説明

タイヤ接地状態推定装置

【課題】タイヤ接地状態の推定精度を向上させる。
【解決手段】転舵角、車速、及び前輪の路面摩擦係数に基づいて、前輪SAT推定値を推定し、車速に基づいて、後輪スリップ率推定値を推定し、転舵角、車速、及び後輪及び前輪の路面摩擦係数に基づいて、車両の横加速度推定値を推定する。一方、前輪のSAT検出値を検出し、後輪スリップ率検出値を検出し、車両の横加速度検出値を検出する。そして、前輪SATの推定値と検出値との差分で定義される前輪SAT推定誤差を演算し、後輪スリップ率の推定値と検出値との差分で定義される後輪スリップ率推定誤差を演算し、横加速度の推定値と検出値との差分で定義される横加速度推定誤差を演算する。そして、前輪SAT推定誤差、後輪スリップ率推定誤差、横加速度推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、後輪及び前輪の路面摩擦係数を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ接地状態推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された従来技術は、タイヤ特性によって定まるマップを参照し、セルフアライニングトルク、タイヤすべり角、タイヤ横力、タイヤ前後力等に基づいて、タイヤ状態を推定している。この従来技術でタイヤ状態とは、タイヤ力が限界に至るまでの余裕を表している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4213994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来技術では、後輪で発生するスリップ率の影響を考慮していないため、例えば急制動によってスリップ率が大きくなるようなシーンで、タイヤ状態の推定精度が低下する可能性がある。また、予め定められたマップに基づいてフィードフォワードとしてタイヤのグリップ度を推定しているので、例えばセルフアライニングトルク、タイヤすべり角、タイヤ横力、タイヤ前後力等にノイズが含まれると、推定精度を低下させてしまう。
本発明の課題は、タイヤ接地状態の推定精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るタイヤ接地状態推定装置は、転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数を推定し、転舵角、車速、並びに転舵輪及び転舵輪の路面摩擦係数に基づいて、転舵輪セルフアライニングトルク推定値と、非転舵輪スリップ状態推定値と、車両の旋回状態推定値とを推定する。一方、転舵輪のセルフアライニングトルク検出値と、非転舵輪スリップ状態検出値と、車両の旋回状態検出値とを検出する。そして、転舵輪セルフアライニングトルクと、非転舵輪スリップ状態と、旋回状態とにおいて、夫々、推定値と検出値との差分を推定誤差として演算し、各推定誤差の少なくとも一つに応じて、転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数を補正する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るタイヤ接地状態推定装置によれば、転舵輪セルフアライニングトルクと、非転舵輪スリップ状態と、旋回状態との各推定誤差の少なくとも一つに応じて、転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数の推定値を更新することで、路面摩擦係数を含めたタイヤ接地状態の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】車両の概略構成図である。
【図2】タイヤ接地状態推定装置のシステム構成図である。
【図3】車両出力推定部のシステム構成図である。
【図4】タイヤ出力推定部のシステム構成図である。
【図5】タイヤすべり角‐前輪SATの特性変化を示す図である。
【図6】第二実施形態のシステム構成図である。
【図7】第二実施形態を示す車両出力推定部のシステム構成図である。
【図8】第三実施形態を示す車両の概略構成図である。
【図9】第三実施形態を示すタイヤ接地状態推定装置のシステム構成図である。
【図10】第三実施形態を示すタイヤ出力推定部のシステム構成図である。
【図11】第四実施形態を示す車両の概略構成図である。
【図12】第四実施形態を示すタイヤ接地状態推定装置のシステム構成図である。
【図13】第四実施形態を示すタイヤ出力推定部のシステム構成図である。
【図14】第五実施形態を示すタイヤ接地状態推定装置のシステム構成図である。
【図15】第五実施形態を示す車両出力推定部のシステム構成図である。
【図16】第五実施形態を示すタイヤ出力推定部のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本明細書では、次に定義する車両パラメータ、変数、タイヤ力関数を用いる。
[車両パラメータ]
m :車両重量
z :車体ヨー慣性モーメント
w :車輪回転軸まわりの車輪慣性モーメント
f :車両重心点から前輪までの長さ
r :車両重心点から後輪までの長さ
l :タイヤ接地面長
w :タイヤ有効半径
g :重力加速度
t :トレッドベースの半分
f :前輪タイヤコーナリングスティフネス
r :前輪タイヤコーナリングスティフネス
s :タイヤドライビングスティフネス
【0009】
[変数]
V :車速
ωr :後輪車輪速
ωrl :左後輪車輪速
ωrr :左後輪車輪速
yf :前輪タイヤ横力
yr :後輪タイヤ横力
yrl :左後輪タイヤ横力
yrr :右後輪タイヤ横力
xr :後輪タイヤ縦力
r :後輪スリップ率
rl :左後輪スリップ率
rr :左後輪スリップ率
zf :前輪輪荷重
zr :後輪輪荷重
z :前輪SAT
r :後輪制駆動トルク
rl :左後輪制駆動トルク
rr :右後輪制駆動トルク
αf :前輪タイヤすべり角
αr :後輪タイヤすべり角
β :車体すべり角
r :ヨーレート
y :横加速度
μf :前輪路面摩擦係数
μr :後輪路面摩擦係数
μrl :左後輪路面摩擦係数
μrr :右後輪路面摩擦係数
δ :前輪転舵角
ξ :無次元タイヤ粘着域長
ρ :静的前後輪荷重比
【0010】
[タイヤ力関数]
f :前輪タイヤ横力
r :後輪タイヤ横力
xr :後輪タイヤ縦力
f :前輪SAT特性
【0011】
《第一実施形態》
《構成》
図1は、車両の概略構成図である。
この車両は、駆動力発生源としての駆動モータ107Hを備えており、駆動モータ出力軸は減速ギア106Hを介して、後輪車軸に連結されており、左右後輪104HRL、104HRRを駆動する。駆動回路102Hは、駆動モータ出力トルクが統合コントローラ130Hから受信するトルク指令値と一致するようにリチウムイオンバッテリ103Hからの電力で駆動モータ107Hを駆動する。
前輪104HFL、104HFRは運転者が操作するステアリングホイール111Hの回転運動によりステアリングギア114Hを介して機械的に主操舵される他に、補助操舵用モータ112Hによるトルクで補助操舵される。
【0012】
統合コントローラ130Hには、ステアリングホイール111Hの回転軸に取り付けられた操舵角センサ121Hによって検出するハンドル角信号と、補助操舵用モータ112Hから検出された補助操舵用モータ電流検出値と、ステアリングシステムに備えられたトルクセンサ115Hにより検出されるステアリングトルク検出値と、各輪に取り付けられた車輪速センサ105HFL、105HFR、105HRL、105HRRによって検出する車輪速と、横加速度センサ108Hによって検出する横加速度検出値及び縦方向加速度検出値と、ヨーレートセンサ109Hによって検出するヨーレート検出値と、駆動モータ107Hから検出された駆動モータ電流検出値が入力される。統合コントローラ130Hには、次に説明するタイヤ接地状態推定装置を備える。
【0013】
次に、本実施形態におけるアルゴリズムについて説明する。
図2は、タイヤ接地状態推定装置のシステム構成図である。
タイヤ接地状態推定装置は、転舵角検出部110と、後輪制駆動トルク検出部111と、車速検出部120と、車両出力推定部130と、前輪路面摩擦係数推定部150と、後輪路面摩擦係数推定部160と、前輪SAT検出部170と、後輪スリップ率検出部180と、横加速度検出部190と、推定誤差演算部200と、を備える。
【0014】
転舵角検出部110では、例えば、ステアリングシステムに備えられたハンドル角センサ値から、ステアリングギア比とサスペンション幾何構造を考慮して、転舵角を検出する。
後輪制駆動トルク検出部111では、例えば、後輪駆動モータ電流から、駆動モータのトルク係数を考慮して、制駆動トルクを検出する。
【0015】
車速検出部120では、例えば従動輪速度を計測値に基づいて、車速を検出する。本実施形態では、従動輪速度は、左前輪車輪速センサ105HFL、右前輪車輪速センサ105HFRによって検出されるので、これらの検出値から車速を検出する。
車両出力推定部130では、転舵角検出値と、車速検出値と、前輪路面摩擦係数推定値と、後輪路面摩擦係数推定値とに基づいて、前輪セルフアライニングトルク(以下、前輪SATと称す)推定値と、後輪スリップ率推定値と、横加速度推定値と、車体すべり角推定値と、を推定する。
【0016】
ここで、車両出力推定部130について説明する。
図3は、車両出力推定部のシステム構成図である。
車両出力推定部130は、車体すべり角推定部131と、ヨーレート推定部132と、タイヤ出力推定部133と、を備える。
車体すべり角推定部131では、前輪横力推定値と、後輪横力推定値と、車速検出値と、推定誤差とに基づいて、車体すべり角を推定する。車体すべり角のダイナミクスは次式で表現される。
【0017】
【数1】

【0018】
連続時間微分方程式を離散時間に変換する手法として、例えば、オイラー法を用いて離散化すると、次式を得る。
【0019】
【数2】

【0020】
下付き添え字kは離散時間を表し、kが付された文字は、各計算時間で変化する量を表わす。Δtは離散サンプル時間である。上式に基づいて、推定誤差演算部200で算出された推定誤差を考慮して、すべり角推定値を更新する。
すなわち、次式によって車体すべり角を推定する。
【0021】
【数3】

