テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法、並びに、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体及びその用途
【課題】工業的製造に有利なテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中にて、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
【解決手段】炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中にて、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工業的製造に有利なテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法に関する。
また、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を含有する抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、テルペン系化合物は抗菌性、防黴性、生物忌避性を有することが知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。また、テルペン系化合物と構造類似の合成化合物であるアリルフェノールも抗菌性、防黴性、生物忌避性を有することが知られている。しかし、これらテルペン系化合物やアリルフェノールは、微弱ながらも揮発性であるため、その効力を長期にわたって持続させることができないという問題がある。
【0003】
一方、テルペン系化合物は、テルペン系化合物が有する二重結合(炭素−炭素二重結合)を利用して、テルペン系化合物と酢酸ビニルとをラジカル共重合して、高分子量化することにより、テルペン系化合物の揮発性を抑えることができることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この共重合体中のどのようなものが抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として実用的に適用し得るのかについては、具体的には何ら明らかにされていない。また、アリルフェノールについては高分子量化によって、その抗菌性、防黴性、生物忌避性の効力が持続するのか、また、抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として実用的に適用し得るのかについて、何等明らかにされていない。
【0004】
さらに、テルペン系化合物の重合体、テルペン系化合物と他の二重結合(炭素−炭素二重結合)を有する付加重合性化合物との共重合体、アリルフェノールの重合体等について、これらを工業的に製造するに有利な方法は見出されていない。例えば、特許文献1では、テルペン系化合物の一つであるテルペンアルコールの重合体をポリウレタン原料用の耐加水分解性重合物として使用することを提案し、テルペンアルコールを有機過酸化物と加熱反応させることでテルペンアルコールの重合体を得ている。しかし、かかる加熱反応はt−ブチルパーオキサイドを使用した非水系の塊状重合であり、窒素雰囲気下、反応温度が110〜180℃という、厳しい反応条件であり、工業的に製造するに有利な方法とはいえない。
【特許文献1】特開平2−20503号公報
【非特許文献1】堀口博著「防菌防黴の化学」三共出版,4−9頁,昭和61年2月25日発行
【非特許文献2】中国地域産学官コラボレーションシンポジウムinやまぐち要旨集,63頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、工業的製造に有利なテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法を提供することである。
また、抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として実用的に適用し得るテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物や該テルペン系化合物と構造類似のアリルフェノールを塩基性の過酸化水素水に溶解乃至分散させて50〜100℃程度に加熱すると、重合反応が速やかに進行して、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体が得られること、さらに炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水に溶解乃至分散させて50〜100℃程度に加熱すると、重合反応が速やかに進行して、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体(共重合体)が得られることを見出した。また、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物(特に、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、クロトン酸ヒドロキシアルキル等)との共重合体は、(メタ)アクリル系化合物が共重合されていることにより、加工性が向上し、フィルム等への加工や成形材料への混合が容易になることも見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中にて、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
(2)炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中に投入、攪拌して、乳化させ、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
(3)加熱温度が50〜100℃である、上記(1)又は(2)記載の方法。
(4)塩基性の過酸化水素水を取り囲む雰囲気が大気雰囲気である、上記(1)又は(2)記載の方法。
(5)炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物が、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、オイゲノール、ゲラニオール、イソオイゲノール、α−イオノン、リモネン、テレピノレン、γ−テレピネン、3−カレン、ペリルアルデハイド、β−イオノン、β−ピネン、アロオシメン、ミルセン、α−テレピネオール及びリナロールから選ばれる少なくとも一種である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6)他の付加重合性不飽和化合物が、ビニルエステル化合物又は/及び(メタ)アクリル系化合物である、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法。
(7)平均重合度が3〜10のアリルフェノール重合体。
(8)炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体。
(9)(メタ)アクリル系化合物が、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルである、上記(8)記載の重合体。
(10)アリルフェノールとビニルエステル化合物との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、アリルフェノールとビニルエステル化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、アリルフェノール系重合体。
(11)ビニルエステル化合物が酢酸ビニルである、上記(10)記載の重合体。
(12)上記(7)〜(11)のいずれか一つに記載の重合体を含有する抗菌剤。
(13)上記(7)〜(11)のいずれか一つに記載の重合体を含有する防黴剤。
(14)上記(7)〜(11)のいずれか一つに記載の重合体を含有する害虫生物忌避剤。
【0008】
なお、本発明において、「テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体」とは、「テルペン系化合物の重合体」、「アリルフェノールの重合体」、「テルペン系化合物とアリルフェノールとの共重合体」又は「テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体」を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法によれば、大気雰囲気下、水系の反応系で、比較的低い反応温度で重合反応が進行して、比較的短時間で実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体を製造することができる。従って、反応制御が容易で、安全性に優れ、しかも、製造コストを低減できるため、工業的規模でのテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造に有利である。
【0010】
本発明方法で製造されるテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体は、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有し、しかも、高分子化により揮発の問題がなくなるため、これらの作用が長期にわたって持続する。さらに、高分子化により、抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用に関与する官能基が局所的に高濃度となるため、その集積効果によりこれらの作用が増大する。
【0011】
また、当該テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体のうち、特に、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物との共重合体については、(メタ)アクリル系化合物が共重合されていることにより、加工性が向上し、フィルム等への加工や成形材料への混合が容易になり、さらにその(メタ)アクリル系化合物が(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルやクロトン酸ヒドロキシアルキル等のヒドロキシアルキル基を含有する化合物である場合、共重合体に親水性が付与されるため、重合体自体に親水性が要求される各種用途や水系溶媒が用いられる各種用途に広く適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法は、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物(すなわち、テルペン系化合物及びアリルフェノール以外の付加重合性不飽和化合物)との混合物を、塩基性の過酸化水素水中にて、加熱下に重合させることを主たる特徴としている。
【0013】
本発明方法では、塩基性の過酸化水素水を使用することが重要であり、重合反応は、過酸化水素から発生するラジカルを開始剤として進行する。重合形態(ラジカル重合の形態)は、水溶液重合、懸濁重合、乳化重合等のいずれでもよいが、水を媒体として使用する点や生成ポリマー(テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体)が水系分散媒に乳濁したラテックスとして得られ、それを塗料(抗菌塗料、防黴塗料等)、接着剤(抗菌接着剤、防黴接着剤等)にそのまま使用したり、塗料、接着剤等の改質剤としてそのまま使用することができる点で、乳化重合が好ましい。すなわち、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性過酸化水素水中に投入、攪拌して、乳化させ、加熱下に重合させるのが好ましい。
【0014】
