説明

セラミック製フェルールとその製造方法

【課題】内孔の研磨加工の生産性向上が図れ、機械的強度も確保されたセラミック製フェルールを提供する。
【解決手段】セラミック製フェルール1は、筒状であって、一端2から他端3にかけて光ファイバが保持される内孔4が形成されている。そして、外周面6側のセラミック密度が内孔4の内周面7側のセラミック密度より大きくなるように一体焼結されている。緻密な外周面6側セラミックスによって機械的強度が確保されるとともに、内孔4の内周面7の研磨加工が容易なセラミック製フェルール1を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを保持するセラミック製フェルールとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信において、光ファイバ同士を結合させるため、光ファイバを保持するフェルールが用いられている。このフェルールの中でセラミック製のフェルールは、機械的、化学的、熱的性質に優れていることから、広く用いられるようになった。
【0003】
従来のセラミック製フェルール21は、図4(a)及び図4(b)に示すように、一端から他端にかけて光ファイバが保持される内孔22が形成され、該内孔22の他端側開口部には光ファイバを内孔22内に導くコーン部23を備えた円筒状構造になっていた(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
従来のセラミック製フェルール21は、外周表面部分および内孔22内に研磨加工が施される。外周表面部分は、ダイヤモンド砥石を用いて研削加工を行なうことができ、比較的時間をかけずに加工が可能である。しかし、内孔22の研磨加工は、焼結品の内孔22にダイヤモンド砥粒を付着させたワイヤを通して、内孔22の長手方向に前後させて研磨する方法を用いており、非常に時間のかかる工程となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−262267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、図4(a)及び図4(b)に示す従来のセラミック製フェルール21は、一様に緻密な焼結体構造となっていることにより、機械的な強度は十分に満足できるものの、高寸法精度に加工するには加工に時間を要し、それにより生産性が低下してコストを高騰させる要因となっていた。
【0007】
したがって、本発明は上記問題点に鑑み案出されたものであり、研磨加工の生産性向上を図れるセラミック製フェルールおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のセラミック製フェルールは、一端から他端にかけて光ファイバが保持される内孔が形成され、該内孔の他端側開口部に光ファイバを前記内孔内に導くコーン部を備えた筒状のセラミック製フェルールであって、外周面側のセラミック密度がその内側のセラミック密度より大きくなるようにされていることを特徴とする。
【0009】
また、上記セラミック製フェルールにおいて、セラミックス密度が大きい前記外周面側部とセラミック密度が小さい前記内側との2層構造になっているのが好ましい。
【0010】
また、上記セラミック製フェルールにおいて、前記内側より前記外周面側のボイドが少ないのが好ましい。
【0011】
また、上記セラミック製フェルールにおいて、前記外周面側のボイド数が700個/m
以下、前記内側が1500個/m以上であるのが好ましい。
【0012】
また、上記セラミック製フェルールにおいて、前記外周面の算術平均粗さRaが0.2μm以下、前記内孔の内周面の算術平均粗さRaが1.0μm以上であるのが好ましい。
【0013】
また、上記セラミック製フェルールにおいて、前記外周面側とともに前記一端の表面もセラミック密度が内側のセラミック密度より大きいのが好ましい。
【0014】
さらに、本発明のセラミック製フェルールの製造方法は、セラミック粉体と熱可塑性バインダとが混合された混合体の内側の温度が外周面側の温度より低い状態に熱プレス成形する工程を有することを特徴とする。
【0015】
