説明

ソバガラの抽出物を含む皮膚外用剤

【課題】美白作用・美肌作用を示す植物抽出物およびその活性成分を探索する。
【解決手段】ソバガラの抽出物を含む、皮膚外用剤が提供される。このソバガラの抽出物は、ソバガラ由来のオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを含んでいる。そのため、この皮膚外用剤は、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、をともに示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の抽出物を含む皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚の色黒、シミ、ソバカスの防止などの美容効果を得る目的で美白化粧料が広く用いられているが、これらは、色素沈着の原因となるメラニン色素生成経路において重要な酵素であるチロシナーゼを阻害しようとするものが多い。このような美白化粧料には主に、アスコルビン酸、グルタチオン、コウジ酸、コロイドイオウ等が配合されている。しかし、アスコルビン酸やグルタチオンは酸化を受けやすく、コウジ酸は安全性の面での不安も残り、またコロイドイオウは異臭や沈殿等が生じる欠点があった。
【0003】
このため、最近では広く自然界に安全な美白薬剤を求めた探索が行われており、チロシナーゼ阻害活性を示す植物抽出物が数多く提案されている。例えば、タデ科の一種であるダッタンソバ(Fagopyrum tataricum (L.) Garten.)は中国雲南省やネパールで栽培されて食されているものであるが、その穀粒の抽出物はcis−ウンベル酸を含み、チロシナーゼ阻害能があり、美容に効果があるとして提案されている(特許文献1〜8参照)。
【0004】
なお、ダッタンソバのルチン含有量はソバの約100倍で非常に多いとされている。ルチンは、フラボノイドの一種であり、毛細血管強化作用を持ち、高血圧などの疾病に有効であるとされる機能性成分である。しかし、ダッタンソバ子実にはルチン分解酵素も多く、粉への加水で急速に分解して苦み成分のケルセチンが生成するとされている。なお、ダッタンソバは、稔実性がよく、多収なので普通そばとの交雑が試みられてきたが、種が異なるためにまだ成功していない。
【0005】
これに対して、ソバ(学名Fagopyrum esculetum)はダッタンソバと同じくタデ科に属する1年生草本であるが、ダッタンソバとは種としては異なる。ソバの実のうち約30%がソバガラとなり、年間約7千トンが農産廃棄物として排出されているため、現在未利用資源として注目を集めている素材である。その一つに、生物学的作用を見出し薬剤として利用しようとする試みがなされている。例えば、デンプン分解酵素阻害能、抗インフルエンザ作用、メイラード反応阻害に関して提案されている(特許文献9〜11参照)。
【0006】
また、ソバガラについては、その物理化学的な性質を利用して消臭剤への利用等も提案されている(特許文献12参照)。さらに、ソバガラを水または有機溶剤単独、またはそれらの混合液で抽出処理して得られるエキスを有効成分とする過酸化脂質抑制剤、コレステロール低下剤、中性脂肪低下剤または高脂血症改善剤も提案されている(特許文献13参照)。そして、ソバガラの水性タンパク抽出物からなるコラゲナーゼ活性阻害剤についても提案されている(特許文献14参照)。また、ソバガラをエタノールで加熱抽出してソバガラ抽出物を調製し、該抽出物を製造過程にある食品に添加することについても提案されている(特許文献15参照)。
【0007】
一方、肌のハリや弾力を保つ働きのあるエラスチンは、紫外線暴露や加齢により過剰発現したエラスターゼの働きにより変性や破壊を受け、その結果として皮膚の弾力が低下し、皮膚老化に繋がると考えられている。そのため、エラスターゼ阻害活性を示す物質を植物抽出物に求めた研究も数多くなされている(特許文献16〜20参照)。
【0008】
【特許文献1】特公昭62−045202号公報
【特許文献2】特公昭48−1505号公報
【特許文献3】特公昭48−29139号公報
【特許文献4】特開平02−45408号公報
【特許文献5】特開平01−319473号公報
【特許文献6】特許第02934595号明細書
【特許文献7】特公昭56−18569号公報
【特許文献8】特開昭60−16906号公報
【特許文献9】特開2005−220110号公報
【特許文献10】特開2004−2361号公報
【特許文献11】特開2006−256977号公報
【特許文献12】特開2003−305112号公報
【特許文献13】特開平10−218786号公報
【特許文献14】特表平8−507506号公報
【特許文献15】特開2002−272396号公報
【特許文献16】特開平10−017460号公報
【特許文献17】特開2000−026263号公報
【特許文献18】特開平11−263720号公報
【特許文献19】特開平11−246388号公報
【特許文献20】特開平11−335235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献6において、穀粒の抽出物にcis−ウンベル酸が含まれているため、チロシナーゼ阻害能があり、美容に効果があると記載されているダッタンソバは、多くの場合その原材料を考えると入手方法や価格の面で決して満足のいくものとは言えなかった。例えば、ダッタンソバは普通のソバに比べて日本での栽培地が限られ、国内収穫量としても約3t程度であり、その他約600t程度が輸入されている現状から、その穀粒が豊富に手に入るものではない。
