説明

ターボ回転機械用の自動調整シール

【課題】ターボ回転機械の稼動状態に応じて、回転部材の全周に亘ってシール間隙を調整しうる自動調整シールを提供する。
【解決手段】自動調整シール1は、静止部材に支持され、ロータ2の全周に亘って設けられて、ターボ回転機械の高圧側と低圧側とを仕切る複数のフィン部材10と、ターボ回転機械の稼動状態に応じて複数のフィン部材10を回転させる回転機構20,52とを備える。回転機構20,52によって、ターボ回転機械の稼動状態に応じてフィン部材10が回転して、フィン部材10とロータ2との間隙が調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、蒸気タービン、ガスタービン、コンプレッサ等のターボ回転機械に用いられる自動調整シールに関する。ここで、自動調整シールとは、ターボ回転機械の稼動状態に応じてシール間隙が自動的に調整されるシールをいう。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン、ガスタービン、コンプレッサ等のターボ回転機械では、運転効率の向上の観点から、回転部材(ロータや動翼)と静止部材(車室や静翼)との間隙を介した作動流体の漏洩を防止するシールが様々な箇所に設けられている。
例えば、高中圧室一体型の蒸気タービンの高圧部と中圧部の間などに設けられるダミー環シール、ロータが車室を貫通する部位に設けられるグランドシール、動翼先端と車室の間に設けられる動翼チップシール、静翼先端とロータの間に設けられる静翼チップシール等が挙げられる。
【0003】
この種のシールは、従来、複数条のフィンを有するラビリンスブロックと、ラビリンスブロックを背面から弾性的に支持する板ばねとで構成されるラビリンスシールを用いるのが一般的であった。この場合、静止部材に形成された溝にラビリンスブロックを嵌着した状態で、該ラビリンスブロックを板ばねで背面から押さえつけることで、フィンと回転部材との間隙が一定に維持されるようになっている。これにより、フィンと回転部材との微小な隙間の通過時に、流体は急激に膨張して圧力が低下するので、流体の漏れが抑制される。
【0004】
ところが、上記構成のラビリンスシールでは、フィンと回転部材との隙間が小さすぎると、ターボ回転機械の稼動状態によっては(特に、起動時・停止中)、回転部材と静止部材の熱伸び差等の影響で、フィンが回転部材と接触してしまい、フィンの摩耗や軸振動が発生することがあった。一方、フィンと回転部材の隙間を大きくすると、流体の漏れを十分に防止することができず、ターボ回転機械の運転効率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、従来のラビリンスシールに代わるものとして、特許文献1には、ターボ回転機械の稼動状態に応じてシール間隙が自動的に調整される自動調整シールが記載されている。
このシールは、回転部材の外周面に沿って配置された固定シールリングと可動シールリングとで構成されており、固定シールリングは車室の水平分割面の周辺にロータの左右両側に一対設けられ、可動シールリングはロータの上下両側に一対設けられている。このうち可動シールリングは、弾性体(波板ばね、皿ばね、金属ベローズ等)により半径方向外方に付勢されており、ターボ回転機械の起動時・停止中におけるシール間隙が十分に確保されるようになっている。一方、ターボ回転機械の定格運転時では、可動シールリングは、ターボ回転機械内の流体の圧力によって、弾性体の付勢力に抗して半径方向内方に押されるので、シール間隙を最小限にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−293784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の自動調整シールでは、ターボ回転機械の稼動状態に応じて動きうるのは可動シールリングのみであって、固定シールリングは基本的に不動であるから、固定シールリングと回転部材との間のシール間隙は自動調整されない。
【0008】
このため、固定シールリングと回転部材との間を介した流体の漏れを十分に防止することが難しく、さらなる運転効率向上のためには固定シールリングと回転部材との間のシール間隙をも自動的に調整する必要があった。特に、上記自動調整シールを小径のダミー環等に用いる場合、可動シールリングによる流体漏れの低減効果に対して、固定シールリングと回転部材との間を介した流体の漏れの影響が大きく、ターボ回転機械の運転効率を十分に向上させることが難しかった。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、ターボ回転機械の稼動状態に応じて、回転部材の全周に亘ってシール間隙を調整しうる自動調整シールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るターボ回転機械用の自動調整シールは、回転部材が静止部材に対峙しながら回転し、該回転部材と流体とのエネルギーの受け渡しを行うターボ回転機械に用いられる自動調整シールであって、前記静止部材に支持され、前記回転部材の全周に亘って設けられる複数のフィン部材と、前記ターボ回転機械の稼動状態に応じて前記複数のフィン部材を回転させて、該フィン部材と前記回転部材との間隙を調節する回転機構とを備えることを特徴とする。
