説明

センサ付車輪用軸受

【課題】 軸受強度に影響を与えず容易にセンサを取付けることができて、軸受に作用する荷重、または車輪と路面間に作用する荷重を正確に検出できるセンサ付き車輪用軸受を提供する。
【解決手段】 外方部材1と内方部材2の間に複列の転動体5を介在させ、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、前記外方部材1および内方部材2のうちの固定側の部材に、1つまたは複数個の温度センサ21を設ける。この温度センサ21により検出された温度から、軸受に作用する荷重、または前記車輪と路面間に作用する荷重を推定する推定手段22を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付き車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の安全走行のために、各車輪の回転速度を検出するセンサを車輪用軸受に設けたものがある。従来の一般的な自動車の走行安全性確保対策は、各部の車輪の回転速度を検出することで行われているが、車輪の回転速度だけでは十分でなく、その他のセンサ信号を用いてさらに安全面の制御が可能なことが求められている。
【0003】
そこで、車両走行時に各車輪に作用する荷重から姿勢制御を図ることも考えられる。例えばコーナリングにおいては外側車輪に大きな荷重がかかり、また左右傾斜面走行では片側車輪に、ブレーキングにおいては前輪にそれぞれ荷重が片寄るなど、各車輪にかかる荷重は均等ではない。また、積載荷重不均等の場合にも各車輪にかかる荷重は不均等になる。このため、車輪にかかる荷重を随時検出できれば、その検出結果に基づき、事前にサスペンション等を制御することで、車両走行時の姿勢制御(コーナリング時のローリング防止、ブレーキング時の前輪沈み込み防止、積載荷重不均等による沈み込み防止等)を行うことが可能となる。しかし、車輪に作用する荷重を検出するセンサの適切な設置場所がなく、荷重検出による姿勢制御の実現が難しい。
【0004】
また、今後ステアバイワイヤが導入されて、車軸とステアリングが機械的に結合しないシステムになってくると、車軸方向荷重を検出して運転手が握るハンドルに路面情報を伝達することが求められる。
【0005】
このような要請に応えるものとして、外輪の内部に荷重センサを埋設した車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−258571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、荷重センサはある程度の大きさを有する部品であるため、特許文献1のように荷重センサを外輪の内部に埋設するのは容易でないし、外輪の強度にも悪影響を及ぼすという問題がある。
【0007】
この発明の目的は、軸受強度に影響を与えず容易にセンサを取付けることができて、軸受に作用する荷重、または車輪と路面間に作用する荷重を正確に検出できるセンサ付き車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のセンサ付き車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、前記外方部材および内方部材のうちの固定側の部材に、1つまたは複数個の温度センサを設け、この温度センサにより検出された温度から、軸受に作用する荷重、または前記車輪と路面間に作用する荷重を推定する推定手段を設けたことを特徴とする。
軸受あるいは車輪・路面間に荷重が作用すると、外方部材および内方部材は転走面と転動体の摩擦により発熱するので、外方部材および内方部材のうちの固定側部材に設けられた温度センサの検出する温度も上昇する。推定手段は、前記温度センサの検出する温度の変化から、軸受に作用する荷重、または前記車輪と路面間に作用する荷重を推定する。温度センサは熱電対などの小部品であるため、前記固定側部材の強度に悪影響を与えることなく、固定側部材に容易に取付けることができる。その結果、軸受強度に影響を与えず容易にセンサを取付けることができて、軸受に作用する荷重、または車輪と路面間に作用する荷重を正確に検出できる。
【0009】
この発明において、前記温度センサを2つ以上設け、前記推定手段は、前記2つ以上の温度センサにより検出された温度を比較して前記荷重を推定するものであっても良い。
軸受に作用する荷重による温度の上昇の程度は、発熱部となる転動体と転走面との接触部からの距離による熱伝導差等によって異なる。そのため、2つ以上の温度センサにより検出された温度を比較して前記荷重を推定することで、精度の良い荷重検出が行える。
【0010】
例えば、2つ以上設けられる温度センサのうち、少なくとも1つは転走面の付近に、少なくとももう1つは大気との接触面の付近に設置しても良い。
荷重が印加されると、転走面は転動体との摩擦で発熱するので、転走面の近傍に設置された温度センサの検出する温度は高いが、外気との接触面の付近に設置された温度センサの検出する温度は上昇の程度が低い。そこで、その温度差つまり熱伝導の差の程度によって推定することにより、推定手段はより正確に荷重を推定することができる。
【0011】
この発明において、外気温度を測定する温度センサを設け、前記推定手段は、外気温度により前記荷重を補正する補正手段を有するものとしても良い。
軸受に作用する荷重、または車輪と路面間に作用する荷重が同じであっても、前記固定側部材に設けられた温度センサが検出する温度は、外気温度に左右されて変動する。この構成の場合には、推定手段は、前記固定側部材に設けられた温度センサの検出結果から求めた荷重を、別の温度センサにより検出される外気温度に応じて補正手段で補正するので、外気温度の影響を除去して荷重を推定することになり、精度の高い荷重検出が可能となる。
