説明

センサ付車輪用軸受

【課題】 ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出できるセンサ付車輪用軸受を提供する。
【解決手段】 この車輪用軸受は、複列の転走面3が内周に形成された外方部材1と、上記転走面3と対向する転走面4を外周に形成した内方部材2と、両部材の対向する転走面3,4間に介在した複列の転動体5とを備える。外方部材1および内方部材2のうちの固定側部材の一部に、部分的に厚肉となった部分である厚肉部1bが設けられる。前記固定側部材の外径面にはセンサユニット19が設けられる。センサユニット19は、2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材20、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサ21を有する。センサユニット19は、歪み発生部材20の接触固定部で前記固定側部材の外径面に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各車輪にかかる荷重を検出する技術として、車輪用軸受の外輪フランジの外径面の歪みを検出することにより荷重を検出するセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。また、固定輪のフランジ部と外径部にわたってL字型部材からなる歪み拡大機構を取付け、その歪み拡大機構の一部に歪みゲージを貼り付けた車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−098138号公報
【特許文献2】特開2006−077807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示の技術では、固定輪のフランジ部の変形により発生する歪みを検出している。しかし、固定輪のフランジ部の変形には、フランジ面とナックル面の間に、静止摩擦力を超える力が作用した場合に滑りが伴うため、繰返し荷重を印加すると、出力信号にヒステリシスが発生するといった問題がある。
例えば、車輪用軸受に対してある方向の荷重が大きくなる場合、固定輪フランジ面とナックル面の間は、最初は荷重よりも静止摩擦力の方が大きいため滑らないが、ある大きさを超えると静止摩擦力に打ち勝って滑るようになる。その状態で荷重を小さくしていくと、やはり最初は静止摩擦力により滑らないが、ある大きさになると滑るようになる。その結果、この変形が生じる部分で荷重を推定しようとすると、出力信号に図9のようなヒステリシスが生じる。
また、特許文献2に開示の技術においても、L字型部材からなる歪み拡大機構のフランジ面に固定されている部位が、フランジ面とナックル面の滑りの影響を受けるため、上記と同様の問題が生じる。
また、車輪用軸受に作用する上下方向の荷重Fz を検出する場合、荷重Fz に対する固定輪変形量が小さいため歪み量も小さく、上記した技術では検出感度が低く、荷重Fz を精度良く検出できない。
【0004】
この発明の目的は、ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出できるセンサ付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の一部に、部分的に厚肉となった部分である厚肉部を設け、2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有するセンサユニットを、上記固定側部材の外径面に前記接触固定部で固定したことを特徴とする。前記歪みを検出するセンサは、例えば、歪みを直接的に検出する歪みゲージが用いられるが、この他に間接的に歪みを検出するセンサ、例えば、変位センサや超音波センサを用い、変位検出により歪みを検出するものであっても良い。
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材(例えば外方部材)にも荷重が印加されて変形が生じる。センサユニットを例えば外方部材フランジに固定して、フランジの変形から荷重を推定しようとすると、出力信号にヒステリシスが生じる。特に、センサユニットの歪み発生部材により固定側部材の歪みを拡大して検出しようとした場合、出力信号にヒステリスの影響が大きく生じる。しかし、この発明は、外方部材の外周の一部に厚肉部を設けており、この厚肉部は剛性が高くなり、変形量が小さくて、ヒステリシスの影響の小さい箇所となる。この厚肉部の形成により、車体取付用のフランジとは別の箇所に、変形量が小さく、ヒステリシスの影響の小さい箇所を設けることができる。そこで、センサユニットを外方部材の外径面に固定する場合に、その歪み発生部材の接触固定部の1つを、例えば前記厚肉部の近傍に固定し、他の接触固定部を例えば外方部材における転走面の周辺部のような比較的に変形量の大きい部位に固定する。これにより、外方部材の外径面の歪みが歪み発生部材に拡大して伝達されて、この拡大された歪みがセンサで検出される。そのため、車輪のタイヤと路面間の作用力を感度良く検出することができ、またセンサの出力信号に生じるヒステリシスが小さくなる。その結果、ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出できる。
