説明

ターボ過給機付き内燃機関

【課題】ディフューザ部を通過する吸気の圧力を十分に上昇させることができ、かつコンプレッサの運転範囲を変更可能なターボ過給機付き内燃機関を提供する。
【解決手段】ターボ過給機10付き内燃機関1において、ディフューザ部17と並列に設けられ、かつディフューザ部17よりも吸気の通過抵抗が小さいバイパス通路20と、コンプレッサホイール15から吐出された吸気がディフューザ部17に導かれる第1位置P1とコンプレッサホイール15から吐出された吸気がバイパス通路20に導かれる第2位置P2との間で移動可能な可動壁21と、可動壁21を第1位置P1と第2位置P2との間で駆動するアクチュエータ22とを備え、コンプレッサ11に流入する吸気の流量及びコンプレッサ11の入口圧力と出口圧力との比である圧力比によって特定されるコンプレッサ11の運転状態に応じて可動壁21の位置を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサのディフューザ部に複数のベーンが設けられたターボ過給機を備えた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
コンプレッサのディフューザ部に複数のベーンが設けられ、この複数のベーンによってコンプレッサホイールから吐出された吸気の流速を低下させ、これにより吸気の圧力を上昇させるターボ過給機を備えた内燃機関が知られている。このような内燃機関に設けられるターボ過給機として、ディフューザ部に設けられる複数の静止翼(ベーン)の間に回転自在の可動静止翼を部分的に偏在させたり、複数の静止翼のうちの一部の静止翼を他の静止翼とは異なる間隔や角度で配置したりしてコンプレッサの作動範囲(以下、運転領域と称することがある。)を広げるものが知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2〜4が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開平4−116299号公報
【特許文献2】特開平5−71498号公報
【特許文献3】特開平8−254127号公報
【特許文献4】特表2003−526037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のターボ過給機のようにベーンを回転自在に設けるためには、ディフューザ部の壁面とベーンとの間に隙間が必要となる。この場合、コンプレッサホイールから吐出された吸気の一部がこの隙間を通ってスクロール室に抜けるので、ディフューザ部のベーンによって吸気の圧力を十分に上昇させることができない。そのため、ベーンを固定したものと比較してコンプレッサの効率が低くなるおそれがある。複数のベーンのうちの一部のベーンを他のベーンとは異なる間隔や角度に設けたターボ過給機では、これら複数のベーンの配置によってコンプレッサの運転範囲が固定される。
【0005】
そこで、本発明は、ディフューザ部を通過する吸気の圧力を十分に上昇させることができ、かつコンプレッサの運転範囲を変更可能なターボ過給機付き内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のターボ過給機付き内燃機関は、コンプレッサホイールが収容されるホイール室と、前記ホイール室の出口と連通し、複数のベーンが設けられるディフューザ部と、前記ディフューザ部と連通するスクロール室とを有するコンプレッサハウジングを備えたコンプレッサにて吸気を圧縮するターボ過給機付き内燃機関において、前記コンプレッサホイールから吐出された吸気が前記ディフューザ部を迂回して前記スクロール室に導かれるように前記ディフューザ部と並列に、かつ前記ディフューザ部を介して吸気を前記スクロール室に導く場合とは前記コンプレッサのコンプレッサ効率が異なるように設けられたバイパス通路と、前記コンプレッサホイールから吐出された吸気が前記ディフューザ部に導かれる第1位置と前記コンプレッサホイールから吐出された吸気が前記バイパス通路に導かれる第2位置との間で移動可能な可動部材と、前記可動部材を前記第1位置と前記第2位置との間で駆動する駆動手段と、前記コンプレッサに流入する吸気の流量及び前記コンプレッサの入口圧力と出口圧力との比である圧力比によって特定される前記コンプレッサの運転状態に応じて前記可動部材の位置が変化するように前記駆動手段を制御する制御手段と、を備えていることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明のターボ過給機付き内燃機関によれば、ディフューザ部と並列にバイパス通路を設け、可動部材によってコンプレッサホイールから吐出された吸気をこれらのいずれか一方に選択的に導くことができるので、ディフューザ部に複数のベーンを回転不可に固定しても可動部材でバイパス通路に吸気を導くことにより、コンプレッサの運転領域を変更することができる。