説明

チタン酸アルミニウム系焼成体の製造方法

【課題】焼成時における収縮率(焼成収縮率)を低く抑えることができるとともに、耐熱分解性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックスからなる焼成体を製造し得る方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末およびマグネシウム源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成する工程を備え、該チタニウム源粉末が、レーザ回折法により測定される粒径分布において、体積基準で、下記式(1)および(2):
(V0.5-3+V15-75)/Vtotal≧0.7 (1)
1/2≦V15-75/V0.5-3≦3/2 (2)
を満たすチタン酸アルミニウム系焼成体の製造方法である。式中、V0.5-3は粒径0.5〜3μmの累積頻度、V15-75は粒径15〜75μmの累積頻度、Vtotalは粒径0.1μm以上の累積頻度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルミニウム系セラミックスからなる焼成体の製造方法に関し、より詳しくは、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末およびマグネシウム源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成してチタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックスからなる焼成体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウム系セラミックスは、構成元素としてチタンおよびアルミニウムを含み、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムの結晶パターンを有するセラミックスであって、耐熱性に優れたセラミックスとして知られている。チタン酸アルミニウム系セラミックスは、従来からルツボのような焼結用の冶具などとして用いられてきたが、近年では、ディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出される排ガスに含まれる微細なカーボン粒子を捕集するためのセラミックスフィルターを構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0003】
チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法としては、チタニアなどのチタニウム源化合物の粉末およびアルミナなどのアルミニウム源化合物の粉末を含む原料混合物を焼成する方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかし、チタン酸アルミニウムは、これをアルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含む原料粉末または該原料粉末の成形体を焼成することにより調製する場合、焼成時に大きく収縮する、すなわち、焼成収縮率が高いという課題を有していた。焼成収縮率が高いと、焼成時に割れが発生しやすくなる。
【0005】
かかる課題を解決すべく、特許文献2には、特定の粒径分布特性を示すTiO2粉末、およびAl23粉末を含有する原料混合物をハニカム形状に成形し、該成形体を焼成することによりチタン酸アルミニウム質セラミックハニカム構造体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第05/105704号
【特許文献2】国際公開第08/078747号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
チタン酸アルミニウムの融点は1860℃と高く、上記のように、耐熱性に優れる一方、通常、800〜1200℃付近の温度で、アルミナ(Al23)とチタニア(TiO2)とに分解する挙動を示し、極めて耐熱分解性が低い材料であることが知られている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、焼成時における収縮率(焼成収縮率)を低く抑えることができるとともに、耐熱分解性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックスからなる焼成体を製造し得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末およびマグネシウム源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成する工程を備え、該チタニウム源粉末が、レーザ回折法により測定される粒径分布において、体積基準で、下記式(1)および(2)を満たす、チタン酸アルミニウム系焼成体の製造方法を提供する。
(V0.5-3+V15-75)/Vtotal≧0.7 (1)
1/2≦V15-75/V0.5-3≦3/2 (2)
ここで、上記式(1)および(2)中、V0.5-3は粒径0.5〜3μmの累積頻度、V15-75は粒径15〜75μmの累積頻度、Vtotalは粒径0.1μm以上の累積頻度である。
【0010】
また、本発明は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末およびマグネシウム源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成する工程を備え、該原料混合物中における、Al23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末とのモル比は、35:65〜45:55の範囲内であり、かつ、Al23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末との合計量に対する、MgO換算でのマグネシウム源粉末の量は、モル比で0.03〜0.15の範囲内であるチタン酸アルミニウム系焼成体の製造方法を提供する。
