説明

セラミックス構造体およびその製造方法

【課題】コンデンサの誘電体層、微小レンズまたは微小歯車等に用いられるセラミックス構造体において、焼結工程を経ることなく、しかも、焼結工程を経た場合と同程度の特性および十分に高い相対密度を有するセラミックス構造体を製造するための方法を提供すること。
【解決手段】平均粒径0.03〜1.0μmのセラミックス原料粒子からなる粉末を、溶媒に分散させて、セラミックス原料粒子スラリーを得る工程と、前記セラミックス原料粒子スラリーを基材上に塗布して、セラミックス原料粒子層を形成する工程と、前記セラミックス原料粒子層に対して局所静的圧力を加えることにより、前記セラミックス原料粒子層を圧縮する工程と、を有するセラミックス構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサの誘電体層、微小レンズまたは微小歯車等に用いられるセラミックス構造体およびその製造方法に係り、さらに詳しくは、焼結工程を経ることなく、しかも、焼結工程を経た場合と同程度の特性および十分に高い相対密度を実現できるセラミックス構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、その機能性を生かし、高屈折レンズや、各種電子部品の強誘電体材料などとして用いられている。このような高屈折レンズは高密度記録媒体として、強誘電体材料は、コンデンサや共振器を構成する誘電体層として用いられ、携帯電話などの通信機器に数多く搭載されている。このような高屈折レンズや、コンデンサや共振器は、近年、そのサイズがますます微小化しており、微小化にともない、このようなセラミックス構造体の成形性や加工性が困難になりつつある。
【0003】
従来より、高屈折レンズは、セラミックス原料粉体を融点以上に溶かした後、冷却して結晶育成し、その後、切り出し加工、研磨をすることで製造されている。また、強誘電体材料は、酸化物セラミックス粉体を溶剤などを用いてスラリー化して、得られたスラリーをドクターブレード成形によりシート状に成形後、電極塗布、加圧積層しグリーンチップを得て、得られたグリーンチップを焼成することにより製造されている。あるいは、酸化物セラミックス粉体をスプレードライなどで顆粒化し、得られた顆粒を金型に充填して一軸加圧または等方加圧によって円柱状に成形し、加工、焼成後、研削加工することにより製造されている。
【0004】
上記のように、高屈折レンズや強誘電体材料などとして用いられるセラミックス構造体は、多くの工程を経て作製されるため、製造コストが高くなるという問題がある。そのため、各種セラミックス構造体の製造工程の簡略化および低価格化の試みが検討されており、たとえば、焼結工程を経ることなく、セラミックス構造体を製造する試みがなされている(特許文献1〜4)。
【0005】
特許文献1では、セラミックス微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、回路基板または回路基板上に設置されるチップに向けて吹き付け、これにより、セラミックス微粒子を衝突させて、回路基板またはチップ上に、セラミックス微粒子材料が接合してなる膜状の誘電体共振器を直接形成する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、メカノケミカル的な方法で意図的にセラミックス原料粒子の結晶界面を平均粒径1〜60nm程度まで増加させ、界面に多量のガス種を吸着した粒子を作製し、得られた粒子を用いて焼成を伴わない方法により、成形またはコーティングすることにより、セラミックス構造体を製造する方法が開示されている。
【0007】
特許文献3では、セラミックスなどの原料粒子を型内に充填し機械的圧力を加えつつ加熱、固化させる際に、超音波アクチュエータによる加振力によって被固化物の反応および硬化を促進させ、これによりセラミックス構造体などの各種構造体を製造する方法が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献4では、セラミックスなどの原料粒子を型内に充填し、その上で、メガプレスを用いて数ギガパスカルの高い静的圧力を加え、これにより原料粒子を固化させて、セラミックス構造体などの各種構造体を製造する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、用いるセラミックス原料粒子のうち製品になるのはごく一部であり、大部分が飛散してしまい、原料が無駄になってしまうという問題や、目的とする構造物の厚さが厚くなると、構造が崩れたり、密度が低下するという問題がある。また、特許文献1に記載の方法では、基板と構造体とが一体となった複合構造物を形成する方法であるため、構造体単体を得るためには、基板から構造体を剥離させる工程が別途必要となる。