【0006】
この発明において、前記固定側部材は前記外方部材であっても良い。固定側部材が外方部材である場合、内方部材である場合に比べて、歪みを感度良く検出でき、また厚肉部の形成によるヒステリシスの低減効果が得やすい。
【0007】
この発明において、前記厚肉部は、固定側部材のアウトボード側端の外周に設けても良い。アウトボード側端の外周に厚肉部を設けると、静止摩擦力を超える場合に滑りの影響を受ける車体取付用のフランジから離れた箇所に厚肉部を設けることになる。そのため、センサの出力信号のヒステリシスがさらに小さくなり、荷重をより精度良く検出できる。また、固定側部材が外方部材である場合、そのアウトボード側の外周には比較的にスペースに余裕があるため、厚肉部を設け易い。
【0008】
この発明において、前記厚肉部は、固定側部材に対してこの固定側部材とは別部材として設けられて前記固定側部材に固定されたリング状部材であっても良い。
固定側部材と別体のリング状部材を用いて厚肉部とする場合、固定側部材に凸部がないことから、固定側部材の鍛造成形が容易となる。
【0009】
この発明において、前記接触固定部のうちの少なくとも1つは、前記転走面の位置する軸方向箇所に配置しても良い。転走面の位置する軸方向箇所は、比較的変形量の大きい部分である。この変形量の多い部分にセンサユニットが設置されることになるため、歪み発生部材に歪みが集中し易くなり、それだけ感度が向上し、さらに荷重を精度良く検出することができる。なお、転走面の位置する軸方向箇所では、公転する転動体の有無により出力変動が生じるが、波形の振幅や平均値から荷重を推定することが可能であり、また出力信号から転動体の通過速度、つまり回転数を算出することもできる。
【0010】
この発明において、前記センサユニットの1つの接触固定部を前記厚肉部に固定しても良い。厚肉部は変形量の小さい部分であり、この部分に1つの接触固定部を固定するし、もう1つの接触固定部を比較的変形量の大きい部位に固定すると、歪み発生部材に歪みが集中し易くなり、センサによる検出感度が高くなって、さらに荷重を精度良く検出することができる。
【0011】
この発明において、前記センサユニットの前記歪み発生部材は切欠き部を有し、前記切欠き部の周辺に前記センサを設けても良い。歪み発生部材に切欠き部が形成されていると、固定側部材から歪み発生部材に拡大されて伝達される歪みが切欠き部に集中しやすくなる。そのため、センサによる検出感度がより一層向上し、さらに荷重を精度良く検出することができる。
【0012】
この発明において、前記センサユニットの前記2つ以上の接触固定部は、前記固定側部材の外径面における互いに円周方向に同位相の位置としても良い。センサユニットの接触固定部を固定側部材の外径面に対して円周方向に同位相として固定すると、歪み発生部材に歪みが集中し易くなり、それだけ検出感度が向上する。接触固定部のこのような配置は、固定側部材のアウトボード側に厚肉部を設けた構成の場合に特に有効となる。
【0013】
この発明において、前記固定側部材の外周に、ナックルに取付ける車体取付用のフランジを有し、このフランジの円周方向複数箇所にボルト孔が設けられ、前記フランジは各ボルト孔が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片とされ、前記センサユニットは、前記固定側部材の前記突片の間の中央部に配置しても良い。前記突片の間の中央部にセンサユニットを配置すると、ヒステリシスの原因となる突片から離れた位置にセンサユニットを設けることとなる。そのため、センサの出力信号のヒステリシスがさらに小さくなり、荷重をさらに精度良く検出することができる。
【0014】
この発明において、前記センサユニットの1つは、タイヤ接地面に対して外方部材の外径面の上面部に設けても良い。
上下方向の荷重Fz や前後方向の荷重Fy が印加された場合でも、外方部材の外径面における上面部は常に転動体の荷重が印加される位置であるため、どのような場合でも荷重を精度良く検出することができる。
【0015】
この発明において、前記センサユニットは、車輪用軸受に作用する上下方向の荷重Fz を検出するものであっても良い。
