説明

セラミックス製部品の製造方法

【課題】セラミックス製部品を容易にかつ迅速に、しかも低い製造コストで得ることができる、セラミックス製部品の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化ケイ素またはジルコニアを含有するセラミックス材料を成形し、焼結した中間素材13の少なくとも研削加工を施す部分を超臨界水または亜臨界水に浸漬させ、当該部分を脆くする。浸漬後の中間素材13の前記研削取代を有する部分に研削加工を施す。
これにより、転動面に研削加工が施されたセラミックス製の玉10を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス製部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温下や腐食雰囲気下で使用される転がり軸受に用いられる部品は、腐食などにより品質劣化を生じるため、比較的短寿命である。そこで、かかる部品を、耐食性、耐熱性、耐摩耗性などに優れる窒化ケイ素やジルコニアを含有するセラミックスによって形成することが試みられている。
【0003】
例えば、転がり軸受としての玉軸受の部品である玉をセラミックスによって形成する場合、セラミックス原料をプレス成形用型に充填し、プレス成形することにより、セラミックス成形体を得、このセラミックス成形体を焼結し、得られた焼結体に仕上げ加工としての研削加工を施すことにより、当該玉を製造する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、セラミックス製の玉の製造時には、表面およびその近傍にガスが抜けた穴が生じることがある。前記穴などの欠陥が玉に残っている場合、当該玉は、早期に、かつ軽荷重負荷条件下で予期せぬ損傷が生じることがある。
研削加工を行なった完成品の玉にこのような欠陥が残存することを抑制するために、研削加工を行なう際の研削取代を大きくすることが行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−337386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セラミックスは、軸受鋼などの金属材料に比べて硬く、研削し難いため、研削取代を大きくした場合、研削加工に手間がかかり、製造コストが高くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、セラミックス製部品の研削加工を容易にかつ迅速に行なうことができる、セラミックス製部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセラミックス製部品の製造方法は、セラミックス製の母材の所定部分に研削加工が施されているセラミックス製部品の製造方法であって、
窒化ケイ素またはジルコニアを含有するセラミックス材料を成形し、焼結した中間素材の少なくとも研削加工を施す部分を超臨界水または亜臨界水に浸漬させる工程、および
浸漬後の中間素材の前記研削取代を有する部分に研削加工を施す工程
をこの順に含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のセラミックス製部品の製造方法では、セラミックス製の中間素材の少なくとも前記研削加工を施す部分を、超臨界水または亜臨界水に浸漬させるので、当該研削加工を施す部分の機械的特性が、超臨界水または亜臨界水中で引き起こされる化学反応や結晶構造の変化によって著しく低下し、脆くなる。なお、窒化ケイ素の場合は、超臨界水または亜臨界水との化学反応により、水酸化ケイ素、酸化ケイ素およびアンモニアが生成する。このとき、前記中間素材では、表面から超臨界水または亜臨界水が浸透した部分で水酸化ケイ素や酸化ケイ素が生じて脆くなる。
また、ジルコニアの場合は、正方晶の結晶が、超臨界水または亜臨界水により、単斜晶に相転移する。このとき、前記中間素材では、表面から超臨界水または亜臨界水が浸透した部分で体積が膨脹して脆くなる。
そのため、前記研削加工を容易にかつ迅速に行なうことができる。
【0010】
本発明のセラミックス製部品の製造方法では、前記セラミックス製部品が、転がり軸受の軌道部材に対して転がり接触する転動面を有する転動部材であり、前記研削加工を施す部分が少なくとも転動面であってもよい。この場合、転動面の研削加工を容易にかつ迅速に行なうことができるので、転動部材の製造コストを安くすることができる。前記転動部材は、玉であってもよく、ころであってもよい。玉の場合、前記研削加工を施す部分は、全表面である。ころの場合、前記研削加工を施す部分は、全表面であってもよく、転動面のみであってもよい。