また、上記製造方法において、コア金型の温度をダイス金型の温度より低い温度に設定し、その後に前記混合体が仕込まれたダイス金型に前記コア金型を圧入して、前記混合体を熱プレス成形するのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセラミック製フェルールによれば、外周面側のセラミック密度が内孔の内周面側のセラミック密度より大きくなるように一体焼結されていることにより、機械的強度を確保しつつ、内孔の加工時間を大幅に削減できる。これにより、信頼性が高く生産性のよいセラミック製フェルールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のセラミック製フェルールの実施の形態の一例を示し、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図2】本発明のセラミック製フェルールの実施の形態の他の例を示し、(a)は臆面図、(b)は断面図である。
【図3】(a),(b),(c)は本発明のセラミック製フェルールの製造方法を説明する模式図である。
【図4】従来のセラミック製フェルールの例を示し、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の詳細について図面を用いて説明する。
【0019】
図1(a)は本発明の一実施形態に係るセラミック製フェルール1を示す側面図である。セラミック製フェルール1は、光ファイバを保持する内孔4と光ファイバを内孔4に挿入する際のガイドとなるコーン部5とから構成されている。図1(b)は図1(a)の断面図を示している。
【0020】
本発明の一実施形態において、セラミック製フェルール1は円筒状の形状を有し、その一端2から他端3にかけて光ファイバが保持される内孔4が内側に形成されている。また、内孔4は、他端3側開口部に光ファイバを内孔4内に導くための、内孔4から後端3にかけて次第に内径が大きくなる円錐状のコーン部5を備えている。そして、内孔4を取り囲む内側のセラミック体1aのセラミック密度が外周面6側のセラミック体1bのセラミック密度より小さい状態で一体焼結されている。
【0021】
セラミック製フェルール1は、セラミック密度の大きい外周面6側の全周面に形成されたセラミック体1bと、セラミック密度の小さい外周面6より中心軸側となる内周面7側のセラミック体1aとで形成され、その間には境界8を有する一体焼結構造体となっている。一体焼結構造体となっているため、境界8におけるセラミック体1aとセラミック体1bとの密着強度は、従来の一様構造に比べて優劣はない。
【0022】
内周面7側のセラミック体1aのセラミック密度は小さく、軟質化されていることにより、内孔4の内周の研磨加工に要する時間を削減できる。且つ、外周面7側のセラミック体1bによってセラミック製フェルール1の機械的強度を維持することができる。
【0023】
セラミック製フェルール1において、外周面6側のセラミック体1bはボイドが少なく、内周面7側のセラミック体1aはボイドが多い構造となっている。ここで、ボイドとは、セラミック粒子間に存在する空隙のことを意味する。ボイドが少ないと、セラミック密度が大きくなる傾向があり、ボイドが多いと、逆にセラミック密度が小さくなる傾向になる。本実施形態のセラミック製フェルール1においては、大きさが1μm以上50μm以下のボイドは、外周面6側のセラミック体1b部で700個/m以下であり、内周面7側のセラミック体1a部で1500個/m以上になっている。
【0024】
なお、ボイドの計測方法として、ボイドの数は、セラミック製フェルール1の一端2から他端3にかけて平面研削で内孔4を露出させた断面状態まで研削した後、ダイヤモンドフィルム等を用いて鏡面研磨し、スケール付き実体顕微鏡にて倍率を200倍に設定して単位面積当たりのボイドの個数を数えることによって行なう。また、ボイドの大きさは実体顕微鏡のスケールによって計測すればよい。なお、ボイドの大きさは、実体顕微鏡で観察した時の2次元像において、最も長い部分の距離をそのボイドの大きさと定義する。また実体顕微鏡のスケールは、ボイドの大きさを測定する前に、目盛のついた校正用の基準器を測定して、値に問題がないことを確認しておく。
【0025】
外周面6側のセラミック体1bのセラミック密度が大きく、内周面7側のセラミック体1aのセラミック密度が小さいことにより、機械加工がし易く且つ機械的強度の強いセラミック製フェルール1を得ることができる。
【0026】
また、本実施形態のセラミック製フェルール1では、セラミック体1bの算術平均粗さRaは0.2μm以下であり、セラミック体1bより内側のセラミック体1aの算術平均粗さRaは1.0μm以上である。
【0027】
これは、外周面6側のセラミック体1bは、粒子間同士が密に焼成されているので、面粗さが小さくなり、逆に内周面7側のセラミック体1aは、粒子間同士が疎になっているので面粗さが大きくなる傾向にある。
【0028】