【0011】
この自動調整シールによれば、複数のフィン部材を回転部材の全周に亘って設け、ターボ回転機械の稼動状態に応じてフィン部材を回転させることで、各フィン部材と回転部材との間隙を調節するようにしたので、回転部材の全周に亘ってシール間隙を調整することができる。
【0012】
上記自動調整シールにおいて、前記回転機構は、少なくとも前記ターボ回転機械の定格運転時において、前記ターボ回転機械の高圧側に発生する流体の圧力によって、前記複数のフィン部材を前記回転部材に向けて回転させることが好ましい。
【0013】
このように、ターボ回転機械の運転中に高圧側に発生する流体の圧力を利用すれば、ターボ回転機械の稼動状態に応じたシール間隙の自動調整を簡単な装置構成で実現することができる。
【0014】
具体的には、前記回転機構は、前記ターボ回転機械の高圧側の流体によって押圧されるとともに、該流体からの押圧力を前記フィン部材に伝える受圧部材と、前記受圧部材を介して前記高圧側の流体から前記フィン部材に伝わる押圧力を、前記回転部材に向かう前記フィン部材の回転運動に変換するヒンジ部とを有するように構成する。
【0015】
これにより、ターボ回転機械の運転中に高圧側に発生する流体の圧力によって、受圧部材が押圧され、この押圧力は受圧部材を介してフィン部材に伝わる。そして、フィン部材に作用する押圧力は、ヒンジ部によって、回転部材に向かうフィン部材の回転運動に変換されるので、ターボ回転機械の運転中におけるシール間隙は狭まるように自動的に調整される。
【0016】
例えば、前記受圧部材は、前記静止部材に固定されたハウジングに収納され、該ハウジングの内部空間を、前記ターボ回転機械の高圧側及び低圧側にそれぞれ連通する高圧室と低圧室とに隔てる仕切板であり、前記仕切板は、前記高圧室と前記低圧室との圧力差によって前記ハウジング内を摺動するようにしてもよい。
【0017】
これにより、ターボ回転機械の運転中に発生するハウジング内の高圧室と低圧室との流体の圧力差によって、仕切板は高圧室から低圧室に向かう方向に摺動し、仕切板を介してフィン部材に伝わった押圧力がヒンジ部によってフィン部材の回転運動に変換され、シール間隙が自動的に調整される。
【0018】
この場合、上記自動調整シールは、前記仕切板の一方の表面に当接するとともに、前記ハウジングの底面を貫通し、前記ターボ回転機械の高圧側の前記フィン部材の表面に固定された第1ピンと、前記仕切板の他方の表面に当接するとともに、前記ハウジングの底面を貫通し、前記ターボ回転機械の低圧側の前記フィン部材の表面に固定された第2ピンと、前記ハウジングの底面に設けられ、前記仕切板の摺動方向に沿って前記第1ピン及び前記第2ピンが動くように該第1ピン及び第2ピンをそれぞれ案内する第1スリット及び第2スリットとをさらに備えていてもよい。
【0019】
このように、仕切板の両面に当接するように設けた(即ち、仕切板を挟んで設けた)第1ピン及び第2ピンをフィン部材に連結することで、仕切板の摺動に伴って、第1ピン及び第2ピンのいずれか一方が仕切板に押圧され、この押圧力がフィン部材に伝わる。
また、ハウジングの底面に第1スリット及び第2スリットを設けることで、仕切板の摺動に伴って第1ピン及び第2ピンが動く際のハウジング底面との干渉が防止され、高圧室と低圧室との圧力差に起因して仕切板に作用した押圧力を確実にフィン部材に伝えることができる。
【0020】
さらにこの場合、上記自動調整シールは、前記第1ピンに固定され、前記ターボ回転機械の高圧側から前記ハウジングの低圧室への前記第1スリットを介した流体の流入を防止するように、前記第1スリットうち少なくとも前記低圧室に属する部分をシールする第1シールプレートと、前記第2ピンに固定され、前記ハウジングの高圧室から前記ターボ回転機械の低圧側への前記第2スリットを介した流体の流出を防止するように、前記第2スリットのうち少なくとも前記高圧室に属する部分をシールする第2シールプレートと、前記第1ピン及び前記第2ピンを前記仕切板に向けて付勢するピン付勢手段とを備えることが好ましい。
【0021】