この場合、可動部材を第1位置に移動させてコンプレッサホイールから吐出された吸気をディフューザ部に導くことにより、ディフューザ部の複数のベーンによって吸気を十分に減速させ、吸気の圧力を十分上昇させることができる。一方、可動部材を第2位置に移動させた場合は、ディフューザ部を介して吸気をスクロール室に導く場合とはコンプレッサ効率が異なるように設けられたバイパス通路にコンプレッサホイールから吐出された吸気が導かれる。そのため、この場合のコンプレッサの運転領域は、ディフューザ部を介して吸気をスクロール室に導く場合のコンプレッサの運転領域とは異なる。このように本発明の内燃機関によれば、可動部材を第1位置に移動させることによってディフューザ部に設けた複数のベーンにて吸気の圧力を十分に上昇させることができる。また、可動部材の位置を変化させることによりコンプレッサの運転範囲を変更することができる。
【0008】
本発明のターボ過給機付き内燃機関の一形態において、前記制御手段は、所定の第1運転領域内の運転状態で前記コンプレッサが運転されると推定される場合に前記可動部材が前記第1位置に移動するように前記駆動手段を制御し、前記所定の第1運転領域よりも前記コンプレッサに流入する吸気の流量が少ない運転領域である所定の第2運転領域内の運転状態で前記コンプレッサが運転されると推定される場合に前記可動部材が前記第2位置に移動するように前記駆動手段を制御してもよい(請求項2)。ディフューザ部には複数のベーンが設けられているため、このディフューザ部を介して吸気をスクロール室に導く場合はコンプレッサの運転領域が狭くなり、吸気の流量が少ない運転領域ではサージングが発生するおそれがある。そこで、このように可動部材の位置を変化させることにより、サージングを発生させることなくコンプレッサを適切に動作させることができる。
【0009】
本発明のターボ過給機付き内燃機関の一形態において、前記制御手段は、前記内燃機関の運転状態に応じて前記可動部材の位置が変化するように前記駆動手段を制御してもよい(請求項3)。周知のようにコンプレッサに流入する吸気の流量は内燃機関の運転状態に応じて変化するので、このように可動部材の位置を制御してもコンプレッサを適切に動作させることができる。
【0010】
この形態において、前記制御手段は、前記内燃機関のアクセル開度、前記内燃機関の回転数、及び前記内燃機関の負荷のうちの少なくともいずれか一つを前記内燃機関の運転状態として取得し、取得した運転状態に基づいて前記駆動手段を制御してもよい(請求項4)。周知のように吸気の流量は、アクセル開度に応じて調整されるので、アクセル開度に基づいて駆動手段を制御することにより、コンプレッサを適切に動作させることができる。また、内燃機関の回転数及び負荷は吸気の流量とそれぞれ相関関係を有しているので、これらに基づいて駆動手段を制御してもコンプレッサを適切に動作させることができる。
【0011】
本発明のターボ過給機付き内燃機関の一形態において、前記制御手段は、前記内燃機関のアクセル開度を第1所定量以上の開き側に変化させるべき急加速操作が行われた場合に前記可動部材が前記第2位置に移動するように前記駆動手段を制御してもよい(請求項5)。急加速時は、内燃機関の出力を速やかに上昇させるべく吸気の流量が少ない状態においてコンプレッサの圧力比を高くすることが要求される。そこで、このような場合は、可動部材を第2位置に移動させ、バイパス通路を介して吸気をスクロール室に導く。これにより、コンプレッサの運転領域を広げることができるので、少ない吸気流量で圧力比を高くしてもコンプレッサでサージングが発生することを抑制できる。
【0012】