【0010】
また、上記の特許文献13〜15には、ソバガラの抽出物に関して幾つかの生理活性機能がある旨記載されているが、チロシナーゼ阻害能による美白作用に関する報告は未だなされていない。すなわち、現時点まで、豊富に、しかも安価に入手可能な植物であるソバから得られる産業廃棄物であるソバガラに、チロシナーゼ阻害能による美白作用を示す有効成分が含まれているか否かは未知であったと言わざるを得ない。
【0011】
さらに、上記の特許文献16〜20には、エラスターゼ阻害活性を示す物質を植物抽出物に求めた研究結果が記載されているが、ソバガラに関しては特に記載もない。すなわち、現時点まで、豊富に、しかも安価に入手可能な植物であるソバから得られる産業廃棄物であるソバガラに、エラスターゼ阻害能による抗老化作用を示す有効成分が含まれているか否かは未知であったと言わざるを得ない。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、美白作用・美肌作用を示す植物抽出物およびその活性成分を探索することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、ソバガラの抽出物を含む、皮膚外用剤が提供される。本発明の皮膚外用剤に含まれるソバガラの抽出物は、チロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能を有するため、本発明の皮膚外用剤自体もチロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能を有する。そのため、本発明の皮膚外用剤は、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、をともに示す。
【0014】
なお、本発明の皮膚外用剤において、上記のソバガラの抽出物は、ソバガラ由来のオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを含んでいる。これらの5種類の成分は、いずれもチロシナーゼ阻害能・エラスターゼ阻害能を有するため、本発明の皮膚外用剤自体もチロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能を有する。もっとも、後述するように、上記のソバガラの抽出物は、これらの5種類の成分を単に混合しただけの混合物よりも、顕著に優れたチロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能を有する。
【0015】
また、本発明によれば、ソバガラの抽出物を含む、チロシナーゼ阻害剤が提供される。本発明のチロシナーゼ阻害剤に含まれるソバガラの抽出物は、チロシナーゼ阻害能を有するため、本発明のチロシナーゼ阻害剤自体もチロシナーゼ阻害能を有する。
【0016】
また、本発明によれば、オリエンチンまたはイソオリエンチンを含む、チロシナーゼ阻害剤が提供される。本発明のチロシナーゼ阻害剤に含まれるオリエンチンまたはイソオリエンチンは、いずれもチロシナーゼ阻害能を有するため、本発明のチロシナーゼ阻害剤自体もチロシナーゼ阻害能を有する。
【0017】
また、本発明によれば、ソバガラの抽出物を含む、エラスターゼ阻害剤が提供される。本発明のチロシナーゼ阻害剤に含まれるソバガラの抽出物は、エラスターゼ阻害能を有するため、本発明のエラスターゼ阻害剤自体もエラスターゼ阻害能を有する。
【0018】
また、本発明によれば、ソバガラの抽出物を含む、化粧品用組成物が提供される。本発明の化粧品用組成物に含まれるソバガラの抽出物は、チロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能を有するため、本発明の化粧品用組成物自体もチロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能を有する。そのため、本発明の化粧品用組成物は、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、をともに示す。
【0019】
また、本発明によれば、ソバガラから化粧品用組成物を生産する方法であって、ソバガラを含水エタノールにより4℃以上30℃以下の温度条件で1日以上4日以下の期間沈積させる工程と、沈積の結果得られる抽出液からオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを含む組成物を生成する工程と、を含む、生産方法が提供される。本発明の生産方法では、ソバガラを含水エタノールにより4℃以上30℃以下の温度条件で1日以上4日以下の期間沈積させるため、ソバガラからオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを効率よく抽出することができる。そのため、本発明の生産方法では、チロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能に優れた化粧品組成物を効率よく生産することができる。
【0020】
