説明

タイヤ側面への装飾形成方法および装飾形成装置

【課題】生産性を損なうことなくタイヤ側面に形成する装飾のデザイン自由度を向上させる。
【解決手段】加硫済みのタイヤTの側面に装飾を形成する方法であって、加流済みのタイヤTの側面にキャビティ3aを有する金型3を押し当て、該キャビティ3a内に射出装置5から熱可塑性エラストマーを射出、充てんすることによりタイヤTの側面に射出成形部Mを一体化して上記装飾とすることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤの側面に装飾を施す技術に関し、とくにタイヤ側面に適用色彩や形状等に関しデザイン性の高い装飾を形成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、タイヤの側面には、会社名、ブランド名、タイヤサイズ、製造時期その他の情報を、文字、図形、バーコードを含む記号、模様等からなる標章によって表示することが行われており、このようなタイヤ側面の標章は、隆起部、窪み部、リッジ等の凹凸面によって形成するのが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また近年では、デザイン性およびユーザの購買意欲の更なる向上のため、タイヤの側面に有色の装飾を施すことが行われる場合があるが、このよう装飾は、グリーンタイヤの成型時に彩色ゴム(白ゴム)をサイドウォール部内に埋設しておき、加硫後に当該彩色ゴムが埋設された部分の周囲を部分的に削り落としてタイヤのサイドウォール部に文字やラインを露出させる手法がある。しかしながら、この手法では、彩色ゴムの埋設やサイドウォール部の部分的な削り落としに多大な工数がかかり、しかもこれらの作業は手作業であるために一定の品質を得るのが困難であるという問題がある。
【0004】
このような問題点を改善するものとして、各種タイヤ用のカラーテープが開発されており、とくに、特許文献2には、タイヤの側面に環状の凹溝を設けておき、この凹溝内に各種の色のステッカーを貼り付けて装飾とすることで、サイドウォール部が道路の縁石等に接触する際にもステッカーを損傷から防ぐ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−201384号公報
【特許文献2】特開平6−40219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種のタイヤ用カラーテープでは、タイヤの側面に貼り付けるにはタイヤ側面に対する正確な位置合わせを行うことが必要であるうえ、たとえ正確な位置合わせができたとしても貼付け時にシワが生じる場合もあって、複雑な文字や模様からなる装飾を形成することができないのが現状であった。
【0007】
それゆえ、この発明の目的は、生産性を損なうことなくタイヤ側面に形成する装飾のデザイン自由度を向上させることが可能な装飾形成方法および装飾形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、この発明のタイヤ側面への装飾形成方法は、加硫済みのタイヤの側面に装飾を形成する方法であって、前記加流済みのタイヤの側面にキャビティを有する金型を押し当て、該キャビティ内に射出装置から熱可塑性エラストマーを射出、充てんすることによりタイヤの側面に射出成形部を一体化して前記装飾とすることを特徴とするものである。
【0009】
なお、この発明のタイヤ側面への装飾形成方法にあっては、前記熱可塑性エラストマーは、20℃におけるサイドゴムとのJIS−A硬度の差が20度以下であることが好ましく、これによれば、形成される射出成形部をタイヤサイド部に十分に追従させることができて射出成形部の脱落等を防止することができる。
【0010】
また、この発明のタイヤ側面への装飾形成方法にあっては、前記熱可塑性エラストマーの射出を、前記タイヤの内部に圧力を加えた状態で行うことが好ましい。
【0011】
さらに、この発明のタイヤ側面への装飾形成方法にあっては、前記タイヤの側面の、前記射出成形部を一体化する部位に該射出成形部の少なくとも基部を収める凹部を前もって形成しておくことが好ましい。
【0012】
しかも、この発明のタイヤ側面への装飾形成方法にあっては、射出装置を複数用い、各射出装置から異なる色の熱可塑性エラストマーを射出して複数色の射出成形部を形成することが好ましい。
【0013】
またこの発明のタイヤ側面への装飾形成装置は、加硫済みのタイヤの側面に装飾を形成する装置であって、キャビティを有し、前記タイヤの側面に押し付けられる金型と、前記キャビティ内に熱可塑性エラストマーを射出、充てんしてタイヤの側面に射出成形部を一体化して前記装飾とする射出装置と、を具えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、タイヤの側面に金型を押し当て、金型のキャビティ内に熱可塑性エラストマーを射出、充てんしてタイヤ側面に射出成形部を一体化して装飾とすることにより、従来の方法とは異なり、彩色ゴムの埋設やサイドウォール部の部分的な削り落としおよびステッカーの煩雑な位置決め作業を不要とし、生産性を損なうことなく、複雑な文字や模様からなる装飾、更には3次元的な形状を有する装飾をも容易かつ高品質に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明にしたがう一実施形態のタイヤ側面への装飾形成装置を示す断面図である。