センサユニットは、微小な歪みでも拡大して検出するものであるため、固定側部材の変形量が小さい上下方向の荷重Fz でも感度良く検出することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の一部に、部分的に厚肉となった部分である厚肉部を設け、2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有するセンサユニットを、上記固定側部材の外径面に前記接触固定部で固定したため、ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の一実施形態を図1ないし図4と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0018】
このセンサ付車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0019】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには円周方向の複数箇所に車体取付用のボルト孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト18を前記ボルト孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。車体取付用フランジ1aの軸方向位置は、外方部材1の軸方向の中央付近、またはこの中央付近とインボード側端の間の位置とされている。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0020】
図2は、この車輪用軸受の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。なお、図1は、図2におけるI−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、図2のように、各ボルト孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。
【0021】
固定側部材である外方部材1のアウトボード側端の外周には、外径側に突出する厚肉部1bが全周にわたって一体に設けられている。この厚肉部1bは、例えば外方部材1の鍛造成形時に形成することができる。外方部材1の外径面にはセンサユニット19が設けられている。ここでは、2つのセンサユニット19を、外方部材1をアウトボード側からみた正面図を示す図2のように、タイヤ接地面に対して上位置となる外方部材1の外径面における上面部および下面部の2箇所に設けることで、車輪用軸受に作用する上下方向の荷重を検出するようにしている。具体的には、外方部材1の外径面における上面部の、隣り合う2つの突片1aaの間の中央部に1つのセンサユニット19が配置され、外方部材1の外径面における下面部の、隣り合う2つの突片1aaの間の中央部に他の1つのセンサユニット19が配置されている。
【0022】
これらのセンサユニット19は、図3に拡大断面図で示すように、歪み発生部材20と、この歪み発生部材20に取付けられて歪み発生部材20の歪みを検出するセンサ21とでなる。歪み発生部材20は、例えば鋼材等の金属材からなる。歪み発生部材20は、外方部材1の外径面に対向する内面側に張り出した2つの接触固定部20aを両端部に有し、これら接触固定部20aで外方部材1の外径面に直接に固定される。2つの接触固定部20aのうち、1つの接触固定部20aは、外方部材1のアウトボード側列の転走面3が位置する軸方向位置に配置され、この位置よりもアウトボード側寄りで前記厚肉部1bの近傍にもう1つの接触固定部20aが配置され、かつこれら両接触固定部20aは互いに外方部材1の円周方向における同位相の位置に配置される。なお、外方部材1の外径面へセンサユニット19を安定良く固定する上で、外方部材1の外径面における前記歪み発生部材20の接触固定部20aが接触固定される箇所に平坦部を形成するのが望ましい。
また、歪み発生部材20の中央部には内面側に開口する1つの切欠き部20bが形成されている。センサ21は、歪み発生部材20における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。ここでは、その箇所として、前記切欠き部20bの周辺、具体的には歪み発生部材20の外面側で切欠き部20bの背面側となる位置が選ばれており、センサ21は切欠き部20b周辺の歪みを検出する。
【0023】
歪み発生部材20の接触固定部20aの外方部材1の外径面への固定は、接触固定部20aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔22から挿通したボルト23を、外方部材1の外周部に設けられたボルト孔27に螺合させて締結することで行なわれるが、接着剤などにより固定しても良い。歪み発生部材20の接触固定部20a以外の箇所では、外方部材1の外径面との間に隙間が生じている。
【0024】
