説明

タービンエンジン部品用の断熱被膜およびその製造方法

特にタービンエンジン部品(12)用の断熱被覆であって、断熱被覆は、部品(12)の表面に溶射によって付着され、ニッケルまたはコバルト系金属合金内に分散された中空セラミックマイクロビーズを少なくとも80容積%含み、断熱被覆を金属合金接着層(22)上に付着し、腐食もしくは摩擦摩耗から保護する層(26)または熱放射を反射する反射層で覆うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に航空機ターボジェットまたはターボプロップのタービンエンジンの部品用の断熱被膜およびその被膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機エンジンなどのタービンエンジンでは、特定の部品は、タービンエンジン内で生成された高温ガス流により、またはそれ自体が高温に上昇した隣接部品により生じる熱から保護または隔絶される必要がある。したがって、航空機エンジンに固有の要件、すなわち、耐久性、隣接環境に耐える能力、低重量、簡潔さ、実証される効果などに適合する断熱手段をこのような部品に取り付けることが必要である。
【0003】
また、上記断熱手段は、付加されるのではなく、保護する部品に組み込まれる必要があるが、これらの部品はすでに航空機エンジン内で特有の機能を有する。したがって、断熱金属板は効果的であるが、重量を増加させエンジン内の利用可能なスペースを低減する追加部品となるので、断熱金属板を使用することはできない。
【0004】
発泡体の絶縁被膜を含む他の可能な解決策は、寿命が短く、高温に十分に適応できるものではない。
【0005】
また、保護する部品上にジルコニウム系セラミック製の熱障壁を形成することが知られているが、このような障壁は厚さが制限されており(1mm未満)、脆弱で、製造コストが高い。
【0006】
また、エンジンから取り込まれる空気流によって特定の部品を冷却することも可能であるが、この解決策はエンジン性能を低下させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特に航空エンジンのタービンエンジン部品用の断熱被膜で、上述した欠点のない断熱被膜を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、簡単、容易、かつ製造コストが安く、比較的厚く、比較的低密度の断熱被膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明は、特にタービンエンジン部品またはブレーキディスク用の断熱被覆であって、ニッケルまたはコバルト系金属合金内に分散された中空セラミックマイクロビーズを少なくとも80容積%含むことを特徴とする断熱被覆を提供する。
【0010】
断熱被膜は、1W/m.℃未満の熱伝導率を有し、厚さは約5mmであり、その厚さは調節可能で熱伝達を制御する働きをする。
【0011】
断熱被膜の密度は、2000kg/m未満であり、セラミックマイクロビーズに関係する金属合金に応じて、−50℃〜+1100℃の温度で使用可能である。
【0012】
さらに、焼却炉の燃焼生成物によって得られた非常に低コストのセラミックマイクロビーズを使用するのが可能である限りにおいて、その製造コストは比較的安くなる。
【0013】
本発明の被覆の熱伝達に耐える能力は、主に、中空セラミックマイクロビーズの存在に関係しており、その容積比率は90%より大きくすることができる。
【0014】
マイクロビーズの直径は、一般に、30μm〜250μmである。
【0015】
本発明の被覆の金属合金は、アルミニウム、クロム、イットリウムを含むことができる。
【0016】
その金属合金は、粉末状で市販されているので、溶射用途に適している。
【0017】
本発明はさらに、上述のタイプの断熱被覆の製造方法であって、中空セラミックマイクロビーズとニッケル系およびコバルト系の金属合金の粉末との混合物を、部品に向けられるプラズマコーンで金属合金粉末とセラミックマイクロビーズとが同時にかつ横方向にマイクロビーズの上流側で金属粉末が注入されるプラズマコーンを形成するプラズマトーチを使用して、部品の表面に溶射することで被覆を形成するステップを含むことを特徴とする製造方法を提供する。
【0018】
必要に応じて、金属合金接着層を溶射による部品の表面に形成することから始めることも可能であり、この接着層は、一般に、50μm〜200μmの厚さであり、接着層の合金は断熱被覆の合金と同一であるのが好ましい。
【0019】
接着層は、部品の表面粗度を大きくして、断熱被覆を引張時のより十分な接着力をもたらすことができる。
【0020】
その後に、本発明の方法は、断熱被覆上に、腐食もしくは摩擦摩耗を防止する層、および/または熱放射を防止する反射層を形成するステップを含む。
【0021】
