説明

チップ用保護膜形成用シートおよび保護膜付半導体チップ

【課題】薄型化・高密度化しつつある半導体チップを実装した半導体装置において、厳しい温度条件下に曝された場合であっても、さらに高い信頼性を実現すること。
【解決手段】剥離シートと、該剥離シートの剥離面上に形成された、アクリル重合体(A)、不飽和炭化水素基を有するエポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)を含む保護膜形成用組成物からなる保護膜形成層とを有することを特徴とするチップ用保護膜形成用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップ裏面に効率良く高硬度の保護膜を形成でき、しかも保護膜表面に印字可能であり、かつチップの製造効率の向上が可能なチップ用保護膜形成用シートに関し、特にいわゆるフェースダウン方式で実装される半導体チップの製造に用いられるチップ用保護膜形成用シート、および保護膜付半導体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるフェースダウン(face down)方式と呼ばれる実装法を用いての半導体
装置の製造が行われている。この実装法においては、回路面上にバンプ等の電極を有している半導体チップが用いられ、この電極が基板と接合されるため、チップ裏面は剥き出しとなることがある。
【0003】
この剥き出しとなったチップ裏面は、有機膜により保護されることがある。従来この有機膜(保護膜)は、液状の樹脂をスピンコート法により塗布し、乾燥し、硬化することにより形成されていたが、厚み精度が充分でないなどの問題があった。
【0004】
このような問題を解決すべく、特開2002−280329号公報(特許文献1)には、剥離シートと、該剥離シートの剥離面上に形成された、熱またはエネルギー線硬化性成分とバインダーポリマー成分とからなる保護膜形成層とを有するチップ用保護膜形成用シートが開示されており、このチップ用保護膜形成用シートを用いると、均一性の高い保護膜を、チップ裏面に簡便に形成でき、しかも機械研削によってチップ裏面に微小な傷が形成されたとしても、かかる傷に起因する悪影響を解消できる。
【特許文献1】特開2002−280329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄型化・高密度化しつつある半導体チップを実装した半導体装置においては、厳しい温度条件下に曝された場合であっても、さらに高い信頼性を実現することが要求されている。
【0006】
本発明は上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、チップ用保護膜形成用シートの保護膜形成層に検討を加え、上記要求に応えることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 剥離シートと、
該剥離シートの剥離面上に形成された、アクリル重合体(A)、不飽和炭化水素基を有するエポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)を含む保護膜形成用組成物からなる保護膜形成層と
を有することを特徴とするチップ用保護膜形成用シート。
【0008】
[2] 前記不飽和炭化水素基を有するエポキシ系熱硬化性樹脂(B)が芳香環を有する樹脂であることを特徴とする上記[1]に記載のチップ用保護膜形成用シート。
[3] 前記不飽和炭化水素基がアクリロイル基であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のチップ用保護膜形成用シート。
【0009】
[4] 前記保護膜形成層の全光線透過率が30%以下であることを特徴とする上記[
1]〜[3]のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
[5] 前記保護膜形成用組成物がさらに無機充填材を含有することを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
【0010】
[6] 前記保護膜形成用組成物が顔料および/または染料を含有することを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
[7] 加熱硬化後の前記保護膜形成層の表面に印字可能であることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
【0011】
[8] 前記印字の手段がレーザーマーキング法であることを特徴とする上記[7]に記載のチップ用保護膜形成用シート。
[9] 前記保護膜形成層の表面に、さらに第2の剥離シートを有することを特徴とする上記[1]〜[8]のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
【0012】
[10] アクリル重合体(A)、不飽和炭化水素基を有するエポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)を含む保護膜形成用組成物からなる保護膜形成層を加熱硬化して得られる保護膜がチップ裏面に形成されてなることを特徴とする保護膜付半導体チップ。
【0013】
本発明に係るチップ用保護膜形成用シート10は、図1に示すように、剥離シート1と、該剥離シート1の剥離面上に形成された保護膜形成層2とを有している。
(剥離シート)
