説明

チロシナーゼ活性阻害剤

【課題】本発明は、安全性の高い天然物を原料とした、チロシナーゼ活性阻害作用に優れた、食品や化粧品の分野において、広く使用することができるチロシナーゼ活性阻害剤を提供することを目的とする。
【解決手段】オリーブ葉抽出物と、酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを含有することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤を含有させることで、安全性の高い天然物から、チロシナーゼ活性阻害作用に優れた、食品や化粧品の分野において、広く使用することができるチロシナーゼ活性阻害剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチロシナーゼ活性阻害剤に関する。さらに詳しくは、メラニン生成の原因となるチロシナーゼの活性を有意に抑制することができることを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メラニンは、紫外線から皮膚や組織を保護する役割を持つ色素である。一方で、過剰なメラニンは、皮膚においては、シミやソバカスなどの原因となり、キノコや甲殻類、果実などの食品においては、褐変の原因となる。
【0003】
一般にメラニンは、アミノ酸の一種であるチロシンを出発物質として生合成される。チロシンからドーパ、ドーパキノンなど、いくつかの中間体を経て、産生される物質であるが、チロシナーゼがこれらの反応を触媒している。したがって、チロシナーゼの活性を阻害することにより、メラニンの生成を抑制することができる。
【0004】
従来、チロシナーゼ活性を阻害する代表的な物質として、アスコルビン酸、グルタチオンなどが化粧品や食品の分野で使用されている。しかし、これら物質においては、酸化されやすい、特有の匂いがあるなどの問題点がある。
【0005】
また、フラボノイド −アルデヒド重縮合体を有効成分として含有することを特徴とするチロシナーゼ 活性阻害剤(例えば、特許文献1参照)、ローズヒップの抽出物を有効成分として含有するチロシナーゼ阻害剤(例えば、特許文献2参照)、松樹皮抽出物を含有させたチロシナーゼ阻害剤により、新規なチロシナーゼ阻害剤(例えば、特許文献3参照)、ツツジ科エリカの地上部の抽出物、甘草の根部の抽出物から得られる甘草フラボノイド、ウコギ科ニンジンの根部の抽出物、シソ科マジョラムの葉部の抽出物、及びスイカズラ科キンギンカの花部の抽出物、を組み合わせた混合物中のチロシナーゼ 活性阻害物質を有効成分として含有することを特徴とするチロシナーゼ 活性阻害剤(例えば、特許文献4参照)、4位置換レゾルシノール骨格を有する特定のフラボノイド 類の少なくとも1種を有効成分として含有するチロシナーゼ 活性阻害剤(例えば、特許文献5参照)、2'位及び4'位に水酸基を有するフラボノイド (但し、カルコン類は、2位及び4位、若しくは2'位及び4'位の少なくとも一方に水酸基を有しておれば良い)を有効成分として含有するチロシナーゼ 活性阻害剤(例えば、特許文献6参照)等フラボノイドを用いたチロシナーゼ活性阻害剤も提案されている。
【0006】
しかし、安全性の高い天然物系のものであって味や匂いの点でも添加対象物の品質に悪影響を及ぼさず、食品や化粧料に広く使用可能なものが、強く求められている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−244335
【特許文献2】特開2007−261987
【特許文献3】特開2003−238425
【特許文献4】特開2004−083476
【特許文献5】特開平11−255637
【特許文献6】特開平10−101543
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安全性の高い天然物から、チロシナーゼ活性阻害作用に優れた、食品や化粧品の分野において、広く使用することができるチロシナーゼ活性阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、オリーブ葉の抽出物と酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを併用することにより、優れたチロシナーゼ活性阻害作用を有することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記に挙げるものである。
項1.オリーブ葉抽出物と、酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを含有することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤。
項2.オリーブ葉抽出物と酵素処理イソクエルシトリンの配合割合が40:60〜95:5(固形換算)(質量比)であることを特徴とする項1記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
