説明

タンパク質の測定方法

【課題】 タンパク質を可溶、不溶を問わず高精度で測定可能となる測定方法および測定装置を実現する。
【解決手段】 サンプル中の特定タンパク質を測定する方法において、サンプル中の特定タンパク質をペプチドフラグメントに分解する第1の工程と、特定タンパク質に由来する可溶性の特定ペプチドフラグメントに親和結合性を有する親和結合物質を用いて、特定ペプチドフラグメントの存在を測定する第2の工程とを含むことを特徴とする方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質をペプチドフラグメントに分解して測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体試料であり、多くの種類を有するタンパク質群の中から、ある特定のタンパク質を測定する技術が注目を集めている。特定のタンパク質を測定する意義として、病気に関わる特定のタンパク質の量を測定し病気の診断および予防に用いることや、環境や食品中の特定の有害タンパク質を測定し、環境および食品測定に用いることなどがある。また、薬剤投与によるタンパク質への影響を測定することも可能である。
【0003】
(従来のタンパク質の測定方法)
このような特定のタンパク質を測定する方法として、例えば、特許文献1記載のELISA法などの流体制御を伴う免疫測定法、特許文献2記載の親和結合電気泳動法、特許文献3記載のウエスタンブロット法などの免疫測定法が挙げられる。免疫測定法では、測定対象である特定タンパク質(抗原)に対して特異的に結合するタンパク質(抗体)を用いて、抗原の測定を行う。ここにおいて、抗体に必要な条件は、特定のタンパク質と特異的かつ安定な複合体を形成する能力である。特定タンパク質(抗原)に対して特異的に結合する親和結合物質は、タンパク質(抗体)である必要はなく、ペプチド、核酸、合成化学物質などでもよい。何れの免疫測定法においても、測定に際し、抗原と、抗体などの親和結合物質との複合体形成に関与する結合活性を維持する必要がある。
【0004】
ELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)法では、固相担体に測定対象である抗原タンパク質に対して特異的な結合能を有する一次抗体タンパク質を固定化し、抗原の非特異的吸着を防ぐ目的でブロッキング処理を施した後、そこに測定対象である抗原タンパク質を含むサンプルを導入する。抗原タンパク質と一次抗体タンパク質の結合反応が起こったのち、洗浄により一次抗体タンパク質に未反応のタンパク質を取り除く。その後、抗原タンパク質の一次抗体タンパク質との結合部位以外の部位に対して、特異的に結合する標識二次抗体を導入し結合反応させる。二次抗体の標識としては、酵素、蛍光色素、化学発色団などを用いることが一般的である。未反応の標識二次抗体を洗浄により取り除いた後、酵素に対する基質の導入による酵素反応からの信号、蛍光色素、化学発色団からの信号を取得し、サンプル中の抗原タンパク質の量を測定する。ELISA法では、抗原、一次抗体、二次抗体とも可溶性である必要があり、反応過程において抗原と抗体の結合活性は維持される必要がある。
【0005】
親和結合電気泳動法では、電気泳動の分離モードとして、分離要因が電荷が支配的であるゾーン電気泳動、タンパク質の等電点の違いに基づいて分離を行う等電点電気泳動、タンパク質の分子量の違いに基づいて分離を行う分子篩ゲル電気泳動を用いることが出来る。何れの分離モードにおいても、標識抗体単体の電気泳動分離パターンと抗原−標識抗体複合体の分離パターンが異なることより、抗原の有無および量を測定する。標識としては、蛍光色素を用いるのが一般的である。電気泳動に用いる抗原および抗体は可溶性である必要があり、抗原−標識抗体複合体および標識抗体はそれぞれ単一のピークとして検出されることが望ましい。
【0006】
ウエスタンブロット法では、まず、抗原タンパク質を含むサンプルをゲル電気泳動により、タンパク質の分子量により分離する。このゲル電気泳動には、SDS−PAGE法が利用されるのが一般的である。SDS−PAGE法では、サンプルのタンパク質を陰イオン性の界面活性剤であるSDS(Sodium Dodecyl Sulfate)、および還元剤であるメルカプトエタノールで処理し、タンパク質の高次構造を崩して全てのタンパク質に負電荷をもたせ、ポリアクリルアミドゲルの篩効果により、タンパク質の分子量の差に基づいて分離を行う。タンパク質を分離したゲルを取り出し、分離されたタンパク質をPVDFなどの膜に電気をかけて転写する。転写後、抗原抗体反応が起こる条件にするため、界面活性剤および還元剤を取り除き、ブロッキング処理を施す。処理後、目的抗原に対して特異的に結合する標識抗体溶液を導入し結合反応させる。抗体の標識としては、酵素、蛍光色素、化学発色団などを用いることが一般的である。洗浄により、未反応の標識抗体を取り除いた後、酵素に対する基質の導入による酵素反応からの信号、蛍光色素、化学発色団からの信号を取得し、サンプル中の抗原タンパク質の量を測定する。
ウエスタンブロット法の場合には、アクリルアミドゲル電気泳動を行う前の段階で、測定対象となる特定タンパク質は、SDSおよびメルカプトエタノールなどのジスルフィド結合の還元剤を含む溶液に可溶化されている必要がある。
以上で述べた抗体タンパク質の代わりにペプチド、核酸、合成化学物質などの親和結合物質を用いる場合もある。
【0007】
(タンパク質の不溶性の原因)
タンパク質の不溶性の原因としては、まず、疎水性の側鎖を有するアミノ酸残基の存在が挙げられ、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンがこれに該当する。通常の可溶性タンパク質では、水溶液中においてこれらの疎水性アミノ酸残基は内側に折り畳まれ水溶液にあまり接しない状態であり、水溶液との界面には親水性アミノ酸残基が多く整列する形となり、全体として水溶液に可溶化している。疎水性アミノ酸残基を内側に折り畳むことができないタンパク質は不溶性のタンパク質となる。膜タンパク質などの不溶性タンパク質では、疎水部位にリン脂質の脂質部位が結合し、一部が膜に埋もれた形で安定に存在している。このリン脂質を除去すると、疎水性部位が水溶液との界面に露出するためタンパク質の疎水部位同士が結合し凝集によって不溶化する。また、タンパク質の二つのシステイン残基間に存在するジスルフィド結合、もしくは水素結合、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス力などの非共有結合によってタンパク質間の凝集もしくは脂質などの不溶性物質と結合している場合が挙げられる。さらに、架橋されたコラーゲン、エラスチン(デヒドロリシノノルロイシン、デスモシン、イソデスモシン、ヒスチジノヒドロキシメロデスモシンなどによる架橋)、重合したフィブリン(イソペプチド結合による架橋)など、タンパク質のアミノ酸残基間の共有結合により不溶化する場合が挙げられる。
【0008】
(従来の不溶性タンパク質を可溶化する方法)
従来の生理的塩溶液に溶解しない不溶性のタンパク質を可溶化する方法には以下のものがあった。
表面に疎水性アミノ酸残基を有するタンパク質を可溶化する方法としては、例えば、SDS、Triton Xなどの界面活性剤を添加し可溶化する方法が挙げられる。また、システイン残基間のジスルフィド結合が不溶性の原因である場合は、例えば、メルカプトエタノールやジチオトレイトールなどの還元剤を加えることで、ジスルフィド結合を切断し、不溶性タンパク質を可溶化することが可能である。また、水素結合、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス力などの非共有結合によってタンパク質が凝集し不溶化している場合は、高濃度の尿素、塩酸グアニジンなどの変性剤や界面活性剤を加えることで可溶化できる。これらの方法を用いて、一部のタンパク質を可溶化できる。しかし、生理的塩溶液に溶解せず、上記の界面活性剤や還元剤、変性剤を用いても可溶化できないタンパク質も数多く存在する。
【特許文献1】特開2002−207043号公報
【特許文献2】特表平8−506182号公報
【特許文献3】特開平3−28765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ELISA法、親和結合電気泳動法などの免疫測定法は、水性溶液中で行う必要があるため、測定対象である特定タンパク質(抗原)、抗原と特異的に結合し抗原の量を測定する抗体とも可溶性でなければならない。そこで、これらの測定法で不溶性タンパク質を測定しようとすると、測定対象の不溶性タンパク質を可溶化させる必要がある。しかし、従来の可溶化法で可溶化すると、不溶性タンパク質の親和結合部位が尿素などの変性剤の影響を受け結合活性が維持されなくなり、また不溶性タンパク質に対して親和結合性を有する抗体などの親和結合物質も、界面活性剤、還元剤、変性剤の影響を受け、例えば、立体構造が変化し、結合活性が維持されない状態に陥る。さらに、測定に際して親和結合物質の結合活性を維持するよう上記可溶化剤を測定系から除去すると、測定対象である不溶性タンパク質も可溶化剤の除去に伴い再び不溶化する。したがって、ELISA法、親和結合電気泳動法などの免疫測定法では、適切な可溶化法が存在せず、不溶性タンパク質を測定できないという課題があった。
【0010】
ウエスタンブロット法では、抗原を界面活性剤、還元剤などの変性剤により可溶化し、電気泳動で分離後、膜に転写し、変性剤を取り除き、膜上で抗原を不溶化し、その後、抗原に対する抗体を導入し抗原の量を測定する。
電気泳動の際に導入する変性剤により、ジスルフィド結合と非共有結合(水素結合、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス力)が原因の不溶性抗原を可溶化することは可能であるが、架橋されたコラーゲン、エラスチン(デヒドロリシノノルロイシン、デスモシン、イソデスモシン、ヒスチジノヒドロキシメロデスモシンなどによる架橋)、重合したフィブリン(イソペプチド結合による架橋)などの共有結合が不溶性の原因である場合、変性剤により可溶化できないため、これらが不溶性の原因である抗原は測定できないという課題があった。
【0011】
さらに、抗体などの親和結合物質を製造する場合、抗原を用いて抗原と特異的に結合する抗体などの親和結合物質を作製するが、抗原となるタンパク質の親和結合部位以外の不均一要素により、特異的な親和結合物質の収率が低い、不均一な親和結合物質が作製されるため精製が必要、不溶性の抗原に対しては抗体を作製できないという課題があった。
【0012】
またさらに、測定対象のタンパク質が可溶である場合であっても、従来の測定法では、タンパク質が有する立体配座が不確定要素となって高精度の測定が困難な場合が多かった。
【0013】
本発明は、上記問題、不都合および問題点に鑑みなされたものであって、不溶性タンパク質を含むタンパク質の高精度の測定を可能とする測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、少なくとも一種類のタンパク質を含むサンプルに含まれる特定のタンパク質を測定する方法において、特定のタンパク質のペプチド結合を切断する試剤をタンパク質サンプルに反応させて、特定の一次構造によって指定される検出所望の可溶性ペプチドフラグメントを発生させ、上記可溶性ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤と接触させて、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの存在を測定することを特徴とする特定タンパク質の測定方法が提供される。
【0015】
本発明によれば、親和結合等電点電気泳動を行う流路と、陽極液を導入する陽極リザーバと、陰極液を導入する陰極リザーバとからなることを特徴とする上記本発明の方法のための測定装置が提供される。