センサユニット19のセンサ21は推定手段24に接続される。推定手段24は、センサ21の出力信号により、車輪のタイヤと路面間の作用力を推定する手段であり、信号処理回路や補正回路などが含まれる。推定手段24は、車輪のタイヤと路面間の作用力とセンサ21の出力信号との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、入力された出力信号から前記関係設定手段を用いて作用力を出力する。前記関係設定手段の設定内容は、予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。
【0025】
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。前記センサユニット19を例えば外方部材フランジ1aの突片1aaに設置して、フランジ1aの変形から荷重を推定しようとすると、従来例の説明におけるように出力信号にヒステリシスが生じる。
ここでは、外方部材1の外周の一部に、全周にわたって厚肉部1bが設けられているので、この部分の剛性が高くなり、変形量が小さくヒステリシスの影響の小さい部分となる。一方、外方部材1における転走面3の周辺部は、タイヤ作用力が転動体5を介して伝達される部位であるため、比較的に変形量の大きい部位となる。
また、センサユニット19における歪み発生部材20の1つの接触固定部20aが、外方部材1の外径面における前記厚肉部1bの近傍に、他の1つの接触固定部20aが、外方部材1の外径面におけるアウトボード側列の転走面3の位置する軸方向箇所にそれぞれ固定されているので、外方部材1の外径面の歪みが歪み発生部材20に拡大して伝達され、その拡大された歪みがセンサ21で検出される。このセンサ21の出力信号から、車輪のタイヤと路面間の作用力を推定手段24で推定するようにしているので、静止時や低速時を問わず車輪のタイヤと路面間の作用力を感度良く検出することができる。上記したように、センサユニット19を、ヒステリシスの主な原因となる外方部材フランジ1aの突片1aaに固定していないので、センサ21の出力信号に生じるヒステリシスが小さくなり、荷重を正確に推定することができる。
【0026】
また、車輪のタイヤと路面間の作用力だけでなく、車輪用軸受に作用する力(例えば予圧量)を検出するものとしても良い。
このセンサ付車輪用軸受から得られた検出荷重を自動車の車両制御に使用することにより、自動車の安定走行に寄与できる。また、このセンサ付車輪用軸受を用いると、車両にコンパクトに荷重センサを設置でき、量産性に優れたものとでき、コスト低減を図ることができる。
【0027】
この実施形態では、外方部材1の外周の厚肉部1bを、摩擦の影響を受ける外方部材フランジ1aの突片1aaから離れたアウトボード側に設けているので、センサ21の出力信号のヒステリシスがさらに小さくなり、荷重をさらに正確に推定することができる。また、外方部材1のアウトボード側は比較的にスペースに余裕があるため、厚肉部1bを設け易い。
【0028】
また、この実施形態では、センサユニット19における歪み発生部材20の2つの接触固定部20aのうち、1つの接触固定部20aを、外方部材1の外径面における転走面3の位置する軸方向位置に配置しているので、タイヤの接地面に加わった荷重が内方部材2から転動体5を介して伝達される比較的変形量の大きい部分にセンサユニット19が設置されることになる。そのため、歪み発生部材20に歪みが集中し易くなり、それだけ感度が向上し、さらに正確な荷重を推定できる。また、車輪用軸受の回転中には、転走面3におけるセンサユニット19の近傍部位を通過する転動体5の有無によって、センサユニット19のセンサ21の出力信号の振幅に、図4に示す波形図のように周期的な変化が生じる場合がある。その理由は、転動体5の通過時とそうでない場合とで変形量が異なり、転動体5の通過周期ごとにセンサ21の出力信号の振幅がピーク値を持つためである。そこで、検出信号におけるこのピーク値の周期を、例えば推定手段24で測定することにより、転動体5の通過速度つまり車輪の回転数を検出することも可能となる。このように、出力信号に変動が見られる場合は、出力信号の平均値や振幅により荷重を算出することができる。変動が見られない場合は、絶対値より荷重を算出することができる。
【0029】
また、この実施形態では、センサユニット19の歪み発生部材20に切欠き部20bが設けられ、その切欠き部20bの周辺にセンサ21が設けられているので、外方部材1の外径面から歪み発生部材20に拡大されて伝達される歪みが切欠き部20bに集中しやすくなり、センサ21による検出感度が向上し、さらに正確に荷重を推定することことができる。
【0030】
また、荷重の印加に伴い外方部材1に生じる変形量は軸方向の各位置で異なるが、この実施形態では、センサユニット19における歪み発生部材20の2つの接触固定部20aを、外方部材1の外径面に対して円周方向に同位相として固定しているので、歪み発生部材20に歪みが集中し易くなり、それだけ検出感度が向上する。接触固定部20aのこのような配置は、外方部材1のアウトボード側に厚肉部1bを設けた構成の場合に特に有効となる。
【0031】