【0010】
上記特許文献2に記載の方法では、ボールミル等にて原料粒子を粉砕し、これにより原料粒子の表面に酸素をメカノケミカル的に過剰に吸着させている。しかしながら、このようなボールミル等を用いた粉砕は、原料粒子に十分な内部歪を与えるまでのものではないため、相対密度を高くすることができないという問題があった。また、この特許文献2に記載の方法は、爆発衝撃などの大きな機械的衝撃力を付与して構造体を形成させる手法であるため、構造体を形成させる装置系は大きな強度が必要とされ、さらには、衝撃力の付与時間は瞬時であるため圧力付与時間の制御が困難であるという問題があった。
【0011】
また、特許文献3に記載の方法では、原料粒子を調整する段階で、セラミックス等の原料粒子に外的応力を与えておらず、そのため内部応力が少なくなり、得られる構造体の相対密度を十分に高くすることができないという問題があった。
【0012】
さらに、特許文献4に記載の方法では、巨大な静圧プレスや一軸圧縮機および金型を用いるため、製造コストが高くなるという問題がある。また、この文献記載の方法では、円柱状等の単純形状の構造体については製造できるものの、その構成上、薄膜状の構造体や所定パターンを有する構造体を製造することは極めて困難である。
【0013】
【特許文献1】特開2004−23772号公報
【特許文献2】特開2003−112976号公報
【特許文献3】特開2003−145297号公報
【特許文献4】特開2006−43993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、コンデンサの誘電体層、微小レンズまたは微小歯車等に用いられるセラミックス構造体において、焼結工程を経ることなく、しかも、焼結工程を経た場合と同程度の特性および十分に高い相対密度を有するセラミックス構造体を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、0.03〜1.0μmと小さい平均粒径を有するセラミックス原料粒子が、平均粒径が大きいセラミックス粒子と比較して、結晶界面の面積が大きく、そのため界面エネルギーが非常に高いという点に注目して、この点を利用することにより、焼結工程を経ることなく、しかも、焼結工程を経た場合と同程度の特性および十分に高い相対密度を有するセラミックス構造体を得る方法について、鋭意検討を行った。そして、その結果、このような小さい平均粒径を有するセラミックス原料粒子からなる粉末に直接高圧力を負荷すれば、界面エネルギーが非常に高いため、エネルギー的に安定になるように、すなわち、界面エネルギーを減らすように、塑性変形して粒子同士が接着結合するということを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明によれば、平均粒径0.03〜1.0μmのセラミックス原料粒子からなる粉末を、溶媒に分散させて、セラミックス原料粒子スラリーを得る工程と、前記セラミックス原料粒子スラリーを基材上に塗布して、セラミックス原料粒子層を、前記セラミックス原料粒子の平均粒径の1〜10倍の厚みで形成する工程と、前記セラミックス原料粒子層に対して局所静的圧力を加えることにより、前記セラミックス原料粒子層を圧縮する工程と、を有するセラミックス構造体の製造方法が提供される。
【0017】
本発明において、“局所静的圧力を加える”とは、極めて小さな面積に(局所的に)、極めて小さな荷重により静的圧力を加えることを意味する。そして、本発明では、このような微小荷重を微小領域に負荷することによって局所的に高い応力を負荷し、これにより、焼結工程を経ることなく、直接、セラミックス構造体を得ることを特徴とするものである。
【0018】
前記セラミックス原料粒子層に対して加える局所静的圧力を、好ましくは0.5GPa以上、より好ましくは1.0GPa以上とする。
好ましくは、前記セラミックス原料粒子層に対して局所静的圧力を加える際における圧力の印加面積を、5×10−5〜1mmとする。
好ましくは、前記基材が、ガラスまたはガラスの硬さ以上の硬さを有する材料からなる基材である。
【0019】
好ましくは、前記セラミックス原料粒子スラリー中における、前記セラミックス原料粒子の含有比率を0.5〜20体積%とする。
前記セラミックス原料粒子は、好ましくは、1種または2種以上の原料から構成されてなり、より好ましくは、チタン酸バリウムまたはチタン酸ストロンチウムを少なくとも含む。
好ましくは、前記基材上に塗布した前記セラミックス原料粒子スラリーを、室温で乾燥することにより、前記セラミックス原料粒子層を形成する。
