説明

チップキットの操作方法

【課題】 プローブ担持粒子と検体との反応性、プローブ粒子からの未反応検体の除去性能、プローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能の少なくとも1つを向上させることができるチップキットの操作方法を提供すること。
【解決手段】 複数のウエル21が形成され、そのウエル21の底部に均一な孔径を有する細孔22が一定間隔で形成されたフィルタ23が設けたチップ20を保持・収容するチップホルダ11内を密閉した状態で、チップホルダ11内を減圧して負圧にし(S33)、洗浄液をチップホルダ11内に導入して、フィルタ18を洗浄液中に浸積する(S34)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップキット内でプローブ担持粒子と検体とを反応させたり、反応後のプローブ担持粒子から標的物質を分離するためのチップキットの操作方法に関する。さらに詳細には、チップキット内の溶液の攪拌性を向上させることができるチップキットの操作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトの遺伝子を初めとして、多数の遺伝子構造が明らかにされている。このような遺伝子構造の解析には、DNAマイクロアレイなどのバイオチップが用いられている。そして、バイオチップを活用して、病気の診断や治療に役立てようとする試みがなされている。
【0003】
このようなバイオチップでは、例えば、特表2000−515066号公報に開示されているノズルチップを利用して溶液と検体とを反応させたものを、ターゲットプレート(8×12=96ウエル)の各ウエルにスポットティングする。より具体的には、図15に示すようなノズルチップ100を利用して溶液と検体とを反応させたものを、図16に示すようなターゲットプレート(8×12=96ウエル)110の各ウエルにスポットティングすることにより製造されている。なお、図15は、ノズルチップの概略構成を示す断面図である。図16は、ターゲットプレートの斜視図である。
【0004】
ここで、ノズルチップ(例えば、日本ミリポア株式会社製「ZipTip」)100には、図15に示すように、先端に小孔101が形成されたノズル部102にシリカビーズ(直径15μm程度)103が内蔵されたスポンジ(綿)104が備わっている。また、ノズルチップ100の容量は、10μL程度である。
【0005】
そして、上記のノズルチップ100をチップハンドラ(例えば、バイオテック株式会社製「Target Plate Spotter」)にて処理することにより、バイオチップが製造されている。以下にその手順を図17〜図21を参照しながら説明する。図17は、ノズルチップの洗浄工程(反応前)を説明するための説明図である。図18は、シリカビーズにプローブDNAを付着させる付着工程を説明するための説明図である。図19は、プローブDNAに特定病原因DNAを捕獲させる捕獲工程を説明するための説明図である。図20は、ノズルチップの洗浄工程(反応後)を説明するための説明図である。図21は、シリカビーズからプローブDNAを分離する分離工程を説明するための説明図である。
【0006】
まず、図17に示すように、ノズルチップ100の小孔101から水Wを吸引・排出してノズルチップ100内を洗浄する。これにより、スポンジ104内に存在するゴミなどの不純物が洗い流される。
【0007】
次いで、特定病原因DNAを補足するための吸着試薬(プローブDNA)をノズルチップ100の小孔101から吸引して、図18に示すように、ノズルチップ100内のシリカビーズ103にプローブDNA5を付着させる。なお、吸着試薬(プローブDNA)の吸引は複数回繰り返して行われる。シリカビーズ103に対するプローブDNA5の付着確率を向上させるためである。なお、この工程において、ゴミなどの不純物7がノズルチップ100内のスポンジ104に混入する場合がある。
【0008】
続いて、被検者の血清(組織試料)をノズルチップ100の小孔101から吸引して、図19に示すように、プローブDNA5に特定病原因DNA6を捕獲させる(抗原・抗体反応)。この場合も、血清の吸引は複数回繰り返して行われる。プローブDNA5が特定病原因DNA6を捕獲する確率を向上させるためである。
【0009】
その後、図20に示すように、ゴミなどの不純物7を除去するために、ノズルチップ100の小孔101から水を吸引・排出してノズルチップ100内を洗浄する。そして、プローブDNA5をシリカビーズ103から分離するための分離試薬をノズルチップ100の小孔101から吸引する。この分離試薬の作用により、図21に示すように、プローブDNA5とシリカビーズ103とが分離される。この場合にも、分離試薬の吸引は複数回繰り返して行われる。プローブDNA5とシリカビーズ103とを確実に分離するためである。
【0010】