本発明によれば、また、流体制御を伴う免疫測定法により特定ペプチドフラグメントの有無及び濃度を測定するための測定部を備えていることを特徴とする上記本発明の方法のための測定装置が提供される。
【0016】
本発明によれば、特定のタンパク質を含むタンパク質調製物に対して、タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試剤を反応させて、特定の一次構造によって指定される所望の可溶性ペプチドフラグメントを発生させ、上記ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤と接触させて、所望の可溶性ペプチドフラグメントを回収することを特徴とする特定タンパク質の親和結合物質が結合しうるペプチドフラグメントの製造方法が提供される。
【0017】
本発明によれば、少なくとも一種類のタンパク質を含むサンプルに対して、タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試剤を反応させて、特定の一次構造によって指定される所望の可溶性ペプチドフラグメントを発生させ、上記ペプチドフラグメントの中からバイオマーカーをスクリーニングすることを特徴とするバイオマーカーのスクリーニング方法が提供される。
本発明によれば、生物サンプルにおける上記方法によりスクリーニングされたバイオマーカーの存在を測定する検査方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によると、測定対象の特定タンパク質を、タンパク質特有の不安定な立体配座を持たないペプチドフラグメントに分解して主として免疫測定法により測定するので、立体配座その他不安定要素に左右されない測定が可能になり、タンパク質の可溶性/不溶性を問わず、従来に比して安定な及び/又は高精度の測定が実現できる。また、ペプチドフラグメントは、タンパク質に比して低分子であり不安定な立体配座要素を持たないため、液体クロマトグラフィーなど高分子量分子(例えば、元のタンパク質)への適用が困難な分離手法を使用可能となり、また、保存条件及び測定条件の許容範囲が広くなる。
【0019】
また、本発明の方法によれば、可溶化のための添加剤が不要なため、添加剤によって測定の幅を狭められることなく、UV吸収測定など幅広い測定が可能となる。
【0020】
測定対象のタンパク質が不溶性である場合には、タンパク質をペプチドフラグメントに分解することにより、水性環境(例えば、水溶液系の緩衝液系)での測定が可能になる。このことによって、例えば、不溶性タンパク質を、水溶性タンパク質についての測定条件と同一の条件下で測定することができ、不溶性タンパク質を含むサンプルの測定結果と水溶性タンパク質のみのサンプルの測定結果の正確な比較を実現でき、不溶性タンパク質と水溶性タンパク質の双方を含むデータベースの構築などが実現できる。
【0021】
本発明の製造方法によると、特定のタンパク質から、本発明の測定方法による測定に適した特定のペプチドフラグメントを製造できる。製造された特定ペプチドフラグメントは、元のタンパク質に存在していた特定ペプチドフラグメント以外の不均一要素が消失しているので、高収率で特異的な親和結合物質の製造及び/又はスクリーニングに使用できる。
【0022】
本発明のスクリーニング方法によると、不溶性タンパク質など従来バイオマーカーとして用いることが困難であったタンパク質のペプチドフラグメントをバイオマーカーとして用いることが可能となる。
【0023】
上記のように、本発明の方法によれば、今まで測定が困難であったタンパク質の(高精度)測定が可能となり、プロテオーム解析、医療、創薬、農業、食品、環境などの分野において絶大な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(本発明の測定方法)
本発明の方法は、少なくとも一種類のタンパク質を含むサンプルに含まれる特定のタンパク質を測定する方法において、特定のタンパク質のペプチド結合を切断する試剤をタンパク質サンプルに反応させて、特定の一次構造によって指定される検出所望の可溶性ペプチドフラグメントを発生させ(第1工程)、上記ペプチドフラグメントのうち検出所望の可溶性ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤と接触させて、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの存在を測定する(第2工程)ことを特徴とする。
【0025】
(第1工程:特定タンパク質のペプチドフラグメントへの分解)
本発明の方法の第1の工程では、サンプル中に存在する特定タンパク質は、その構成成分であるペプチドフラグメントに分解される。分解により、特定タンパク質の立体配座の不安定性、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントに対応する部分以外の領域に起因する不均一性などの測定の妨げとなる要素が排除されることとなり、後の測定において高精度の測定が可能になる。
【0026】
本発明の方法において測定対象とするタンパク質(特定タンパク質)は、任意のタンパク質である。本発明において「タンパク質」とは、生理活性を有するポリペプチドであり、好ましくは、ヒトを含む動物において疾患、障害又は異常の原因となるか又はこれらに伴って生体内に出現するポリペプチドである。特定タンパク質は、可溶性であってもよいし、不溶性であってもよい。可溶性タンパク質としては、不安定な高次構造を有するタンパク質が特に好ましい。本発明の測定方法で用いることにより、高次構造の不安定性及び/又は不確定な要素に起因して、従来法では困難であった安定で高精度の測定(例えば、より精密な定量的測定)が可能になるという利点を有するからである。
【0027】
タンパク質が不溶性である場合、ペプチドフラグメントに分解して可溶性の特定ペプチドフラグメントを測定対象とすることにより、元の不溶性タンパク質では困難である水溶液系の緩衝液系における測定が可能になるので、本発明の方法における測定対象のタンパク質として不溶性タンパク質は特に好ましい(図1及び2)。ここで、「不溶性」とは、生理的塩溶液に溶解しないことをいう。生理的塩溶液の組成としては、例えば、150mM NaCl を含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.35)、0.1M NaClを含む50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン-HCl緩衝液(pH 7.4)、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.2)、0.1M 4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸-NaOH緩衝液(pH 7.4)、0.1M 3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸-NaOH緩衝液(pH 7.35)、112mM NaCl、1.8mM KCl、1.1mM CaCl2、2.4mM NaHCO3からなるリンガー液など、塩濃度0.05〜0.2M、pH6〜9で、尿素などの可溶化剤、界面活性剤、還元剤を含まない溶液が挙げられるが、この範囲に限定されるものではない。本発明において、好ましい不溶性タンパク質は、生理的塩溶液に溶解しないが、約8M濃度の尿素、約6M濃度の塩酸グアニジン、約2%(w/v)濃度のドデシル硫酸ナトリウム、約5%(v/v)濃度のメルカプトエタノールなどを単独または同時に含む溶液には溶解するタンパク質である。このタイプのタンパク質の例としては、多くの変性タンパク質(熱変性した卵白、乳タンパク質など)、組換えタンパク質を大腸菌内で発現させたときに観察される封入体(inclusion body)、多くの膜タンパク質、異常プリオン、アミロイドタンパク質などが挙げられる。また、生理的塩溶液に溶解せず、約8M濃度の尿素、約6M濃度の塩酸グアニジン、約2%(w/v)濃度のドデシル硫酸ナトリウム、約5%(v/v)濃度のメルカプトエタノールなどを単独または同時に含む溶液にも溶解しないタンパク質も、本発明における好ましい不溶性タンパク質である。このタイプのタンパク質の例としては、トランスグルタミナーゼによるε-(γ-グルタミル)リジンイソペプチド結合の形成が関与するものが挙げられ、フィブリンゲル(トランスグルタミナーゼ(血液凝固第13因子)によって架橋されたもの)、α2-アンチトリプシン-フィブリン複合体、獲得エナメル被膜(健康な歯の表面に形成される糖タンパク質の薄膜)、多量体フィブロネクチン、白内障患者のレンズタンパク質、保護性皮膚肥厚層を形成する鱗状表皮組織(ケラチノサイト トランスグルタミナーゼ、表皮トランスグルタミナーゼが関与)、不溶性ニューロフィラメント、細胞外マトリックスの非コラーゲン性ミクロフィブリル(細繊維)、線虫の外皮タンパク質などが挙げられる。例示したタンパク質以外のタンパク質であっても、例示のタンパク質と同等な溶解特性(例えば、生理的塩溶液又は生理的塩溶液及び上記溶液に対する溶解性)を示すものは、本発明における好ましい不溶性タンパク質に含まれる。
【0028】
サンプルは、特定タンパク質を含む可能性がある任意のものである。サンプルは、被検体(ヒト及びウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、ラット、マウスのような家畜動物を含む動物)からの生物学的サンプルであり得る。生物学的サンプルとしては、例えば、血液(血清、血漿を含む)、リンパ液、髄液、腹水、組織滲出液又は分泌液、痰及び尿を含む体液;脳、脊髄、心臓、肝臓、粘膜などの組織(そのホモジネート、溶解物若しくは抽出物);細胞(その溶解産物及び抽出物を含む)が挙げられる。サンプルはまた、細菌感染が疑われているような食品サンプルであってもよい。
【0029】
検出所望の可溶性ペプチドフラグメント(本明細書中では、単に「特定ペプチドフラグメント」と呼ぶ場合もある)は、特定タンパク質の分解により得られ、したがって特定タンパク質のアミノ酸配列のサブ配列(部分配列)からなる。検出所望の可溶性ペプチドフラグメントは、少なくとも1つの、特定タンパク質に特有な部分を有し、この部分に親和結合物質が結合する。特定ペプチドフラグメント中の親和結合物質が結合する部分が特定タンパク質に特有であるかどうかは、当該分野において公知の方法により容易に決定することが可能であり、例えば、その部分を構成するアミノ酸配列を、アミノ酸配列データベース(例えば、PRI、UniProt及びNR−AA)中の配列と配列比較(例えば、BLAST又はFASTAによる)をすることにより知ることができる。
検出所望のペプチドフラグメントの溶解性は、特定タンパク質を任意の分解試剤で処理して得た可溶性ペプチド試料を質量分析計にかけることにより容易に知ることができる。
既存の抗体を親和結合物質として使用する場合、その抗体が結合する可溶性ペプチドフラグメントを発生するような切断法を選択することもできる。タンパク質の遺伝情報またはアミノ酸配列が利用可能な場合には、その情報に基づいて抗原となりうる可溶性ペプチドフラグメントを発生させる方法を選択することもできる。また、事前に特定タンパク質をいくつかの方法で分解し、それぞれの分解産物に対して結合する抗体の生産または選択を行ってもよい。
【0030】
特定ペプチドフラグメントは、1種類の特定タンパク質及び1種類の親和結合物質について1種類に限られず、当該親和結合物質が結合する部位を有し、その親和結合物質が結合する限りは任意の長さであってよい。親和結合物質が特定のアミノ酸配列を認識するものである場合、特異的な親和結合をするためには、一般に、少なくとも4個のアミノ酸残基が必要であるので、特定ペプチドフラグメントは、4以上、例えば5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、12以上、15以上、20以上の連続するアミノ酸残基からなり得る。