セラミック体1aの算術平均粗さRaは、セラミック製フェルール1の一端2から他端3にかけて平面研削し、内孔4を露出させた後、表面粗さ測定器を用いて、内孔4の表面を触針でトレースして計測する。また、セラミック体1bの算術平均粗さRaは、セラミック製フェルール1の一端2から他端3にかけて、外周部6の表面を同様に表面粗さ測定器にて計測すればよい。
【0029】
さらに、内孔4表面の算術平均粗さRaが大きいことから、光ファイバを内孔4内に接着にて保持する際、接着剤が内孔4の内周面の凹部に入り込み、光ファイバとの接着強度を向上することができる。
【0030】
図2は、本発明の他の一実施形態に係るセラミック製フェルール1を示し、図2(a)はセラミック製フェルール1の側面図、図2(b)は図1(a)の断面図を示す。
【0031】
図2に示すセラミック製フェルール1において、外周面6側とともに一端2の表面もセラミック密度が内側のセラミック密度より大きいセラミック体1bで覆うようにされているのが好ましい。一端2のセラミック体1bは内側のセラミック体1aと一体焼結されているので、一端2の硬度が保たれている。そのため、セラミック製フェルール1の一端2同士を当接させて光コネクタとして使用する際に、一端2の表面でカケ等の発生がなく、さらに一端2同士の摩耗が小さいため、接続特性も安定させることができる。
【0032】
本実施形態のセラミック製フェルール1は、ジルコニア質セラミックス、アルミナ質セラミックス、窒化珪素質セラミックス等のセラミックスを使用することができるが、中でもジルコニア質セラミックスがもっとも良い。
【0033】
ジルコニア質セラミック製フェルール1は、ジルコニアを主成分とし、安定化剤としてイットリアを含有する。ジルコニアには、正方晶の結晶相を主体とし、平均結晶粒子径が0.3〜0.5μmのものが用いられる。正方晶相を主体とすることによって、応力を受けた際に、この正方晶結晶が単斜晶結晶に変態して体積膨張し、応力誘起変態のメカニズムによって、焼結体の強度、靱性を向上できる。このようにして部分安定化ジルコニアとなる。
【0034】
部分安定化ジルコニアを用いて、外周面6側のセラミック密度が大で、且つ内周面7側のセラミック密度が小となるように一体焼結することにより、内孔4の内周の機械加工の精度が良好で、機械的強度も良好なフェルール1を得ることができる。
【0035】
次に、本発明のセラミック製フェルール1の製造方法について説明する。
【0036】
図3は、本発明におけるセラミック製フェルール1の製造方法を模式的に図示するもので、図3(a)は金型の断面図、図3(b)は金型にセラミック粉体と熱可塑性バインダとの混合体を充填した断面図、図3(c)は金型成形の様子を示す断面図である。
【0037】
先ず、図3(a)に示すように、上パンチ型10とダイス金型12とコア金型11とを準備する。上パンチ型10は、コア金型11のコア部11aが挿入される貫通孔10aが設けられた円筒形状を有している。コア金型11にはセラミック製フェルール1の内孔4を形成する円柱状のコア11aが中央部に立設するように設けられている。コア11aの基部は、コーン部5が形成されるように円錐状に形成されている。ダイス金型12は、セラミック製フェルール1の外周を形成する貫通孔12aを有した円筒形状のものである。
【0038】
次に、セラミック原料に熱可塑性バインダを添加し、十分に混合してセラミック製フェルールの原料となる混合体13を準備する。
【0039】
その後、図3(b)に示すように、ダイス金型12の貫通孔12a内にコア部11aが挿入されるようにコア金型11上にダイス金型12を設置する。次いで熱可塑性バインダを含んだ混合体13をダイス金型12の貫通孔12a内に投入する。混合体13の投入量は製品によって異なるが、例えば、本発明の実施形態においては50〜500gを投入する。次いでダイス金型12を外側から加熱し、同時にコア金型11は冷却する。これによって、コア金型11のコア部11aの温度は低く、ダイス金型12の温度は高い状態となり、投入された混合体13の内孔4の内周面7側と外周面7側において温度差が生る。
【0040】
例えば、コア金型11とダイス金型12の温度差は20℃〜100℃とすればよい。好ましくは、30℃〜50℃とする。また、コア金型11に具備している断熱体11bにて、ダイス金型12とコア金型11の熱移動を防いでいる。
【0041】
そして、図3(c)に示すように、上パンチ型10をダイス金型12の貫通孔12a内に挿入する。ダイス金型12の貫通孔12aの内周に上パンチ型10の外周面をガイドさせながら、上パンチ型10の貫通孔10a内にコア金型11のコア部11aが挿入されるようにして、混合体13に上下方向に圧力を加えながら混合体13をプレス成形する。プレス成形の圧力は出来上がる製品の形状によっても異なるが、本実施形態では、例えば20〜500Mpaとした。なお、図2に示す実施形態のセラミック製フェルール1の場合は、上パンチ型10もダイス金型12同様に加熱する。