【0020】
前記セラミックス原料粒子層に対して局所静的圧力は、好ましくは、点状または線状に加圧する加圧手段、より好ましくは、凹凸面付き圧子、円錐台圧子またはローラーを備える加圧手段、さらに好ましくは、ダイヤモンド製の円錐台圧子からなる加圧手段により加える。
【0021】
本発明に係るセラミックス構造体としては、特に限定されず、平面状としてもよいし、あるいは、基板上に所定パターンで形成し、所定の回路を構成する回路形状を有する基板と一体型の構造体としてもよい。
本発明に係るセラミックス構造体を平面状とする場合には、前記セラミックス原料粒子層を平面状に形成し、平面状の前記セラミックス原料粒子層に対して、前記ローラーにより連続的に局所静的圧力を加えることが好ましい。
あるいは、本発明に係るセラミックス構造体を所定パターンで形成する場合には、前記セラミックス原料粒子スラリーを、所定パターンで基材上に塗布することにより、前記セラミックス原料粒子層を所定パターンで形成することが好ましい。
【0022】
また、本発明によれば、上記いずれかの方法により製造されるセラミックス構造体が提供される。
本発明に係るセラミックス構造体は、好ましくは、層厚みが4μm以下であり、相対密度が80%以上である。本発明に係るセラミックス構造体は、上記いずれかの方法により製造されるものであるため、十分に高い相対密度、具体的には、焼結により製造したセラミックス焼結体と同等程度の相対密度を実現することができる。
【0023】
本発明に係るセラミックス構造体は、好ましくは、コンデンサの誘電体層、微小レンズまたは微小歯車として用いられる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、セラミックス構造体を製造するに際し、0.03〜1.0μmと比較的に小さな平均粒径を有するセラミックス原料粒子を用い、このセラミックス原料粒子から構成され、セラミックス原料粒子の平均粒径の1〜10倍の厚みを有するセラミックス原料粒子層に対して、局所静的圧力を加えるという方法を採用している。そして、このような所定の厚みに制御されたセラミックス原料粒子層に対して局所静的圧力を加えることにより、セラミックス原料粒子を塑性変形させ粒子同士を結着結合させることができ、これにより、焼結工程を経ることなく、しかも焼結工程を経た場合と同程度の特性および十分に高い相対密度を有するセラミックス構造体を得ることができる。特に、本発明によれば、局所静的圧力を加える前のセラミック原料粒子層の厚みを上記所定範囲に制御することにより、局所静的圧力を加えた際における、セラミックス原料粒子の塑性変形を均一なものとすることができ、その結果、得られるセラミック構造体を信頼性の高いものとすることができる。
【0025】
また、本発明の製造方法によれば、従来のセラミックス構造体の製造方法と比較して、焼結工程を経る必要がないことに加え、その製造工程が極めて簡略化されたものであるため、大量生産が可能であることに加え、低コスト化を実現することができる。特に、本発明の製造方法によれば、従来のセラミックス焼結体と比較して、高温での熱処理も必要とせず、室温での大量生産が可能であるため、低環境負荷を実現することができる。加えて、本発明の製造方法では、大型プレス機、特殊金型、真空チャンバーなどを用いる必要もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明に係るセラミックス構造体は、平均粒径0.03〜1.0μmのセラミックス原料粒子からなる粉末を、溶媒に分散させて、セラミックス原料粒子スラリーを得て、得られたセラミックス原料粒子スラリーを基材上に塗布して、セラミックス原料粒子層を、前記セラミックス原料粒子の平均粒径の1〜10倍の厚みで形成し、基材上に形成したセラミックス原料粒子層に対して局所静的圧力を加え、セラミックス原料粒子層を圧縮することにより製造される。
以下、本発明に係るセラミックス構造体の製造方法について、具体的に説明する。
【0027】
まず、セラミックス原料粒子を準備する。セラミックス原料粒子を構成するセラミックス材料としては、製造するセラミックス構造体の種類に応じて、適宜選択して用いれば良い。また、セラミックス材料としては、1種だけでなく、2種以上の材料を混合して用いてもよい。このようなセラミックス材料としては、一般式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する高誘電率材料や、アルミナ、イットリア、YAG(イットリウム・アルミニウムガーネット)、石英などの透光性の材料などが挙げられる。本発明においては、高誘電率材料としては、チタン酸バリウムまたはチタン酸ストロンチウムが特に好ましく用いられる。
