説明

タイヤケーブルの製造方法

【課題】タイヤケーブルの製造方法の改良である。
【解決手段】本発明のタイヤケーブルの製造方法は、炭素含有率が 0.4〜1.0重量%である加工硬化鋼の出発材料のケーブルを加工硬化鋼とゴムとの間の接着性を向上させる接着被膜で被覆し、このケーブルのゴム混合物に接着する接着力が減少するのを制限する手段を用いて、ケーブルの「使用時の伸び率Af」がAf=Ae+Ap>4%(ここで、Aeは弾性伸び、Apは塑性伸び)となるように250℃からAc1の間の温度で所定時間の間、回復アニール熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤビードの役目はタイヤをリムに固定することにある。そのため全てのカーカスケーブルはビードの下側部分まで達し、この部分に強固に固定されて、カーカスが使用時の応力に耐えられるようになっている。
最近、下記文献に新規なタイプビードが提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第 0,582,196号明細書
【0004】
このビードは一般に見られるビードワイヤの周りのカーカスの折返し部分(retournement)がなく、カーカス補強要素が固定 (投錨) 位置に1列または複数列に並んで配置される。このカーカス補強要素全体の空間内の配置は、カーカス補強要素群の各列はほぼ裁頭円錐台 (その軸線はタイヤの回転軸と同軸) を成すように設計されている。カーカス補強要素の側面は少なくとも1つの周方向補強要素、例えば螺旋コイルで作られた周方向補強要素の束によって取り囲まれている。また、互いに直角な方向を向いたこれらカーカス補強要素と周方向補強要素との間での力の伝達は適当な連結用ゴム混合物がよって確実に行われる。
【0005】
本出願人が行った試験の結果、上記のビード構造は使用時に,しかも厳しい条件での使用時でも、優れた耐応力特性を示すということが分った。このことは乗用車用タイヤでもその他の用途のタイヤでもいえる。タイヤは使用時に生じる応力の他に、使用続けるために必要な多数回のタイヤ交換作業時のタイヤ離脱操作に対する耐久性が要求される。
タイヤをホイールに取付ける場合、ビードの締付力が強ければ強い程、タイヤはリムから外れ難くなる。この締付力はビードの放射方向最下部でのゴムの圧縮力であり、対応リムの当接部の放射方向外側表面に圧力を加える力であるということを思い出されたい。制動トルクまたは駆動トルクをリムとタイヤとの間で伝達するためには、ある程度のレベルの締付力が必要である。この締付力はタイヤ自体の特性(ビード形状、使用材料の剛性)のみに依存するものではなく、リムの構造にも依存する。
【0006】
しかし、締付力が強い程、タイヤの取付け・取外しが困難になる。特に取外すにはリムのフランジの位置またはその直ぐ上でビードにかなり大きな力(リムへの締付力の関数)を加える必要がある。この力は押圧棒またはレバーによって回転軸線に対して平行に常に局部的に加えられる。これらの道具はタイヤビードを変形させる。この変形は極めて大きい。タイヤ取外しのこの第1段階ではビードを当接部から離す、すなわちビードをリムのフランジから外すことにある。この段階でタイヤビードには局部的に極めて大きな引張り力が加わる。
【0007】
次いで、一般にはレバーが用いてビードをリムフランジを越えて移動させる。一体型タイヤ(一般に乗用車および小型トラックのタイヤ)の場合には、リムの形状は、ビードを楕円形にすることによって、ビードの周囲長さを増加させずに取付け・取外しできるように設計されている。これによって中央の取付け用ウェルの設計とビードの取付け位置を規定し且つリムを側面から取囲むフランジの設計とが実質的に決まる。タイヤ取外しのこの第2段階ではビード全体が変形するが、これは第1段階で加わる力に比べると害は小さい。
【0008】
この形式のビードは放射方向面内での回転に対して柔軟性があるので取外しの第1段階ではハンプによって保持されたビードの先端部分がこの先端部分を中心として回転される([図3]参照)。この回転によって[図3]に示すようなビードの反転が起こると周方向ケーブル2のコイルの一部が極端に大きく伸長される。この伸びは軸方向外側に位置した束4の最下部のコイル40の場合には約3%になり、極端な場合には、取外し工具の圧力に起因する局部的変形とこの伸びとが重なって取外し時にコイル中の1つまたは複数のケーブルが破断することがある。