また、本発明によれば、ソバガラから化粧品用組成物を生産する方法であって、ソバガラを含水エタノールにより40℃以上沸騰温度以下の温度条件で0.5時間以上2時間以下の期間加熱する工程と、加熱の結果得られる抽出液からオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを含む組成物を生成する工程と、を含む、生産方法が提供される。本発明の生産方法では、ソバガラを含水エタノールにより40℃以上沸騰温度以下の温度条件で0.5時間以上2時間以下の期間加熱するため、ソバガラからオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを効率よく抽出することができる。そのため、本発明の生産方法では、チロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能に優れた化粧品組成物を効率よく生産することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、チロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能を有するソバガラの抽出物を用いるため、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、をともに示す皮膚外用剤・化粧品組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0023】
<概要>
本実施形態は、ソバガラの抽出物を含む、皮膚外用剤に関する。本実施形態は、より詳しくは、オリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを主要な有効成分とするソバガラ抽出物に関するものである。さらに、本実施形態は、ソバガラ抽出物がメラノサイトにおけるチロシナーゼの働きを阻害しメラニン産生を抑制することを発見したことに基づいており、紫外線照射後の皮膚に対する美白効果や日焼けによるシミ、ソバカス等の予防または治療に有効な皮膚外用剤に関するものである。さらに、本実施形態は、そのソバガラ抽出物が皮膚に弾力を与えるエラスチンを分解する働きのあるエラスターゼの働きを阻害することを発見したことに基づいており、肌のハリや弾力を保つ抗老化作用のある皮膚外用剤に関するものである。
【0024】
ここで、ソバ(学名Fagopyrum esculetum)とは、タデ科に属する1年生草本であり、古くから生活習慣病の予防改善や「年越しソバ」などの習慣を含め、日本人の生活と切り放せない作物として栽培されてきた。なお、ソバの実は殻を除き(丸抜き)、種子の胚乳の部分を粉(蕎麦粉)にして食用にする。
【0025】
また、ソバガラ(そばがら、蕎麦殻)は、ソバを収穫し数日間天日で乾燥させ、ソバの実を取り去った後に残った殻を言う。なお、ソバ粉を精製するときに、ソバガラを実とともに引いて風味を出す場合もある。ソバガラの用途としては、その物理的特性から寝具の枕の中身として使われることが多い。
【0026】
繰り返しになるが、本実施形態の植物抽出エキス(ソバガラ抽出エキス)を含む皮膚外用剤は、チロシナーゼ阻害能により日焼け後の色素沈着、しみ、そばかすの原因となるメラニン色素の生成を抑制し、美白、美肌に効果を有すると共に、エラスターゼ阻害能により、皮膚のハリや弾力を保ち、皮膚の老化を防止することができる。このように、本実施形態の皮膚外用剤は、食品廃棄物であるソバガラの抽出エキスを配合する皮膚外用剤である。そのため、本実施形態の皮膚外用剤は、豊富かつ安価に入手可能な原料であるソバガラを用いて得られるアンチエイジング効果のある化粧品として使用可能である。
【0027】
<ソバガラからの抽出方法>
本実施形態に用いるソバガラ抽出物は、特に抽出方法が限定されるものではないが、例えば、抽出効率向上・抽出物の品質向上の観点から、ソバガラをエタノールに室温で半日以上浸漬し、あるいは加熱下に約1時間加熱攪拌し濾過した後、濾液を濃縮・凍結乾燥することにより得ることが出来る。
【0028】
また、本実施形態に用いるソバガラ抽出物の抽出条件としては、特に制限はないが、抽出効率向上・抽出物の品質向上の観点から、通常ソバガラ100gあたり1L〜2Lの範囲内の、冷あるいは熱水や、冷あるいは熱エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサンなどの有機溶媒を好適に用いることが出来る。これらの中でも、さらなる抽出効率向上・抽出物の品質向上の面からは、これら有機溶媒と水との混合溶媒(含水有機溶媒)を用いることが好ましく、さらにエタノール、イソプロパノール、ブチレングリコール、アセトンからなる群より選ばれる1種以上の有機溶媒と水との混合溶媒とすることがより好ましく、エタノールと水との混合溶媒とすることが最も好ましい。
【0029】
そして、エタノールと水との混合溶媒を用いる場合には、抽出効率向上・抽出物の品質向上の観点から、エタノールの組成を10%(V/V)以上90%(V/V)以下の範囲内とすることが好ましく、さらにエタノールの組成を50%(V/V)以上70%(V/V)以下とするのがより好ましい。なお、エタノール以外の他の有機溶媒を用いる場合にも、抽出効率向上の観点から、同様の有機溶媒の含有率(好ましくは10%(V/V)以上90%(V/V)以下、より好ましくは50%(V/V)以上70%(V/V)以下)を有する混合溶媒とすることが好ましい。
【0030】