項3.オリーブ葉抽出物と酵素処理ルチンの配合割合が36:64〜87:13(固形換算)(質量比)であることを特徴とする項1記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
項4.オリーブ葉抽出物が親水性溶媒を含有する抽出溶媒により抽出された抽出物であることを特徴とする項1に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
項5.オリーブ葉抽出物と、酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを含有させることを特徴とするチロシナーゼ活性の阻害方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安全性の高い天然物から、チロシナーゼ活性阻害作用に優れた、食品や化粧品の分野において、広く使用することができるチロシナーゼ活性阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1)チロシナーゼ活性阻害剤
本発明は、オリーブ葉抽出物と、酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを含有することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤である。
【0013】
本発明において用いるオリーブ葉抽出物は、モクセイ科のオリーブ(Olea europaea L.)の葉から抽出して得られるものである。オリーブ葉には、植物そのものやその乾燥物、あるいは市販の乾燥粉末などが使用できる。
【0014】
抽出方法は特に限定されないが、例えば、オリーブ葉を抽出溶媒とともに浸漬または加熱還流して抽出することができる。
【0015】
上記抽出溶媒としては、通常に用いられる溶媒であれば任意に用いることができる。例えば、水、アルコール類(例えば、エタノール、メタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等)、含水アルコール類(即ち、水とアルコール類との混合物)、その他の有機溶媒(例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等)、超臨界二酸化炭素等を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができるが、少なくとも親水性溶媒を含むことが、食品などへの汎用性に優れたオリーブ葉抽出物を得るために適当である。上記親水性溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、ブタノール、アセトニトリル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0016】
酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンと組み合わせた場合の阻害活性に優れ、水溶性のチロシナーゼ阻害剤を効率良く抽出し得ることを考慮すると、好ましくは水または含水エタノール、更に好ましくは20〜60質量%エタノール水溶液を用いることが好適である。
【0017】
本発明のオリーブ葉抽出物は、オリーブ葉を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物が含まれる。またはこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれも含まれる。抽出物の乾燥物を適当な溶媒に再度溶解させて使用することもできる。粉体もしくは顆粒状に成形する際には、賦形剤としてデキストリン等を用いてもよい。
【0018】
本発明で用いる酵素処理イソクエルシトリンとは、イソクエルシトリンに糖供与体の存在下、糖転移酵素を作用して得られるもので、下式で示される、イソクエルシトリンと種々の程度にグルコシル化されたα−グリコシルイソクエルシトリンとの混合物をいう。
【0019】
【化1】

(式中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を示す)
【0020】
上記式において具体的には、酵素処理イソクエルシトリンは、α−1,4結合のグルコース残基数(n)が0のイソクエルシトリンと、α−1,4結合のグルコース残基数(n)が1以上、通常1〜15、好ましくは1〜10のα−グリコシルイソクエルシトリンとの混合物である。
【0021】
本発明で用いる酵素処理イソクエルシトリンは、異なるグルコース基の結合数(n)を有する種々の酵素処理イソクエルシトリンの混合物であってもよいが,グルコース基の結合数(n)が単一である一種の酵素処理イソクエルシトリンであってもよい。
【0022】