【0022】
ここで、各推定値には、^の記号を付して表記した。ekは、推定誤差演算部で算出される、前輪SAT、後輪スリップ率、横加速度各々に関する推定誤差からなる列ベクトルである。すなわち、次式で表現される。
【0023】
【数4】

【0024】
ここで上付き添え字のTは、ベクトルの転置を示す。
Lβkは、車体すべり角に関するゲインであって、次のような構造を持つ。
【0025】
【数5】

【0026】
Lβkの成分のうち、Lβ1kは前輪SAT推定誤差に掛かる係数、Lβ2kは後輪スリップ率の推定誤差に掛かる係数、Lβ3kは横加速度推定誤差に掛かる係数であるので、車体すべり角は、前輪SAT、後輪スリップ率、横加速度の各々の誤差に基づいて推定されることがわかる。
一般に、車体すべり角は、車両の旋回状態と、前輪路面摩擦係数と、後輪摩擦係数とを支配的な要因として決定される。そこで、本実施形態のように、旋回状態を表わす横加速度と、前輪摩擦係数の情報を含むSATと、後輪摩擦係数の情報を含むスリップ率とを、併せて用いながら車体すべり角を推定することで、推定精度を向上することができる。なお、ゲインLβkの詳細な設定方法は、後に述べる。
ヨーレート推定部132では、前輪横力推定値と、後輪横力推定値と、左右後輪縦力推定値と、推定誤差とに基づいて、次式に従ってヨーレートを推定する。
【0027】
【数6】

【0028】
車体すべり角ダイナミクスと同様にして離散化すると、次式を得る。
【0029】
【数7】

【0030】
本式で表現されるダイナミクスに基づいて、推定誤差演算部180で算出された推定誤差を考慮して、すべり角推定値を下記に示すように更新する。
【0031】
【数8】

【0032】
rkは、ヨーレートに関するゲインベクトルである。車体すべり角の推定と同様に、一般に、ヨーレートは、旋回状態と、前輪路面摩擦係数と、後輪摩擦係数とを支配的な要因として決定される。そこで、推定誤差ekに含まれる、旋回状態を表わす横加速度と、前輪摩擦係数の情報を含むSATと、後輪摩擦係数の情報を含むスリップ率とを、併せて用いることで、ヨーレートを精度良く推定できる。なお、Lrkの設定方法は、後に詳細に述べる。
【0033】
タイヤ出力推定部133は、車速検出値と、車体すべり角推定値と、ヨーレート推定値と、転舵角検出値と、後輪駆動トルク検出値と、前輪路面摩擦係数推定値と、後輪路面摩擦係数推定値と、推定誤差とに基づいて、前輪SAT推定値と、後輪スリップ率推定値と、横加速度推定値と、前輪横力推定値と、後輪横力推定値と、後輪縦力推定値と、を推定し出力する。
【0034】
図4は、タイヤ出力推定部のシステム構成図である。
タイヤ出力推定部133は、タイヤすべり角推定部134と、SAT推定部135と、横力推定部136と、横加速度推定部137と、縦力推定部138と、車輪速推定部139と、スリップ率推定部140と、を備える。
タイヤすべり角推定部134では、ヨーレート推定値と、車体すべり角推定値と、転舵角検出値と、車速検出値とに基づいて、タイヤすべり角を次式で算出する。
【0035】
【数9】

【0036】
SAT推定部135では、前輪すべり角推定値と、前輪路面摩擦係数推定値と、制動時スリップ率とに基づいて、予め取得したSAT特性Jf(,)を用いて前輪SAT推定値を求める。すなわち、次式で表現できる。
【0037】
【数10】

【0038】
一般的に、SAT特性はスリップ率の発生量によっても変化するが、本実施形態において前輪は従動輪であり、スリップ率は無視できるほど小さいとした。例えば、SAT特性としてフィアラモデルを用いると、前輪SATは、次式で計算できる。
【0039】
【数11】

【0040】
但し、φ^kは次式とする。
【0041】
【数12】

【0042】
あるいは、マジックフォーミュラや、実験により取得したデータに基づいて数値的に定義したマップを用いて、前輪SATを計算してもよい。
横力推定部136では、前輪すべり角推定値と、後輪すべり角推定値と、前輪路面摩擦係数推定値と、後輪摩擦係推定値と、転舵角検出値と、後輪スリップ率推定値とに基づいて、前輪横力推定値と、後輪横力推定値とを演算する。
前輪横力推定値は、前輪すべり角推定値と前輪路面摩擦係数推定値に応じて次式に示すように算出される。
【0043】
【数13】

【0044】
f(,)は前輪横力特性である。一般的に、タイヤ横力特性はスリップ率の発生量によっても変化するが、本実施形態において前輪は従動輪であり、スリップ率は無視できるほど小さいとした。例えば、横力特性として、フィアラモデルを用いると、前輪横力は、次式で表現される。
【0045】
【数14】

【0046】
但し、φ^kは次式とする。
【0047】
【数15】

【0048】
また、横力特性として、マジックフォーミュラや数値的なマップを用いてもよい。後輪横力推定値は、後輪すべり角推定値と後輪路面摩擦係数推定値と後輪スリップ率推定値によって決定される。すなわち、次式によって算出される。
【0049】
【数16】

【0050】
後輪横力特性hr(,)には、前輪の場合と同様に、種々のモデルを用いることができる。
また、横加速度推定部137では、前輪横力推定値と、後輪横力推定値とに基づいて、次式で横加速度を計算する。
【0051】
【数17】

【0052】
縦力推定部138では、後輪スリップ率推定値と、後輪路面摩擦係数推定値と、後輪すべり角とに基づいて、後輪縦力推定値を、次式に基づいて演算する。
【0053】
【数18】

【0054】
ここで、hxr(,)はタイヤ縦力特性である。例えば、縦力特性として、ブラッシュモデルを用いると、後輪縦力推定値は、制動時には、次式で表される(自動車の運動と制御、山海堂、安部正人著)。
【0055】
【数19】

【0056】
但し、ξ^kは次式とする。
【0057】
【数20】

【0058】
また、cosθ^kは次式とする。
【0059】
【数21】

【0060】
また、駆動時には、次式で表される(自動車の運動と制御、山海堂、安部正人著)。
【0061】
【数22】

【0062】
但し、ξ^kは次式とする。
【0063】
【数23】

【0064】
また、cosθ^kは次式とする。
【0065】
【数24】

【0066】
車輪速推定部139では、後輪制駆動トルク検出値と、後輪縦力推定値と、推定誤差とに基づいて、車輪速推定値を推定する。制駆動トルクが作用したときの車輪速のダイナミクスは、次式で与えられる。
【0067】
【数25】

【0068】
本式を、例えば、オイラー法を用いて離散化すると、次式を得る。
【0069】
【数26】

【0070】
Δtはサンプル時間である。この離散時間ダイナミクスに基づいて、推定誤差に応じて後輪車輪速を演算する。すなわち、次式により後輪車輪速を演算する。
【0071】
【数27】

【0072】
ここで、ekは推定誤差である。Lωkは車輪速に関するゲインベクトルであり、後に決定方法を詳細に説明する。
スリップ率推定部140では、車輪速推定値と車速検出値とから、後輪スリップ率を推定する。
【0073】
【数28】

【0074】
分母では、車体速と後輪車輪速を比較し、何れか大きい値が選択されるが、一般に、制動時には車体速が、駆動時には車輪速がより大きい値となる。
図3の前輪路面摩擦係数推定部150では、推定誤差から、路面摩擦係数ダイナミクスモデルに基づいて、前輪路面摩擦係数を推定する。路面摩擦係数が区分的に一定であると仮定すると、路面摩擦係数ダイナミクスモデルは次式のように定義される。
【0075】
【数29】

【0076】
本式を離散化した式に基づき、推定誤差に応じて前輪路面摩擦係数を推定する。すなわち、次式により、前輪路面摩擦係数を推定する。
【0077】
【数30】

【0078】
ここで、ゲインLμfkの決定法は後に示す。なお、路面摩擦係数のダイナミクスは、本例のように、時間の一階微分が0と定義してもよいし、例えば、二階微分が0と定義したモデルを用いてもよい。
後輪路面摩擦係数推定部160では、推定誤差から、路面摩擦係数ダイナミクスモデルに基づいて、前輪路面摩擦係数を推定する。路面摩擦係数が区分的に一定であると仮定すると、路面摩擦係数ダイナミクスモデルは次式のように定義される。
【0079】
【数31】

【0080】
本式を離散化した式に基づき、推定誤差に応じて前輪路面摩擦係数を推定する。すなわち、次式により、前輪路面摩擦係数を推定する。
【0081】
【数32】