【0011】
本発明において、上記チタニウム源粉末は、レーザ回折法により測定される粒径分布において、体積基準で、上記式(1)および(2)を満たし、さらに、上記原料混合物中における、Al23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末とのモル比は、35:65〜45:55の範囲内であり、かつ、Al23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末との合計量に対する、MgO換算でのマグネシウム源粉末の量は、モル比で0.03〜0.15の範囲内であることが好ましい。
【0012】
上記原料混合物は、ケイ素源粉末をさらに含むことが好ましい。また、ケイ素源粉末は、長石あるいはガラスフリット、またはそれらの混合物であることが好ましく、さらにそれらが粉体であってもよい。
【0013】
上記原料混合物の成形体の形状としては、たとえばハニカム形状とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、焼成収縮率を低く抑えることができるとともに、耐熱分解性に優れるチタン酸アルミニウム系焼成体を製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、焼成収縮率が低減されるとともに、耐熱分解性、多孔性(細孔径、開気孔率)、曲げ強度および低熱膨張性に優れるチタン酸アルミニウム系焼成体を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例および比較例で用いた酸化チタンA〜Cの粒径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のチタン酸アルミニウム系焼成体は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末およびマグネシウム源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成することにより製造される。かかる原料混合物を用いて得られるチタン酸アルミニウム系焼成体は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなる焼成体である。
【0017】
本発明のチタン酸アルミニウム系焼成体の製造方法においては、上記原料混合物中の、Al23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末とMgO換算でのマグネシウム源粉末との量比(モル比)が適切に調整されており、かつ/または、チタニウム源粉末として特定の粒径分布特性を示すものを用いる。これにより、上記原料混合物の成形体の焼成時における焼成収縮率を十分に低く抑えることができるとともに、耐熱分解性に優れるチタン酸アルミニウム系焼成体を製造することが可能となる。また、かかる本発明の製造方法によれば、多孔性(細孔径、開気孔率)、曲げ強度および低熱膨張性にも優れるチタン酸アルミニウム系焼成体を製造することが可能である。
【0018】
アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末およびマグネシウム源粉末を含む原料混合物を用いてチタン酸アルミニウム系焼成体を製造する場合、過剰のアルミニウム源粉末またはチタニウム源粉末を原料混合物に含有させることにより、焼成収縮率を低減させることが可能である。しかしながら、この場合、チタン酸アルミニウム化反応に寄与しないアルミナまたはチタニアが、得られるチタン酸アルミニウム系焼成体に含有されることとなるため、耐熱分解性が低下してしまう。一方、原料混合物中におけるマグネシウム源粉末を増やすと、得られるチタン酸アルミニウム系焼成体の耐熱分解性が向上することが見出された。しかしながら、この場合、焼成収縮率が増加し、特に大型の焼成体を製造する場合、クラック(割れ)が発生し得る。
【0019】
本発明においては、焼成収縮率の低減とチタン酸アルミニウム系焼成体の耐熱分解性の向上とを両立させるべく、得られる焼成体がチタン酸アルミニウム化反応に寄与することなく残存した過剰分の原料成分を含まないか、または該原料成分ができるだけ少量となる範囲内において、チタニウム源粉末とともに、マグネシウム源粉末の原料混合物中における含有量(モル量)を増加させ、その分、アルミニウム源粉末の含有量(モル量)を減少させており、より具体的には、アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とマグネシウム源粉末との原料混合物中におけるモル比は、上記の関係を満たす。そして、焼成収縮率を十分に低減させるためには、用いるチタニウム源粉末が上記した特定の粒径分布特性(上記式(1)および(2)に示される特性)を有することが特に好ましい。また、上記式(1)および(2)に示される特性を示すチタニウム源粉末を用いることのみによっても、焼成収縮率の低減とともに、耐熱分解性の向上を図り得るが、アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とマグネシウム源粉末との原料混合物中におけるモル比を上記のように調整することが特に好ましい。以下、本発明のチタン酸アルミニウム系焼成体の製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0020】
本発明において用いられる原料混合物に含有されるアルミニウム源粉末は、チタン酸アルミニウム系焼成体を構成するアルミニウム成分となる化合物の粉末である。アルミニウム源粉末としては、たとえば、アルミナ(酸化アルミニウム)の粉末が挙げられる。アルミナの結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。なかでも、α型のアルミナが好ましく用いられる。
【0021】