このように、第1シールプレート及び第2シールプレートを第1ピン及び第2ピンにそれぞれ固定し、ピン付勢手段によって第1ピン及び第2ピンを仕切板に向けて付勢することで、仕切板がいずれの方向に摺動しても、第1ピン及び第2ピンとともにシールプレートを仕切板の摺動に合わせて移動させることができる。したがって、ハウジングの内部空間を高圧室と低圧室とに隔てる仕切板が摺動しても、第1シールプレート及び第2シールプレートによって、ハウジング底面に形成された第1スリット及び第2スリットを介した流体の漏れを防止することができる。
なお、ハウジング内の高圧室はターボ回転機械の高圧側にもともと連通しているから、ターボ回転機械の高圧側のフィン部材の表面に固定された第1ピンを案内する第1スリットは、少なくとも低圧室に属する部分が第1シールプレートでシールされれば足りる。同様に、ハウジング内の低圧室はターボ回転機械の低圧側にもともと連通しているから、ターボ回転機械の低圧側のフィン部材の表面に固定された第2ピンを案内する第2スリットは、少なくとも高圧室に属する部分が第2シールプレートでシールされれば足りる。
【0022】
上記自動調整シールにおいて、前記ハウジングの低圧室から高圧室に向かう方向に前記仕切板を付勢する付勢手段をさらに備えることが好ましい。
【0023】
これにより、ターボ回転機械の起動時・停止中、ハウジング内の高圧室と低圧室との流体の圧力差がない(あるいは殆どない)ので、仕切板は、付勢手段の付勢力によって低圧室から高圧室に向かう方向に摺動する。したがって、ターボ回転機械の運転中とは逆方向の押圧力がフィン部材に作用し、この逆方向の押圧力はヒンジ部材によって回転部材から離れるようなフィン部材の回転運動に変換されるので、ターボ回転機械の起動時・停止中におけるシール間隙は広がるように自動的に調整される。
【0024】
あるいは、前記受圧部材は、前記フィン部材の背面に取り付けられるとともに、前記静止部材に設けた溝に嵌め込まれることによって、前記フィン部材を前記静止部材に支持する支持部材であり、前記溝の内部が前記ターボ回転機械の高圧側に連通しており、該高圧側から前記溝の内部に流入した流体によって、前記受圧部材としての前記支持部材は前記回転部材の径方向内方に押圧されるようにしてもよい。
【0025】
これにより、ターボ回転機械の運転中に高圧側から溝内部に流入した流体の圧力によって、支持部材は回転部材の径方向内側に押圧され、この支持部材を介してフィン部材に伝わった押圧力がヒンジ部によってフィン部材の回転運動に変換される。
このように、静止部材に設けた溝の内部空間にターボ回転機械の高圧側の流体を導くとともに、かかる流体の圧力によって、受圧部材としての支持部材を押圧するようにすれば、上述のような高圧室と低圧室とを有するハウジングや、該ハウジングのシール性を維持するための構成が不要となる。
【0026】
この場合、前記支持部材を前記回転部材の径方向外方に付勢する付勢手段をさらに備えることが好ましい。
【0027】
これにより、ターボ回転機械の起動時・停止中、ターボ回転機械の高圧側からの溝内部への流体の流入がない(あるいは殆どない)ので、支持部材は付勢手段の付勢力によって径方向外方に押圧される。したがって、ターボ回転機械の運転中とは逆方向の押圧力がフィン部材に作用し、この逆方向の押圧力がヒンジ部材によって回転部材から離れるようなフィン部材の回転運動に変換されるので、ターボ回転機械の起動時・停止中におけるシール間隙は広がるように自動的に調整される。
【0028】
上記自動調整シールにおいて、前記フィン部材は、前記回転部材の軸方向に沿って配設された複数枚のシールフィンからなることが好ましい。
【0029】
このように、回転部材の全周に亘って設けられた複数のフィン部材を、それぞれ、回転部材の軸方向に沿って配設された複数枚のシールフィンで構成することで、全体としてラビリンスシール構造が形成され、シール間隙を介した流体の漏れをより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、複数のフィン部材を回転部材の全周に亘って設け、ターボ回転機械の稼動状態に応じてフィン部材を回転させることで、各フィン部材と回転部材との間隙を調節するようにしたので、回転部材の全周に亘ってシール間隙を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ターボ回転機械用の自動調整シールの概略的な構成を示す正面図であり、(a)はターボ回転機械の起動時・停止中における様子を示し、(b)はターボ回転機械の定格運転中の様子を示している。
【図2】第1実施形態に係る自動調整シールを示す一部断面斜視図である。
【図3】(a)は複数のフィン部材の配置例を示す図であり、(b)は隣接するフィン部材が重なり合う箇所を示す拡大図である。
