説明

タングステン化合物及びモリブデン化合物並びに化学蒸着(CVD)のためのその使用

【課題】更なる新規の前駆物質、特にWN層用の前駆物質であって、明細書中に記載の欠点を有さず又は少なくとも公知の前駆物質に対する明らかな向上をもたらす前駆物質に大きな要望があった。
【解決手段】一般式(I)
【化1】


[式中、M、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は明細書中の意味を有する]で示される化合物によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の新規のタングステン化合物及びモリブデン化合物、化学蒸着によりタングステンもしくはモリブデンを含有する層を堆積させるためのその使用並びに前記方法により製造されるタングステンもしくはモリブデンを含有する層に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化タングステンは、例えばその抵抗性、優れた耐熱性、耐薬品性及び機械的安定性のため、銅回路を有する集積回路におけるバリヤ層のために将来性のある材料である。その導電性は高く、銅と混合相を形成しない。シリコン超小型電子技術での使用のためのかかるW−Nを基礎とする層は、目下、プラズマを基礎とする堆積法(物理蒸着、PVD)によって製造することができる。しかしながら、ますます高集積化される回路のための過度の要求、例えばパターン形成された表面上に適合する層堆積("段差被覆")に関して、CVD法は技術的実現性の限界を迎えている。これらの用途のために、強化化学的な気相堆積(化学蒸着、CVD)ないし特定のCVD法を用いた原子層−精密堆積、いわゆる原子層堆積(ALD)が使用される。このCVD法のためには、必然的に、その都度の所望の層のために相応する個々の元素の化学的出発物質を提供せねばならない。
【0003】
現時点では、Wを基礎とする層構造のCVDのためには主にハロゲン化物、例えばWF6又はWCl6が使用される。例えばJ.P.Lu、W.Y.Hsu、J.D.Luttmer、L.K.MagelとH.L.Tsai著のJ.Electrochem Soc.145(1998)、L21−L23、又はA.E.KaloyerosとE.Eisenbraun著のAnnu.Rev.Mater Sci.30(2000),363−385を参照のこと。これには、種々の欠点がある。一方では、ハロゲンラジカルは、しばしば、そのエッチング特性/腐食特性に基づき、複雑な層構造の構築のためには望ましくなく、他方では、フッ化タングステンは、その低い揮発性と高い堆積温度によって欠点を有する。タングステン(VI)−アミドイミド、例えば(tBuN=)2W(NHtBu)2(H.T.ChiuとS.H.Chuang著のJ.Mater Res.8(1993),1353を参照のこと)又は(tBuN=)2W(NMe)2(J.S.Becker、S.Suh、S.WangとR.G.Gordon著のChem Mater.15(2003),2969−2976を参照のこと)は、同様に提案されている。前記の出発物質で製造された被膜は、非常に頻繁に、不所望な高濃度の炭素を含有し、そして比較的低い導電性を示す。
【非特許文献1】J.P.Lu、W.Y.Hsu、J.D.Luttmer、L.K.MagelとH.L.Tsai著のJ.Electrochem Soc.145(1998)、L21−L23
【非特許文献2】A.E.KaloyerosとE.Eisenbraun著のAnnu.Rev.Mater Sci.30(2000),363−385
【非特許文献3】H.T.ChiuとS.H.Chuang著のJ.Mater Res.8(1993),1353
【非特許文献4】J.S.Becker、S.Suh、S.WangとR.G.Gordon著のChem Mater.15(2003),2969−2976
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、更なる新規の前駆物質、特にWN層用の前駆物質であって、上述の欠点を有さず又は少なくとも公知の前駆物質に対する明らかな向上をもたらす前駆物質に大きな要望がある。
【0005】
従って、本発明の課題は、かかる前駆物質を提供することにあった。
【0006】
ここで驚くべきことに、DAD配位子を有する錯体タングステンアミドが前記の要件を満たすことが判明した。DADは、一般構造(A)
【化1】