剥離シート1としては、たとえばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルム等が用いられる。
【0014】
特に、保護膜形成層を硬化後に剥離シートの剥離を行う場合には、耐熱性に優れたポリメチルペンテンフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルムが好ましく用いられる。
【0015】
これらのフィルムにはさらに剥離処理が施されていてもよく、この剥離処理に使用される剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系等の剥離剤が挙げられ、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が、耐熱性に優れる点で好ましい。
【0016】
上記の剥離剤を用いてこれらのフィルムの表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルジョン化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーター等により塗布して、常温硬化、加熱硬化、電子線硬化、加熱後電子線硬化、電子線硬化後加熱硬化させたり、ウェットラミネーションやドライラミネーション、共押出加工などで積層体を形成すればよい。
【0017】
剥離シート1の膜厚は、通常10〜500μm、好ましくは15〜300μm、さらに好ましくは20〜250μmである。
(保護膜形成層)
<保護膜形成用組成物>
(A)アクリル重合体;
アクリル重合体(A)としては従来公知のアクリル重合体を用いることができる。アクリル重合体の重量平均分子量は1万以上200万以下であることが望ましく、10万以上150万
以下であることがより望ましい。アクリル重合体の重量平均分子量が低過ぎると、保護膜形成層の製膜性に乏しくフィルム化が困難になることがあり、高すぎると、保護膜形成層の粘着力が低く貼付性に劣ることがある。
【0018】
アクリル重合体のガラス転移温度は、好ましくは−50℃以上50℃以下、さらに好ましくは−40℃以上40℃以下、特に好ましくは−30℃以上30℃以下の範囲にある。ガラス転移温度が低過ぎると保護膜形成層の製膜性に乏しく凝集力が劣ることがあり、高過ぎると保護膜形成層の貼付性に劣ることがある。
【0019】
このアクリル重合体のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーあるいはその誘導体が挙げられる。例えば、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリ
ル酸アルキルエステル、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられ、
環状骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル、たとえば(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イミドアクリレート等が挙げられ、
2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等が挙げられる。
【0020】
アクリル重合体(A)には、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等が共重合されていてもよい。またアクリル重合体(A)は、水酸基を有している方が、エポキシ樹脂との相溶性が良いため好ましい。
【0021】
(B)不飽和炭化水素基を有するエポキシ系熱硬化性樹脂;
化合物(B)は、1分子中に不飽和炭化水素基およびエポキシ基を有している。化合物(B)は、このように不飽和炭化水素基を有することから、不飽和炭化水素基を有さないエポキシ熱硬化性樹脂と比較してアクリル重合体(A)との相溶性が高い。したがって、化合物(B)を含有する前記保護膜形成用組成物を用いて製造された保護膜付半導体チップは、エポキシ熱硬化性樹脂として不飽和炭化水素基を有さないエポキシ熱硬化性樹脂のみを含む保護膜形成用組成物を用いて製造された保護膜付半導体チップよりも信頼性が向上している。
【0022】
不飽和炭化水素基の具体例としてはビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基などが挙げられ、好ましくはアクリロイル基が挙げられる。
【0023】
化合物(B)としては、保護膜形成用組成物の熱硬化後の強度や耐熱性が向上するため、芳香環を有する樹脂が好ましい。
このような化合物(B)としては、たとえば、エポキシ系熱硬化性樹脂のエポキシ基の一部が不飽和炭化水素基を含む基で置換されてなる化合物が挙げられる。このような化合物は、たとえば、エポキシ基へ(メタ)アクリル酸を付加反応させることにより合成できる。また化合物(B)としては、エポキシ系熱硬化性樹脂を構成する芳香環等に、不飽和炭化水素基を含む基が直接結合してなる化合物などが挙げられる。
【0024】
化合物(B)の具体例としては、下記式(1)で表される化合物(たとえば、ビスフェ
ノールAジグリシジルエーテルの一部のエポキシ基へアクリル酸を付加反応させて得られる化合物(下記式(2)))、クレゾールノボラックエポキシ型樹脂の一部のエポキシ基へ(メタ)アクリル酸を付加反応させて得られる化合物(下記式(3))、あるいは後述するエポキシ系熱硬化性樹脂(D)の一部のエポキシ基ヘ(メタ)アクリル酸を付加反応させて得られる化合物が挙げられる。
【0025】
【化1】