【図4】図2における矢印A方向から見た一部断面上面図である。
【図5】図2における矢印B方向から見た一部断面正面図である。
【図6】第2実施形態に係る自動調整シールを示す斜視図である。
【図7】図6のC−C線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0033】
[第1実施形態]
図1はターボ回転機械用の自動調整シールの概略的な構成を示す正面図であり、図1(a)はターボ回転機械の起動時・停止中における様子を示し、図1(b)はターボ回転機械の定格運転中の様子を示している。
【0034】
自動調整シール1は、図1(a)及び(b)に示すように、静止部材(不図示)に支持された複数のフィン部材10が、回転部材としてのロータ2の全周に亘って設けられて構成されている。複数のフィン部材10は互いに重なり合っており、全体として、ターボ回転機械の高圧側と低圧側とを隔てている。なお、自動調整シール1は、ダミー環シール、グランドシール、動静翼チップシール等を含む種々の用途に用いることができる。
【0035】
自動調整シール1は、後述する回転機構によって各フィン部材10を回転させることで、シール間隙が調整される。すなわち、ターボ回転機械の起動時・停止中にはフィン部材10とロータ2との間のシール間隔が大きいが(図1(a)参照)、ターボ回転機械が運転を開始すると、フィン部材10が図1(a)における矢印方向に回転し、ターボ回転機械の運転中(少なくとも定格運転状態)ではシール間隙は狭まるようになっている(図1(b)参照)。なお、図1に示した例では、後述する回転機構の構造上の理由から、フィン部材10は、純粋な回転運動だけでなく、ロータ2の周方向に沿った移動も同時に起こっており、フィン部材10の回転運動と周方向に沿った移動とが相まってシール間隙が狭まっている。
【0036】
フィン部材10の形状は、ターボ回転機械の定格運転状態において、ロータ2の全周に亘ってシール間隙が略均一となるように決定されることが好ましい。すなわち、ターボ回転機械の定格運転中において、各フィン部材10が重なり合ってなす全体形状の内周が、ロータ2の略同心円となるように、フィン部材10の形状を決定することが好ましい。これにより、ターボ回転機械の定格運転状態におけるシール間隙をロータ2の全周に亘って均一に小さくして、流体の漏れを最小限にすることができる。
【0037】
図2は、自動調整シール1の具体的な構成例を示す一部断面斜視図である。図3(a)は複数のフィン部材10の配置例を示す図であり、図3(b)は隣接するフィン部材10が重なり合う箇所を示す拡大図である。また、図4は図2における矢印A方向から見た一部断面上面図であり、図5は図2における矢印B方向から見た一部断面正面図である。
【0038】
図2に示すように、自動調整シール1は、フィン部材10を回転させる回転機構20を備えている。なお、ここでは、説明の便宜上、フィン部材10とこれに対応する回転機構20とを一組だけ示しているが、実際には、ロータ2の全周に亘ってフィン部材10及び回転機構20が複数セット設けられている。
【0039】
フィン部材10は、図2に示すように、ロータ2の軸方向に沿って配設された複数枚のシールフィン12(12A,12B,12C)からなることが好ましい。
このように、ロータ2の全周に亘って設けられた複数のフィン部材10を、それぞれ、ロータ2の軸方向に沿って配設された複数枚のシールフィン12(12A,12B,12C)で構成することで、全体としてラビリンスシール構造が形成され、シール間隙を介した流体の漏れをより確実に抑制することができる。
【0040】
また、複数枚のシールフィン12からなるフィン部材10をロータ2の周方向に配置する際、図3(a)及び(b)に示すように、フィン部材10が自己のシールフィン12の間に、隣接するフィン部材10のシールフィン12を可能な限り多く挟むように、重ね合わせることが好ましい。ここで、「可能な限り多く」とは、各フィン部材10がn枚のシールフィン12からなる場合、隣接するフィン部材10の(n−1)枚のシールフィン12を挟むことを意味する。例えば、図3(a)及び(b)では、各フィン部材10は3枚のシールフィン12(12A,12B,12C)からなり、フィン部材10−1は、隣接するフィン部材10−2の2枚のシールフィン12A及び12Bを挟んでいる。
これにより、隣接するフィン部材10が重なり合う箇所における、流体の漏れをより確実に抑制することができる。
【0041】
また、複数のフィン部材10は、(一枚のシールフィン12の厚さt2)+(隣接するフィン部材10が重なり合う箇所におけるシールフィン12同士の間隙g)の距離だけロータ軸方向に交互にずらして配置することが好ましい。これにより、自動調整シール1全体としてのロータ軸方向における厚さt1を小さくして、ターボ回転機械のコンパクト化を実現できる。
