説明

ディーゼルエンジンの始動制御装置

【課題】グロー待ち時間が不足した場合であれ、適切な燃焼を実現することのできるディーゼルエンジンの始動制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン・スイッチ22がイグニッション・オンに切り替えられてからスタータ・オンに切り替えられるまでの期間中グロープラグ5への通電を行いつつ、エンジンの始動性を変更可能な始動パラメータの適合を制御する。具体的には、グロープラグ5の温度がエンジンの始動に適した温度に上昇するまでに要するグロープラグ5への通電時間である要求グロー待ち時間と、エンジン・スイッチ22がイグニッション・オンに切り替えられてからスタータ・オンに切り替えられるまでのグロープラグ5への実際の通電時間である実グロー待ち時間とを比較する。そして、その比較結果に応じて、例えば始動時のメイン噴射時期等の始動パラメータを適合制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、グロープラグを備えるディーゼルエンジンの始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディーゼルエンジンは、通電により発熱して燃料の着火や燃焼を促進するグロープラグを備えており、始動の際にはこのグロープラグが十分に温まってからクランキングを開始する必要がある。すなわち通常、エンジンの始動の際には、エンジン・スイッチがオン(イグニッション・オン)に切り替えられるとグロープラグへの通電が開始され、グロープラグが所定の温度に上昇するまでに要する時間(グロー待ち時間)が、運転室内に設けられたグローランプの点灯によって運転者に通知される。そして従来、このグロー待ち時間については、グロープラグへの通電をグローランプの点灯よりも早い段階から行うようにして、体感的なグロー待ち時間を短縮することなども提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−275586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のエンジンも含め、従来のディーゼルエンジンでは、運転者によるグロー待ちが適正に行われること、すなわちグローランプの消灯後にエンジン・スイッチがスタート(スタータ・オン)に切り替えられてクランキングが開始されることを前提に始動制御が行われている。しかしながら、運転者によっては、グローランプの消灯を待ちきれず、グローランプが消灯する前にエンジン・スイッチをスタータ・オンに切り替えてしまうこともある。この場合、グロー待ち時間が不足し、グロープラグが十分に温まっていない状態で燃料噴射が開始されるため、未燃ガスが白煙等となって排出されるなど、エンジンの始動性はもとより、エミッションの悪化を招く虞すらあった。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、グロー待ち時間が不足した場合であれ、適切な燃焼を実現することのできるディーゼルエンジンの始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、エンジン・スイッチがイグニッション・オンに切り替えられてからスタータ・オンに切り替えられるまでの期間中グロープラグへの通電を行いつつ、エンジンの始動性を変更可能な始動パラメータを適合制御するディーゼルエンジンの始動制御装置であって、前記グロープラグの温度がエンジンの始動に適した温度に上昇するまでに要するグロープラグへの通電時間である要求グロー待ち時間と、前記エンジン・スイッチがイグニッション・オンに切り替えられてからスタータ・オンに切り替えられるまでのグロープラグへの実際の通電時間である実グロー待ち時間とを比較し、その比較結果に応じて前記始動パラメータの適合を制御することを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、実グロー待ち時間を測定して要求グロー待ち時間と比較し、比較結果に応じて始動パラメータの適合を制御することにより、運転者の操作状況にあわせた適切なエンジンの始動を行うことができるようになる。すなわち、グロー待ちが十分に行われた場合には、円滑な始動が可能であるとともに、グロー待ち時間が不足してグロープラグの温度が低い場合にも、適切な燃焼が行われるように始動パラメータの適合がなされる。したがって、グロー待ち時間が不足した場合であれ、適切な燃焼を実現することができるようになる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置において、前記始動パラメータの適合が、前記要求グロー待ち時間と前記実グロー待ち時間との比較結果に応じた前記始動パラメータの通常始動定数と同始動パラメータのグロー待ち不足始動定数との切り替えであることを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、2種の定数の切り替えという簡易な構成にて始動パラメータの適合を行うことができる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置において、前記切り替えは、前記要求グロー待ち時間と前記実グロー待ち時間との差が所定値よりも小さいとき、前記始動パラメータの始動定数を前記グロー待ち不足始動定数から前記通常始動定数へ切り替えるものであることを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、始動パラメータの初期設定をグロー待ち不足始動定数とすることで、スタータが駆動されてエンジンの始動が行われている最中に定数が切り替えられるような事態を回避することができるようになる。