一方、本実施形態に用いるソバガラ抽出物の抽出温度・抽出時間の組合せとしては、抽出効率向上・抽出物品質向上の観点から、4℃以上30℃以下の温度条件で1日以上4日以下浸漬してソバガラの固形分を沈積させて上澄みを抽出することが好ましい。
【0031】
あるいは、本実施形態に用いるソバガラ抽出物の別の抽出温度・抽出時間の組合せとしては、抽出効率向上・抽出物の品質向上の観点から、約40℃以上沸騰温度以下の温度条件で0.5時間以上2時間以下の期間加熱することが好ましく、最も好ましいのは沸騰温度で1時間加熱還流することである。
【0032】
<ソバガラ抽出物の有する活性>
抽出物の作用効果については、詳しくは後述の実施例にて説明するが、結論から先に述べると、上述の抽出方法によってソバガラから得られたソバガラ抽出物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析すると、主に5つの成分が検出される(図1)。それらの5つの成分を各種分離方法を用いて単離して構造解析を行うと、フラボノイドであるオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンが得られる(図3)。
【0033】
ここで、これらフラボノイドのうち幾つか(ビテキシン、イソビテキシンおよびルチン)についてのチロシナーゼ阻害活性と、すべてのフラボノイド(オリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチン)についてのエラスターゼ阻害活性は各種特許文献・非特許献等によって報告されているが、オリエンチンおよびイソオリエンチンについてのチロシナーゼ阻害活性は未だ報告がない。
【0034】
なお、オリエンチンおよびイソオリエンチンについてのチロシナーゼ阻害活性については、詳しくは後述の実施例にて説明するが、結論から先に述べると、本発明者等は、オリエンチンおよびイソオリエンチンがチロシナーゼ阻害活性を有することを、後述の実施例にて説明する実験で初めて発見したものである。
【0035】
一方、ソバガラ抽出物と上記5成分の単なる混合物との作用効果の比較については、詳しくは後述の実施例にて説明するが、結論から先に述べると、本発明者等は、ソバガラ抽出エキスに含まれる5つのフラボノイドのみからなる組成物を別途調整し、この混合組成物とソバガラ抽出エキスとの各酵素阻害活性(チロシナーゼ阻害活性およびエラスターゼ阻害活性)を比較した。
【0036】
その結果、本発明者等は、いずれの試験(チロシナーゼ阻害活性試験およびエラスターゼ阻害活性試験)においてもソバガラ抽出エキスの方が優れた活性を示した(図6)ことを見出し、ソバガラ抽出エキスの方がチロシナーゼ阻害活性およびエラスターゼ阻害活性の面で上記の混合組成物に比較して有用であると結論づけた。
【0037】
<作用効果>
以下、本実施形態の作用効果について詳細に説明する。
本実施形態の皮膚外用剤(化粧品組成物)に含まれるソバガラの抽出物(ソバガラ抽出エキス)は、チロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能を有する。そのため、本実施形態の皮膚外用剤(化粧品組成物)は、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、をともに示す。
【0038】
なお、本実施形態の皮膚外用剤(化粧品組成物)において、上記のソバガラの抽出物(ソバガラ抽出エキス)は、ソバガラ由来のオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを含んでいる。これらの5種類の成分は、いずれもチロシナーゼ阻害能・エラスターゼ阻害能を有するため、本実施形態の皮膚外用剤(化粧品組成物)は、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、をともに示す。
【0039】
もっとも、実施例において後述するように、上記のソバガラの抽出物(ソバガラ抽出エキス)は、これらの5種類の成分を単に混合しただけの混合物よりも、顕著に優れたチロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能を有する(図6)。
【0040】
ここで、本実施形態の皮膚外用剤(化粧品組成物)では、ソバガラを含水有機溶媒により抽出しているため、ソバガラからのオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンの5種類の有効成分の抽出効率・抽出エキスの品質が優れているため、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、にともに優れた皮膚外用剤(化粧品組成物)が得られる。
【0041】
また、上記の含水有機溶媒として、エタノール、イソプロパノール、ブチレングリコール、アセトンからなる群より選ばれる1種以上の有機溶媒を含有する含水有機溶媒を用いる場合には、さらにオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンの5種類の有効成分の抽出効率・抽出エキスの品質が向上するため、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、により一層優れた皮膚外用剤(化粧品組成物)が得られる。
【0042】
