説明

チタンアルミニウム合金等の耐酸化性皮膜の形成方法

【課題】自動車用のターボチャージャーのロータ、ガスタービン、ジェットエンジン等の各種部品に使用されるチタンアルミ合金等のアルミ合金の高温環境下での耐酸化性皮膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】200℃以上であって450℃以下に加熱された空気中に吸引されて加熱された鉄合金の粒子を、チタンアルミ合金の表面に200m/sec以上であって350m/sec以下の高速度で衝突させることにより、前記表面に耐酸化性皮膜を形成すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用のターボチャージャーのロータ、ガスタービン、ジェットエンジン等の各種部品に使用されるチタンアルミ合金等のアルミ合金の表面に耐酸化性皮膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンアルミニウム合金等のアルミ合金は、軽量で耐熱性も高いので、自動車用ターボチャージャーのロータ等に使用されることが検討されている。しかし、従来のチタンアルミニウム合金は、その耐熱限度が880℃程度であるため、その用途を更に拡大するためには、950℃程度まで上げることが求められている。
【0003】
チタンアルミニウム合金のような耐熱合金材料が使用される環境では、高温雰囲気が酸素、水蒸気等の酸化性、腐食性成分を含むことがあり、耐熱合金材料がこのような高温雰囲気に曝されると、雰囲気中の腐食性成分と反応して、酸化や高温腐食が進行しやすくなる。雰囲気中から耐熱合金材料に浸透した酸素、窒素、硫黄、塩素、炭素等の原子によって、耐熱合金材料の表面に内部腐食が発生し、材料強度が低下することもある。
【0004】
高温腐食に対する環境遮断能力に優れた保護皮膜には、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化二クロム(Cr)等があり、酸化性雰囲気中で耐熱合金材料の基材の表層にアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)又はクロム(Cr)を拡散する方法や、CVD、溶射、反応性スパッタリング等によって、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化二クロム(Cr)層を耐熱合金材料表面に形成する方法が採用されている。また、ケイ素(Si)やニオブ(Nb)等をイオン注入して耐酸化性を確保しようとする試みも見られた。
【0005】
特許文献1は、TiAl金属間化合物の耐酸化表面処理方法に関するものであり、そこには、クロム、アルミニウムおよびイットリウムを含有するニッケル基合金、またはニッケル、クロム、アルミニウムおよびイットリウムを含有するコバルト基合金を、チタンアルミニウム金属間化合物に対して、減圧中でプラズマ溶射した後、真空中にて拡散処理を施すことにより、耐酸化性の拡散層を生成して皮膜層と母材を密着させることが記載されている。
【0006】
特許文献2は、低温溶射皮膜被覆部材およびその製造方法に関するものであり、そこには、被処理基材の表面に、溶射材料の粒子を600℃以下の高速作動ガスを介して溶射する際、溶射材料の粒子を300℃以下の低温に保持した状態で500m/s以上の飛行速度で衝突させることにより付着させて皮膜を形成する方法が記載されている。
【0007】
しかし、いずれの方法においても、950℃を超える温度における耐酸化性を確保することは困難であり、一層の向上が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開平5−1363号公報
【特許文献2】特開2002−309364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高温環境下におけるチタンアルミ合金等のアルミ合金の耐酸化性を向上することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のアルミ合金用の耐酸化性皮膜を形成する方法は、アルミ合金の表面に耐酸化性皮膜を形成する方法であって、鉄合金の粉末粒子を、100℃以上に加熱された圧縮空気中に吸引して加熱し、前記アルミ合金の表面に高速度で衝突させることにより、前記表面に耐酸化性皮膜を形成することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のアルミ合金用の耐酸化性皮膜を形成する方法は、アルミ合金の表面に耐酸化性皮膜を形成する方法であって、鉄合金の粉末粒子を、200℃以上であって450℃以下に加熱された圧縮空気中に吸引して加熱し、前記アルミ合金の表面に高速度で衝突させることにより、前記表面に耐酸化性皮膜を形成することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のチタンアルミ合金用の耐酸化性皮膜を形成する方法は、上記の特徴に加えて、前記アルミ合金がチタンアルミ合金であることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のアルミ合金用の耐酸化性皮膜を形成する方法は、アルミ合金の表面に耐酸化性皮膜を形成する方法であって、鉄合金の粉末粒子を、加熱された圧縮空気中に吸引して加熱し、前記アルミ合金の表面に160m/sec以上の高速度で衝突させることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のアルミ合金用の耐酸化性皮膜を形成する