【0012】
この発明において、前記温度センサを前記固定側の部材の表面に配置し、前記固定側の部材における前記温度センサを配置した箇所を断熱材で覆っても良い。
温度センサを断熱材で覆って外気の影響を低下させることにより、作用荷重によって転走面が転動体との摩擦で発熱したときの熱の伝導による温度変化が、温度センサによって精度良く検出できる。そのため、温度センサを固定側部材に埋め込むことなく車輪用軸受に設置することができて、軸受強度の低下をできるだけ回避して温度センサを設置することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のセンサ付き車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、前記外方部材および内方部材のうちの固定側の部材に、1つまたは複数個の温度センサを設け、この温度センサにより検出された温度から、軸受に作用する荷重、または前記車輪と路面間に作用する荷重を推定する推定手段を設けたため、軸受強度に影響を与えず容易にセンサを取付けることができて、軸受に作用する荷重、または車輪と路面間に作用する荷重を正確に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0015】
このセンサ付き車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせになるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、シール7,8によりそれぞれ密封されている。
【0016】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックルに取付けるフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所に車体取付孔14が設けられている。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、ホイールおよび制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
図2は、この車輪用軸受のインボード側から見た正面図を示す。なお、図1は、図2におけるI−O−I矢視断面図を示す。
【0017】
固定側部材である外方部材1の内部には、1つまたは複数個の温度センサ21が埋設される。温度センサ21は例えば熱電対などからなる。ここでは、外方部材1における各列の転走面3に対応する部位ごとに2つ以上の温度センサ21が軸方向に並べて設けられる。各列の転走面3に対応する複数個の温度センサ21の組のうち、少なくとも1つの温度センサ21は転走面3の付近に設置され、他の温度センサ21は転走面3から離れた箇所に設置される。
図示の例では、各組につき、第1の温度センサ211 は、最も摩擦による温度上昇が生じ易い部位である転走面における接触角を成す直線上の付近に配置し、第2の温度センサ212 は転動体中心の位置する軸受軸方向位置に、第3の温度センサ213 は転動体中心に対して前記接触角と反対側に傾斜して前記接触角と同じ角度を成す直線(図示せず)上の付近に配置し、第4の温度センサ214 は第3の温度センサ213 よりも外方部材1の端部側に配置している。第1,第2の温度センサ211 ,212 は、互いに転走面3から同じ程度の深さの位置に埋め込み、第3,第4の温度センサ213 ,214 は、第2の温度センサ212と略同じ外方部材半径方向の位置に埋め込んでいる。
【0018】
図3には、外方部材1におけるアウトボード側の列の転走面3に対応して設置した複数個の温度センサ21の具体的な設置構造の例を示す。この設置例では、外方部材1の外周面から径方向に小孔16を穿設し、この小孔16に各温度センサ21(211 〜214 )をその感温部が下向きとなるように圧入して固定している。圧入に代えて、温度センサ21を前記小孔16に挿入し、接着剤で固定しても良い。また、前記小孔16の周面の一部に雌ねじ部を設け、温度センサ21の外周面に設けた雄ねじ部を小孔16の雌ねじ部に螺合させることにより、小孔16内に温度センサ21を固定しても良い。
この場合、温度センサ21は、熱電対などの小部品であるため、上記したような小孔16内に圧入等により容易に収容して固定できる。このように、温度センサ21の設置のために、外方部材1には小孔16を穿設するだけで良いので、外方部材1の強度に悪影響を与えることもない。
【0019】
図1に示すように、温度センサ21は推定手段22に接続される。推定手段22は、マイクロコンピュータや、あるいはその他の電子回路等からなり、温度センサ21により検出された温度から、軸受に作用する荷重、または車輪と路面間に作用する荷重を推定する手段である。具体的には、推定手段22は、前記各列の転走面3に対応する複数個の温度センサ21の組により検出された温度を比較し得られる熱伝導の差の程度から、前記荷重を推定する。すなわち、荷重が印加されると、外方部材1は転走面3と転動体5の摩擦で発熱するので、転走面3の近傍に設置された温度センサ21の検出する温度は高いが、外気との接触面となる外方部材1の外周面の近傍に設置された温度センサ21の検出する温度は低くなる。そこで、その温度差つまり熱伝導の差の程度により、推定手段22が荷重を推定する。これにより、軸受に作用する荷重、または車輪と路面間に作用する荷重を正確に検出することができる。推定手段22は、上記のような各位置の温度センサ21の温度と印加される荷重との関係を示すテーブルまたは演算式等の関係設定手段(図示せず)を有していて、検出された各温度センサ21の温度を前記関係設定手段の設定内容と比較することで、荷重の推定値を出力する。前記関係設定手段の設定内容は、予めシミュレーションや実験によって求めておき、その内容に応じて設定する。