そして、ノズルチップ100から、特定病原因DNA(プローブDNAに補足された状態のもの)6をターゲートプレート110のウエルにスポットティングする。その後、上記した処理を繰り返し行い、特定病原因DNA(プローブDNAに補足された状態のもの)6をターゲットプレート110の各ウエルに順次スポットティングしていく。
【0011】
ところが、上記のような方法では、ノズルチップ100内の溶液と検体との反応性が低く、しかも未反応な検体を除去するためにかなりの時間を要する。このため、近年では、粒子へプローブを担持して、このプローブ担持粒子を含む溶液中で、プローブ担持粒子と検体中の標的物質とを反応させる方法が行われている。この方法では、プローブ担持粒子が溶液中に三次元的に分散していることと、プローブ担持粒子と検体とが相互に移動することができるから、反応性が高いというメリットがある。このような方法を利用したものとして、例えば、検体である標的核酸と、粒子に担持された核酸プローブとを溶液中でハイブリダイズさせた後、遠心分離して未反応の検体を除去する方法がある(非特許文献1参照)。
【0012】
【特許文献1】特表2000−515066号公報
【非特許文献1】Nucleic Acid Research 第14巻 p.5037−5048(1986年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記したプローブ担持粒子を使用する方法では、チップキット内に溶液を導入する際に気泡が侵入してしまうため、溶液中に気泡が存在することによって、プローブ担持粒子と検体との反応性が低下してしまうという問題があった。また、未反応の検体を除去するために遠心分離を用いるため、分離に時間を要し、また分離性能も高くないという問題があった。
【0014】
そこで、本発明は上記した課題を解決するためになされたものであり、プローブ担持粒子と検体との反応性、プローブ粒子からの未反応検体の除去性能、プローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能の少なくとも1つを向上させることができるチップキットの操作方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るチップキットの操作方法は、均一な孔径を有する細孔が一定間隔で形成されたフィルタが底部に設けられるとともにプローブ担持粒子が収容されるウエルを備えるバイオチップを上下に空間が形成されるように保持・収容したチップキット内に溶液を導入する際に、前記チップキット内を減圧して負圧にした状態で、前記チップキット内に溶液を導入して前記フィルタを前記溶液中に浸漬させることを特徴とする。
【0016】
このチップキットの操作方法では、均一な孔径を有する細孔が一定間隔で形成されたフィルタが底部に設けられるとともにプローブ担持粒子が収容されるウエルを備えるバイオチップを収容したチップキット内を減圧して負圧にした状態で、チップキット内に溶液を導入する。そして、その溶液中にフィルタを浸漬する。これにより、チップキット内へ溶液を導入する際に、溶液中への気泡の混入を防止することができる。このため、その後に行う溶液の攪拌性が向上する。
なお、プローブ担持粒子は予めバイオチップに収容しておいてもよいし、バイオチップを溶液中に浸積させた後に、プローブ担持粒子を含む溶液を滴下するようにしてもよい。
【0017】
そして、前記チップキット内に存在する溶液中に前記フィルタを浸漬させた状態で、前記各ウエルに検体を投入すればよい。
こうすることにより、溶液中に気泡が混入していない状態でプローブ担持粒子と検体とを接触可能な状態とすることができるので、その後に行うプローブ担持粒子と検体とを効率よく反応させることができるので反応性が向上する。
【0018】
ここで、溶液としては、例えば、各種の緩衝液、洗浄液、分離液、ラベル剤、増感剤、蛋白分解酵素、イオン化剤などが含まれたものを挙げることができる。また、検体とは、各種の培養液、組織、菌、ウィルス、細胞、リンパ球、脂質、糖鎖、核酸、尿、血液、血清、血球、ヒト/マウスサイトカイン、セリン/スレオニン、キナーゼ、分子量50〜100万のタンパク質である合成ペプチド、膜タンパク質、酵素、シグナル伝達蛋白、輸送蛋白、リン酸化タンパク質等の各種タンパク質、サイトカイン、リンフォカイン、IgAおよびIgE等の抗体、各種抗原、転写因子、分子量50〜100万の低分子リード化合物、基質、補酵素、調整因子、レクチン、ホルモン、神経伝達物質、アンチセンスオリゴムクレオチド、リボザイム、アプタマー等のリガンド、各種の医薬候補物質、生理活性を有する可能性がある各種の化学物質などを挙げることができる。もちろん、溶液及び検体は、上記したものに限られることはない。
【0019】