【0031】
特定ペプチドフラグメントは可溶性である。親和結合物質が結合する部分は可溶性である場合が多い(例えば、Kyte, J. and Doolittle, RF., J Mol Biol., 157(1):105-32, 1982;同、J. Mol. Biol., 157:105-132, 1982;Hopp, TP. and Woods, KR., Mol. Immunol., 20(4):483-9, 1983)ので、この部分からなるペプチドを特定ペプチドフラグメントとすることができる。ペプチドフラグメントの可溶性は、例えば各アミノ酸残基の疎水性指標(例えば、Kyte and Doolittle, 1982)又は親水性指標(例えば、Hopp, TP. and Woods, KR., Mol. Immunol., 20(4):483-9, 1983)に基づいて、そのペプチドフラグメントのアミノ酸配列から予測できる。親和性結合物質が結合する部分は、前記文献のほか、Emini, EA., Hughes, JV., Perlow, DS. and Boger, J., J Virol. 1985 Sep;55(3):836-9など当該分野において公知の技術に従って予測可能である。
【0032】
特定ペプチドフラグメントは、特定の立体配座を有する必要はなく、特定の一次構造によって指定される。このためには、特定のペプチドフラグメントが含むアミノ酸の数については特に制限はなく、例えば200以下、150以下、120以下、100以下、80以下、50以下、30以下、20以下、15以下の連続するアミノ酸残基からなることが好ましい。なお、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントは、特定の一次構造「のみ」によって指定されてもよい。
【0033】
分解は、タンパク質を特定の一次構造によって指定される検出所望の可溶性ペプチドフラグメントに分解しうる試剤により行なわれる。分解には、タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解しうる試薬を用いることができる。この試薬の例としては、基質特異性の高い酵素反応試薬が挙げられる。酵素反応試薬としては、例えばプロテアーゼを用いることが可能である。例えば、トリプシンはリシンまたはアルギニンのC末端側ペプチド結合を、キモトリプシンはフェニルアラニン、トリプトファン、チロシンのC末端側ペプチド結合を、ペプシンはロイシンまたはフェニルアラニンのC末端側ペプチド結合を、ブロメラインはアラニン、リシン、チロシンのC末端側ペプチド結合を、エラスターゼはアラニン、グリシンのC末端側ペプチド結合を、クロストリパインはアルギニンのC末端側ペプチド結合を、V8プロテアーゼはグルタミン酸またはアスパラギン酸のC末端側ペプチド結合を、サーモリシンはロイシンまたはフェニルアラニンのN末端側ペプチド結合を、リシルエンドペプチダーゼはリシンのC末端側ペプチド結合を、アルギニンエンドペプチダーゼはアルギニンのC末端側ペプチド結合を、プロリルエンドペプチダーゼはプロリンのC末端側ペプチド結合を、アスパラギン酸−Nプロテアーゼはアスパラギン酸のN末端側ペプチド結合を、限定的に加水分解するため、これらのプロテアーゼが利用できる。
【0034】
特定タンパク質をペプチドフラグメントに分解する別の方法として、例えばアミノ酸又はアミノ酸配列の部位に特異的に反応する化学反応が挙げられる。例えば、ブロモシアンを用いた方法ではメチオニンのC末端側のペプチド結合を切断し、N−ブロモコハク酸イミドまたは50%酢酸中でのBNPS−スカトールまたはジメチルスルホキシド−HCl−HBrまたはヨードシル安息香酸またはN−クロロスクシンアミドを用いた方法ではトリプトファンのC末端側のペプチド結合を切断し、ヒドロキシルアミンを用いた方法ではアスパラギン−グリシンの結合を切断し、7M塩酸グアニジンを含む10%酢酸を用いた方法ではアスパラギン酸−プロリンの結合を切断するため、これらの化学反応試薬を使用できる。
【0035】
タンパク質をペプチドフラグメントに分解する試薬は、1種類の試薬であってもよいし、複数種類の試薬の組合せであってもよい。試薬の組合せは、酵素反応試薬の組合せ、化学反応試薬の組合せ、又は酵素反応試薬と化学反応試薬との組合せであり得る。或いは、酵素反応試薬及び/又は化学反応試薬と、他の特異的分解試薬との組み合わせてあってもよい。
【0036】
第1の工程で使用する試薬又は試薬の組合せは、その試薬又は試薬の組合せで特定タンパク質を分解するとき、特定ペプチドフラグメントが生じるように選択する。特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試薬による特定タンパク質のペプチド結合切断位置は一義的に決まるので、試薬又は試薬の組合せは、特定タンパク質のアミノ酸配列情報に基づいて容易に選択できる。ある1つの特定ペプチドフラグメントを生じる試薬又は試薬の組合せは、特定の1種類又は1組とは限らず、異なる試薬又は試薬の組合せでも同一の特定ペプチドフラグメントを生じ得る。試薬の組合せは、好ましくは逐次的にサンプルに適用するが、互いにそれぞれの分解反応に干渉しないのであれば同時に適用してもよい。使用する試薬が互いに干渉する場合は、各反応後に、当該試薬の除去又は不活化を行なうことができる。本発明の方法においては、従来の可溶化法とは異なり、当該試薬を除去した後も、特定ペプチドフラグメントは可溶のままである。
【0037】
特定タンパク質から検出所望の可溶性ペプチドフラグメントを発生させる第1工程においては、特定のアミノ酸またはアミノ酸配列においてペプチド結合を切断する試薬又は試薬の組合せが、特定タンパク質中の実質的に全ての相当する切断可能な部位(ペプチド結合)を切断し得る条件下で、当該試薬又は試薬の組合せを特定タンパク質と接触させることにより行なってもよい。その条件は、例えば、試薬に至適なpH及び反応温度(例えば20、25、30、35、40、45、50℃又はそれ以上)の選択、十分に長い接触(反応)時間(例えば5分間以上、10分間以上、15分間以上、20分間以上、25分間以上、30分間以上、35分間以上、40分間以上、45分間以上、50分間以上、55分間以上又は60分間以上)、サンプル中のタンパク質に対して十分(好ましくは重量若しくはモル比で1:1若しくは過剰)な試薬量、などであるが、これらに限定されない。
【0038】
特定タンパク質をペプチドフラグメントに分解する試薬は、通常、タンパク質一般に作用するため、第2の工程において親和結合性を利用した特異的な測定を行う時、当該試薬が測定系に残存していると、親和結合物質が抗体などのタンパク質である場合、親和結合物質をもペプチドフラグメントに分解し、その親和結合性を低下させるため、測定系に親和結合物質を導入する前に、当該試薬を不活化するか又は測定系から除去することが望ましい。
【0039】
試薬が酵素反応試薬である場合には、使用した試薬の活性を阻害する阻害剤(例えば、プロテアーゼ阻害剤)の添加、又は、加熱や酸による変性などによって、酵素を不活化することができる。試薬が化学反応試薬である場合には、当該化学試薬を不活化する試薬を導入するか、又は当該化学試薬を除去するために、例えば、遠心分離、蒸留、固相抽出などの簡便な処理を行ってもよい。試薬の不活化又は除去は、好ましくは、例えば特異的阻害剤の使用により、当該試薬に特異的な方法で行なう。
【0040】
タンパク質をペプチドフラグメントに分解することにより生じる一群のペプチドフラグメントのうち、特定ペプチドフラグメント以外のペプチドフラグメントは、可溶性であっても不溶性であってもよい。不溶性のペプチドフラグメントは、不溶性物質に起因する例えば流路の目詰まりなど測定系内の不具合を防止して測定の再現性を向上させるために、遠心分離などの処理により測定系から除去してもよい。
【0041】
(第2工程:親和結合物質による特定ペプチドフラグメントの測定)
本発明の方法の第2の工程では、第1工程で生成した一群のペプチドフラグメントのうち検出所望の可溶性ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤と接触させて、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの存在を測定する。最終的な測定対象である特定タンパク質の濃度と特定ペプチドフラグメントの濃度との間には比例関係があるため、特定ペプチドフラグメントの量は、元のサンプル中における特定タンパク質の量に比例する。特に、特定タンパク質の濃度と特定ペプチドフラグメントの濃度が正比例の関係にある場合には、特定ペプチドフラグメントの量は、元のサンプル中における特定タンパク質の量を表す。
【0042】
検出所望の可溶性ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤(本明細書中では、単に「親和結合物質」と呼ぶ場合もある)は、特定ペプチドフラグメントに親和結合性を有し、共存下でこれと複合体を形成する物質であり、例えばタンパク質、ペプチド、核酸、合成化学物質であるがこれらに限定されない。第2工程では、親和結合物質と特定ペプチドフラグメントとの間の親和結合性に基づく特異的結合を利用して、サンプル中の特定ペプチドフラグメントの存在を測定する。よって、親和結合物質及び特定ペプチドフラグメントは、互いに結合活性を維持した状態で安定に存在する必要がある。
【0043】
親和結合物質は、例えば、抗体又はその抗原結合部位を含む断片(単鎖抗体、Fab断片、F(ab')2断片、Fab'断片を含む)である。抗体は、既知の抗体又はその抗原結合部位を含む断片であってもよいし、本発明の測定方法での使用のために新たに作成された抗体又はその抗原結合部位を含む断片であってもよい。好ましくは、抗体又はその結合性断片が結合する特定ペプチドフラグメント中の部位のアミノ酸配列は既知である。抗体又はその抗原結合部位を含む断片は、モノクローナルであることが好ましい。ペプチドに対する抗体を作成する方法は、当該分野において公知である。簡潔には、そのような抗体は、ペプチドを、単独若しくはアジュバント(例えば、完全若しくは不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム又はリン酸化アルミニウム(ミョウバン))と共に、又は適切なキャリア(例えば、BSAのようなアルブミン、オボアルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジフテリア毒素、破傷風毒素)に結合させて、動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、ヤギ、ヒツジ、ニワトリなど抗体産生に使用され得る動物)に1回又はそれ以上免疫することにより、その動物の血清から得られる。モノクローナル抗体を作成する方法は、当該分野において公知である(例えば、Kohler and Milstein(Nature, 256:495-497, 1975;Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane編, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。簡潔には、抗体は、ペプチドで免疫した動物の脾臓細胞(B細胞)を単離し、これを細胞融合法により同種又は近縁動物の骨髄腫細胞と融合して不死化細胞(ハイブリドーマ)とし増殖させ、当該ペプチドに結合する能力を有する抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることにより得られる。抗体は、元の特定タンパク質にも(特定ペプチドフラグメントに対応する領域で)結合する抗体であってもよいが、必ずしも結合しなければならないわけではない。本発明の方法においては、抗体は、特定ペプチドフラグメントに結合する能力さえ有すればよい。
【0044】
