説明

ダイヤフラムを押圧機構とするホットエンボス装置およびホットエンボス加工法

【課題】
従来のプレス機型の一括転写型ホットエンボス装置により、マイクロ・ナノオーダの微小パターンを転写しようとしたとき、型と被加工材の平行の狂いが原因で成形不良を起こすことがあり、アライメント調整が問題となる。また、転写の範囲が大面積化するにつれて、機械剛性の問題による装置のたわみも同様に問題となる。
【解決手段】
高圧チャンバ(1)と低圧チャンバ(2)の圧力差によって駆動されるダイヤフラム(3)によって構成されたダイヤフラム差圧駆動機構(4)を用い、ダイヤフラムで型(5)と被加工材(6)をともに加熱用プレート(7)との間で押圧することで、型表面の微細パターンを被加工材表面に転写する。ダイヤフラムは流体圧によって均等に駆動されるため、型のアライメントの狂いや装置の撓みにダイヤフラムの変形が追随することができ、装置の機械剛性の影響も受けにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、両面の圧力差によって駆動されるダイヤフラムを押圧機構とするホットエンボス装置およびホットエンボス加工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高剛性のフレームに取り付けられたアクチュエータによってスライドを駆動し、スライドとボルスタの間で型および被加工材を押圧することで型表面の微細パターンを被加工材表面に転写するプレス機型の一括転写型ホットエンボス装置が一般に用いられている。
【0003】
また、微細パターンを有するロールによって被加工材を押圧することでロール表面の微細パターンを被加工材表面に転写するロール方式連続転写型ホットエンボス装置が知られている。
【非特許文献1】前田龍太郎編著、後藤博史、廣島洋、栗津浩一、銘刈春隆、高橋正春著:ナノインプリンタのはなし、2005年、日刊工業新聞社。
【0004】
フィルム状の被加工材料を型に密着させ、フィルム状の被加工材背面から、気体により背圧をかけ被加工材表面に型表面の微細パターンを転写するガスアシストホットエンボス装置が知られている。
【非特許文献2】C-Y.Chang, S-Y.Yang, L-S.Huang,J-H.Chang: Fabrication of plastic microlens array using gas-assisted micro-hot-embossing with a silicon mold, Infrared Physics & Technology, 48巻(2006年),163〜173頁.
【0005】
ガスアシストホットエンボスと類似の方法としてSoftPress法が知られている。ポリマー製でフィルム状の中間型用材料を一次型に密着させ、中間型用材料の背面から空気圧により背圧をかけ一次型の表面の微細パターンを中間型用材料に加熱転写し、中間型を製作する。開発者はこの中間スタンパ作成技術をSoftPress技術と呼んでいる。さらにその中間型をレジストとして用い、UV硬化樹脂からなる被加工材にUV硬化を利用してパターンを転写している。この方法において、中間型は再利用できず、1回の成形毎に使い捨てされる。
【非特許文献3】野口信夫:Obducatの量産向けナノインプリント装置、電子材料、47巻3号(2008年3月)、27〜30頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のプレス機型の一括転写型ホットエンボス装置により、マイクロ・ナノオーダの微小パターンを転写しようとしたとき、型と被加工材の平行の狂いが原因で成形不良を起こすことがあり、アライメント調整が問題となる。また、転写の範囲が大面積化するにつれて、機械剛性の問題による装置のたわみも同様に問題となる。
【0007】
ロール型の連続転写型ホットエンボス装置は、大面積の微小パターンの転写に関し、プレス機型の一括転写型ホットエンボス装置と比較して剛性上有利な機構であるが、一括転写型の装置と異なり、被加工材形状が等厚板状に制約される問題がある。
【0008】
ガスアシストホットエンボス装置は、フィルム状の被加工材背面から気体により背圧をかけ、被加工材に対し型を流体圧により均等に押圧する方式であるため、型のアライメントの狂いや機械剛性の問題による装置の撓みに被加工材の変形が追随し、問題はないが、反面、被加工材がフィルム状のものに限られる問題がある。
【0009】
SoftPress法を含む一連の微細パターン転写プロセスは、中間型にポリマー製フィルム状を用いる。そのため、被加工材へのパターン転写プロセスは、このような中間型が利用可能なプロセスおよび対応する被加工材に制約され、被加工材の選択に関しホットエンボス装置に比べ制約される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
高圧チャンバ(1)と低圧チャンバ(2)の圧力差によって駆動されるダイヤフラム(3)によって構成されたダイヤフラム差圧駆動機構(4)を用い、ダイヤフラムで型(5)と被加工材(6)をともに加熱用プレート(7)との間で押圧することで、型表面の微細パターンを被加工材表面に転写する。ダイヤフラムは流体圧によって均等に駆動されるため、型のアライメントの狂いや装置の撓みにダイヤフラムの変形が追随することができ、装置の機械剛性の影響も受けにくい。ダイヤフラムによって押圧される型、被加工材の形状・材質についてもプレス機型の一括転写型ホットエンボス装置と同様で特に制限はない。
【0011】
あるいは、高圧チャンバを省略し、負圧チャンバ(8)と大気圧側の圧力差によって駆動されるダイヤフラム(9)によって構成されたダイヤフラム差圧駆動機構(10)を用い、ダイヤフラムによって型(11)と被加工材(12)を加熱用プレート(13)との間でともに押圧することによっても同様に目的を達することができる。