本発明で用いられるアルミニウム源粉末は、単独で空気中で焼成することによりアルミナに導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、たとえばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0022】
アルミニウム塩は、無機酸との無機塩であってもよいし、有機酸との有機塩であってもよい。アルミニウム無機塩として具体的には、たとえば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム硝酸塩;炭酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、たとえば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0023】
また、アルミニウムアルコキシドとして具体的には、たとえば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0024】
水酸化アルミニウムの結晶型としては、たとえば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、たとえば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどのような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物も挙げられる。
【0025】
上記のなかでも、アルミニウム源粉末としては、アルミナ粉末が好ましく用いられ、より好ましくは、α型のアルミナ粉末である。なお、アルミニウム源粉末は、その製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0026】
アルミニウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、通常、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が10〜50μmの範囲内であるものが用いられ、焼成収縮率をより低減させ、耐熱分解性により優れた小さいチタン酸アルミニウム系焼成体を得るためには、D50が15〜40μmの範囲内であるアルミニウム源粉末を用いることが好ましい。
【0027】
上記原料混合物に含有されるチタニウム源粉末は、チタン酸アルミニウム系セラミックスを構成するチタン成分となる化合物の粉末であり、かかる化合物としては、たとえば酸化チタンの粉末が挙げられる。酸化チタンとしては、たとえば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)の結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。より好ましくは、アナターゼ型、ルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0028】
本発明で用いられるチタニウム源粉末は、単独で空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、たとえば、チタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属などが挙げられる。
【0029】
チタニウム塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタニウムアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0030】
上記のなかでも、チタニウム源粉末としては、酸化チタン粉末が好ましく用いられ、より好ましくは、酸化チタン(IV)粉末である。なお、チタニウム源粉末は、その製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0031】
ここで、本発明においては、チタニウム源粉末として、レーザ回折法による粒径分布において、体積基準で、下記式(1)および(2)を満たすチタニウム源粉末を用いることが好ましい。
(V0.5-3+V15-75)/Vtotal≧0.7 (1)
1/2≦V15-75/V0.5-3≦3/2 (2)
上記式(1)および(2)中、V0.5-3は粒径0.5〜3μmの累積頻度、V15-75は粒径15〜75μmの累積頻度、Vtotalは粒径0.1μm以上の累積頻度である。
【0032】
上記式(1)は、粒径が0.5〜3μmの範囲内である粒子と、粒径が15〜75μmの範囲内である粒子との合計量が、粒子全体(粒径0.1μm以上の粒子)に対して、体積基準で0.7以上であることを意味する。このように、用いるチタニウム源粉末を、粒径が0.5〜3μmの範囲内である粒子と、粒径が15〜75μmの範囲内である粒子とから主に構成することにより、原料混合物の成形体の焼成収縮率を十分に低減させることが可能となる。これは、焼成に供される原料混合物の成形体中の原料粉末の充填性が向上するためである。そして、このような充填性の向上が達成されるためには、単に、用いるチタニウム源粉末がバイモーダルな粒径分布を示すのみでは足らず、上記式(1)および(2)を満たすことが特に好ましい。上記式(1)における(V0.5-3+V15-75)/Vtotalは、好ましくは0.8以上である。
【0033】