なおこの場合、上記所定値は「0」もしくは「0」に近い値とするとよい。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置において、前記始動パラメータの適合が、前記実グロー待ち時間が前記要求グロー待ち時間よりも短いときの時間差に応じた前記始動パラメータの補正であることを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、グロー待ち時間の不足度合いに合わせて、始動パラメータを適切に適合させることが可能となる。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置において、前記始動パラメータの補正は、前記時間差が大きいほど、前記エンジンの始動性を鈍らせる傾向にて行われることを要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、より適切な燃焼が行われるように、始動パラメータの適合を制御することができるようになる。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置において、前記適合が制御される始動パラメータが、始動時のメイン噴射時期、および始動時のコモンレール圧、およびパイロット噴射量、およびパイロット噴射時期、および目標グロー温度の少なくとも1つであることを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、グロー待ち時間が不足した場合に、的確にエンジンの始動性を変更して適切な燃焼が行われるように始動制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明にかかるディーゼルエンジンの始動制御装置の第1の実施の形態について、その制御装置と共に制御対象となるディーゼルエンジンの構成を模式的に示すブロック図。
【図2】第1の実施の形態の始動制御装置による始動制御についてその制御手順を示すフローチャート。
【図3】上記始動制御装置に用いられるメイン噴射時期補正マップの一例を示す図。
【図4】この発明にかかるディーゼルエンジンの始動制御装置の第2の実施の形態について、その制御装置と共に制御対象となるディーゼルエンジンの構成を模式的に示すブロック図。
【図5】第2の実施の形態の始動制御装置による始動制御についてその制御手順を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(i)は、第2の実施の形態の始動制御装置による始動制御の態様を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施の形態)
以下、この発明にかかるディーゼルエンジンの始動制御装置の第1の実施の形態について、図1〜図3を参照して説明する。まず、図1を参照して、この実施の形態にかかるディーゼルエンジンの始動制御装置が制御対象とするディーゼルエンジンおよびその周辺機構について説明する。
【0017】
図1に示すように、ディーゼルエンジン1は、吸気通路2、排気通路3と接続される燃焼室4を有し、この燃焼室4に向けてグロープラグ5およびインジェクタ6が設けられている。
【0018】
また、車両には、ディーゼルエンジン1の各種制御を実行する電子制御装置10が搭載されている。この電子制御装置10には、エンジン冷却水温度を検出する水温センサ20、クランクシャフトの回転速度(回転角度)を検出するクランクセンサ21、車両の運転者により切り換え操作されて現在の操作位置に対応した信号を出力するエンジン・スイッチ22が接続されている。これにより、電子制御装置10には、冷却水の水温、エンジン回転角度、エンジン・スイッチの現在の操作位置等の情報が入力される。また、電子制御装置10内のメモリ11には、エンジンの始動制御に用いられるメイン噴射時期補正マップが記憶されている。なお、上記メモリ11は、データ書き換え可能なROM(リード・オンリー・メモリ)であってもよいし、電子制御装置10への電源投入の都度、図示しないROM等から必要データが転送書き込みされるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)であってもよい。
【0019】