本発明はさらに、後部ナセルもしくはケーシングなどのタービンエンジン部品、またはブレーキ系のブレーキディスクであって、上述の断熱被覆または上述の方法で製造された断熱被覆を含むことを特徴とするタービンエンジン部品を提供する。
【0022】
例示と添付図面を参照して考察された以下の説明を読めば、本発明はよりよく理解され、本発明の他の特徴、詳細、利点がより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の断熱被覆を製造する手段の図である。
【図2】本発明の被覆および被覆が付着される部品の熱膨張曲線を示すグラフである。
【図3】本発明の断熱被覆を含む部品の表面の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、特にタービンエンジン部品である部品12の表面に断熱被膜10形成する手段を示す図であり、該手段は、アルゴンおよび水素などのプラズマ生成ガスを供給する手段を有するプラズマトーチ14と、電気を供給する手段と、金属粉末の流れを横方向に注入する手段16と、中空セラミックマイクロビーズの流れを横方向に注入する手段18とを備え、金属粉末とセラミックマイクロビーズとは、被覆する部品の表面から距離D(所与のタイプのトーチ14に対してほぼ150mm)にあるプラズマコーン20に注入される。
【0025】
金属粉末およびセラミックビーズの注入位置は調節可能であり、セラミックビーズの注入は、これらの2つの成分の密度差を考慮して、金属粉末の注入の下流側で生じる。
【0026】
16の位置でプラズマコーンに注入される金属粉末は、保護する部品12がさらされる温度に応じて、NiAl、NiCrAl、またはMCrAlY(この場合、Mはニッケルまたはコバルトまたはニッケルコバルトである)などの金属合金の粉末である。
【0027】
例として、−50℃〜+900℃の温度ではNiCrAlタイプの合金を使用し、最高で+1100℃の温度ではMCrAlYタイプの合金を使用することができる(この場合、MはNiまたはCoまたはニッケルコバルトなどの金属である)。
【0028】
18の位置で注入される中空セラミックマイクロビーズは、平均直径が約30μm〜約250μmの任意の組成物からなり、これらのマイクロビーズは、アルミノケイ酸塩タイプのマイクロビーズで、焼却炉での燃焼により生じるビーズのような再生利用によって生じたビーズである。
【0029】
部品12の表面に吹き付けられる混合物は、少なくとも80容積%のセラミックマイクロビーズを含むが、さらに、少なくとも90容積%のセラミックマイクロビーズを含むのが好ましい。
【0030】
一実施形態では、トーチ14は、部品12の表面にNiCrAl合金と中空セラミックマイクロビーズとの混合物を吹き付けるのに使用され、金属合金は24g/minの割合で送られ、セラミックマイクロビーズは48g/minの割合で送られる。プラズマトーチは、5L/min〜50L/minの割合のプラズマ生成するAr/Hガスで、500アンペア(A)の電流を使用して作動される。したがって、密度が1700kg/mで、中空セラミックマイクロビーズを約95容積%含む被覆10が部品12上に形成される。
【0031】
被覆の熱伝導率は、20℃〜800℃の範囲でほぼ0.7W/m.℃〜1.4W/m.℃である。被覆10の厚さは、一般に、部品12が受ける温度に応じて、約2mm〜約5mmである。
【0032】
図2の熱膨張曲線からわかるように、断熱被覆10が部品12の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有するのが有利である。
【0033】
図2は、温度Tに応じた部品12の熱膨張曲線dと被覆10の熱膨張曲線dとを示している。
【0034】
被覆10の形成時に、被覆の材料は、部品12がさらされる温度より大幅に高い温度を受ける。しかし、断熱被覆は、部品12の膨張係数より小さい膨張係数を有するので、部品12および被覆10に加えられる温度でのそれぞれの熱膨張は、ほぼ等しく、その差Δdは比較的小さい。したがって、冷却時に、断熱被覆10は引張応力が蓄積する場所にならない。引張応力が蓄積すると、断熱被覆および/または部品12と被覆10との境界面に微小亀裂を生じる恐れがあり、この微小亀裂は熱橋(thermal bridge)となり、断熱性を低下させてしまう。
【0035】
したがって、部品12上で、被覆がはがれるリスクなしに、より厚い被覆10を形成することができる。
【0036】
一般に、断熱被覆10は、中空マイクロビーズの含有量に応じて部品12での5メガパスカル(MPa)〜20MPaの接着力を有し、さらに、ロックウェルHR15Yスケールで10〜80の硬さを有する。
【0037】
部品12上での被覆10の接着力を向上させたい場合、図3に示されるように、部品12上に接着層を形成して、部品12の表面粗度を大きくして、断熱被覆の接着力を向上させることができる。
【0038】
接着層22は金属材料を溶射することで形成されるが、この金属材料は被覆10の金属合金と同一であるのが好ましい。接着層22は、一般に、50μm〜200μmの厚さを有することができる。