そして、プローブ担持粒子と検体との反応性、プローブ粒子からの未反応検体の除去性能、あるいはプローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能を向上させるためには、チップキット内の溶液の攪拌性を向上させる必要がある。
【0020】
そこで、本発明に係るチップキットの操作方法においては、溶液を前記チップキットの内壁に向けて噴射することにより前記チップキット内に存在する溶液を攪拌するようにすればよい。
【0021】
また、本発明に係るチップキットの操作方法においては、エアを前記チップキットの内壁に向けて噴射することにより前記チップキット内に存在する溶液を攪拌するようにしてもよい。
【0022】
さらに、本発明に係るチップキットの操作方法においては、前記フィルタが空気に触れないように前記チップキット内に存在する溶液の液面を監視しつつ、前記バイオチップキット内で差圧を生じさせることにより前記液面を上下させて前記溶液を攪拌するようにしてもよい。
【0023】
上記した方法により、チップキット内の溶液の攪拌性を向上させることができるので、プローブ担持粒子と検体との反応性やプローブ粒子からの未反応検体の除去性能、プローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能を向上させることができる。
【0024】
なお、上記の方法は単独で行ってもよいし、各方法を任意に組み合わせて行ってもよい。各方法を組み合わせることにより、チップキット内の溶液をより効率的に攪拌することができる。その結果、プローブ担持粒子と検体との反応性やプローブ粒子からの未反応検体の除去性能、プローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能をより向上させることができる。
【0025】
また、上記したいずれか1つのチップキットの操作方法においては、前記溶液を攪拌した後に、前記フィルタが空気に触れないように前記溶液の液面を監視しつつ、前記溶液をチップキットから排出することが望ましい。
【0026】
こうすることにより、フィルタが溶液中に存在するので、新たな溶液をチップキット内に導入する際に気泡が混入することを確実に防止することができるからである。また、検体と投入した後に溶液を攪拌した後、その溶液を排出すると検体の標的物資と反応したプローブ担持粒子はフィルタを通過しないので、未反応の検体を短時間で除去することができる。このように、プローブ担持粒子と検体との反応性や未反応検体の除去性能、プローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るチップキットの操作方法によれば、プローブ担持粒子と検体との反応性、未反応検体の除去性能、あるいはプローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明のチップキットの操作方法を具体化した最も好適な実施の形態について図面に基づいて詳細に説明する。そこで、まず、実施の形態に係る操作方法を実施するチップハンドラの概要について図1を参照しながら簡単に説明する。図1は、チップハンドラの主要部を示す概略図である。チップハンドラ10には、チップ20を保持・収容するチップホルダ11と、チップホルダ11が載置される載置台12と、チップホルダ11の開口部を開閉するためのホルダキャップ13および開閉弁14とが備わっている。そして、チップホルダ11内で、プローブ担持粒子の洗浄、プローブ粒子と検体との反応、未反応の検体の除去、あるいはプローブ担持粒子からの検体の標的物質の分離などを行うようになっている。つまり、チップハンドラ10は、分析装置でDNA解析などを行うための前処理を行うものである。
【0029】
チップ20には、図2に示すように、複数のウエル21が形成されている。そして、ウエル21の底部には、均一な孔径を有する細孔22が一定間隔で形成されたフィルタ23が設けられたものである。このフィルタ22は、検体などを溶解もしくは分散させた溶液を通過させる一方、検体と相互作用するプローブ担持粒子を通過させないように構成されている。これにより、ウエル21にプローブ担持粒子を収容することができるようになっている。なお、図2は、バイオチップの概略構成を示す断面図である。
【0030】
そして、このようなチップ20がチップホルダ11に保持・収容されている。チップホルダ11は、上ホルダ11aと下ホルダ11bとで構成されており、上ホルダ11aと下ホルダ11bとでチップ20を狭持している。上ホルダ11aのほぼ中央に導入口15が形成されている。この導入口15は各種溶液をチップホルダ11内に導入するためのものである。一方、下ホルダ11bのほぼ中央には小径の排出口16が形成されている。この排出口16は、チップホルダ11内の溶液を外部に排出するためのものである。
【0031】