【0082】
ここで、ゲインLμfkの決定法は後に示す。路面摩擦係数のダイナミクスは、本例のように、時間の一階微分が0と定義してもよいし、例えば、二階微分が0と定義したモデルを用いてもよい。
このように、路面摩擦係数のダイナミクスを定義することで、推定誤差にゲイン乗じることで算出される補正信号に基づいて、現在推定値μ^fk、μ^rkから次離散時間推定値μ^fk+1、μ^rk+1を推定することができる。この演算は、車体すべり角推定部131において、車体すべり角の現在推定値β^kからその次離散時間推定値β^k+1を推定する演算と、同一の計算ステップで行われるので、車体すべり角と路面摩擦係数とを同時に推定できる構成となっている。
【0083】
前後輪の路面摩擦係数をタイヤ力やSATに基づいて推定する際には、車体すべり角の情報が必要であり、多くの場合、車両ダイナミクスモデルを用いて推定される。ところが、一般に、車体すべり角は、前後輪の路面摩擦係数に依存して発生量が決定されるので、推定値すべき量である路面摩擦係数に基づいて推定されるべきである。本実施形態の構成では、車体すべり角と前後輪の路面摩擦係数を同時に推定することを可能にしており、推定値の精度を向上することができる。
【0084】
前輪SAT検出部170では、前輪SATを検出する。前輪SATは、例えば、電動パワーステアリングにおけるトルクセンサ値、アシストモータ電流値、ハンドル角とから、ステアリングシステム回転運動ダイナミクスに基づいて、検出される。あるいは、キングピンやタイロッド軸力を計測する力センサを設置し、サスペンションの幾何構造を考慮して検出してもよい。
【0085】
また、SATを直接検出せず、例えば、タイロッド軸力を前輪SAT検出部170の出力としてもよい。
後輪スリップ率検出部180では、後輪スリップ率を検出する。例えば、車速と後輪車輪速とから後輪スリップ率を検出される。あるいは、車体前後方向加速度をもとに、車体前後方向運動と車輪回転運動のダイナミクスモデルに基づいて設計したオブザーバにより、後輪スリップ率を検出してもよい。
【0086】
横加速度検出部190では、横加速度を検出する。例えば、市販車に搭載されている横すべり防止装置における加速度センサの計測値を参照することで、横加速度を検出する。
推定誤差演算部200では、車両出力推定部130で推定された前輪SAT推定値と、前輪SAT検出部170で検出された前輪SAT検出値の差と、車両出力推定部130で推定された後輪スリップ率推定値と、後輪スリップ率検出部180で検出された後輪スリップ率検出値の差と、車両出力推定部130で推定された横加速度推定値と、後輪スリップ率検出部180で検出された横加速度検出値の差を、演算する。すなわち、推定誤差ekを、次式により演算する。
【0087】
【数33】

【0088】
上付き添え字のTはベクトルの転置を示す。
なお、推定誤差eyは、車両出力推定部において、車体すべり角とヨーレートの推定に用いられ、前輪路面摩擦係数推定部と後輪路面摩擦係数推定部において、前輪路面摩擦係数と後輪路面摩擦係数の推定に用いられる。
次に、推定値の更新に用いたゲインの設定方法について説明する。
状態ベクトルxk=[βkk ωrk μfk μrkTを用いて、車体すべり角、ヨーレート、車輪速、前輪路面摩擦係数、後輪路面摩擦係数、夫々の推定に用いた式をまとめて表現すると、次式のように表現できる。
【0089】
【数34】

【0090】
ここで、入力はuk=[δkrk]であり、ゲインLは、Lk=[Lβkrk Lωk Lμfk LμrkTである。
本式は、時間k+1の状態x^k+1が前離散時間kにおける状態x^kと入力uk、及び推定誤差ekによって、決定されることを示している。
またシステムの出力をyk=[MzkkykTと定義する。出力ykは、状態ベクトルx^kに含まれる車体すべり角と、ヨーレートと、後輪車輪速と、前後輪路面摩擦係数、及び、車両への入力ukによって代数的に演算されるので、次式で表現することができる。
【0091】
【数35】

【0092】
上式に基づいて、システムのヤコビアン行列は次式のように計算される。
【0093】
【数36】

【0094】
ヤコビアンは例えば、状態x^kでの関数の値と、状態を微小に変化させた状態x^k+Δxでの関数の値から差分とることで、数値的に計算できる。すなわち、次式により計算される。
【0095】
【数37】

【0096】
こうして計算されたヤコビアン行列に基づき、各計算ステップで、例えばカルマンフィルタアルゴリズムを用いると、適切なゲインを定めることができる。カルマンフィルタアルゴリズムは、各計算ステップで次の演算を実行する。
【0097】
【数38】