本発明のターボ過給機付き内燃機関の一形態において、前記制御手段は、前記内燃機関の運転中に前記内燃機関のアクセル開度を第2所定量以下の閉じ側に変更するアクセルオフ操作が行われた場合に前記可動部材が前記第2位置に移動するように前記駆動手段を制御してもよい(請求項6)。このように内燃機関の運転中にアクセル開度を閉じ側に変更するアクセルオフ操作が行われると、コンプレッサホイールの回転数が高い状態で吸気の流量が減少するため、コンプレッサでサージングが発生するおそれがある。そこで、このような場合には、可動部材を第2位置に移動させてコンプレッサの運転領域を広げ、これによりコンプレッサでのサージングの発生を抑制する。
【0013】
本発明のターボ過給機付き内燃機関の一形態において、前記駆動手段は、前記スクロール室内の吸気の圧力を利用して前記可動部材を駆動してもよい(請求項7)。この場合、可動部材を駆動するための動力源を新たに設ける必要がない。そのため、ターボ過給機や内燃機関が大型化することを抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
以上に説明したように、本発明のターボ過給機付き内燃機関によれば、ディフューザ部と並列にバイパス通路を設け、可動部材によってコンプレッサホイールから吐出された吸気をこれらのいずれか一方に選択的に導くことができるので、ディフューザ部に複数のベーンを回転不可に固定しても可動部材でバイパス通路に吸気を導くことにより、コンプレッサの運転領域を変更することができる。そのため、固定した複数のベーンによってディフューザ部を通過する吸気の圧力を十分に上昇させることができ、かつコンプレッサの運転範囲を変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の一形態に係る内燃機関の概略を示す図である。図1に示した内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)1は、車両に走行用動力源として搭載されるものであり、機関本体2と、機関本体2に設けられる複数の気筒(不図示)に接続される吸気通路3及び排気通路4とを備えている。吸気通路3には、ターボ過給機10のコンプレッサ11と、吸気を冷却するためのインタークーラ5と、吸気の流量を調整するためのスロットル弁6とが設けられている。スロットル弁6は、所定の全閉位置と所定の全開位置との間で開度を調整可能に設けられている。なお、スロットル弁6は、所定の全閉位置においても吸気通路3が全閉にならないように設けられる。排気通路4には、ターボ過給機10のタービン12が設けられている。
【0016】
図2は、コンプレッサ11の内部の一部を拡大して示している。図2に示したようにコンプレッサ11は、コンプレッサハウジング13と、コンプレッサハウジング13内に設けられて回転軸14と一体に回転するコンプレッサホイール15とを備えている。回転軸14の他端にはタービン12のタービンホイール(不図示)が一体回転するように取り付けられており、コンプレッサホイール15はこのタービンホイールと一体に回転するように回転軸14にて連結されている。コンプレッサハウジング13は、コンプレッサホイール15が配置されるホイール室16と、ホイール室16の外周に設けられ、ホイール室16の出口と連通するディフューザ部17と、ディフューザ部17の外周に設けられてディフューザ部17と連通するスクロール室18とを備えている。ディフューザ部17には、複数のディフューザベーン(以下、ベーンと略称することがある。)19が設けられている。これら複数のベーン19は、コンプレッサホイール15から吐出された吸気の流速を低下させて吸気の圧力を上昇させるべく周方向に等間隔で配置されている。また、これら複数のベーン19は、ディフューザ部17を形成する壁面17a、17bにそれぞれ密着するように、言い換えるとベーン19と各壁面17a、17bとの間に隙間が形成されないようにこれら壁面17a、17bにそれぞれ固定されている。なお、これらは内燃機関に設けられる周知のターボ過給機のコンプレッサと同様でよいため、詳細な説明は省略する。
【0017】