本発明方法において、塩基性の過酸化水素水は、モノマー(すなわち、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物)に対し、2体積倍以上使用するのが好ましい。すなわち、充分量の水が存在する水系の反応系であることにより、テルペン類等におけるテルペン構造中の二重結合の位置が接近しやすくなり、重合反応が速やかに進行するものと考えられる。従って、塩基性の過酸化水素水の量はより好ましくはモノマーに対して5体積倍以上である。なお、塩基性の過酸化水素水の量の上限は特に限定はされないが、反応速度等の反応制御の観点から、10体積倍以下が好ましい。
【0015】
塩基性の過酸化水素水における過酸化水素の濃度は過酸化水素水全体当たり5〜15重量%が好ましく、8〜10重量%であるのがより好ましい。過酸化水素の濃度が5重量%未満では反応速度が遅くなり、効率低下をきたしやすく、15重量%を超える場合、反応が激し過ぎる傾向となるため、好ましくない。
【0016】
塩基性の過酸化水素水は、過酸化水素水にアルカリを配合することで調製されるが、通常、過酸化水素水とアルカリ水溶液を混合するか、あるいは、これらにさらに水を混合することで調製される。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジプロピルアミン、N,N−ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルアミン等のアミン類等が挙げられるが、コスト等の点から、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0017】
塩基性の過酸化水素水のpHは一般に12〜14、好ましくは12〜13である。pHが12未満では反応速度が極端に低下しやすくなるため、好ましくない。なお、pHが14でも反応には大きく影響しないが、アルカリ使用量が増えるため、コスト的に不利である。
【0018】
本発明方法では、重合系(すなわち、塩基性の過酸化水素水)を取り囲む雰囲気を、窒素等の不活性ガス雰囲気にする必要はなく、大気雰囲気下で充分に重合反応が進行する。従って、実質的に重合反応の管理は温度管理のみでよい。
【0019】
重合温度(加熱温度)は、一般的に50〜100℃が、好ましくは70〜80℃である。本発明方法はこのような比較的低い加熱温度で重合反応が速やかに進行する。
【0020】
本発明方法は、前記のように、乳化重合の重合形態を採るのが好ましいが、乳化重合の際のモノマー(すなわち、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物)を塩基性の過酸化水素水に乳化させる方法は、従来から乳化重合で使用されている一般的な攪拌装置(例えば、ホモジナイザー、スターラーと反応容器の組み合せ等)を使用すればよい。なお、テルペン系化合物やアリルフェノールは水中に投入し、攪拌装置で攪拌すれば、充分に乳化し得る好ましい性質を有しており、乳化のための界面活性剤は必ずしも必要ではない。すなわち、本発明方法では、実質的に界面活性剤を使用せずに、目的の重合体(実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体)を水系溶媒中で製造することができる。なお、界面活性を使用する場合は、一般的な乳化重合で使用される公知のアニオン系界面活性剤 、カチオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤等を適当量使用すればよい。
【0021】
本発明方法において、重合時間は、テルペン系化合物の重合体、アリルフェノールの重合体、又はテルペン系化合物とアリルフェノールとの共重合体を製造する場合、通常、24〜48時間であり、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体を製造する場合は2〜24時間程度である。すなわち、本発明方法では、特に、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体を極めて短時間で製造することができる。
【0022】
重合反応終了後は、反応生成物から水及び未反応のモノマーを除去するために、通常、100℃以上に反応系を加熱する。この際の加熱時間は1〜4時間程度が好ましい。
【0023】
重合体の回収(単離)方法は特に限定はされないが、例えば、減圧下で溶媒や残存モノマー等を留去する方法、重合体に対する多量の貧溶媒に反応混合物を投入し、沈殿物をろ過により回収する方法等が挙げられる。
【0024】
本発明方法では、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上という収率で製造することができ、特にテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体の場合は60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上という高い収率で製造することができる。
【0025】
本発明方法に使用される炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物は特に限定はされないが、好ましくは、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、オイゲノール、ゲラニオール、イソオイゲノール、α−イオノン、リモネン、テレピノレン、γ−テレピネン、3−カレン、ペリルアルデハイド、β−イオノン、β−ピネン、アロオシメン、ミルセン、α−テレピネオール、リナロール等が挙げられる。これらは一種又は2種以上を使用することができる。
【0026】
また、本発明方法に使用できる、テルペン系化合物やアリルフェノール以外の他の付加重合性不飽和化合物としては、テルペン系化合物やアリルフェノールとラジカル共重合し得るものであれば、特に限定はされないが、テルペン系化合物やアリルフェノールとの反応性の点から、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル系化合物等が挙げられる。なお、本発明でいう「(メタ)アクリル系化合物」とは、骨格中に(メタ)アクリロイル基を有する化合物の意味であり、(メタ)アクリル酸及びそのエステル類以外に、クロトン酸及びそのエステル類等のメチルアクリル酸系化合物も包含する。ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル系化合物は、それぞれを単独で使用しても、両者を併用してもよい。
【0027】
上記ビニルエステル化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル化合物等が挙げられる。これらのうち、炭素数4〜9のビニルエステル化合物が好ましく、特に原料入手の容易さの観点から、酢酸ビニル、安息香酸ビニルが好ましく、テルペン類やアリルフェノールとの共重合体とした場合の成形材料向け用途やフィルム向け用途への適用の容易さの観点からは、酢酸ビニルが好ましい。これらビニルエステル化合物は1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
また、上記(メタ)アクリル系化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、クロトン酸、クロトン酸アルキル、クロトン酸ヒドロキシアルキル等が挙げられる、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、クロトン酸アルキル、クロトン酸ヒドロキシアルキルのアルキル部は、炭素数が好ましくは1〜20、より好ましくは2〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキルである。(メタ)アクリル酸アルキル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルなどが挙げられる。また、クロトン酸アルキル及びクロトン酸ヒドロキシアルキルの具体例としては、例えば、クロトン酸メチル、クロトン酸ブチル、クロトン酸−エチルヘキシル、クロトン酸2−ヒドロキシエチル、クロトン酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
【0029】
なお、(メタ)アクリル系化合物は、特に共重合体への親水性の付与、反応性の付与等の観点から、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルが好ましく、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルが特に好ましい。
【0030】
本発明方法で得られる、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体は概ね平均重合度が3〜100の重合体となる。すなわち、テルペン系化合物の重合体及びアリルフェノールの重合体においては、重合度は3〜20(好ましくは3〜15、特に好ましくは3〜10、より好ましくは2〜5)であり、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体においては、重合度は3〜100(好ましくは3〜50)である。かかる平均重合度の重合体は優れた抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する。
【0031】
本発明では、上記のように、テルペン系化合物に代えて、或いは、テルペン系化合物とともに、オイゲノールと構造が類似するアリルフェノールを使用するが、アリルフェノールをテルペン系化合物と同様の取扱いによって、高分子量化でき、また、他の付加重合性不飽和化合物と共重合化できて、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体が得られることは新規な知見であった。
【0032】
すなわち、上記の本発明方法で得られる、アリルフェノールの重合体、アリルフェノールとビニルエステル化合物との共重合体、及びアリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物との共重合体が、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体となることは従来は知られていなかった。そこで、重合開始剤にペルオキソ二硫酸アンモニウムを使用し、分散安定剤(乳化剤)にポリビニルアルコール(PVA)を使用した一般的な乳化重合法により、アリルフェノールとビニルエステル化合物の共重合体を製造したところ、そうして得られるアリルフェノールとビニルエステル化合物(特に酢酸ビニル)の共重合体も、特定の重合度及び共重合比を有することで、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有することが分かった。
【0033】
さらに、重合開始剤に一般的な2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を使用した塊状重合法で、アリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物との共重合体を製造したところ、そうして得られるアリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物(特にアクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル)との共重合体も、特定の重合度及び共重合比を有することで、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有することが分かった。
【0034】