【0098】
ここで、添え字−は事前推定値を表わし、Pkは推定値の共分散行列である。また、Qkはプロセスノイズ共分散行列、Rk+1は検出値に含まれる観測ノイズ共分散行列である。これらは、ノイズ耐性と、推定値応答性のトレードオフを調節するパラメータであって、実用上は、設計者によって定められる。例えば、Rkの対角成分を大きく設定すると、SAT、スリップ率、ヨーレートの検出値に含まれるノイズへの耐性は向上するが、路面摩擦係数が急変したときの、路面摩擦係数推定値の追従応答性は低下する。また、Qkの対角成分を大きく設定すると、SAT、スリップ率、ヨーレートの検出値に含まれるノイズへの耐性は低下するが、路面摩擦係数が急変したときの、路面摩擦係数推定値の追従応答性は向上する。
【0099】
ゲインの決定に本アルゴリズムを用いると、推定状態のノイズ分散を最小化するように状態を推定するため、観測量に含まれるノイズが顕著な場合や、プロセスノイズを仮定したい場合に、精度良い推定値を得ることができる。
あるいは、本アルゴリズムのかわりに極配置法を用いると、推定値の応答時間と減衰係数とを設計仕様としてゲインを決定することができる。
また、前輪SAT、後輪スリップ率、ヨーレートに基づいてゲイン特性を調整するとよい。
先ず、後輪スリップ率検出値の絶対値が0近傍の予め定められた閾値より小さいとき、又は後輪スリップ率推定誤差が予め定められた閾値よりも大きいときには、前輪SAT推定誤差、及びヨーレート推定誤差が小さくなるように、ゲインを設定する。
【0100】
また、前輪SAT検出値の絶対値が0近傍の予め定められた閾値より小さいとき、又は前輪SAT推定誤差が予め定められた閾値よりも大きいときには、後輪スリップ率推定誤差、及びヨーレート推定誤差が小さくなるように、ゲインを設定する。
また、ヨーレート検出値の絶対値が0近傍の予め定められた閾値より小さいとき、又はヨーレート推定誤差が予め定められた閾値よりも大きいときには、前輪SAT推定誤差、及び後輪スリップ率推定誤差が小さくなるように、ゲインを設定する。
【0101】
《作用》
後輪駆動車両において、後輪で発生するスリップ率の影響を考慮せずに、前輪の路面摩擦係数を推定しようとすると、例えば急制動によってスリップ率が大きくなるようなシーンで、タイヤ状態の推定精度が低下する可能性がある。また、予め定められたマップに基づいてフィードフォワードとしてタイヤのグリップ度を推定しているので、例えばセルフアライニングトルク、タイヤすべり角、タイヤ横力、タイヤ前後力等にノイズが含まれると、推定精度を低下させてしまう。
【0102】
図5は、タイヤすべり角‐前輪SATの特性変化を示す図である。
また、駆動輪車輪速、従動輪車輪速、従動輪加速度、駆動輪車輪速差分値、従動輪車輪速差分値、従動輪加速度差分値、駆動輪接地荷重に基づいて、スリップ率の変化量に対する路面摩擦係数の変化量に基づいて路面摩擦係数を推定することも考えられる。しかしながら、旋回時に前後輪に発生するすべり角による、スリップ率に対する縦力特性の変化を考慮せずに、後輪の路面摩擦係数を推定することになるため、旋回時に精度良く路面摩擦係数を推定することが困難である。また、従動輪速度差分値と従動輪速差分値とを算出する際に、車輪速度に含まれるノイズが増幅され、推定精度が低下する可能性もある。
【0103】
そこで、路面摩擦係数μ^f及びμ^rを推定し、転舵角δ、車速V、路面摩擦係数μ^f及びμ^rに基づいて、前輪SAT推定値M^zと、後輪スリップ率推定値s^と、横加速度推定値a^yとを推定する。一方、前輪SAT検出値Mzと、後輪スリップ率検出値sと、横加速度検出値ayとを検出する。そして、前輪SATと、後輪スリップ状態と、旋回状態とにおいて、夫々、推定値と検出値との差分ekを推定誤差として演算し、各推定誤差ekの少なくとも一つに応じて、路面摩擦係数μ^f及びμ^rを補正する。
【0104】
このように、前輪セルフアライニングトルクと、後輪スリップ状態と、旋回状態との各推定誤差ekの少なくとも一つに応じて、路面摩擦係数の推定値μ^fk及びμ^rkを、μ^fk+1及びμ^rk+1へと更新することで、路面摩擦係数の推定精度を向上させることができる。
また、前輪SAT、後輪スリップ率を他方輪の推定にまで考慮して、前輪路面摩擦係数と後輪路面摩擦係数を推定器内で関連付けながら独立に推定可能な構成としたことで、前輪及び後輪の路面摩擦係数を精度良く推定することができる。すなわち、前輪路面摩擦係数は、後輪で発生するスリップ率の影響を考慮して推定し、後輪路面摩擦係数は、前輪及び後輪で発生するすべり角の影響を考慮して推定するため、従来技術と比較して推定精度を改善できる。
【0105】
なお、車両から検出する量として前輪のSAT相当量及び、後輪のスリップ状態を用いたことで、例えばSAT相当量は電動パワーステアリングシステムに備えられた操舵補助モータ電流及びトルクセンサ値から検出でき、スリップ状態は車輪速に基づいて検出できるので、多くの市販車においてセンサを新たに追加する必要がなく、車両原価の増加を抑えることができる。
上記のように、独立に推定された前輪と後輪の路面摩擦係数に基づいて、例えば低速旋回時に前輪と後輪の軌跡が異なり、前輪と後輪の路面摩擦係数が異なる場合の車両運動制御をより精度良く実施することができる。
【0106】
また、一般に、車体すべり角βの発生量は、前輪路面摩擦係数μfと、後輪路面摩擦係数μrと、横加速度ayと、が支配的な要因となって決定されるため、前輪路面摩擦係数の情報を比較的多く含む前輪SAT相当量の検出値と推定値との差と、後輪路面摩擦係数の情報を比較的多く含む後輪スリップ率検出値と推定値との差と、横加速度検出値と推定値の差と、に基づいて、車体すべり角βを推定する構成とした。これにより、精度良く車体すべり角βを推定でき、それを基に推定される前輪路面摩擦係数μfと、後輪摩擦係数μrの推定精度を向上できる。
【0107】
また、前輪路面摩擦係数μfと後輪路面摩擦係数μrを、前輪SATモデル及びタイヤ力モデルに基づいて推定する場合には、前輪タイヤすべり角αfと後輪タイヤすべり角αrの情報が必要であるが、一方で、これらのタイヤすべり角αf及びαrを推定するためには、これから推定しようとしている前輪路面摩擦係数μfと後輪路面摩擦係数μrの情報が必要である。
【0108】
そこで、前輪SAT相当量の検出値と推定値との差と、後輪スリップ状態検出値と推定値との差と、車両旋回状態検出値と推定値の差と、に基づいて、前輪路面摩擦係数と後輪路面摩擦係数とタイヤすべり角の算出に必要な車体すべり角とを同時に推定する構成としたことで、各推定値を精度良く推定できる。
また、路面摩擦係数μ^f及びμ^rの推定は、時間による一階微分を0と定義した動特性モデルを含み、この動特性モデルに、前輪SAT相当量の検出値と推定値との差と、後輪スリップ状態検出値と推定値との差と、車両旋回状態検出値と推定値の差とから算出した量を入力することで、各検出値に含まれるノイズによって路面摩擦係数の推定精度が低下することを防げる。
【0109】
《効果》
以上より、転舵角検出部110が「転舵角検出手段」に対応し、車速検出部120が「車速検出手段」に対応し、前輪路面摩擦係数推定部150及び後輪路面摩擦係数推定部160が「路面摩擦係数推定手段」に対応する。また、車両出力推定部130におけるタイヤ出力推定部133のSAT推定部135、及び数10、数11の演算が「転舵輪セルフアライニングトルク推定手段」に対応し、車両出力推定部130におけるタイヤ出力推定部133のスリップ率推定部140、及び数28の演算が「非転舵輪スリップ状態推定手段」に対応し、車両出力推定部130におけるタイヤ出力推定部133の横加速度推定部137、及び数17の演算が「旋回状態推定手段」に対応する。また、前輪SAT検出部170が「転舵輪セルフアライニングトルク検出手段」に対応し、後輪スリップ率検出部180が「非転舵輪スリップ状態検出手段」に対応し、横加速度検出部190が「旋回状態検出手段」に対応する。また、推定誤差演算部200、及び数33の演算が「転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差演算手段」に対応し、推定誤差演算部200、及び数33の演算が「非転舵輪スリップ状態推定誤差演算手段」に対応し、推定誤差演算部200、及び数33の演算が「旋回状態推定誤差演算手段」に対応する。前輪路面摩擦係数推定部150、後輪路面摩擦係数推定部160、及び数30、数32の演算が「路面摩擦係数補正手段」に対応する。
【0110】
また、車両出力推定部130の車体すべり角推定部131が「車体すべり角推定手段」に対応し、車両出力推定部130の車体すべり角推定部131、及び数3の演算が「車体すべり角補正手段」に対応し、車両出力推定部130のヨーレート推定部132が「ヨーレート推定手段」に対応し、車両出力推定部130のヨーレート推定部132、及び数8が「ヨーレート補正手段」に対応し、車両出力推定部130におけるタイヤ出力推定部133の車輪速推定部139が「後輪車速推定手段」に対応し、車両出力推定部130におけるタイヤ出力推定部133の車輪速推定部139、及び数27が「後輪車速補正手段」に対応する。
【0111】
(1)タイヤ接地状態推定装置は、後輪及び前輪の路面摩擦係数を推定し、転舵角、車速、及び前輪の路面摩擦係数に基づいて、前輪SAT推定値を推定し、車速に基づいて、後輪スリップ率推定値を推定し、転舵角、車速、及び後輪及び前輪の路面摩擦係数に基づいて、車両の横加速度推定値を推定する。一方、前輪のSAT検出値を検出し、後輪スリップ率検出値を検出し、車両の横加速度検出値を検出する。そして、前輪SATの推定値と検出値との差分で定義される前輪SAT推定誤差を演算し、後輪スリップ率の推定値と検出値との差分で定義される後輪スリップ率推定誤差を演算し、横加速度の推定値と検出値との差分で定義される横加速度推定誤差を演算する。そして、前輪SAT推定誤差、後輪スリップ率推定誤差、横加速度推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、後輪及び前輪の路面摩擦係数を補正する。
このように、前輪SATと、後輪スリップ率と、横加速度との各推定誤差の少なくとも一つに応じて、後輪及び前輪の路面摩擦係数の推定値を更新することで、路面摩擦係数を含めたタイヤ接地状態の推定精度を向上させることができる。
【0112】
(2)タイヤ接地状態推定装置は、車体すべり角を推定し、前輪SAT推定誤差、後輪スリップ率推定誤差、横加速度推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、前記車体すべり角推定手段で推定した車体すべり角を補正する。
このように、前輪SATと、後輪スリップ率と、横加速度との各推定誤差の少なくとも一つに応じて、車体すべり角の推定値を更新することで、車体すべり角の推定精度を向上させることができる。したがって、この車体すべり角を用いて推定される前輪SATや後輪スリップ率や横加速度の推定精度を向上させることができる。
【0113】
(3)タイヤ接地状態推定装置は、路面摩擦係数の推定と、車体すべり角の推定とは、同一の演算周期で実行される。
このように、同一の演算時間ステップにおいて、路面摩擦係数の推定と、車体すべり角の推定とを実行することで、各推定精度を向上させることができる。
【0114】
(4)タイヤ接地状態推定装置は、ヨーレートを推定し、前輪SAT推定誤差、後輪スリップ率推定誤差、横加速度推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、ヨーレートを補正する。
このように、前輪SATと、後輪スリップ率と、横加速度との各推定誤差の少なくとも一つに応じて、ヨーレートの推定値を更新することで、ヨーレートの推定精度を向上させることができる。したがって、このヨーレートを用いて推定される前輪SATや後輪スリップ率や横加速度の推定精度を向上させることができる。
【0115】
(5)タイヤ接地状態推定装置は、後輪の車輪速を推定し、前輪SAT推定誤差、後輪スリップ率推定誤差、横加速度推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、後輪車輪速を補正する。
このように、前輪SATと、後輪スリップ率と、横加速度との各推定誤差の少なくとも一つに応じて、後輪車輪速の推定値を更新することで、後輪車輪速の推定精度を向上させることができる。したがって、この後輪車輪速を用いて推定される横加速度の推定精度を向上させることができる。
【0116】
(6)タイヤ接地状態推定装置は、時間による一階微分を0と定義した動特性モデルを用いて路面摩擦係数を推定する。
このように、時間による一階微分を0と定義した動特性モデルを用いることで、各検出値に含まれるノイズによって路面摩擦係数の推定精度が悪化することを防ぐことができる。
【0117】
(7)タイヤ接地状態推定装置は、スリップ状態検出値の絶対値が0近傍の予め定められた閾値より小さいとき、又はスリップ状態推定誤差が予め定められた閾値よりも大きいときには、前輪SAT推定誤差、及び横加速度推定誤差が小さくなるように、後輪及び前輪の路面摩擦係数を補正する。
このように、スリップ状態検出値又はスリップ状態推定誤差に応じて、補正の重み付けを調整することで、後輪及び前輪の路面摩擦係数の推定精度を向上させることができる。
【0118】
(8)タイヤ接地状態推定装置は、前輪SAT検出値の絶対値が0近傍の予め定められた閾値より小さいとき、又は前輪SAT推定誤差が予め定められた閾値よりも大きいときには、後輪スリップ率推定誤差、及び横加速度推定誤差が小さくなるように、後輪及び前輪の路面摩擦係数を補正する。
このように、前輪SAT検出値又は前輪SAT推定誤差に応じて、補正の重み付けを調整することで、後輪及び前輪の路面摩擦係数の推定精度を向上させることができる。
【0119】
(9)タイヤ接地状態推定装置は、横加速度検出値の絶対値が0近傍の予め定められた閾値より小さいとき、又は横加速度推定誤差が予め定められた閾値よりも大きいときには、前輪SAT推定誤差、及び後輪スリップ率推定誤差が小さくなるように、後輪及び前輪の路面摩擦係数を補正する。
このように、横加速度検出値又は横加速度推定誤差に応じて、補正の重み付けを調整することで、後輪及び前輪の路面摩擦係数の推定精度を向上させることができる。
【0120】
《第二実施形態》
《構成》
第二実施形態では、前輪SAT推定値と、後輪車輪速推定値と、ヨーレート推定値とを出力し、これらの推定誤差に応じて、車体すべり角と、前輪路面摩擦係数と、後輪路面摩擦係数とを推定するものである。
図6は、第二実施形態のシステム構成図である。
本実施形態では、転舵角検出部110と、後輪制駆動トルク検出部111と、車速検出部120と、車両出力推定部130と、前輪路面摩擦係数推定部150と、後輪路面摩擦係数推定部160と、前輪SAT検出部170と、後輪車輪速検出部181と、ヨーレート検出部191と、推定誤差演算部200と、を備える。
【0121】
以上の構成要素について、第一実施形態と共通の要素についての説明を省き、本実施形態において変更があるブロックについて、詳細に説明する。
後輪車輪速検出部181では、後輪車輪速を検出する。
ヨーレート検出部191では、ヨーレートを検出する。例えば、既存の市販車の多くに搭載されている、車両横すべり防止装置に備えられたヨーレートセンサ検出値を参照することでヨーレートを検出してもよい。
推定誤差演算部200では、前輪SAT推定値と前輪SAT検出値の差、後輪車輪速推定値と後輪車輪速検出値の差、並びにヨーレート推定値とヨーレート検出値との差を演算する。すなわち、推定誤差ekを、次式により演算する。
【0122】
【数39】

