説明

ターボチャージャ

【課題】簡単な構成によりタービンインペラ出口の流体の乱れを低減してタービンの効率向上を図る。
【解決手段】軸受ハウジング3に回転可能に支持されたタービンインペラ4の外部に排気ノズル9を有し、排気ノズル9の外部にスクロール通路8が形成されたタービンハウジング1を有し、排気ノズル9は、軸受ハウジング3側の前部排気導入壁10とタービンハウジング1側の後部排気導入壁11との相互間に複数のノズルベーン15を備え、ノズルベーン15の各ベーン軸16が少なくとも前部排気導入壁10を貫通して回転可能に支持されているターボチャージャであって、各ベーン軸16と軸受ハウジング3との間に、各ベーン軸16を後部排気導入壁11側へ押圧してノズルベーン15を後部排気導入壁11側に変位させる押圧手段23を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な構成によりタービンインペラ出口の流体の乱れを低減させてタービンの効率向上が図れるターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
図9は本発明を適用する従来の可変容量型のターボチャージャの一例を示している。このターボチャージャは、タービンハウジング1とコンプレッサハウジング2とが軸受ハウジング3を介して締結ボルト3a,3bにより一体的に組み立てられており、タービンハウジング1内に配置されるタービンインペラ4とコンプレッサハウジング2内に配置されるコンプレッサインペラ5が、軸受ハウジング3に軸受6を介して回転自在に支承されたタービン軸7により連結されている。
【0003】
又、上記軸受ハウジング3のタービンハウジング側には、図10に拡大して示す如く、タービンハウジング1のスクロール通路8に導入される流体(排ガス)を前記タービンインペラ4に導くための排気ノズル9が設けられる。
【0004】
排気ノズル9は、軸受ハウジング3側の前部排気導入壁10とタービンハウジング1側の後部排気導入壁11とが所要の間隔を保持した状態で例えば周方向3箇所に設けた固定部材12により一体に組み立てられている。更に、前部排気導入壁10の前面(軸受ハウジング3側面)には取付部材13が固定されており、前記タービンハウジング1と軸受ハウジング3との組立時に、前記取付部材13をタービンハウジング1と軸受ハウジング3とで挟持することにより前記排気ノズル9を固定している。更に、上記組立時に、前記排気ノズル9は位置決めピン14によって軸受ハウジング3に対して位置決めされている。
【0005】
前部排気導入壁10と後部排気導入壁11との相互間には複数のノズルベーン15が環状に配置されており、各ノズルベーン15は少なくとも前部排気導入壁10を貫通するベーン軸16によって前部排気導入壁10に回転可能に支持されている。図10の形態では各ノズルベーン15の軸受ハウジング3側に設けたベーン軸16が前部排気導入壁10を貫通しておりノズルベーン15は片持ちに支持されている。一方、図9に示すように、ノズルベーン15の両側にベーン軸16,28を備えてベーン軸16を前部排気導入壁10に貫通させ、ベーン軸28を後部排気導入壁11に貫通させることによりノズルベーン15を両持ちに支持するようにしたものもある。
【0006】
図9中、17a,17b,17c,17dは前記ノズルベーン15の開閉角度を調節するためのリンク式の伝達機構、18はコンプレッサハウジング2に形成されたスクロール通路である。
【0007】
又、排気ノズル9における後部排気導入壁11とタービンハウジング1との間には隙間19が設けられている。この隙間19は本来不要なものであるが、タービンハウジング1が冷間時と熱間時との間で熱変形を起すこと、及び組み立て部品に精度上のばらつきがあること等のために設けられている。
【0008】
上記隙間19があると、スクロール通路8の排ガスが隙間19を通してタービンインペラ出口20に無駄に漏出されてしまうことから、この隙間19を閉塞するために、後部排気導入壁11が下流側へ延設された延設部11'の外面と、この延設部11'に対向するタービンハウジング1の内面1'との間にシール用ピストンリング21を配置して、ガスリークを防止すると共に熱変形を吸収するようにしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0009】
特許文献1では図10に示すように、後部排気導入部11の延設部11'の外周面に環状の凹溝22を設けてこの凹溝22に、通常2枚のシール用ピストンリング21の切欠部が重ならないように位置をずらして配置することによりシール装置を構成し、前記シール用ピストンリング21の外周面が弾撥力によってタービンハウジング1の内面1'に圧着されることによりガスリークを防止している。