特定ペプチドフラグメントが糖鎖を含む場合、親和結合物質は、タンパク質に結合した糖鎖を認識する例えばレクチンなどのタンパク質でもあってもよい。
親和結合物質は、特定のペプチドに特異的に結合する核酸リガンド、アプタマーと呼ばれる物質であってもよい。アプタマーは、特定のペプチドを認識する塩基配列および構造を有するDNA若しくはRNAである。特定タンパク質に由来する特定ペプチドフラグメントに結合親和性を有する親和結合物質は、ランダムな塩基配列を有する核酸群の中から当該特定ペプチドフラグメントに対して親和結合性を有する核酸を、例えばSELEX法(インビトロセレクション法)などのスクリーニング方法を用いて選定する。
【0045】
合成化学物質の親和結合物質としては高分子物質が挙げられる。このタイプの親和結合物質は、例えばモレキュラーインプリント法と呼ばれる方法で合成された高分子物質から、特定ペプチドフラグメントを認識するような立体構造および、例えば特定ペプチドフラグメントと静電相互作用を起こす親和性官能基を有するようにスクリーニングされる。
【0046】
親和結合物質は、好ましくは、測定のための標識を有する。測定に使用し得る標識は、当該分野で公知である。標識は、光学的測定、化学的測定、放射能測定、磁気測定又は電気的測定により測定され、好ましくは光学的又は電気的に測定される。標識は、例えば、蛍光色素、酵素、吸収色素、化学発光団、放射性同位体、スピン標識及び電気化学的標識からなる群より選択される。
【0047】
より精度の高い測定のために、1種の特定ペプチドフラグメントを2種以上の親和結合物質を用いて測定してもよい。この様式の測定法の例としては、例えばサンドイッチ法が挙げられる。或いは、1種の特定タンパク質に由来する2種以上の特定ペプチドフラグメントを対応する2種以上の親和結合物質を用いて測定してもよい。
【0048】
親和結合物質を用いて特定ペプチドフラグメントの存在を測定する方法としては、2つの物質間の親和結合性を利用する測定法であれば公知の任意の方法を使用できる。測定法は、好ましくは、ペプチドフラグメントと、タンパク質、ペプチド、核酸、合成化学物質との間の親和結合性を利用する測定法である。
【0049】
親和結合物質として抗体又はその抗原結合部位を含む断片を使用する場合、免疫測定法を使用することができる。免疫測定法は、抗原−抗体間の特異的結合反応を利用する特異的な測定法であり、当該分野において公知である。親和結合物質として抗体以外の物質(例えば、核酸又は合成化学物質)を使用する場合であっても、親和結合物質と特定ペプチドフラグメントとの間の親和結合性による特異的結合反応を利用するので、原理的には、免疫測定法と同じであり、使用する親和結合物質に応じて適切な測定法を選択又は設計することができることを当業者は容易に理解する。したがって、本明細書中で「免疫測定法」という場合、抗原−抗体反応を利用する測定法にのみ言及していることが明らかな場合を除き、これに加えて他の親和結合性を利用する測定法も含むことに留意すべきである。
【0050】
測定法は、最終的な測定対象の特定タンパク質の有無に加えて、存在する場合にはその量も知るために、特定ペプチドフラグメントと親和結合物質との結合反応の有無および量を測定できることが望ましい。定量は、例えば標識に起因するUV、蛍光、放射活性、磁気、電気伝導度を測定することにより行なうことができる。
【0051】
より精度が高く特異的な測定を行う場合は、親和結合物質に結合した特定ペプチドフラグメントのアミノ酸配列を例えばMSなどにより測定してもよいし、親和結合性以外の例えば等電点、分子量といった物理化学的性状を組合せて測定してもよい。また、最終的な測定対象である特定タンパク質に由来する複数種の特定ペプチドフラグメントの有無(好ましくは、及び量)を測定してもよい。複数種の特定ペプチドフラグメントを測定することにより、より高精度な測定が可能となる。
【0052】
本発明の方法に使用可能な測定法としては、親和結合電気泳動法(特に親和結合等電点電気泳動法)、ELISA法などの免疫測定法、ウエスタンブロット法、チップ上に抗体を固定化し結合したタンパク質をマススペクトル(MS)を用いて測定するSELDI−MS法(この測定法に基づく装置は、例えば、Ciphergen社(米国)より市販されている)、親和結合物質間の結合を屈折率の変化として表面プラズモン共鳴により検出する表面プラズモン共鳴法(SPR法;この測定法に基づく装置は、例えば、BIACORE社(米国)より市販されている)などが挙げられる。親和結合等電点電気泳動で測定する場合、特定ペプチドフラグメントの迅速、簡便、自動、高感度、高精度で特異的な測定が可能となるので特に好ましい。
【0053】
特定ペプチドフラグメントを測定する前(すなわち、第1工程の後で第2工程の前)に、第1工程の分解により生じた他のペプチドフラグメント(特定タンパク質に由来するもの及びその他のタンパク質に由来するものいずれも)を、電気泳動、液体クロマトグラフィー、ゲルろ過、遠心分離、固相抽出など様々な手法を用いて除去(又は分離)することも可能である。このような除去により、特定ペプチドフラグメント以外のペプチドフラグメントに起因する測定系に対する干渉を排除でき、より高精度な特定タンパク質の測定が可能となる。
【0054】
(本発明の測定キット)
本発明の測定キットは、特定タンパク質をペプチドフラグメントに分解する試薬(又は試薬の組合せ)と、特定タンパク質に由来する可溶性の特定ペプチドフラグメントに親和結合性を有する親和結合物質とを含む。親和結合物質は標識されていてもよい。本測定キットは、上記本発明の測定方法における使用に適切である。本キットは、特定タンパク質をペプチドフラグメントに分解する試薬を失活させるための第2の試薬をさらに含んでもよい。特定タンパク質をペプチドフラグメントに分解する試薬、親和結合物質及びタンパク質をペプチドフラグメントに分解する試薬を失活させるための試薬並びに他の事項は、上記測定方法において説明したものと同様である。
【0055】
(親和結合等電点電気泳動法に用いる本発明の装置)
以下に、図を参照して、親和結合等電点電気泳動法を用いる本発明の測定装置を説明する。図3は、本測定装置の上面概略図である。図3に示すように、本発明に係る測定装置は、親和結合等電点電気泳動を行う流路1と、陽極液を導入する陽極リザーバ2と、陰極液を導入する陰極リザーバ3とを形成した基板10を備えている。基板10としては、例えば、プラスチック材料、ガラス、石英、光硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂などを用いることができる。基板10上に形成される流路1の断面の形は、特に限定されず、例えば、矩形、円形若しくは台形形状などでよく、又は流路の底が円の一部のように丸くなっていてもよい。流路1は直線形状である必要はなく、蛇行形状、渦巻形状、螺旋形状などでもよい。基板10上に形成される陽極リザーバ2、陰極リザーバ3の上面の形は、例えば円形、楕円形、矩形などでよい。陽極リザーバ2と陰極リザーバ3は互いに位置を変えてもよく、陽極液を導入するのが陽極リザーバであり、陰極液を導入するのが陰極リザーバである。流路1および陽極リザーバ2、陰極リザーバ3は、例えばウェットエッチング、ダイシングソー等を用いて、基板10をその厚さ方向に削るようにしてそれぞれ作製されることが望ましい。また、流路1、陽極リザーバ2、陰極リザーバ3の形状パターンに対する凸型の金型を形成し、金型に対して射出成型、ホットエンボスなどによる転写を行い、流路1、陽極リザーバ2、陰極リザーバ3を基板10上に形成してもよい。流路1および各リザーバ2、3は同一基板上に形成される必要はなく、流路1を形成した基板10とは別の基板(図示せず)に貫通孔を設け、二つの基板を貼り合わせることにより貫通孔を各リザーバとしてもよい。また、流路および各リザーバは基板上に形成されている必要はなく、流路として例えば石英製の中空キャピラリーを用い、各リザーバとして陽極液および陰極液を導入できる例えばプラスチック容器を用い、キャピラリーをリザーバ容器に挿入して測定装置としてもよい。
【0056】
等電点電気泳動を行うため、流路1には、電圧印加によりpH勾配が形成されるよう、弱酸性と弱塩基性の両方の解離基をもつ複数の両性担体を含んだ水溶液が充填される。両性担体のpH(pI)勾配の幅は、測定対象となる特定ペプチドフラグメントと親和結合物質との複合体の等電点が含まれるように選択可能である。陽極リザーバ2には例えば、リン酸溶液などの酸性陽極液が充填され、陰極リザーバ3には例えば、水酸化ナトリウム溶液などの塩基性陰極液が充填される。流路1内にpH勾配を作製するために、予めゲル内に弱酸性、弱塩基性の解離基を固定した固定化pH勾配ゲル(Immobilized pH gradient)を用いてもよいし、両性担体を含んだ水溶液の代わりに例えば、両性担体を含んだポリアクリルアミドゲル、アガロースゲルを用いてもよい。固定化pH勾配ゲルを用いる場合は陽極液、陰極液は必ずしも必要でない。
【0057】
流路1の幅は、例えば、1μm〜5000μmの範囲内で、流路1の深さは、例えば、1μm〜5000μmの範囲内で、流路1の長さは例えば、0.1cm〜50cmの範囲内であることが好ましいが、この範囲内に限定されるものではない。流路幅および深さを小さくすると、等電点電気泳動の間、ジュール熱の発生を抑えながら高電圧が印加可能であるため、分離が迅速に達成できる。流路表面は、ペプチドフラグメントおよび親和結合物質の吸着防止又は電気浸透流を防ぐ目的で、例えば、ポリジメチルアクリルアミドなどにより表面処理を行ってもよい。陽極リザーバ2、陰極リザーバ3は、例えば、直径1μm〜5000μmの範囲内で、深さは1μm〜5000μmの範囲内であることが好ましいが、この範囲内に限定されるものではない。電気泳動を行うための電極(図示せず)は、各リザーバに予め備え付けられ、例えばスパッタなどにより基板上の各リザーバ部位に形成されてもよいし、又は各リザーバが電極を挿入する機構を備え、必要時に基板外から電極を基板上に差し込む構成であってもよい。電気泳動を行う際は、電極間に電圧を印加する。電圧は、直流電圧であることが望ましい。本発明の測定装置は、電圧を印加する機構を備えていてもよい。流路1、陽極リザーバ2、陰極リザーバ3を形成した基板10は、別の基板(図示せず)で蓋をする構成としてもよい。本発明の装置は、特定ペプチドフラグメントに結合した試剤(例えば親和結合物質)を検出するための検出装置をさらに備えていてもよい。検出装置は、好ましくは光検出装置である。光検出装置は、光源と検出器を備える。光源は、好ましくは、レーザ、LEDまたはランプからなる群より選択され、検出器は、好ましくは、光電子増倍管またはマルチピクセル光検出器からなる群より選択される。
【0058】
(等電点分離)
親和結合等電点電気泳動法を用いる測定を説明する。
本発明の方法の第1工程での分解処理後のサンプルと親和結合物質の混合物にさらに弱酸性と弱塩基性の両方の解離基をもつ複数の両性担体を含んだ水溶液を混合し、親和結合等電点電気泳動に用いるサンプル導入液とする。前記両性担体を含んだ水溶液との混合操作は、分解処理後サンプルと親和結合物質を混合する際に同時に行ってもよい。
【0059】
前記サンプル導入液を流路1に充填する。また、分解処理後のサンプル、親和結合物質、両性担体などの溶液を単独で、あるいは任意の組合せで、任意の順序で流路1に充填してもよい。充填方法は、圧力によって行ってもよいし、毛細管現象を利用してリザーバ部2または3より流路1に導入してもよい。流路1をサンプル導入液で満たした後、陽極リザーバ2に陽極液を、陰極リザーバ3に陰極液を充填する。その後、陽極リザーバ2の電極を陽極とし、陰極リザーバ3の電極を陰極として電圧を印加し等電点電気泳動を行う。印加電圧値の範囲は、例えば流路長1cmあたり100〜1000Vであるが、この範囲に限定されるものではない。電気泳動を行う間、ジュール熱の影響を除去するために、例えばペルチェ(図示せず)などで冷却を行ってもよい。電圧を印加することにより、流路1内に両性担体によるpH勾配が形成される。ペプチド(タンパク質を含む)は両性物質であり、ペプチドを構成するアミノ酸の側鎖解離基およびN末端のアミノ基、C末端のカルボキシル基が異なれば等電点も異なるので、流路中に存在するペプチドは、それぞれの等電点と等しいpHの位置に収束し分離される。等電点電気泳動による分離は、0.1〜10分の間に達成されるが、この範囲に限定されるものではない。