【0028】
また、セラミックス原料粒子としては、平均粒径が0.03〜1.0μm、特に0.05〜0.5μmのものが好ましい。セラミックス原料粒子の平均粒径が小さ過ぎると、スラリー化する際に、水や溶剤への分散性が悪化し、スラリーの調製が困難となり、さらには、セラミックス原料粒子層を均一な厚みで形成することが困難となる。一方、平均粒径が大き過ぎると、局所静的圧力を加えた際にセラミックス粒子が流動し、圧力の印加から逃れてしまい、加圧圧縮できなくなる。なお、本発明において、セラミックス原料粒子の平均粒径は、一次粒子の粒子径を平均したものであり、たとえば、SEM法などにより測定することができる。
【0029】
次いで、上記にて準備したセラミックス原料粒子からなる粉末を、水、または有機溶剤に分散させて、セラミックス原料粒子スラリーを調製する。有機溶剤としては特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類の他、アセトン、メチルエチルケトン、トルエンなどが挙げられる。
【0030】
セラミックス原料粒子スラリー中における、セラミックス原料粒子からなる粉末の含有比率は、スラリー全体を100体積%とした場合に、好ましくは0.5〜20体積%であり、より好ましくは1〜5体積%である。セラミックス原料粒子からなる粉末の含有比率が低過ぎると、スラリー粘度が低くなり過ぎてしまい、基材上への塗布が困難となる。一方、含有比率が高過ぎると、得られるセラミックス原料粒子層の薄層化が困難となることに加え、その厚みが不均一となる傾向にある。
【0031】
セラミックス原料粒子からなる粉末を、水または有機溶剤中へ分散させ、スラリー化する方法としては、セラミックス原料粒子からなる粉末を均一に分散できる方法であればよく、特に限定されないが、超音波分散による方法や、ボールミルによる方法などが挙げられる。
【0032】
次いで、上記にて調製したセラミックス原料粒子スラリーを、基材上に塗布し、必要に応じて乾燥させることによりセラミックス原料粒子層を形成する。セラミックス原料粒子スラリーの塗布方法としては、均一に塗布できる方法であれば何でもよく特に限定されないが、たとえば、スピンコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、表面張力による均一乾燥による方法などが挙げられる。なお、セラミックス原料粒子スラリーを塗布した後に、乾燥を行う場合には、室温にて乾燥を行うことが好ましい。
【0033】
本発明において、セラミックス原料粒子層を形成する際には、最終的に得られるセラミックス構造体に対応する形状で形成しておくことが望ましい。すなわち、最終的に得られるセラミックス構造体を平面状とする場合には、セラミックス原料粒子層も平面状としておけばよい。
【0034】
あるいは、最終的に得られるセラミックス構造体を、所定パターンを有する回路形状とする場合には、所定パターンでセラミックス原料粒子層を形成すればよい。この場合においては、基材として回路基板を用い、回路基板上に、直接、所定パターンでセラミックス原料粒子層を形成することが製造効率の観点より好ましい。なお、セラミックス構造体を、所定パターンを有する回路形状とする場合には、複数のセラミックス材料を用い、複数のパターンを形成することで、複数のデバイスを回路に組み込むことも可能となる。
【0035】
本発明においては、乾燥後のセラミックス原料粒子層の厚み(単位は、μm)を、セラミックス原料粒子の平均粒径(単位は、μm)の1〜10倍、好ましくは3〜10倍とする。すなわち、セラミックス原料粒子層の厚さは、セラミックス原料粒子の層が1層程度から十数層となる範囲とすることが好ましく、たとえば、セラミックス原料粒子として、平均粒径が0.5μmのものを用いた場合には、セラミックス原料粒子層の厚みは0.5〜5μmとする。乾燥後のセラミックス原料粒子層の厚みをこのような範囲とすることにより、局所静的圧力により加圧した場合における、セラミックス原料粒子の塑性変形を均一なものとすることができる。
【0036】
セラミックス原料粒子層の厚みが薄すぎると、局所静的圧力を加えた際における、セラミックス原料粒子間の接触面積が減少するため、セラミックス原料粒子同士の結着接合が不十分となる。一方、セラミックス原料粒子層の厚みが厚すぎると、セラミックス原料粒子間の摩擦が大きくなり、局所静的圧力の印加による応力が摩擦力で相殺されてしまい、セラミックス原料粒子層の厚さ方向に均一に伝わらなくなる。
【0037】