上記式(1)を満たすチタニウム源粉末としては、典型的には、レーザ回折法により測定される粒径分布曲線において、粒径0.5〜3μmの範囲内に極大を有する第1のピークと、粒径15〜75μmの範囲内に極大を有する第2のピークを有しており、これら2つのピークを構成する粒子の割合が、粒子全体(粒径0.1μm以上の粒子)に対して、体積基準で0.7以上であるチタニウム源粉末を挙げることができる。このような粒径分布を示すチタニウム源粉末は、たとえば、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜3μmの範囲内であるチタニウム源粉末と、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が15〜75μmの範囲内であるチタニウム源粉末とを混合することにより得ることができる。体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜3μmの範囲内であるチタニウム源粉末、および、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が15〜75μmの範囲内であるチタニウム源粉末は、それぞれ、レーザ回折法により測定される粒径分布曲線において、粒径0.5〜3μmの範囲内に極大を有する1つのピーク、粒径15〜75μmの範囲内に極大を有する1つのピークを有するものであることが好ましい。また、上記粒径分布を示すチタニウム源粉末を得る方法としては、上記以外に、たとえば、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が15〜75μmの範囲内であるチタニウム源粉末を、所定時間、解砕する方法などを挙げることができる。
【0034】
本発明に用いるチタニウム源粉末は、レーザ回折法により測定される粒径分布曲線において、上記第1のピークおよび第2のピーク以外のピークをさらに有していてもよいが、焼成収縮率をより効果的に低減させるためには、チタニウム源粉末は、上記第1のピークおよび第2のピークのみを有していることが好ましい。すなわち、本発明において用いられるチタニウム源粉末は、バイモーダルな粒径分布を示すものであることが好ましい。
【0035】
また、レーザ回折法による粒径分布における粒径15〜75μmの累積頻度と粒径0.5〜3μmの累積頻度との比(体積基準)V15-75/V0.5-3、すなわち、チタニウム源粉末を構成する、粒径が15〜75μmの範囲内である粒子と粒径が0.5〜3μmの範囲内である粒子との体積比は、上記式(2)に示されるように、1/2〜3/2とされ、好ましくは1/2〜1/1である。当該累積頻度の比が1/2未満であるか、または3/2を超えると、焼成収縮率を十分に低減させることができない傾向にある。これは、1/2未満となると、粒子同士の焼結が顕著になり、また、3/2を超えると、粒子同士の隙間が大きくなるためと考えられる。上記累積頻度のV15-75/V0.5-3は、チタニウム源粉末を、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が15〜75μmの範囲内であるチタニウム源粉末と、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜3μmの範囲内であるチタニウム源粉末とを混合することにより得る場合、これらの混合比を調整することにより調整することができる。
【0036】
上記式(1)および(2)を満たすチタニウム源粉末を用いると、原料混合物の成形体の焼成によるチタン酸アルミニウム化反応において、チタニア粒子がアルミナ粒子を取り囲むように存在し、アルミナ粒子が大きく移動することなく、当該反応が速やかに進行するため、良好な細孔構造(細孔径、開気孔率など)を有し、強度の高い焼成体を得ることが可能となる。また、良好な細孔特性を示す一方、緻密な焼成体を得ることができるため、得られるチタン酸アルミニウム系焼成体は、小さな熱膨張係数を示す。
【0037】
本発明において、上記原料混合物中におけるAl23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末とのモル比は、35:65〜45:55の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは40:60〜45:55の範囲内である。このような範囲内で、チタニウム源粉末をアルミニウム源粉末に対して過剰に用いることにより、原料混合物の成形体の焼成収縮率を低減させることが可能となる。本発明では、上述したように、このようなアルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とのモル比の調整とともに、特定の粒径分布特性を有するチタニウム源粉末の使用により、とりわけ十分に低い焼成収縮率を達成することができる。
【0038】
また、上記原料混合物に含有されるマグネシウム源粉末としては、マグネシア(酸化マグネシウム)の粉末のほか、単独で空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物の粉末が挙げられる。後者の例としては、たとえば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
【0039】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロりん酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0040】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。なお、マグネシウム源粉末は、その製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0041】
マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物の粉末を用いることもできる。このような化合物としては、たとえば、マグネシアスピネル(MgAl24)が挙げられる。なお、マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物の粉末を用いる場合、アルミニウム源粉末のAl23(アルミナ)換算量、および、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物粉末に含まれるAl成分のAl23(アルミナ)換算量の合計量と、チタニウム源粉末のTiO2(チタニア)換算量とのモル比が、原料混合物中において上記範囲内となるように調整される。
【0042】
マグネシウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、通常、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜30μmの範囲内であるものが用いられ、焼成収縮率をより低減させ、耐熱分解性により優れた小さいチタン酸アルミニウム系焼成体を得るためには、D50が3〜20μmの範囲内であるマグネシウム源粉末を用いることが好ましい。
【0043】
原料混合物中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源粉末の含有量は、Al23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量に対して、モル比で、0.03〜0.15とすることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.12である。マグネシウム源粉末の含有量をこの範囲内に調整することにより、チタン酸アルミニウム系焼成体の耐熱分解性をより向上させることができる。
【0044】
また、上記原料混合物は、ケイ素源粉末をさらに含有していてもよい。ケイ素源粉末は、シリコン成分となってチタン酸アルミニウム系焼成体に含まれる化合物の粉末であり、ケイ素源粉末の併用により、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム系焼成体を得ることが可能となる。ケイ素源粉末としては、たとえば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素(シリカ)の粉末が挙げられる。
【0045】
また、ケイ素源粉末は、単独で空気中で焼成することによりシリカに導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、たとえば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリットなどが挙げられる。なかでも、長石、ガラスフリットなどが好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリットなどがより好ましく用いられる。なお、ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。
【0046】
ガラスフリットを用いる場合、得られるチタン酸アルミニウム系焼成体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、屈伏点が700℃以上のものを用いることが好ましい。本発明において、ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analyisis)を用いて、低温からガラスフリットの膨張を測定し、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0047】
上記ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸〔SiO2〕を主成分(全成分中50質量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ〔Al23〕、酸化ナトリウム〔Na2O〕、酸化カリウム〔K2O〕、酸化カルシウム〔CaO〕、マグネシア〔MgO〕等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrO2を含有していてもよい。
【0048】
ケイ素源粉末の粒径は、特に限定されないが、通常、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜30μmの範囲内であるものが用いられ、原料混合物の成形体の充填率をより向上させるためには、D50が1〜20μmの範囲内であるケイ素源粉末を用いることが好ましい。
【0049】
原料混合物がケイ素源粉末を含む場合、原料混合物中におけるケイ素源粉末の含有量は、Al23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量100質量部に対して、SiO2(シリカ)換算で、通常0.1質量部〜10質量部であり、好ましくは5質量部以下である。なお、ケイ素源粉末は、その製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0050】
なお、本発明では、上記マグネシアスピネル(MgAl24)などの複合酸化物のように、チタニウム、アルミニウム、ケイ素およびマグネシウムのうち、2つ以上の金属元素を成分とする化合物を原料粉末として用いることができ、この場合、そのような化合物は、それぞれの金属源化合物を混合した原料混合物と同じであると考えることができ、このような考えに基づき、原料混合物中におけるアルミニウム源原料、チタニウム源原料、マグネシウム源原料およびケイ素源原料の含有量が上記範囲内に調整される。
【0051】
また、原料混合物にはチタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウム自体が含まれていてもよく、たとえば、原料混合物の構成成分としてチタン酸アルミニウムマグネシウムを使用する場合、該チタン酸アルミニウムマグネシウムは、チタニウム源、アルミニウム源およびマグネシウム源を兼ね備えた原料に相当する。
【0052】
本発明においては、上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末およびマグネシウム源粉末、ならびに任意で使用されるケイ素源粉末を含む原料混合物を成形して成形体を得た後、当該成形体を焼成することにより、チタン酸アルミニウム系焼成体を得る。成形してから焼成を行なうことにより、原料混合物を直接焼成する場合と比較して、焼成中の収縮を抑えることができることから、得られるチタン酸アルミニウム系焼成体の割れをより効果的に抑制でき、また、焼成により生成した多孔質性のチタン酸アルミニウム結晶の細孔形状が維持されたチタン酸アルミニウム系焼成体を得ることができる。成形体の形状は特に制限されないが、たとえば、ハニカム形状、棒状、チューブ状、板状、るつぼ形状等を挙げることができる。