【0060】
測定は、親和結合物質に予め付した標識からの信号を取得する。例えば、蛍光色素を用いる場合は蛍光色素の励起波長に応じた励起光を照射し、蛍光色素から放出される蛍光を取得する。標識として蛍光色素を用いる場合、酵素標識を用いる際には必要な電気泳動分離後の基質導入などの操作は不要である。励起光源として、レーザ、LED、ランプなどを用いることが可能であり、必要に応じて励起波長の光のみを照射するよう、例えばバンドパスフィルタなどのフィルタを使用する。励起光は、流路上下面もしくは左右面から入射してもよいが、流路の一端より流路に沿って流路を導波路として入射してもよい。この場合、入射光の波長に対する基板の屈折率が流路内の充填物の屈折率より低いことが望ましい。流路を導波路として用いると、流路上下左右方向より入射光を照射した場合に比べ、励起光の強度を上げることが可能であり、かつ、流路面からの入射光の反射や散乱などの蛍光測定器へのノイズ成分が減少し、より高感度な測定が可能となる。蛍光を取得するには、例えば光電子増倍管やマルチピクセル光検出器(例えば、ラインCCDカメラ、エリアCCDカメラ、ラインCMOSカメラ、エリアCMOSカメラなど)を用いる。蛍光色素からの蛍光波長に相当する光のみを測定するよう例えばバンドパスフィルタやノッチフィルタなどのフィルタを使用するのが一般的である。上記以外のあらゆる光源と検出器の組合せを用いることも可能である。
【0061】
測定は、流路全体に亘って行ってもよいし、特定ペプチドフラグメント−親和結合物質の複合体の等電点位置のみで行ってもよい。流路全体に亘って測定を行う場合は、例えば、ランプ−CCDカメラの組合せで流路全体に励起光を照射し流路全体をCCDカメラで撮像し蛍光信号を取得する、もしくはレーザ−光電子増倍管を用い、光学系を固定し可動ステージにより基板を移動させる、基板を固定し、光学系をスキャンさせるなどの手法を取ることができる。
なお、水溶液中で等電点分離を行った場合の測定手法は公知であり、例えば、電圧を印加したままで流路全体をスキャンして測定を行うか、又は等電点電気泳動と同時に電気浸透による泳動を行って所望の検出点に目的イオンを移動させて測定を行う。
【0062】
上記のように、流路中のペプチドは、自身の等電点と等しいpHの位置に収束し分離される。特定ペプチドフラグメント−親和結合物質複合体の等電点位置は予備実験などで予め知ることができるので、所望の複合体に起因する信号は、その位置により、他の信号、例えば、未結合親和結合物質、特定ペプチドフラグメント以外のペプチドと非特異的に結合した親和結合物質、及び流路などへの吸着した親和結合物質に起因する信号から区別することができる。このことにより、誤検出を排除して、測定対象である特定ペプチドフラグメントを特異的に高精度で測定できる。特定ペプチドフラグメントの量は、複合体の等電点位置の標識からの信号量から算出される。ペプチドフラグメント化で生じる特定ペプチドフラグメントの量はフラグメント化前のタンパク質の量に比例好ましくは等しいため、特定ペプチドフラグメントの量を測定することによりペプチドフラグメント化前の特定タンパク質の量を算出することが可能である。
【0063】
ペプチドフラグメント化親和結合等電点電気泳動法による測定の利点には、他に次のものが挙げられる。
・所望の複合体は特定の等電点に収束し濃縮されるので、他の電気泳動モードでは拡散されてバックグランドのノイズ信号に隠れてしまうような微量でも検出が可能である。
・一般に、サンプルが測定対象である特定タンパク質以外の高濃度タンパク質を含む場合、等電点電気泳動により高濃度タンパク質が等電点に収束するとともに沈殿する現象を引き起こし等電点電気泳動に悪影響を及ぼすため、サンプルの前処理として高濃度タンパク質を選択的に除去する前処理が必要であるが、本発明のタンパク質をペプチドフラグメント化したのち測定する手法を用いることにより、高濃度タンパク質の等電点が複数のペプチドの等電点に分散するため、特別な前処理を必要とせず等電点沈殿を防ぎ特定タンパク質の測定が可能となる。
・測定対象である特定タンパク質の翻訳後修飾の有無に伴い、複合体の等電点が変化するため、特定タンパク質の翻訳後修飾の状態も測定可能となる。
・複合体形成反応は、測定対象であるペプチドフラグメントおよび標識親和結合物質を基板表面などに固定せず、溶液中にフリーの状態で反応を行うため、複合体形成反応が高効率で起こり、標識親和結合物質の固定操作および未反応標識親和結合物質を除去するための洗浄操作が不要となる。
・親和結合等電点電気泳動法では、一種類の親和結合物質のみで高精度に測定が可能であり、低分子量タンパク質およびペプチドの測定も可能となる。
【0064】
なお、本発明では、上記蛍光色素を用いた光測定に代えて、特定ペプチドフラグメントと標識親和結合物質との複合体の測定を、複合体の等電点位置でのUV吸収値や電気伝導度により測定を行ってもよい。その他、複合体の情報を認識できる全ての方法を使用することが可能である。
【0065】
(流体制御を伴う免疫測定法を用いる本発明の装置)
以下に、流体制御を伴う免疫測定法を用いる本発明の装置を説明する。図4は、本測定装置の上面概略図である。図4に示すように、本発明に係る測定装置は、サンプルなどを導入する導入部4と、特定タンパク質に由来する特定ペプチドを親和結合性を利用し認識して測定する測定部5と、溶液の廃液を行う廃液部6と、導入部と測定部をつなぐ流路7、測定部と廃液部をつなぐ流路8を形成した基板20を備えている。導入部4および廃液部6は必ずしも形成される必要は無く、その場合は測定部と導入部および廃液部をつなぐ各流路7、8も必要でない。基板20としては、例えば、プラスチック材料、ガラス、石英、光硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂などを用いることができる。基板20上に形成される、導入部4、測定部5、廃液部6の上面形状は、特定の形状に限定されず、円形、楕円形、矩形などでよく、底面は平面もしくは円の一部のように丸くなっていてもよい。各流路7、8の断面の形は、矩形、円形または台形形状などでよく、又は流路の底が円の一部のように丸くなっていてもよい。各流路7、8は直線形状である必要はなく、蛇行形状、渦巻形状、螺旋形状でもよい。導入部4、測定部5、廃液部6および各流路7、8は、例えばウェットエッチング、ダイシングソー等を用いて、基板20をその厚さ方向に削るようにしてそれぞれ作製される。また、導入部4、測定部5、廃液部6および各流路7、8の形状パターンに対する凸型の金型を形成し、金型に対して射出成型、ホットエンボスなどによる転写を行い、導入部4、測定部5、廃液部6および各流路7、8を基板20上に形成してもよい。導入部4、測定部5、廃液部6および各流路7、8は、同一基板上に形成される必要はなく、測定部5および各流路7、8を形成した基板とは別の基板(図示せず)に二つの貫通孔を設け、二つの基板を貼り合わせることにより二つの貫通孔をそれぞれ導入部、廃液部としてもよい。また、導入部4、測定部5、廃液部6および各流路7、8は基板上に形成されている必要はなく、例えば、マイクロタイタープレートなどのプラスチック容器を測定部として用いてもよい。この場合は、導入部、廃液部および流路は必ずしも必要ではない。
【0066】
測定部5の直径は、例えば、1μm〜10000μmの範囲内で、深さは例えば1μm〜10000μmの範囲内であることが好ましいが、この範囲内に限定されるものではない。測定部5には、測定対象である特定タンパク質に由来する特定ペプチドを認識し結合する親和結合物質もしくは、濃度が既知の特定タンパク質に由来する特定ペプチドを測定に先立って導入しておく。導入した親和結合物質もしくは、濃度が既知の特定タンパク質に由来する特定ペプチドは、基板の測定部5に固定化してもよい。固定化の方法としては、例えば親水性や疎水性を利用した吸着または、各物質と基板との共有結合が挙げられる。基板に直接固定せず、例えば、ビーズに各物質を固定化した後、測定部5に導入してもよい。さらに、他のタンパク質やペプチドフラグメントの測定部への吸着を防ぐ目的でブロッキング操作を行ってもよい。ブロッキングの材料としては、例えば、牛血清アルブミン(BSA)などを用いることができる。
【0067】
導入部4および廃液部6の直径は、例えば、1μm〜10000μmの範囲内で、深さは例えば1μm〜10000μmの範囲内であることが好ましいが、この範囲内に限定されるものではない。流路7および8の幅は、例えば、1μm〜5000μmの範囲内で、深さは例えば1μm〜5000μmの範囲内であることが好ましいが、この範囲内に限定されるものではない。導入部4には、サンプルおよび測定用試薬を導入するためのチューブ(図示せず)を設け、チューブの先に例えば、シリンジポンプやぺリスタポンプ(図示せず)などの送液システム(例えば送液ポンプ)を連結し、送液システムによりサンプルの導入や送液を行ってもよい。廃液部6には、特定タンパク質のペプチドフラグメント以外のペプチドフラグメントや測定用試薬を排出するためのチューブ(図示せず)を設け、チューブの先に例えば、シリンジポンプやぺリスタポンプ(図示せず)などの送液システム(例えば吸引ポンプ)を連結し、送液システムにより基板上の廃液部6から基板外へ廃液を行ってもよい。測定部のみから測定装置が形成される場合は、測定部に直接チューブを設け、ポンプを用いてサンプルや試薬の導入、廃液を行ってもよい。何れの場合も、ポンプを用いない場合は、例えば、ピペット操作や毛細管現象の利用により、各種操作を行ってもよい。また、測定装置の導入部以外、もしくは導入部と廃液部以外は別の基板で蓋をする構成としてもよい。また、測定部において、特定タンパク質に由来する特定ペプチドと親和結合物質が効率よく結合反応を起こすよう、攪拌機構などを設けてもよい。
本装置は、特定ペプチドフラグメントに結合した試剤(例えば親和結合物質)を検出するための検出装置をさらに備えていてもよい。検出装置は、好ましくは光検出装置である。光検出装置は、光源と検出器を備える。光源は、好ましくは、レーザ、LEDまたはランプからなる群より選択され、検出器は、好ましくは、光電子増倍管またはマルチピクセル光検出器からなる群より選択される。
【0068】
(流体制御を伴う免疫測定法)
流体制御を伴う免疫測定法を用いる測定を説明する。
測定に先立って、標識を施していない第一の親和結合物質又は未標識かつ濃度が既知のペプチド(特定ペプチドフラグメントと同じアミノ酸配列からなる)を測定部5に導入しておく。これらの物質は、基板上の測定部5に固定化してもよい。固定化には、例えば、吸着、共有結合などの方法を用いることができる。ビーズなどにこれらの物質を固定化した後、測定部5へ導入してもよい。固定化することにより、送液操作や洗浄操作によって固定化物質が測定部5から廃液部6へと移動することを防ぐ。さらに、他のタンパク質やペプチドフラグメントの測定部5への吸着を防ぎ、高精度な測定を行う目的でブロッキング操作を行ってもよい。ブロッキングの材料としては、例えば、牛血清アルブミン(BSA)などを用いることができる。
【0069】
(1.親和結合物質を測定部に固定する測定法)