[式中、
1及びR2は、互いに無関係に、置換されていてよいC1〜C12−アルキル基、C5〜C12−シクロアルキル基、C6〜C10−アリール基、1−アルケニル基、2−アルケニル基、3−アルケニル基、トリオルガノシリル基−SiR3又はアミノ基NR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキル基を表し、
5及びR6は、互いに無関係に、H、置換されていてよいC1〜C12−アルキル基、C5〜C12−シクロアルキル基又はC6〜C10−アリール基を意味する]で示される1,4−ジアザ−ブタジエン(1,4−za−butaien)から誘導される残基を表す。
【0007】
更に本発明は、類似のモリブデン化合物に関する。前記化合物は、例えば導電性のモリブデン−窒化物層(MoN)用のCVD前駆物質として適している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明の対象は、一般式(I)
【化2】

[式中、Mは、Mo又はWを表し、
1及びR2は、互いに無関係に、置換されていてよいC1〜C12−アルキル基、C5〜C12−シクロアルキル基、C6〜C10−アリール基、1−アルケニル基、2−アルケニル基、3−アルケニル基、トリオルガノシリル基−SiR3又はアミノ基NR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキル基を表し、
3及びR4は、互いに無関係に、置換されていてよいC1〜C8−アルキル基、C5〜C10−シクロアルキル基、C6〜C14−アリール基、SiR3又はNR2を表し、その際、Rは、上述の意味を有し、かつ
5及びR6は、互いに無関係に、H又は置換されていてよいC1〜C12−アルキル基、C5〜C12−シクロアルキル基又はC6〜C10−アリール基を表す]で示される化合物である。
【0009】
ここでは、"置換されている"とは、特に挙げられない限りは、C1〜C4−アルコキシ−又はジ(C1〜C4−アルキル)−アミノ基による置換を表す。
【0010】
有利な一般式(I)の本発明による化合物は、一般式(II)
【化3】

[式中、
Mは、W又はMoを表し、
1及びR2は、C1〜C5−アルキル基又はC5〜C6−シクロアルキル基であり、かつ
3及びR4は、互いに無関係に、C1〜C5−アルキル基、C5〜C6−シクロアルキル基、1〜3個のC1〜C5−アルキル基で置換されていてよいC6〜C10−アリール基、有利には置換されていてよいフェニル基、SiR3又はNR2を意味し、その際、Rは、C1〜C4−アルキルを表す]で示されるタングステン化合物及びモリブデン化合物である。
【0011】
特に、構造(III)
【化4】

[式中、
3及びR4は、互いに無関係に、C1〜C5−アルキル基、1〜3個のC1〜C5−アルキル基で置換されていてよいC6〜C10−アリール基、有利には置換されていてよいフェニル基、SiR3又はNR2の群からの基を表す]を有するt−ブチル置換されたDAD配位子を有するタングステン化合物及びモリブデン化合物が好ましい。
【0012】
殊に、構造(IV)
【化5】

[式中、Mは、W又はMoを表す]で示される化合物が好ましい。
【0013】
アルキルあるいはアルコキシは、それぞれ無関係に、直鎖状、環状又は分枝鎖状のアルキル基あるいはアルコキシ基を表してよく、その際、前記基は、場合により更に置換されていてよい。トリアルキルシリル基あるいはモノアルキルアミノ基もしくはジアルキルアミノ基のアルキル部又はモノアルキルヒドラジンもしくはジアルキルヒドラジン又はモノアルキルシラン、ジアルキルシラン、トリアルキルシランもしくはテトラアルキルシランのアルキル部についても同じことが言える。
【0014】
1〜C4−アルキルは、本発明の範囲では、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチルを表し、更にC1〜C5−アルキルは、例えばn−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピルを表し、更にC1〜C6−アルキルは、例えばn−ヘキシル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピル、1−エチル−2−メチルプロピル又は1−エチル−2−メチルプロピルを表し、更にC1〜C12−アルキルは、例えばn−ヘプチル及びn−オクチル、n−ノニル、n−デシル及びn−ドデシルを表す。
【0015】
1−アルケニル、2−アルケニル、3−アルケニルは、例えば前記のアルキル基に相応するアルケニル基を表す。C1〜C4−アルコキシは、例えば前記のアルキル基に相応するアルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシを表す。
【0016】
5〜C12−シクロアルキルは、例えば置換されていてよい単環式、二環式又は三環式のアルキル基を表す。例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、ピナニル、アダマンチル、異性体メンチル、n−ノニル、n−デシル、n−ドデシルである。C5〜C6−シクロアルキルとしては、シクロペンチル及びシクロヘキシルが好ましい。
【0017】
アリールは、それぞれ無関係に、6〜14個、有利には6〜10個の骨格炭素原子を有する芳香族基であって、1環あたり、どの骨格炭素原子も交換されていないか、1個、2個又は3個の骨格炭素原子が、窒素、硫黄又は酸素の群から選択されるヘテロ原子と交換されている基を表すが、有利には6〜14個、有利には6〜10個の骨格炭素原子を有する炭素環式の芳香族基を表す。
【0018】
置換されていてよいC6〜C10−アリールのための例は、フェニル、2,6−ジイソプロピルフェニル、o−トリル、p−トリル、m−トリル又はナフチルである。
【0019】
更に、炭素環式の芳香族基又は複素芳香族基は、1環あたり、フルオロ、シアノ、C1〜C12−アルキル、C1〜C12−フルオロアルキル、C1〜C12−フルオロアルコキシ、C1〜C12−アルコキシ又はジ(C1〜C8−アルキル)アミノの群から選択される5個までの同一又は異なる置換基で置換されていてよい。
【0020】
本発明による化合物は、容易に、一般式(B)
【化6】