また、本発明のセラミックス製部品の製造方法では、前記セラミックス製部品が、転動部材が転がり接触する軌道面を有する転がり軸受の軌道部材であり、前記研削加工を施す部分が少なくとも軌道面であってもよい。この場合、軌道面の研削加工を容易にかつ迅速に行なうことができるので、軌道部材の製造コストを安くすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセラミックス製部品の製造方法は、セラミックス製部品の研削加工を容易にかつ迅速に行なうことができるので、当該部品の製造コストを安くすることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るセラミックス製部品である玉の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るセラミックス製部品である転がり軸受の内輪の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔セラミックス製部品の製造方法〕
(1)玉の製造方法
以下、添付の図面により本発明の一実施形態に係るセラミックス製部品の製造方法を説明する。まず、セラミックス製部品の例として、転がり軸受(玉軸受)に用いられる転動部材である玉を挙げて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るセラミックス製部品である玉の製造方法を示す工程図である。
【0014】
玉10の中間素材13の形成方法には、周知の方法が利用できる。
例えば、まず、玉10を成形する金型21の下型21aと円筒型21bとで形成される空間に、窒化ケイ素を含有する粉体のセラミックス材料11を充填し(図1(a))、その後、上型21cを下方に移動させて、当該セラミック材料11を加圧圧縮して球状の形状の圧粉体12を形成する(図1(b−1)、「加圧圧縮工程」)。
玉10の成形用の金型21は、下型21aと円筒型21bと上型21cとから構成されている。この金型21は、成形工程に際して、下型21aと円筒型21bと上型21cとによって、圧粉体12を成形するための空洞部を形成するようになっている。下型21aおよび上型21cの加圧面中央部は、略半球形の凹面となっている。
これによって、研削加工を施す部分(転動面)に研削取代を有する、球状部12aと余剰のセラミックス材料11がはみ出した帯状部12bとからなる圧粉体12を得る。
その後、圧粉体12に冷間静水圧加圧(Cold Isostatic Pressing、以下、「CIP」という)処理を施す(図1(b−2)、「CIP工程」)。
前記CIPには、球状の圧粉体12を袋内に密封して水中に浸漬し、水を加圧することで等方的な圧力を付与して密化して成形体を得る方法や、球状の圧粉体12をゴムの型に嵌め込み、密封して水中に浸漬し、水を加圧することで等方的な圧力を付与して密化して成形体を得る方法などがある。
なお、加圧圧縮工程と、CIP工程との間、またはCIP工程後に、帯状部12bを除去する場合もある。
これら加圧圧縮工程およびCIP工程を成形工程ともいう(図1(b))。
【0015】
前記加圧圧縮工程において、セラミックス材料11を加圧する際の圧力は、通常、20MPa以下である。また、CIP工程において、圧粉体12にCIP処理を施す際の圧力は、通常50〜300MPaであり、この圧力を圧粉体12に等方的に付与する。
【0016】
つぎに、前記成形工程後に得られた成形体12を窒素ガス雰囲気下で脱脂し(図1(c)、「脱脂工程」)、焼結して、玉の中間素材13を得る(図1(d)、「焼結工程」)。中間素材13は、研削加工を施す部分(転動面)に研削取代を有する、球状部13aと帯状部13bとからなる。
かかる焼結工程において、焼結温度は、通常、窒化ケイ素の場合、1600〜1800℃であり、ジルコニアの場合、1300〜1600℃である。焼結は、常圧焼結であってもよいが、熱間静水圧加圧(Hot Isostatic Pressing、以下、「HIP」という)処理であることが好ましい。かかるHIP処理において、圧粉体12にHIP処理を施す際の温度は、前記焼結温度と同様であり、圧力は、通常80〜200MPa程度である。なお、常圧とは、1013250Pa未満をいう。
【0017】
つぎに、中間素材13を超臨界水32に浸漬させる(図1(e)、浸漬工程)。
この浸漬工程では、圧力容器31内の水に中間素材13を浸漬させ、この圧力容器31内を、374℃以上の温度で、かつ22.1MPa以上の圧力の状態(以下、「超臨界状態」という)に保つ。