また、上記の含水有機溶媒として、有機溶媒の含有率が10%(v/v)以上90%(v/v)以下の含水有機溶媒を用いる場合にも、さらにオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンの5種類の有効成分の抽出効率・抽出エキスの品質が向上するため、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、により一層優れた皮膚外用剤(化粧品組成物)が得られる。
【0043】
また、上記のソバガラの抽出物(ソバガラ抽出エキス)は、チロシナーゼ阻害剤としても使用可能である。このチロシナーゼ阻害剤に含まれるソバガラの抽出物(ソバガラ抽出エキス)は、チロシナーゼ阻害能を有するため、チロシナーゼ阻害剤として好適に使用可能である。
【0044】
さらに、上記のソバガラの抽出物に含まれる成分であるオリエンチンまたはイソオリエンチンは、いずれも単独成分としてもチロシナーゼ阻害剤としても使用可能である。このチロシナーゼ阻害剤に含まれるオリエンチンまたはイソオリエンチンは、いずれもチロシナーゼ阻害能を有するため、チロシナーゼ阻害剤として好適に使用可能である。
【0045】
また、上記のソバガラの抽出物(ソバガラ抽出エキス)は、エラスターゼ阻害剤としても使用可能である。本実施形態のエラスターゼ阻害剤に含まれるソバガラの抽出物は、エラスターゼ阻害能を有するため、エラスターゼ阻害剤として好適に使用可能である。
【0046】
また、上記の抽出方法を用いれば、ソバガラから化粧品用組成物(皮膚外用剤)を生産する際に、ソバガラを含水エタノールにより4℃以上30℃以下の温度条件で1日以上4日以下の期間沈積させるため、ソバガラからオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを効率よく抽出することができる。そのため、この生産方法では、チロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能に優れた化粧品組成物を効率よく生産することができる。
【0047】
一方、上記の別の抽出方法を用いれば、ソバガラから化粧品用組成物を生産する際に、ソバガラを含水エタノールにより40℃以上沸騰温度以下の温度条件で0.5時間以上2時間以下の期間加熱するため、ソバガラからオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを効率よく抽出することができる。そのため、この生産方法では、チロシナーゼ阻害能およびエラスターゼ阻害能に優れた化粧品組成物を効率よく生産することができる。
【0048】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0049】
例えば、上記実施の形態では、皮膚外用剤に含まれる抽出物をソバガラの抽出物としたが、特にソバの実の抽出物を排除する趣旨ではなく、ソバガラの内側に多少ソバの実の断片等が付着している結果、ソバの実の抽出エキスがソバガラの抽出エキスに一部混入してもよい。このような場合にも、ソバガラの抽出エキスに含まれる有効成分と、ソバの実の抽出エキスに含まれる有効成分とが相加的または相乗的に作用して、チロシナーゼ阻害能による美白作用と、エラスターゼ阻害能による抗老化作用と、により一層優れた皮膚外用剤が得られるためである。
【0050】
あるいは、皮膚外用剤に含まれる抽出物として、ソバガラとソバの実とをともに含む、いわゆるソバ穀粒からそのままエキスを抽出してもよい。このような場合にも、ソバガラの抽出エキスに含まれる有効成分の有するチロシナーゼ阻害能による美白作用およびエラスターゼ阻害能による抗老化作用と、ソバの実の抽出エキスに含まれる有効成分の有する様々な生理的作用と、により一層優れた皮膚外用剤が得られるためである。
【0051】
もっとも、当然にソバガラとソバの実とでは有効成分の種類・組成等も異なっており、ソバガラの方が重量に比して表面積も大きく、単位重量あたり有効成分の含有量も多いと想定されることにくわえ、食糧として消費されるソバの実よりも産業廃棄物であるソバガラの方が調達コストも安価であり、容易に大量に入手することが可能であるため、ソバガラのみからソバガラエキスを抽出する方が好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<経緯>
本発明者等は、これまで120種類余の生薬やハーブ類についてチロシナーゼ及びエラスターゼ阻害試験によるスクリーニングを行ってきた。チロシナーゼ阻害試験は美白効果を目的とし、エラスターゼ阻害試験は美肌効果を目的としたものである。
【0054】
その結果、本発明者等は、他の生薬やハーブ類に比べて、特にソバガラに強いチロシナーゼ阻害活性およびエラスターゼ阻害活性を見出した。
【0055】
そこで、本発明者等は、ソバガラについてカラムクロマト・大量分取HPLC等を用いてチロシナーゼ阻害活性成分探索を行った。本発明者等は、EtOHエキスをLH−20カラムクロマトにかけたところ、50%MeOH溶出画分にチロシナーゼ阻害活性が認められたことから、下記のHPLC条件においてHPLC分析を行い主要な5つのピークを見出した。図1は、ソバガラからの抽出エキスのHPLCクロマトグラムである。本発明者等は、それらの主要な5つのピークをそれぞれピーク1〜5と仮称し、分離同定を行った。
【0056】
※HPLC条件