【0026】
また上記式(1)において、
【0027】
【化2】

【0028】
とすると、AおよびBは、AAABBのようにブロックとして配列していてもよく、ABAABのようにランダムに配列していてもよい。
上記式(1)で表される化合物の例としては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化3】

【0030】
〔RはH−またはCH3−であり、nは0〜10の整数である。〕
【0031】
【化4】

【0032】
なお、エポキシ化合物とアクリル酸との反応により得られる化合物は、未反応物やエポキシ基が完全に消費された化合物との混合物となっている場合があるが、本発明で用いられる保護膜形成用組成物には、上記化合物(B)が実質的に含まれていればよい。
【0033】
化合物(B)の数平均分子量は、保護膜形成用組成物の硬化性や硬化後の強度や耐熱性(信頼性)の観点からは好ましくは300〜30,000、さらに好ましくは400〜10,000、特に好ましくは500〜3,000である。
【0034】
また、該化合物(B)中の不飽和基の含有量は、保護膜形成用組成物の硬化性や硬化後の強度や耐熱性(信頼性)の観点からは該化合物(B)中のエポキシ基含有量(100モル%)に対して0.1〜1000モル%、好ましくは1〜500モル%、さらに好ましくは10〜400モル%であることが望ましい。0.1モル%以下であると信頼性が低下することがあり、1000モル%以上であるとチップに対する保護膜の接着性が低下する傾向にある。
【0035】
前記保護膜形成用組成物中の化合物(B)の配合量は、保護膜形成用組成物の硬化性や硬化後の強度や耐熱性(信頼性)の観点からはアクリル重合体(A)100重量部に対して、好ましくは1重量部以上、より好ましくは3重量部以上、さらに好ましくは5重量部であり、その上限値は好ましくは1000重量部である。1重量部よりも少ないと信頼性が低下することがある。
【0036】
(C)熱硬化剤;
熱硬化剤(C)としては、1分子中にエポキシ基と反応し得る官能基を2個以上有する化合物が挙げられ、その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物基などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物基などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。熱硬化剤(C)の具体的な例としては下記式(4)に示すノボラック型フェノール樹脂、下記式(5)で表されるジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、下記式(6)で表される多官能系フェノール樹脂等のフェノール性硬化剤、下記式(7)で表されるザイロック型フェノール樹脂や、DICY(ジシアンジアミド)などのアミン系硬化剤が挙げられる。これら硬化剤は、1種単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0037】
熱硬化剤(C)の使用量は、化合物(B)および後述するエポキシ樹脂(D)の合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜500重量部であり、より好ましくは1〜200重量部である。熱硬化剤(C)の量が過小であると、硬化不足で接着性が得られないことがあり、過剰であれば吸湿率が高まり半導体装置の信頼性を低下させることがある。
【0038】
【化5】

【0039】
(但し、式中nは0以上の整数を表す。)
【0040】
【化6】

【0041】
(但し、式中nは0以上の整数を表す。)
【0042】
【化7】

【0043】
(但し、式中nは0以上の整数を表す。)
【0044】
【化8】

【0045】
(但し、式中nは0以上の整数を表す。)
本発明に係る保護膜形成用組成物は、上記アクリル重合体(A)、化合物(B)および
熱硬化剤(C)を必須成分として含み、各種物性を改良するため、必要に応じエポキシ樹脂(D)の他、下記の成分を含んでいても良い。
【0046】
(D)エポキシ系熱硬化性樹脂;
エポキシ系熱硬化性樹脂(D)は、化合物(B)と併用してもよく、保護膜形成用組成物の接着性や硬化性を調整するために用いられる。上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂
(下記式(8))、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(下記式(9))、ビフェニル型エポキシ樹脂もしくはビフェニル化合物(下記式(10)、(11))など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独でもしくは2種類以上組
み合わせて用いることが出来る。
【0047】
【化9】