第一の未標識親和結合物質を測定部5に固定化した後、本発明の方法の第1工程での分解処理後のサンプルを導入部4より導入する。導入は導入部4を介さず測定部5へ直接行ってもよい。導入および送液に用いる溶液として例えば、緩衝液を用いることができる。サンプルが測定部5に達すると、特定ペプチドフラグメントと、測定部5の第一の親和結合物質が特異的に結合反応を起こす。測定部5へ第一の親和結合物質を固定化した場合は、この結合反応により、特定ペプチドフラグメントのみが第一の親和結合物質を介して測定部5に結合される。導入後、例えば、攪拌操作を行い、特定ペプチドフラグメントと第一の親和結合物質の結合反応が効率よく起こるようにしてもよい。次に、導入部4より測定部5へ若しくは測定部5へ直接、送液を行うことにより、特定ペプチドフラグメント以外のペプチドは、測定部5から廃液部6へと洗浄される。洗浄操作は、何回か繰り返して行ってもよい。次に、特定ペプチドフラグメント中の第一の親和結合物質が認識する部位とは異なる部位を認識する第二の親和結合物質を導入部4から測定部5へ若しくは測定部5へ直接導入する。第二の親和結合物質は標識されていてもいなくてもよい。標識としては、例えば、蛍光色素、酵素、化学発光団、吸収色素、放射性同位体、スピン標識、電気化学的標識などを用いることが可能である。未標識の場合、UV吸収など標識を必要としない測定方法を用いる。第二の親和結合物質は、測定部5に導入されると、測定部5中の第一の親和結合物質と結合した特定ペプチドフラグメントと特異的な結合反応を起こす。この際、例えば、攪拌操作を行い、特定ペプチドフラグメントと第二の親和結合物質の結合反応が効率よく起こるようにしてもよい。第二の親和結合物質は、特定ペプチドフラグメントより過剰の濃度で存在することが望ましい。次に、導入部4より測定部5へ若しくは測定部5へ直接、送液を行うことにより、特定ペプチドフラグメントと結合したもの以外の第二の親和結合物質は、測定部5から廃液部6へと洗浄される。洗浄操作は、何回か繰り返して行ってもよい。以上の操作により、測定部5には、特定ペプチドフラグメントを挟む形で、第一の親和結合物質と第二の親和結合物質が結合する形となる。特定ペプチドフラグメントの濃度と第二の親和結合物質の濃度が等しいもしくは相関があるため、第二の親和結合物質の濃度を測定することにより、特定ペプチドフラグメントの量を測定することが可能となる。
【0070】
測定には、上記の検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの測定を親和結合電気泳動法により行う方法と同じ手法を用いることが可能である。また、例えば一種類の親和結合物質を測定部に固定することで測定が可能であるSPR法やSELDI法も使用可能である。特定ペプチドフラグメントの異なる二つの親和結合部位を認識する親和結合物質を用いることで、特定タンパク質を特異的に高精度で測定可能となる。
【0071】
(2.濃度既知のペプチドを測定部に固定する測定法)
未標識かつ濃度が既知のペプチド(特定ペプチドフラグメントと同じアミノ酸配列からなる)を測定部5に固定化した後、本発明の方法の第1工程での分解処理後のサンプルおよび濃度既知の親和結合物質の混合物を導入部4より導入する。特定ペプチドフラグメントと同じアミノ酸配列からなるペプチドの測定部5への固定化方法は、例えば、共有結合でもよいし、吸着を利用してもよい。固定化後、ブロッキング処理を施してもよい。導入前の混合操作により、サンプル中の特定ペプチドフラグメントと親和結合物質は複合体を形成している。ここで、親和結合物質は、サンプル中の特定ペプチドフラグメントより過剰の濃度で存在することが望ましい。導入は導入部4を介さず測定部5へ直接行ってもよい。導入および送液に用いる溶液として例えば、緩衝液を用いることができる。測定部5では、複合体を形成していない過剰の親和結合物質と測定部5に予め固定された濃度既知のペプチドが特異的な結合反応を起こす。導入時に複合体を形成している親和結合物質は、測定部5に予め固定されたペプチドとは結合反応を起こさない。ここで、測定部5に固定したペプチドは、導入前の親和結合物質の濃度と等しいか過剰であることが望ましい。導入後、例えば、攪拌操作を行い、未結合の親和結合物質と測定部に固定したペプチドとの結合反応が効率よく起こるようにしてもよい。次に、導入部4より測定部5へ若しくは測定部5へ直接、送液を行うことにより、測定部5に固定したペプチドと複合体を形成した親和結合物質以外は(サンプル中の特定タンパク質から分離された特定ペプチドフラグメントも)、測定部5から廃液部6へと洗浄される。洗浄操作は、何回か繰り返して行ってもよい。
【0072】
以上の操作により、測定部5では、導入時に複合体を形成していなかった親和結合物質と、測定部に固定した濃度既知のペプチド(特定ペプチドフラグメントと同じアミノ酸配列からなる)とが結合している。サンプル中に特定ペプチドフラグメントが存在しない場合は、サンプルに添加した全ての親和結合物質が、測定部5に固定した濃度既知のペプチドと結合反応を起こす。他方、サンプル中に特定ペプチドフラグメントが存在する場合は、測定部5に固定した濃度既知の特定ペプチドフラグメントと結合する親和結合物質の量が減少することになる。よって、洗浄後に測定部5に残存する親和結合物質の量を測定することで、サンプル中の特定ペプチドフラグメントの存在を測定することができる。また、測定部5に残存した親和結合物質の量と特定ペプチドフラグメントの量とは相関があるため、親和結合物質の量からサンプル中の特定ペプチドフラグメントの量を測定することができる。
【0073】
複合体の測定には、上記の検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの測定を親和結合電気泳動法により行う方法と同じ手法を用いることが可能である。この方法では、特定ペプチドフラグメントは一種類の親和結合物質と結合すればよいので、特定ペプチドフラグメントが短いフラグメントであっても測定が可能である。
上記の実施の形態では、流体制御を伴う免疫測定法を用い、特定タンパク質をペプチドにフラグメント化し、特異的な結合性を有する親和結合物質を用いて、特定タンパク質を測定する方法について説明を行ったが、ウエスタンブロッティング法などの免疫測定法、クロマトグラフィーや質量分析など上記実施の形態以外の分離場においても、本発明のタンパク質試料をペプチドフラグメント化して行う測定方法および測定装置が適用できることは言うまでもない。
【0074】
(特定タンパク質からの、親和結合物質に結合する特定ペプチドフラグメントの製造方法)
本発明の上記タンパク質のフラグメント化方法を用いることにより、特定タンパク質から親和結合物質が結合する特定ペプチドを製造することが可能となる。特定タンパク質のペプチドフラグメントは、特定タンパク質を含むサンプルを、上記フラグメント化方法を用いて全てペプチドフラグメントにフラグメント化したのち、特定タンパク質に由来する特定ペプチドフラグメントのみを、例えば、免疫化学的分離法、クロマトグラフィー、電気泳動、ゲルろ過、遠心分離、固相抽出などの手法を用いて精製する。また、一度特定ペプチドフラグメントを得てそのアミノ酸配列を調べたのちは、ペプチド合成法(化学合成法、遺伝子組換え法など)により、特定ペプチドフラグメントの調製を行ってもよい。
【0075】
特定タンパク質に由来する特定ペプチドを提供することにより、より広範囲の保存および実験条件下で、高精度な実験、研究、開発が可能となる。また、特定タンパク質に由来する特定ペプチドは、特定ペプチド以外の部分に起因する不均一要素が少なく、今までに解析が困難であった不溶タンパク質の解析も可能となるため、医療、創薬、農業といった分野に多大な貢献を果たす効果がある。
【0076】
さらに、特定タンパク質に由来する特定ペプチドは、特定タンパク質に対する親和結合物質の製造にも用いることができる。本発明の製造方法により製造された特定ペプチドフラグメントは、特定ペプチドフラグメント以外の部位に起因する不均一要素が少ないため、特異的な親和結合物質を高精度で製造可能である。また、特定タンパク質に由来する特定ペプチドは、不安定な立体配座要素を有しないため、広範囲な保存および実験条件を設定することが可能であり、親和結合物質を再現性よく高収率で製造可能となる。親和結合物質としては、タンパク質、ペプチド、核酸、合成化学物質など親和結合性を有するありとあらゆる物質を製造可能である。親和結合物質である抗体タンパク質を製造する方法として、例えば、特定タンパク質に由来する特定ペプチドをマウス、ラット、ウサギ、ニワトリなどの動物や、植物に免疫原として注入し、動物もしくは植物の体内で抗体を産生させる方法が挙げられる。ペプチド、核酸、合成化学物質などの親和結合物質を製造する場合は、特定タンパク質に由来する特定ペプチドに対して親和結合性の高い親和結合物質をスクリーニングにより製造することが可能である。また、特定タンパク質に由来する特定ペプチドはタンパク質に比して低分子であるため、特定ペプチドのアミノ酸配列に特異的に結合する親和結合物質を例えば、シミュレーション技術などを用いて特定し、合成することも可能である。製造方法は上記に限定されるものではなく、本発明のタンパク質のフラグメント化方法を用いて製造した、特定タンパク質に由来する特定ペプチドを用いて、親和結合物質を製造するありとあらゆる方法を提供する。
【0077】
(本発明のバイオマーカーをスクリーニングする方法およびバイオマーカーを用いた検査方法)
本発明の上記タンパク質のフラグメント化方法を用いることにより、サンプル中のタンパク質群の中から病気の診断や環境の測定に用いることが可能となるバイオマーカーをスクリーニングすることが可能となる。バイオマーカーのスクリーニング方法は、複数種のタンパク質を含むサンプルを、上記フラグメント化方法を用いて全てペプチドフラグメントにフラグメント化したのち、バイオマーカーとなる特定タンパク質に由来する特定ペプチドを、例えば、免疫測定法、クロマトグラフィー、電気泳動、質量分析、ゲルろ過、遠心分離などの手法(好ましくは、免疫測定法)を用いてスクリーニングする。本発明のスクリーニング法または検査方法において、好ましい免疫測定法は、親和結合電気泳動法(例えば、親和結合等電点電気泳動法)または流体制御を伴う免疫測定法である。
バイオマーカーは、例えば、特定の病気に関して、健常と異常の両サンプルを用い、健常と異常のサンプル間で、含有量、電気的性質、分子量などに差が現れるものであればよく、親和結合物質と結合するものに限られない。バイオマーカーを親和結合物質と結合するものとする場合、それは、健常と異常のサンプル間で、親和結合物質への結合能に変化が得られるものであり得る。
本発明は、上記バイオマーカーを用いて、例えば、病気の診断や食品の検査、環境測定などを行う方法をも提供する。上記バイオマーカーを用いた測定方法は、上記スクリーニング方法を用いてスクリーニングされたペプチドフラグメントである必要はなく、例えば、予め精製された一種類の特定タンパク質に対して上記フラグメント化処理を施したペプチドフラグメントを用いてもよい。また、一度得られたバイオマーカーであるペプチドフラグメントの遺伝子配列に基づき、タンパク質工学の手法を用いてペプチドフラグメントを製造し診断に用いてもよい。また、バイオマーカーであるペプチドフラグメントのアミノ酸配列に基づいてペプチドシンセサイザーなどを用いた合成による製造を行い診断に用いてもよい。製造したバイオマーカーは、診断や検査において、例えば、サンプル中のバイオマーカーと検出用結合親和性物質との結合が特異的結合であることを確認するための競合試薬として使用できる。バイオマーカーのスクリーニング方法および製造方法は上記に限定されるものではなく、本発明のタンパク質のフラグメント化法を用いたありとあらゆるバイオマーカーのスクリーニング方法およびバイオマーカーを用いた診断方法を提供する。本発明のバイオマーカーのスクリーニング方法およびバイオマーカーを用いた診断方法を用いることにより、例えば従来バイオマーカーとして用いることが困難であった不溶タンパク質などをバイオマーカーとして用いることが可能となり、医療、創薬、農業といった分野に多大な貢献を果たす効果がある。
【実施例】
【0078】
(第一実施例)
検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの測定を親和結合電気泳動法により行う本発明の測定装置を作製し、サンプル中のマウス脳内プリオンタンパク質(特定タンパク質)の測定を行った。
【0079】