カラム:TSK gel ODS−80TM(4.0φ×150mm)
移動相:1%酢酸−MeOH(65:35)→(40:60)
20分間リニアグラジエント
1%酢酸−MeOH(40:60)5分間
流速 :1.0ml/min
温度 :40℃
検出 :フォトダイオードアレイ(表示は350nm)
【0057】
<抽出効率の検討>
本発明者等は、上記の当初のEtOH抽出ではエキス収率が1〜1.5%と低かったため、ピーク1〜5の収率向上を目指し新しい抽出方法を検討した。HPLC分析によるピーク面積の比較を行ったところ、50%EtOHによる抽出方法が最も効率が高いという結果となった。図2に、ソバガラからの抽出方法および抽出効率を検討した結果をグラフとして示す。以下、50%EtOH(冷浸処理)エキスを用いた。
【0058】
本発明者等は、後述する製造例5に示すように、こうして得られたピーク1〜5の成分を、ソバガラからの抽出エキスの分画チャートに基づいて分画した。そして、本発明者等は、これらのピーク1〜5の成分は、図1に示すHPLC分析のピークの溶出位置および製造例5で後述するNMR構造解析(data not shown)等の結果から図3に示す各成分であることを確認した。図3として、ピーク1〜5の構造式およびチロシナーゼ阻害活性を示す。なお、チロシナーゼ阻害活性については、詳しくは後述する。
【0059】
<チロシナーゼ阻害活性試験>
しみやソバカスの原因となるメラニン色素は、紫外線を受けて活性化した酵素『チロシナーゼ』の働きによって作られる。そのため、このチロシナーゼを阻害すれば、メラニンの定着を抑制できるので、美白効果が期待できる。そこで、本発明者等は、この美白効果を評価するために、チロシナーゼ阻害活性試験を行った。なお、チロシナーゼ阻害活性試験の結果については、詳しくは後述する。
【0060】
<エラスターゼ阻害活性試験>
皮膚は、弾力を与える「エラスチン」と皮膚を柔らかく保つ「コラーゲン」の2つの繊維から出来ている。そして、真皮は紫外線を浴びると酵素「エラスターゼ」を大量に分泌してエラスチンを断ち切ってしまう。そのため、このエラスターゼを阻害することによって、肌のハリや弾力を保つアンチエイジング効果が期待できる。そこで、本発明者等は、このアンチエイジング効果を評価するために、エラスターゼ阻害活性試験を行った。なお、エラスターゼ阻害活性試験の結果については、詳しくは後述する。
【0061】
<製造例1>(エタノール冷浸によるソバガラ抽出物の製造例)
本発明者等は、ソバガラ100gをエタノール1000mlに室温にて約半日浸漬し、濾過して抽出液を得た。本発明者等は、残渣を更にエタノール1000mlに室温にて約3日間浸漬し、濾過して抽出液を得、先の抽出液と合わせて減圧濃縮した。本発明者等は、得られた残渣をさらに室温で減圧乾燥してソバガラ抽出物として1.54gを得た(収率1.5%)。
【0062】
<製造例2>(50%エタノール冷浸によるソバガラ抽出物の製造例)
本発明者等は、ソバガラ100gを50%エタノール1000mlに室温にて約1日浸漬し、減圧濾過して抽出液を得、濃縮・凍結乾燥してエキス2.87gを得た(収率2.9%)。
【0063】
<製造例3>(70%エタノール冷浸によるソバガラ抽出物の製造例)
本発明者等は、ソバガラ10gを70%エタノール200mlに室温にて約1日浸漬し、吸引ろ過して抽出液を得、濃縮、凍結乾燥してエキス179mgを得た(収率1.8%)。
【0064】
<製造例4>(50%エタノール加熱によるソバガラ抽出物の製造例)
本発明者等は、ソバガラ粉砕物100gを70℃に加熱した50%エタノール1000mlに加え、約1時間加熱撹拌し、熱時減圧濾過して抽出液を得、減圧濃縮した。本発明者等は、得られた残渣を凍結乾燥してソバガラ抽出物として3.23gを得た(収率3.2%)。
【0065】
<製造例5>
製造例2で得られたエキスをDIAION HP−20カラムクロマト(カラム:6cmφ×36cm)に吸着し、60%メタノールにより溶出する部分を集め、それをSephadex LH−20カラムクロマト(カラム:3.5cmφ×40cm)に吸着し、50%メタノールで溶出する部分を集めた。次いで、大量分取HPLC(カラム:Luna5μC18,21.2mmφ×250mm,Phenomenex;溶媒:1%酢酸/メタノール=70:30)にて分取し、図1に示すピーク1〜2画分、ピーク3画分(68mg)、ピーク4画分(137mg)およびピーク5画分(41mg)を得た。さらにピーク1〜2の画分を1%酢酸/メタノール=75:25にて分取し、ピーク1(57mg)およびピーク2(45mg)を得た。
【0066】
本発明者等は、これらピーク1はオリエンチン、ピーク2はイソオリエンチン、ピーク3はビテキシン、ピーク4はイソビテキシンおよびピーク5はルチンであることを、図1のHPLCの溶出位置およびNMRによる構造解析データ(data not shown)と下記参考文献に示されている値とを比較することにより同定した。
【0067】
参考文献1:M.Watanabe et.al.,J.Agric.Food Chem., 45,1039-1044(1997).
参考文献2:T.Ozawa et.al.,Biosci.Biotechnol.Biochem., 67(2),410-414(2003).
参考文献3:T.Sabudak et.al.,Trakya Univ.J.Sci., 6(2)88-92(2005).