また、この実施形態では、センサユニット19を、外方部材1の外径面において、車輪取付用フランジ1aの隣り合う2つの突片1aaの間の中央部相当位置に配置しているので、ヒステリシスの原因となる突片1aaから離れた位置にセンサユニット19を設けることとなり、センサ21の出力信号のヒステリシスがさらに小さくなり、荷重をさらに正確に推定できる。
【0032】
また、この実施形態では、外方部材1の外径面において、上下方向の荷重Fz や前後方向の荷重Fy が印加された場合でも常に転動体5の荷重が印加される位置、つまりタイヤ接地面に対して上面部となる位置に1つのセンサユニット19が設けられているので、どのような場合でも荷重を正確に推定することができる。また、センサユニット19は、微小な歪みでも拡大して検出するものであるため、外方部材1の変形量が小さい上下方向の荷重Fz でも感度良く検出することができる。
【0033】
なお、この実施形態において、以下の構成については特に限定されず、適宜変更しても良い。
・ センサユニット19の設置個数、設置場所や、接触固定部20a,センサ21,切 欠き部20bの数。
・ 厚肉部1bの設置個数、設置場所、形成方法(鍛造時に形成するのではなく、切削 で形成しても構わない)。
・ センサユニット19の形状、固定方法(接着、溶接など)。
また、センサユニット19に代えて、変位センサや超音波センサを用いて、ある場所とその他の場所の相対変位を測定することで、変形量を検出するようにしても良い。例えば、厚肉部1bに変位センサを設けて、転動体5の周辺部の外方部材1の外径面の変位量を測定する。この場合、出力信号のヒステリシスが減少するという点では、センサユニット19を用いたこの実施形態の場合と同等の効果が得られる。
【0034】
図5は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態のセンサ付車輪用軸受では、図1ないし図4に示す実施形態において、外方部材1の外周の厚肉部1bとして、リング状の部材25を、外方部材1の外径面にアウトボード側から嵌合し、ボルト26で外方部材1の外径面に締結固定したものである。リング状部材25の固定は、ボルト26によらず、溶接、圧入、接着など他の方法であっても良い。その他の構成は図1ないし図4に示す実施形態の場合と同様である。
【0035】
このように、外方部材1と別体のリング状部材25を、外方部材1の外径面に固定して厚肉部1bとする場合には、外方部材1の外径面に凸部がないことから、外方部材1の鍛造成形が容易となる。
【0036】
図6は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態のセンサ付車輪用軸受では、図1ないし図4に示す実施形態において、センサユニット19における歪み発生部材20の一方の接触固定部20aを、外方部材1の外径面の厚肉部1bの近傍ではなく、厚肉部1bにボルト23で直接に固定したものである。その他の構成は図1ないし図4に示す実施形態の場合と同様である。
【0037】
このように、センサユニット19における歪み発生部材20の一方の接触固定部20aを、変形量の小さい厚肉部1bに固定し、もう1つの接触固定部を比較的変形量の大きい部位に固定した場合、歪み発生部材20に歪みが集中し易くなり、センサ21による検出感度が高くなり、さらに正確に荷重を推定することができる。
【0038】
図7および図8は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態のセンサ付車輪用軸受では、外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す図7のように、外方部材1の外径面の上面位置および下面位置において、この外方部材1の垂直方向の軸心Pに対して、円周方向に所定角度だけ振り分けた4箇所に、軸方向に延びる厚肉部1bを一体に設けている。また,この実施形態では、センサユニット19Aが、3つの接触固定部20aと2つの切欠き部20bを有する歪み発生部材20と、2つのセンサ21とでなり、外方部材1の外径面の上面位置と下面位置にそれぞれ1つ設けられる。
【0039】
例えば外方部材1の外径面の上面位置に設けるセンサユニット19Aでは、図8に拡大して示すように、その歪み発生部材20が左右一対の厚肉部1bに跨がるように配置され、その両端部と中央部が接触固定部20aとされる。両端部の接触固定部20aは左右の厚肉部1bに載せられて、ボルト23により厚肉部1bに固定される。中央部の接触固定部20aは、外方部材1の外径面に接触するように内面側に張り出して形成され、ボルト23により外方部材1の外径面に固定される。歪み発生部材20の内面側には、その中央部の接触固定部20aから各端部側に若干離れた位置に、それぞれ切欠き部20bが形成される。また、前記歪み発生部材20の外面側は、前記各切欠き部20bの背面側となる各位置に2つのセンサ21がそれぞれ貼り付けられている。外方部材1の外径面の下面位置に設けるセンサユニット19Aについても、上記した上面位置でのセンサユニット19Aの設置構造と同様であり、その説明を省略する。これら各センサユニット19Aのセンサ21は1つの推定手段24に接続される。この実施形態の場合も、歪み発生部材20の接触固定部20aを、転走面3の位置する軸方向箇所に配置すれば、図1ないし図4に示す実施形態の場合と同様に、転走面3のセンサユニット19A近傍部位を転動体5が通過することにより、センサ21の出力信号に変動が見られる場合がある。その他の構成は図1ないし図4に示す実施形態の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図2】同センサ付車輪用軸受における外方部材の正面図である。