このとき、圧力容器31内の水は、前記超臨界状態において、液体でもなく、蒸気でもない均一な流体である超臨界水となっている。
これにより、中間素材13における超臨界水32との接触部(すなわち、表面)では、超臨界水によって、化学反応や結晶構造の変化が引き起こされる。そのため、中間素材13の表面における機械的特性が、著しく低下し、脆くなる。
超臨界水32への中間素材13の浸漬時間は、研削取代の大きさなどに応じて、適宜設定することができる。この際、研削取代の表面から最も深い部分に超臨界水が浸透しないようにし、脆くない研磨取代を残すことが好ましい。
【0018】
なお、超臨界水32は、例えば、圧力容器31内の状態を、超臨界状態から常温常圧状態に変えることにより、液体の状態となる。このとき、常温常圧状態の水は、セラミックスからなる母材の表面において、化学反応や結晶構造の変化を引き起こさないため、機械的特性の低下が止まる。
このように、前記超臨界水32による超臨界反応により引き起こされるセラミックスにおける化学反応や結晶構造の変化は、圧力容器31内の状態を超臨界状態から常温常圧状態に変えることによって、容易に制御することができる。そのため、浸漬工程では、例えば、アルカリ剤などによりセラミックスを腐食させる場合のように、セラミックスの表面に残留したアルカリ剤に起因する不要なセラミックスの腐食の進行が生じない。したがって、本実施形態に係るセラミックス製部品の製造方法によれば、得られる玉10の品質のばらつきを抑えることができ、安定した品質の玉10を得ることができる。
【0019】
つぎに、浸漬後の中間素材13の研削取代を有する部分に研削加工を施して(図1(f)、研削加工工程)、所定形状の玉10を得る(図1(g))。
図1(g)に示される研削加工工程では、砥石からなる回転盤41aと鋳物からなる固定盤41bとの間に、浸漬後の中間素材13を挟み、当該中間素材13に圧力をかけながら、回転盤41aを回動させることによって、研削取代を除去する。
本研削加工工程では、前記浸漬工程によって中間素材13の表面を脆くしているので、研削取代を有する部分への研削加工を容易にかつ迅速に行なうことができる。したがって、玉10の製造コストを安くすることができる。
【0020】
(2)転がり軸受の内輪の製造方法
つぎに、セラミックス製部品の例として、転がり軸受(玉軸受)に用いられる軌道部材である内輪を挙げて説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るセラミックス製部品である内輪の製造方法を示す工程図である。
【0021】
まず、内輪50を成形する金型61の下型61aと円筒型61bとコアピン61dとで形成される空間に、窒化ケイ素を含有する粉体のセラミックス材料51を充填し(図2(a))、その後、上型61cを下方に移動させて、当該セラミック材料51を加圧圧縮して、円筒状の形状の圧粉体52を形成する。
内輪50の成形用の金型61は、下型61aと円筒型61bと上型61cとコアピン61dとから構成されている。この金型61は、成形工程に際して、下型61aと円筒型61bと上型61cとコアピン61dとによって、圧粉体52を成形するための空洞部を形成するようになっている。
これにより、研削加工を施す部分(軌道面)に研削取代を有する圧粉体52を得る(図2(b−1)、「加圧圧縮工程」)。
その後、圧粉体52にCIP処理を施す(図2(b−2)、「CIP工程」)。
前記CIPには、円筒状の圧粉体52を袋内に密封して水中に浸漬し、水を加圧することで等方的な圧力を付与して密化して成形体を得る方法や、円筒状の圧粉体52をゴムの型に嵌め込み、密封して水中に浸漬し、水を加圧することで等方的な圧力を付与して密化して成形体を得る方法などがある。
これら加圧圧縮工程およびCIP工程を成形工程ともいう(図2(b))。
【0022】
前記加圧圧縮工程において、セラミックス材料51を加圧する際の圧力は、通常、20MPa以下である。また、CIP工程において、圧粉体52にCIP処理を施す際の圧力は、通常50〜300MPaであり、この圧力を圧粉体52に等方的に付与する。
【0023】
つぎに、前記成形工程後に得られた圧粉体52を窒素ガス雰囲気下で脱脂して(図2(c)、「脱脂工程」)、焼結し、研削加工を施す部分(軌道面、内周面、端面)に研削取代を有する焼結体である環状の中間素材53を得る(図2(d)、焼結工程)。
かかる焼結工程において、焼結温度は、通常、窒化ケイ素の場合、1600〜1800℃であり、ジルコニアの場合、1300〜1600℃である。焼結は、常圧焼結であってもよいが、HIP処理であることが好ましい。かかるHIP処理において、圧粉体52にHIP処理を施す際の温度は、前記焼結温度と同様であり、圧力は、通常80〜200MPa程度である。