[式中、R1、R2、R5及びR6は、上述の意味を有する]で示されるDAD配位子前駆物質を、少なくとも1種の還元剤の存在下で、一般式(C)
[M(NR3)(NR4)Cl22
[式中、
Mは、W又はMoを表し、
Lは、脂肪族又は芳香族のアミン、エーテル、ハロゲニド、有利にはクロリド又はニトリル、有利にはアセトニトリルを表し、
3又はR4は、上述の意味を有する]で示されるMo錯体又はW錯体と、好適な溶剤中で、有利には−20℃〜120℃の温度で反応させることで製造することができる。
【0021】
好適な還元剤としては、卑金属、例えばMg、Zn、Li、Na、Alなどが該当する。好適な溶剤は、例えばエーテル、例えばTHF、ジエチルエーテル又は1,2−ジメトキシエタン、双極性の非プロトン性の溶剤、例えばアセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド又はt−アミン又は脂肪族又は芳香族の炭化水素、例えばトルエン、ペンタン、ヘキサンなど並びにこれらの混合物である。一般式(C)[M(NR3)(NR4)Cl22]で示されるMo錯体又はW錯体は、一般に知られる方法により単離された形で又はその場で製造することができる。
【0022】
更にまた、一般式(B)のDAD配位子前駆物質を、あらかじめ好適な溶剤中で還元剤により還元させて、その事前還元されたDAD配位子の溶液を、例えばLiを還元剤として使用した場合にLi[DAD]又はLi2[DAD]を、一般式(C)の錯体の溶液と反応させることも可能である。−20℃〜120℃の反応温度を慎重に選択かつ制御した場合には、本発明による化合物を、例えばWCl6と1種又は複数種のアミンH2NR3又はH2NR4、還元剤及び一般式(B)のDAD配位子前駆物質と一緒に添加して、反応させるワンポット合成で製造することも可能である。
【0023】
本発明による化合物の単離のために、溶剤は、例えば減圧下での留去によって除去され、そして引き続き洗浄による更なる精製並びにその後の乾燥を行うことができる。かかる好適な方法は、当業者に公知である。
【0024】
本発明によるタングステン化合物及びモリブデン化合物から、タングステン及び/又はモリブデンを含有する金属、金属合金、酸化物、窒化物及び炭化物並びにそれらの混合物及び/又は非晶質及び/又は晶質の形の化合物を、CVD、ALD(原子層堆積)及び熱分解によって作製することができる。かかる混合物及び化合物は、例えばコンデンサ中の誘電層及びトランジスタ中のゲート、マイクロ波用セラミック、圧電セラミック、熱的及び化学的バリヤ層及び化学的バリヤ層、拡散バリヤ層、硬質物質被覆、導電性層、反射防止層、光学的層及びIRミラー用層として使用される。また、粉末の製造のために火炎熱分解用の前駆物質としても、本発明によるタングステン化合物及びモリブデン化合物は適している。
【0025】
従って本発明は、また、本発明によるタングステン化合物及びモリブデン化合物を、タングステンもしくはモリブデンを含有する層を、場合により層中のその都度の元素の規定の濃度の定義された調整のために他の化合物と混合して、化学蒸着(CVD)により堆積させるために用いる使用に関する。
【0026】
本発明による化合物を、CVDによるタングステン窒化物(WN)層又はモリブデン窒化物層のための前駆物質として使用することが好ましい。
【0027】
更に本発明の対象は、相応して本発明による化合物からCVDによって製造されたタングステンもしくはモリブデンを含有する層、有利にはWN層又はMoN層である。
【0028】
更に本発明の対象は、かかる本発明によるタングステンもしくはモリブデンを含有する層、有利にはWN層又はMoN層を1又は複数有する基板である。かかる基板は、例えばシリコンウェハ又は既に他の表面パターン形成された単層又は複層を有するシリコンウェハであってよく、例えば該基板は、一般に、シリコンを基礎とする集積回路の製造のために使用される。従って、基板は、本発明の範囲内では、例えば金属表面又は誘電性表面であってもよい。
【0029】
有利には、本発明による化合物は、CVD法において以下の方法工程で使用される:
好適な基板、例えばシリコンウェハ又は既に他の表面パターン形成された単層又は複層を有するシリコンウェハは、例えば一般的にシリコンを基礎とする集積回路の製造のために使用されるが、該基板は、CVD装置中に入れて、層堆積に適した250℃〜700℃の範囲の温度に加熱される。キャリヤーガスは、出発物質で規定の濃度に負荷され、その際、不活性ガス、例えばN2及び/又はArを、不活性の気化した溶剤、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン又は酢酸ブチルと組み合わせてもキャリヤーガスとして使用でき、かつ反応性の、例えば還元性のガス、例えばH2を添加してもよい。負荷されたキャリヤーガスは、規定の暴露期間にわたり、加熱された基板の表面上に導かれ、その際、その都度の出発物質の濃度と暴露期間は互いに、所定の層厚と所定の組成を有するWもしくはMoを含有する層が基板の表面上に、非晶質に、ナノ結晶性に又はマイクロ結晶性にもしくは多結晶性に形成されるという前提で調整される。典型的な暴露期間は、堆積速度に応じて、例えば数秒ないし複数分又は複数時間である。典型的な堆積速度は、例えば0.1nm/秒〜1nm/秒であってよい。しかしながら、別の堆積速度も可能である。典型的な層厚は、例えば0.1〜100nm、有利には0.5〜50nm、特に有利には1〜10nmである。
【0030】
有利には、CVD技術の範囲内では、一般式(I)、好ましくは一般式(II)〜(IV)の化合物による出発物質の他に、純粋なW金属層もしくはMo金属層、WもしくはMoが豊富な層並びにW−NもしくはMo−Nを含有する混合層を製造するために、また以下の出発物質(以下、N出発物質とも呼称する)を、W−NもしくはMo−Nを含有する混合系層の窒素濃度(N濃度)の意図的な調整のために使用する:
アンモニア(NH3)、モノ(C1〜C12−アルキル)ヒドラジン、特にt−ブチルヒドラジン(tBu−NH−NH2)及び/又は1,1−ジ(C1〜C5−アルキル)ヒドラジン、特に1,1−ジメチルヒドラジン((CH32N−NH2)。特に、製造された混合系層の安定性に後続の高温加熱工程で影響を及ぼすために、更なる元素を、CVD堆積中に混加して、形成された層の再結晶化挙動に影響を及ぼすことも有用なことがある。シリコンを基礎とする集積回路中での使用のためには、これについては特に元素のケイ素(Si)が該当する。有利には、W−N−Si又はMo−N−Siを含有する混合系層の製造のためには、上述の出発物質の他に、以下の出発物質(以下、Si出発物質とも呼称する)を、ケイ素濃度の調整のために、CVD技術において使用する。
【0031】
シラン(SiH4)、ジシラン(Si26)、モノ(C1〜C12−アルキル)シラン、特にt−ブチルシラン(tBu−SiH3)、ジ(C1〜C12−アルキル)シラン、特にジ−t−ブチルシラン(tBu2SiH2)、トリ(C1〜C12−アルキル)シラン、特にトリエチルシラン((C253SiH)及び/又はテトラ(C1〜C12−アルキル)シラン、特にテトラエチルシラン((C254Si)。
【0032】
本発明による方法を実施する場合には、出発物質の厳密な濃度は、基本的にその都度の出発物質のCVD法における熱分解特性に左右される。有利には、出発物質は、以下のモル比で使用される:
N出発物質/本発明によるW化合物もしくはMo化合物の比率0:1〜20000:1、Si出発物質/本発明によるW化合物もしくはMo化合物の比率0:1〜100:1。基板の表面温度は、有利には300℃〜600℃の範囲の温度に調整される。キャリヤーガスと出発物質の全圧は、有利には10hPa〜1000hPaの範囲の圧力に調整され、その際、全ての出発物質の合計の分圧とキャリヤーガスの分圧との比は、0.0001〜0.5である。堆積速度は、有利には0.05nm/分〜50nm/分である。
【0033】
以下の点が、本発明の技術的利点として見なされる:
1)揮発性のタングステン化合物及びモリブデン化合物の合成は、高価なリチウムアルキル又はリチウムアミドを必要としない。
2)W(III)層又はMo(III)層のためのCVDに適した離脱基としてDAD配位子を供給することは、基板被覆中での不所望な炭素取り込みの危険を減らす。
3)N出発物質、例えばヒドラジン誘導体(例えば1,1−ジメチルヒドラジン又はt−ブチルヒドラジン)との組合せにおいて、CVDにおいて、層組成の意図的な変更が可能となる。
【0034】
以下の実施例は、本発明を例示的に説明するために役立ち、限定として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0035】
以下の実施例において、略語及び化合物略称は以下の構造を意味する:
tBuAD=1,4−ジ−t−ブチル−1,4−ジアザ−ブタジエン(1,4−i−tert.−butyl−1,4−diza−butaien)、もしくはその二価の基
【化7】