【0009】
タイヤ設計者には安全性(タイヤがリムから外れ難いこと、締付力を調節して得られる)と、取付け・取外しの容易さとの良きバランスが求められる。
本発明は、使用時のタイヤ性能を損なわずに、繰返し取外してタイヤを再利用できるようにするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、互いに矛盾するこれらの要求(使用時の応力と、取付け・取外し時の応力)を満足させ、しかも製造を単純にし、材料のウエイトを小さくすることにある。
特に、本発明の目的は、上記特許文献1(欧州特許第 0,582,196号明細書)に記載のビードの構造の性能を改良して、適当でない道具を用いてあまり厳しくない条件で取外しができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、サイドウォールがリムに取付けられるビードの所で終わっているタイヤにおいて、カーカス補強材がサイドウォール内を横切ってビードと結合し、少なくとも1つのビードが下記1)〜3):
1) ビードの放射方向下側部分からサイドウォールへ向かって延びたカーカス補強要素と、
2) カーカス補強要素の側方を取囲む使用時の伸び率Afが4%以上である少なくとも1つの周方向ケーブルの束と、
3) 周方向ケーブルとカーカス補強要素との間に配置される連結用ゴム混合物とで構成されることを特徴とするタイヤを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のタイヤビードの一つの具体例を示す放射方向断面図。
【図2】本発明のタイヤビードの別の具体例を示す放射方向断面図。
【図3】タイヤを取外す時にビードが反転する様子を示す図。
【図4】ケーブルを特徴付ける各種伸びを示す図。
【図5】タイヤビードに使用される補強要素の特徴を示す図。
【図6】本発明の変形実施例を示す図。
【図7】本発明の別の変形実施例を示す図。
【図8】タイヤを取外す時に反転して応力を受ける別の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[図4]は応力−伸び曲線を表している。先ず最初にケーブルに起因する特殊な伸びAsがある。この伸びAsはワイヤに引張り応力が加わらなくてもケーブルのワイヤに加わっている締付力があることを表している。[図4]にはさらに塑性伸びApと弾性伸びAeとが示されている。
本発明を説明するために先ず使用時の伸び率Af=Ae+Apの概念を説明する。この使用時の伸び率にはケーブル効果に固有な伸びAsは含まれない。
最大応力Rm は下記〔数2〕で求められる:
【0014】
【数1】

【0015】
(ここで、Fmは最大の力、ρは使用材料の密度(鋼の場合 7.8g/cm3)、M/Lは使用したケーブルの単位質量(linear weight) である。
最大応力Rm は2,000MPa以上であるのが好ましく、2,200MPa以上であるのがより有利である。そうすることによってより軽量なビードにすることができる。軽くすることはそれ自体が性能決定要因であり、また、タイヤの製造コストを下げるのにも貢献する。
以下、添付図面を参照して本発明のタイヤビードの実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0016】
[図1]、[図2]は本発明のタイヤのビードの2つの実施例の放射方向断面図で、これらのビードはカーカス補強要素1と、周方向ケーブル2とを有している。
本明細書で「コード(fil) 」という用語は押出、延伸、圧延またはこれらに類似な操作で得られるモノフィラメントを意味する。ケーブルは複数の細いコードの集合体である。鋼のコードの場合、その直径は約0.05mm〜0.8 mmである。この集合体の製造方法は種々あり、当業者に周知であるので本明細書では説明を省略する。「ケーブル(cable) 」という用語は任意のコードの集合体を意味する(例えば、ストランド、撚り線あるいはいわゆるケーブル)。
「補強要素」といった場合、外観がどのようなものであっても、それが線状であれば、どんな材料でも一般にケーブルおよびモノフィラメントの両方を意味する。例えばレーヨンまたはアラミドのケーブルがこの一般的定義に含まれる。
【0017】