セラミックス原料粒子スラリーを塗布するための基材としては、ガラスあるいは、ガラスの硬さ以上の硬さを有する材料からなる基材(たとえば、セラミックス基材)などを用いることができる。
【0038】
次いで、基材上に形成したセラミックス原料粒子層に対して、局所静的圧力を加え、セラミックス原料粒子層を加圧圧縮する。セラミックス原料粒子層に加える局所静的圧力は、0.5GPa以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0GPa以上、さらに好ましくは2.0GPa以上である。局所静的圧力が小さ過ぎると、セラミックス原料粒子同士の結着接合が不十分となる。
【0039】
なお、本発明において、“局所静的圧力”とは、極めて小さな面積に(局所的に)、極めて小さな荷重により静的圧力を加えることを意味し、本発明では、局所静的圧力は、好ましくは5×10−5〜1mm、特に5×10−5〜5×10−1mmの範囲に対して静的圧力を加えることが好ましい。静的圧力を局所的に印加するという構成を採用することにより、数kg重程度の小さい荷重で、より高い圧力をセラミックス原料粒子層に対して加えることができ、そのため、圧縮に要する設備の小型、簡略化が可能となり、低コスト化を図ることができる。
【0040】
なお、局所静的圧力を加える際の雰囲気は、常圧または減圧下とすることが好ましい。
【0041】
セラミックス原料粒子層に対して、局所静的圧力を加える方法としては、特に限定されず、上記にて形成したセラミックス原料粒子層の形状および最終的に得られるセラミックス構造体の形状にあわせて、適宜選択すればよく、凹凸面付き圧子、円錐台圧子またはローラーを備えるものなどを用いることができる。なお、円錐台圧子としては、ダイヤモンド製のものを用いることが好ましい。さらに、本発明では、数kg重程度の小さい荷重で加圧すれば十分であるため、通常用いられているプレス機に凹凸面付き圧子や円錐台圧子を装着し、これを用いて局所静的圧力を加えればよい。
【0042】
たとえば、上記にて形成したセラミックス原料粒子層の形状を平面円形状とした場合には、ダイヤモンド円錐台圧子にて局所静的圧力を加えることにより、円盤状のセラミックス構造体を得ることができる。なお、この場合において、局所静的圧力を印加する面積よりも大きな面積を有するセラミックス構造体を製造する場合には、所望の面積に応じて、ダイヤモンド円錐台圧子による局所静的圧力による加圧を、連続して複数回加えれば良い。同様に、セラミックス構造体を、所定パターンを有する回路形状とする場合にも、ダイヤモンド円錐台圧子による局所静的圧力による加圧を、所定パターンにあわせて、連続して複数回加えれば良い。
【0043】
また、表面に凹凸を有するセラミックス構造体を得たい場合には、凹凸面付き圧子にて局所静的圧力を加える方法を用いることができる。
【0044】
さらには、凹凸面付き圧子を歯車型のものとすることにより、歯車型のセラミックス構造体を得ることができるし、セラミックス原料粒子スラリーを塗布する基材として凹部を有する基材を用い、これに球面状の圧子を用いて局所静的圧力を加えることにより、レンズ状のセラミックス構造体を得ることもできる。
【0045】
あるいは、円錐台圧子または凹凸面付き圧子の代わりに、ローラーを用いれば、セラミックス原料粒子層と接触する部分を線上とすることができるため、ローラーを回転させながら線上に局所的に連続的に応力を負荷することにより、広い面積を有する平面状のセラミックス構造体を効率的に得ることができる。
【0046】
以上のようにして本発明のセラミックス構造体は製造される。
本発明のセラミックス構造体は、セラミックス原料粒子層に局所静的圧力を加えることにより製造されるものであるため、焼結工程を経ることなく、焼結工程を経た場合と同程度の特性および十分に高い相対密度を有するものとすることができる。具体的には、相対密度を80%以上とすることができる。また、層厚みについても、4μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下と薄層化することができる。そして、このような本発明のセラミックス構造体は、コンデンサの誘電体層、微小レンズまたは微小歯車として好適に用いることができる。なお、本発明のセラミックス構造体において、通常、厚みの下限は用いるセラミックス原料粒子の粒径と同程度である。
【0047】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0049】
実施例1
まず、セラミックス原料粒子として、平均粒径が0.3μmであるチタン酸バリウム粒子からなる粉末を準備した。そして、溶剤としてのイソプロピルアルコール中に、チタン酸バリウム粒子からなる粉末を分散させることにより、チタン酸バリウム粒子のスラリー(5体積%)を調製した。なお、分散は、超音波を用いて行った。