【0048】
(但し、式中nは0以上の整数を表す。)
【0049】
【化10】

【0050】
(但し、式中nは0以上の整数を表す。)
【0051】
【化11】

【0052】
(但し、式中nは0以上の整数を表す。)
【0053】
【化12】

【0054】
(但し、式中複数個あるRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。)
エポキシ樹脂(D)は、保護膜形成用組成物の製膜性、硬化後の強度や耐熱性(信頼性)の観点から(B)100重量部に対して好ましくは1〜1000重量部、より好ましくは10〜500重量部、さらに好ましくは20〜200重量部用いられてもよい。
【0055】
(E)硬化促進剤;
硬化促進剤(E)は、保護膜形成用組成物の硬化速度を調整するために用いられてもよい。好ましい硬化促進剤としては、エポキシ基とフェノール性水酸基やアミン等との反応を促進し得る化合物が挙げられ、具体的には、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0056】
硬化促進剤(E)は、化合物(B)およびエポキシ樹脂(D)の合計100重量部に対して0.001〜100重量部含まれることが好ましく、0.01〜50重量部がより好ましく、0.1〜10重量部がさらに好ましい。
【0057】
(F)カップリング剤;
カップリング剤は、保護膜形成用組成物の被着体に対する接着性、密着性を向上させるために用いられてもよい。また、カップリング剤を使用することで、保護膜形成用組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上することができる。カップリング剤としては、上記(A)成分、(B)成分、(D)成分等が有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。カップリング剤としては、シランカップリング剤が望ましい。このようなカップリング剤としてはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシラン等が挙げられる。また市販品であれば、三菱化学(株)製のMKCシリケートMSEP2(商品名)、日本ユニカー(株)製のA−1110(商品名)などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上混合して使用することができる。これらカップリング剤を使用する際には、カップリング剤は、アクリル重合体(A)、化合物(B)およびエポキシ樹脂(D)の合計100重量部に対して通常0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜10重量部、より好ましくは0.3〜5重量部の割合で用いられる。0.1重量部未満だと効果が得られない可能性があり、20重量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0058】
(G)架橋剤;
保護膜形成用組成物の初期接着力および凝集力を調節するために、架橋剤を添加することもできる。架橋剤としては有機多価イソシアナート化合物、有機多価イミン化合物が挙げられる。
【0059】
上記有機多価イソシアナート化合物としては、芳香族多価イソシアナート化合物、脂肪族多価イソシアナート化合物、脂環族多価イソシアナート化合物が挙げられる。有機多価イソシアナート化合物のさらに具体的な例としては、たとえば2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、1,4−キシレンジイソシアナート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアナート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアナート、リジンイソシアナートなどが挙げられる。また、有機多価イソシナート化合物としては、これらの多価イソシアナート化合物の三量体、ならびにこれら多価イソシアナート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマー等も挙げることができる。
【0060】
上記有機多価イミン化合物の具体例としては、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ−β−アジリジニルプロピオナート、テトラメチロールメタン-トリ−β−アジリジニルプロピオナート、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0061】
架橋剤(G)を用いる場合、架橋剤(G)はアクリル重合体(A)100重量部に対して通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の比率で用いられる。
(H)無機充填材;
無機充填材を保護膜形成用組成物に配合することにより、印字性能の付与や熱膨張係数の調整が可能となり、半導体チップや金属または有機基板に対して硬化後の保護膜形成層の熱膨張係数を最適化することで半導体装置の耐熱性を向上させることができる。また、保護膜形成層の硬化後の吸湿率を低減させることも可能となる。好ましい無機充填材としては、シリカ、カーボン、アルミナ、金、銀、銅、ニッケル、ステンレス、ゲルマニウム、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維、ガラス繊維等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上混合して使用することができる。本発明においては、これらのなかでも、シリカ粉末、アルミナ粉末の使用が好ましい。