【図2】図1の装飾形成装置から装飾が形成されたタイヤを取り出す前の状態を示した斜視図である。
【図3】タイヤ側面上に一体化された射出成形部を示しており、(a)は平面図、(b)は図3(a)中のA−A線に沿う断面図である。
【図4】(a)〜(f)はそれぞれ、タイヤ側面に前もって形成することのできる凹部の変形例を示す、図1中のB−B線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を詳細に説明する。この発明は、加硫後のタイヤの側面上に熱可塑性エラストマーを射出することにより射出成形部を一体化(接着)させ所定の装飾とすることを特徴とするものであり、まず図1を参照し、この発明のタイヤ側面への装飾形成方法を実施するための装置を説明するに、装飾形成装置1は、タイヤTの軸方向に可動に構成されるとともに、タイヤTの少なくとも一方の側面に一体化させる(接着させる)所定形状の上記射出成形部Mに対応したキャビティ3aを有する金型3と、金型3のキャビティ3a内に熱可塑性エラストマーを可塑化して射出する少なくとも一台(ここでは一台)の射出装置5と、を具えている。
【0017】
より詳細には、装飾形成装置1は、タイヤTのビード部をそれぞれ気密に保持する一対のビード保持部材7,8と、基台10に固定されタイヤの他方の側面(装飾を形成する側面とは反対側の側面)を支持する支持部材12と、タイヤTのトレッドを半径方向内側に押圧するセグメント式の複数の押圧部材14と、上記金型3および上側のビード保持部材8を保持するとともにこれらの金型3および上側ビード保持部材8をタイヤTの軸方向に沿って移動させる(基台10に対して近接、離間させる)金型保持部材16と、をさらに具えている。下側のビード保持部材7は、支持軸17に支持されており、該支持軸17内にはタイヤT内に内圧を充てんするための通路17aが形成されている。
【0018】
射出装置5はここでは、ホッパー18内に供給された材料を加熱シリンダ20内で加熱、溶融し、所定量の溶融材料をスクリュー22を前進させてノズル24から射出するインラインスクリュー式であるが、これに限定されず、プリプラ式やプランジャ式など既知の射出装置5を用いてもよい。
【0019】
次いで、このようになる装飾形成装置1を用いてタイヤ側面に装飾を形成する方法について説明する。
【0020】
まず、金型保持部材16を基台10から離間する方向に移動させて金型3を開き、通常のタイヤ製造工程にしたがって製造された加硫後のタイヤTを下側のビード保持部材7の上に載置し、次いで、金型保持部材16を基台10に対して近接方向に移動させて型締めし、次いで、押圧部材14でトレッドを押圧するとともに支持軸17内の通路17aを介してタイヤT内に所定の内圧を付加する。タイヤT内に充てんする空気圧は200〜400kPaとすることが好ましい。なお、空気に代えて水などの液体をタイヤ内に充填、加圧してもよい。この状態で、射出装置5から溶融した熱可塑性エラストマーを金型3のキャビティ3a内に射出、充てんし、タイヤ側面上に射出成形部Mを一体化させる。
【0021】
ここで、熱可塑性エラストマーとは、流動性を有し、タイヤの側面を構成するサイドゴムと同様のゴム弾性を示すポリマーまたはポリマー組成物であり、各種ブロック共重合体が用いられる。熱可塑性エラストマーは所定の着色剤により着色することができ、着色としては彩度のあるものでも無彩色(白、黒、灰色)のものでもよい。熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オイルおよびポリオレフィンやポリフェニレンエーテルなどからなるMNCS(登録商標)(Micro Network Controlled Structure)材料が好適に用いられる。とくに、オイルとしてパラフィン系オイルを含み、その配合量はスチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して50〜170重量部であるが、60〜150重量部が好ましい。この配合量が50重量部未満では充分な低硬度化が達成できず射出成形部Mの柔軟性が不充分となり、また170重量部を超えると射出成形部Mの機械的強度が低下する原因となる。このパラフィン系オイルは、40℃における動粘度が100mm/sec以上のものが好ましく、特に100〜10000mm/sec、さらに200〜5000mm/secが好ましい。また、このパラフィン系オイルは、重量平均分子量が450〜5000であるものが好ましい。
【0022】
次いで、キャビティ3aに射出された材料が冷却され固化するのを待って、タイヤT内の内圧を解放し(大気圧とし)、図2に示すように金型保持部材16を基台10から離間させる方向に移動させるとともに押圧部材14を半径方向外側に移動させ、タイヤTを装飾形成装置1から取り出し、これで1サイクルが終了する。
【0023】
以上のように、タイヤTの側面に金型3を押し当て、金型3のキャビティ3a内に熱可塑性エラストマーを射出、充てんしてタイヤ側面に射出成形部Mを一体化して装飾とすることにより、従来の方法とは異なり、彩色ゴムの埋設やサイドウォール部の部分的な削り落とし、およびステッカーの煩雑な位置決め作業を不要とし、生産性を損なうことなく、複雑な文字や模様からなる装飾、更には3次元的な形状を有する装飾をも容易かつ高精度で形成することが可能となる。また、上記サイクルを繰り返すことで、連続的な装飾形成も可能となる。