tBu=t−ブチル
tBuN=tBu−N=t−ブチルイミノ
Py=ピリジン
DME=ジメトキシエタン
実施例1
(DtBuAD)Mo(NtBu)2の製造
1.69gのDtBuAD(10.0ミリモル)及び0.24gのMg粉末(10.0ミリモル)を、4.00gのMo(NtBu)2Cl2(dme)(10.0ミリモル)を50mlのTHF中に溶かした溶液に0℃で添加する。該反応混合物を、23℃で1日間撹拌する。次いで、溶剤を、20ミリバールで除去し、生成物をその都度100mlのヘキサンで2回抽出する。引き続き、ヘキサンを蒸散させ、そして残留物を90℃/10-2ミリバールで昇華させる。収量:2.44g(60%)、橙色の固体;融点79℃。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2
(DtBuAD)W(NtBu)2の製造
610mgのDtBuAD(3.6ミリモル)及び90mgのMg粉末(3.7ミリモル)を、2.00gのW(NtBu)2Cl2Py2(3.6ミリモル)を50mlのTHF中に溶かした溶液に0℃で添加する。該反応混合物を、室温で1日間撹拌する。溶剤を、20ミリバールで除去し、生成物をその都度100mlのヘキサンで2回抽出する。引き続き、ヘキサンを蒸散させ、そして残留物を100℃/10-2ミリバールで昇華させる。収量:590mg(28%)、橙色の固体;融点73.5℃。
【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式中、
Mは、W又はMoを表し、
1及びR2は、互いに無関係に、置換されていてよいC1〜C12−アルキル基、C5〜C12−シクロアルキル基、C6〜C10−アリール基、1−アルケニル基、2−アルケニル基、3−アルケニル基、トリオルガノシリル基−SiR3又はアミノ基NR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキル基を表し、
3及びR4は、互いに無関係に、置換されていてよいC1〜C8−アルキル基、C5〜C10−シクロアルキル基、C6〜C14−アリール基、SiR3又はNR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキル基を表し、かつ
5及びR6は、互いに無関係に、H又は置換されていてよいC1〜C12−アルキル基、C5〜C12−シクロアルキル基又はC6〜C10−アリール基を表す]で示される化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物であって、該化合物が、一般式(II)
【化2】