カーカス補強要素1は金属または非金属のケーブルまたはモノフィラメントで構成される。カーカス補強要素1は連結用ゴム組成物3を介して周方向ケーブル2によって確実に固定(投錨)される。こもゴム組成物は下記の〔表1〕の後に項目6で示した配合の混合物「MS」にするのが好ましい。周方向ケーブル2は複数回巻付けられて1つまたは複数のコイルを構成する。このビードに関する詳細な説明は上記特許文献1(欧州特許第 0,582,196号明細書)を参照されたい。このケーブル2自体は[図1]、[図2]の右側の円内に拡大して示すように複数のコード21の集合体で構成されている。
【0018】
例えば、フープ(frette)のない(2+7)0.28 ケーブルを使用することができる。このケーブルは2本の撚線から成るコアを同様に撚られた7本のコード(撚りの方向は反対)の層で取囲んだものである。しかし、本発明を実施する上ではこの集合体の正確なモデルは特に重要ではない。本出願人が行った試験の結果、どのような種類の鋼ケーブルを用いるかは重要でないということが分かっている。
[図5]は、通常のケーブル(曲線C)と、本発明のケーブル(曲線I)と、通常のビードワイヤ(曲線T)との応力−歪み曲線を表している。一般情報として米国特許第 5,010,938号を引用してビードワイヤの製造で一般に用いられる巻付け方法を説明する。すなわち、ビードワイヤは一本のコードを複数回コイル状に巻いて作られる。「ビードワイヤ」とよばれるものは直径が比較的大きい約 0.8mm以上の鋼のコードである。このビードワイヤは多くの場合非常に高い伸び率を示すコードで、最大応力Rm は約2,000MPa(メガパスカル;[図5]の曲線T参照)である。合計の伸びAtに対応する使用時の伸びは大きく、6%程度である。
曲線Cは一般にトレッドウェブに用いられている鋼ケーブルのタイヤの加硫後の特性を示している。使用時の伸び率Af は約2%で、「ケーブル」効果の固有伸びAs 、従って使用するケーブル構造固有の伸びが小さいことが分かる。破断は高い応力レベルRm で起こる。このレベルは3,000MPaに達する。
【0019】
本発明は、上記特許文献1(欧州特許第 0,582,196号明細書)に記載のビード構造の利点を保持したまま一連のタイヤ交換に対して高い耐久性を確保するものである。本発明はさらに、最大応力が高い材料を用いて一連のタイヤ交換に対して高い耐久性を確保することによって使用材料の量を減らし、タイヤを軽量化するものである。本発明の他の利点はケーブルを用いることによってタイヤの製造がはるかに容易になる転にある。事実、ケーブルはビードワイヤのような径の大きいワイヤに比べて柔軟性が高く、作業がし易い。
【0020】
本発明では特殊ケーブル2を用いて補強要素の束4を作る。このケーブルは一般のビードワイヤと同程度の高い最大応力と、一般のケーブルが示す伸び率よりも大きい伸び率との両方を有している。
以下、このようなケーブルを製造するための特別な熱処理方法を説明する。
熱処理が使用時の伸び率Af の変化に及ぼす影響は鋼ワイヤの化学組成と加工硬化速度と、熱処理時間および温度との関数である。使用時の伸び率Af を大幅に増加させるには、使用するワイヤの加工硬化率εの値を 3.5〜4以下にするのが好ましい。正確な限界値は鋼ワイヤの化学組成に依存する。この加工硬化率εは式:ε= In(S0/Sf) で定義される。ここで、S0は加工硬化前のワイヤの横断面積であり、Sfは加工硬化後のワイヤの断面積である。
【0021】
タイヤ用スチール補強材は高い引張強さとゴムへの優れた接着性とを有している。引張強度は当業者に公知の方法、例えば伸線によってスチールワイヤを成形する時に得られる。細いワイヤに行うこの操作では伸線用潤滑剤が必要である。タイヤ製造ではこの伸線用潤滑剤は一般にスチールワイヤを付着する接着被膜、一般には黄銅からなる被膜で形成される。この被膜はスチールワイヤへのゴムの接着力を高くする。変形例では接着被膜としてCu、ZnおよびNiをベースとする合金または伸線用潤滑剤の役目をし且つゴムへの接着力を高くする任意の被膜を用いることができる。複数本のワイヤを組合せて一つのケーブルを形成することができる。こうして接着被覆を有する加工硬化鋼のワイヤから成る補強材が得られる。この補強材は全体および/または構成ワイヤの延性が低いという特徴がある([図5]の曲線C参照)。
【0022】
延性を高めるために加工硬化後に行う熱処理自体は公知である。被覆操作(例えば黄銅被覆) は一般に被膜を損なわないように熱処理の後に行う。
例えば、下記特許文献2には構造を変えることによって延性を良くする手段が記載されている。