このチップホルダ11は、載置台12にシール部材17を介して載置されている。載置台12には、下ホルダ11bの排出口16を開閉するための開閉弁14が設けられている。これにより、開閉弁14をオン/オフして排出口16を閉塞/開口させて、チップホルダ11内の溶液の水位(液面)調整や標的物質の回収などが実施できるようになっている。
【0032】
また、チップホルダ11の上部にホルダキャップ13が設けられている。ホルダキャップ13にはシール部材18が設けられており、ホルダキャップ13はシール部材18を介してチップホルダ11(上ホルダ11a)に接触して導入口15を気密に覆うことができるようになっている。これにより、ホルダキャップ13および開閉弁14によって、上ホルダ11aの導入口および下ホルダ11bの排出口を気密に封止することができ、チップホルダ11内を密閉することができる。
【0033】
ホルダキャップ13には、複数のノズル30が設けられている。これらのノズル30は、チップホルダ11内に加圧あるいは減圧したり、チップホルダ11内に各種の溶液を導入するためのものである。また、ホルダキャップ13は、上方からチップホルダ11内の溶液の水位を監視できるように一部あるいは全部が透明な部材により形成されている。
【0034】
続いて、上記のチップハンドラ10によるチップキットの操作方法について、図3〜図14を参照しながら説明する。図3〜図10は、操作(処理)内容を示すフローチャートであり、図11〜図14は、チップハンドラの各操作状態を示す図である。
【0035】
以下の説明では、検体の標的物質をプローブ担持粒子に吸着させた後、プローブ担持粒子と標的物質とを分離して標的物質を回収する場合について説明する。具体的には、図3に示すように、チップハンドラ10の初期設定が行われて(S1)、チップホルダ11内に溶液が導入され(S2)、溶液が攪拌される(S3)。次に、検体がチップホルダ11内に投入され(S4)、再度攪拌される(S5)。その後、分離液がチップホルダ11内に滴下され(S6)、再度攪拌される(S7)。そして、検体の標的物質が回収される(S8)。なお、処理を継続する場合には(S9:YES)、チップ20を交換した後(S10)、S2の処理に戻る。以下、各工程の内容について詳細に説明する。なお、図3は、チップハンドラにおけるチップキットの操作方法の概要を示すフローチャートである。
【0036】
まず、初期設定工程(S1)について図4を参照しながら説明する。図4は、初期設定工程の内容を示すフローチャートである。初期設定工程では、まず、チップハンドラ10の電源が投入される(S21)。そして、チップハンドラ10における各種の初期設定が行われる(S22)。S22の処理では、後述するチップホルダ11内の加減圧を行うときの条件や攪拌を行うときの条件などが設定される。その後、チップ20がチップハンドラ10にセットされる(S23)。具体的には、図11に示すように、チップ20が収容されたチップホルダ11が載置台12にセットされる。なお、図11は、チップを収容したチップホルダを載置台にセットした状態を示す図である。
【0037】
次に、溶液導入工程(S2)について図5を参照しながら説明する。図5は、溶液導入工程の内容を示すフローチャートである。溶液導入工程では、まず、載置台12にセットされたチップホルダ11(上ホルダ11a)の上面にホルダキャップ13が装着される(S31)。これで図1に示す状態となる。これにより、導入口15がホルダキャップ13によって気密に覆われる。また、開閉弁14がオンされて、下ホルダ11bの排出口16が閉塞される(S32)。かくして、図12に示すように、チップホルダ11内が密閉される。なお、図12は、チップホルダ内が密閉された状態を示す図である。
【0038】
この状態でノズル30が利用されてチップホルダ11内が減圧される(S33)。本実施の形態では、−0.2kPa程度に減圧される。そして、別のノズル30が利用されてチップホルダ11内に洗浄液が導入されて、フィルタ18が洗浄液中に浸積される(S34)。このとき、チップホルダ11内は減圧されて負圧になっているので、洗浄液をチップホルダ11内に導入する際に気泡が発生しない。つまり、洗浄液中への気泡の混入を防止することができる。
【0039】
そして、洗浄液がチップホルダ11内に導入されると、開閉弁14がオフされ(S35)、洗浄液の水位調整が行われた後(S36)、開閉弁14が再度オンされる(S37)。このような操作により、洗浄液の水位がフィルタ18を基準として+1.0mm以下に調整される。なお、水位の測定は光学液面センサなどを利用すればよい。
【0040】
このような水位調整が終了すると、図13に示すように、ホルダキャップ11が上ホルダ11aから外される(S38)。なお、図13は、洗浄液を導入した後にホルダキャップ11を外した状態を示す図である。そして、ノズル30が利用されてプローブ担持粒子が分散された分散液がチップホルダ11内に滴下される(S39)。その後、ホルダキャップ11が上ホルダ11aに装着される(S40)。これで、再び図12に示す状態となり、ウエル21にプローブ担持粒子が収容される。なお、本実施の形態では、チップホルダ11に洗浄液を導入した後にプローブ担持粒子をウエル21に収容しているが、チップホルダ11に洗浄液を導入する前に予め、プローブ担持粒子をウエル21に収容しておいてもよい。