【0053】
原料混合物の成形に用いる成形機としては、一軸プレス、押出成形機、打錠機、造粒機などが挙げられる。押出し成形を行なう際には、原料混合物に、たとえば、造孔剤、バインダ、潤滑剤および可塑剤、分散剤、ならびに溶媒などの添加剤を添加して成形することができる。
【0054】
上記造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物系材料;氷;およびドライアイス等などが挙げられる。造孔剤の添加量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、0〜40質量部であり、好ましくは0〜25質量部である。
【0055】
上記バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩などの塩;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックス;EVA、ポリエチレン、ポリスチレン、液晶ポリマー、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。バインダの添加量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、20質量部以下であり、好ましくは15質量部以下である。
【0056】
上記潤滑剤および可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸Alなどのステアリン酸金属塩などが挙げられる。潤滑剤および可塑剤の添加量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、0〜10質量部であり、好ましくは1〜5質量部である。
【0057】
上記分散剤としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどの界面活性剤などが挙げられる。分散剤の添加量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、0〜20質量部であり、好ましくは2〜8質量部である。
【0058】
また、上記溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;および水などを用いることができる。なかでも、水が好ましく、不純物が少ない点で、より好ましくはイオン交換水が用いられる。溶媒の使用量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、10質量部〜100質量部、好ましくは20質量部〜80質量部である。
【0059】
成形に供される原料混合物は、上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ならびに任意で使用されるケイ素源粉末、および上記の各種添加剤を混合(混練)することにより得ることができる。
【0060】
成形体の焼成における焼成温度は、通常、1300℃以上、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常、1650℃以下、好ましくは1550℃以下である。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。ケイ素源粉末を用いる場合には、焼成工程の前に、1100〜1300℃の温度範囲で3時間以上保持する工程を設けることが好ましい。これにより、ケイ素源粉末の融解、拡散を促進させることができる。原料混合物がバインダ等の添加燃焼性有機物を含む場合、焼成工程には、これを除去するための仮焼(脱脂)工程が含まれる。脱脂は、典型的には、焼成温度に至るまでの昇温段階(たとえば、150〜400℃の温度範囲)になされる。脱脂工程おいては、昇温速度を極力おさえることが好ましい。
【0061】
焼成は通常、大気中で行なわれるが、用いる原料粉末、すなわちアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびシリカ源粉末の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0062】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0063】
焼成に要する時間は、原料混合物の成形体がチタン酸アルミニウム系結晶に遷移するのに十分な時間であればよく、原料混合物の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0064】
以上のようにして、目的のチタン酸アルミニウム系焼成体を得ることができる。このようなチタン酸アルミニウム系焼成体は、成形直後の成形体の形状をほぼ維持した形状を有する。得られたチタン酸アルミニウム系焼成体は、研削加工等により、所望の形状に加工することもできる。
【0065】
本発明により得られるチタン酸アルミニウム系焼成体は、たとえば、ルツボ、セッター、コウ鉢、炉材などの焼成炉用冶具;ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどの内燃機関の排気ガス浄化に用いられる排ガスフィルターや、触媒担体、ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルター、石油精製時に生じるガス成分、たとえば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素などを選択的に透過させるための選択透過フィルターなどのセラミックスフィルター;基板、コンデンサーなどの電子部品などに好適に適用することができる。なかでも、セラミックスフィルターなどとして用いる場合、本発明のチタン酸アルミニウム系焼成体は、耐熱分解性に優れることから、良好なフィルター性能を長期にわたって維持することができる。
【0066】