【0062】
無機充填材(H)は、種類によっては(たとえば、カーボン)、後述する顔料または染料(I)として機能する場合もある。
無機充填材の使用量は、保護膜形成用組成物全体に対して、通常0〜80重量%の範囲で調整が可能である。
【0063】
(I)顔料および/または染料;
前記保護膜形成用組成物は、顔料および/または染料を含有していてもよい。顔料および/または染料によって前記保護膜形成用組成物から形成される保護膜を着色すると、外観および視認性の向上が図られる。また、チップを紫外線や赤外線等から保護する観点からは、前記保護膜形成用組成物は、黒色等の顔料および/または染料を含有することが望ましい。レーザーマーキングの際に使用するレーザーの波長と同じ波長に吸収をもつ顔料および/または染料を選択することもある。
【0064】
着色のための顔料または染料としては、無機系化合物であればカーボン(カーボンブラック)、酸化タングステン、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化イットリウム、スズ含有酸化インジウム、アンチモン含有酸化スズなどが、有機系化合物であればシアニン系化合物、ピリリウム系化合物、スクワリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、チオール系化合物、チオフェノール系化合物、チオナフトール系化合物などが挙げられる。これらの中でも、半導体チップを実装した半導体装置の信頼性をより高める観点からは、耐熱性の高い無機系化合物が好ましい。
【0065】
上記の化合物は、1種単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記の化合物の中でも、カーボンブラックは、少量の添加により高い光透過防止性を発揮するため、他の無機系化合物と比較しても高信頼性・光透過防止性能の両立に適している。また、カーボンブラックとしては、粒径が0.1μm以下のものが接着性の観点から好ましく、特に種類は限定されないが、Na、Cl等のイオン性不純物ができるだけ少ないものが好ましい。例えば、Naは5ppm以下、Clは20ppm以下であるこ
とが好ましい。
【0066】
顔料または染料は、前記保護膜形成用組成物中に、アクリル重合体(A)、化合物(B)およびエポキシ樹脂(D)の合計100重量部に対して、好ましくは0〜30重量部、より好ましくは0.1〜20重量部含まれる。
【0067】
(その他の成分)
前記保護膜形成用組成物には、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。たとえば、硬化後の可とう性を保持するため可とう性成分を添加することができる。可とう性成分は、常温および加熱下で可とう性を有する成分である。可とう性成分は、熱可塑性樹脂やエラストマーからなるポリマーであってもよいし、ポリマーのグラフト成分、ポリマーのブロック成分であってもよい。また、可とう性成分がエポキシ樹脂に予め変性された変性樹脂であってもよい。
【0068】
さらに、保護膜形成用組成物の各種添加剤としては、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を用いてもよい。帯電防止剤を添加すると、静電気を抑制できるため、チップの信頼性が向上する。また、リン酸化合物、ブロム化合物、リン系化合物等を加え難燃性能を付加することで半導体装置としての信頼性が向上する。
【0069】
本発明に係るチップ体用保護膜形成用シート10は、前記剥離シート1の剥離面上に上記成分からなる保護膜形成用組成物をロールナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リバースコーターなど一般に公知の方法にしたがって直接または転写によって塗工し、乾燥させて保護膜形成層2を形成することによって得ることができる。なお、上記の組成物は、必要に応じ、溶剤に溶解し、若しくは分散させて塗布することができる。
【0070】
このようにして形成される保護膜形成層2の厚さは、通常は、3〜100μm、好まし
くは10〜60μmであることが望ましい。
(第2の剥離シート)
本発明に係るチップ用保護膜形成用シート10は、保護膜形成層2の、剥離シート1側とは反対面上に、さらに剥離シート(以下「第2の剥離シート」ともいう。)を有していてもよい。第2の剥離シートを有していると、チップ用保護膜形成用シート10が半導体ウエハに貼付される以前において、保護膜形成層2の表面が保護される点で好ましい。
【0071】
この第2の剥離シートの具体例、好ましい態様等の詳細は、前記剥離シート1と同様である。
本発明に係るチップ用保護膜形成用シートを用いれば、厳しい温度条件下に曝された場合であっても高い信頼性を達成できる、半導体チップを製造することができる。
[保護膜付半導体チップ]
図2に示すように、本発明に係る保護膜付半導体チップ11においては、前記保護膜形成層2を加熱硬化して得られる保護膜4が半導体チップ3の裏面に形成されている。