かかる酵素処理イソクエルシトリンは、イソクエルシトリンをグルコース基転移酵素で処理することによって調製することができる。制限されないが、通常、酵素処理イソクエルシトリンは、グルコシダーゼまたはトランスグルコシダーゼ等のグルコース残基転移酵素を用いて、イソクエルシトリンにグルコース残基を等モル以上転移させて配糖化することによって製造することができる。
【0023】
なお、イソクエルシトリンのグルコース残基へのグルコース基の結合数(上記式(1)においてnの数)は、特に制限されないものの、通常、前述するように1〜15、好ましくは1〜10の範囲になるように任意に調整することができる。かかる調整方法としては、例えば、酵素処理イソクエルシトリン生成後に、各種のアミラーゼ(α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、マルターゼ等)を単独もしくは複数組み合わせて処理する方法を挙げることができる。こうすることによって、前述する方法で得られた酵素処理イソクエルシトリン分子中のグルコース糖鎖数を減少させて、任意のグルコース糖鎖長を持つ酵素処理イソクエルシトリンを得ることもできる。
【0024】
斯くして得られる酵素処理イソクエルシトリンは、イソクエルシトリン(ケルセチン3−0−モノグルコサイド)のグルコース残基に更にグルコースが等モル以上量結合したα-グリコシルイソクエルシトリンを主成分とするものであって水易溶性である。
【0025】
本発明で用いる酵素処理ルチンとは、ルチンに糖供与体の存在下、糖転移酵素を作用して得られるもので、下式2で示される、ルチンと種々の程度にグルコシル化されたα−グリコシルルチンとの混合物をいう。
【0026】
【化2】

(式中、Glcはグルコース残基を、Rhaはラムノース残基を、nは0または1以上の整数を示す)
【0027】
上記式において具体的には、酵素処理ルチンは、α−1,4結合のグルコース残基数(n)が0のルチンと、α−1,4結合のグルコース残基数(n)が1以上、通常1〜15、好ましくは1〜10のα−グリコシルルチンとの混合物である。
【0028】
本発明で用いる酵素処理ルチンは、異なるグルコース基の結合数(n)を有する種々の酵素処理ルチンの混合物であってもよいが,グルコース基の結合数(n)が単一である一種の酵素処理ルチンであってもよい。
【0029】
かかる酵素処理ルチンは、ルチンをグルコース基転移酵素で処理することによって調製することができる。制限されないが、通常、酵素処理ルチンは、グルコシダーゼまたはトランスグルコシダーゼ等のグルコース残基転移酵素を用いて、ルチンにグルコース残基を等モル以上転移させて配糖化することによって製造することができる。
【0030】
なお、ルチンのグルコース残基へのグルコース基の結合数(上記式(1)においてnの数)は、特に制限されないものの、通常、前述するように1〜15、好ましくは1〜10の範囲になるように任意に調整することができる。かかる調整方法としては、例えば、酵素処理ルチン生成後に、各種のアミラーゼ(α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、マルターゼ等)を単独もしくは複数組み合わせて処理する方法を挙げることができる。こうすることによって、前述する方法で得られた酵素処理ルチン分子中のグルコース糖鎖数を減少させて、任意のグルコース糖鎖長を持つ酵素処理ルチンを得ることもできる。
【0031】
斯くして得られる酵素処理ルチンは、ルチンのグルコース残基に更にグルコースが等モル以上量結合したα-グリコシルルチンを主成分とするものであって水易溶性である。
【0032】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、オリーブ葉の抽出物と酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを含有することを特徴とするが、このオリーブ葉の抽出物と酵素処理イソクエルシトリンの割合は、40:60〜95:5(固形換算)、好ましくは70:30〜86:14(固形換算)である。また、このオリーブ葉の抽出物と酵素処理ルチンの割合は、36:64〜87:13(固形換算)、好ましくは57:43〜76:24(固形換算)である。
【0033】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤の使用量は特に制限はないが、例えば、食品に使用した場合には、0.0027〜2600ppm(固形換算)、好ましくは13〜1360ppmさらに好ましくは27〜270ppmである。本発明のチロシナーゼ活性阻害剤の使用量が0.0027ppm未満では、十分なチロシナーゼ阻害活性が得られず、2600ppmを超えて配合した場合には、着色等の問題が生じる可能性があり好ましくない。