【0041】
ここで、分散液(プローブ担持粒子)がチップホルダ11内に滴下されたので、チップホルダ11内の溶液の水位が増加している。このため、開閉弁14がオフされ(S41)、溶液の水位調整が行われた後(S42)、開閉弁14が再度オンされる(S43)。このような操作により、溶液(洗浄液と分散液との混合液)の水位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、溶液導入工程が終了する。
【0042】
このような水位に調整するのは、この後に実施される攪拌工程で洗浄液が再充填されて水位が増加したときに、液面センサによる水位計測が不能にならないようにするためである。液面(水位)計測が可能な範囲が小さくなるのは、液面センサで微少な液面の変位を検出するようにしているからである。また、完全に溶液を排出しないのは、フィルタ18を空気に接触させないためである。フィルタ18が空気に接触すると、洗浄液を再導入する際に気泡が混入するからである。
【0043】
続いて、攪拌工程(S3およびS5)について図6〜図8を参照しながら説明する。図6は、エアー攪拌の処理内容を示すフローチャートである。図7は、水流攪拌の処理内容を示すフローチャートである。図8は、差圧により液面を上下動させる攪拌の処理内容を示すフローチャートである。なお、どの攪拌方法が実施されるかは、初期設定(S1)において決められている。
【0044】
エアー攪拌が実施される場合には、チップホルダ11内に洗浄液が充填された後(S51)、ホルダキャップ13が上ホルダ11aから外される(S52)。そして、図14に示すように、攪拌用に旋回流を生じさせるためのノズルが装着された攪拌用キャップ40が上ホルダ11aに装着される(S53)。なお、図14は、攪拌用キャップを装着した状態を示す図である。攪拌用キャップ40が上ホルダ11aに装着されると、エアーが噴射される。このとき、噴射エアーがチップホルダ11の内周壁面に当たるように噴射される。これにより、チップホルダ11内に旋回気流が確実に生じ、その旋回気流の作用によりチップホルダ11内の溶液が効率的に攪拌される。このときのエアー噴射圧や噴射時間は初期設定において決められている。このエアー攪拌により、プローブ担持粒子を溶液中に短時間で分散させるとともに、プローブ担持粒子を短時間で洗浄することができる。
【0045】
そして、エアー攪拌が終了すると、攪拌用キャップ40が上ホルダ11aから外されて(S55)、ホルダキャップ13が装着される(S56)。これで、図12に示す状態になる。その後、開閉弁14がオフされ(S57)、チップホルダ11内の溶液の水位調整が行われた後(S58)、開閉弁14が再度オンされる(S59)。このような操作により、チップホルダ11内の溶液の水位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、攪拌工程が終了する。
【0046】
水流攪拌が実施される場合には、ホルダキャップ13が上ホルダ11aから外される(S61)。そして、攪拌用に旋回流を生じさせるためのノズルが装着された攪拌用キャップ40が上ホルダ11aに装着される(S62)。これで、図14に示す状態となる。攪拌用キャップ40が上ホルダ11aに装着されると、洗浄液が噴射される。このとき、洗浄液がチップホルダ11の内周壁面に当たるように噴射される。これにより、チップホルダ11内の溶液が旋回させられるので、チップホルダ11内の溶液が効率的に攪拌される。このときの洗浄液の噴射圧や噴射時間は初期設定において決められている。この水流攪拌により、プローブ担持粒子を溶液中に短時間で分散させるとともに、プローブ担持粒子を短時間で洗浄することができる。
【0047】
そして、水流攪拌が終了すると、攪拌用キャップ40が上ホルダ11aから外されて(S64)、ホルダキャップ13が装着される(S65)。これで、図12に示す状態になる。その後、開閉弁14がオフされ(S66)、チップホルダ11内の溶液の水位調整が行われた後(S67)、開閉弁14が再度オンされる(S68)。このような操作により、チップホルダ11内の溶液の水位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、攪拌工程が終了する。
【0048】
液面上下動攪拌が実施される場合には、図12に示すように、ホルダキャップ13が上ホルダ11aに装着された状態で、チップホルダ11内に洗浄液が充填される(S71)。洗浄液の充填が終了すると、開閉弁14がオフされ(S72)、溶液の水位調整が行われる(S73)。このような操作により、溶液(洗浄液と分散液との混合液)の水位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。