マウス脳内プリオンを含むマウス脳組織をBioRad社製プラテリアBSEキットに付属するビーズ入りホモゲナイズチューブを用いて破砕し、20%脳乳剤を調製した。この脳乳剤を水で希釈して、各600μg、200μg、20μgの脳組織ホモジェネートを含む希釈液各20μLを調製した。希釈液に3M酢酸ナトリウム2μLを添加し、99.5%エタノール50μLを加え、攪拌後、室温にて5分間放置した。14000rpm、10分間遠心し、上清を捨て、沈殿を0.1M酢酸ナトリウムを含む70%エタノールに再懸濁したのち、再度14000rpm、5分間遠心した。沈殿を遠心エバポレーターで乾燥した後、残渣を1mM塩酸10μLに溶解し、ペプチドフラグメントへの分解を行わないサンプル溶液を用意した。これとは別に、上記沈殿を遠心エバポレーターで乾燥したものに、70%ギ酸に10mg/mLの濃度で溶解したブロモシアン溶液20μLを加え、50℃にて1時間ペプチドフラグメントへの分解を行った。ブロモシアンとギ酸を遠心エバポレーターで蒸発除去し、残渣を1mM塩酸10μLに溶解し、分解を行なったサンプル溶液を用意した。各濃度の両サンプル溶液1μLに、等電点電気泳動用両性担体液9μLと蛍光色素であるテトラメチルローダミンで標識した5×10-8Mの抗マウスプリオン一本鎖抗体断片10μLを加え、親和結合等電点電気泳動のサンプル導入液とした。
【0080】
次に、溶融シリカキャピラリー(内径50μm、外径375μm、長さ18cm)を用意し、電気浸透流の影響を除去するために内壁をポリジメチルアクリルアミドでコーティングした。別々のキャピラリー内をそれぞれのサンプル導入液で満たし、陽極リザーバ、陰極リザーバとしてそれぞれ白金電極を装着したプラスチック容器を使用しキャピラリーの両端に装着した。陽極液として20mMリン酸溶液、陰極液として20mM水酸化ナトリウム溶液を用いて、500V/cmの電場強度で電圧を印加し、10分間等電点電気泳動を行った。等電点電気泳動終了後キャピラリーを検出点に対して移動させることにより、陰極側(高pH側)から走査検出した。蛍光は、緑色(534.5nm)のヘリウム-ネオンレーザー(出力1mW)で励起し、中心波長590nm、バンド幅40nmのバンドパスフィルターを通して光電子増倍管で検出した。
【0081】
標識抗体断片のみを用いて等電点電気泳動を行い蛍光を測定したところ、1本のシャープなピークが検出された。この位置が標識抗体断片の等電点位置である。
分解を行わないサンプルでは、何れの濃度においても、親和結合等電点電気泳動において標識抗体断片の等電点位置でのみピークが確認された。プリオンタンパク質は不溶性であるため、使用した測定系では抗体と結合できなかったと考えられた。また、等電点電気泳動の再現性は低く、これは不溶タンパク質の存在によると考えられた。
【0082】
これに対して、分解を行ったサンプル溶液では、図5に示すように、親和結合等電点電気泳動において何れの濃度においても、標識抗体断片のみのピークとは異なる等電点位置に、ピークが確認された。これは、プリオンが、分解により、可溶性の特定ペプチドフラグメントを生成した結果であると考えられた。なお、蛍光標識抗体単体のピークは紙面外に存在し図5には現れていない。
【0083】
マウス脳内プリオンタンパク質の全アミノ酸配列を図6に示す。各アミノ酸の種類は1文字表記で示してある。本実施の形態では、分解試薬としてブロモシアンを用いたため、マウス脳内プリオンタンパク質は、図6のM(メチオニン残基)のC末端側のペプチド結合が切断され、7つのペプチドフラグメントを生じる。7つのペプチドフラグメントのアミノ酸配列を図7に示す。用いた抗マウスプリオン一本鎖抗体断片は、図6および図7の下線を引いた部位のアミノ酸配列を親和結合部位として認識することがわかっている。よって、抗マウスプリオン一本鎖抗体断片は、図7のペプチドフラグメント1と特異的に結合反応を起こし、複合体を形成したと考えられる。複合体形成後、等電点電気泳動により、余剰の蛍光標識抗体は自らの等電点位置に収束し、マウス脳内プリオンタンパク質のペプチドフラグメント1―蛍光標識抗体複合体は、複合体の等電点位置に収束した。両者の収束位置は明確に異なるものであり、抗原抗体反応の有無、即ち、ペプチドフラグメント1の量を測定可能であった。ペプチドフラグメント1は、ブロモシアンによりマウス脳内プリオンタンパク質から比例関係で生成されるため、ペプチドフラグメント1の量と元のマウス脳内プリオンタンパク質の量との間に相関がある。よって、ペプチドフラグメント1の存在及びその量から、マウス脳内プリオンタンパク質の存在及びその量が示される。図5のように複合体に起因するピークが4つが確認されたが、これは、ペプチドフラグメント1のアミノ酸配列から考えるとアスパラギン残基(1文字表記はN)やグルタミン残基(1文字表記はQ)の脱アミド反応による等電点の変化、もしくはペプチドフラグメント1部位への翻訳後修飾の有無が原因と考えられる。前者が原因である場合は、元々のマウス脳内プリオンタンパク質を含むマウス脳組織由来のタンパク質の保存条件を最適化し脱アミド反応を防ぐことで、複合体に起因するピークを1つにすることも可能であるし、4つのピークの全ての情報から複合体の濃度、即ちマウス脳内プリオンタンパク質の濃度を計算することも可能である。後者の場合は、MSによる同定を一度行うことで、翻訳後修飾の有無を確認することも可能である。
以上の実験を繰り返し行ったところ、結果には良好な再現性が観察された。
【0084】
(第二実施例)
検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの測定を流体制御を伴う免疫測定法により行う本発明の測定装置を作製し、サンプル中のマウス脳内プリオンタンパク質(特定タンパク質)の測定を行った。
【0085】
マウス脳内プリオンを含むマウス脳組織をBioRad社製プラテリアBSEキットに付属するビーズ入りホモゲナイズチューブを用いて破砕し、20%脳乳剤を調製した。この脳乳剤を水で希釈して、脳組織ホモジェネートを含む希釈液を調製した。希釈液に3M酢酸ナトリウムを添加し、99.5%エタノールを加え、攪拌後、室温にて5分間放置した。14000rpm、10分間遠心し、上清を捨て、沈殿を0.1M酢酸ナトリウムを含む70%エタノールに再懸濁したのち、再度14000rpm、5分間遠心した。沈殿を遠心エバポレーターで乾燥した後、残渣を1mM塩酸に溶解し、分解を行わないサンプル溶液を用意した。また、これとは別に、上記沈殿を遠心エバポレーターで乾燥したものに、70%ギ酸に10mg/mLの濃度で溶解したブロモシアン溶液を加え、50℃にて1時間ペプチドフラグメントへの分解を行った。ブロモシアンとギ酸を遠心エバポレーターで蒸発除去し、残渣を1mM塩酸に溶解し、分解を行ったサンプル溶液を用意した。
【0086】
次に、プラスチック基板上に測定部のみからなる測定装置を切削加工により形成した。測定部は、3mm角の方形で深さは1mmである。測定装置は計3個作製した。
次に、上記のサンプルとは別に、濃度既知のマウス脳内プリオンタンパク質からブロモシアン分解により作成したペプチドフラグメントを用意し、各測定装置の測定部に導入し、吸着固定した。導入にはピペッターを用いた。ブロッキング剤としてBSAを用い、測定部に導入し、ブロッキング処理を施し、後洗浄した。以上の操作により、濃度既知のマウス脳内プリオンタンパク質のペプチドフラグメントを測定部に固定化したものを計3個作製した。
【0087】
第一の測定装置の測定部に、蛍光色素であるテトラメチルローダミンで標識した濃度既知の抗マウスプリオン一本鎖抗体断片を導入し、結合反応を起こした。洗浄後、蛍光を緑色(534.5nm)のヘリウム-ネオンレーザー(出力1mW)で励起し、中心波長590nm、バンド幅40nmのバンドパスフィルターを通して光電子増倍管で測定し、サンプルとしてマウス脳内プリオンタンパク質のペプチドフラグメントを含まない場合の蛍光強度に関する情報を得た。
【0088】
次に、分解を行わなかったサンプル溶液に、濃度既知の標識一本鎖抗体を加え、測定部外で混合した。第二の測定装置の測定部に混合物を導入した後、洗浄し、標識の蛍光を測定した。この蛍光の強度と、サンプルとしてマウス脳内プリオンタンパク質のペプチドフラグメントを含まない場合の蛍光強度との間に差はみられなかった。これは、分解処理を施さなかったため、プリオンは不溶のままであり、測定部への導入前に抗体断片と結合反応を起こさず、添加した全ての抗体断片が測定部に導入されて、そこに固定化したペプチドと結合反応を起こしたためと考えられた。
【0089】
次に、分解処理を行ったサンプル溶液に、濃度既知の標識一本鎖抗体を加え、測定部に導入する前に混合した。第三の測定装置の測定部に混合物を導入した後、洗浄し、標識の蛍光を測定したところ、サンプルとしてマウス脳内プリオンタンパク質のペプチドフラグメントを含まない場合の蛍光強度と比べ蛍光強度が減少していた。これは、分解処理により、プリオンがペプチドフラグメントに分解され、標識一本鎖抗体と結合する部位を有する可溶性の特定ペプチドフラグメントが生じて、測定部への導入前に、標識一本鎖抗体がこの特定ペプチドフラグメントと結合反応を起こし、測定部に導入された未結合の標識一本鎖抗体の量が減少したことによると考えられた。
【0090】
以上のように、本来は不溶であり測定が不可能であったマウス脳内プリオンタンパク質が、本発明の方法により、測定可能となることが示された。ペプチドフラグメントと元のタンパク質の量は比例関係にあるので、ペプチドフラグメントの量を測定することにより、元のタンパク質の量を測定することが可能である。
以上の実験を繰り返し行ったところ、結果には良好な再現性が観察された。
【0091】
上記の実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書または添付図面に記載された具体的な構成および配置のみに限定されるものではないことに留意すべきである。本明細書に記載した具体的構成、手段、方法、および装置は、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能であることを、当業者は理解すべきであり、そして容易に認識する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】不溶性タンパク質の模式図である。
【図2】特定タンパク質が不溶性タンパク質である場合の本発明の方法を模式的に表す図である。
【図3】本発明の装置の一形態の上面概略図である。
【図4】本発明の装置の別形態の上面概略図である
【図5】第一実施例で得られたマウス脳内プリオン−蛍光標識抗体複合体のピークである。マウス脳内プリオンを含むサンプル溶液のタンパク質濃度は、(A)1.06μg、(B)0.35μg、(C)0.035μgである。なお、(C)は縦軸を10倍に拡大して表示した。
【図6】実施例において測定対象として用いたマウス脳内プリオンタンパク質の全アミノ酸配列である。
【図7】マウス脳内プリオンタンパク質のブロモシアンによる分解で生じるペプチドフラグメントのアミノ酸配列である。
【符号の説明】
【0093】
1、7、8 流路
2 陽極リザーバ
3 陰極リザーバ
4 導入部
5 測定部
6 廃液部
10、20 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種類のタンパク質を含むサンプルに含まれる特定のタンパク質を測定する方法において、
特定のタンパク質のペプチド結合を切断する試剤をタンパク質サンプルに反応させて、特定の一次構造によって指定される検出所望の可溶性ペプチドフラグメントを発生させ、
上記可溶性ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤と接触させて、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの存在を測定することを特徴とする特定タンパク質の測定方法。
【請求項2】
