説明

ダイヤモンド被覆基板、濾過フィルター及び電極

【課題】 本発明は、物理的・化学的に極めて安定で、過酷な環境下で使用することが可能な耐久性に優れた多孔質性複合基板を提供することを目的とする。また電極としても使用が可能である。
【解決手段】 基板および該基板に被覆した導電性ダイヤモンド層からなり、該基板が多孔質で開気孔を有し、該導電性ダイヤモンド層を構成する導電性ダイヤモンドが連続している部分が1000μm以下であることを特徴とするダイヤモンド被覆基板である。また、前記多孔質基板の開気孔径が0.1μm〜1000μmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質基板上にダイヤモンド層を被覆した複合基板、及びそれを用いたフィルター及び電極に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは特徴的な性質を有しており、それらを活かした様々な応用製品が実用化されている。ダイヤモンドの特徴として化学的、物理的に安定であり、通常絶縁体であるが、硼素、窒素などの不純物を添加することで、導電性を付与することができる。
近年、産業面において物質の廃棄、排水、リサイクル技術が急速に発展してきている。その中の一つとして、セラミックフィルターを用いた排水濾過方法がある。しかし、従来のセラミックフィルターでは、極めて腐食性の強い溶液や環境での使用において腐食してしまう可能性がある。
また、廃液中の望ましくない有機化合物を低減するために、電気化学的酸化を行う技法がある。従来使用されている電極では、白金、二酸化鉛及び二酸化スズなどがある。しかし、これらも電気分解過程において厳しい化学的環境におかれ、腐食される。また、陽極として使用される場合には、作用面上への吸着物が形成され、効率が著しく低下するという欠点がある。
【0003】
ダイヤモンドは化学的に最も安定な物質であり、酸化に対する耐久性に優れており、基板表面が汚染されるようなことはない。したがって前記従来フィルターと比べても、ダイヤモンドは耐腐食性が強く、前記従来電極と比べても、導電性を付与されたダイヤモンドは高いエネルギー効率を維持することができ、電極として優れた点が多い。よって、多孔質基板にダイヤモンドを被覆した基板は、耐久性の強いフィルターとして使用が可能である。更に電極として使用することで、フィルター表面に付着した異物を取り除くことができ、通過する異物を電気化学的酸化処理によって小さくすることで、フィルターの目詰まりを防ぐことができる。
【0004】
特許文献1、特許文献2には、ダイヤモンド電極を用いて排水中で有機化合物を分解することが開示されている。しかし、前記明細書の実施例では、高い電流密度、長時間での電気分解の実施例は示されていない。
有機媒体中でダイヤモンド電極を電流密度が高い条件で使用する場合に、発生するガスや電解液により、膜と基板との界面で剥離が起こる。剥離により下地基板が露出してしまい、溶液により腐食が進行してしまう。または、電解効率が著しく悪くなるという問題が起こる。
【特許文献1】特開2000−254650号公報
【特許文献2】特開2000−226682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、開気孔を有し、濾過機能を有する多孔質基板上に導電性を有するダイヤモンド被覆層を設けることによって、物理的・化学的に極めて安定で過酷な環境下で使用することが可能な耐久性に優れた多孔質性複合基板を提供することを目的とする。また電極としても使用が可能で、電気化学的酸化処理中に導電性ダイヤモンド層と基板が剥離することにより、電解が継続できなくなる又は、電解効率が著しく悪くなるという上記問題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記の構成よりなる。
(1)基板および該基板に被覆したダイヤモンド層からなり、該基板が多孔質で開気孔を有し、該ダイヤモンド層を構成するダイヤモンドの連続している部分の最大面積が1μm以上1000μm以下であることを特徴とするダイヤモンド被覆基板である。
(2)前記ダイヤモンド層が導電性を有することを特徴とする上記(1)に記載のダイヤモンド被覆基板である。
(3)前記多孔質基板の開気孔径が0.1μm〜1000μmであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のダイヤモンド被覆基板である。
(4)前記多孔質基板の材質が、Al、Ta、Nb、Hf、Zr、Znであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一に記載のダイヤモンド被覆基板である。
(5)前記ダイヤモンドが、硼素、リン、窒素のうち一つ以上を不純物として含むことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか一に記載のダイヤモンド被覆基板である。