またさらに、重合開始剤に一般的な2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を使用した塊状重合法で、テルペン系化合物(炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物)と(メタ)アクリル系化合物との共重合体を製造したところ、そうして得られる共重合体(特にテルペン系化合物とアクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとの共重合体)も、特定の重合度及び共重合比を有することで、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有することが分かった。
【0035】
従って、本発明は、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物(特に、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル)との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、抗菌剤、防黴剤または害虫生物忌避剤として有用な、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を提供する。
【0036】
すなわち、平均重合度及び共重合比がともに上記の範囲内にあれば、当該共重合体は優れた抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する。さらに、難揮発性(無臭性)及び効果の持続性の観点から、当該共重合体の平均重合度は3〜50であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、3〜5であることがとりわけ好ましい。また、共重合比は、官能基の集積効果の観点から、モル比で1:1〜8の範囲内であることがより好ましい。
【0037】
また、本発明は、アリルフェノールとビニルエステル化合物(特に酢酸ビニル)との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、アリルフェノールとビニルエステル化合物との共重合比が1:1〜20(モル比)である、抗菌剤、防黴剤または害虫生物忌避剤として有用な、アリルフェノール系重合体を提供する。
【0038】
すなわち、平均重合度及び共重合比がともに上記の範囲内にあれば、当該共重合体は優れた抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する。さらに、難揮発性(無臭性)及び効果の持続性の観点から、当該共重合体の平均重合度は3〜50であることが好ましく、10〜50であることがより好ましく、10〜30であることがとりわけ好ましい。また、共重合比は、官能基の集積効果の観点から、モル比で1:1〜8の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
本発明において、共重合比は、元素分析装置(パーキンエルマー2400型、CHNS/O)を用い、共重合体の炭素の含有率(%)を定量し、計算することにより求められる共重合比をいう。
【0040】
本発明において、平均重合度は、元素分析装置(パーキンエルマー2400型、CHNS/O)を用い、重合体の末端の窒素の含有量を定量し、計算することにより求められる平均重合度をいう。なお、末端に窒素をもたない重合体については、GPC((株)島津製作所製、クロマトパック C−R3A)により、ポリエチレングリコールを標準試料として測定した平均重合度である。
【0041】
なお、本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体において、テルペン類は、抗菌作用の観点からは、オイゲノール、ゲラニオール、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、ペリルアルデハイド、ネロール、リナロール等が特に好ましく、ゲラニオール、リナロールがとりわけ好ましい。また、防黴作用の観点からは、ゲラニオール、γ−テレピネン等が特に好ましい。また、害虫忌避作用の観点からは、イソオイゲノール、オイゲノールが特に好ましく、イソオイゲノールがとりわけ好ましい。また、アリルフェノールは抗菌作用、防黴作用、害虫忌避作用のいずれにおいても優れるものである。
【0042】
本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体は、抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として有用である。
抗菌剤として使用する場合の対象となる菌は、大腸菌、枯草菌、腸球菌、肺炎菌、プロテウスミタビリス、化膿溶連菌、緑膿菌等の病原細菌である。
防黴剤として使用する場合の対象となる黴は、アオカビ、クロカビ等であり、特にアオカビ、クロカビに対して優れた防黴作用を示す。
害虫生物忌避剤として使用する場合の対象となる害虫生物は、ナメクジ、カタツムリ、シロアリ、アリ、ケラ、ダニ、原生生物(例、アメーバ、ゾウリムシ、アオミドロ等)等であり、特にナメクジ、アリ、原生生物に対して優れた害虫生物忌避作用を示す。
【0043】
抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として使用する場合には、その使用形態には特に制限はなく、使用形態の例としては、(A)本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を成形体の中に混入させる、(B)本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を成形体化又はフィルム化する、(C)本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を溶液化する、(D)本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を溶液化し、基材(フィルム、テープ、繊維、成形体等)に塗布、又は当該基材を本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の溶液に浸漬し、乾燥して、基材表面を本発明のテルペン系重合体でコーティングする、(E)本発明のテルペン系重合体を塗料に混合する、(F)塩基性の過酸化水素水中で乳化重合して生成した本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体のラテックスを基材(フィルム、テープ、繊維、成形体等)に塗布、又は当該基材をラテックスに浸漬し、乾燥して、基材表面を本発明のテルペン系重合体でコーティングする、(G)該ラテックスを接着剤に混合する、又はそのまま接着剤としてそのまま使用する、等が挙げられる。
【0044】
これらの使用態様の具体的な例としては、カテーテルに本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の溶液又はラテックスを塗布・乾燥してコーティングした抗菌カテーテル、ティッシュを本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の溶液又はラテックスに浸漬し乾燥させた除菌ティッシュ、テープに本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の溶液又はラテックスを塗布・乾燥してコーティングしたナメクジ忌避テープ及びアリ忌避テープ、本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を塗料に混合した船底防汚塗料、網を本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体溶液又はラテックスに浸漬してコーティングしたいけす防汚物ネット、本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の水溶液又はラテックスを含む消毒剤又は化粧水、包装紙を本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の水溶液又はラテックスに浸漬し乾燥させた果物包装紙、本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を成形した排水管、防腐ラベル、人工土壌等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例に限られるものではない。
【0046】
実施例1〜14
12種のモノマー(アリルフェノールと13種のテルペン類(イソオイゲノール、オイゲノール、ゲラニオール、シトラール、シトロネロール、シトロネラール、リナロール、ネロール、α−イオノン、フトール、ペリルアルデハイド、リモネン、ミルセン))を用意し、以下の操作で重合反応を行った。
【0047】
塩基性にした過酸化水素水(0.5mol/lのNaOH水溶液約5ml、35%過酸化水素(H2O2)水10ml及び水20mlの混合水溶液35ml(pH:13、過酸化水素濃度:10重量%))とモノマー(二重結合一つに対して)100mmolをサンプル瓶(110ml)に入れ、室温で激しく攪拌し、乳濁させた後、徐々に温度を上げた。約70℃で1日間反応を行った。その後、100℃のオイルバスで水を取り除いた。アセトンを加え反応物を取り出し、NaOHと分離した。濾液をエバポレーターにかけた。この作業(デカンテーション)を2、3回行い、合成物を精製した。下記表1に生成重合体の収率を示す。なお、重合体生成の確認はFT−IRにて行った。図1及び図2はその一例であり、アリルフェノール及びアリルフェノール重合体のFT−IRの測定結果を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
ここで、リナロールの収率が極端に低いのは、リナロール特有の水酸基が分子の中間に存在する分子構造が影響し、水に分散した際に一定方向に配向せず、二重結合が十分に近接しないために、塊状重合も起こっているためと考えられる。ただし、リナロールの重合反応制御において水の存在及び過酸化水素による作用が認められた。
【0050】
実施例15〜26
モノマーとして下記表2に記載のテルペン類(11種)又はアリルフェノール(50mmol)と、2−ヒドロキシエチルアクリレート(100mmol)の混合物を使用した以外は、前記実施例(実施例1〜14)と同様の操作により、重合反応を行った。下記表2に生成重合体の収率を示す。なお、重合体生成の確認はFT−IRにて行った。
【0051】
【表2】
【0052】
実施例1〜26で得られた重合体の平均重合度を、以下の方法により求めた。また、実施例15〜26で得られた共重合体の共重合比を以下の方法により求めた。テルペン系化合物又はアリルフェノールの単独重合体(実施例1〜12)の測定結果を表3に、テルペン系化合物又はアリルフェノールと2−ヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体(実施例15〜26)の測定結果を表4に示す。
〔平均重合度〕
元素分析装置(パーキンエルマー2400型、CHNS/O)を用い、重合体の末端の窒素の含有量を定量し、計算することにより求めた。
〔共重合比〕
元素分析装置(パーキンエルマー2400型、CHNS/O)を用い、共重合体の炭素の含有率(%)を定量し、計算することにより求めた。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
実施例27(アリルフェノール−酢酸ビニル共重合体)
ポリビニルアルコール(重合度2000)6gを水60mlに溶かした。溶かしたポリビニルアルコールに酢酸ナトリウム1.5gを加え溶かした後に、さらに水60ml加えた。次にアリルフェノールと酢酸ビニルが30gになるように加えた。開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)をアリルフェノールと酢酸ビニルとの合量に対して1/50mol加えた。
・アリルフェノールと酢酸ビニルのモル比が1:4の場合(実施例27A)