【0042】
各フィン部材10を回転させる回転機構20は、図2に示すように、ターボ回転機械の高圧側の流体によって押圧されるとともに、この押圧力をフィン部材10に伝える仕切板(受圧部材)22と、仕切板22からフィン部材10に伝わる押圧力をフィン部材10の回転運動に変換するヒンジ部30とを含んでいる。
【0043】
仕切板22は、図4に示すように、静止部材(不図示)に固定されたハウジング24に収納されており、ハウジング24の内部空間を、ターボ回転機械の高圧側と連通する高圧室24Aと、ターボ回転機械の低圧側と連通する低圧室24Bとに隔てている。
【0044】
ターボ回転機械の運転中、高圧室24Aにはターボ回転機械の高圧側から高圧の流体が流入する一方で、低圧室24Bにはターボ回転機械の低圧側から低圧の流体が流入するので、高圧室24Aと低圧室24Bとの間には流体の圧力差が生じる。このため、仕切板22は、ターボ回転機械の運転時に、高圧室24Aから低圧室24Bに向かう方向(図3の矢印方向)にハウジング24内を摺動する。なお、ハウジング24の内壁面には案内溝26が形成されており、摺動する仕切板22を案内するようになっている。
【0045】
またハウジング24内には、仕切板22を低圧室24Bから高圧室24Aに向かう方向に付勢する付勢手段28が設けられている。
したがって、ターボ回転機械の起動時・停止中、高圧室24Aと低圧室24Bとの流体の圧力差がない(あるいは殆どない)から、仕切板22は、付勢手段28の付勢力によって低圧室24Bから高圧室24Aに向かう方向に摺動する。
【0046】
このように、仕切板22は、ターボ回転機械の運転時にはハウジング24内の圧力差によって高圧室24Aから低圧室24Bに向かって摺動しようとし、ターボ回転機械の起動時・停止中には付勢手段28の付勢力によって低圧室24Bから高圧室24Aに向かって摺動しようとする。仕切板22の摺動しようとする力は、仕切板22を挟むように設けられた第1ピン40A及び第2ピン40Bを介してフィン部材10に伝えられる。
【0047】
第1ピン40Aは、図4及び5に示すように、仕切板22の一方の表面に当接しており、ハウジング24の底面を貫通し、ターボ回転機械の高圧側に臨むフィン部材10の表面(即ち、シールフィン12Aの一方の表面)に固定されている。一方、第2ピン40Bは、仕切板22の他方の表面に当接しており、ハウジング24の底面を貫通し、ターボ回転機械の低圧側に臨むフィン部材10の表面(即ち、シールフィン12Cの一方の表面)に固定されている。
【0048】
このように、仕切板22の両面に当接するように設けた(即ち、仕切板22を挟んで設けた)第1ピン40A及び第2ピン40Bをフィン部材10に連結することで、仕切板22の摺動に伴って、第1ピン40A及び第2ピン40Bのいずれか一方が仕切板22に押圧され、この押圧力がフィン部材10に伝わる。
【0049】
なお、第1ピン40A及び第2ピン40Bのフィン部材10への連結は、第1ピン40A及び第2ピン40Bに対してフィン部材10が共通の支点41を中心に回動しうるように行われている。これにより、フィン部材10のスムーズな回転運動が実現される。
【0050】
また、ハウジング24の底面には第1スリット42A及び第2スリット42Bが設けられており、第1ピン40A及び第2ピン40Bを仕切板22の摺動方向に沿って案内するようになっている。これにより、仕切板22の摺動に伴って第1ピン40A及び第2ピン40Bが動く際のハウジング24底面との干渉が防止され、仕切板22に作用した押圧力を確実にフィン部材10に伝えることができる。
【0051】
さらに、スリット42(42A,42B)には、第1シールプレート44A及び第2シールプレート44Bが設けられている。第1シールプレート44Aは、第1ピン40Aに固定されており、第1スリット42Aのうち少なくとも低圧室24Bに属する部分をシールして、ターボ回転機械の高圧側から低圧室24Bへの第1スリット42Aを介した流体の流入を阻止するようになっている。一方、第2シールプレート44Bは、第2ピン40Bに固定されており、第2スリット42Bのうち少なくとも高圧室24Aに属する部分をシールして、ハウジング24の高圧室24Aからターボ回転機械の低圧側への第2スリット42Bを介した流体の流出を阻止するようになっている。
なお、シールプレート44(44A,44B)が設けられた第1ピン40A及び第2ピン40Bは、図5に示すように、ピン付勢手段46(46A,46B)によって仕切板22に向けて付勢されている。
【0052】
