説明

ディスク加工用基布およびその製造方法

【課題】加工時に高精度かつ高効率性が得られるディスク加工用基布とその製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維を含むシート状物であって、加工使用面における液滴の吸液時間が10〜60秒/15μlであって、非使用面である裏面における液滴の吸液時間が0.001〜5秒/15μlであることを特徴とする。さらには、加工使用面における液滴の吸液水時間が、裏面における液滴吸液時間の5倍以上であること、該繊維が、0.1dtex以下の極細繊維であること、加工使用面が極細繊維立毛を有すること、該シート状物が繊維と高分子弾性体からなるものであることが好ましい。また製造方法は、繊維を含み、かつ全層が親水性を示すシート状物の一方の表面に撥水剤を含有する溶液を10〜150g/m塗布することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク加工用基布およびその製造方法に関し、さらに詳しくは高精度の仕上げを要求される磁気記録媒体及び類似材料を製造する際に用いられるディスク加工用基布およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年コンピューターなどの情報処理技術の発達に伴い、磁気記録媒体やシリコンウエハーに対する高精度の表面仕上げが要求されている。例えば磁気記録媒体のハードディスク等を製造する場合、基盤となるアルミニウム、ガラス等の表面を平滑化する加工を行うが、そこで用いられるディスク加工用基布に対する要求もますます高くなってきている。また、研磨方法の一種として、ディスク表面に微細な溝を形成させるために砥粒を分散させたスラリーと研磨用基布を用いたテクスチャ加工と呼ばれる表面加工処理がおこなわれることが増加しており、高容量化、高密度化のために最適な研磨用のディスク加工用基布が求められている。
【0003】
このようなディスク加工用基布としてはスラリーを保持しやすい繊維を用いたシート状物が広く用いられているが、このような通常の基布を用いた場合、研磨に用いるスラリーが基布内部に大量に侵入し、基布表面での研磨効率が低下するという問題があった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では一方の表面に500μm以下の厚さである親水性の層を有する、片方の吸水高さが20mm/時間以上であり、その反対側の吸水高さが5mm/時間以下である研磨基布が提案されている。しかし現在ではより高精度と高効率が要求されてきているが、この基布は基本的には全体が撥水性を有するために、裏側に存在するスラリーを十分に有効利用できず加工レートが上がらないという問題があった。また加工に用いるスラリーの挙動と水の挙動の違いから効果が十分でないという問題があった。
【特許文献1】特開2003−170347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加工時に高精度かつ高効率性が得られるディスク加工用基布とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のディスク加工用基布は、繊維を含むシート状物であって、加工使用面における液滴の吸液時間が10〜60秒/15μlであって、非使用面である裏面における液滴の吸液時間が0.001〜5秒/15μlであることを特徴とする。さらには、加工使用面における液滴の吸液水時間が、裏面における液滴吸液時間の5倍以上であること、該繊維が、0.1dtex以下の極細繊維であること、加工使用面が極細繊維立毛を有すること、該シート状物が繊維と高分子弾性体からなるものであることが好ましい。
【0007】
また別の本発明のディスク加工用基布の製造方法は、繊維を含み、かつ全層が親水性を示すシート状物の一方の表面に撥水剤を含有する溶液を10〜150g/m塗布することを特徴とする。さらには、加工使用面が極細繊維立毛を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加工時に高精度かつ高効率性が得られるディスク加工用基布とその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のディスク加工用基布は、繊維を含むシート状物である。このとき均一に研磨するためには繊維として合成繊維を用いることが好ましく、より具体的な例としてはナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12などのポリアミド繊維、またはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維などを挙げることができる。特にナイロン等のポリアミド繊維を用いた場合にはモジュラスが低く、研磨時にスクラッチ傷が発生しにくく適している。