アリルフェノール:酢酸ビニル:APS=58.8mmol:235.3mmol: 5.88mmol
・アリルフェノールと酢酸ビニルのモル比が1:9の場合(実施例27B)
アリルフェノール:酢酸ビニル:APS=33.4mmol:300.6 mmol:6.67mmol
・アリルフェノールと酢酸ビニルのモル比が1:15の場合(実施例27C)
アリルフェノール:酢酸ビニル:APS=20.0mmol:300.0mmol:6.40mmol
反応は約3日間行なった。その後、ミセルを破壊するために、水を取り除き、生成物の10倍のメタノールを加え、1、2分間ミキサーにかけた。ポリビニルアルコールを取り除き、メタノール溶液の合成物をエバポレーターでメタノールを飛ばし、合成物を回収した。
また、参考例として、アリルフェノールの代わりにテルペン類(イソオイゲノール)を使用し、同様の重合反応を行った(参考例1A〜1C)。
これらの結果を表5に示す。なお、平均重合度、共重合比は前記と同様の方法で求めた。
【0056】
【表5】
【0057】
実施例28〜46
(テルペン類又はアリルフェノールと2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の共重合体)
下記表6〜9に示すテルペン類(17種)とアリルフェノールについて、それぞれ、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)と1:1、1:2、1:4、1:6のmol比の割合にAIBNを合量の0.05倍で約60℃のシェーカーに入れ、3−4時間反応させた。
・テルペン類又はアリルフェノールとHEAのモル比が1:1の場合
テルヘ゜ン類又はアリルフェノール:HEA:AIBN=10mmol:10mmol:1.0mmol
・テルペン類又はアリルフェノールとHEAのモル比が1:2の場合
テルヘ゜ン類又はアリルフェノール:HEA:AIBN=50mmol:100mmol:7.5 mmol
・テルペン類又はアリルフェノールとHEAのモル比が1:4の場合
テルヘ゜ン類又はアリルフェノール:HEA:AIBN=50mmol:200mmol:12.5mmol
・テルペン類又はアリルフェノールとHEAのモル比が1:6の場合
テルヘ゜ン類又はアリルフェノール:HEA:AIBN=10mmol:60mmol:3.5mmol
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
アリルフェノール(AF)と2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の共重合体(実施例28(A−D))と、オイゲノール(EG)と2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の共重合体(実施例29(A−D))の、平均重合度と共重合比を表10、11に示す。なお、平均重合度と共重合比は前記と同様の方法で求めた。
【0063】
【表10】
【0064】
【表11】
【0065】
試験例1 難揮発性試験
シトラール、実施例5のシトラールの重合体、ゲラニオール、実施例4のゲラニオールの重合体について、熱分析装置(株式会社島津製作所製、DTG60)を用い、窒素気流下、10℃/分の昇温速度で加熱し、質量変化を測定することにより熱分析を行った。結果を図3、4に示す。
図3の結果より、シトラールよりもシトラールの重合体の方が、図4の結果より、ゲラニオールよりもゲラニオールの重合体の方が温度上昇に対する重量減少が少なく、難揮発性であることがわかる。
【0066】
試験例2 アリ忌避テスト
実施例27Aのアリルフェノールと酢酸ビニルの共重合体(1:4)、参考例1Aのイソオイゲノールと酢酸ビニルの共重合体(1:4)、市販品(WXH)を試料とし、以下の試験をおこなった。
2ヶ所で1片70mm角の段ボールシートを置き、その中央に適量の誘引物にフルーツジュースにグラニュー糖を混ぜたものを置いた。段ボールシート片に筆で試料を塗布した後、1時間後と3時間後の2回、蟻に対しての忌避率を測定した。忌避率は、2回測定した時点での蟻の合計に対し、ブランクの忌避率を0として計算した。表12がその結果である。
【0067】
【表12】
【0068】
試験例3 抗菌性テスト
塩基性の過酸化水素水を使用した乳化重合によって合成した実施例1のアリルフェノールの重合体と実施例2〜12のテルペン系化合物の重合体について、以下の操作で抗菌性テストを実施した。
【0069】
1.1000mlビーカーに培地の成分を入れ、純水で1000mlに合わせた。その後pHメーターを用いてビーカー内の溶液を挽絆しながらKOH、HCl溶液でpH7.2とした。この液体培地を試験管2本に6mlずつ分け、シリコン栓で蓋をした。サンプル管に水を9mlずつ採った。2つの500ml三角フラスコに寒天を入れて、1000mlビーカーの溶液を約500mlずつ入れた。ベネット培地の成分は以下の通りである。
(ベネット培地)
可溶テンプン 7.0g/l
グルコース 5.0g/l
ペプトン 2.0g/l
肉エキス 1.0g/l
イーストエキス 1.0g/l
寒天 18.0g/l
2.オートクレーブで殺菌し取り出す時に、誤って触って手の菌が付いてしまう可能性があるので、500ml三角フラスコの口、100、1000μl用のチップ、(1)の試験管2本の口とサンプル管2本の口をアルミホイルで包みオートクレーブにかけた。
3.オートクレーブにかけた三角フラスコと滅菌シャーレをクリーンベンチに入れ滅菌シャーレにベネット培地を注いだ。シャーレの蓋を少し開け冷やして、パラフイルムで密封した。その後、シャーレ、(2)で滅菌した100、1000μl用のチップ、試験管2本、サンプル管2本を低温室に保存した。
4.濃度を調節した菌7種類[E.c→E.coli大腸菌、B.s→B.subtilis枯草菌、E.f→E.faecalis腸球菌、K.p→K.pneumoniae肺炎菌、P.m→P.mirabilisプロテウスミラビリス(腸内細菌の一種)、S.a→S.aureus黄色ブドウ球菌、S.pyogenes溶連菌・化膿連鎖球菌]を使用した。
5.ベネット培地に菌7種類をそれぞれ白金樺で掬い入れた。
6.合成物をDMSOに溶解させ、75μl取りペーパーディスク(直径8mm)に滴下させた。この時の検査する濃度は、濃度はテルペン類等25mg(モノマー)をDMSO5mlに溶かした(5000ppm)。
7.ペーパーディスクを滅菌シャーレの中央に置き蓋をしてパラフイルムで巻き、培養室に2日置いた。抗菌検査の結果ペーパーディスクからの阻止円の大きさで抗菌性を調べた。
下記表13に試験結果を示す。
【0070】
【表13】
【0071】
試験例4 防黴性テスト
実施例35のリナロールと2−ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(1:1)と、実施例31Bのゲラニオールと2−ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(1:2)、実施例31Cのゲラニオールと2−ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(1:4)、実施例41のγ−テレピネンと2−ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(1:2)について、以下の操作で防黴性テストを実施した。
【0072】
食パンに水を浸したもの(ブランク)と、水に溶かした共重合体を食パンに浸したもの(試料)を用意し、その食パンを水が蒸発しないようにサランラップで覆い、段ボール箱の中に入れ、約30℃で放置し、黴について観察した。その結果、ブランクは5日間で黴が生殖した。これに対し、共重合体を含浸させた試料では5日間で黴は生殖せず、リナロールコポリマーの試料では7日目から黴の生殖がみられたが、その他のコポリマーの試料では7日目でも黴の生殖はみられなかった。
【0073】
以上の試験結果から、実施例のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体が、抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体は、抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】アリルフェノールのFT−IRスペクトル。
【図2】アリルフェノール重合体のFT−IRスペクトル。
【図3】シトラールとシトラール重合体の熱質量変化曲線。
【図4】ゲラニオールとゲラニオール重合体の熱質量変化曲線。
【技術分野】
【0001】
本発明は工業的製造に有利なテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法に関する。
また、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を含有する抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、テルペン系化合物は抗菌性、防黴性、生物忌避性を有することが知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。また、テルペン系化合物と構造類似の合成化合物であるアリルフェノールも抗菌性、防黴性、生物忌避性を有することが知られている。しかし、これらテルペン系化合物やアリルフェノールは、微弱ながらも揮発性であるため、その効力を長期にわたって持続させることができないという問題がある。
【0003】
一方、テルペン系化合物は、テルペン系化合物が有する二重結合(炭素−炭素二重結合)を利用して、テルペン系化合物と酢酸ビニルとをラジカル共重合して、高分子量化することにより、テルペン系化合物の揮発性を抑えることができることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この共重合体中のどのようなものが抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として実用的に適用し得るのかについては、具体的には何ら明らかにされていない。また、アリルフェノールについては高分子量化によって、その抗菌性、防黴性、生物忌避性の効力が持続するのか、また、抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として実用的に適用し得るのかについて、何等明らかにされていない。
【0004】
さらに、テルペン系化合物の重合体、テルペン系化合物と他の二重結合(炭素−炭素二重結合)を有する付加重合性化合物との共重合体、アリルフェノールの重合体等について、これらを工業的に製造するに有利な方法は見出されていない。例えば、特許文献1では、テルペン系化合物の一つであるテルペンアルコールの重合体をポリウレタン原料用の耐加水分解性重合物として使用することを提案し、テルペンアルコールを有機過酸化物と加熱反応させることでテルペンアルコールの重合体を得ている。しかし、かかる加熱反応はt−ブチルパーオキサイドを使用した非水系の塊状重合であり、窒素雰囲気下、反応温度が110〜180℃という、厳しい反応条件であり、工業的に製造するに有利な方法とはいえない。
【特許文献1】特開平2−20503号公報
【非特許文献1】堀口博著「防菌防黴の化学」三共出版,4−9頁,昭和61年2月25日発行
【非特許文献2】中国地域産学官コラボレーションシンポジウムinやまぐち要旨集,63頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、工業的製造に有利なテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法を提供することである。