(6)前記導電性ダイヤモンド層が1ppm〜50000ppmの範囲にある硼素を含有することを特徴とする上記(5)に記載のダイヤモンド被覆基板である。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一に記載のダイヤモンド被覆基板を用いることを特徴とする濾過フィルターである。
(8)上記(1)〜(6)のいずれか一に記載のダイヤモンド被覆基板及び/または上記(7)に記載の濾過フィルターを陽極及び/または陰極として用いることを特徴とする電極である。
【0007】
フィルターとして用いる場合にフィルター表面と濾過しようとする溶液の物理的、化学的な相互作用により、基板表面が劣化し、基板全体の強度低下、濾過機能の低下など、フィルターの耐久性が低下する問題に対して、基板表面を導電性ダイヤモンド層で被覆する本発明に係るダイヤモンド被覆基板を用いることによって耐久性に優れたフィルターを提供できる。また、電極として使用する場合にも電気化学的酸化を行う工程時に、導電性ダイヤモンド層と基板との間で剥離を起こす問題に対しては、導電性ダイヤモンド層内の応力を低減することで防ぐことができる。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るダイヤモンド被覆基板は、濾過機能を有したフィルターとして使用することが可能であり、また同時に電極として広く使用することができる。高速亜鉛めっきや電解銅箔製造、洗浄用酸性水やアルカリ水の製造にも使用できる。
ダイヤモンドを被覆する基板に、多孔質基板を用いることでフィルター機能を持たせることができる。この多孔質基板は開気孔を有している必要がある。フィルターとしてのみ使用する場合には被覆されたダイヤモンドは特に導電性を有している必要はない。
【0009】
ダイヤモンドに不純物を添加することで導電性を付与することができる。この導電性を付与した導電性ダイヤモンド層を被覆した基板を用いて、電極として使用することができる。有機物を含んだ溶液を電気化学的酸化処理を行う場合に、導電性ダイヤモンドを被覆した基板と導電性ダイヤモンド層との界面で剥離を起すことがある。電気分解処理において、発生する水素、酸素、塩素ガス等による導電性ダイヤモンド層への負荷が発生していると思われる。またこれは、導電性ダイヤモンド層内の応力に関係が大きく、この応力を低減することで、剥離を防ぐことができる。導電性ダイヤモンド層中に、連続している部分(以下連続膜と記載することもある)の面積が大きいと、そこで応力が大きくなってしまい剥離の原因となる。ここで言う連続膜とは、導電性ダイヤモンド自体が電気的に繋がっている部分を指している。本発明では、核発生密度を小さくすることで、連続膜になることを防ぎ、膜内の応力を低減することで、剥離を防ぐことが可能である。任意の1mm角面積を取り出したときの核発生密度は、1.0×10個/cm以下であることが望ましい。連続膜である部分が、1000μm以下であれば、応力を低減することができ、導電性ダイヤモンド層と基板との間の剥離を防ぐことができる。しかし、ダイヤモンドの連続している部分の最大面積が1μm以下であると、結晶粒の大きさが小さく、もしくは膜厚が薄くなる。前者の場合は、ダイヤモンドの結晶性が悪くなり、後者の場合は膜の抵抗が高くなり電解効率が悪くなる。
【0010】
導電性ダイヤモンドを成膜する多孔質基板の開気孔径が0.1μm〜1000μmであることが好ましい。開気孔径が0.1μm未満では、ダイヤモンドを被覆することによって閉気孔になり、基板を液体が通過しなくなりフィルターとして使用できない。また開気孔径が1000μm以上であると、基板の剛性が低下し、成膜時、もしくはフィルターとしての使用時に破断してしまう問題が生じるようになる。
【0011】
電極での使用を考えると、基板は導電性である必要があり、低抵抗であることが好ましい。金属基板を用いることが好ましく、更には、電気化学的酸化処理を行った際に基板表面で不動体を形成する弁金属や貴金属が好ましく、特にAl、Ta、Nb、Hf、Zr、Znであることが好ましい。その中でも、Nbはダイヤモンドとの不整合が小さく、より剥離を防ぐことができる。
ダイヤモンド層に硼素、リン、窒素のうち一以上を不純物としてドープすることにより、導電性を付与することができ、抵抗値を著しく下げることができる。それ以外の元素を不純物として含む場合には、ダイヤモンドの品質が悪くなり好ましくない。
【0012】