【0034】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤には、本発明の目的を阻害しない限り、例えば糖質甘味料(砂糖、果糖、ブドウ糖、タガトース、アラビノース等の単糖類、乳糖、オリゴ糖、麦芽糖、トレハロース等の少糖類、水あめ、はちみつ、デキストリン、糖アルコール等)、高甘味度甘味料(スクラロース、アセスルファムK、ステビア等)、でん粉等の多糖類、油脂類、乳製品、安定剤、乳化剤、香料、色素、酸味料、風味原料(卵、コーヒー、茶類、ココア、果汁果肉、ヨーグルト、酒類等)、蛋白質、アミノ酸、食物繊維、ビタミン類、ミネラル、グルコサミン、酵母、卵殻膜、リコピン、アスタキサンチン、その他カロテノイド、シルク、コンドロイチン、セラミド、プラセンタエキス、フカヒレエキス、深海鮫エキス、スクワレン、γ−アミノ酪酸、生栗皮抽出物、栗の葉抽出物、栗のいが抽出物、栗果肉抽出物、栗樹皮抽出物、キャベツ発酵エキス、バラの花びら抽出物、ブドウ葉抽出物、ブドウ種子抽出物、りんごポリフェノール、カミツレエキス、ライチ種子エキス、ゴツコラエキス、月桃葉エキス、ハス胚芽エキス、スターフルーツ葉エキス、桑葉抽出物、グァバ茶抽出物、カテキン、ラズベリーケトン、低分子アルギン酸、イチョウ葉抽出物、松樹皮抽出物、キトサン、ヒアルロン酸、メチルスルフォニルメタン、コウジ酸、エラグ酸、グルタチオン、アルブチン、ルシノール、マグノリグナン、リン酸L−アスコルビン酸マグネシウム等を用いることができる。
【0035】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、粉末、顆粒および液体のいずれであってもよく、これらの製剤は常法に従い製造することができる。
【0036】
また、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、その効果を阻害しない限りは、他成分として、抗酸化剤、キレート剤等の助剤、並びに希釈剤や担体またはその他の添加剤を含有する組成物であってもよい。
【0037】
例えば食品に使用する場合、抗酸化剤としては、特に制限されることなく食品添加物として用いられるものを広く例示することができ、例えば、L−アスコルビン酸及びL−アスコルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸類;L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル等のアスコルビン酸エステル類;エリソルビン酸及びエリソルビン酸ナトリウム等のエリソルビン酸類;亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムやピロ亜硫酸カリウムなどの亜硫酸塩類等;α−トコフェロールやミックストコフェロール等のトコフェロール類;ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等;エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウムやエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム等のエチレンジアミン四酢酸類;没食子酸や没食子酸プロピル等の没食子酸類;アオイ花抽出物、アスペルギルステレウス抽出物、カンゾウ油性抽出物、食用カンナ抽出物、グローブ抽出物、精油除去ウイキョウ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、セージ抽出物、セリ抽出物、チャ抽出物、テンペ抽出物、ドクダミ抽出物、生コーヒー豆抽出物、ヒマワリ種子抽出物、ピメンタ抽出物、ブドウ種子抽出物、ブルーベリー葉抽出物、プロポリス抽出物、へゴ・イチョウ抽出物、ペパー抽出物、ホウセンカ抽出物、ヤマモモ抽出物、ユーカリ葉抽出物、リンドウ根抽出物、ルチン抽出物(小豆全草,エンジュ,ソバ全草抽出物)、ローズマリー抽出物等の各種植物の抽出物;その他、クエルセチン、ルチン酵素分解物(イソクエルシトリン)、酵素分解リンゴ抽出物、ゴマ油抽出物、菜種油抽出物、コメヌカ油抽出物、コメヌカ酵素分解物等を挙げることができる。
【0038】
このようにして得られたチロシナーゼ阻害剤は、各種飲食品はもちろん、医薬品等の経口摂取品や、化粧料又は洗髪料等の一般工業品にも応用することが可能である。
【0039】
なお、本発明の飲食品への上記チロシナーゼ阻害剤の添加時期は、各飲食品の特性、目的に応じ、製造工程の段階で適宜選択して添加すればよい。
【0040】
2)チロシナーゼ活性の阻害方法
本発明は、オリーブ葉の抽出物と、酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを用いることを特徴とするチロシナーゼ活性の阻害方法であり、配合比率は上述の通りである。オリーブ葉の抽出物の使用量は、例えば、果物等の食品の場合、0.0019〜1560ppm(固形換算)、好ましくは9〜950ppm、さらに好ましくは19〜190ppmが含有されていればよい。0.0019ppm未満では酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンと一緒に使用しても、チロシナーゼ活性の阻害効果が不十分であり、1560ppmを超える添加では着色の問題が生じるので好ましくない場合がある。