【0020】
この実施形態では、外方部材1内に埋設される上記した複数個の温度センサ21とは別に、図1のように外気温度を測定する温度センサ24が設けられる。また、前記推定手段22には、外方部材1内に埋設された温度センサ21の検出結果から求めた荷重を、外気温度に応じて補正する補正手段23が設けられる。
【0021】
軸受に作用する荷重、または車輪と路面間に作用する荷重が同じであっても、外方部材1内に埋設された温度センサ21が検出する温度は、外気温度に左右されて変動する。すなわち、外気温度が低いと温度センサ21が検出する温度は低くなり、外気温度が高いと温度センサ21が検出する温度はそれだけ高くなる。そこで、推定手段22は、外方部材1内に埋設された温度センサ21の検出結果から求めた荷重を、別の温度センサ24により検出される外気温度に応じて補正手段23で補正する。具体的には、外気温度が低いときには、その程度に応じて、温度センサ21の検出結果から求めた荷重をより大きい値に補正する。また、外気温度が高いときには、その程度に応じて、温度センサ21の検出結果から求めた荷重をより小さい値に補正する。このようにして、推定手段22は、外気温度の影響を除去して荷重を推定するので、精度の高い荷重検出が可能となる。
【0022】
図4は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、図1のセンサ付き車輪用軸受において、外方部材1の温度センサ21が設置される周域の外周面を樹脂などの断熱材25で覆っている。図4(A)には図1と同じ断面部分の部分拡大図を示し、図4(B)には図4(A)の部分をアウトボード側から見た断面図を示す。ここでは、外方部材1の外周面の一部周域を底面が平坦面となる浅い溝部26に加工し、この溝部26の底面に複数個の温度センサ21を軸方向に並べて配置し、その上から断熱材25を覆って例えばボルトなどの締結手段で外方部材1に固定している。
【0023】
図4では、アウトボード側の列の転走面3に対応する温度センサ21の設置状態を示しているが、インボード側の列の転走面3に対応する温度センサ21の設置構造も同様である。また、ここでは、図1における推定手段22や外気温度を測定する温度センサ24については図示していないが、これらの構成や車輪用軸受の他の構成は図1の場合と同様である。
【0024】
この実施形態のように、外方部材1における温度センサ21の設置位置の周域の外周面を断熱材25で覆うと、温度センサ21により検出される温度が外気温度の影響を受けるのを低減できるので、外方部材1内に埋め込むことなく、表面に設置した温度センサ21の検出結果から荷重を求めることができる。そのため、外方部材1の強度低下をできるだけ抑えて、温度センサ21による荷重検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付き車輪用軸受の断面図である。
【図2】同センサ付き車輪用軸受をインボード側から見た正面図である。
【図3】同センサ付き車輪用軸受における温度センサの設置例を示す拡大断面図である。
【図4】(A)はこの発明の他の実施形態にかかるセンサ付き車輪用軸受の部分拡大断面図、(B)は同部分をアウトボード側から見た断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…外方部材
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
21…温度センサ
22…推定手段
23…補正手段
24…温度センサ
25…断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
前記外方部材および内方部材のうちの固定側の部材に、1つまたは複数個の温度センサを設け、この温度センサにより検出された温度から、軸受に作用する荷重、または前記車輪と路面間に作用する荷重を推定する推定手段を設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記温度センサを2つ以上設け、前記推定手段は、前記2つ以上の温度センサにより検出された温度を比較して前記荷重を推定するものであるセンサ付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記2つ以上の温度センサのうち、少なくとも1つは転走面の付近に、少なくとももう1つは大気との接触面の付近に設置したセンサ付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、外気温度を測定する温度センサを設け、前記推定手段は、外気温度により前記荷重を補正する補正手段を有するセンサ付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記温度センサを前記固定側の部材の表面に配置し、前記固定側の部材における前記温度センサを配置した箇所を断熱材で覆ったセンサ付車輪用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−190706(P2008−190706A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28959(P2007−28959)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】