図2に示したようにコンプレッサ11には、コンプレッサホイール15から吐出された吸気をディフューザ部17を迂回させてスクロール室18に導くバイパス通路20が設けられている。このバイパス通路20は、ディフューザ部17と並列に設けられている。図2に示したようにバイパス通路20は、ベーンが設けられていないベーンレスの通路である。そのため、吸気の通過抵抗は、ディフューザ部17よりもバイパス通路20の方が小さい。したがって、バイパス通路20を介して吸気をスクロール室18に導く場合と、ディフューザ部17を介して吸気をスクロール室18に導く場合とでは、コンプレッサ11のコンプレッサ効率が異なる。バイパス通路20は、ホイール室16、ディフューザ部17及びスクロール室18と同様にコンプレッサハウジング13に全周に亘って設けられる。バイパス通路20の入口には、バイパス通路20の入口を塞いでコンプレッサホイール15から吐出された吸気の全量がディフューザ部17に導かれる第1位置P1と、ディフューザ部17の入口を塞いでコンプレッサホイール15から吐出された吸気の全量がバイパス通路20に導かれる第2位置P2との間で移動可能な可動部材としての可動壁21が設けられている。図2に示したように可動壁21は、第1位置P1においてバイパス通路20の入口を塞ぐ蓋部21aと、第2位置P2においてコンプレッサホイール15から吐出された吸気を滑らかにバイパス通路20に導く通路部21bとを備えている。蓋部21aは、可動壁21が第1位置P1に移動した際にディフューザ部17を形成する壁17aと滑らかに連続するように設けられる。
【0018】
可動壁21は、駆動手段としてのアクチュエータ22にて駆動される。アクチュエータ22は、シリンダ22aと、シリンダ22aに往復動可能に挿入されるピストン22bとを備えている。可動壁21は、ロッド22cにてピストン22bと一体に往復動するように連結されている。図2に示したようにシリンダ22aには、可動壁21が第1位置P1に移動するようにピストン22bを図2の右側に付勢するスプリング22dが設けられている。図2に示したようにシリンダ22a内には、スクロール室18の吸気が導入される吸気導入室22eが形成される。アクチュエータ22は吸気導入室22eとスクロール室18とを接続する吸気導入通路23と、吸気導入通路23を開閉する開閉弁24とをさらに備えている。そして、可動壁21の位置の切り替えは、開閉弁24を開閉させることによって行われる。例えば、開閉弁24の開弁時はスクロール室18の吸気が吸気導入室22eに導入されるので、スプリング22dに抗してピストン22bが図2の左側に押される。そのため、可動壁21を第2位置P2に切り替えることができる。一方、開閉弁24の閉弁時はスプリング22dによってピストン22bが図2の右側に押される。そのため、可動壁21を第1位置P1に切り替えることができる。
【0019】
開閉弁24の動作は、エンジンコントロールユニット(ECU)30にて制御される。ECU30は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、エンジン1に設けられた各種センサから出力された信号に基づいてエンジン1の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。ECU30は、エンジン1の運転状態を制御すべく、例えばスロットル弁6の開度などを制御する。図1に示したようにECU30には、例えばエンジン1の回転数に対応する信号を出力する回転数センサ31、及びアクセル開度に対応する信号を出力するアクセル開度センサ32などが接続される。ECU30には、この他にも種々のセンサが接続されるが、それらの図示は省略した。
【0020】
図3を参照してECU30による開閉弁24の制御方法について説明する。図3は、吸気の流量とコンプレッサ11の圧力比とによって特定されるコンプレッサ11の性能曲線の一例を示している。なお、コンプレッサ11の圧力比とは、コンプレッサ11の入口の圧力と出口の圧力との比である。図3の実線は、可動壁21が第1位置P1にある場合、すなわちコンプレッサホイール15から吐出された吸気がディフューザ部17に導かれる場合の性能曲線であり、実線L1、L2がコンプレッサ11の等回転ラインを示し、実線S1がサージラインを示している。図3の破線は、可動壁21が第2位置P2にある場合、すなわちコンプレッサホイール15から吐出された吸気がバイパス通路20に導かれる場合の性能曲線であり、破線L3、L4がコンプレッサ11の等回転ラインを示し、破線S2がサージラインを示している。図3に示したように可動壁21を第2位置P2に移動させることによってコンプレッサ11のサージラインを実線S1から破線S2に変化させることができるので、より少ない流量でもコンプレッサ11でサージングが発生することを抑制できる。一方、図3に示したように可動壁21が第1位置P1にある場合は可動壁21が第2位置P2にある場合と比較して同じ流量でより高い圧力比を得ることができる。