硼素の含有率が1〜50000ppmと制御可能で、望ましい抵抗値を得ることができる。1ppm未満ではダイヤモンド層の抵抗率が低く、電解処理を行う時での電力効率が悪くなる。50000ppmを越えると、ダイヤモンドの品質が悪くなり、剥離を起しやすくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、フィルター機能を有しつつ、電極としても使用可能な基板であり、導電性ダイヤモンド層中の応力を低減することで、電気化学的酸化処理過程においても、導電性ダイヤモンド層と基板との間での剥離が起こらないようにすることができる。したがって、本発明のダイヤモンド被覆基板は、フィルターとしても使用可能であり、電極として使用した場合でも、基板と導電性ダイヤモンド層との間で剥離を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ダイヤモンド電極となる導電性ダイヤモンド層を成膜する基板は、多孔質基板を使用する。例えば、開気孔径が0.1μm〜1000μmであるものを使用する。
上記の基板上に導電性ダイヤモンド層を成膜する。前処理として、ダイヤモンドパウダーを用いたスクラッチング処理や、超音波処理により種付けを行い、成膜を行う。導電性ダイヤモンドの合成方法は気相合成であることが好ましい。その中でも熱フィラメントCVD法やプラズマCVD法を用いることが好ましい。水素ガスと、炭素含有ガス例えば、メタンを導入し合成する。水素:メタンの比率は、0.2%〜5%の範囲であることが好ましい。0.2%未満であると、炭素源が少なすぎるため成膜に時間がかかってしまう。5%を超えると、炭素源が多すぎるためにダイヤモンドの品質を下げることとなる。導電性を付与するためには、硼素、リン、窒素などを不純物として添加する。
【0015】
以上のようにして作製したダイヤモンド被覆基板について、溶液の濾過、電気化学的酸化処理を行うことで耐久性を試験した。電気化学的酸化処理を行う方法は、例えば、1mol/リットルの硫酸水溶液を満たした容器の中に、ダイヤモンド電極一枚、または二枚を入れる。一枚の場合には対極に適当な電極材料、例えば白金、カーボンなどを入れる。電極同士は10mm程度離して固定し、給電を行う。条件は0.1A〜1.0A/cmの電流が流れる状態で行う。
【0016】
以下具体的な実施例に基いて本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
表1に示す基板を用いて、導電性ダイヤモンド層を成膜した。基板の開気孔径は1μm程度のものを使用した。前処理としてダイヤモンド粉末を用いてスクラッチ処理、もしくはダイヤモンド粉末を分散させた溶液中での超音波処理を施した。ダイヤモンド粉末の大きさは0.2μm〜3.0μmと変化させた。
【0017】
熱フィラメントCVD法での合成は、ガス圧60Torrとし、水素流量を3000sccm、メタン流量を0.5〜5.0sccmの範囲とした。また、硼素源としてジボランガスとした。流量はメタンに対して、0.2〜1.0%の範囲の濃度で供給した。基板の温度は、700〜1000℃とした。またマイクロ波CVD法の場合は、マイクロ波周波数2.4GHz、マイクロ波出力を5kWとした。いずれも、10ppm〜10000ppmの範囲にある硼素を含んでいた。
【0018】
表1に示すように、メタン流量、前処理でのダイヤモンド種付け方法を変えることで、核発生密度を変化させた。それぞれ30min成膜した後、核発生密度を測定した。その後更に成膜を行い、ダイヤモンド被覆面積を測定した。ダイヤモンド被覆基板を電極として使用し、電気化学的酸化処理を行い、剥離がないものを○、剥離や基板の割れが発生し、電気化学的酸化処理を続行できなくなったものを×として示した。電気化学的酸化処理は1mol/リットルの硫酸水溶液を満たした容器の中に、ダイヤモンド電極を陽極、陰極の両方に使用した。電極同士は10mm離して固定し、給電を行った。条件は1.0A/cmの電流が流れる状態で、100時間行った。
【0019】
【表1】

【0020】
No.1−1のようにダイヤモンドが連続している部分の最大面積が1μmより小さいものは、結晶性の悪いダイヤモンドが生成され、表面に異物が付着することにより、電解試験が続行できなくなった。No.1−2,1−3のようにダイヤモンドが連続している部分の最大面積が1μm以上1000μm以下のものは、フィルターとしての濾過機能を有し、電極として使用した場合でも、多孔質基板と導電性ダイヤモンド層との間に剥離は起こらなかった。しかし、No.1−3及び1−4の様に導電性ダイヤモンドが連続している部分の最大面積が1000μmより大きいものは、電極として使用した場合に、多孔質基板と導電性ダイヤモンド層との間で剥離が起こった。
【0021】
(実施例2)
表2に示すように開気孔径を変化させた多孔質基板上に、導電性ダイヤモンドの成膜を行った。作製したダイヤモンド被覆基板を用いて、基板の片側方向から溶液を供給し、反対側へ溶液が送られるようにポンプを用いて溶液を循環させた。溶液には0.1Mの硫酸溶液に、トリクロロエチレン、アセトンを含む有機性混合溶液とダイヤモンドパウダーを含みヘドロ状となった沈殿物を混合したものを使用した。この溶液の濾過処理を行いながら、電気化学的酸化処理を同時に行った。まず、溶液を循環させ溶液の濾過を4時間行った。