【0041】
酵素処理イソクエルシトリンの使用量は、例えば、果物等の食品の場合、0.0008〜1040ppm(固形換算)、好ましくは4〜410ppm、さらに好ましくは8〜81ppmが含有されていればよい。0.0008ppm未満では、オリーブ葉の抽出物と一緒に使用してもチロシナーゼ活性の阻害効果が不十分であり、1040ppmを超える添加では着色の問題が生じるので好ましくない場合がある。
【0042】
酵素処理ルチンの使用量は、例えば、果物等の食品の場合、0.0015〜1944ppm(固形換算)、好ましくは8〜766ppm、さらに好ましくは15〜151ppmが含有されていればよい。0.0015ppm未満では、オリーブ葉の抽出物と一緒に使用してもチロシナーゼ活性の阻害効果が不十分であり、1944ppmを超える添加では着色の問題が生じるので好ましくない場合がある。
【0043】
本発明のチロシナーゼ阻害剤は、安全性が高く、化粧品、食品などに配合することができ、また、変色防止等を目的とした食品の処理にも使用することもできる。例えば、菓子類(チューインガム、キャンディ、タブレット、チョコレート、ゼリー等)や、冷菓や、麺類を始めとする澱粉系食品や、粉末食品や、飲料(スープ、コーヒー、茶類、ジュース、ココア、アルコール飲料、ゼリー状ドリンク等)や、ベーカリー食品(パン、ビスケット等)や、油脂食品(マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド等)や、高塩分含有食品(味噌、醤油、漬物、佃煮、塩辛、ハム等)等の食品や、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄料、メーキャップ化粧料、分散液、軟膏、液剤、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤などの化粧品、外用医薬品等にも用いることができる。
【0044】
さらに本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を食品褐変防止剤として利用する場合、その対象となる食品としては、リンゴ、バナナ等の果物、マッシュルーム、シイタケ等のきのこ類、カニやエビ等の甲殻類、バレイショ、ゴボウ等の根菜類、キャベツ、レタス等の葉菜類、また、これらを含むカット野菜等が挙げられる。その使用方法としては、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を適当な溶媒で希釈し、この溶液を対象物に噴霧、または浸漬させることで食品表面の褐変を防止することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。特に記載のない限り「部」とは、「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0046】
(調製例1:オリーブ葉熱水抽出物)
オリーブ葉の粉末10gをイオン交換水90gに加え、80℃で3時間加熱撹拌し、ろ過して得られたろ液を抽出物1とした。なお、得られた抽出物1の固形物含量は3.1%であった。
【0047】
(調製例2:オリーブ葉50%含水エタノール抽出物)
オリーブ葉の粉末10gを50%含水エタノール90gに加え、60℃で3時間加熱撹拌し、ろ過して得られたろ液を抽出物2とした。なお、得られた抽出物2の固形物含量は3.3%であった。
【0048】
(調製例3:オリーブ葉99%エタノール抽出物)
オリーブ葉の粉末10gを99%エタノール90gに加え、60℃で3時間加熱撹拌し、ろ過して得られたろ液を抽出物3とした。なお、得られた抽出物3の固形物含量は2.5%であった。
【0049】
(調製例4:酵素処理イソクエルシトリン水溶液)
酵素処理イソクエルシトリンは本出願人による特許出願の方法(特許第3510717号 調製例参照)にて調製した。
【0050】
(1)イソクエルシトリンの調製
マメ科植物であるエンジュのつぼみ6kgを60kgの熱水(95℃以上)に2時間浸漬した後、濾別した濾液を「第1抽出液」として取得した。一方、濾別した残渣を更に熱水に浸漬して抽出し、「第2抽出液」を得た。これらの第1および第2抽出液を合わせ、30℃以下に冷却して沈殿した成分を濾別し、沈殿部を水洗、再結晶、乾燥することにより、純度95%以上のルチン547gを得た。
【0051】
水100Lにルチン500gを分散し、これにナリンギナーゼ(天野エンザイム(株)、商品名ナリンギナーゼ”アマノ”)を50g添加した。この系のpHは6であった。これを5時間50℃に保持したのち、濃縮し、50Lとした。冷却したところイソクエルシトリンが沈殿した。沈殿物をろ別して集め、乾燥することによりイソクエルシトリン320gを得た。