【0024】
その後、中間素材53を超臨界水32に浸漬させる(図2(e)、浸漬工程)。
本浸漬工程は、前記玉の製造方法における浸漬工程と同様にして行なうことができる。これにより、中間素材53における超臨界水32との接触部(すなわち、表面)における機械的特性が、著しく低下し、脆くなる。
超臨界水32への中間素材53の浸漬時間は、研削取代の大きさなどに応じて、適宜設定することができる。例えば、研削取代が最も小さい部分に対しても、研削加工後に表面となる位置の深さにまでは超臨界水が浸透しないように、浸漬時間を調整することで、研削後の表面に脆い部分が残ることを確実に抑制する。
【0025】
つぎに、浸漬後の中間素材53の研削取代を有する部分に研削加工を施して(図2(f)、研削加工工程)、軌道面71a、端面71bおよび内周面71cに研削加工が施された所定形状の内輪50を得る(図2(g))。
本研削加工工程では、前記浸漬工程によって中間素材53の表面を脆くしているので、研削取代を有する部分への研削加工を容易にかつ迅速に行なうことができる。したがって、内輪50の製造コストを安くすることができる。
【0026】
〔変形例〕
本発明においては、超臨界水32に代えて、亜臨界水を用いることができる。ここで、「亜臨界水」とは、温度374℃および圧力22.1MPaの臨界点において、温度および圧力のいずれかが、臨界点の場合よりも低いものとなっている状態(以下、「亜臨界状態」という)の水をいう。亜臨界水としては、具体的には、温度が374℃未満(例えば、200〜280℃)で、かつ圧力が22.1MPa以上の状態の水や、温度が374℃以上で、かつ圧力が22.1MPa未満(例えば、10〜20MPa)以上の状態の水が挙げられる。このように、亜臨界水を用いた場合にも、亜臨界水によるによる水熱反応により引き起こされるセラミックスにおける化学反応や結晶構造の変化によって、中間素材13の表面および中間素材53の表面の機械的特性が、著しく低下し、脆くなる。
これにより、次工程以降の研削加工が容易になる。
亜臨界水への中間素材13および中間素材53それぞれの浸漬時間は、研削取代の大きさなどに応じて、適宜設定することができる。例えば、研削取代が最も小さい部分に対しても、研削加工後に表面となる位置の深さにまでは亜臨界水が浸透しないように、浸漬時間を調整することで、研削後の表面に脆い部分が残ることを確実に抑制する。
【0027】
また、本発明においては、窒化ケイ素を含有するセラミックス材料に代えて、ジルコニアを含有するセラミックス材料を用いてもよい。
また、ジルコニアを含有するセラミック材料を用いる場合、その成形工程では、公知の成形方法を採用することができる。
【0028】
本発明においては、図2に示される内輪50の場合と同様の操作を行なうことにより、外輪を製造することができる。
【符号の説明】
【0029】
10 玉、10a 転動面、11 セラミックス材料、13 中間素材、32 超臨界水、50 内輪、51 セラミックス材料、53 中間素材、71a 軌道面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス製の母材の所定部分に研削加工が施されているセラミックス製部品の製造方法であって、
窒化ケイ素またはジルコニアを含有するセラミックス材料を成形し、焼結した中間素材の少なくとも研削加工を施す部分を超臨界水または亜臨界水に浸漬させる工程、および
浸漬後の中間素材の前記研削取代を有する部分に研削加工を施す工程
をこの順に含むことを特徴とするセラミックス製部品の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス製部品が、転がり軸受の軌道部材に対して転がり接触する転動面を有する転動部材であり、
前記研削加工を施す部分が少なくとも転動面である、請求項1に記載のセラミックス製部品の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックス製部品が、転動部材が転がり接触する軌道面を有する転がり軸受の軌道部材であり、
前記研削加工を施す部分が少なくとも軌道面である、請求項1に記載のセラミックス製部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−131295(P2011−131295A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291072(P2009−291072)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】