【0039】
断熱被覆10は、中空セラミックマイクロビーズ24があるために腐食を受けやすいので、被覆10上に腐食保護層を形成することができる。この腐食保護層26は、一般に、50μm〜150μmの厚さを有する金属材料を溶射するか、または被覆10上に非腐食性を有する何らかの他の材料の層を塗装または電着(この場合、被覆は導電性である)によって実際には付着させることで形成される。
【0040】
変形形態では、上層26は、耐磨耗層または摩擦摩耗から保護する層、例えば、WC/CoもしくはWC/CoCrのような炭化物層、または実際には高温に耐える無機ワニス膜で被覆されたNiAlもしくはNiCrAlのような標準的な金属材料の層とすることができる。
【0041】
部品12が熱放射の多い環境にある場合、上層26は入射放射スペクトルに対して反射特性を有することも可能である。例えば、断熱被覆10上に、最高で約1250℃の温度での使用に適した、ZrO/Yのようなセラミック被覆の薄層(例えば、50μm〜200μmの厚さ)を付着することができる。この層は、受ける放射エネルギーの40%を越えるエネルギーを反射する働きをする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にタービンエンジン部品またはブレーキディスク用の断熱被覆であって、ニッケルまたはコバルト系金属合金内に分散された中空セラミックマイクロビーズを少なくとも80容積%含むことを特徴とする、断熱被覆。
【請求項2】
少なくとも90容積%の中空セラミックマイクロビーズを含むことを特徴とする、請求項1に記載の被覆。
【請求項3】
5mm以下の厚さを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の被覆。
【請求項4】
マイクロビーズの直径が、30μm〜250μmであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の被覆。
【請求項5】
金属合金がアルミニウムを含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の被覆。
【請求項6】
金属合金がクロムを含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の被覆。
【請求項7】
金属合金がイットリウムを含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の被覆。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の断熱被覆の製造方法であって、中空セラミックマイクロビーズとニッケル系およびコバルト系の金属合金の粉末との混合物を、部品(12)に向けられるプラズマコーン(20)で金属合金粉末とセラミックマイクロビーズとが同時にかつ横方向にマイクロビーズの上流側で金属粉末が注入されるプラズマコーン(20)を形成するプラズマトーチ(14)を使用して、部品(12)の表面に溶射することで被覆(10)を形成するステップを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
金属合金接着層(22)が、最初に、溶射によって部品(12)の表面に形成され、この接着層が、50μm〜200μmの厚さであり、接着層の合金が断熱被覆(10)の合金と同一であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
次に、断熱被覆(10)上に、腐食もしくは摩擦摩耗を防止する層(26)、および/または熱放射を防止する反射層を形成するステップを含むことを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
後部ナセルまたはケーシングなどのタービンエンジン部品であって、請求項1から7のいずれか一項に記載の断熱被覆または請求項8から10のいずれか一項に記載の方法で製造された断熱被覆を含むことを特徴とする、タービンエンジン部品。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか一項に記載の断熱被覆または8から10のいずれか一項に記載の方法で製造された断熱被覆を含むことを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−531523(P2012−531523A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518122(P2012−518122)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051382
【国際公開番号】WO2011/001117
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】