また、抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として実用的に適用し得るテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物や該テルペン系化合物と構造類似のアリルフェノールを塩基性の過酸化水素水に溶解乃至分散させて50〜100℃程度に加熱すると、重合反応が速やかに進行して、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体が得られること、さらに炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水に溶解乃至分散させて50〜100℃程度に加熱すると、重合反応が速やかに進行して、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体(共重合体)が得られることを見出した。また、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物(特に、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、クロトン酸ヒドロキシアルキル等)との共重合体は、(メタ)アクリル系化合物が共重合されていることにより、加工性が向上し、フィルム等への加工や成形材料への混合が容易になることも見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中にて、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
(2)炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中に投入、攪拌して、乳化させ、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
(3)加熱温度が50〜100℃である、上記(1)又は(2)記載の方法。
(4)塩基性の過酸化水素水を取り囲む雰囲気が大気雰囲気である、上記(1)又は(2)記載の方法。
(5)炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物が、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、オイゲノール、ゲラニオール、イソオイゲノール、α−イオノン、リモネン、テレピノレン、γ−テレピネン、3−カレン、ペリルアルデハイド、β−イオノン、β−ピネン、アロオシメン、ミルセン、α−テレピネオール及びリナロールから選ばれる少なくとも一種である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6)他の付加重合性不飽和化合物が、ビニルエステル化合物又は/及び(メタ)アクリル系化合物である、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法。
(7)平均重合度が3〜10のアリルフェノール重合体。
(8)炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体。
(9)(メタ)アクリル系化合物が、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルである、上記(8)記載の重合体。
(10)アリルフェノールとビニルエステル化合物との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、アリルフェノールとビニルエステル化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、アリルフェノール系重合体。
(11)ビニルエステル化合物が酢酸ビニルである、上記(10)記載の重合体。
(12)上記(7)〜(11)のいずれか一つに記載の重合体を含有する抗菌剤。
(13)上記(7)〜(11)のいずれか一つに記載の重合体を含有する防黴剤。
(14)上記(7)〜(11)のいずれか一つに記載の重合体を含有する害虫生物忌避剤。
【0008】
なお、本発明において、「テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体」とは、「テルペン系化合物の重合体」、「アリルフェノールの重合体」、「テルペン系化合物とアリルフェノールとの共重合体」又は「テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体」を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法によれば、大気雰囲気下、水系の反応系で、比較的低い反応温度で重合反応が進行して、比較的短時間で実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体を製造することができる。従って、反応制御が容易で、安全性に優れ、しかも、製造コストを低減できるため、工業的規模でのテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造に有利である。
【0010】
本発明方法で製造されるテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体は、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有し、しかも、高分子化により揮発の問題がなくなるため、これらの作用が長期にわたって持続する。さらに、高分子化により、抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用に関与する官能基が局所的に高濃度となるため、その集積効果によりこれらの作用が増大する。
【0011】
また、当該テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体のうち、特に、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物との共重合体については、(メタ)アクリル系化合物が共重合されていることにより、加工性が向上し、フィルム等への加工や成形材料への混合が容易になり、さらにその(メタ)アクリル系化合物が(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルやクロトン酸ヒドロキシアルキル等のヒドロキシアルキル基を含有する化合物である場合、共重合体に親水性が付与されるため、重合体自体に親水性が要求される各種用途や水系溶媒が用いられる各種用途に広く適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法は、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物(すなわち、テルペン系化合物及びアリルフェノール以外の付加重合性不飽和化合物)との混合物を、塩基性の過酸化水素水中にて、加熱下に重合させることを主たる特徴としている。
【0013】
本発明方法では、塩基性の過酸化水素水を使用することが重要であり、重合反応は、過酸化水素から発生するラジカルを開始剤として進行する。重合形態(ラジカル重合の形態)は、水溶液重合、懸濁重合、乳化重合等のいずれでもよいが、水を媒体として使用する点や生成ポリマー(テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体)が水系分散媒に乳濁したラテックスとして得られ、それを塗料(抗菌塗料、防黴塗料等)、接着剤(抗菌接着剤、防黴接着剤等)にそのまま使用したり、塗料、接着剤等の改質剤としてそのまま使用することができる点で、乳化重合が好ましい。すなわち、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性過酸化水素水中に投入、攪拌して、乳化させ、加熱下に重合させるのが好ましい。
【0014】
本発明方法において、塩基性の過酸化水素水は、モノマー(すなわち、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物)に対し、2体積倍以上使用するのが好ましい。すなわち、充分量の水が存在する水系の反応系であることにより、テルペン類等におけるテルペン構造中の二重結合の位置が接近しやすくなり、重合反応が速やかに進行するものと考えられる。従って、塩基性の過酸化水素水の量はより好ましくはモノマーに対して5体積倍以上である。なお、塩基性の過酸化水素水の量の上限は特に限定はされないが、反応速度等の反応制御の観点から、10体積倍以下が好ましい。
【0015】
塩基性の過酸化水素水における過酸化水素の濃度は過酸化水素水全体当たり5〜15重量%が好ましく、8〜10重量%であるのがより好ましい。過酸化水素の濃度が5重量%未満では反応速度が遅くなり、効率低下をきたしやすく、15重量%を超える場合、反応が激し過ぎる傾向となるため、好ましくない。
【0016】
塩基性の過酸化水素水は、過酸化水素水にアルカリを配合することで調製されるが、通常、過酸化水素水とアルカリ水溶液を混合するか、あるいは、これらにさらに水を混合することで調製される。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジプロピルアミン、N,N−ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルアミン等のアミン類等が挙げられるが、コスト等の点から、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0017】
塩基性の過酸化水素水のpHは一般に12〜14、好ましくは12〜13である。pHが12未満では反応速度が極端に低下しやすくなるため、好ましくない。なお、pHが14でも反応には大きく影響しないが、アルカリ使用量が増えるため、コスト的に不利である。
【0018】
本発明方法では、重合系(すなわち、塩基性の過酸化水素水)を取り囲む雰囲気を、窒素等の不活性ガス雰囲気にする必要はなく、大気雰囲気下で充分に重合反応が進行する。従って、実質的に重合反応の管理は温度管理のみでよい。
【0019】
重合温度(加熱温度)は、一般的に50〜100℃が、好ましくは70〜80℃である。本発明方法はこのような比較的低い加熱温度で重合反応が速やかに進行する。
【0020】
本発明方法は、前記のように、乳化重合の重合形態を採るのが好ましいが、乳化重合の際のモノマー(すなわち、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物)を塩基性の過酸化水素水に乳化させる方法は、従来から乳化重合で使用されている一般的な攪拌装置(例えば、ホモジナイザー、スターラーと反応容器の組み合せ等)を使用すればよい。なお、テルペン系化合物やアリルフェノールは水中に投入し、攪拌装置で攪拌すれば、充分に乳化し得る好ましい性質を有しており、乳化のための界面活性剤は必ずしも必要ではない。すなわち、本発明方法では、実質的に界面活性剤を使用せずに、目的の重合体(実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体)を水系溶媒中で製造することができる。なお、界面活性を使用する場合は、一般的な乳化重合で使用される公知のアニオン系界面活性剤 、カチオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤等を適当量使用すればよい。
【0021】
本発明方法において、重合時間は、テルペン系化合物の重合体、アリルフェノールの重合体、又はテルペン系化合物とアリルフェノールとの共重合体を製造する場合、通常、24〜48時間であり、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体を製造する場合は2〜24時間程度である。すなわち、本発明方法では、特に、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体を極めて短時間で製造することができる。
【0022】
重合反応終了後は、反応生成物から水及び未反応のモノマーを除去するために、通常、100℃以上に反応系を加熱する。この際の加熱時間は1〜4時間程度が好ましい。
