1000)
*3:反応性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製、商品名)アミン等量 1540
*4:無水トリメット酸
*5:N−メチル−2−ピロリドン
*6:γ−ブチロラクトン
*7:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
*8:2,4’−トリレンジイソシアネート
【0073】
(実施例1〜3及び比較例1〜2)
得られた変性ポリアミドイミド樹脂の溶液(A−1〜A−3)に表2に示す成分を表に示す配合比で配合し、均一になるまで約1時間撹拌した後、脱泡のため室温で24時間静置して、熱硬化性接着剤組成物を得た。
【0074】
【表2】

*9:三井石油化学(株)商品名
*10:JSR(株)製
*11:大日本インキ化学工業(株)商品名
【0075】
得られた熱硬化性接着剤組成物の溶液を厚さ500μmの酸化アルミニウム焼結体セラミックに乾燥後の膜厚が20μmになるように塗布し、140℃で10分間乾燥させて、接着剤層を形成した。次いで厚さ35μmの圧延銅箔(日鉱グールドフォイル株式会社製、商品名:BHY−22B−T)の粗化面を接着剤層の表面と貼り合わせ、温度180℃、圧力2MPaで熱プレスを行って仮接着させた。さらに乾燥機で200℃にて60分間硬化させて、試料Aを得た。
【0076】
(接着性)
試料Aの接着剤層に幅10mmの短冊状に切れ目を入れたものを試料とした。常態の試料、150℃で240時間放置した試料、121℃2気圧、蒸気が飽和した状態で30時間放置した試料について、剥離試験を行った。すなわち、下記条件下で接着性をセラミックス基板に対して90°方向に剥離し、セラミックスと接着剤層との剥離強度(KN/m)を測定した。剥離強度により接着性を評価した。評価結果を表3に示す。なお、接着剤層と銅箔の界面から剥離する場合は、予めセラミックと接着剤層の界面を少し剥離し、剥離試験を行う。
条件
測定温度:25℃、剥離速度:10mm/min
【0077】
(はんだ耐熱性)
試料Aの接着剤層に20×20mmの四角状に切れ目を入れ試料とした。300℃に加熱したはんだ浴に銅箔側を下にして1分間浸漬した。その後、試料の常態におけるふくれ、はがれ等の外観異常の有無を調べた。
【0078】
また、40℃、湿度90%にて8時間放置した後、300℃と280℃に加熱したはんだ浴に銅箔側を下にして1分間浸漬した。その後、ふくれ、はがれ等の外観異常の有無を調べた。下記基準により、外観異常の有無を評価した。評価結果を表3に示す。なお、外観異常の無い方がはんだ耐熱性が良好であることを意味する。
A:ふくれ、はがれ等の外観異常無し
B:ふくれ、はがれ等の外観異常有り
【0079】
【表3】

【0080】
表3に示すように、実施例1〜3の熱硬化性接着剤組成物は、セラミックス基板上に接着剤層を形成した際、セラミックスに対する優れた接着性を示し、耐熱性も良好であることが明らかである。
以上の結果から、本発明によれば十分な耐熱性を確保しながら、セラミックスに対する優れた接着性を有する熱硬化性接着剤組成物及び接着フィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジイミドジカルボン酸、下記一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸及び下記一般式(3)で表わされるジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物と、下記一般式(4a)、(4b)、(4c)、(4d)又は(4e)で表される芳香族ジイソシアネートの少なくとも1以上とを反応させて得られる(A)ポリアミドイミド樹脂並びに(B)熱硬化性樹脂を含有するセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物。
【化1】

〔式(1)中、Rは下記一般式(1a)、(1b)、(1c)、(1d)、(1e)、(1f)、(1g)又は(1h)で表される基を示す。〕
【化2】

【化3】


〔一般式(2)中、Rは、下記一般式(2a)、(2b)、(2c),(2d)、(2e)、(2f)又は(2g)で表される基を示す。〕
【化4】


〔一般式(2c)中、nは1〜70の整数を示し、一般式(2d)中、Xは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜3のハロゲン化脂肪族炭化水素基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示し、R、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、メトキシ基、メチル基又はハロゲン化メチル基を示し、一般式(2e)中、Yは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜3のハロゲン化脂肪族炭化水素基、スルホニル基、オキシ基又はカルボニル基を示し、一般式(2f)中、Zは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜3のハロゲン化脂肪族炭化水素基、カルボニル基又は単結合を示す。〕
【化5】

〔一般式(3)中、R及びR10はそれぞれ独立に2価の有機基を示し、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜18のアリール基を示し、mは1〜50の整数を示す。〕
【化6】

【請求項2】
当該熱硬化性接着剤組成物から得られる硬化物の25〜250℃における貯蔵弾性率が2000MPa以下、熱膨張係数が2000ppm以下及びガラス転移点温度が100〜230℃である、請求項1記載のセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物。
【請求項3】
(A)ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して(B)熱硬化性樹脂を5〜100質量部含有してなる請求項1又は2記載のセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物。
【請求項4】
一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸は、アミン当量が、200〜2500g/molのポリオキシプロピレンジアミン又はアミン当量が50〜200g/molの脂環式ジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる化合物であり、一般式(3)で表されるジイミドジカルボン酸は、アミン当量が200〜2500g/molのシロキサンジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物。
【請求項5】
(B)熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であり、エポキシ樹脂の硬化促進剤又は硬化剤をさらに含有してなる、請求項1〜4のいずれかに記載のセラミックス基板用熱硬化性接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のセラミックス基板用熱硬化性樹脂組成物からなる接着層を有する接着フィルム。

【公開番号】特開2009−114307(P2009−114307A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288402(P2007−288402)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】