このように、第1シールプレート44A及び第2シールプレート44Bを第1ピン40A及び第2ピン40Bにそれぞれ固定し、ピン付勢手段46(46A,46B)によって第1ピン40A及び第2ピン40Bを仕切板22に向けて付勢することで、仕切板22がいずれの方向に摺動しても、第1ピン40A及び第2ピン40Bとともにシールプレート44(44A,44B)を仕切板22の摺動に合わせて移動させることができる。したがって、高圧室24Aと低圧室24Bとを隔てる仕切板22がいずれの方向に摺動しても(すなわち、高圧室24A及び低圧室24Bの大きさが変化しても)、第1シールプレート44A及び第2シールプレート44Bによって、ハウジング24の底面に形成された第1スリット42A及び第2スリット42Bを介した流体の漏れを防止することができる。
【0053】
なお、高圧室24Aはターボ回転機械の高圧側にもともと連通しているから、ターボ回転機械の高圧側に臨むフィン部材10の表面(シールフィン12Aの一方の表面)に固定された第1ピン40Aを案内する第1スリット44Aは、少なくとも低圧室24Bに属する部分が第1シールプレート44Aでシールされれば足りる。同様に、低圧室24Bはターボ回転機械の低圧側にもともと連通しているから、ターボ回転機械の低圧側に臨むフィン部材10の表面(シールフィン12Cの一方の表面)に固定された第2ピン40Bを案内する第2スリット42Bは、少なくとも高圧室24Aに属する部分が第2シールプレート44Bでシールされれば足りる。
また、より一層のシール性を確保する観点から、第1ピン40A及び第2ピン40Bをシールピンで構成して、第1ピン40A及び第2ピン40Bとスリット42(42A,42B)との間を介した流体の漏れを防止してもよい。
【0054】
回転機構20のヒンジ部30は、図5に示すように、下端がフィン部材10に連結されており、上端がハウジング24の内壁に設けられた案内溝32によって移動方向が規制されている。この案内溝32は、高圧室24Aから低圧室24Bに向かう方向に進むに従って上昇するように傾斜している。
【0055】
これにより、フィン部材10が高圧室24Aから低圧室24Bに向かう方向(図5の右方向)に移動しようとすると、フィン部材10に連結されたヒンジ部30は案内溝32に沿って上昇するから、フィン部材10のヒンジ部30が連結された箇所が上方に持ち上げられて、結果的にフィン部材10は支点41を中心として時計回りに回転する。
逆に、フィン部材10が低圧室24Bから高圧室24Aに向かう方向(図5の左方向)に移動しようとすると、フィン部材10に連結されたヒンジ部30は案内溝32に沿って下降するから、フィン部材10のヒンジ部30が連結された箇所が下方に押し下げられて、結果的にフィン部材10は支点41を中心として反時計回りに回転する。
【0056】
したがって、ターボ回転機械の運転中にハウジング24内の圧力差によって仕切板22が高圧室24Aから低圧室24Bに向かって摺動し、フィン部材10が同方向に押圧されると、この押圧力はヒンジ部30によってロータ2に向かうフィン部材10の回転運動に変換され、シール間隙が自動的に狭められる。
一方、ターボ回転機械の起動時・停止中に付勢手段28の付勢力によって仕切板22が低圧室24Bから高圧室24Aに向かって摺動し、フィン部材が同方向に押圧されると、この押圧力はヒンジ部30によってロータ2から遠ざかるフィン部材10の回転運動に変換され、シール間隙が自動的に狭められる。
【0057】
なお、回転機構20では、仕切板22の摺動方向に沿ってフィン部材10が移動しようとする動きを利用して、ヒンジ部30によってフィン部材10を回転させるから、上述のように、フィン部材10は、純粋な回転運動だけでなく、ロータ2の周方向に沿った移動も同時に起こる。よって自動調整シール1では、フィン部材10の回転運動と周方向に沿った移動とが相まってシール間隙が調整されるようになっている。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の自動調整シール1では、複数のフィン部材10をロータ2の全周に亘って設け、ターボ回転機械の稼動状態に応じて回転機構20でフィン部材10を回転させて、各フィン部材10とロータ2との間隙を調節するようにしたので、ロータ2の全周に亘ってシール間隙を調整することができる。
【0059】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る自動調整シール50について説明する。本実施形態の自動調整シール50は、フィン部材10を回転させる回転機構の構成を除けば、上述の第1実施形態の自動調整シール1と共通する。よって、第1実施形態と共通する部分には同一の符号を付してその説明を省略することとし、ここでは回転機構の構成を中心に説明する。