【0123】
上付き添え字のTはベクトルの転置を示す。なお、第一実施形態と同様に、推定誤差ekは、車両出力推定部130において、車体すべり角とヨーレートの推定に用いられ、前輪路面摩擦係数推定部150と後輪路面摩擦係数推定部160において、前輪路面摩擦係数と後輪路面摩擦係数の推定に用いられる。
【0124】
図7は、第二実施形態を示す車両出力推定部のシステム構成図である。
車両出力推定部130は、転舵角検出値と、後輪制駆動トルク検出値と、車速検出値と、前輪路面摩擦係数検出値と、後輪路面摩擦係数検出値と、推定誤差とに基づいて、車体すべり角と、前輪SATと、後輪車輪速と、ヨーレートとを推定する。
ヨーレート推定部132は、前輪横力推定値と、後輪横力推定値と、後輪縦力推定値とに基づいてヨーレートを推定し、車両出力推定部130の出力となる。
タイヤ出力推定部133は、転舵角検出値と、後輪制駆動トルク検出値と、車体すべり角推定値と、ヨーレート推定値と、前輪路面摩擦係数推定値と、後輪路面摩擦係数推定値とに基づいて、前輪SAT推定値と、後輪車輪速推定値とを出力する。
【0125】
なお、車体すべり角推定部131におけるすべり角の推定、ヨーレート推定部132におけるヨーレートの推定、タイヤ出力推定部133における後輪車輪速の推定、前輪路面摩擦係数推定部150における前輪路面摩擦係数の推定、後輪路面摩擦係数推定部160における後輪路面摩擦係数の推定は、第一実施形態で述べた原理で実施される。推定誤差に乗じるゲインは、次のようにして決定される。状態ベクトルxk=[βkk ωrk μfk μrkTを用いて、車体すべり角、ヨーレート、後輪車輪速、前輪摩擦係数、後輪摩擦係数の推定に用いた数をまとめて状態空間表現すると、次式のように表現できる。
【0126】
【数40】

【0127】
ここで、入力はuk=[δkrk]であり、ゲインLは、Lk=[Lβkrk Lωk Lμfk LμrkTである。本式は、時間k+1の状態x^k+1が前離散時間kにおける状態x^kと入力uk、及び推定誤差ekによって、決定されることを示している。
またシステムの出力をyk=[Mzk ωkkTと定義する。出力ykは、状態ベクトルx^kに含まれる車体すべり角と、ヨーレートと、後輪車輪速と、前後輪路面摩擦係数、及び、車両入力ukによって代数的に演算されるので、次式で表現することができる。
【0128】
【数41】

【0129】
上式に基づいて、システムのヤコビアンは次式のように計算される。
【0130】
【数42】

【0131】
このヤコビアンに基づき、各計算ステップで、例えばカルマンフィルタアルゴリズムを用いると、適切なゲインを定めることができる。
《作用》
本実施形態の構成によると、ヨーレートの誤差に基づいて、各状態を推定するので、第一実施形態で必要な横加速の検出が困難な場合でも実施することができる。また、後輪スリップ状態は、第一実施形態で説明したようにスリップ率を検出してもよいし、本実施形態のように、車輪速を検出してもよい。
他の作用効果については、前述した第一実施形態と同様である。
【0132】
《効果》
以上より、後輪車輪速検出部181が「非転舵輪スリップ状態検出手段」に対応し、ヨーレート検出部191が「旋回状態検出手段」に対応する。また、車両出力推定部130におけるタイヤ出力推定部133の車輪速推定部139、及び数25〜数27の演算が「非転舵輪スリップ状態推定手段」に対応し、車両出力推定部130におけるヨーレート推定部132、及び数6〜数8の演算が「旋回状態推定手段」に対応する。
以下に、本実施形態に特有の効果を記載するが、その他に第一実施形態と同一の構成を有する部分については第一実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0133】
(1)タイヤ接地状態推定装置は、前輪及び後輪の路面摩擦係数を推定し、転舵角、車速、及び前輪の路面摩擦係数に基づいて、前輪SAT推定値を推定し、車速に基づいて、後輪車輪速推定値を推定し、転舵角、車速、及び前輪及び後輪の路面摩擦係数に基づいて、車両のヨーレート推定値を推定する。一方、前輪のセルフアライニングトルク検出値を検出し、後輪車輪速検出値を検出し、車両のヨーレート検出値を検出する。そして、前輪SATの推定値と検出値との差分で定義される前輪SAT推定誤差を演算し、後輪車輪速の推定値と検出値との差分で定義される後輪車輪速推定誤差を演算し、ヨーレートの推定値と検出値との差分で定義されるヨーレート推定誤差を演算する。そして、前輪SAT推定誤差、後輪車輪速推定誤差、ヨーレート推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、前輪及び後輪の路面摩擦係数を補正する。
このように、前輪SATと、後輪車輪速と、ヨーレートとの各推定誤差の少なくとも一つに応じて、前輪及び後輪の路面摩擦係数の推定値を更新することで、路面摩擦係数を含めたタイヤ接地状態の推定精度を向上させることができる。
【0134】
《第三実施形態》
《構成》
第三実施形態では、四輪に制動力が作用する場合におけるタイヤ接地状態推定装置について説明する。本実施形態には、第一実施形態と同一の要素が含まれるので、異なる要素について説明する。
図8は、第三実施形態を示す車両の概略構成図である。
本実施形態では、ブレーキ圧センサ141HL、141HRを夫々左後輪と右後輪に備える。
【0135】
図9は、第三実施形態を示すタイヤ接地状態推定装置のシステム構成図である。
後輪制駆動トルク検出部111では、後輪制駆動トルクを検出する。後輪駆動モータの電流から、駆動モータのトルク係数を考慮して算出されるモータが発生する制駆動トルクに、例えば、ブレーキ圧から、予め実験的に取得したマップを介して算出される制動トルクを加えることで、後輪に作用する制駆動トルクを検出する。
【0136】
前輪スリップ率検出部112では、制動時の前輪スリップ率を検出する。制動時には、全ての車輪に制動力が作用し、従動輪が存在しないため、従動輪から車体速の推定が困難である。そこで、例えば、センサで検出した前後加速度を積分することにより車速を算出して、前輪の車輪速の検出値と比較することで、前輪のスリップ率を検出する。
図10は、第三実施形態を示すタイヤ出力推定部のシステム構成図である。
【0137】
タイヤ出力推定部133には、タイヤすべり角推定部134と、SAT推定部135と、横力推定部136と、横加速度推定部137と、縦力推定部138と、車輪速推定部139と、スリップ率推定部140と、を備える。本実施形態では、タイヤすべり角推定部134、横加速度推定部137、縦力推定部138、車輪速推定部139、スリップ率推定部140は、第一実施形態と同一である。
SAT推定部135は、制動力検出値と、前輪路面摩擦係数推定値と、前輪すべり角推定値とに基づいて、前輪SATを推定する。前輪SATは、予め取得したSAT特性Jf(,)を用いて求める。すなわち、次式で表現できる。
【0138】
【数43】

【0139】
fkは制動時に発生する前輪スリップ率の検出値である。例えば、SAT特性としてブラッシュモデルを用いると、前輪SATは、制動時には、次式によって算出される。
【0140】
【数44】

【0141】
但し、ξ^kは次式とする。
【0142】
【数45】

【0143】
また、cosθ^kは次式とする。
【0144】
【数46】

【0145】
横力推定部136では、前輪すべり角推定値と、後輪すべり角推定値と、前輪路面摩擦係数推定値と、後輪摩擦係推定値と、転舵角検出値と、前輪スリップ率検出値と、後輪スリップ率推定値とに基づいて、前輪横力推定値と、後輪横力推定値とを演算する。
前輪横力推定値は、前輪すべり角推定値と前輪路面摩擦係数推定値と前輪スリップ率検出値とに応じて決定される。すなわち、次式によって算出される。
【0146】
【数47】