本発明により得られるチタン酸アルミニウム系焼成体は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶パターンのほか、アルミナ、チタニアなどの結晶パターンを含んでいてもよい。なお、本発明のチタン酸アルミニウム系焼成体は、組成式:Al2(1−x)MgxTi(1+x)5で表すことができ、xの値は0.03以上であり、好ましくは0.03以上0.15以下、より好ましくは0.03以上0.12以下である。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例および比較例における原料混合物の成形体の焼成収縮率、チタン酸アルミニウム系焼成体のチタン酸アルミニウム化率(AT化率)、耐熱分解率、三点曲げ強度、熱膨張係数、細孔径、開気孔率、および用いた原料粉末の粒度分布は、下記方法により測定した。
【0068】
(1)焼成収縮率
焼成前(押し出し成形後)のハニカム形状の成形体と、焼成後の成形体の押し出し断面方向(成形体における押し出し方向とは垂直な方向の断面)の長さ(隔壁ピッチ幅)を、それぞれ5点測定し、それらの値を平均することに得られる焼成前の平均長さおよび焼成後の平均長さから、下記式:
焼成収縮率(%)={1−(焼成後の平均長さ)/(焼成前の平均長さ)}×100
に基づき焼成収縮率を算出した。
【0069】
(2)AT化率
チタン酸アルミニウム化率(AT化率)は、粉末X線回折スペクトルにおける2θ=27.4°の位置に現れるピーク〔チタニア・ルチル相(110)面〕の積分強度(IT)と、2θ=33.7°の位置に現れるピーク〔チタン酸アルミニウムマグネシウム相(230)面〕の積分強度(IAT)とから、下記式:
AT化率=IAT/(IT+IAT)×100(%)
により算出した。
【0070】
(3)耐熱分解率
得られたチタン酸アルミニウム系焼成体から、約4mm×4mm×50mmの試験片を切り出した。ついで、この試験片に対して、300℃/hの昇温速度で1100℃まで昇温し、同温度で48時間保持した後、300℃/hの降温速度で室温まで冷却する熱処理を施した。当該熱処理を行なう前のAT化率R0(%)と熱処理を行なった後のAT化率R(%)を上記方法により測定し、熱処理による焼成体中のチタンアルミニウムマグネシウム結晶の減少率として、下記式:
耐熱分解率(%)=(R/R0)×100
に基づき、耐熱分解率を求めた。
【0071】
(4)三点曲げ強度
チタン酸アルミニウム系焼成体から、原料混合物の押し出し成形時の押出し方向に長さ50mm、幅5mm、厚さ5mm程度の直方体形状に切り出した。この切り出した焼成体の外表面を紙やすり(#1500)を用いて凹凸がなくなるまで研磨した。得られたサンプルの三点曲げ強度を、JIS R 1601に準拠した方法により測定した。
【0072】
(5)熱膨張係数
チタン酸アルミニウム系焼成体から、約4mm×4mm×10mmの試験片を切り出した。ついで、この試験片に対して、200℃/hの昇温速度で1000℃まで昇温し、直ちに室温(25℃)まで冷却する熱処理を施した。熱処理を施した試験片について、熱機械的分析装置(SIIテクノロジー(株)製 TMA6300)を用いて、室温(25℃)から1000℃まで600℃/hで昇温させた際の試験片の膨張率から、下記式:
熱膨張係数〔K-1〕=試験片の膨張率/975〔K〕
に基づき、熱膨張係数〔K-1〕を算出した。
【0073】
ここで、試験片の膨張率とは、
(1000℃まで昇温させたときの試験片の体積−昇温前(25℃)における試験片の体積)/(昇温前(25℃)における試験片の体積)
を意味する。
【0074】
(6)細孔径
0.4gの焼成体を砕き、得られた約2mm角の小片を、120℃で4時間、空気中で、電気炉を用いて乾燥させた後、水銀圧入法により、細孔半径測定範囲0.001〜100.0μmまで測定し、頻度の最大値を示す細孔半径を得た。この細孔半径を2倍した値を細孔径(モード径)とした。測定装置には、Micromeritics社製の「オートポアIII9420」を用いた。
【0075】
(7)開気孔率
JIS R1634に準拠した、水中浸漬によるアルキメデス法により、焼成体の水中重量M2(g)、飽水重量M3(g)および乾燥重量M1(g)を測定し、下記式:
開気孔率(%)=100×(M3−M1)/(M3−M2)
により開気孔率を算出した。
【0076】
(8)原料粉末の粒度分布
原料粉末の、粒径分布および体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)は、レーザ回折式粒度分布測定装置〔日機装社製「Microtrac HRA(X−100)」〕を用いて測定した。
【0077】
<実施例1>
原料粉末として以下のものを用いた。なお、各原料粉末の「質量%」は、原料粉末(アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末)の合計量を100質量%としたときの値である。下記の原料粉末の仕込み組成は、アルミナ〔Al23〕、チタニア〔TiO2〕、マグネシア〔MgO〕およびシリカ〔SiO2〕換算のモル比で、〔Al23〕/〔TiO2〕/〔MgO〕/〔SiO2〕=34.3%/50.2%/9.4%/6.1%である。
(1)アルミニウム源粉末
D50が33μmの酸化アルミニウム粉末(α−アルミナ粉末) 28質量%、
(2)チタニウム源粉末
下記表1および図1に示される粒径分布を有するD50が1.8μmの酸化チタンA(ルチル型結晶) 48質量%、
(3)マグネシウム源粉末
D50が5.5μmのマグネシアスピネル粉末 18質量%、
(4)ケイ素源粉末
D50が8.5μmのガラスフリット(タカラスタンダード社製「CK0832」) 6質量%。
【0078】