【0052】
(2)酵素処理イソクエルシトリンの調製
上記で得られたイソクエルシトリン320gに100Lの水を加え、デキストリン800gを添加し、均質にし、これにCGTase(天野エンザイム(株)、商品名コンチザイム)200mlを添加し温度55℃、pH7.0にて24時間保持した。この溶液を吸着樹脂カラム(三菱化学(株)製ダイヤイオンHP−20)に付加し、次いでカラムに50%エタノール水溶液を供し、得られた溶出液を減圧濃縮した後、凍結乾燥して、イソクエルシトリンとα-グリコシルイソクエルシトリンとの混合物である酵素処理イソクエルシトリン395g(ルチン換算含量:80.2%)を得た。こうして得られた酵素処理イソクエルシトリンを用いて、イオン交換水にて20mg/mLの溶液を調整した。
【0053】
(調製例5:酵素処理ルチン水溶液)
調製例4と同様の方法で得たルチン5gに500mLの水を加え、デキストリン25gを添加し、均質にし、これにCGTase(天野エンザイム(株)、商品名コンチザイム)5gを添加し温度55℃、pH7.0にて24時間保持した。この溶液を吸着樹脂カラム(三菱化学(株)製ダイヤイオンHP−20)に付加し、次いでカラムに50%エタノール水溶液を供し、得られた溶出液を減圧濃縮した後、凍結乾燥して、ルチンとα−グリコシルルチンとの混合物である酵素処理ルチン9.6g(ルチン換算含量:42.9%)を得た。こうして得られた酵素処理ルチンを用いて、イオン交換水にて20mg/mLの溶液を調整した。
【0054】
実験例A:メラニン生成量から求めるチロシナーゼ活性阻害測定(吸光度法)
以下の方法により、本発明のオリーブ葉抽出物および酵素処理イソクエルシトリン(以下、「EMIQ」という)の単独または組み合わせた製剤のチロシナーゼ活性阻害率を調べた。
【0055】
上記調製例で得た抽出物1〜3およびEMIQ水溶液または酵素処理ルチン水溶液を表1および表2の配合になるように調整し、あらかじめ30℃に加温しておいた3.0mMのL−DOPA(和光純薬工業(株))0.95mLを加え、さらに0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)を加え1.95mLとし、これを30℃で10分間インキュベートした。その後、あらかじめ30℃に加温しておいた600U/mLのチロシナーゼ(SIGMA-ALDRICH)溶液0.05mLを加え、30℃で30分間インキュベートし、メラニン量の指標である475nmの波長で吸光度測定し、この値をSAbs475とした。試料無添加の場合をコントロールとし、この吸光度をCAbs475とした。L−DOPA無添加の場合をサンプルブランク、この吸光度をSBAbs475、試料とL−DOPA無添加の場合をコントロールブランク、この吸光度をCBAbs475とし、計算によりチロシナーゼ活性阻害率を算出した。ポジティブコントロールとしてコウジ酸(キシダ化学(株))の20mg/mL水溶液を用いた。
【0056】
チロシナーゼ活性阻害率(%)={1−(SAbs475−SBAbs475)/(CAbs475−CBAbs475)}×100
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
上記より、オリーブ葉抽出物とEMIQまたは酵素処理ルチンを組み合わせた場合には、それぞれを単独で用いた場合よりチロシナーゼ活性阻害作用が高く相乗的な活性を示し、従来チロシナーゼ活性阻害剤として知られているコウジ酸よりも高いチロシナーゼ活性阻害の効果があった。
【0060】
また、上記と同様の方法で、オリーブ葉抽出物およびEMIQまたは酵素処理ルチンの最適な配合比率を確認するため、以下の実験を行った。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
上記より、オリーブ葉抽出物とEMIQの配合比率において、40:60〜95:5(固形換算)、オリーブ葉抽出物と酵素処理ルチンの配合比率において、36:64〜87:13(固形換算)で配合させた場合に、優れたチロシナーゼ活性阻害を持つことを確認した。
【0064】
実験例B:基質(L−DOPA)の残存量から求めるチロシナーゼ活性阻害測定(HPLC法)
以下の方法により、本発明のオリーブ葉抽出物およびEMIQを組み合わせた製剤のチロシナーゼ活性阻害作用を調べた。
【0065】
予め、試料として調製例1で得た抽出物1および調製例4で得たEMIQ水溶液を7:3(固形換算)で混合した製剤を用い、反応系中の濃度が、1.3、0.67、0.27、0.027、0.0027ppmとなるように調整を行った。
【0066】