【0042】
その後、ダイス金型12の外周部の加熱を止めるとともに、コア金型11を冷却する。冷却温度は、常温以下が望ましい。
【0043】
最後に、ダイス金型12から上パンチ型10、コア金型11を抜いて、プレス成形された混合体13をダイス金型12から離型して、成形体14を取り出す。
【0044】
この成形体14を1360℃において24時間焼成することによって焼結させれば、外周面6側6のセラミック密度が高く、内周面7側のセラミック密度が低い一体焼結体を得ることができる。次いで、この一体焼結体に機械加工を施し、本実施形態のセラミック製フェルール1が完成される。
【0045】
なお、上述のダイス金型12、上パンチ型10、コア金型11の材料には、超硬合金,SKD,ステンレス,白金,銅等を使用できるが、中でも耐摩耗性の点から超硬合金がもっとも好ましい。
【0046】
以上のように、本発明によれば、内孔4の内周面の機械加工がし易く、且つ機械的強度が十分な生産性および信頼性の高いセラミック製フェルール1を提供することができる。
【0047】
本発明の一実施形態によるセラミック製フェルール1は、光ファイバ同士を接続するための光通信用フェルールに適用することができる。また、レーザダイオードやフォトダイオード等の光素子と光ファイバを接続する光モジュール内に用いることもできる。
【0048】
その他、光ファイバと各種光素子との接続に用いるさまざまな部材にも適用することができ、上述したフェルールに限らず、たとえば、光モジュール内に用いるダミーフェルールとしても適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1:セラミック製フェルール
2:一端
3:他端
4:内孔
5:コーン部
6:外周面
7:内周面
8:境界
10:上パンチ型
10a:貫通孔
11:コア金型
11a:コア部
12:ダイス金型
12a:貫通孔
13:混合体
14:成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から他端にかけて光ファイバが保持される内孔が形成され、該内孔の他端側開口部に光ファイバを前記内孔内に導くコーン部を備えた筒状のセラミック製フェルールであって、
外周面側のセラミック密度がその内側のセラミック密度より大きくなるようにされていることを特徴とするセラミック製フェルール。
【請求項2】
セラミック密度が大きい前記外周面側とセラミック密度が小さい前記内側との2層構造になっていることを特徴とする請求項1記載のセラミック製フェルール。
【請求項3】
前記内側より前記外周面側のボイドが少ないことを特徴とする請求項1または2記載のセラミック製フェルール。
【請求項4】
前記外周面側のボイド数が700個/m以下、前記内側が1500個/m以上であることを特徴とする請求項3記載のセラミック製フェルール。
【請求項5】
前記外周面の算術平均粗さRaが0.2μm以下、前記内孔の内周面の算術平均粗さRaが1.0μm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のセラミック製フェルール。
【請求項6】
前記外周面側とともに前記一端の表面もセラミック密度が内側のセラミック密度より大きいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のセラミック製フェルール。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のセラミック製フェルールの製造方法であって、
セラミック粉体と熱可塑性バインダとが混合された混合体の内側の温度が外周面側の温度より低い状態に熱プレス成形する工程を有することを特徴とするセラミック製フェルールの製造方法。
【請求項8】
コア金型の温度をダイス金型の温度より低い温度に設定し、その後に前記混合体が仕込まれたダイス金型に前記コア金型を圧入して、前記混合体を熱プレス成形することを特徴とする請求項7記載のセラミック製フェルールの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−152312(P2010−152312A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175665(P2009−175665)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】