【0023】
重合体の回収(単離)方法は特に限定はされないが、例えば、減圧下で溶媒や残存モノマー等を留去する方法、重合体に対する多量の貧溶媒に反応混合物を投入し、沈殿物をろ過により回収する方法等が挙げられる。
【0024】
本発明方法では、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上という収率で製造することができ、特にテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体の場合は60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上という高い収率で製造することができる。
【0025】
本発明方法に使用される炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物は特に限定はされないが、好ましくは、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、オイゲノール、ゲラニオール、イソオイゲノール、α−イオノン、リモネン、テレピノレン、γ−テレピネン、3−カレン、ペリルアルデハイド、β−イオノン、β−ピネン、アロオシメン、ミルセン、α−テレピネオール、リナロール等が挙げられる。これらは一種又は2種以上を使用することができる。
【0026】
また、本発明方法に使用できる、テルペン系化合物やアリルフェノール以外の他の付加重合性不飽和化合物としては、テルペン系化合物やアリルフェノールとラジカル共重合し得るものであれば、特に限定はされないが、テルペン系化合物やアリルフェノールとの反応性の点から、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル系化合物等が挙げられる。なお、本発明でいう「(メタ)アクリル系化合物」とは、骨格中に(メタ)アクリロイル基を有する化合物の意味であり、(メタ)アクリル酸及びそのエステル類以外に、クロトン酸及びそのエステル類等のメチルアクリル酸系化合物も包含する。ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル系化合物は、それぞれを単独で使用しても、両者を併用してもよい。
【0027】
上記ビニルエステル化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル化合物等が挙げられる。これらのうち、炭素数4〜9のビニルエステル化合物が好ましく、特に原料入手の容易さの観点から、酢酸ビニル、安息香酸ビニルが好ましく、テルペン類やアリルフェノールとの共重合体とした場合の成形材料向け用途やフィルム向け用途への適用の容易さの観点からは、酢酸ビニルが好ましい。これらビニルエステル化合物は1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
また、上記(メタ)アクリル系化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、クロトン酸、クロトン酸アルキル、クロトン酸ヒドロキシアルキル等が挙げられる、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、クロトン酸アルキル、クロトン酸ヒドロキシアルキルのアルキル部は、炭素数が好ましくは1〜20、より好ましくは2〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキルである。(メタ)アクリル酸アルキル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルなどが挙げられる。また、クロトン酸アルキル及びクロトン酸ヒドロキシアルキルの具体例としては、例えば、クロトン酸メチル、クロトン酸ブチル、クロトン酸−エチルヘキシル、クロトン酸2−ヒドロキシエチル、クロトン酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
【0029】
なお、(メタ)アクリル系化合物は、特に共重合体への親水性の付与、反応性の付与等の観点から、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルが好ましく、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルが特に好ましい。
【0030】
本発明方法で得られる、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体は概ね平均重合度が3〜100の重合体となる。すなわち、テルペン系化合物の重合体及びアリルフェノールの重合体においては、重合度は3〜20(好ましくは3〜15、特に好ましくは3〜10、より好ましくは2〜5)であり、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との共重合体においては、重合度は3〜100(好ましくは3〜50)である。かかる平均重合度の重合体は優れた抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する。
【0031】
本発明では、上記のように、テルペン系化合物に代えて、或いは、テルペン系化合物とともに、オイゲノールと構造が類似するアリルフェノールを使用するが、アリルフェノールをテルペン系化合物と同様の取扱いによって、高分子量化でき、また、他の付加重合性不飽和化合物と共重合化できて、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体が得られることは新規な知見であった。
【0032】
すなわち、上記の本発明方法で得られる、アリルフェノールの重合体、アリルフェノールとビニルエステル化合物との共重合体、及びアリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物との共重合体が、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する重合体となることは従来は知られていなかった。そこで、重合開始剤にペルオキソ二硫酸アンモニウムを使用し、分散安定剤(乳化剤)にポリビニルアルコール(PVA)を使用した一般的な乳化重合法により、アリルフェノールとビニルエステル化合物の共重合体を製造したところ、そうして得られるアリルフェノールとビニルエステル化合物(特に酢酸ビニル)の共重合体も、特定の重合度及び共重合比を有することで、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有することが分かった。
【0033】
さらに、重合開始剤に一般的な2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を使用した塊状重合法で、アリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物との共重合体を製造したところ、そうして得られるアリルフェノールと(メタ)アクリル系化合物(特にアクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル)との共重合体も、特定の重合度及び共重合比を有することで、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有することが分かった。
【0034】
またさらに、重合開始剤に一般的な2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を使用した塊状重合法で、テルペン系化合物(炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物)と(メタ)アクリル系化合物との共重合体を製造したところ、そうして得られる共重合体(特にテルペン系化合物とアクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとの共重合体)も、特定の重合度及び共重合比を有することで、実用可能なレベルの抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有することが分かった。
【0035】
従って、本発明は、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物(特に、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル)との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、テルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、抗菌剤、防黴剤または害虫生物忌避剤として有用な、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を提供する。
【0036】
すなわち、平均重合度及び共重合比がともに上記の範囲内にあれば、当該共重合体は優れた抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する。さらに、難揮発性(無臭性)及び効果の持続性の観点から、当該共重合体の平均重合度は3〜50であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、3〜5であることがとりわけ好ましい。また、共重合比は、官能基の集積効果の観点から、モル比で1:1〜8の範囲内であることがより好ましい。
【0037】
また、本発明は、アリルフェノールとビニルエステル化合物(特に酢酸ビニル)との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、アリルフェノールとビニルエステル化合物との共重合比が1:1〜20(モル比)である、抗菌剤、防黴剤または害虫生物忌避剤として有用な、アリルフェノール系重合体を提供する。
【0038】
すなわち、平均重合度及び共重合比がともに上記の範囲内にあれば、当該共重合体は優れた抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を有する。さらに、難揮発性(無臭性)及び効果の持続性の観点から、当該共重合体の平均重合度は3〜50であることが好ましく、10〜50であることがより好ましく、10〜30であることがとりわけ好ましい。また、共重合比は、官能基の集積効果の観点から、モル比で1:1〜8の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
本発明において、共重合比は、元素分析装置(パーキンエルマー2400型、CHNS/O)を用い、共重合体の炭素の含有率(%)を定量し、計算することにより求められる共重合比をいう。
【0040】
本発明において、平均重合度は、元素分析装置(パーキンエルマー2400型、CHNS/O)を用い、重合体の末端の窒素の含有量を定量し、計算することにより求められる平均重合度をいう。なお、末端に窒素をもたない重合体については、GPC((株)島津製作所製、クロマトパック C−R3A)により、ポリエチレングリコールを標準試料として測定した平均重合度である。
【0041】
なお、本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体において、テルペン類は、抗菌作用の観点からは、オイゲノール、ゲラニオール、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、ペリルアルデハイド、ネロール、リナロール等が特に好ましく、ゲラニオール、リナロールがとりわけ好ましい。また、防黴作用の観点からは、ゲラニオール、γ−テレピネン等が特に好ましい。また、害虫忌避作用の観点からは、イソオイゲノール、オイゲノールが特に好ましく、イソオイゲノールがとりわけ好ましい。また、アリルフェノールは抗菌作用、防黴作用、害虫忌避作用のいずれにおいても優れるものである。