【特許文献2】フランス国特許 2,152,078号明細書
【0023】
この特許には焼戻したマルテンサイト構造を得る方法が記載されている。この特許文献2(フランス国特許 2,152,078号明細書)では800 ℃オーダーを越える温度レベルが使用されているので黄銅被覆は必ずこの熱処理を行った後にしなければならない。さもないと高温によって黄銅被膜が破壊されて補強材がゴムに密着しなくなり、タイヤに用いることができなくなる。この特許では次いで急冷されたほぼマルテンサイト構造に対して行われる焼戻し熱処理が記載されている。この焼戻しは鉛浴中で行われるので、その後の洗浄操作が必要になる。撚りケーブルでは洗浄操作が非常に困難なため、これはこの方法をモノフィラメント(単一ワイヤ)ではなくケーブル等の集合体に適用する場合に大きな問題となる。また、材料の延性が十分でないために、従来の黄銅被膜は焼戻し前に行うことはできなかった。焼戻し後にケーブル上に被着させた場合には、黄銅被膜の均一性を確保することが極めて困難である。従って、この特許はケーブルのゴムに対する密着性を保持するための満足できる方法を提供するものではない。
【0024】
本発明では特に有利と思われる各種の製造方法を提案する。これらの方法はそれ自体有利なものであるが、炭素含有率が 0.7〜0.9 %のスチールワイヤから成るケーブルに適用するのがさらに好ましい。
先ず、4 00℃〜500 ℃の温度で5秒以下の短時間行われるジュール加熱(以下JE) による熱処理を説明する。上記時間は加熱時間であって冷却時間は含まない。次に静的対流(以下CV) による熱処理を説明する。この対流は不活性雰囲気下で 420℃より低い温度で行うのが好ましい。この場合その後の冷却も不活性雰囲気下で行う。さらに誘導加熱(以下IN) による熱処理を説明する。この場合の温度は 400℃〜550 ℃で、加熱時間は1秒以下にする。
また、被膜の劣化(例えば黄銅の酸化)をできるだけ抑えるために不活性雰囲気下でJEまたはINによる熱処理を行うこともできる。この場合、冷却時にもケーブルを不活性雰囲気下に保つのが好ましい。変形例としてあるいは上記に加えて上記全ての熱処理の後に酸洗い操作を行い、その後公知のように水で洗浄し乾燥させることもできる。
【0025】
本発明の熱処理はさらに下記特徴の熱処理にまで拡張できる。すなわち低温で行われる回復アニール処理である。低温とはAc1(鋼の結晶構造の変態に相当する温度)以下の温度、好ましくは 550℃以下で、一般には250 ℃以上の温度であると理解される。この処理も各ワイヤが接着性被膜で被覆されたケーブルに直接施される処理である。
【0026】
限界温度は実際の加熱時間と加熱方法とに依存する。ケーブルに与えられるエネルギーは全ての熱処理に関してほぼ同一でなければならないものと思われる。所定温度はケーブル表面の到達温度である。この温度は例えばサーモビジョンか可能な場合には接触温度計で測定できる。温度は処理中に記録するかそれが困難な場合には熱処理直後に記録する。これはIN熱処理の場合に当てはまる。熱処理によってケーブルの使用時の伸び率Afは約4%以上の値となるが、引張強度はタイヤにとって十分なレベルに保持され(熱処理後の最大応力Rmは少なくとも約2,000MPa) 、ゴムへの十分な接着性が保持される。[図5]の曲線Iはそのようなケーブルの典型的な特性を示している。この値は「ケーブル」効果に固有な伸びAsを含まないので、使用時の伸び率の増加に関するものであることは明らかである。ここでは使用時の伸び率の増加分はケーブル構造に依存せず、主として熱処理に依存する。
【0027】
使用するワイヤは一般に炭素含有率が高い(0.4〜1.0 %C)加工硬化鋼で、場合によっては特別に要求される特性を改良するためにマンガン、珪素等の当業者に公知の一般的な元素とさらに少量の不純物を含むことができる。最終径にするための成形は任意の方法、例えば伸線で行うことができる。ケーブルはワイヤを適当な方法(撚り線加工いわゆるケーブル加工)によって組み合わせて製造することができる。
処理されたケーブルは加工硬化と焼戻しがされた単位ワイヤで構成される。このケーブル(すなわち組み立て後のケーブル)に熱処理を施すことによって全てのワイヤを1回の操作で同時に処理することができる。
【0028】