方法は、アルミ合金の表面に耐酸化性皮膜を形成する方法であって、鉄合金の粉末粒子を、加熱された圧縮空気中に吸引して加熱し、前記アルミ合金の表面に200m/sec以上であって350m/sec以下の高速度で衝突させることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のチタンアルミ合金用の耐酸化性皮膜を形成する方法は、上記の特徴に加えて、前記アルミ合金がチタンアルミ合金であることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明のアルミ合金用の耐酸化性皮膜を形成する方法は、アルミ合金の表面に耐酸化性皮膜を形成する方法であって、100℃以上に加熱された空気中に吸引されて加熱された鉄合金の粒子を、前記アルミ合金の表面に160m/sec以上の高速度で衝突させることにより、前記表面に耐酸化性皮膜を形成することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明のチタンアルミ合金用の耐酸化性皮膜を形成する方法は、チタンアルミ合金の表面に耐酸化性皮膜を形成する方法であって、200℃以上であって450℃以下に加熱された空気中に吸引されて加熱された鉄合金の粒子を、前記チタンアルミ合金の表面に200m/sec以上であって350m/sec以下の高速度で衝突させることにより、前記表面に耐酸化性皮膜を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、チタンアルミ合金等のアルミ合金の耐酸化性を向上する皮膜の形成方法を提供するものであり、例えば自動車の過給機のロータ、エンジンバルブ、ピストンスカート等の各種部品に、軽量のチタンアルミ合金の使用を可能とするものであり、その結果、エンジン出力や燃費の向上に寄与するものである。本発明は、更に、ガスタービン、ジェットエンジン等に対しても同様の寄与をするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態は、チタンアルミ合金の基材表面に加熱された鉄合金の粒子を高速で吹きつけると、粒子は基材表面で跳ね返るが、その際の衝突エネルギーにより粒子の一部が基材中に拡散すると共に同時に酸化し、拡散層の皮膜を形成することにある。従来例の溶射の場合には、コールドスプレーの場合でも、溶射材料が基材表面に付着するのに対し、本発明では、基材に衝突した粒子が跳ね返る点で異なるものである。
【0020】
本発明の実施例を、以下、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る方法を実施する装置の一例と、被加工物となるチタンアルミ合金1の基材を示す説明図である。本発明で使用される鉄合金の粉末粒子は、HV500以上の硬度と40μm以下の粒径を有する球形の高速度鋼からなるものであり、ホッパー2に収納される。エアコンプレッサー3からの高圧空気は、ヒータ4を通過してノズル5に導入され、ホッパー内の鉄合金の粒子を連結管6を通じてノズル5に吸引してこれと混ざりながら、チタンアルミ合金1の基材の表面に衝突するようにノズル5から噴出される。この間に、高圧空気は、ヒータ4において加熱され、吸引された鉄合金の粒子は、加熱された空気と混ざり合うことにより、加熱されて基材に衝突する。そして、鉄合金の粒子は、基材に衝突して跳ね返るが、その衝突の際の衝撃エネルギーにより粒子の一部が基材の表面に拡散すると共に同時に酸化して、皮膜を形成する。
【0021】
試験片の基材には、表1に示す化学組成を有するチタンアルミニウム合金の20×10×2mmを用いた。また、鉄合金の粒子としては、高速度鋼の平均粒径20μm以下のものを使った。表2はその化学組成を、表3はその粒度分布を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
試験は、ロボットに図1のノズルを持たせて、5mm/sの速度により2mmピッチで基材の上を移動させた。粉末の送り速度は3g/sであり、ノズル先端の基材とのオフセット距離は20mmとした。圧縮空気の圧力は、1MPa以下であり、ノズルから噴出した空気流の温度と速度を変更するため、ヒータと圧力を適宜、調整した。
【0026】
処理後の試験片について、その表面からFE−AES(電界放射型オージェ電子分光法)により、深さ方向の元素分布を調査した。図2は、空気温度が400℃の場合の実験で得られた試験片の調査結果である。試験片の表面から約1.55μmの厚さの範囲に、FeとOが高く分布しており、鉄の酸化皮膜が形成されていることが示されている。この鉄酸化皮膜の厚さは、空気温度と衝突速度により変化する。
【0027】
空気温度と衝突速度を変えて処理して得られた多数の試験片について、セラミックるつぼの中に入れて電気加熱式炉による200時間の大気中酸化試験を行った。そして、試験終了後に酸化重量(るつぼごとに測定)を測定した。
【0028】
図3は、空気(エアー)温度に対する酸化増量を示している。空気温度が100℃以上となると、酸化重量が0.04g以下となって良好な耐酸化性を示しており、更に、200〜450℃の温度において、酸化重量が0.01g以下となって最も良好な耐酸化性を示している。なお、図3のグラフを作成するために使用された試験片は、200〜350m/sの粒子速度で得られたものである。
【0029】
図4は、粒子の飛行速度に対する酸化増量を示している。粒子の飛行速度が160m/sec以上となると、酸化重量が0.04g以下となって良好な耐酸化性を示しており、更に、200〜350m/sの飛行速度において、酸化重量が0.01g以下となって最も良好な耐酸化性を示している。なお、図4のグラフを作成するために使用された試験片は、300〜400℃の空気温度で得られたものである。