【0147】
f(,)は前輪横力特性である。例えば、ブラッシュモデルを用いると、スリップ率発生時の横力を算出することができる。後輪横力推定値は、後輪すべり角推定値と後輪路面摩擦係数推定値と後輪スリップ率推定値によって決定される。すなわち、次式によって算出される。
【0148】
【数48】

【0149】
後輪横力特性hr(,)には、前輪の場合と同様に、種々のモデルを用いることができる。
《作用》
本実施形態によれば、各輪に制動力が作用する場合においても、前輪SAT、前輪横力の算出において、制動により生じた前輪スリップ率に応じた補正を施すため、前輪路面摩擦係数、後輪路面摩擦係数を含む推定値を精度良く推定することができる。
他の作用効果については、前述した第一実施形態と同様である。
【0150】
《効果》
以上より、ブレーキ圧センサ141HL、141HR、及び後輪制駆動トルク検出部111が「制動状態検出手段」に対応し、前輪スリップ率検出部112が「前輪スリップ状態検出手段」に対応する。また、車両出力推定部130におけるタイヤ出力推定部133のSAT推定部135、及び数43、数44の演算が「転舵輪セルフアライニングトルク推定手段」に対応する。
以下に、本実施形態に特有の効果を記載するが、その他に第一実施形態と同一の構成を有する部分については第一実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0151】
(1)タイヤ接地状態推定装置は、制動状態に応じて前輪スリップ率検出値を検出し、転舵角、車速、前輪の路面摩擦係数、及び前輪スリップ率検出値に基づいて、前輪SAT推定値を推定し、転舵角、車速、後輪及び前輪の路面摩擦係数、並びに前輪スリップ率検出値に基づいて、横加速度推定値を推定する。
このように、制動時の前輪スリップ率検出値を加味して前輪SATや横加速度を推定するので、四輪に制動力が作用する場合にも、精度良く、前輪SATや横加速度を推定することができる。したがって、この前輪SATや横加速度を用いて補正される前輪路面摩擦係数及び後輪路面摩擦係数の推定精度を向上させることができる。
【0152】
《第四実施形態》
《構成》
第四実施形態では、後輪について左右輪独立にスリップ率と駆動トルクが検出できる場合において、左後輪路面摩擦係数と、右後輪路面摩擦係数とを、独立に推定するものである。
なお、第一実施形態と同一の構成要素については説明を省略し、異なる要素について説明する。
図11は、第四実施形態を示す車両の概略構成図である。
本実施形態の車両は、駆動力発生源としての駆動モータ107HL、107HRを備えており、駆動モータ出力軸は減速ギア106HL、106HRを介して、後輪104HRL、104HRRに連結されており、左右後輪を独立に駆動する。
【0153】
図12は、第四実施形態を示すタイヤ接地状態推定装置のシステム構成図である。
左後輪制駆動トルク検出部114では、左後輪制駆動トルクを検出する。例えば、左輪駆動モータの電流値を計測して、トルク係数を考慮することで、制駆動トルクを検出する。
右後輪制駆動トルク検出部113では、同様にして、右後輪制駆動トルクを検出する。
【0154】
図13は、第四実施形態を示すタイヤ出力推定部のシステム構成図である。
タイヤ出力推定部133では、すべり角推定値と、ヨーレート推定値と、転舵角検出値と、左後輪制駆動トルク検出値と、右後輪制駆動トルク検出値と、前輪路面摩擦係数推定値と、左後輪路面摩擦係数推定値と、右後輪路面摩擦係数推定値と、推定誤差とに基づいて、前輪SAT推定値と、左後輪スリップ率推定値と、右後輪スリップ率推定値と、横加速度推定値と、前輪横力と、後輪横力と、後輪縦力とを推定する。
【0155】
横力推定部136では、前輪路面摩擦係数推定値と、前輪すべり角推定値と、後輪すべり角推定値と、左後輪路面摩擦係数推定値と、右後輪路面摩擦係数推定値と、転舵角検出値と、左右後輪スリップ率推定値とに基づいて、前輪横力と、後輪横力とを推定する。
前輪横力推定値は、前輪すべり角推定値と前輪路面摩擦係数推定値に応じて決定される。すなわち、次式によって算出される。
【0156】
【数49】

【0157】
f(,)は前輪横力特性である。例えば、横力特性として、例えば、第一実施形態に記載のように、フィアラモデルが用いられる。また、横力特性として、マジックフォーミュラや、実験的によって取得された数値的マップを用いてもよい。左右後輪横力推定値は、後輪すべり角推定値と後輪路面摩擦係数推定値と後輪スリップ率推定値によって決定される。すなわち、左後輪横力は次式で算出される。
【0158】
【数50】

【0159】
また、右後輪横力は次式で算出される。
【0160】
【数51】

【0161】
後輪横力特性hr(,)には、前輪の場合と同様に、種々のモデルを用いることができる。
横加速度推定部137では、前輪横力推定値と、左右後輪横力推定値とに基づいて、次式を用いて、横加速度を計算する。
【0162】
【数52】

【0163】
縦力推定部138では、左後輪路面摩擦係数推定値と、右後輪路面摩擦係数推定値と、左右後輪スリップ率推定値とに基づいて、左右後輪縦力を推定する。左後輪横力は次式で算出される。
【0164】
【数53】

【0165】
右後輪横力は、次式で算出される。
【0166】
【数54】

【0167】
車輪速推定部139では、左右後輪制駆動トルク検出値と、左右後輪縦力推定値と、推定誤差演算部200で演算される推定誤差とに基づいて、左右車輪速推定値を推定する。
先ず、左後輪について、制駆動トルクが作用したときの車輪速のダイナミクスは、次式で与えられる。
【0168】
【数55】

【0169】
本式を、例えば、オイラー法を用いて離散化すると、次式を得る。
【0170】
【数56】

【0171】
Δtはサンプル時間である。この離散時間ダイナミクスに基づいて、推定誤差に応じて後輪車輪速を演算する。すなわち、次式により後輪車輪速を演算する。
【0172】
【数57】

【0173】
ここで、ekは推定誤差である。Lrlωkは左輪車輪速に関するゲインベクトルであり、後に決定方法を詳細に説明する。
一方、右後輪についても、同様に車輪速が演算される。すなわち、次式により演算される。
【0174】
【数58】

【0175】
スリップ率推定部140では、左右車輪速推定値と車速検出値とに基づいて、左右後輪スリップ率を演算する。先ず、左後輪スリップ率は、次式で算出される。
【0176】
【数59】

【0177】
同様に、右後輪スリップ率は、次式で算出される。
【0178】
【数60】

【0179】
分母では、車体速と後輪車輪速を比較し、何れか大きい値が選択されるが、一般に、制動時には車体速が、駆動時には車輪速がより大きい値となる。
図12の左後輪路面摩擦係数推定部161では、推定誤差から、路面摩擦係数ダイナミクスモデルに基づいて、左後輪路面摩擦係数を推定する。路面摩擦係数が区分的に一定であると仮定すると、路面摩擦係数ダイナミクスモデルは次式のように定義される。
【0180】
【数61】

【0181】
本式を離散化した式に基づき、推定誤差に応じて左後輪路面摩擦係数を推定する。すなわち、次式により、前輪路面摩擦係数を推定する。
【0182】
【数62】

【0183】
ここで、ゲインLμrlkの決定法は後に示す。
右後輪路面摩擦係数推定部162では、推定誤差から、路面摩擦係数ダイナミクスモデルに基づいて、右後輪路面摩擦係数を推定する。路面摩擦係数が区分的に一定であると仮定すると、路面摩擦係数ダイナミクスモデルは次式のように定義される。
【0184】
【数63】

【0185】
本式を離散化した式に基づき、推定誤差に応じて左後輪路面摩擦係数を推定する。すなわち、次式により、前輪路面摩擦係数を推定する。
【0186】
【数64】

【0187】
ここで、ゲインLμrlkの決定法は後に示す。
推定誤差演算部200では、車両出力推定部130で推定された前輪SAT推定値と、前輪SAT検出部170で検出された前輪SAT検出値の差と、車両出力推定部130で推定された左後輪スリップ率推定値と、左後輪スリップ率検出部183で検出された左後輪スリップ率検出値の差と、車両出力推定部130で推定された右後輪スリップ率推定値と、右後輪スリップ率検出部182で検出された右後輪スリップ率検出値の差と、車両出力推定部130で推定された横加速度推定値と、後輪スリップ率検出部180で検出された横加速度検出値の差を、演算する。
すなわち、推定誤差ekを、次式により演算する。
【0188】
【数65】

【0189】
上付き添え字のTはベクトルの転置を示す。なお、推定誤差eyは、車両出力推定部において、車体すべり角とヨーレートの推定に用いられ、前輪路面摩擦係数推定部と後輪路面摩擦係数推定部において、前輪路面摩擦係数と後輪路面摩擦係数の推定に用いられる。
次に、各推定値の演算に用いるゲインの設定方法について説明する。
状態ベクトルxk=[βkk ωrlk ωrrk μfk μrlk μrrk]を用いて、車体すべり角、ヨーレート、左後輪車輪速、右後輪車輪速、前輪路面摩擦係数、左後輪路面摩擦係数、右後輪路面摩擦係数の推定に用いる式をまとめて表現すると、次式のように表現できる。
【0190】
【数66】