【0010】
また、その繊維の繊度としては0.1dtex以下の極細繊維であることが好ましく、さらには0.0001〜0.1dtexの繊度であることが好ましい。繊度が小さい場合には極細繊維の強度が低下しがちであり、研磨時の表面強度や、繊維質基材としての強度も低下する傾向にある。また繊度が大きすぎる場合には、研磨工程時に被研磨基材を傷つけやすい傾向にある。さらに本発明のディスク加工用基布は表面に立毛を有するものであることが好ましい。特にその立毛が極細繊維からなる場合、親水性の制御を行いやすく最適である。
【0011】
本発明のディスク加工用基布は、繊維を含むいわゆる繊維質基材から構成されているものであるが、この繊維質基材としては、繊維のみからなる、織編物や不織布でも良いが、基材が弾性高分子を含むことが好ましく、極細繊維と弾性高分子からなる繊維質基材であることが最も好ましい。さらには繊維質基材が極細繊維が収束してなる繊維束によって構成されていることが好ましい。繊維質基材がこのような極細繊維からなる繊維束と弾性高分子から構成されている場合には、その基材内部では主に弾性高分子が繊維束の外部に存在しており、繊維束内には弾性高分子が存在していないことが好ましい。研磨用基布が柔軟になり研磨傷の発生が抑制される傾向にある。
【0012】
繊維質基材に用いられうる弾性高分子としては、ポリウレタン系樹脂、ポリウレタン・ポリウレア系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリスチレン・ブタジエン系樹脂、ポリアクリロニトリル・ブタジエン系樹脂などが挙げられるが、加工性、耐摩耗性、耐加水分解性等の点よりポリウレタン系樹脂が好ましい。中でも研磨砥粒のスラリーがアルカリ性または酸性でポリウレタン系樹脂の加水分解劣化を伴うような場合には、エーテル系、またはカーボネート系ポリウレタンであることが好ましい。さらに繊維質基材中に高分子弾性重合体を重量比率5〜95%の範囲で含むことが好ましく、より好ましくは10〜50%の範囲であり、20〜40%の範囲であることが最も好ましい。さらには弾性高分子は湿式凝固法などによる多孔質状であることが、砥粒を把持しスクラッチなどの欠点を発生させることなく研磨する上で好ましい。
【0013】
さて本発明のディスク加工用基布は上述のような繊維を含むシート状物であるが、その加工使用面における液滴の吸液時間が10〜60秒/15μlであって、非使用面である裏面における液滴の吸液時間が0.001〜5秒/15μlであることを必須とする。さらには、加工使用面における液滴の吸液時間は15〜50秒/15μlであることが好ましく、裏面における液滴の吸液時間は0.01〜2秒/15μlであることが好ましい。また、加工使用面における液滴の吸液水時間が、裏面における液滴吸液時間の5倍以上であることが好ましい。本発明において液滴とは、水ではなく、加工に使用される加工液、スラリーの液滴により近い物性、例えば表面張力を示す10%イソプロピルアルコール水溶液であることが好ましい。そして液滴の代わりに精製水を用いた場合の吸水時間としては、加工使用面においては精製水15μlの液滴が600秒以上吸水されないことが好ましく、裏側においては吸水時間が0.01〜5秒/15μlであることが好ましい。
ここで液滴の吸液時間とは、基布の上2cmの高さから液滴15μl(1滴)を滴下し、基布に吸液し終わるまでの時間を測定し、単位を秒/15μlで表したものである。
【0014】
本発明のディスク加工用基布では、このように加工使用面と非加工面である裏面において液滴の吸液速度が異なることにより、基布使用時に、加工液が裏側へすぐに抜けてしまわずかつ均一にディスク表面にとどまり、さらに加工時に基布裏面からバックロール等で圧力がかかることによって、加工液の加工効率がより向上させるのである。
【0015】
このような本発明のディスク加工用基布の形状としては、長さ方向、幅方向で厚さが均一であることが好ましい。ディスク加工用基布の幅は5〜300mm、さらに好ましくは7〜200mmであることが好ましく、長さ方向が幅方向よりも長いテープ状であることが好ましい。また厚さとしては0.3〜1.2mmが好ましく、0.3mm未満では強度が不足する傾向にあり、1.2mm以上では厚く作業性が低下する傾向にある。厚さを最適化するため、または生産性を上げるためには、厚い基布を一旦製造し、スライスして所定の厚さにするのも良い方法である。
【0016】
このような本発明のディスク加工用基布は、もう一つの本発明であるディスク加工用基布の製造方法によって得ることができる。すなわち、繊維を含みかつ全層が親水性を示すシート状物の加工使用面に撥水剤を含有する溶液を10〜150g/m塗布する製造方法である。このとき撥水剤としてはフッ素系撥水剤であることが最も好ましい。