【0068】
<試験例1>(チロシナーゼ阻害試験)
a)試験方法
本発明者等は、以下のようにして試験を行った。すなわちソバガラ抽出物(50%エタノール抽出物)等の試料溶液10μl、50mMリン酸緩衝液50μl、蒸留水20μlおよびマッシュルーム由来チロシナーゼ溶液20μlの混合液を37℃で5分間保温した。次いでL−チロシン100μlを加え37℃で反応を行い、生成するドーパキノンの量を475nmの吸光度の増加としてマイクロプレートリーダーで経時的に測定した。
【0069】
この際、本発明者等は、上記の試料は、水またはDMSOに溶解して添加した。但し、DMSOの終濃度は0.1%とした。
【0070】
本発明者等は、阻害活性の算出方法として、溶媒のみを添加した場合の吸光度の増加率(コントロール)と、上記の試料を加えた場合の吸光度の増加率(サンプル)から以下の式により阻害活性を算出し、試料濃度と阻害活性から50%阻害濃度(IC50)を求めた。
【0071】
阻害活性(%)=100−(サンプル/コントロール)×100
【0072】
b)試験結果
チロシナーゼ阻害試験の結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
c)考察
表1に示したチロシナーゼ阻害試験の結果を見て分かるように、製造例2により得られたソバガラ抽出物は、対照として用いたアルブチンよりも強いチロシナーゼ阻害活性を示した。なお、アルブチンは、コケモモ、ウワウルシ等の植物にも含まれる天然型(β−グルコシド型)の配糖体であり、メラニン合成に重要な酵素であるチロシナーゼを阻害する作用により、優れた美白効果を示すものとされている。よって、製造例2により得られたソバガラ抽出物は、非常に強いチロシナーゼ阻害活性を有することが明らかである。
【0075】
<試験例2>(エラスターゼ阻害試験)
a)試験方法
本発明者等は、96穴マイクロプレートに基質N−Suc−(Ala)3−pNA 100μLを入れ、製造例2により得られたソバガラ抽出物(50%エタノール抽出物)等の試料溶液10μl及び水を適量(反応時の全容量が200μLとなる量)加え、37℃で約5分間保温した。次いで、本発明者等は、エラスターゼ20μLを加えて反応を開始し、37℃での410nmの吸光度の増加をマイクロプレートリーダーで経時的に測定し、反応開始後5〜10分間の反応速度(Abs/hr)を求めた。
【0076】
その際、本発明者等は、上記の試料は、水またはDMSOに溶解して添加した。但し、DMSOの終濃度は0.5%とした。
【0077】
本発明者等は、阻害活性の算出方法として、溶媒のみを添加した場合の吸光度の増加率(コントロール)と、上記の試料を加えた場合の吸光度の増加率(サンプル)から以下の式により阻害活性を算出し、試料濃度と阻害活性から50%阻害濃度(IC50)を求めた。
【0078】
阻害活性(%)=100−(サンプル/コントロール)×100
【0079】
b)試験結果
エラスターゼ阻害試験の結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
c)考察
表2に示したエラスターゼ阻害試験の結果を見て分かるように、製造例2により得られたソバガラ抽出物は、対照として用いたクララ抽出物よりも強いエラスターゼ阻害活性を示した。なお、クララ(学名:Sophora flavescens Aiton)は、豆科の植物であり、その抽出物はエラスターゼ阻害作用を有し、肌の老化を防ぐとされている(特許文献16参照)。よって、製造例2により得られたソバガラ抽出物は、非常に強いエラスターゼ阻害活性を有することが明らかである。
【0082】
<試験例3>
本発明者等は、製造例3により得られた抽出エキスを元にし、その抽出エキスと同含量、同成分比になるように図1のHPLC分析におけるピーク(1)〜(5)に対応する成分であるオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを混合した組成物(混合組成物)を調整した。そして、製造例3の抽出エキスおよび混合組成物をそれぞれ図1のHPLC分析と同様の条件においてHPLC分析した。図4として、製造例3の抽出エキスのHPLCクロマトグラムを示す。また、図5として、混合組成物のクロマトグラムを示す。
【0083】
また、製造例3の抽出エキスおよび混合組成物の各々の成分比と含量との数値データを表3に記載した。
【0084】
【表3】

【0085】
次に、本発明者等は、試験例1に従って、製造例3の抽出エキスおよび混合組成物の各々のチロシナーゼ阻害試験を行い、チロシナーゼ阻害活性を比較した。その結果、本発明者等は、製造例3の抽出エキスのIC50値は81μg/mlであったのに対し、混合組成物のチロシナーゼ阻害活性は非常に弱く、1000μg/ml相当でも15%程度の阻害活性であることを見出した。なお、図6として、製造例3の抽出エキスおよび混合組成物のチロシナーゼ阻害活性試験結果のグラフを示す。
【0086】
次に、本発明者等は、試験例2に従って、製造例3の抽出エキスおよび混合組成物の各々のエラスターゼ阻害試験を行い、エラスターゼ阻害活性を比較した。その結果、本発明者等は、製造例3の抽出エキスのIC50値は323μg/mlであるのに対し、混合組成物のエラスターゼ阻害活性は非常に弱く、1000μg/ml相当でも3%程度の阻害活性であることを見出した。なお、図7として、製造例3の抽出エキスおよび混合組成物のエラスターゼ阻害活性試験結果のグラフを示す。
【0087】
<考察>
上述のように、本発明者等は、ソバガラ抽出物のチロシナーゼ阻害活性を示す画分から5種の化合物を単離し、HPLC等の機器分析によりそれらの構造を決定した。なお、これらの化合物は、5種とも既にソバまたはソバガラから単離されている既知成分であり、抗酸化活性が報告されているが、少なくともオリエンチンおよびイソオリエンチンについては、チロシナーゼ阻害活性を示すという報告はない。また、本発明者等は、ソバガラ抽出物には、エラスターゼ阻害活性があることも確認した。