【0049】
そして、ノズル30が利用されてチップホルダ11内において減圧・加圧(±0.2kPa程度)が繰り返される(差圧が生じさせられる)。これにより、チップホルダ11内の溶液の水位が上下動して溶液の攪拌が効率的に行われる(S74)。このときの水位の上下動は、フィルタ18を基準として+0.01〜1.0mmの範囲内で行われる。具体的には、チップホルダ11内を減圧したときの水位を+1.0mm以下にし、チップホルダ11内を加圧したときの水位を、フィルタ18を空気に接触させないように+0.1mm以下にする。そして、攪拌が終了すると、差圧がなくなるので、チップホルダ11内の溶液の水位は、攪拌前の同様に、フィルタ18を基準として+0.1mm以下となる。
【0050】
次に、検体投入工程(S4)について図9を参照しながら説明する。図9は、検体投入工程の内容を示すフローチャートである。検体投入工程では、まず、ホルダキャップ13が上ホルダ11aから外される(S81)。これで、図13に示す状態になる。そして、この状態で、検体がチップホルダ11内に滴下され(S82)、ホルダキャップ13が上ホルダ11aに装着される(S83)。これで、図12に示す状態になる。ここで、検体がチップホルダ11内に滴下されたので、チップホルダ11内の溶液の水位が増加している。このため、開閉弁14がオフされ(S84)、溶液の水位調整が行われた後(S85)、開閉弁14が再度オンされる(S86)。このような操作により、溶液(洗浄液とプローブ担持粒子と検体との混合液)の水位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、検体投入工程が終了する。
【0051】
そして、上記した攪拌工程(S5)が実施される。これにより、チップホルダ11内の溶液が効率的に攪拌される。また、攪拌される溶液中に気泡が混入していない。このため、プローブ担持粒子と検体の標的物質との近接・接触回数が大幅に増えるので、プローブ担持粒子と検体との反応性が向上する。
【0052】
また、攪拌工程で行われる水位調整によって、プローブ担持粒子と反応しなかった検体が排出口16から外部に排出される。なお、プローブ担持粒子と反応した検体は、フィルタ18によってウエル21内に留められている。このように、未反応検体を短時間で除去することができる。つまり、未反応検体の除去性能を向上させることができる。
【0053】
続いて、分離液滴下工程(S6)について図10を参照しながら説明する。図10は、分離液滴下工程の内容を示すフローチャートである。分離液滴下工程では、まず、ホルダキャップ13が上ホルダ11aから外される(S91)。これで、図13に示す状態になる。そして、分離液がチップホルダ11内に滴下され(S92)、ホルダキャップ13が上ホルダ11aに装着される(S93)。これで、図12に示す状態になる。ここで、分離液がチップホルダ11内に滴下されたので、チップホルダ11内の溶液の水位が増加している。このため、開閉弁14がオフされ(S94)、溶液の水位調整が行われた後(S95)、開閉弁14が再度オンされる(S96)。このような操作により、溶液(洗浄液とプローブ担持粒子と反応済みの検体と分離液との混合液)の水位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、分離液滴下工程が終了する。
【0054】
そして、攪拌工程(S7)が実施される。この攪拌工程では、上記した攪拌工程(S3あるいはS5)と同様に攪拌が行われる。これにより、分離液が溶液中に分散するので、検体の標的物質がプローブ担持粒子から短時間で分離される。つまり、分離性能が向上する。そして、攪拌が終了すると、水位調整をすることなく、開閉弁14をオフして標的物資を回収する(S8)。
【0055】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係る操作方法では、チップホルダ11内が密閉された状態でチップホルダ11内が減圧されて(S33)、チップホルダ11内に洗浄液が導入され、フィルタ18が洗浄液中に浸積される(S34)。このため、チップホルダ11内は減圧されて負圧になっているので、洗浄液をチップホルダ11内に導入する際に気泡が発生しない。
【0056】
そして、検体投入後、分離液滴下後のそれぞれにおいて、エアー攪拌、水流攪拌、あるいは液面上下動による攪拌のいずれかが実施されるので、チップホルダ11内の溶液が効率よく攪拌される。また、溶液中に気泡が混在していないので、プローブ担持粒子と検体あるいは各種の試薬との近接・接触の回数を増加させることができる。従って、プローブ担持粒子と検体との反応性、プローブ粒子からの未反応検体の除去性能、プローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能を向上させることができる。