【図3】図1におけるセンサユニット設置部の拡大断面図である。
【図4】同センサ付車輪用軸受におけるセンサの出力信号の波形図である。
【図5】この発明の他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受における外方部材の正面図である。
【図8】同外方部材におけるセンサユニット設置部の拡大図である。
【図9】従来例での出力信号におけるヒステリシスの説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1…外方部材
1a…車体取付用フランジ
1aa…突片
1b…厚肉部
2…内方部材
3,4…転走面
19,19A…センサユニット
20…歪み発生部材
20a…接触固定部
20b…切欠き部
21…センサ
25…リング状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面を外周に形成した内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の一部に、部分的に厚肉となった部分である厚肉部を設け、2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有するセンサユニットを、上記固定側部材の外径面に前記接触固定部で固定したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記固定側部材は前記外方部材であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記厚肉部は、固定側部材のアウトボード側端の外周に設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記厚肉部は、固定側部材に対してこの固定側部材とは別部材として設けられて前記固定側部材に固定されたリング状部材であることを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記接触固定部のうちの少なくとも1つは、前記転走面の位置する軸方向箇所に配置したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記センサユニットの1つの接触固定部を前記厚肉部に固定したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記センサユニットの前記歪み発生部材は切欠き部を有し、前記切欠き部の周辺に前記センサを設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記センサユニットの前記2つ以上の接触固定部は、前記固定側部材の外径面における互いに円周方向に同位相の位置としたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項9】
請求項8において、前記固定側部材の外周に、ナックルに取付ける車体取付用のフランジを有し、このフランジの円周方向複数箇所にボルト孔が設けられ、前記フランジは各ボルト孔が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片とされ、前記センサユニットは、前記固定側部材の前記突片の間の中央部に配置したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記センサユニットの1つは、タイヤ接地面に対して外方部材の外径面の上面部に設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記センサユニットは、車輪用軸受に作用する上下方向の荷重を検出するものであることを特徴とするセンサ付車輪用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−36245(P2009−36245A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199217(P2007−199217)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】