以下、本発明の実施例で使用した方法と得られた結果を説明する。全ての実施例で使用したワイヤはほぼパーライト型の加工硬化され、黄銅被覆されたスチールワイヤであり、フープなしケーブルを構成している。その正確な化学組成は鋼の重量に対する含有率で炭素0.81%、マンガン0.54%、珪素0.25%、燐0.01%、硫黄0.01%、クロム0.11%、ニッケル0.03%、銅0.01%、アルミニウム0.005 %および窒素 0.003%である。
【実施例】
【0029】
実施例1
ジュール熱(JE)による(2+7)0.28 ケーブルの処理
ケーブルが不活性雰囲気(例えば窒素と水素の混合物)下を通過する間にジュール熱でケーブルを連続的に加熱した。加熱時間は約 2.7秒、処理温度は450 ℃にした。加熱後、不活性雰囲気(N2+H2)下でケーブルを冷却し、次いでコイル状に巻いた。このケーブルは下記特性を有する:
【0030】
【表1】

【0031】
この実施例および下記実施例では、
1) LTHTは「低温熱処理」を意味する。
2) 接着力の値(接着)はケーブルとこのケーブルが埋め込まれたブロックを構成するゴムとの間の結合強度を表す。ケーブルの一部がブロックの外側に突き出した状態で集合体を加硫して試験片を作った。表に記載した値はゴムからケーブルを引抜くのに要する力の測定値に相当する。
3) 変化(Δ)はパーセンテージで表示されており、比較することによって各種方法を分類することができる。
4) ゴムに対するケーブル本来の接着力はケーブルとマトリクスとを分離するのに要する力を各試験片の実験でチェックした。
5) 「試験」の欄は 100%NR(天然ゴム)を含むいわゆる試験用混合物のマトリクスに相当し、適当なショアーA硬度(70以上)を得るために補強材を添加し、硫黄含有率(5%〜8%)およびコバルト含有率(0.3 %〜0.4 %)を高くした(パーセント値はエラストマー全体の重量に対する%)。この混合物はケーブルへの接着力に関してケーブルに施した黄銅被膜の化学的変化に敏感である。
【0032】
6) 「MS」の欄は上記文献1(欧州特許第 0,582,196号明細書)の好ましい混合物に相当する。念の為記載すると、上記混合物はSBR合成エラストマーを単独で使用するか、ボリブタジエン(PB)と混合して使用する。SBRのガラス転移温度(Tg)は−70〜−30℃で、PBのガラス転移温度は−40〜−10℃であり、合成エラストマーはエラストマー重量に対して少なくとも合計40%の比率で使用し、残部は天然ゴムで構成される。Tgは示差熱分析で測定した。ガラス転移温度が−48℃のSBR溶液 (50%NR) を50%含み、適当なショアーA硬度値(70以上)とするために補強用充填材と樹脂を添加した混合物を使用するのが好ましい。好ましくは、黄銅被覆ワイヤへの混合物の接着性を高くするためにエラストマーの全重量に対する硫黄含有率を高く (5〜8%) し、コバルトはエラストマーの全重量に対して約 0.2%の割合で使用する。
【0033】
実施例2
(2+7)0.28 ケーブルを対流処理 (CV) し、その後酸洗する
ケーブルを静的対流炉(回復アニール炉)中で制御および不活性雰囲気下、例えば6%の水素を含む水素・窒素雰囲気下で処理した。ケーブルを 350℃で3〜1/2 時間加熱した。その後、同じ温度に30分間維持した後、3時間かけて室温まで冷却した。その後、コイルを解いて、ケーブルを低濃度(約4%)のオルトリン酸または硫酸の浴に通過した。この酸洗浴への浸漬時間は2秒程度にした。浴は室温にした。得られた特性は下記に示してある。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例3
(2+7)0.28 ケーブルの誘導加熱処理(IN)
走行中のケーブルを保護雰囲気下(分解NH3またはN2,2)で誘導加熱した。回復アニールは誘導電流を約40cmの長さに渡って流す電磁誘導で行った。処理速度は変あることができる(例えば80m/分) 。システムを調節してケーブルが均一に熱処理されるようにする。ケーブル表面および誘導炉の出口における温度は 450℃程度にした。下記特性が得られた:
【0036】
【表3】

【0037】
実施例4
保護雰囲気下での(3+8)0.35 ケーブルのジュール加熱処理(JE)
【表4】

【0038】
以上の実施例の解析することによってケーブルに対するゴムの接着力の絶対値は使用するゴム混合物の配合に依存することがわかる。従って、連結用ゴム3として使用する混合物の配合に合った加熱処理を行うことによって接着被膜を変更することができる。
【0039】