各試料に、あらかじめ30℃に加温しておいた3.0μMのL−DOPA(和光純薬工業(株))0.95mLを加え、さらに0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)を加え1.95mLとし、これを30℃で10分間インキュベートした。その後、あらかじめ30℃に加温しておいた0.6U/mLのチロシナーゼ(SIGMA-ALDRICH)溶液0.05mLを加え、30℃で30分間インキュベートし、下記分析条件により、L−DOPAの面積値を求め、これをSとした。試料無添加の場合をコントロールとし、この面積値をCとした。試料とチロシナーゼ無添加の場合をコントロールブランク、この面積値をCBとし、計算によりチロシナーゼ活性阻害率を算出した。
【0067】
チロシナーゼ活性阻害率(%)={1−(CB−S)/(CB−C)}×100
【0068】
<HPLC分析条件>
カラム:Luna 5u C18(2)(250mm×2.0mm,5μm、Phenomenex)、カラム温度:30℃、移動相:0.1%リン酸、流量:0.2mL/min、検出器:UV検出器、波長280nm、注入量:50μL、分析時間:20分
【0069】
【表5】

【0070】
上記より、オリーブ葉抽出物とEMIQを組み合わせた製剤0.0027ppm(固形換算)以上の添加で、チロシナーゼ活性阻害効果があった。
【0071】
実施例1:リンゴすりおろし果汁の褐変抑制
調製例1で得た抽出物1および調製例4で得たEMIQ水溶液を6:4(固形換算)で混合した製剤を0.5%含有する水溶液(固形換算130ppm)に、約1.5cm四方に角切りしたリンゴを2分間浸漬させた後、水気をふき取ってすりおろし、ろ過して得た果汁の475nmにおける吸光度を測定した。比較のため、製剤を添加しない水に浸漬させたリンゴの果汁についても測定した。すりおろし開始から2分後より測定を開始し、リンゴ果汁の褐変の様子を吸光度にて確認し、図1にその変化を示した。
【0072】
図1より、オリーブ葉抽出物と酵素処理イソクエルシトリンを組み合わせた製剤を使用することで、リンゴ果汁の褐変を抑制できることを確認した。また、本実験に使用した製剤を10%含有する水溶液(固形換算2600ppm)を使用した場合、着色による影響がみられたことから、10%以下(固形換算2600ppm以下)での使用が望ましい。
【0073】
実施例2:マッシュルームの黒変抑制
調製例1で得た抽出物1および調製例4で得たEMIQ水溶液を6:4(固形換算)で混合した製剤を0.1%含有する水溶液(固形換算26ppm)に、スライスしたマッシュルーム8個を1分間浸漬させ、乾燥しないように包装して、15℃で保存した。比較のため、製剤を添加しない水に浸漬させたマッシュルームについても15℃で保存した。
【0074】
1時間後、外観検査を行ったところ、製剤を添加しない水で処理したマッシュルーム8個すべてが黒変しているのに対して、製剤を添加した水溶液に浸漬させたものについては、黒変が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のチロシナーゼ阻害剤は、安全性の高い天然物を原料としたものであり、標準的な使用方法では添加対象物の味や匂いにも悪影響を及ぼさないので、食品、魚介類飼料などの変色防止や品質保持剤、化粧品の組成物など、広い分野で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】リンゴ果汁の褐変の様子を吸光度にて示したグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブ葉抽出物と、酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを含有することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項2】
オリーブ葉抽出物と酵素処理イソクエルシトリンの配合割合が40:60〜95:5(固形換算)(質量比)であることを特徴とする請求項1記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
オリーブ葉抽出物と酵素処理ルチンの配合割合が36:64〜87:13(固形換算)(質量比)であることを特徴とする請求項1記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項4】
オリーブ葉抽出物が親水性溶媒を含有する抽出溶媒により抽出された抽出物であることを特徴とする請求項1に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項5】
オリーブ葉抽出物と、酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを含有させることを特徴とするチロシナーゼ活性の阻害方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−280550(P2009−280550A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136836(P2008−136836)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】