【0191】
ここで、入力はuk=[δkrlkrrk]であり、ゲインLkは、次式によって表される。
【0192】
【数67】

【0193】
本式は、時間k+1の状態x^k+1が前離散時間kにおける状態x^kと入力uk、及び推定誤差ekによって、決定されることを示している。
またシステムの出力をyk=[MzkrlkrrkykTと定義する。出力ykは、状態ベクトルx^kに含まれる車体すべり角と、ヨーレートと、左右後輪車輪速と、前輪路面摩擦係数、左右後輪路面摩擦係数、及び、車両入力ukによって代数的に演算されるので、次式で表現することができる。
【0194】
【数68】

【0195】
上式に基づいて、システムのヤコビアン行列は次式のように計算される。
【0196】
【数69】

【0197】
このヤコビアン行列を用いて、第一実施形態に記載の方法でゲインLkを決定する。
本実施形態では、左右独立に検出した後輪スリップ率に基づいて、左右後輪の路面摩擦係数を独立に推定する構成となっているので、左右輪で路面摩擦係数が異なる場合においても、各輪の路面摩擦係数を精度良く推定でき、車体すべり角の推定精度も併せて向上できる。
【0198】
《作用》
本実施形態では、左後輪スリップ率s^rlと右後輪スリップ率s^rrとを個別に推定し、左後輪路面摩擦係数μ^rlと右後輪路面摩擦係数μ^rrとを個別に推定し、左後輪スリップ率srlと右後輪スリップ率srrとを個別に検出し、左後輪スリップ率推定誤差と右後輪スリップ率推定誤差とを個別に推定することで、左右輪で路面摩擦係数が異なる場合においても、各輪の路面摩擦係数を精度良く推定でき、車体すべり角の推定精度も併せて向上できる。
その他の作用効果については、前述した第一実施形態と同様である。
【0199】
《効果》
以上より、車両出力推定部130におけるタイヤ出力推定部133のスリップ率推定部140、及び数59、数60の演算が「非転舵輪スリップ状態推定手段」に対応し、左後輪路面摩擦係数推定部161、右後輪路面摩擦係数推定部162、及び数62、数64が「路面摩擦係数推定手段」に対応し、左後輪スリップ率検出部183及び右後輪スリップ率検出部182が「非転舵輪スリップ状態検出手段」に対応し、推定誤差演算部200、及び数65の演算が「非転舵輪スリップ状態推定誤差演算手段」に対応する。
以下に、本実施形態に特有の効果を記載するが、その他に第一実施形態と同一の構成を有する部分については第一実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0200】
(1)タイヤ接地状態推定装置は、左後輪及び右後輪のスリップ率を個別に推定し、左後輪及び右後輪の路面摩擦係数を個別に推定し、左後輪及び右後輪のスリップ率を個別に検出し、左後輪及び右後輪のスリップ率推定誤差を個別に演算する。
このように、後輪のスリップ率や路面摩擦係数やスリップ率推定誤差を、左右輪で個別に演算することで、左右輪で値が異なる場合であっても、スリップ率や路面摩擦係数の推定精度、及びスリップ率推定誤差の演算精度を向上させることができる。したがって、このスリップ率や路面摩擦係数やスリップ率推定誤差を用いて推定されるタイヤ接地状態の推定精度を向上させることができる。
【0201】
《第五実施形態》
《構成》
第一実施形態〜第四実施形態では、車体すべり角と前後輪路面摩擦係数とを同時に推定する構成を説明したが、第五実施形態では、これらを同時に推定せず、路面摩擦係数の推定に必要なすべり角を前計算ステップで算出した値を用いるものである。
本実施形態を実現するのに必要な車両構成は第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0202】
図15は、第五実施形態を示すタイヤ接地状態推定装置のシステム構成図である。
車両出力推定部130では、転舵角検出値と、車速検出値と、前輪路面摩擦係数推定値と、後輪路面摩擦係数推定値とに基づいて、前輪SAT推定値と、後輪スリップ率推定値と、横加速度推定値と、車体すべり角推定値とを推定する。
図16は、第五実施形態を示す車両出力推定部のシステム構成図である。
車体すべり角推定部131では、前輪横力推定値と、後輪横力推定値と、車速検出値とに基づいて、車体すべり角を推定する。第一実施形態に記載の車体すべり角のダイナミクスを離散化することで得られる、次式を用いて車体すべり角を推定する。
【0203】
【数70】

【0204】
ヨーレート推定部132では、前輪横力推定値と、後輪横力推定値と、左右後輪縦力推定値とに基づいて、ヨーレートを推定する。第一実施形態に記載のヨーレートのダイナミクスを離散化することで得られる、次式を用いてヨーレートを推定する。すなわち、次式によって算出される。
【0205】
【数71】

【0206】
タイヤ出力推定部133では、 車速検出値と、車体すべり角推定値と、ヨーレート推定値と、転舵角検出値と、後輪駆動トルク検出値と、前輪路面摩擦係数推定値と、後輪路面摩擦係数推定値とに基づいて、前輪SAT推定値と、後輪スリップ率推定値と、横加速度推定値と、車体すべり角推定部131、前輪横力推定値と、後輪横力推定値と、後輪縦力推定値と、前輪タイヤすべり角と、後輪縦力推定値と、後輪すべり角推定値と、を推定し出力する。
車輪速推定部139では、後輪縦力推定値と、後輪制駆動トルク検出値とに基づいて、車輪速推定値を推定する。
第一実施形態に記載した車輪速のダイナミクスを離散化した式を用いて、車輪速を推定する。すなわち、次式により後輪車輪速を演算する。
【0207】
【数72】

【0208】
タイヤ出力推定部133に含まれる、その他の構成要素については、第一実施形態と同様であるので説明を省略する。
前輪路面摩擦係数推定部150では、前輪タイヤすべり角と、前輪SAT推定値と、推定誤差とに基づいて、前輪路面摩擦係数を推定する。先ず、前輪SAT検出値を推定誤差ek=[Mzk−M^zkk−s^kyk−a^ykTの第一成分と、前輪SAT推定値とから算出する。すなわち、次式により計算する。
【0209】
【数73】

【0210】
e(1)kは推定誤差の第一成分を表わす。
また、例えば、フィアラモデルによると、前輪SATは、次式によって算出される。
【0211】
【数74】

【0212】
但し、φ^kは次式とする。
【0213】
【数75】

【0214】
本式を前輪路面摩擦係数について解いた式を用いて、前輪路面摩擦係数を推定する。すなわち、次式を用いて推定する。
【0215】
【数76】

【0216】
本実施形態は、第一実施形態から第四実施形態までと異なり、路面摩擦係数にダイナミクスを定義しない。そこで、路面摩擦係数の計算時には、代数ループを回避するために、前輪路面摩擦係数推定部150の入力は前離散時間における値を用いる必要がある。
なお、本例ではフィアラモデルに基づいて路面摩擦係数を推定しているが、例えば、SATから路面摩擦係数への関係を実験的に取得したマップを用いて、推定してもよい。
後輪路面摩擦係数推定部160では、後輪タイヤすべり角と、後輪タイヤ横力推定値と、後輪タイヤ縦力推定値と、後輪スリップ率推定値と、推定誤差とから、後輪路面摩擦係数を推定する。
先ず、後輪スリップ率推定値を、推定誤差ek=[Mzk−M^zkrk−s^rkyk−a^ykTの第2成分と、スリップ率推定値とから算出する。すなわち、次式により計算する。
【0217】
【数77】

【0218】
e(2)kは推定誤差の第2成分を表わす。後輪タイヤ力特性が、例えば、ブラッシュモデルでモデル化できるとする。
路面摩擦係数を求めるために、先ず、次式で定義されるタイヤ力粘着比P^rkを計算する。
【0219】
【数78】

【0220】
但し、後輪縦力と後輪横力の合力である後輪タイヤ力Frk-1は、後輪縦力推定値と、後輪横力推定値とから、次式で計算される。
【0221】
【数79】

【0222】
タイヤ力粘着比は、タイヤ粘着域長ξ^kと次の関係がある。
【0223】
【数80】

【0224】
本式をξ^kについて解く。具体的には、例えば、ニュートン法等の数値計算アルゴリズムを用いることで、ξ^kを求めることができる。さらに、求められたξ^kから、次式に基づいて、路面摩擦係数が算出される。
【0225】
【数81】