【特許文献1】特開2006−125588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図10に示したように従来のターボチャージャにおいては、隙間19からのガスリークを防止するためにシール装置を種々工夫することが行われているが、このようなシール装置の構造に工夫を凝らしてもタービンの効率を大幅に向上させることは困難であり限界があった。
【0011】
このため、本発明者らは、上記ガスリークによる問題以外にタービンの効率に影響を及ぼす要因について種々検討を実施した結果、タービンインペラ出口20の排ガスの乱れが大きいとタービンの効率が低下し、タービンインペラ出口20の排ガスの乱れが小さいとタービンの効率が向上することを突き止めた。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、簡単な構成によりタービンインペラ出口の流体の乱れを低減させてタービンの効率を向上できるようにしたターボチャージャを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、軸受ハウジングに回転可能に支持されたタービンインペラの外部に排気ノズルを有し、排気ノズルの外部にスクロール通路が形成されたタービンハウジングを有し、前記排気ノズルは、軸受ハウジング側の前部排気導入壁とタービンハウジング側の後部排気導入壁との相互間に複数のノズルベーンを備え、該ノズルベーンの各ベーン軸が少なくとも前部排気導入壁を貫通して回転可能に支持されているターボチャージャであって、各ベーン軸と軸受ハウジングとの間に、各ベーン軸を後部排気導入壁側へ押圧してノズルベーンを後部排気導入壁側に変位させる押圧手段を備えたことを特徴とするターボチャージャ、に係るものである。
【0014】
上記ターボチャージャにおいて、前記押圧手段はベーン軸と軸受ハウジングとの間に備えた皿ばねであってもよい。
【0015】
又、上記ターボチャージャにおいて、前記押圧手段はベーン軸と軸受ハウジングとの間に備えたコイルばねであってもよい。
【0016】
又、上記ターボチャージャにおいて、前記ノズルベーンは一側に備えたベーン軸が前部排気導入壁を貫通して片持ちに支持されていてもよい。
【0017】
又、上記ターボチャージャにおいて、前記ノズルベーンは両側に備えたベーン軸が前部排気導入壁と後部排気導入壁の両方を貫通して両持ちに支持されていてもよい。
【0018】
又、上記ターボチャージャにおいて、前記ノズルベーンは両側に備えた一方のベーン軸は前部排気導入壁を貫通し、他方のベーン軸は後部排気導入壁に一部が没入されて両持ちに支持されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のターボチャージャによれば、ノズルベーンの各ベーン軸と軸受ハウジングとの間に、各ベーン軸を後部排気導入壁側へ押圧してノズルベーンを後部排気導入壁側に変位させる押圧手段を備えたので、簡単な構成にてノズルベーンと後部排気導入壁との間のクリアランスを小さく保持してタービンインペラ出口における流体の乱れを低減することにより、タービンの効率を大幅に向上できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、図10のターボチャージャに適用した本発明の形態の一例を示すもので、排気ノズル9の前部排気導入壁10と後部排気導入壁11との間に配置されるノズルベーン15の一側に備えたベーン軸16が前部排気導入壁10を貫通し、ノズルベーン15が片持ちに支持されている構成において、前記ノズルベーン15のベーン軸16の前端16'(図1の右端)と軸受ハウジング3の後面3'との間(後述するノズルリンク板16aと後面3'との間)に、各ベーン軸16を後部排気導入壁11側へ押圧して各ノズルベーン15を常に後部排気導入壁11側に変位した状態に保持するようにした押圧手段23を備えている。
【0022】
図1に示す押圧手段23は、各ベーン軸16を後部排気導入壁11側へ押圧する皿ばね24を備えた場合を示している。皿ばね24は、図2に示すように、ドーナツ形状の内周端25と外周端26の位置が軸中心線の方向にずれた截頭円錐形状を有しており、且つ皿ばねの截頭円錐形状による軸中心線方向の高さHは、前記各ベーン軸16の前端と軸受ハウジング3の後面3'との間隔よりも高く形成されている。
【0023】