【0057】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施の形態に係るチップハンドラの概略構成を示す平面図である。
【図2】バイオチップの概略構成を示す断面図である。
【図3】チップハンドラにおけるチップキットの操作方法の概要を示すフローチャートである。
【図4】初期設定工程の内容を示すフローチャートである。
【図5】溶液導入工程の内容を示すフローチャートである。
【図6】エアー攪拌の処理内容を示すフローチャートである。
【図7】水流攪拌の処理内容を示すフローチャートである。
【図8】差圧により液面を上下動させる攪拌の処理内容を示すフローチャートである。
【図9】検体投入工程の内容を示すフローチャートである。
【図10】分離液滴下工程の内容を示すフローチャートである。
【図11】チップを収容したチップホルダを載置台にセットした状態をし示す図である。
【図12】チップホルダ内が密閉された状態を示す図である。
【図13】洗浄液を導入した後にホルダキャップ11を外した状態を示す図である。
【図14】攪拌用キャップを装着した状態を示す図である。
【図15】ノズルチップの概略構成を示す断面図である。
【図16】ターゲットプレートの斜視図である。
【図17】ノズルチップの洗浄工程(反応前)を説明するための説明図である。
【図18】シリカビーズにプローブDNAを付着させる付着工程を説明するための説明図である。
【図19】プローブDNAに特定病原因DNAを捕獲させる捕獲工程を説明するための説明図である。
【図20】ノズルチップの洗浄工程(反応後)を説明するための説明図である。
【図21】シリカビーズからプローブDNAを切断する分離工程を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0059】
10 チップハンドラ
11 チップホルダ
11a 上ホルダ
11b 下ホルダ
12 載置台
13 ホルダキャップ
14 開閉弁
15 導入口
16 排出口
17 シール部材
18 シール部材
20 チップ
21 ウエル
22 細孔
23 フィルタ
30 ノズル
40 攪拌用キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一な孔径を有する細孔が一定間隔で形成されたフィルタが底部に設けられるとともにプローブ担持粒子が収容されるウエルを備えるバイオチップを収容したチップキット内に溶液を導入する際に、前記チップキット内を減圧して負圧にした状態で、前記チップキット内に溶液を導入して前記フィルタを前記溶液中に浸漬させることを特徴とするチップキットの操作方法。
【請求項2】
請求項1に記載するチップキットの操作方法において、
前記チップキット内に存在する溶液中に前記フィルタを浸漬させた状態で、前記各ウエルに検体を投入することを特徴とするチップキットの操作方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載するチップキットの操作方法において、
溶液を前記チップキットの内壁に向けて噴射することにより前記チップキット内に存在する溶液を攪拌することを特徴とするチップキットの操作方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載するチップキットの操作方法において、
エアを前記チップキットの内壁に向けて噴射することにより前記チップキット内に存在する溶液を攪拌することを特徴とするチップキットの操作方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載するチップキットの操作方法において、
前記フィルタが空気に触れないように前記チップキット内に存在する溶液の液面を監視しつつ、前記バイオチップキット内で差圧を生じさせることにより前記液面を上下させて前記溶液を攪拌することを特徴とするチップキットの操作方法。
【請求項6】
請求項3から請求項5に記載するいずれか1つのチップキットの操作方法において、
前記溶液を攪拌した後に、前記フィルタが空気に触れないように前記溶液の液面を監視しつつ、前記溶液をチップキットから排出することを特徴とするチップキットの操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−184155(P2006−184155A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379072(P2004−379072)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000106760)シーケーディ株式会社 (627)
【出願人】(502128800)株式会社オクテック (83)
【Fターム(参考)】