【0021】
そこで、例えばコンプレッサ11が図3の実線S1のサージラインよりも高流量側の第1運転領域A1で運転される場合には可動壁21が第1位置P1に移動し、コンプレッサ11が図3の実線S1のサージラインよりも低流量側の第2運転領域A2で運転されると推定される場合には可動壁21が第2位置P2に移動するように開閉弁24の動作を制御する。具体的には、例えばエンジン1のアクセル開度を予め設定した第1所定量以上開き側に変化させる急加速操作、すなわちエンジン1の吸気量を迅速に増加させる必要がある操作がエンジン1に対して行われた場合に可動壁21が第2位置P2に移動するように開閉弁24の動作を制御する。また、エンジン1の運転中にエンジン1のアクセル開度を予め設定した第2所定量以下の閉じ側に変化させるアクセルオフ操作、すなわちコンプレッサホイール15の回転数が高い状態で吸気量を急に減少させる操作が行われた場合に可動壁21が第2位置P2に移動するように開閉弁24の動作を制御する。なお、第1運転領域A1はディフューザ部17の形状などコンプレッサ11の特性によって決まるため、第1所定量及び第2所定量はこのコンプレッサ11の特性に応じて適宜設定される。このようにエンジン1のアクセル開度に応じて可動壁21の位置を制御することにより、ECU30が本発明の制御手段として機能する。
【0022】
エンジン1を急加速させる場合は、エンジン1の出力を速やかに上昇させるべく吸入空気量が少ない状態においてコンプレッサ11の圧力比を高くすることが要求される。そのため、例えば図3に点Xで示した運転状態でコンプレッサ11を運転する必要がある。図3に示したように点Xは、実線S1のサージラインよりも低流量側であるため、可動壁21が第1位置P1にある状態では、コンプレッサ11でサージングが発生する。そこで、エンジン1に対して急加速が要求された場合は可動壁21を第2位置P2に移動させる。これにより、コンプレッサ11でのサージングの発生を防止することができる。
【0023】
アクセルオフ時は、エンジン1の運転中にアクセル開度が閉じ側に変化するので、エンジン1の回転数が高い状態で吸気量が急に減少する。エンジン1の回転数が高く、排気の流量が多い状態ではコンプレッサホイール15の回転数が高くなる。この状態で吸気量が急に減少すると、コンプレッサホイール15は慣性によって高回転で回転しているがコンプレッサ11に流入する吸気の流量が減少するため、コンプレッサ11が第2運転領域A2にて運転されるおそれがある。そこで、アクセルオフ時は可動壁21を第2位置P2に移動させ、コンプレッサ11でのサージングの発生を防止する。
【0024】
図4は、ECU30が開閉弁24の動作を制御するためにエンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行するアクチュエータ制御ルーチンを示している。図4の制御ルーチンにおいてECU30は、まずステップS11でエンジン1の運転状態を取得する。エンジン1の運転状態としては、例えばエンジン1の回転数、アクセル開度、及び車速などが取得される。次のステップS12においてECU30は、可動壁21を第2位置P2に切り替える所定の位置切替条件が成立したか否か判断する。所定の位置切替条件は、上述したようにエンジン1に対して急加速操作が行われた場合、又はアクセルオフ操作が行われた場合などコンプレッサ11が第2運転領域A2で運転されると推定される場合に成立したと判断される。例えば、エンジン1のアクセルペダルが短時間で所定の踏み込み量以上踏み込まれた場合に急加速操作が行われたと判断し、エンジン1の回転数が高い状態でアクセルペダルの踏み込みが解除された場合にアクセルオフ操作が行われたと判断する。
【0025】
所定の位置切替条件が成立したと判断した場合はステップS13に進み、ECU30は開閉弁24を開弁させて可動壁21を第2位置P2に駆動する。なお、既に開閉弁24が開弁していた場合は開閉弁24をその状態に保持する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。一方、所定の位置切替条件が成立していないと判断した場合はステップS14に進み、ECU30は開閉弁24を閉弁させて可動壁21を第1位置P1に駆動する。なお、既に開閉弁24が閉弁していた場合は開閉弁24をその状態に保持する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0026】