上記のMS混合物を用いて得られる接着性能は低温加熱処理での被膜の化学的特性の変化に敏感でないので、このMS混合物を用いた場合にはより大幅な減少が許容できる(「試験」混合物に対して70%程度)。しかし、試験混合物と比較した場合の減少率が50%以下である溶液のみを使用するのが好ましい。上記全ての実施例、特に実施例3では、MS混合物が、最も不利なケースにおいて低いレベルまでの減少を許容する能力が最も高いことがわかる。なお、他の混合物を調製することもでき、上記の記載に限定されるものではなく、熱処理は他の条件で行うことができる。接着力の低下を小さくすることができる場合には「試験」混合物を層3で使用するか、MS混合物に比べて接着性の観点から好ましくない別の混合物を使用することも可能になる。
【0040】
結論として、本発明が提案するタイヤケーブルの製造方法では出発材料として鋼とゴムとの間の接着性を向上させる接着被膜で被覆した加工硬化鋼のスチールワイヤからなるケーブルを用い、このケーブルを 250℃〜Ac1の温度で、使用時の伸び率Afが4%以上の値となるように予め選択された時間だけ回復アニール熱処理し、この処理前および後に上記ケーブルの「試験」混合ゴムに対する接着力を調節して観察される減少を70%以下にする手段を用いる。
この手段としてはLTHT後に鋼ワイヤを酸洗するか、LTHT時に十分に保護された雰囲気を選択し、その後に冷却するか、同等な効果を奏する他の任意の手段を用いることができる。
【0041】
本発明ではゴムと金属との間に良好な接着性が保持される。タイヤ交換時に大きな応力が加わった場合にケーブル2は弾性限界を越えるが、破断限界内に留まる。従って、ケーブルが局所的な力を受けてその初期弾性限界を越えても弾性挙動領域内に留まる。タイヤ取外しで応力を受けた領域に一定の残留伸び(2〜3%程度)が残っても、この伸びはケーブルのコイル2の周囲長さ全体に対してわずか1000分の1程度であるので、新たにタイヤを取付けた後でのタイヤのリム上での挙動を阻害することはない。
【0042】
本発明のタイヤの使用価値はタイヤ寿命が来るまでに行われる複数回の取付け・取外し作業で変化せず、取外しの度に弾性限界を越える伸びが加えられたとしても既に述べたようにこの伸びはケーブル全長に対して極くわずかであるばかりではなく、そのような伸びは互いに重なり合ったコイルのわずかな部分で起り、しかも、好ましい方向であるビードに対して軸線方向外側の束で起こる。
【0043】
上記実施例では、カーカス補強要素を確実に固定(投錨)するための円周方向補強材として伸び率が大きい特殊ケーブルを使用することを提案したが、以下の実施例ではビード構造を構成する上での幾何学的規則を説明する。この規則は上記定義の任意のケーブルと組み合わせて使用することができるが、上記ケーブルと独立して使用することもできる。すなわち、この規則は任意の円周方向補強要素を用いた場合でも使用でき、ケーブル2の代わりに織布のケーブルまたはシングルフィラメントの補強材等の任意の種類および形状のものを用いた場合でも使用できる。円周方向補強要素は伸びが相対的に大きいものでなければならない点に注意されたい。ビードワイヤ(金属のモノフィラメント)を使用する場合には伸び率の大きいワイヤにする(例えば[図5]の曲線T参照)。
【0044】
例えばビード寸法の関係および/または材料選択の関係からビードを比較的大きくなる場合には[図6]、[図7]に示すように軸線方向に対して最も外側にある束の底5を放射方向上方へズラすのが有利である。すなわち、カーカス補強要素に側方から接する円周方向補強要素2の束が少なくとも2つある場合には、上記の束5の放射方向で最も下側の部分と隣りの束4の放射方向で最も下側の部分とを放射方向にズラす。こうすることによってタイヤ取外し時にケーブルに加わる応力を制限することができる。各束の放射方向で最も下側に位置する部分は軸線方向で内側の隣接する束の放射方向で最も下側の部分に対して上方へズラすのが好ましい。
【0045】
同様に、各束41、42、43の最も下側に位置するコイル([図8]参照)の放射方向位置はタイヤを傾けた時にコイルの径がケーブルの伸びをケーブルが破損せずに耐え得るレベルに制限する値以上に拡がらないような位置にある。換言すれば最も大きい応力を受けるコイルの過剰な伸びをごくわずかに抑えることができる。コイルの周囲長さの増加は図8で直径の増加で示されるものに比例しないという点に注意されたい。事実、既に述べたように、変形はコイル全体に均一に起こるのではなく、タイヤを傾ける応力は局部的な応力である。さらに、ビードが先端で支持された時([図8]、[図3]に示す中央の位置)では、比較的浅い所に加わる剪断応力の影響で先端が変形し、それによって別のコイルの伸びが制限される。