【0050】
次いで、得られたチタン酸バリウム粒子のスラリーを、ガラス基板上に均一に塗布し、室温で乾燥させることにより、チタン酸バリウム粒子層を形成した。本実施例では、表面張力による均一乾燥方法によりスラリーを塗布し、乾燥後のチタン酸バリウム粒子層の厚みは2.0μmであった。
【0051】
そして、チタン酸バリウム粒子層に対して、直径50μmの円錐台ダイヤモンド圧子を接着した微小硬度計を用いて、局所静的圧力を印加した。本実施例では、それぞれ、0.2kg、0.5kg、1.0kgの条件で荷重を負荷することにより、それぞれ1.0GPa、2.5GPa、5.0GPaの各圧力で加圧を行い、加圧力を変化させた直径50μmのチタン酸バリウム構造体のサンプルを得た。なお、局所静的圧力の印加時間は、15秒とした。
【0052】
得られた各チタン酸バリウム構造体について、レーザー顕微鏡を用いて厚みを計測したところ、1.0GPa、2.5GPa、5.0GPaの各圧力で加圧を行ったいずれの試料も、均一な厚さとなっていた。
【0053】
また、得られた各チタン酸バリウム構造体について、以下の方法に従い相対輝度を測定した。
すなわち、まず、各チタン酸バリウム構造体について、光学顕微鏡の透過光モードでの写真を撮影した。そして、得られた写真について、画像解析ソフトを用いて、ピクセル毎の輝度をチタン酸バリウム構造体試料全体について求め、基板であるガラスの部分の輝度を1とした場合における、各ピクセルの輝度を求め、これを平均することにより相対輝度を測定した。結果を表1に示す。なお、試料厚みが同じである場合には、相対密度が高いほど、試料内部の気孔が少なくなり、内部の気孔に起因する光の散乱が抑えられると考えられる。そのため、相対密度が高いほど、相対輝度は高くなるものと判断できる。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、局所静的圧力を大きくしていくと、相対輝度は高くなる結果となり、セラミックス構造体として望ましいものとなる結果となった。特に、本実施例においては、局所静的圧力を1.0GPa、2.5GPa、5.0GPaとした試料のいずれも、十分に高い相対輝度を示し、これらの試料は、いずれも相対密度が80%以上となっていると考えられる。
また、図1(A)、図2(A)に、局所静的圧力を加える前のセラミックス原料粒子層のSEM写真を、図1(B)、図2(B)に、5.0GPaの局所静的圧力を加えた後のセラミックス構造体のSEM写真をそれぞれ示す。図1(B)、図2(B)より明らかなように、局所静的圧力を加えることにより、セラミックス原料粒子同士が結着結合することが確認できる。
【0056】
実施例2
セラミックス原料粒子として、平均粒径が0.5μmであるチタン酸バリウム粒子からなる粉末を使用した以外は、実施例1と同様にして、加圧力を1.0GPa、2.5GPa、5.0GPaの各圧力としたチタン酸バリウム構造体のサンプルを作製した。そして、得られた各チタン酸バリウム構造体について、レーザー顕微鏡を用いて厚みを計測したところ、1.0GPa、2.5GPa、5.0GPaの各圧力で加圧を行ったいずれの試料も、均一な厚さとなっていた。また、実施例1と同様に、各チタン酸バリウム構造体について、相対輝度を測定した結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2より、セラミックス原料粒子として、平均粒径が0.5μmであるチタン酸バリウム粒子からなる粉末を使用した場合にも、同様の結果となることが確認できた。
【0059】
実施例3
セラミックス原料粒子として、平均粒径が0.3μmであるチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末を使用した以外は、実施例1と同様にして、加圧力を1.0GPa、2.5GPa、5.0GPaの各圧力としたチタン酸ストロンチウム構造体のサンプルを作製した。そして、得られた各チタン酸ストロンチウム構造体について、レーザー顕微鏡を用いて厚みを計測したところ、1.0GPa、2.5GPa、5.0GPaの各圧力で加圧を行ったいずれの試料も、均一な厚さとなっていた。また、実施例1と同様に、各チタン酸ストロンチウム構造体について、相対輝度を測定したところ、実施例1に係るチタン酸バリウム構造体とほぼ同様の結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1(A)は局所静的圧力を加える前のセラミックス原料粒子層のSEM写真、図1(B)は局所静的圧力を加えた後のセラミックス構造体のSEM写真である。