【0017】
またこの本発明で用いられるシート状物は特には極細繊維からなる立毛を有し、繊維と弾性高分子からなる繊維質基材であることが好ましいが、そのようなシート状物は、例えば以下のような方法で製造することができる。すなわち、まず極細繊維形成性繊維によって、不織布を作成する。極細繊維成形性繊維としては、例えば、溶剤溶解性の異なる2種以上の繊維形成性高分子を用い公知の紡糸法で繊維を作成した後、一成分を抽出除去する方法があり、紡糸後の延伸により繊維に必要な強度を与えることもできる。なかでもナイロン6/ポリエチレンの組み合わせが工業的に生産しやすいため好ましい。得られた繊維はニードルパンチングなどにより不織布に加工される。このとき不織布にカレンダー加工を施し、不織布表面の平滑性と、不織布内部密度を高めることが好ましい。次に、従来公知の方法にて、得られた不織布に高分子弾性重合体を充填し、その後基材中の極細繊維形成性繊維を極細化することによって、極細繊維からなる繊維質基材が得られる。この繊維質基材の表面をサンドペーパーなどでバフがけする事によって極細繊維からなる立毛が形成される。
【0018】
本発明の製造方法で用いられるシート状物は全層が親水性を示すものであるが、これは例えば、シート状物にあらかじめ親水剤を含有する溶液を全層に浸漬し、乾燥したものであることが好ましい。ここであらかじめ用いる親水剤として、アニオン性、またはノニオン性の浸透剤を用いて処理すると効果がある。具体的にはアニオン性の浸透剤としてジオクチルスルホサクシネート・ナトリウム塩、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸・ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸・ナトリウム塩、ナフタレンスルホン酸・ナトリウム塩、などであり、ノニオン性浸透剤では2級ラウリルアルコール・エトキシレート、ドデシルアルコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシド付加アルキルフェニルエーテルなどである。処理量については使用する剤によって異なるが基布に対して固着量で0.01〜5重量%の範囲である。
【0019】
本発明の製造方法では、シート状物の一方の表面に撥水剤を含有する溶液を塗布することが必須である。また、撥水剤を含有する溶液の塗布方法はグラビア塗布であることが好ましい。より具体的には、撥水性の強い層を表面側のみに5〜300μmの範囲に薄く成形することが好ましく、処理の方法は70〜200メッシュのグラビアロールで1〜4回塗布することが好ましい。またこのときのグラビアロールとバックロールとのクリアランスが、加工する基布の厚みに対して50〜90%の圧縮で処理することが好ましい。より好ましくは60〜80%の範囲である。このとき50%以下の条件で加工を行うと加工時に撥水剤のしみ込みが大きくなりすぎ、撥水剤が加工表面にとどまらず、表面が目的の性能を得にくくなる傾向にある。一方90%以上では、撥水剤の処理ムラが発生し、得られるディスク加工用基布による安定した加工が困難な傾向にある。
【0020】
このようにして得られた本発明のディスク加工用基布を用いる加工方法は、精度と加工速度に優れたディスクを得ることができる方法である。加工としては特に磁気記録基板のテクスチャ加工やその後に行われるクリーニング加工において好ましく用いられる。例えばハードディスクを製造する際のテクスチャ加工では、本発明のディスク加工用基布を用い、研磨砥粒を分散させたスラリーとともにおこなわれる。ディスク加工用基布と共に使用される研磨砥粒スラリーは酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、窒化珪素、単または多結晶ダイアモンド、などでありそれぞれ粒径は0.05〜0.5μm程度のものが好ましく使用される。また、テクスチャ加工の後に行われるクリーニング加工においては、研磨砥粒を用いてテクスチャ加工して得たハードディスクの表面を、必要に応じて水、薬剤等を加え本発明の研磨用基布でブラッシングすることにより、ハードディスク表面に残存した砥粒粒子や各種破片を有効に除去することができ、生産効率を大きく改善することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお各測定方法は下記の方法によった。
(1)吸液時間
50mm×50mmにカットした測定用サンプルを7枚準備し、温度20℃、湿度60%のデシケータに12時間以上放置し試験片とする。温度20℃、湿度60%に保たれた室内で平坦な面に静置された試験片上2cmの高さから、液滴をマイクロピペットで一滴(15μl)滴下する。滴下後より基布に吸液し終わるまでの時間を測定した。測定は各測定サンプル1枚につき1回実施し、全7枚で計7回測定を行う。得られた測定値の最短時間と最長時間をのぞいた5回の結果を平均して求めたものを液滴の吸液水速度とし、単位は秒/15mlで表した。液滴としては、重量比率10%のイソプロピルアルコール(IPA)水溶液及び、精製水を用いた。