【0042】
本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体は、抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として有用である。
抗菌剤として使用する場合の対象となる菌は、大腸菌、枯草菌、腸球菌、肺炎菌、プロテウスミタビリス、化膿溶連菌、緑膿菌等の病原細菌である。
防黴剤として使用する場合の対象となる黴は、アオカビ、クロカビ等であり、特にアオカビ、クロカビに対して優れた防黴作用を示す。
害虫生物忌避剤として使用する場合の対象となる害虫生物は、ナメクジ、カタツムリ、シロアリ、アリ、ケラ、ダニ、原生生物(例、アメーバ、ゾウリムシ、アオミドロ等)等であり、特にナメクジ、アリ、原生生物に対して優れた害虫生物忌避作用を示す。
【0043】
抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として使用する場合には、その使用形態には特に制限はなく、使用形態の例としては、(A)本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を成形体の中に混入させる、(B)本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を成形体化又はフィルム化する、(C)本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を溶液化する、(D)本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を溶液化し、基材(フィルム、テープ、繊維、成形体等)に塗布、又は当該基材を本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の溶液に浸漬し、乾燥して、基材表面を本発明のテルペン系重合体でコーティングする、(E)本発明のテルペン系重合体を塗料に混合する、(F)塩基性の過酸化水素水中で乳化重合して生成した本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体のラテックスを基材(フィルム、テープ、繊維、成形体等)に塗布、又は当該基材をラテックスに浸漬し、乾燥して、基材表面を本発明のテルペン系重合体でコーティングする、(G)該ラテックスを接着剤に混合する、又はそのまま接着剤としてそのまま使用する、等が挙げられる。
【0044】
これらの使用態様の具体的な例としては、カテーテルに本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の溶液又はラテックスを塗布・乾燥してコーティングした抗菌カテーテル、ティッシュを本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の溶液又はラテックスに浸漬し乾燥させた除菌ティッシュ、テープに本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の溶液又はラテックスを塗布・乾燥してコーティングしたナメクジ忌避テープ及びアリ忌避テープ、本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を塗料に混合した船底防汚塗料、網を本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体溶液又はラテックスに浸漬してコーティングしたいけす防汚物ネット、本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の水溶液又はラテックスを含む消毒剤又は化粧水、包装紙を本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の水溶液又はラテックスに浸漬し乾燥させた果物包装紙、本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体を成形した排水管、防腐ラベル、人工土壌等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例に限られるものではない。
【0046】
実施例1〜14
12種のモノマー(アリルフェノールと13種のテルペン類(イソオイゲノール、オイゲノール、ゲラニオール、シトラール、シトロネロール、シトロネラール、リナロール、ネロール、α−イオノン、フトール、ペリルアルデハイド、リモネン、ミルセン))を用意し、以下の操作で重合反応を行った。
【0047】
塩基性にした過酸化水素水(0.5mol/lのNaOH水溶液約5ml、35%過酸化水素(H2O2)水10ml及び水20mlの混合水溶液35ml(pH:13、過酸化水素濃度:10重量%))とモノマー(二重結合一つに対して)100mmolをサンプル瓶(110ml)に入れ、室温で激しく攪拌し、乳濁させた後、徐々に温度を上げた。約70℃で1日間反応を行った。その後、100℃のオイルバスで水を取り除いた。アセトンを加え反応物を取り出し、NaOHと分離した。濾液をエバポレーターにかけた。この作業(デカンテーション)を2、3回行い、合成物を精製した。下記表1に生成重合体の収率を示す。なお、重合体生成の確認はFT−IRにて行った。図1及び図2はその一例であり、アリルフェノール及びアリルフェノール重合体のFT−IRの測定結果を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
ここで、リナロールの収率が極端に低いのは、リナロール特有の水酸基が分子の中間に存在する分子構造が影響し、水に分散した際に一定方向に配向せず、二重結合が十分に近接しないために、塊状重合も起こっているためと考えられる。ただし、リナロールの重合反応制御において水の存在及び過酸化水素による作用が認められた。
【0050】
実施例15〜26
モノマーとして下記表2に記載のテルペン類(11種)又はアリルフェノール(50mmol)と、2−ヒドロキシエチルアクリレート(100mmol)の混合物を使用した以外は、前記実施例(実施例1〜14)と同様の操作により、重合反応を行った。下記表2に生成重合体の収率を示す。なお、重合体生成の確認はFT−IRにて行った。
【0051】
【表2】
【0052】
実施例1〜26で得られた重合体の平均重合度を、以下の方法により求めた。また、実施例15〜26で得られた共重合体の共重合比を以下の方法により求めた。テルペン系化合物又はアリルフェノールの単独重合体(実施例1〜12)の測定結果を表3に、テルペン系化合物又はアリルフェノールと2−ヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体(実施例15〜26)の測定結果を表4に示す。
〔平均重合度〕
元素分析装置(パーキンエルマー2400型、CHNS/O)を用い、重合体の末端の窒素の含有量を定量し、計算することにより求めた。
〔共重合比〕
元素分析装置(パーキンエルマー2400型、CHNS/O)を用い、共重合体の炭素の含有率(%)を定量し、計算することにより求めた。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
実施例27(アリルフェノール−酢酸ビニル共重合体)
ポリビニルアルコール(重合度2000)6gを水60mlに溶かした。溶かしたポリビニルアルコールに酢酸ナトリウム1.5gを加え溶かした後に、さらに水60ml加えた。次にアリルフェノールと酢酸ビニルが30gになるように加えた。開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)をアリルフェノールと酢酸ビニルとの合量に対して1/50mol加えた。
・アリルフェノールと酢酸ビニルのモル比が1:4の場合(実施例27A)
アリルフェノール:酢酸ビニル:APS=58.8mmol:235.3mmol: 5.88mmol
・アリルフェノールと酢酸ビニルのモル比が1:9の場合(実施例27B)
アリルフェノール:酢酸ビニル:APS=33.4mmol:300.6 mmol:6.67mmol
・アリルフェノールと酢酸ビニルのモル比が1:15の場合(実施例27C)
アリルフェノール:酢酸ビニル:APS=20.0mmol:300.0mmol:6.40mmol
反応は約3日間行なった。その後、ミセルを破壊するために、水を取り除き、生成物の10倍のメタノールを加え、1、2分間ミキサーにかけた。ポリビニルアルコールを取り除き、メタノール溶液の合成物をエバポレーターでメタノールを飛ばし、合成物を回収した。
また、参考例として、アリルフェノールの代わりにテルペン類(イソオイゲノール)を使用し、同様の重合反応を行った(参考例1A〜1C)。
これらの結果を表5に示す。なお、平均重合度、共重合比は前記と同様の方法で求めた。
【0056】
【表5】
【0057】
実施例28〜46
(テルペン類又はアリルフェノールと2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の共重合体)
下記表6〜9に示すテルペン類(17種)とアリルフェノールについて、それぞれ、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)と1:1、1:2、1:4、1:6のmol比の割合にAIBNを合量の0.05倍で約60℃のシェーカーに入れ、3−4時間反応させた。
・テルペン類又はアリルフェノールとHEAのモル比が1:1の場合
テルヘ゜ン類又はアリルフェノール:HEA:AIBN=10mmol:10mmol:1.0mmol
・テルペン類又はアリルフェノールとHEAのモル比が1:2の場合
テルヘ゜ン類又はアリルフェノール:HEA:AIBN=50mmol:100mmol:7.5 mmol
・テルペン類又はアリルフェノールとHEAのモル比が1:4の場合
テルヘ゜ン類又はアリルフェノール:HEA:AIBN=50mmol:200mmol:12.5mmol
・テルペン類又はアリルフェノールとHEAのモル比が1:6の場合
テルヘ゜ン類又はアリルフェノール:HEA:AIBN=10mmol:60mmol:3.5mmol
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
アリルフェノール(AF)と2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の共重合体(実施例28(A−D))と、オイゲノール(EG)と2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の共重合体(実施例29(A−D))の、平均重合度と共重合比を表10、11に示す。なお、平均重合度と共重合比は前記と同様の方法で求めた。
【0063】
【表10】
【0064】
【表11】
【0065】
試験例1 難揮発性試験
シトラール、実施例5のシトラールの重合体、ゲラニオール、実施例4のゲラニオールの重合体について、熱分析装置(株式会社島津製作所製、DTG60)を用い、窒素気流下、10℃/分の昇温速度で加熱し、質量変化を測定することにより熱分析を行った。結果を図3、4に示す。
図3の結果より、シトラールよりもシトラールの重合体の方が、図4の結果より、ゲラニオールよりもゲラニオールの重合体の方が温度上昇に対する重量減少が少なく、難揮発性であることがわかる。
【0066】
試験例2 アリ忌避テスト
実施例27Aのアリルフェノールと酢酸ビニルの共重合体(1:4)、参考例1Aのイソオイゲノールと酢酸ビニルの共重合体(1:4)、市販品(WXH)を試料とし、以下の試験をおこなった。
2ヶ所で1片70mm角の段ボールシートを置き、その中央に適量の誘引物にフルーツジュースにグラニュー糖を混ぜたものを置いた。段ボールシート片に筆で試料を塗布した後、1時間後と3時間後の2回、蟻に対しての忌避率を測定した。忌避率は、2回測定した時点での蟻の合計に対し、ブランクの忌避率を0として計算した。表12がその結果である。