上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末からなる混合物に、該混合物100質量部に対して、バインダとしてメチルセルロース 7.5質量部、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル 9.3質量部、および、潤滑剤としてグリセリン 0.8質量部を加え、さらに、分散媒として水を38質量部加えた後、混練機を用いて混練することにより、坏土(成形用原料混合物)を調製した。ついで、この坏土を押し出し成形することにより、ハニカム形状の成形体を作製した。得られた成形体を、大気雰囲気下で、バインダを除去する仮焼(脱脂)工程を含む焼成を行ない、ハニカム形状の多孔質焼成体(ハニカム構造体)を得た。焼成時の最高温度は、1450℃とし、最高温度での保持時間は5時間とした。
【0079】
得られた多孔質焼成体を乳鉢にて解砕し、粉末X線回折法により、得られた粉末の回折スペクトルを測定したところ、この粉末は、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶ピークを示した。この粉末のAT化率を求めたところ、100%であった。表2に、ハニカム形状の成形体の焼成収縮率、得られたチタン酸アルミニウム系焼成体のAT化率、耐熱分解率、三点曲げ強度、熱膨張係数、細孔径および開気孔率を示す。
【0080】
<比較例1>
以下の原料粉末および添加剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてハニカム形状の多孔質焼成体を得た。なお、各原料粉末、添加剤の「質量%」は、原料粉末(アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末)および添加剤の合計量を100質量%としたときの値である。下記の原料粉末の仕込み組成は、実施例1と同じく、アルミナ〔Al23〕、チタニア〔TiO2〕、マグネシア〔MgO〕およびシリカ〔SiO2〕換算のモル比で、〔Al23〕/〔TiO2〕/〔MgO〕/〔SiO2〕=34.3%/50.2%/9.4%/6.1%である。
(1)アルミニウム源粉末
D50が33μmの酸化アルミニウム粉末(α−アルミナ粉末) 24質量%、
D50が1.0μmの水酸化アルミニウム粉末 1.5質量%、
(2)チタニウム源粉末
下記表1および図1に示される粒径分布を有するD50が14.2μmの酸化チタンB(ルチル型結晶) 43質量%、
(3)マグネシウム源粉末
D50が5.5μmのマグネシアスピネル粉末 16質量%、
(4)ケイ素源粉末
D50が8.5μmのガラスフリット(タカラスタンダード社製「CK0832」) 5.5質量%、
(5)造孔剤
D50が23μmのポリエチレン粉末 10質量%。
【0081】
得られた多孔質焼成体を乳鉢にて解砕し、粉末X線回折法により、得られた粉末の回折スペクトルを測定したところ、この粉末は、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶ピークを示した。この粉末のAT化率を求めたところ、100%であった。表2に、ハニカム形状の成形体の焼成収縮率、得られたチタン酸アルミニウム系焼成体のAT化率、耐熱分解率、熱膨張係数、細孔径および開気孔率を示す。なお、三点曲げ強度については、得られた多孔質焼成体から三点曲げ強度測定用のサンプルを調製する際、焼成体の外表面を研磨する工程において破断したため、測定不可能であった(表2において「−」で示している)。
【0082】
<比較例2>
以下の原料粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてハニカム形状の多孔質焼成体を得た。下記の原料粉末の仕込み組成は、実施例1と同じく、アルミナ〔Al23〕、チタニア〔TiO2〕、マグネシア〔MgO〕およびシリカ〔SiO2〕換算のモル比で、〔Al23〕/〔TiO2〕/〔MgO〕/〔SiO2〕=34.3%/50.2%/9.4%/6.1%である。
(1)アルミニウム源粉末
D50が33μmの酸化アルミニウム粉末(α−アルミナ粉末) 28質量%、
(2)チタニウム源粉末
下記表1および図1に示される粒径分布を有するD50が34.4μmの酸化チタンC(ルチル型結晶) 48質量%、
(3)マグネシウム源粉末
D50が5.5μmのマグネシアスピネル粉末 18質量%、
(4)ケイ素源粉末
D50が8.5μmのガラスフリット(タカラスタンダード社製「CK0832」) 6質量%。
【0083】
得られた多孔質焼成体を乳鉢にて解砕し、粉末X線回折法により、得られた粉末の回折スペクトルを測定したところ、この粉末は、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶ピークを示した。この粉末のAT化率を求めたところ、100%であった。表2に、ハニカム形状の成形体の焼成収縮率、得られたチタン酸アルミニウム系焼成体のAT化率、耐熱分解率、三点曲げ強度、熱膨張係数、細孔径および開気孔率を示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末およびマグネシウム源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成する工程を備え、
前記チタニウム源粉末は、レーザ回折法により測定される粒径分布において、体積基準で、下記式(1)および(2)を満たすチタン酸アルミニウム系焼成体の製造方法。
(V0.5-3+V15-75)/Vtotal≧0.7 (1)
1/2≦V15-75/V0.5-3≦3/2 (2)
(式中、V0.5-3は粒径0.5〜3μmの累積頻度、V15-75は粒径15〜75μmの累積頻度、Vtotalは粒径0.1μm以上の累積頻度である。)

【図1】
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【公開番号】特開2012−20928(P2012−20928A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182400(P2011−182400)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【分割の表示】特願2008−315945(P2008−315945)の分割
【原出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】