本発明のエンジン1では、可動壁21の位置を切り替えることによってコンプレッサホイール15から吐出された吸気を吸気の通過抵抗の異なるディフューザ部17又はバイパス通路20のいずれか一方に導くことができる。そして、可動壁21の位置を切り替えることによって図3に示したようにコンプレッサ11の性能曲線を変化させることができる。例えば、可動壁21を第2位置P2に移動させることにより、コンプレッサ11のサージラインを図3の破線S2に変更できる。そのため、サージングを発生させることなくコンプレッサ11を動作させることが可能な運転範囲を広げることができる。また、可動壁21を第1位置P1に移動させることにより、等回転ラインを実線L1、L2に変更できる。そのため、ディフューザ部17に設けた複数のベーン19によって吸気の圧力を十分に上昇させることができる。
【0027】
アクチュエータ22は、スクロール室18の吸気の圧力を利用して可動壁21を駆動するので、可動壁21を駆動するための動力源を新たに設ける必要がない。そのため、ターボ過給機10やエンジン1が大型化することを抑制できる。また、本発明のエンジン1では、ディフューザ部17とバイパス通路20とを切り替える可動壁21が一つであるため、リンク機構などが不要である。そのため、アクチュエータ22によって可動壁21の位置を速やかに切り替えることができる。
【0028】
本発明は上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、バイパス通路は上述した形態の形状に限定されない。バイパス通路は、ディフューザ部よりも吸気の通過抵抗が小さく、かつコンプレッサホイールから吐出された吸気をディフューザ部を迂回させてスクロール室に導くことが可能なように設けられていればよい。可動壁は、電磁アクチュエータ、モータ及び油圧シリンダなどで駆動してもよい。
【0029】
可動壁を第2位置に移動させる位置切替条件は、エンジンに対して急加速操作やアクセルオフ操作が行われた場合に限らず、コンプレッサが図3の第2運転領域で運転されると推定された場合に成立したと判断してよい。この判断は、例えばエンジンのアクセル開度、回転数及び負荷の少なくともいずれか一つに基づいて行ってもよい。これらのパラメータは吸気の流量と相関関係を有しているので、これらのパラメータに基づいて可動壁の動作を制御してもサージングを抑制しつつコンプレッサを適切に動作させることができる。
【0030】
コンプレッサの運転状態に応じて切り替えるべき可動壁の位置は第1位置と第2位置に限定されない。第1位置と第2位置の間に設定される所定位置に可動壁を移動させてもよい。この場合、コンプレッサホイールから吐出された一部に吸気をディフューザ部に導き、残りの吸気をバイパス通路に導くことができるので、コンプレッサを図3に示した第1運転領域と第2運転領域との間に設定される運転領域にて運転することができる。
【0031】
上述した形態では、ディフューザ部を高流量、高圧力比の運転域においてコンプレッサが最適に運転されるように設計し、バイパス通路を低流量、低圧力比の運転域においてコンプレッサが最適に運転されるように設計したが、これらディフューザ部及びバイパス通路をこれとは逆に設計してもよい。すなわち、複数のベーンが設けられるディフューザ部を低流量、低圧力比の運転域においてコンプレッサが最適に運転されるように設計し、ベーンのないバイパス通路を高流量、高圧力比の運転域においてコンプレッサが最適に運転されるように設計してもよい。この場合、コンプレッサに流入する吸気の流量が少ない運転領域ではディフューザ部に吸気が流入するように可動壁の位置を切り替え、コンプレッサに流入する吸気の流量が多い運転領域ではバイパス通路に吸気が流入するように可動壁の位置を切り替える。この場合もディフューザ部を通過する吸気の圧力を複数のベーンで十分に上昇させることができ、かつコンプレッサの運転範囲を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一形態に係る内燃機関の概略を示す図。