【0067】
【表12】
【0068】
試験例3 抗菌性テスト
塩基性の過酸化水素水を使用した乳化重合によって合成した実施例1のアリルフェノールの重合体と実施例2〜12のテルペン系化合物の重合体について、以下の操作で抗菌性テストを実施した。
【0069】
1.1000mlビーカーに培地の成分を入れ、純水で1000mlに合わせた。その後pHメーターを用いてビーカー内の溶液を挽絆しながらKOH、HCl溶液でpH7.2とした。この液体培地を試験管2本に6mlずつ分け、シリコン栓で蓋をした。サンプル管に水を9mlずつ採った。2つの500ml三角フラスコに寒天を入れて、1000mlビーカーの溶液を約500mlずつ入れた。ベネット培地の成分は以下の通りである。
(ベネット培地)
可溶テンプン 7.0g/l
グルコース 5.0g/l
ペプトン 2.0g/l
肉エキス 1.0g/l
イーストエキス 1.0g/l
寒天 18.0g/l
2.オートクレーブで殺菌し取り出す時に、誤って触って手の菌が付いてしまう可能性があるので、500ml三角フラスコの口、100、1000μl用のチップ、(1)の試験管2本の口とサンプル管2本の口をアルミホイルで包みオートクレーブにかけた。
3.オートクレーブにかけた三角フラスコと滅菌シャーレをクリーンベンチに入れ滅菌シャーレにベネット培地を注いだ。シャーレの蓋を少し開け冷やして、パラフイルムで密封した。その後、シャーレ、(2)で滅菌した100、1000μl用のチップ、試験管2本、サンプル管2本を低温室に保存した。
4.濃度を調節した菌7種類[E.c→E.coli大腸菌、B.s→B.subtilis枯草菌、E.f→E.faecalis腸球菌、K.p→K.pneumoniae肺炎菌、P.m→P.mirabilisプロテウスミラビリス(腸内細菌の一種)、S.a→S.aureus黄色ブドウ球菌、S.pyogenes溶連菌・化膿連鎖球菌]を使用した。
5.ベネット培地に菌7種類をそれぞれ白金樺で掬い入れた。
6.合成物をDMSOに溶解させ、75μl取りペーパーディスク(直径8mm)に滴下させた。この時の検査する濃度は、濃度はテルペン類等25mg(モノマー)をDMSO5mlに溶かした(5000ppm)。
7.ペーパーディスクを滅菌シャーレの中央に置き蓋をしてパラフイルムで巻き、培養室に2日置いた。抗菌検査の結果ペーパーディスクからの阻止円の大きさで抗菌性を調べた。
下記表13に試験結果を示す。
【0070】
【表13】
【0071】
試験例4 防黴性テスト
実施例35のリナロールと2−ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(1:1)と、実施例31Bのゲラニオールと2−ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(1:2)、実施例31Cのゲラニオールと2−ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(1:4)、実施例41のγ−テレピネンと2−ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(1:2)について、以下の操作で防黴性テストを実施した。
【0072】
食パンに水を浸したもの(ブランク)と、水に溶かした共重合体を食パンに浸したもの(試料)を用意し、その食パンを水が蒸発しないようにサランラップで覆い、段ボール箱の中に入れ、約30℃で放置し、黴について観察した。その結果、ブランクは5日間で黴が生殖した。これに対し、共重合体を含浸させた試料では5日間で黴は生殖せず、リナロールコポリマーの試料では7日目から黴の生殖がみられたが、その他のコポリマーの試料では7日目でも黴の生殖はみられなかった。
【0073】
以上の試験結果から、実施例のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体が、抗菌作用、防黴作用、害虫生物忌避作用を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体は、抗菌剤、防黴剤、害虫生物忌避剤として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】アリルフェノールのFT−IRスペクトル。
【図2】アリルフェノール重合体のFT−IRスペクトル。
【図3】シトラールとシトラール重合体の熱質量変化曲線。
【図4】ゲラニオールとゲラニオール重合体の熱質量変化曲線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中にて、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
【請求項2】
炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中に投入、攪拌して、乳化させ、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
【請求項3】
加熱温度が50〜100℃である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
塩基性の過酸化水素水を取り囲む雰囲気が大気雰囲気である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物が、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、オイゲノール、ゲラニオール、イソオイゲノール、α−イオノン、リモネン、テレピノレン、γ−テレピネン、3−カレン、ペリルアルデハイド、β−イオノン、β−ピネン、アロオシメン、ミルセン、α−テレピネオール及びリナロールから選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
他の付加重合性不飽和化合物が、ビニルエステル化合物又は/及び(メタ)アクリル系化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
平均重合度が3〜10のアリルフェノール重合体。
【請求項8】
炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体。
【請求項9】
(メタ)アクリル系化合物が、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルである、請求項8記載の重合体。
【請求項10】
アリルフェノールとビニルエステル化合物との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、アリルフェノールとビニルエステル化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、アリルフェノール系重合体。
【請求項11】
ビニルエステル化合物が酢酸ビニルである、請求項10記載の重合体。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか一項記載の重合体を含有する抗菌剤。
【請求項13】
請求項7〜11のいずれか一項記載の重合体を含有する防黴剤。
【請求項14】
請求項7〜11のいずれか一項記載の重合体を含有する害虫生物忌避剤。
【請求項1】
炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中にて、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
【請求項2】
炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールか、或いは、当該炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと他の付加重合性不飽和化合物との混合物を、塩基性の過酸化水素水中に投入、攪拌して、乳化させ、加熱下に重合させることを特徴とするテルペン又は/及びアリルフェノール系重合体の製造方法。
【請求項3】
加熱温度が50〜100℃である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
塩基性の過酸化水素水を取り囲む雰囲気が大気雰囲気である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物が、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、オイゲノール、ゲラニオール、イソオイゲノール、α−イオノン、リモネン、テレピノレン、γ−テレピネン、3−カレン、ペリルアルデハイド、β−イオノン、β−ピネン、アロオシメン、ミルセン、α−テレピネオール及びリナロールから選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
他の付加重合性不飽和化合物が、ビニルエステル化合物又は/及び(メタ)アクリル系化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
平均重合度が3〜10のアリルフェノール重合体。
【請求項8】
炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、炭素−炭素二重結合を有するテルペン系化合物又は/及びアリルフェノールと、(メタ)アクリル系化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、テルペン又は/及びアリルフェノール系重合体。
【請求項9】
(メタ)アクリル系化合物が、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルである、請求項8記載の重合体。
【請求項10】
アリルフェノールとビニルエステル化合物との共重合体であって、平均重合度が2〜100であり、アリルフェノールとビニルエステル化合物の共重合比が1:1〜20(モル比)である、アリルフェノール系重合体。
【請求項11】
ビニルエステル化合物が酢酸ビニルである、請求項10記載の重合体。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか一項記載の重合体を含有する抗菌剤。
【請求項13】
請求項7〜11のいずれか一項記載の重合体を含有する防黴剤。
【請求項14】
請求項7〜11のいずれか一項記載の重合体を含有する害虫生物忌避剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2008−50415(P2008−50415A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225782(P2006−225782)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月22日 岡山理科大学主催の「平成17年度 岡山理科大学大学院理学研究科化学専攻 修士学位論文発表会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月31日 岡山理科大学発行の「平成17年度 岡山理科大学大学院理学研究科 修士学位論文 化学専攻 上」に発表
【出願人】(806000011)財団法人岡山県産業振興財団 (12)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月22日 岡山理科大学主催の「平成17年度 岡山理科大学大学院理学研究科化学専攻 修士学位論文発表会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月31日 岡山理科大学発行の「平成17年度 岡山理科大学大学院理学研究科 修士学位論文 化学専攻 上」に発表
【出願人】(806000011)財団法人岡山県産業振興財団 (12)
【Fターム(参考)】
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