【0060】
図6は、第2実施形態の自動調整シール50の構成例を示す斜視図である。図7は、図6におけるC−C線に沿った断面図である。
【0061】
自動調整シール50は、図6に示すように、フィン部材10を回転させるための回転機構52を備えている。そして、回転機構52は、フィン部材10を静止部材(不図示)に支持するとともに、ターボ回転機械の高圧側の流体からの押圧力をフィン部材10に伝える支持部材(受圧部材)60と、支持部材60からフィン部材10に伝わる押圧力をフィン部材10の回転運動に変換するヒンジ部70とを含んでいる。
【0062】
支持部材60は、図7に示すように、車室に取り付けられたダミー環4に形成された溝6に嵌着されており、フィン部材10の背面を支持している。なお、ダミー環4は静止部材の一例である。
支持部材60には、ターボ回転機械の高圧側を溝6の内部空間に連通するための連通孔62が設けられている。これにより、ターボ回転機械の高圧側から溝6の内部に流入した流体によって、支持部材60はロータ径方向内方に押圧される。
【0063】
また、ダミー環4の溝6の内部には、支持部材60の上板部60Aをロータ2の径方向外方に付勢する皿ばね64と、皿ばね64を下方から支持する支持板66とが設けられている。これにより、支持部材60は、皿ばね64によって、フィン部材10がロータ2から遠ざかるようにロータ径方向外方に付勢される。なお、皿ばね64に代えて、板ばね、金属ベローズ等の任意の付勢手段を用いてもよい。
【0064】
図6に示すヒンジ部70は、静止部材(不図示)に支持されており、支持部材60を介してフィン部材10にロータ径方向内方または外方に向かう押圧力が伝わったとき、フィン部材10を回転させるための支点として機能する。すなわち、フィン部材10は、支持部材60から押圧力を受けると、ヒンジ部70を中心としてロータ2に向かう方向あるいはロータ2から遠ざかる方向に回転する。
【0065】
上記構成の回転機構52によれば、ターボ回転機械の運転中に高圧側から溝6の内部に流入した流体の圧力によって、ロータ径方向内方に向かう押圧力が支持部材60を介してフィン部材10に伝わり、この押圧力がヒンジ部70によってロータ2に向かうフィン部材10の回転運動に変換されるので、ターボ回転機械の運転中におけるシール間隙は狭まるように自動的に調整される。
一方、ターボ回転機械の起動時・停止中、ターボ回転機械の高圧側からの溝6の内部への流体の流入がない(あるいは殆どない)ので、支持部材60は皿ばね64の付勢力によってロータ径方向外方に押圧される。したがって、ターボ回転機械の運転中とは逆方向の押圧力がフィン部材10に作用し、この逆方向の押圧力がヒンジ部材70によってロータ2から離れるようなフィン部材10の回転運動に変換されるので、ターボ回転機械の起動時・停止中におけるシール間隙は広がるように自動的に調整される。
【0066】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0067】
例えば、上述の実施形態では、ターボ回転機械の高圧側に発生する流体の圧力を利用して、回転機構20,52によりフィン部材10を回転させて、シール間隙を狭めるように自動的に調整する例について説明したが、ターボ回転機械の運転中にシール間隙を狭めることが可能であれば、フィン部材10を回転させるためにどのような手法を採ってもよい。
また上述の実施形態では、ターボ回転機械の起動時・停止時において付勢手段(付勢手段28だけでなく、皿ばね64も含む。)の付勢力を利用して、ターボ回転機械の運転中とは逆方向にフィン部材10を回転させ、シール間隙を広げるように自動的に調整する例を示したが、ターボ回転機械の起動時・停止時にシール間隙を広げることが可能であれば、フィン部材10を回転させるためにどのような手法を採ってもよい。
例えば、ターボ回転機械の稼動状態(例えば、ロータ回転数、流体温度、圧力、車室とロータとの伸び差量)をセンサで検出して、この検出信号に基づいてアクチュエータを制御して、フィン部材10を回転させてもよい。この場合、アクチュエータの駆動源として、外部から導入した流体(蒸気)を用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 自動調整シール
2 ロータ
4 ダミー環
6 溝
10 フィン部材
12A シールフィン
12B シールフィン
12C シールフィン
20 回転機構
22 仕切板
24 ハウジング
24A 高圧室
24B 低圧室
26 案内溝
28 付勢手段
30 ヒンジ部
32 案内溝
40A 第1ピン
40B 第2ピン
41 支点
42A 第1スリット
42B 第2スリット
44A 第1シールプレート