【図2】図2(A)は局所静的圧力を加える前のセラミックス原料粒子層のSEM写真、図2(B)は局所静的圧力を加えた後のセラミックス構造体のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径0.03〜1.0μmのセラミックス原料粒子からなる粉末を、溶媒に分散させて、セラミックス原料粒子スラリーを得る工程と、
前記セラミックス原料粒子スラリーを基材上に塗布して、セラミックス原料粒子層を、前記セラミックス原料粒子の平均粒径の1〜10倍の厚みで形成する工程と、
前記セラミックス原料粒子層に対して局所静的圧力を加えることにより、前記セラミックス原料粒子層を圧縮する工程と、
を有するセラミックス構造体の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス原料粒子層に対して加える局所静的圧力を0.5GPa以上とする請求項1に記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックス原料粒子層に対して局所静的圧力を加える際における圧力の印加面積を、5×10−5〜1mmとする請求項1または2に記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項4】
前記基材が、ガラスまたはガラスの硬さ以上の硬さを有する材料からなる基材である請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックス原料粒子スラリー中における、前記セラミックス原料粒子の含有比率を0.5〜20体積%とする請求項1〜4のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス原料粒子は、1種または2種以上の原料から構成されてなる請求項1〜5のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項7】
前記セラミックス原料粒子は、チタン酸バリウムまたはチタン酸ストロンチウムを少なくとも含む請求項1〜6のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項8】
前記基材上に塗布した前記セラミックス原料粒子スラリーを、室温で乾燥することにより、前記セラミックス原料粒子層を形成する請求項1〜7のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項9】
点状または線状に加圧する加圧手段により、前記セラミックス原料粒子層に対して局所静的圧力を加える請求項1〜8のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項10】
前記加圧手段は、凹凸面付き圧子、円錐台圧子またはローラーを備えるものである請求項9に記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項11】
前記加圧手段は、ダイヤモンド製の円錐台圧子からなる請求項10に記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項12】
前記セラミックス原料粒子層を平面状に形成し、平面状の前記セラミックス原料粒子層に対して、前記ローラーにより連続的に局所静的圧力を加える請求項10に記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項13】
前記セラミックス原料粒子スラリーを、所定パターンで基材上に塗布することにより、前記セラミックス原料粒子層を所定パターンで形成する請求項1〜12のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法により得られるセラミックス構造体。
【請求項15】
前記セラミックス構造体は、層厚みが4μm以下であり、相対密度が80%以上である請求項14に記載のセラミックス構造体。
【請求項16】
前記セラミックス構造体は、コンデンサの誘電体層、微小レンズまたは微小歯車である請求項14または15に記載のセラミックス構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−29648(P2009−29648A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193668(P2007−193668)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】