なお、ベーン軸16の前端側は、前部排気導入壁10と軸受ハウジング3の後面3'との間に配置されているノズルリンク板16a(軸保持部材)によってそれぞれ保持されている。各ノズルリンク板16aは、図示しない駆動リングが回転させられることにより、対応するベーン軸16を支点としてそれぞれ回動するように構成されている。すなわち、各ベーン軸16(ノズルベーン15)は、図示しない駆動リングによってノズルリンク板16aが回動させられることにより、各ノズルリンク板16aと一体的に回転するようになっている。また、皿ばね24は、各ノズルリンク板16aと後面3'との間に挟まれた位置に設けられている。そして、内周端25が、各ベーン軸16の前端16'に沿って当接させられ、外周端26側が、軸受ハウジング3側に当接させられている。こうして皿ばね24は、前端16'と軸受ハウジング3との間に挟まれ、圧縮された状態で配置されている。即ち、前端16'は、皿ばね24の弾性力によって付勢され、後方に移動した状態にされている。
【0024】
図3は前記押圧手段23の他の形態を示したもので、この押圧手段23は、前記各ベーン軸16の前端16'と軸受ハウジング3の後面3'との間に、各ベーン軸16を後部排気導入壁11側へ押圧するコイルばね27を備えている。
【0025】
一方、図4は、前記ノズルベーン15の両側に備えたベーン軸16,28が前部排気導入壁10と後部排気導入壁11を貫通して、ノズルベーン15が前部排気導入壁10と後部排気導入壁11に両持ちに支持されるようにした場合を示しており、この場合にも、ベーン軸16の前端16'と軸受ハウジング3の後面3'との間に、各ベーン軸16を後部排気導入壁11側へ押圧するようにした皿ばね24或いは図3に示したコイルばね27からなる押圧手段23を備えることができる。
【0026】
又、図5は、前記ノズルベーン15の両側に備えたベーン軸16,28'の一方のベーン軸16が前部排気導入壁10を貫通し、他方のベーン軸28'は後部排気導入壁11に一部が没入された(貫通しない)状態で両持ちに支持された場合を示しており、この場合にも、ベーン軸16の前端16'と軸受ハウジング3の後面3'との間に、各ベーン軸16を後部排気導入壁11側へ押圧するようにした皿ばね24或いは図3に示したコイルばね27からなる押圧手段23を備えることができる。
【0027】
図1〜図5に示した形態では次のように作動する。
【0028】
ノズルベーン15のベーン軸16の前端16'と軸受ハウジング3の後面3'との間に、図1、図2に示した皿ばね24或いは図3に示したコイルばね27からなる押圧手段23を設置すると、各ベーン軸16は押圧手段23によって常時後部排気導入壁11側へ押圧されることにより、各ノズルベーン15は常に後部排気導入壁11側に変位した位置に保持されるようになる。
【0029】
即ち、ノズルベーン15と前部排気導入壁10及び後部排気導入壁11との間には、ノズルベーン15を回動可能にするためのクリアランスが予め存在しており、且つこのクリアランスの大きさにはターボチャージャによる個体差を有している。ここで、前記したように各ベーン軸16を押圧手段23によって押圧すると、各ノズルベーン15は前記クリアランス分だけ後部排気導入壁11側に変位し、各ノズルベーン15は後部排気導入壁11に接するようになって各ノズルベーン15と後部排気導入壁11との間のクリアランスは極小となる。
【0030】
なお、図1、図4、図5の例では、軸受ハウジング3の後面3'の周縁部に、円錐台状の面3a'(外側に向かうに従い前方に向かうように傾斜した面)が形成されている。また、皿ばね24の外周側の部分は、円錐台状の面3a'とノズルリンク板16aとの間において、円錐台状の面3a'に沿うようにして配置されている。このようにすると、後面3'とノズルリンク板16aとの間の距離を広げなくても、皿ばね24を設置するスペースを確保しやすくなる。
【0031】
本発明者らは、従来のターボチャージャ(従来品)と、上記押圧手段23を備えた本発明のターボチャージャ(本発明品)において、図6に示すようにタービンインペラ4の上流側と下流側との圧力比は略同一になるようにした条件において、タービンインペラ出口20における径方向位置での排ガスの速度分布を数値解析により求め、その結果を図7に示した。
【0032】
図7から明らかなように、本発明のターボチャージャでは、従来のターボチャージャに比して半径方向における流速分布の偏差が少なく流速分布は半径方向に平坦化している。このことは、本発明のターボチャージャは従来のターボチャージャに比して、タービンインペラ出口20における排ガスの乱れが小さいことを表わしている。
【0033】
更に、上記本発明のターボチャージャと従来のターボチャージャにおいて、タービンの効率を数値解析して比較したところ、図8に示すように、本発明のターボチャージャによれば従来のターボチャージャに対してタービンの効率が約10%向上することが判明した。
【0034】
スクロール通路8からの排ガスは、排気ノズル9のノズルベーン15間にを通ってタービンインペラ4に導かれるが、この時の排ガスの流れは3次元的で複雑な流れであるため、タービンインペラ出口20での排ガスの乱れの要因を探ることは非常に困難である。
【0035】