【0072】
本発明に係る保護膜付半導体チップは、厳しい温度条件下に曝された場合であっても、高い信頼性を達成できる。
保護膜付半導体チップ11は、たとえば以下の製造方法により製造することができる;
表面に回路が形成された半導体ウエハ3の裏面に、本発明に係るチップ用保護膜形成用シート10の保護膜形成層2を貼付した後、
以下の工程(1)〜(3)を任意の順、好ましくは(1)→(2)→(3)の順で行って、裏面に保護膜4を有する半導体チップ3(すなわち、保護膜付半導体チップ11)を得る、保護膜付半導体チップ11の製造方法;
工程(1):保護膜形成層2と剥離シート1とを剥離、
工程(2):加熱により保護膜形成層2を硬化、
工程(3):半導体ウエハ3および保護膜形成層2(硬化後であれば保護膜4)を回路毎にダイシング。
【0073】
この製造方法の詳細は、特開2002−280329号公報(特許文献1)または特開2004−260190号公報の記載からも理解することができる。
前記保護膜4の全光線透過率は、好ましくは30%以下、さらに好ましくは0〜10%である。この全光線透過率は、たとえば前記保護膜形成用組成物中の顔料および/または染料(I)の含量を増減することにより調製できる。
【0074】
また、前記保護膜4の表面には印字が可能である。
印字手段としては、レーザーマーキング法が挙げられる。使用されるレーザーの種類としては、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、高周波YAGレーザーなどが挙げられ、マーキング方式としてはスキャン式、マスク式などが挙げられる。保護膜には、使用するレーザーの波長にあわせて、その波長のエネルギー線を吸収する物質を含有させておくことが好ましい。
【0075】
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0076】
以下の実施例および比較例において、各種評価は次のように行った。
(i)耐熱信頼性;
(1)保護膜付半導体チップの製造
#2000研磨したシリコンウエハ(200mm径, 厚さ280μm)の研磨面に、実施
例および比較例のチップ用保護膜形成用シートを、第2の剥離フィルムを剥離した後、シ
リコンウエハ/保護膜/第1の剥離フィルムの順序となるように、テープマウンター(リンテック社製, Adwill RAD3500F/8DBS)により70℃に加熱しながら貼付した。その後、第1の剥離フィルムを剥離し、温度130℃で2時間の加熱硬化を行い、保護膜側をダイシングテープ(リンテック株式会社製Adwill D−676)に貼付し、ダイシング装置(株式会社ディスコ製, DFD651)を使用して3mm×3mmサイズにダイシングすることで耐熱信頼
性評価用の保護膜付半導体チップを得た。
(2)耐熱信頼性評価
この保護膜付半導体チップ25個を冷熱衝撃装置(ESPEC(株)製、TSE-11A)内に設置し、−65℃(保持時間:20分)→150℃(保持時間:20分)→(−65℃)の高低温サイクルを1000回繰り返した。
【0077】
その後、冷熱衝撃装置から取り出した保護膜付半導体チップについて、チップと保護膜との接合部での浮き・剥がれの有無を、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック(株)製 Hye-Focus)およびデジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製
VHX−100)での観察により評価した。
【0078】
(ii)保護膜の全光線透過率;
各実施例または比較例で得られた厚さ25μmの保護膜形成層について、第1の剥離フィ
ルムおよび第2の剥離フィルムを剥離した後、UV-visスペクトル検査装置((株)島津製作所製)を用いて、190〜3100nmでの全光線透過率を測定し、透過率の最も高い値を最大
透過率とした。
【0079】
(iii)印字性評価;
各実施例または比較例で製造されたチップ用保護膜形成用シートを、第1の剥離フィルムおよび第2の剥離フィルムを剥離した後、130℃で2時間かけて加熱し、保護膜形成層を硬化させた。第1の剥離フィルムを剥離した側の保護膜形成層の硬化物の表面に、YAGレ
ーザーマーカー(日立建機ファインテック(株)製、LM5000)により縦400μm、横200μmの文字を印字し、CCDカメラを用いて、印字された文字が読み取れるか否かを確認した。
評価基準は以下のとおりである。
【0080】
○:読み取れる。
×:読み取れない。
(保護膜形成用組成物の成分)
保護膜形成用組成物を構成する各成分は下記の通りであった。
(A)アクリル重合体
アクリル重合体(日本合成化学工業(株)製 コーポニールN−2359−6、重量平均分子量:90万、ガラス転移温度:-28℃)
(B)不飽和炭化水素基を有するエポキシ系熱硬化樹脂
(B−1).アクリロイル基付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日本合成化学工業(株)製 紫光UT-4226、エポキシ当量457g/eq、数平均分子量642、不飽和基含有量:エポキシ基と等量)
(B−2).アクリロイル基付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製 ZAA-278、エポキシ当量675g/eq、数平均分子量1800、不飽和基含有量:エポキシ基と等量)