【0226】
《作用》
本実施形態におけるタイヤ接地状態推定装置では、SATから前輪路面摩擦係数、スリップ率から後輪路面摩擦係数の関係を、各々タイヤモデルから導出し、これらを用いてSATとスリップ率から直接的に前後輪の路面摩擦係数を算出する構成であるので、第一実施形態から第四実施形態において必要であったゲインを設定するためのヤコビアン行列の計算が不要であり、より計算量を低減できる。
【0227】
《効果》
以上より、前輪路面摩擦係数推定部150、後輪路面摩擦係数推定部160、及び数76、数81の演算が「路面摩擦係数推定手段」、「路面摩擦係数補正手段」に対応する。
以下に、本実施形態に特有の効果を記載するが、その他に第一実施形態と同一の構成を有する部分については第一実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0228】
(1)タイヤ接地状態推定装置は、後輪及び前輪の路面摩擦係数を推定し、転舵角、車速、及び前輪の路面摩擦係数に基づいて、前輪SAT推定値を推定し、車速に基づいて、後輪スリップ率推定値を推定し、転舵角、車速、及び後輪及び前輪の路面摩擦係数に基づいて、車両の横加速度推定値を推定する。一方、前輪のSAT検出値を検出し、後輪スリップ率検出値を検出し、車両の横加速度検出値を検出する。そして、前輪SATの推定値と検出値との差分で定義される前輪SAT推定誤差を演算し、後輪スリップ率の推定値と検出値との差分で定義される後輪スリップ率推定誤差を演算し、横加速度の推定値と検出値との差分で定義される横加速度推定誤差を演算する。そして、前輪SAT推定誤差、後輪スリップ率推定誤差、横加速度推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、後輪及び前輪の路面摩擦係数を補正する。
【0229】
このように、前輪SATと、後輪スリップ率と、横加速度との各推定誤差の少なくとも一つに応じて、後輪及び前輪の路面摩擦係数の推定値を更新することで、路面摩擦係数を含めたタイヤ接地状態の推定精度を向上させることができる。特に、前輪SATから前輪路面摩擦係数をタイヤモデルから導出すると共に、後輪スリップ率から後輪路面摩擦係数をタイヤモデルから導出する、つまり前輪SATと後輪スリップ率から直接的に前後輪の路面摩擦係数を算出する構成であるので、計算負荷の増大を抑制することができる。
【符号の説明】
【0230】
102H 駆動回路
103H リチウムイオンバッテリ
104HFL 左前輪
104HFR 右前輪
104HRL 左後輪
104HRL 右後輪
105HFL 左前輪車輪速センサ
105HFR 右前輪車輪速センサ
106H 減速ギア
106HL 左後輪減速ギア
106HR 右後輪減速ギア
107H 駆動モータ
107HL 左後輪駆動モータ
107HR 右後輪駆動モータ
108H 横加速度センサ
109H ヨーレートセンサ
111H ステアリングホイール
112H 補助操舵用モータ
114H ステアリングギア
115H トルクセンサ
121H 操舵角センサ
130H 統合コントローラ
141HL ブレーキ圧センサ
110 転舵角検出部
111 後輪制駆動トルク検出部
112 前輪スリップ率検出部
113 右後輪制駆動トルク検出部
114 左後輪制駆動トルク検出部
120 車速検出部
130 車両出力推定部
131 車体すべり角推定部
132 ヨーレート推定部
133 タイヤ出力推定部
134 角推定部
135 推定部
136 横力推定部
137 横加速度推定部
138 縦力推定部
139 車輪速推定部
140 スリップ率推定部
150 前輪路面摩擦係数推定部
160 後輪路面摩擦係数推定部
161 左後輪路面摩擦係数推定部
162 右後輪路面摩擦係数推定部
170 前輪SAT検出部
180 後輪スリップ率検出部
181 後輪車輪速検出部
182 右後輪スリップ率検出部
183 左後輪スリップ率検出部
190 横加速度検出部
191 ヨーレート検出部
200 推定誤差演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪の転舵角を検出する転舵角検出手段と、
車速を検出する車速検出手段と、
転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定手段と、
前記転舵角検出手段で検出した転舵角、前記車速検出手段で検出した車速、及び前記路面摩擦係数推定手段で推定した転舵輪の路面摩擦係数に基づいて、転舵輪セルフアライニングトルク推定値を推定する転舵輪セルフアライニングトルク推定手段と、
前記車速検出手段で検出した車速に基づいて、非転舵輪スリップ状態推定値を推定する非転舵輪スリップ状態推定手段と、
前記転舵角検出手段で検出した転舵角、前記車速検出手段で検出した車速、及び前記路面摩擦係数推定手段で推定した転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数に基づいて、車両の旋回状態推定値を推定する旋回状態推定手段と、
転舵輪のセルフアライニングトルク検出値を検出する転舵輪セルフアライニングトルク検出手段と、
非転舵輪スリップ状態検出値を検出する非転舵輪スリップ状態検出手段と、
前記車両の旋回状態検出値を検出する旋回状態検出手段と、
前記転舵輪セルフアライニングトルク推定手段で推定した転舵輪セルフアライニングトルク推定値、及び前記転舵輪セルフアライニングトルク検出手段で検出した転舵輪セルフアライニングトルク検出値の差分で定義される転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差を演算する転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差演算手段と、
前記非転舵輪スリップ状態推定手段で推定した非転舵輪スリップ状態推定値、及び前記非転舵輪スリップ状態検出手段で検出した非転舵輪スリップ状態検出値の差分で定義される非転舵輪スリップ状態推定誤差を演算する非転舵輪スリップ状態推定誤差演算手段と、
前記旋回状態推定手段で推定した車両の旋回状態推定値、及び前記旋回状態検出手段で検出した車両の旋回状態検出値の差分で定義される旋回状態推定誤差を演算する旋回状態推定誤差演算手段と、
前記転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差演算手段で演算した転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差、前記非転舵輪スリップ状態推定誤差演算手段で演算した非転舵輪スリップ状態推定誤差、前記旋回状態推定誤差演算手段で演算した旋回状態推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、前記路面摩擦係数推定手段で推定した転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数を補正する路面摩擦係数補正手段と、を備えることを特徴とするタイヤ接地状態推定装置。
【請求項2】
車体すべり角を推定する車体すべり角推定手段と、
前記転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差演算手段で演算した転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差、前記非転舵輪スリップ状態推定誤差演算手段で演算した非転舵輪スリップ状態推定誤差、前記旋回状態推定誤差演算手段で演算した旋回状態推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、前記車体すべり角推定手段で推定した車体すべり角を補正する車体すべり角補正手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【請求項3】
前記路面摩擦係数推定手段による路面摩擦係数の推定と、前記車体すべり角推定手段による車体すべり角の推定とは、同一の演算周期で実行されることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【請求項4】
ヨーレートを推定するヨーレート推定手段と、
前記転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差演算手段で演算した転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差、前記非転舵輪スリップ状態推定誤差演算手段で演算した非転舵輪スリップ状態推定誤差、前記旋回状態推定誤差演算手段で演算した旋回状態推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、前記ヨーレート推定手段で推定したヨーレートを補正するヨーレート補正手段と、を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【請求項5】
駆動輪の車輪速を推定する駆動輪車輪速推定手段と、
前記転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差演算手段で演算した転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差、前記非転舵輪スリップ状態推定誤差演算手段で演算した非転舵輪スリップ状態推定誤差、前記旋回状態推定誤差演算手段で演算した旋回状態推定誤差のうち、少なくとも一つに応じて、前記駆動輪車輪速推定手段で推定した駆動輪車輪速を補正する非転舵輪車輪速補正手段と、を備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【請求項6】
前記路面摩擦係数推定手段は、時間による一階微分を0と定義した動特性モデルを有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【請求項7】
制動状態を検出する制動状態検出手段と、
該制動状態検出手段で検出した制動状態に応じて転舵輪スリップ状態検出値を検出する転舵輪スリップ状態検出手段と、を備え、
前記転舵輪セルフアライニングトルク推定手段は、
前記転舵角検出手段で検出した転舵角、前記車速検出手段で検出した車速、前記路面摩擦係数推定手段で推定した転舵輪の路面摩擦係数、及び転舵輪スリップ状態検出手段で検出した転舵輪スリップ状態検出値に基づいて、転舵輪セルフアライニングトルク推定値を推定し、
前記旋回状態推定手段は、
前記転舵角検出手段で検出した転舵角、前記車速検出手段で検出した車速、前記路面摩擦係数推定手段で推定した転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数、並びに転舵輪スリップ状態検出手段で検出した転舵輪スリップ状態検出値に基づいて、車両の旋回状態推定値を推定することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【請求項8】
前記非転舵輪スリップ状態推定手段は、左非転舵輪及び右非転舵輪のスリップ状態を個別に推定し、
前記路面摩擦係数推定手段は、左非転舵輪及び右非転舵輪の路面摩擦係数を個別に推定し、
前記非転舵輪スリップ状態検出手段は、左非転舵輪及び右非転舵輪のスリップ状態を個別に検出し、
前記非転舵輪スリップ状態推定誤差演算手段は、左非転舵輪及び右非転舵輪のスリップ状態推定誤差を個別に演算することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【請求項9】
前記路面摩擦係数補正手段は、
前記スリップ状態検出値の絶対値が0近傍の予め定められた閾値より小さいとき、又は前記スリップ状態推定誤差が予め定められた閾値よりも大きいときには、前記転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差、及び前記旋回状態推定誤差が小さくなるように、前記路面摩擦係数推定手段で推定した転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数を補正することを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【請求項10】
前記路面摩擦係数補正手段は、
前記転舵輪セルフアライニングトルク検出値の絶対値が0近傍の予め定められた閾値より小さいとき、又は前記転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差が予め定められた閾値よりも大きいときには、前記非転舵輪スリップ状態推定誤差、及び前記旋回状態推定誤差が小さくなるように、前記路面摩擦係数推定手段で推定した転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数を補正することを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【請求項11】
前記路面摩擦係数補正手段は、
前記旋回状態検出値の絶対値が0近傍の予め定められた閾値より小さいとき、又は前記旋回状態推定誤差が予め定められた閾値よりも大きいときには、前記転舵輪セルフアライニングトルク推定誤差、及び前記非転舵輪スリップ状態推定誤差が小さくなるように、前記路面摩擦係数推定手段で推定した転舵輪及び非転舵輪の路面摩擦係数を補正することを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載のタイヤ接地状態推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−153290(P2012−153290A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15208(P2011−15208)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】