【0030】
図5は、本発明の方法により、空気温度300℃と粒子速度300m/sの条件で処理した試験片と未処理の試験片について、高温酸化試験を行い、25時間毎の酸化増量を示したグラフである。本発明の方法で処理した試験片の酸化増量は、200時間経過においても大きな変化はなく、未処理の試験片と比較して大きな差異が発生しているが、目視でも著しい差異が観察された。
【0031】
図6は、種々の処理法により得られた七つの試験片について、上記と同じ酸化試験を行い、100時間経過後の酸化増量を比較した。比較例として取り上げたものの中で、ニッケルクロム粉末を使用したもの、酸化アルミニウムを溶射したもの、ニッケルクロムアルミニウムのスパッタリングのものの三つでは、未処理のものと比較して、酸化増量がより大きい結果となった。インコネル713スパッタリングのものでは、未処理のものより酸化増量が小さかったが、スパッタリング層が剥離して本発明の酸化増量と比較するとかなり大きい酸化増量を示した。シリコン(Si)−ニオブ(Nb)イオン注入のものでも、未処理のものより酸化増量が小さかったが、改質層を薄くしか形成できず、本発明の酸化増量と比較するとかなり大きい値を示した。以上の比較例に対し、本発明の方法で処理した試験片の酸化増量は、格段に低い酸化増量を示し、優れた耐酸化性を有することを証明した。
【0032】
なお、以上の実施例は、基材として、チタンアルミ合金を用いたが、その他のアルミ合金に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明に係る方法を実施するための装置の一実施例を示す。
【図2】図2は、本発明に係る方法による試験片のFE−AES法による分析結果を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明に係る方法による試験片の試験結果について空気温度に対する酸化増量の関係を示したグラフである。
【図4】図4は、本発明に係る方法による試験片の試験結果についての粒子飛行速度に対する酸化増量の関係を示したグラフである。
【図5】図5は、高温酸化試験の試験結果についての炉中保持時間に対する酸化増量の関係を示す。
【図6】図6は、処理法の異なる試験片についての酸化増量を示す。
【符号の説明】
【0034】
1 基材
2 ホッパー
3 エアー・コンプレッサー
4 ヒータ
5 ノズル
6 連結管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ合金の表面に酸化耐性皮膜を形成する方法であって、
鉄合金の粉末粒子を、100℃以上に加熱された圧縮空気中に吸引して加熱し、前記アルミ合金の表面に高速度で衝突させることにより、前記表面に酸化耐性皮膜を形成することを特徴とするアルミ合金用の酸化耐性皮膜を形成する方法。
【請求項2】
アルミ合金の表面に酸化耐性皮膜を形成する方法であって、
鉄合金の粉末粒子を、200℃以上であって450℃以下に加熱された圧縮空気中に吸引して加熱し、前記アルミ合金の表面に高速度で衝突させることにより、前記表面に酸化耐性皮膜を形成することを特徴とするアルミ合金用の酸化耐性皮膜を形成する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された方法において、
前記アルミ合金がチタンアルミ合金であることを特徴とするチタンアルミ合金用の酸化耐性皮膜を形成する方法。
【請求項4】
アルミ合金の表面に酸化耐性皮膜を形成する方法であって、
鉄合金の粉末粒子を、加熱された圧縮空気中に吸引して加熱し、前記アルミ合金の表面に160m/sec以上の高速度で衝突させることを特徴とするアルミ合金用の酸化耐性皮膜を形成する方法。
【請求項5】
アルミ合金の表面に酸化耐性皮膜を形成する方法であって、
鉄合金の粉末粒子を、加熱された圧縮空気中に吸引して加熱し、前記アルミ合金の表面に200m/sec以上であって350m/sec以下の高速度で衝突させることを特徴とするアルミ合金用の酸化耐性皮膜を形成する方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載された方法において、
前記アルミ合金がチタンアルミ合金であることを特徴とするチタンアルミ合金用の酸化耐性皮膜を形成する方法。
【請求項7】
アルミ合金の表面に酸化耐性皮膜を形成する方法であって、
100℃以上に加熱された空気中に吸引されて加熱された鉄合金の粒子を、前記アルミ合金の表面に160m/sec以上の高速度で衝突させることにより、前記表面に酸化耐性皮膜を形成することを特徴とするアルミ合金用の酸化耐性皮膜を形成する方法。
【請求項8】
チタンアルミ合金の表面に酸化耐性皮膜を形成する方法であって、
200℃以上であって450℃以下に加熱された空気中に吸引されて加熱された鉄合金の粒子を、前記チタンアルミ合金の表面に200m/sec以上であって350m/sec以下の高速度で衝突させることにより、前記表面に酸化耐性皮膜を形成することを特徴とするチタンアルミ合金用の酸化耐性皮膜を形成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−7594(P2009−7594A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167536(P2007−167536)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】