[式中、
Mは、W又はMoを表し、
1及びR2は、互いに無関係に、置換されていてよいC1〜C12−アルキル基、C5〜C12−シクロアルキル基、C6〜C10−アリール基、1−アルケニル基、2−アルケニル基、3−アルケニル基、トリオルガノシリル基−SiR3又はアミノ基NR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキル基を表し、かつ
3及びR4は、互いに無関係に、C1〜C5−アルキル基、C5〜C6−シクロアルキル基、1〜3個のC1〜C5−アルキル基によって置換されていてよいC6〜C10−アリール基、SiR3又はNR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキルを表す]に相当することを特徴とする化合物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の化合物であって、該化合物が、一般式(III)
【化3】

[式中、
Mは、W又はMoを表し、
3及びR4は、互いに無関係に、置換されていてよいC1〜C8−アルキル基、C5〜C10−シクロアルキル基、C6〜C14−アリール基、SiR3又はNR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキル基を表すか、又は
3及びR4は、互いに無関係に、C1〜C5−アルキル基、C5〜C6−シクロアルキル基、1〜3個のC1〜C5−アルキル基によって置換されていてよいC6〜C10−アリール基、SiR3又はNR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキルを表す]に相当することを特徴とする化合物。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の化合物であって、該化合物が、一般式(IV)
【化4】

[式中、Mは、W又はMoを表す]に相当することを特徴とする化合物。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の化合物の製造方法において、一般式(B)
【化5】

[式中、
1及びR2は、互いに無関係に、置換されていてよいC1〜C12−アルキル基、C5〜C12−シクロアルキル基、C6〜C10−アリール基、1−アルケニル基、2−アルケニル基、3−アルケニル基、トリオルガノシリル基−SiR3又はアミノ基NR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキル基を表し、
5及びR6は、互いに無関係に、H又は置換されていてよいC1〜C12−アルキル基、C5〜C12−シクロアルキル基又はC6〜C10−アリール基を表す]で示されるDAD配位子前駆物質を、少なくとも1種の還元剤の存在下で、一般式(C)
[M(NR3)(NR4)Cl22
[式中、
Mは、W又はMoを表し、
Lは、脂肪族又は芳香族のアミン、エーテル、ハロゲニド、有利にはクロリド又はニトリル、有利にはアセトニトリルを表し、
3及びR4は、互いに無関係に、置換されていてよいC1〜C8−アルキル基、C5〜C10−シクロアルキル基、C6〜C14−アリール基、SiR3又はNR2を表し、その際、Rは、C1〜C4−アルキル基を表す]で示されるMo錯体又はW錯体と、好適な溶剤中で、有利には−20℃〜120℃の温度で反応させることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項記載の化合物を、化学蒸着法によりタングステンもしくはモリブデンを含有する層の製造のための前駆化合物(前駆物質)として用いる使用。
【請求項7】
請求項6記載の使用であって、タングステンもしくはモリブデンを含有する層が、タングステン窒化物(WN)層もしくはモリブデン窒化物(MoN)層であることを特徴とする使用。
【請求項8】
請求項1から4までのいずれか1項記載の化合物を前駆化合物(前駆物質)として使用して化学蒸着法によって製造された、タングステンもしくはモリブデンを含有する層。
【請求項9】
請求項8記載のタングステンもしくはモリブデンを含有する層であって、該層が、タングステン窒化物(WN)層もしくはモリブデン窒化物(MoN)層であることを特徴とするタングステンもしくはモリブデンを含有する層。
【請求項10】
請求項8又は9記載のタングステンもしくはモリブデンを含有する層を有する基板。

【公開番号】特開2007−182443(P2007−182443A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193(P2007−193)
【出願日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(506350458)ハー ツェー シュタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンデイトゲゼルシヤフト (14)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】