しかし、前記したように、各ベーン軸16を後部排気導入壁11側へ押圧して各ノズルベーン15と後部排気導入壁11との間のクリアランスを小さくすると、タービンインペラ出口20における径方向位置での排ガスの速度分布が平坦化されてタービンインペラ出口20での排ガスの乱れが減少し、これによってタービンの効率を向上させることができたことから、前記各ノズルベーン15と後部排気導入壁11との間のクリアランスがタービンインペラ出口20での排ガスの乱れに影響を及ぼす要因の1つであることが判明した。
【0036】
従って、本発明では、前記したように、ノズルベーン15の各ベーン軸16と軸受ハウジング3との間に押圧手段23を備えるという簡単な構成によって、ノズルベーン15を後部排気導入壁11側に変位させることにより各ノズルベーン15と後部排気導入壁11との間のクリアランスを極小に保持し、これによってタービンインペラ出口20における流体の乱れを低減してタービンの効率を大幅に向上することができた。
【0037】
なお、本発明は上記形態においては、隙間19にピストンリング21によるシール装置を備えた場合について例示したが、シール装置の形態には限定されないこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の形態の一例を示すノズル部近傍の切断側面図である。
【図2】図1における皿ばねの側面図である。
【図3】本発明の形態の他の例を示すノズル部近傍の切断側面図である。
【図4】ノズルベーンを支持するベーン軸の他の形態を示す切断側面図である。
【図5】ノズルベーンを支持するベーン軸の更に他の形態を示す切断側面図である。
【図6】従来のターボチャージャと本発明のターボチャージャにおけるタービンインペラの上流側と下流側との圧力比を略同一とした状態を示す線図である。
【図7】従来のターボチャージャと本発明のターボチャージャにおけるタービンインペラ出口での径方向位置における排ガスの速度分布を比較して示した線図である。
【図8】従来のターボチャージャと本発明のターボチャージャにおけるタービンの効率を比較して示した線図である。
【図9】従来のターボチャージャの一例を示す切断側面図である。
【図10】図9のノズル部近傍の切断側面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 タービンハウジング
3 軸受ハウジング
4 タービンインペラ
5 コンプレッサインペラ
8 スクロール通路
9 排気ノズル
10 前部排気導入壁
11 後部排気導入壁
15 ノズルベーン
16 ベーン軸
20 タービンインペラ出口
23 押圧手段
24 皿ばね
27 コイルばね
28 ベーン軸
28' ベーン軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受ハウジングに回転可能に支持されたタービンインペラの外部に排気ノズルを有し、排気ノズルの外部にスクロール通路が形成されたタービンハウジングを有し、前記排気ノズルは、軸受ハウジング側の前部排気導入壁とタービンハウジング側の後部排気導入壁との相互間に複数のノズルベーンを備え、該ノズルベーンの各ベーン軸が少なくとも前部排気導入壁を貫通して回転可能に支持されているターボチャージャであって、各ベーン軸と軸受ハウジングとの間に、各ベーン軸を後部排気導入壁側へ押圧してノズルベーンを後部排気導入壁側に変位させる押圧手段を備えたことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
前記押圧手段はベーン軸と軸受ハウジングとの間に備えた皿ばねである請求項1に記載のターボチャージャ。
【請求項3】
前記押圧手段はベーン軸と軸受ハウジングとの間に備えたコイルばねである請求項1に記載のターボチャージャ。
【請求項4】
前記ノズルベーンは一側に備えたベーン軸が前部排気導入壁を貫通して片持ちに支持されている請求項1〜3のいずれか1つに記載のターボチャージャ。
【請求項5】
前記ノズルベーンは両側に備えたベーン軸が前部排気導入壁と後部排気導入壁の両方を貫通して両持ちに支持されている請求項1〜3のいずれか1つに記載のターボチャージャ。
【請求項6】
前記ノズルベーンは両側に備えた一方のベーン軸は前部排気導入壁を貫通し、他方のベーン軸は後部排気導入壁に一部が没入されて両持ちに支持されている請求項1〜3のいずれか1つに記載のターボチャージャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−144546(P2009−144546A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320719(P2007−320719)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】