(B−3).アクリロイル基付加クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製 CNA-147、エポキシ当量518g/eq、数平均分子量2100、不飽和基含有量:エポキシ基と等量)
(C)熱硬化剤
(C−1).ノボラック型フェノール樹脂(昭和高分子(株)製 ショウノールBRG-556,
フェノール性水酸基当量104g/eq)
(C−2).ザイロック型フェノール樹脂(三井化学(株)製 ミレックスXLC−4L)
(D)エポキシ系熱硬化性樹脂
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製 エピコート828、エポキシ当量180-200g/eq)
(E)硬化促進剤
2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業(株)製 キュアゾ
ール2PHZ)
(F)カップリング剤
シランカップリング剤(日本ユニカー製 A-1110)
(H)無機充填材
溶融石英フィラー(平均粒径8μm)と合成シリカフィラー(平均粒径0.5μm)との、重量比9:1の混合物
(I)顔料
カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA-600、平均粒径28nm)
(実施例および比較例)
表1に記載の組成の保護膜形成用組成物を使用した。表中、数値は固形分換算の重量部を示す。表1に記載の組成の保護膜形成用組成物を、シリコーン処理された第1の剥離フィルム(リンテック株式会社製SP-PET1031)上に25μmの厚みになるように塗布、乾燥(乾燥条件オーブンにて100℃・2分間)した後、第2の剥離フィルムを乾燥した保護膜形成用組成物上に貼り合せ、チップ用保護膜形成用シートを得た。
【0081】
得られたチップ用保護膜形成用シートを用いて、耐熱信頼性評価、全光線透過率測定および印字性評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は本発明に係るチップ用保護膜形成用シートの断面図である。
【図2】図2は本発明に係る保護膜付半導体チップの断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 剥離シート
2 保護膜形成層
3 半導体ウエハ
4 保護膜
10 チップ用保護膜形成用シート
11 保護膜付半導体チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離シートと、
該剥離シートの剥離面上に形成された、アクリル重合体(A)、不飽和炭化水素基を有するエポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)を含む保護膜形成用組成物からなる保護膜形成層と
を有することを特徴とするチップ用保護膜形成用シート。
【請求項2】
前記不飽和炭化水素基を有するエポキシ系熱硬化性樹脂(B)が芳香環を有する樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のチップ用保護膜形成用シート。
【請求項3】
前記不飽和炭化水素基がアクリロイル基であることを特徴とする請求項1または2に記載のチップ用保護膜形成用シート。
【請求項4】
前記保護膜形成層の全光線透過率が30%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
【請求項5】
前記保護膜形成用組成物がさらに無機充填材を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
【請求項6】
前記保護膜形成用組成物が顔料および/または染料を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
【請求項7】
加熱硬化後の前記保護膜形成層の表面に印字可能であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
【請求項8】
前記印字の手段がレーザーマーキング法であることを特徴とする請求項7に記載のチップ用保護膜形成用シート。
【請求項9】
前記保護膜形成層の表面に、さらに第2の剥離シートを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のチップ用保護膜形成用シート。
【請求項10】
アクリル重合体(A)、不飽和炭化水素基を有するエポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)を含む保護膜形成用組成物からなる保護膜形成層を加熱硬化して得られる保護膜がチップ裏面に形成されてなることを特徴とする保護膜付半導体チップ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−248128(P2008−248128A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92386(P2007−92386)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】