検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの存在の測定が、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントと、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤との接触により形成した複合体を、複合体を形成していないペプチドフラグメント及び試剤から分離して行なわれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
特定のタンパク質のペプチド結合を切断する試剤が、タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試剤である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試剤が、酵素反応を利用する試剤である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試剤が、化学反応を利用する試剤である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
酵素反応を利用する試剤がプロテアーゼである請求項4に記載の方法。
【請求項7】
プロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、ブロメライン、エラスターゼ、クロストリパイン、V8プロテアーゼ、サーモリシン、リシルエンドペプチダーゼ、アルギニンエンドペプチダーゼ、プロリルエンドペプチダーゼ及びアスパラギン酸−Nプロテアーゼからなる群から選ばれる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
化学反応を利用する試剤が、ブロモシアン、N−ブロモコハク酸イミド、BNPS−スカトール、ジメチルスルホキシド−HCl−HBr、ヨードシル安息香酸、N−クロロスクシンアミド、ヒドロキシルアミン及び塩酸グアニジンからなる群から選ばれる請求項5に記載の方法。
【請求項9】
検出所望の可溶性ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤が、特定のタンパク質に対する親和結合性を有する親和結合物質である請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
検出所望の可溶性ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤が、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントに対する親和結合性を有する親和結合物質である請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
親和結合物質がタンパク質、ペプチド、核酸、合成化学物質からなる群より選択される物質である請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
検出所望の可溶性ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤が、測定のための標識を有する請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
測定のための標識が蛍光色素、酵素、吸収色素、化学発光団、放射性同位体、スピン標識及び電気化学的標識からなる群から選ばれる請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記標識を測定するための方法が光測定である請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記標識を測定するための方法が電気的測定である請求項12又は13に記載の方法。
【請求項16】
検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの存在の測定が免疫測定法により実施される請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
免疫測定法が親和結合電気泳動法である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
親和結合電気泳動法が親和結合等電点電気泳動法である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
免疫測定法が流体制御を伴う免疫測定法である請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記特定タンパク質が膜タンパク質である請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記特定タンパク質がプリオンタンパク質である請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
検出所望の可溶性ペプチドフラグメントの存在が定量的に測定される請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
親和結合等電点電気泳動を行う流路と、陽極液を導入する陽極リザーバと、陰極液を導入する陰極リザーバとからなることを特徴とする請求項18に記載の方法のための測定装置。
【請求項24】
前記陽極リザーバ及び陰極リザーバが、電気泳動を行うための電極を備えているか、又は外部から電極を前記陽極及び陰極リザーバに挿入する機構を備えている請求項23に記載の測定装置。
【請求項25】
前記親和結合等電点電気泳動を行う測定装置が電気泳動を行うために前記電極間に電圧を印加する機構を備えている請求項24に記載の測定装置。
【請求項26】
前記親和結合等電点電気泳動を行う流路の幅および深さが1〜5000μmであることを特徴とする請求項23〜25のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項27】
流体制御を伴う免疫測定法により特定タンパク質のペプチドフラグメントの有無および濃度を測定するための測定部を備えていることを特徴とする請求項19に記載の方法のための測定装置。
【請求項28】
前記流体制御を伴う免疫測定法を行う測定装置がさらに、導入部、廃液部および前記測定部と導入部、測定部と廃液部を接続する流路を備えている請求項27に記載の測定装置。
【請求項29】
前記流体制御を伴う免疫測定法を行う測定装置がさらに、各種溶液の導入、導出を行うための送液システムを備えている請求項27又は28に記載の測定装置。
【請求項30】
前記測定装置が、検出所望の可溶性ペプチドフラグメントに結合した試剤を検出するための検出装置をさらに備えている請求項23〜29に記載の測定装置。
【請求項31】
前記検出装置が光検出装置であり、レーザまたはLEDまたはランプからなる群より選択される光源と、光電子増倍管またはマルチピクセル光検出器からなる群より選択される検出器とを備えている請求項30に記載の測定装置。
【請求項32】
前記光源からの光が流路の一端より流路内へ導入される請求項31に記載の測定装置。
【請求項33】
特定のタンパク質を含むタンパク質調製物に対して、タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試剤を反応させて、特定の一次構造によって指定される所望の可溶性ペプチドフラグメントを発生させ、
上記ペプチドフラグメントと特異的に反応する試剤と接触させて、所望の可溶性ペプチドフラグメントを回収することを特徴とする特定タンパク質の親和結合物質が結合しうるペプチドフラグメントの製造方法。
【請求項34】
タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試剤が、酵素反応を利用する試剤である請求項33に記載の方法。
【請求項35】
タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試剤が、化学反応を利用する試剤である請求項33に記載の方法。
【請求項36】
酵素反応を利用する試剤がプロテアーゼである請求項34に記載の方法。
【請求項37】
プロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、ブロメライン、エラスターゼ、クロストリパイン、V8プロテアーゼ、サーモリシン、リシルエンドペプチダーゼ、アルギニンエンドペプチダーゼ、プロリルエンドペプチダーゼ及びアスパラギン酸−Nプロテアーゼからなる群から選ばれる請求項36に記載の方法。
【請求項38】
化学反応を利用する試剤が、ブロモシアン、N−ブロモコハク酸イミド、BNPS−スカトール、ジメチルスルホキシド−HCl−HBr、ヨードシル安息香酸、N−クロロスクシンアミド、ヒドロキシルアミン及び塩酸グアニジンからなる群から選ばれる請求項35に記載の方法。
【請求項39】
少なくとも一種類のタンパク質を含むサンプルに対して、タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試剤を反応させて、特定の一次構造によって指定される所望の可溶性ペプチドフラグメントを発生させ、
上記ペプチドフラグメントの中からバイオマーカーをスクリーニングすることを特徴とするバイオマーカーのスクリーニング方法。
【請求項40】
タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試薬が、酵素反応を利用する試薬である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
タンパク質を特定のアミノ酸又はアミノ酸配列の部位で分解する試薬が、化学反応を利用する試薬である請求項39に記載の方法。
【請求項42】
酵素反応を利用する試薬がプロテアーゼである請求項40に記載の方法。
【請求項43】
プロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、ブロメライン、エラスターゼ、クロストリパイン、V8プロテアーゼ、サーモリシン、リシルエンドペプチダーゼ、アルギニンエンドペプチダーゼ、プロリルエンドペプチダーゼ及びアスパラギン酸−Nプロテアーゼからなる群から選ばれる請求項42に記載の方法。
【請求項44】
化学反応を利用する試薬が、ブロモシアン、N−ブロモコハク酸イミド、BNPS−スカトール、ジメチルスルホキシド−HCl−HBr、ヨードシル安息香酸、N−クロロスクシンアミド、ヒドロキシルアミン及び塩酸グアニジンからなる群から選ばれる請求項41に記載の方法。
【請求項45】
バイオマーカーのスクリーニングが免疫測定法により実施される請求項39〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
免疫測定法が親和結合電気泳動法である請求項45に記載の方法。
【請求項47】
親和結合電気泳動法が親和結合等電点電気泳動法である請求項46に記載の方法。
【請求項48】
免疫測定法が流体制御を伴う免疫測定法である請求項45に記載の方法。
【請求項49】
生物サンプルにおける請求項39〜48のいずれかに記載の方法によりスクリーニングされたバイオマーカーの存在を測定する検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−71645(P2007−71645A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257938(P2005−257938)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(399086263)学校法人帝京大学 (21)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】