【0022】
[実施例1]
極細繊維の製造
ナイロン−6とポリエチレンをチップの状態で50:50の重量比で混合して押出機により溶融紡糸を行い、ポリエチレンが海成分の海島断面混合紡糸繊維を紡糸、延伸、捲縮、カットして繊度8dtex、51mm長の短繊維を作製した。得られた繊維の海成分であるポリエチレンを溶解除去して極細繊維化し、任意の繊維束の断面を電子顕微鏡写真にて2000倍に拡大・観察したところ、島成分の平均直径から算出した繊維の平均繊度は、0.0052dtexであった。
【0023】
ディスク加工用基布の作成
上記の極細化する前の短繊維を、カードおよびクロスレイヤーを用いて積層し、3バーブのニードル針を用い1400本/cmの針密度でニードルパンチして不織布を作成した。得られた不織布は目付570g/m、厚さ2.5mmであった。該不織布を150℃の乾燥機で加熱し、30℃の金属ロールで冷却ニップし固定化した。このニップ処理された不織布の目付は、560g/m、厚さ1.9mmであった。
【0024】
ニップ処理後の該不織布に、ポリエーテルエステル系ポリウレタン14%濃度のDMF溶液にシリコーン系の凝固調節剤を添加したものを1060g/m含浸し、不織布表面を基材厚さの70%にスクイーズして、余分なポリウレタン樹脂を除去した後、10%ジメチルホルムアミド(以下DMFとする)水溶液の水バス中で凝固して多孔質の高分子弾性体とし、140℃で乾燥した。その後、80℃のトルエンでディップ、ニップを繰り返し、ポリエチレンを抽出した。得られた極細繊維からなる基材は、目付445g/mであった。該基材表面にDMF溶液を200メッシュで2ロール、グラビア塗布し、乾燥後、320メッシュのサンドペーパーで研磨し、さらに、400メッシュのサンドペーパーで逆方向から研磨し基材表面を立毛させ、表面が多くの立毛繊維により覆われている立毛基材を得た。
【0025】
この立毛基材に親水剤としてジオクチルスルホサクシネート・ナトリウム塩を重量比率3%の固着量となるよう有効成分5%の液中に浸漬、ニップ後乾燥して全層親水性の基材を得た。該基材の表面側に有効成分10%のフッ素系撥水剤を70メッシュのグラビアロールで2回計70g/m付与し、バックアップロールとのクリアランスを基材厚の80%として処理を行い、撥水性の強い層を表面側のみに200μmの範囲となるように成形し、基布とした。
【0026】
ここで得られた基布の加工面において精製水15μlの液滴が吸水されるまでの時間を測定したが600秒以上放置しても少しもしみこむ気配もなかった。実際に一晩放置したところ液滴が乾燥してしまうまで基材中にしみこむことは無かった。さらにこの面における10%IPA水溶液の液滴の吸液時間が25秒/15μlであった。一方裏面側における精製水の吸水時間は2秒/15μlであり、10%IPA水溶液の液滴の吸液時間は0.5秒/15μlであった。該基布を3.5cmにスリットしアルミニウムハードデイスクのテクスチャ加工に適したディスク加工用基布を得た。
【0027】
該ディスク加工用基布を用い、研磨剤に0.07μmの多結晶ダイアモンド砥粒を含有しておりアニオン性の分散剤を含んでいるスラリーを用いてテクスチャ加工を実施した。テクスチャ加工後のディスクの表面平均粗さはRa=2.40Åと良好であるうえ、スクラッチなどの欠点が非常に少ないテクスチャ加工が行われ、またその加工時のピークカウントが2700と多く高効率な物であり、使用されたスラリーの量も少なく、得られたディスクの磁気特性は18.8と非常に良好な物となった。
【0028】
[比較例1]
実施例1と同様にして立毛基材を得た。
この立毛基材を、フッ素系撥水剤の有効成分5%の液中に浸漬、ニップした後、乾燥して、基材に対して撥水剤の重量比率が3%の固着量となった全層撥水性の基材を得た。該基材の加工表面側に有効成分10%のジオクチルスルホサクシネート・ナトリウム塩水溶液を110メッシュのグラビアロールで2回、バックアップロールとのクリアランスを基材厚の80%として処理を行い、親水性の強い層を裏面側のみに150μmの範囲で成形した基布を得た。
【0029】
ここで得られた基布の加工面において精製水15μlの液滴が吸水されるまでの時間を測定したが600秒以上放置しても少しもしみこむ気配もなかった。実際に一晩放置したところ液滴が乾燥してしまうまで基材中にしみこむことは無かった。さらにこの面における10%IPA水溶液の液滴の吸液時間は123秒/15μlであった。一方裏面側における精製水の吸水時間は5秒/15μlであり、10%IPA水溶液の液滴の吸液時間は4秒/15μlであった。該基布を3.5cmにスリットし加工用の基布とした。