【0088】
さらには、本発明者等は、ソバガラ抽出物は、ソバガラ抽出物に含まれる5種の化合物の単なる混合組成物にくらべて、チロシナーゼ阻害活性およびエラスターゼ阻害活性のいずれにおいても、顕著に優れていることを見出した。
【0089】
また、ソバガラ抽出物について、他の生薬またはハーブ等に用いられている植物の抽出物に対してチロシナーゼ阻害活性およびエラスターゼ阻害活性を比較しても、ソバガラ抽出物はチロシナーゼ阻害およびエラスターゼ阻害の両方の活性を示している。なお、これまでにソバガラが化粧品として使用された報告もない。
【0090】
以上のことから、ソバガラ抽出物は美白作用・美肌作用ともに優れたアンチエイジング効果を持つ新しい化粧品素材として有用であると考えられる。
【0091】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0092】
また、上記実施例では、ソバガラ抽出エキスを、さらに減圧濾過して抽出液を得、濃縮・凍結乾燥して乾燥粉末エキス(本明細書において、エキスとは抽出物を意味し、液体だけでなく、固体の場合も含み、さらに半液体状・半固体状のペースト状の場合も含むものとする)として用いているが、特に乾燥粉末エキスに限定する趣旨ではなく、液体状のまま用いてもかまわない。たとえば、ソバガラ抽出エキスを液体状のままで化粧品の一種である保湿クリームなどの中に混合することによって、美白作用・美肌作用(抗老化作用)を示す保湿クリームを作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】ソバガラからの抽出エキスのHPLCクロマトグラムである。
【図2】ソバガラからの抽出方法および抽出効率を検討した結果を示すグラフである。
【図3】ピーク1〜5の構造式およびチロシナーゼ阻害活性を説明する図である。
【図4】ソバガラからの抽出エキスのHPLCクロマトグラムである。
【図5】混合組成物のクロマトグラムである。
【図6】ソバガラからの抽出エキスおよび混合組成物のチロシナーゼ阻害活性試験の結果を示すグラフである。
【図7】ソバガラからの抽出エキスおよび混合組成物のエラスターゼ阻害活性試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソバガラの抽出物を含む、皮膚外用剤。
【請求項2】
請求項1記載の皮膚外用剤において、
前記抽出物は、ソバガラ由来のオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを含む、皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の皮膚外用剤において、
前記抽出物は、ソバガラを含水有機溶媒により抽出してなる、皮膚外用剤。
【請求項4】
請求項3記載の皮膚外用剤において、
前記含水有機溶媒は、エタノール、イソプロパノール、ブチレングリコール、アセトンからなる群より選ばれる1種以上の有機溶媒を含有する、皮膚外用剤。
【請求項5】
請求項3または4記載の皮膚外用剤において、
前記含水有機溶媒は、有機溶媒の含有率が10%(v/v)以上90%(v/v)以下である、皮膚外用剤。
【請求項6】
請求項3乃至5いずれかに記載の皮膚外用剤において、
前記抽出物は、ソバガラを含水エタノールにより4℃以上30℃以下の温度条件で1日以上4日以下の期間沈積させて得られる抽出液に由来する、皮膚外用剤。
【請求項7】
請求項3乃至5いずれかに記載の皮膚外用剤において、
前記抽出物は、ソバガラを含水エタノールにより40℃以上沸騰温度以下の温度条件で0.5時間以上2時間以下の期間加熱して得られる抽出液に由来する、皮膚外用剤。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の皮膚外用剤において、
チロシナーゼ阻害能を有する、皮膚外用剤。
【請求項9】
請求項1乃至7いずれかに記載の皮膚外用剤において、
美白作用を有する、皮膚外用剤。
【請求項10】
請求項1乃至7いずれかに記載の皮膚外用剤において、
エラスターゼ阻害能を有する、皮膚外用剤。
【請求項11】
請求項1乃至7いずれかに記載の皮膚外用剤において、
抗老化作用を有する、皮膚外用剤。
【請求項12】
ソバガラの抽出物を含む、チロシナーゼ阻害剤。
【請求項13】
オリエンチンまたはイソオリエンチンを含む、チロシナーゼ阻害剤。
【請求項14】
ソバガラの抽出物を含む、エラスターゼ阻害剤。
【請求項15】
ソバガラの抽出物を含む、化粧品用組成物。
【請求項16】
ソバガラから化粧品用組成物を生産する方法であって、
ソバガラを含水エタノールにより4℃以上30℃以下の温度条件で1日以上4日以下の期間沈積させる工程と、
前記沈積の結果得られる抽出液からオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを含む組成物を生成する工程と、
を含む、生産方法。
【請求項17】
ソバガラから化粧品用組成物を生産する方法であって、
ソバガラを含水エタノールにより40℃以上沸騰温度以下の温度条件で0.5時間以上2時間以下の期間加熱する工程と、
前記加熱の結果得られる抽出液からオリエンチン、イソオリエンチン、ビテキシン、イソビテキシンおよびルチンを含む組成物を生成する工程と、
を含む、生産方法。

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−40690(P2009−40690A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204491(P2007−204491)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(591163694)全薬工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】