【0012】
あるいは、低圧チャンバを省略し、正圧チャンバ(14)と大気圧側の圧力差によって駆動されるダイヤフラム(15)によって構成されたダイヤフラム差圧駆動機構(16)を用い、型(17)と被加工材(18)を加熱用プレート(19)との間でともに押圧することによっても同様に目的を達することができる。
【0013】
上記発明において、ダイヤフラムと加熱用プレートの間でともに押圧される型と被加工材について、いずれがダイヤフラム側に布置されいずれが加熱用プレート側に布置されても同じく目的を達することができることはいうまでもない。
【発明の効果】
【0014】
ダイヤフラムは流体圧によって均等に駆動されるため、型のアライメントの狂いにダイヤフラムの変形が追随することができ、プレス機型の装置では必要なアライメント調整作業が本発明の装置では必要ない。
【0015】
装置の撓みにダイヤフラムの変形が追随することができ、装置の機械剛性の影響も受けにくいため、転写の範囲の大面積化を容易に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
高圧チャンバ(1)と低圧チャンバ(2)の圧力差によって駆動されるダイヤフラム(3)によって構成されたダイヤフラム差圧駆動機構(4)を用い、ダイヤフラムで型(5)と被加工材(6)をともに加熱用プレート(7)との間で押圧する。
【0017】
低圧チャンバを負圧とし、真空状態に近づけることで、型と被加工材料の間の空気を抜き、空気の閉じ込みによる成形不良を回避することもできる。
【0018】
あるいは、高圧チャンバを省略し、負圧チャンバ(8)と大気圧側の圧力差によって駆動されるダイヤフラム(9)によって構成されたダイヤフラム差圧駆動機構(10)を用い、ダイヤフラムによって型(11)と被加工材(12)を加熱用プレート(13)との間でともに押圧する。上記と同様に負圧チャンバを真空状態に近づけることで、型と被加工材料の間の空気を抜き、空気の閉じ込みによる成形不良を回避することもできることは言うまでもない。
【0019】
あるいは、低圧チャンバを省略し、正圧チャンバ(14)と大気圧側の圧力差によって駆動されるダイヤフラム(15)によって構成されたダイヤフラム差圧駆動機構(16)を用い、型(17)と被加工材(18)を加熱用プレート(19)との間でともに押圧する。
【0020】
ダイヤフラムを駆動する圧力差の大きさに関し、型と被加工材の押圧中に増減を繰り返すことで、プレス機型の装置のリストライクと同様な充満効果を出すことができる。
【実施例】
【0021】
上記実施例として、低圧チャンバを省略し大気圧とし、正圧チャンバのみで0.5mm厚SUS304ステンレス薄板ダイヤフラムを駆動する装置を試作した。正圧チャンバ圧力0.9MPaの条件で、φ95のシリコンモールドとポリカーボネイト樹脂板を重ねてダイヤフラムで押圧したところ、モールド上の中心付近、縁ともに幅4μmの微細溝の転写を確認できた。
【0022】
また、上記試作装置で、正圧チャンバ圧力2.0MPaとし、2.86度から0度の間で金型を傾けてミスアライメント状態にして成形実験をしたところ、問題なく成形できた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ダイヤフラムを押圧機構とするホットエンボス装置の模式図である。
【図2】高圧チャンバを省略したダイヤフラムを押圧機構とするホットエンボス装置の模式図である。
【図3】負圧チャンバを省略したダイヤフラムを押圧機構とするホットエンボス装置の模式図である。 である。
【図4】シリコンモールドを用いたポリカーボネイト樹脂板への転写結果の図である。
【図5】金型を傾けたときのポリカーボネイト樹脂板への転写結果の図である。
【符号の説明】
【0024】
1 高圧チャンバ
2 低圧チャンバ
3 ダイヤフラム
4 ダイヤフラム差圧駆動機構
5 型
6 被加工材
7 加熱用プレート
8 負圧チャンバ
9 ダイヤフラム
10 ダイヤフラム差圧駆動機構
11 型
12 被加工材
13 加熱用プレート
14 正圧チャンバ
15 ダイヤフラム
16 ダイヤフラム差圧駆動機構
17 型
18 被加工材
19 加熱用プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラムとダイヤフラムの一方の面に接する低圧チャンバと他方の面に接する高圧チャンバからなるダイヤフラム差圧駆動機構および被加工材と型をダイヤフラムとの間で挟むように配置された加熱用プレートを有し、低圧チャンバと高圧チャンバの圧力差を制御することによってダイヤフラムを変位させて加熱用プレートとの間で被加工材と型を押圧することを特徴とするホットエンボス装置およびホットエンボス法
【請求項2】
ダイヤフラムとダイヤフラムの一方の面に接する圧力チャンバからなるダイヤフラム差圧駆動機構および被加工材と型をダイヤフラムとの間で挟むように配置された加熱用プレートを有し、圧力チャンバと大気圧の圧力差を制御することによってダイヤフラムを変位させて加熱用プレートとの間で被加工材と型を押圧することを特徴とするホットエンボス装置およびホットエンボス法


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−286028(P2009−286028A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142042(P2008−142042)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本塑性加工学会、平成20年度塑性加工春季講演会講演論文集、平成20年5月9日発行
【出願人】(307026547)
【Fターム(参考)】