【図2】図1のコンプレッサの内部の一部を拡大して示す図。
【図3】吸気の流量とコンプレッサの圧力比とによって特定されるコンプレッサの性能曲線の一例を示す図。
【図4】ECUが実行するアクチュエータ制御ルーチンを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0033】
1 内燃機関
3 吸気通路
6 スロットル弁
10 ターボ過給機
11 コンプレッサ
13 コンプレッサハウジング
15 コンプレッサホイール
16 ホイール室
17 ディフューザ部
18 スクロール室
19 ディフューザベーン
20 バイパス通路
21 可動壁(可動部材)
22 アクチュエータ(駆動手段)
30 エンジンコントロールユニット(制御手段)
P1 第1位置
P2 第2位置
A1 第1運転領域
A2 第2運転領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサホイールが収容されるホイール室と、前記ホイール室の出口と連通し、複数のベーンが設けられるディフューザ部と、前記ディフューザ部と連通するスクロール室とを有するコンプレッサハウジングを備えたコンプレッサにて吸気を圧縮するターボ過給機付き内燃機関において、
前記コンプレッサホイールから吐出された吸気が前記ディフューザ部を迂回して前記スクロール室に導かれるように前記ディフューザ部と並列に、かつ前記ディフューザ部を介して吸気を前記スクロール室に導く場合とは前記コンプレッサのコンプレッサ効率が異なるように設けられたバイパス通路と、前記コンプレッサホイールから吐出された吸気が前記ディフューザ部に導かれる第1位置と前記コンプレッサホイールから吐出された吸気が前記バイパス通路に導かれる第2位置との間で移動可能な可動部材と、前記可動部材を前記第1位置と前記第2位置との間で駆動する駆動手段と、前記コンプレッサに流入する吸気の流量及び前記コンプレッサの入口圧力と出口圧力との比である圧力比によって特定される前記コンプレッサの運転状態に応じて前記可動部材の位置が変化するように前記駆動手段を制御する制御手段と、を備えていることを特徴とするターボ過給機付き内燃機関。
【請求項2】
前記制御手段は、所定の第1運転領域内の運転状態で前記コンプレッサが運転されると推定される場合に前記可動部材が前記第1位置に移動するように前記駆動手段を制御し、前記所定の第1運転領域よりも前記コンプレッサに流入する吸気の流量が少ない運転領域である所定の第2運転領域内の運転状態で前記コンプレッサが運転されると推定される場合に前記可動部材が前記第2位置に移動するように前記駆動手段を制御する請求項1に記載のターボ過給機付き内燃機関。
【請求項3】
前記制御手段は、前記内燃機関の運転状態に応じて前記可動部材の位置が変化するように前記駆動手段を制御する請求項1又は2に記載のターボ過給機付き内燃機関。
【請求項4】
前記制御手段は、前記内燃機関のアクセル開度、前記内燃機関の回転数、及び前記内燃機関の負荷のうちの少なくともいずれか一つを前記内燃機関の運転状態として取得し、取得した運転状態に基づいて前記駆動手段を制御する請求項3に記載のターボ過給機付き内燃機関。
【請求項5】
前記制御手段は、前記内燃機関のアクセル開度を第1所定量以上の開き側に変化させるべき急加速操作が行われた場合に前記可動部材が前記第2位置に移動するように前記駆動手段を制御する請求項1〜4のいずれか一項に記載のターボ過給機付き内燃機関。
【請求項6】
前記制御手段は、前記内燃機関の運転中に前記内燃機関のアクセル開度を第2所定量以下の閉じ側に変更するアクセルオフ操作が行われた場合に前記可動部材が前記第2位置に移動するように前記駆動手段を制御する請求項1〜5のいずれか一項に記載のターボ過給機付き内燃機関。
【請求項7】
前記駆動手段は、前記スクロール室内の吸気の圧力を利用して前記可動部材を駆動する請求項1〜6のいずれか一項に記載のターボ過給機付き内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−185705(P2009−185705A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26927(P2008−26927)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】