【0030】
該基布を用い、研磨剤に0.07μmの多結晶ダイアモンド砥粒を含有したアニオン性の分散剤を含んでいるスラリーを用いてテクスチャ加工を実施した。加工時にスラリーが該基布上ではじかれ均一な加工が困難であった。テクスチャ加工後のディスクの表面平均粗さRa=1.82Åであり、スクラッチなどの欠点も少なく良好であったものの、その加工時のピークカウントが1800と効率が悪く、使用されたスラリーの量は非常に多く消費され効率の悪い物となった。さらに最終的に得られたディスクの磁気特性は14.5と非常に低い値であった。
【0031】
[比較例2]
実施例1と同様にして立毛基材を得た。
この立毛基材に、実施例1と同様に親水剤としてジオクチルスルホサクシネート・ナトリウム塩を重量比率3%の固着量となるよう有効成分5%の液中に浸漬、ニップ後乾燥して全層親水性の基材を得て、実施例1と異なり撥水剤を塗布せずに基布とした。
【0032】
ここで得られた基布の加工面において精製水15μlの液滴が吸水されるまでの時間は47秒であった。さらにこの面における10%IPA水溶液の液滴吸水速度が5秒/15μlであった。一方裏面側における精製水の吸水時間は4.5秒/15μlであり、10%IPA水溶液の液滴の吸液時間は3秒/15μlであった。該基布を3.5cmにスリットし加工用の基布とした。
【0033】
該基布を用い、研磨剤に0.07μmの多結晶ダイアモンド砥粒を含有しておりアニオン性の分散剤を含んでいるものを用いてテクスチャ加工を実施した。テクスチャ加工後のディスクの表面平均粗さRa=1.77Åであり、スクラッチなどの欠点も良好であったが、その加工時のピークカウントが1900と効率が悪く、使用されたスラリーの量も多く、最終的に得られたディスクの磁気特性は17.8と通常の値であった。
【0034】
[比較例3]
比較例1(実施例1)と同様にして立毛基材を得た。
この立毛基材を、比較例1と同じくフッ素系撥水剤の有効成分5%の液中に浸漬、ニップした後、乾燥して、基材に対して撥水剤の重量比率が3%の固着量となった全層撥水性の基材を得て、比較例1と異なり親水剤を塗布せずに基布とした。
【0035】
ここで得られた基布の加工面において精製水15μlの液滴が吸水されるまでの時間を測定したが600秒以上放置しても少しもしみこむ気配もなかった。実際に一晩放置したところ液滴が乾燥してしまうまで基材中にしみこむことは無かった。さらにこの面における10%IPA水溶液の液滴の吸液速度が150秒/15μlであった。一方裏面側においても精製水15μlの液滴が給水されるまでの時間を測定したが600秒以上放置しても少しもしみこむ気配もなかった。実際に一晩放置したところ液滴が乾燥してしまうまで基材中にしみこむことは無かった。さらにこの面における10%IPA水溶液の液滴の吸液時間は97秒/15μlであった。該基布を3.5cmにスリットし加工用の基布とした。
【0036】
該基布を用い、研磨剤に0.07μmの多結晶ダイアモンド砥粒を含有しておりアニオン性の分散剤を含んでいるものを用いてテクスチャ加工を実施したが、加工面の撥水性が強いためスラリーが基布表面ではじかれ不均一になり、加工ができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含むシート状物であって、加工使用面における液滴の吸液時間が10〜60秒/15μlであって、非使用面である裏面における液滴の吸液時間が0.001〜5秒/15μlであることを特徴とするディスク加工用基布。
【請求項2】
加工使用面における液滴の吸液水時間が、裏面における液滴吸液時間の5倍以上である請求項1記載のディスク加工用基布。
【請求項3】
該繊維が、0.1dtex以下の極細繊維である請求項1または2記載のディスク加工用基布。
【請求項4】
加工使用面が極細繊維立毛を有する請求項1〜3のいずれか1項記載のディスク加工用基布。
【請求項5】
該シート状物が繊維と高分子弾性体からなるものである請求項1〜4のいずれか1項記載のディスク加工用基布。
【請求項6】
繊維を含み、かつ全層が親水性を示すシート状物の加工使用面に、撥水剤を含有する溶液を10〜150g/m塗布することを特徴とするディスク加工用基布の製造方法。
【請求項7】
加工使用面が極細繊維立毛を有する請求項6記載のディスク加工用基布の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項記載のディスク加工用基布を用いることを特徴とする加工方法。

【公開番号】特開2007−973(P2007−973A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184620(P2005−184620)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】