【0024】
また、この実施形態では、金型3のキャビティ3a内への熱可塑性エラストマーの射出を、タイヤTの内部に圧力を加えた状態で行うこととしたことから、タイヤ側面と金型3とを密着させることができ、射出した材料がキャビティ3a周囲に漏れ出してバリが形成されるのを防止することができる。
【0025】
なお、このようにしてタイヤTの内部に圧力を加えた状態で熱可塑性エラストマーの充てんを行った場合でも、タイヤ側面は平面ではなく内部構造等により凹凸が存在することとから、金型3の当接面とタイヤ側面との間にすき間が生じ、そのすき間に射出した材料が漏れ出して図3に示すように射出成形部Mの周囲にバリrが形成される場合がある。そこで、このようなバリrの発生防止を目的の一つとして、タイヤ側面の、射出成形部Mを一体化する部位に該射出成形部Mの少なくとも基部Maを収める凹部Trをグリーンタイヤの加硫成形時に形成しておき、該凹部Tr内にも熱可塑性エラストマーを射出、充てんすることが好ましい。このように凹部Tr内に熱可塑性エラストマーを充てんする構成とすることで、バリの発生を確実に防止することができるとともに射出成形部Mとタイヤ表面との接触面積が増大し射出成形部Mを剥がれ難くすることができる。
【0026】
タイヤ側面に形成する凹部Trは、図4(a),(b)に示すように、タイヤ側面の表面に突出部Pを形成し、該突出部Pの内側を凹部Trとしたものでもよいし、図4(c)〜(e)に示すように、タイヤ側面の表面に溝Gを刻設し、該溝Gを凹部Trとしたものでもよい。また、図4(b),(f)に示すように、凹部Trの開口幅は開口端に向かうに連れて狭めることが好ましく、これによれば射出成形部Mと凹部Trの開口端との係合作用により射出成形部Mをより一層剥がれ難くすることができる。
【0027】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は種々の変更、改良を行うことが可能であり、例えば、上記実施形態では、射出装置5は一台であると説明したが、複数の射出装置5を用い、各射出装置5から異なる色の熱可塑性エラストマーを同一キャビティ3aまたは異なるキャビティ3aに射出して多重積層または複数色の射出成形部Mを形成してもよく、これによれば、装飾のデザイン自由度をより一層向上させることができる。
【0028】
また、上記実施形態では、一方のタイヤ側面にのみ装飾を施すと説明したが、支持部材12に代えて金型3を追加し、両方のタイヤ側面に同時に射出成形部Mを一体化して装飾を施すようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
かくして、この発明により、生産性を損なうことなくタイヤ側面に形成する装飾のデザイン自由度を向上させることが可能となった。
【符号の説明】
【0030】
1 タイヤ側面への装飾形成装置
3 金型
3a キャビティ
5 射出装置
7,8 ビード保持部材
10 基台
12 支持部材
14 押圧部材
16 金型保持部材
18 ホッパー
20 加熱シリンダ
22 スクリュー
24 ノズル
M 射出成形部
Ma 射出成形部の基部
T タイヤ
Tr 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫済みのタイヤの側面に装飾を形成する方法であって、
前記加流済みのタイヤの側面にキャビティを有する金型を押し当て、該キャビティ内に射出装置から熱可塑性エラストマーを射出、充てんすることによりタイヤの側面に射出成形部を一体化して前記装飾とすることを特徴とするタイヤ側面への装飾形成方法。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーは、20℃におけるサイドゴムとのJIS−A硬度の差が20度以下である、請求項1に記載のタイヤ側面への装飾形成方法。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーの射出を、前記タイヤの内部に圧力を加えた状態で行う、請求項1または2に記載のタイヤ側面への装飾形成方法。
【請求項4】
前記タイヤの側面の、前記射出成形部を一体化する部位に該射出成形部の少なくとも基部を収める凹部を前もって形成しておく、請求項1〜3の何れか一項に記載のタイヤ側面への装飾形成方法。
【請求項5】
射出装置を複数用い、各射出装置から異なる色の熱可塑性エラストマーを射出して複数色の射出成形部を形成する、請求項1〜4の何れか一項に記載のタイヤ側面への装飾形成方法。
【請求項6】
加硫済みのタイヤの側面に装飾を形成する装置であって、
キャビティを有し、前記タイヤの側面に押し付けられる金型と、
前記キャビティ内に熱可塑性エラストマーを射出、充てんしてタイヤの側面に射出成形部を一体化して前記装飾とする射出装置と、を具えることを特徴とするタイヤ側面への装飾形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−10302(P2013−10302A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145475(P2011−145475)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】