【0046】
別の観点から、ビードの幾何学形状をさらに正確に考慮することができ、取り扱う可能性のある製品の硬度まで考慮することができる。[図6]、[図7]には全距離e1およびe2が示されている。e1は最も下側のコイルからリム取付け部(場合によってはその延長部分)と接触するビード表面までの放射方向距離であり、e2は最も下側のコイルからタイヤの内部空洞側のビード表面までの軸方向距離である。問題のコイルが過剰な伸びで損傷しないように、第1近似([図6]、[図7]でe1、e2で示したセグメントに沿った各種製品の硬度の推定)では、e2がe1に等しいか、e1よりも小さいとするのが好ましい。各成分の性質をより正確に考慮した場合にはe1jを任意のパイルの放射方向で最も下側に位置するコイルとビードの放射方向下側表面とを放射方向に隔てる各製品の厚さと考え、e2iを任意の束の放射方向で最も下側に位置するコイルとビードの軸線方向で内側の表面とを放射方向に隔てる各製品の厚さと考え、G1j、G2iを対象とする製品のヤング率とすると、デザイン基準は下記〔数3〕で表される:
【0047】
【数2】

【0048】
従って、ビード傾斜時に束4または5の各コイルの張力レベルが減少し、締付けレベルが低下し、取外しが容易になる構成が提案される。ここで提案した設計規則は経験的なもので、望しいことはビードが傾けられた時に有害な伸びを経験しないということである。ホイールの軸線方向の内側側面は、取付け部より幅の広い一般には円筒形の領域(軸線方向外側に向かって延びたリム壁)として延長されていることが多いが、この場合でもビードをその取付け部から取外すとすぐにタイヤは膨張する。従って、大切なことは傾斜時に各コイルが回転による応力を受けないビード内の基準位置より放射方向上方を通過させられないことである([図8]参照)。
【符号の説明】
【0049】
1 カーカス補強要素
2 周方向ケーブル
3 連結用ゴム組成物
4、5、41、42、43 束
40 コイル
As 固有の伸び
Ap 塑性伸び
Af 使用時の伸び
Ae 弾性伸び
Rm 最大応力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有率が0.4〜1.0重量%である加工硬化鋼の出発材料のケーブルを上記加工硬化鋼とゴムとの間の接着性を向上させる接着被膜で被覆し、このケーブルのゴム混合物に接着する接着力が減少するのを制限する手段を用いて、上記ケーブルの「使用時の伸び率Af」がAf=Ae+Ap>4%(ここで、Aeは弾性伸び率、Apは塑性伸び率)となるように250℃からAc1の間の温度で所定時間の間、回復アニール熱処理を行うことを特徴とするタイヤケーブルの製造方法。
【請求項2】
炭素含有率が0.7〜0.9重量%である鋼を用い、上記熱処理をジュール加熱を用いて400〜500℃の温度で5秒以下の時間で行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭素含有率が0.7〜0.9重量%である鋼を用い、上記熱処理を不活性雰囲気の静的な対流下で420℃以下の温度で行い、その後不活性雰囲気下で冷却する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
炭素含有率が0.7〜0.9重量%である鋼を用い、上記熱処理を誘導加熱によって400〜550℃の温度で1秒以下の時間で行う請求項1に記載の方法。
【請求項5】
熱処理とその後の冷却を不活性雰囲気下で行う請求項2乃至4のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−269600(P2010−269600A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161676(P2010−161676)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【分割の表示】特願2006−59939(P2006−59939)の分割
【原出願日】平成8年7月1日(1996.7.1)
【出願人】(306015087)
【Fターム(参考)】