【0022】
【表2】

【0023】
No.2−1では開気孔径の最大値が0.1μmより小さく、ダイヤモンド成膜時にダイヤモンドにより多孔質基板が目詰まりを起こし溶液が流れなくなった。No.2−2及び2−3のように、多孔質基板の開気孔径が0.1μm以上1000μm以下の範囲にあるものは、溶液の通過も継続的に可能となった。No.2−4のように開気孔径の最大値が1000μmより大きい場合には、試験開始後すぐに基板が割れてしまい、試験を続行することが不可能となった。
【0024】
(実施例3)
表3に示すように基板材質を変えた多孔質基板上に導電性ダイヤモンドを成膜した。実施例1と同様に電気化学的酸化処理を行った。処理時に、基板の腐食が起こったものを×、起こらなかったものを○とした。また電気化学的酸化処理を更に電流密度1.5A/cm2とし100時間続けた。(これを電解処理2とする)基板とダイヤモンド膜との間で剥離が起こったものを×、起こらなかったものを○とした。
【表3】

【0025】
No.3−1〜3−6の基板材質のものは、電気化学的酸化処理を行った際にも安定して処理を行うことができた。それ以外のNo.3−7及び3−8では、導電性ダイヤモンド層が被覆されておらず、基板が直接溶液と触れる部分で、腐食が起こり、基板が割れてしまい処理が続行不可能となった。
【0026】
(比較例1)
不純物として硼素を含まない以外は実施例1と同じ条件で、熱フィラメントCVD法によって導電性ダイヤモンド膜の成膜を行った。この成膜時に、ジボランガスを流さず、導電性ダイヤモンド層がカーボンを不純物として含むようにし、導電性を持たせた。しかし、電気分解処理中にカーボンが腐食されることにより、導電性ダイヤモンド層と基板との密着力が悪くなり、剥離することにより、電解処理が継続できなくなった。
【0027】
(比較例2)
不純物としての硼素の含有量を変更した以外は実施例1と同じ条件で、熱フィラメントCVD法によって導電性ダイヤモンド膜の成膜を行った。この成膜時に、流す硼素を含むガスの量を調節し、導電性ダイヤモンド層が含む硼素量を0.9ppm、1000ppm、60000ppmとなるように作製した。含有量1000ppmのダイヤモンド電極に比べ、含有量0.9ppmの電極は、ダイヤモンド膜の電気抵抗が高く、電気分解処理の際の電力効率が悪くなった。60000ppmのものは、ダイヤモンドの品質が悪くなり、電気分解処理中に不純物が電極表面に付着し、電気効率が悪くなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板および該基板に被覆したダイヤモンド層からなり、該基板が多孔質で開気孔を有し、該ダイヤモンド層を構成するダイヤモンドの連続している部分の最大面積が1μm以上1000μm以下であることを特徴とするダイヤモンド被覆基板。
【請求項2】
前記ダイヤモンド層が導電性を有することを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド被覆基板。
【請求項3】
前記多孔質基板の開気孔径が0.1μm〜1000μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイヤモンド被覆基板。
【請求項4】
前記多孔質基板の材質が、Al、Ta、Nb、Hf、Zr、Znであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のダイヤモンド被覆基板。
【請求項5】
前記ダイヤモンド層が、硼素、リン、窒素のうち一つ以上を不純物として含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載のダイヤモンド被覆基板。
【請求項6】
前記導電性ダイヤモンド層が、1ppm〜50000ppmの範囲にある硼素を含有することを特徴とする請求項5に記載のダイヤモンド被覆基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一に記載のダイヤモンド被覆基板を用いることを特徴とする濾過フィルター。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のダイヤモンド被覆基板及び/または請求項7に記載の濾過フィルターを陽極及び/または陰極として用いることを特徴とする電極。


【公開番号】特開2007−84892(P2007−84892A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277030(P2005−277030)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】