44B 第2シールプレート
46A ピン付勢手段
46B ピン付勢手段
50 自動調整シール
52 回転機構
60 支持部材
60A 上板部
62 連通孔
64 皿ばね
66 支持板
70 ヒンジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材が静止部材に対峙しながら回転し、該回転部材と流体とのエネルギーの受け渡しを行うターボ回転機械に用いる自動調整シールであって、
前記静止部材に支持され、前記回転部材の全周に亘って設けられる複数のフィン部材と、
前記ターボ回転機械の稼動状態に応じて前記複数のフィン部材を回転させて、該フィン部材と前記回転部材との間隙を調節する回転機構とを備えることを特徴とする自動調整シール。
【請求項2】
前記回転機構は、少なくとも前記ターボ回転機械の定格運転時において、流体の圧力により前記複数のフィン部材を前記回転部材に向けて回転させることを特徴とする請求項1に記載の自動調整シール。
【請求項3】
前記回転機構は、
流体によって押圧されるとともに、該流体からの押圧力を前記フィン部材に伝える受圧部材と、
前記受圧部材を介して前記フィン部材に伝わる流体からの押圧力を、前記回転部材に向かう前記フィン部材の回転運動に変換するヒンジ部とを有することを特徴とする請求項2に記載の自動調整シール。
【請求項4】
前記受圧部材は、前記静止部材に固定されたハウジングに収納され、該ハウジングの内部空間を、前記ターボ回転機械の高圧側及び低圧側にそれぞれ連通する高圧室と低圧室とに隔てる仕切板であり、
前記仕切板は、前記高圧室と前記低圧室との圧力差によって前記ハウジング内を摺動することを特徴とする請求項3に記載の自動調整シール。
【請求項5】
前記仕切板の一方の表面に当接するとともに、前記ハウジングの底面を貫通し、前記ターボ回転機械の高圧側の前記フィン部材の表面に固定された第1ピンと、
前記仕切板の他方の表面に当接するとともに、前記ハウジングの底面を貫通し、前記ターボ回転機械の低圧側の前記フィン部材の表面に固定された第2ピンと、
前記ハウジングの底面に設けられ、前記仕切板の摺動方向に沿って前記第1ピン及び前記第2ピンが動くように該第1ピン及び第2ピンをそれぞれ案内する第1スリット及び第2スリットとをさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の自動調整シール。
【請求項6】
前記第1ピンに固定され、前記ターボ回転機械の高圧側から前記ハウジングの低圧室への前記第1スリットを介した流体の流入を防止するように、前記第1スリットうち少なくとも前記低圧室に属する部分をシールする第1シールプレートと、
前記第2ピンに固定され、前記ハウジングの高圧室から前記ターボ回転機械の低圧側への前記第2スリットを介した流体の流出を防止するように、前記第2スリットのうち少なくとも前記高圧室に属する部分をシールする第2シールプレートと、
前記第1ピン及び前記第2ピンを前記仕切板に向けて付勢するピン付勢手段とをさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の自動調整シール。
【請求項7】
前記ハウジングの低圧室から高圧室に向かう方向に前記仕切板を付勢する付勢手段をさらに備えることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の自動調整シール。
【請求項8】
前記受圧部材は、前記フィン部材の背面に取り付けられるとともに、前記静止部材に設けた溝に嵌め込まれることによって、前記フィン部材を前記静止部材に支持する支持部材であり、
前記溝の内部が前記ターボ回転機械の高圧側に連通しており、該高圧側から前記溝の内部に流入した流体によって、前記受圧部材としての前記支持部材は前記回転部材の径方向内方に押圧されることを特徴とする請求項3に記載の自動調整シール。
【請求項9】
前記支持部材を前記回転部材の径方向外方に付勢する付勢手段をさらに備えることを特徴とする請求項8に記載の自動調整シール。
【請求項10】
前記フィン部材は、前記回転部材の軸方向に沿って配設された複数枚のシールフィンからなることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の自動調整シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−180874(P2012−180874A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43106(P2011−43106)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】