そして、これらの情報に基づき、電子制御装置10は、通電ユニット30を介してグロープラグ5の通電制御を行うとともに、エンジンの始動性を変更可能な始動パラメータ、特にこの実施の形態では始動時の燃料のメイン噴射時期の適合制御を行っている。具体的には、エンジン・スイッチ22がイグニッション・オンに切り替えられてからスタータ・オンに切り替えられるまでの期間中グロープラグ5への通電が行われ、その時間に応じて始動パラメータの適合制御が行われる。
【0020】
こうしたこの実施の形態のディーゼルエンジンの始動制御について、図2を参照して詳しく説明する。図2に示すルーチンは、電子制御装置10を通じて、所定の演算周期で繰り返し実行される処理である。
【0021】
この制御ではまず、ステップS11において、エンジン・スイッチ22がイグニッション・オン状態となっているか否かが判断される。エンジン・スイッチ22がイグニッション・オン状態でないと判断されるとき、例えばアクセサリーの位置に切り替えられているとき等は、以降の処理は行われない。
【0022】
このステップS11でエンジン・スイッチ22がイグニッション・オン状態であると判断されると、ステップS12に進み、エンジンが始動に至っているか否かが判断される。エンジンが始動に至っていると判断されるとき、すなわちエンジンが既に始動されて運転中であるときには以降の処理は行われない。
【0023】
このステップS12でエンジンが始動に至っていないと判断されると、ステップS13に進み、エンジン・スイッチ22がスタータ・オンに切り替えられたかどうかが判断される。エンジン・スイッチ22がスタータ・オンに切り替えられていない場合は、ステップS14に進み、時間T1がカウントされる。以後、ステップS13でエンジン・スイッチ22がスタータ・オンに切り替えられたと判断されるまで、ステップS13、ステップS14の処理が繰り返され、時間T1のカウントが継続される。そして、ステップS13でエンジン・スイッチ22がスタータ・オンに切り替えられたと判断されると、ステップS15に進み、時間T1のカウントを停止してその値を電子制御装置10内のメモリ11に記憶する。
【0024】
この間、エンジン・スイッチ22がイグニッション・オンに切り替えられてからスタータ・オンに切り替えられるまでの期間中は、グロープラグ5への通電が行われている。すなわち、時間T1は、ディーゼルエンジン1の始動に際して、スタータが駆動されクランキングが開始されるまでの間にグロープラグへ実際に通電が行われた時間である実グロー待ち時間となる。
【0025】
続いて、ステップS16で、グロープラグ5の温度がエンジンの始動に適した温度に上昇するまでに要する通電時間である要求グロー待ち時間T0と、上記実グロー待ち時間T1との比較が行われる。すなわち、要求グロー待ち時間T0と実グロー待ち時間T1の差であるグロー待ち不足時間T’が求められる。ちなみに、要求グロー待ち時間T0は冷却水温度に応じて設定される値であり、冷却水温度が低くなるほど長くなる傾向をもって、予め電子制御装置10内のメモリ11に記憶されている。
【0026】
そして、ステップS17で、上記ステップS16で求められたグロー待ち不足時間T’に応じて始動時の燃料のメイン噴射時期の補正値が決定される。この補正値は、図3に示すようなメイン噴射時期補正マップとして電子制御装置10内のメモリ11に記憶されている。このメイン噴射時期補正マップでは、グロー待ち不足時間T’が「0」以下であるとき、すなわちグロー待ちが十分に行われたときには、補正値は「0」となっている。一方、グロー待ち不足時間T’が「0」より大きい場合、その値が大きくなるほど、すなわちグロー待ち時間が不足するほど、メイン噴射時期が進角側になるような傾向をもって補正値が設定されている。
【0027】
さらに、ステップS18で始動時のメイン噴射時期の基準値に上記ステップS17で決定された補正値が加算される。なお、このメイン噴射時期の基準値は、上述の水温センサ20およびクランクセンサ21から得られる冷却水の水温と始動中のエンジン回転数によって決定される。具体的には、冷却水温度が低いほど、またエンジン回転数が高いほど進角側に設定される。
【0028】
このように、ステップS18で始動時のメイン噴射時期について補正がなされ、その補正後のメイン噴射時期に従って、ステップS19でエンジンが始動される。
ここで、このような始動制御が行われるこの実施の形態のディーゼルエンジンの始動制御装置の作用について述べる。
【0029】
上述のように、グロー待ち不足時間T’に応じて始動時の燃料のメイン噴射時期が補正されるため、運転者による操作状況にあわせて適切なエンジンの始動が行われる。すなわち、グロー待ちが十分に行われた場合には、円滑な始動が可能であるとともに、グロー待ち時間が不足してグロープラグ5の温度が低い場合にも、適切な燃料の燃焼が行われるように始動時のメイン噴射時期の適合がなされる。このとき、グロー待ち不足時間T’が大きいほどメイン噴射時期が進角側になるように補正値が設定されるため、グロー待ち時間が不足するほど、燃料が予混合される時間が長くなり、燃料を燃焼しやすくすることができる。したがって、グロー待ち時間が不足した場合であれ、エンジンの始動性やエミッションが悪化する虞を低減することができるようになる。
【0030】
また、上記実グロー待ち時間T1のカウントに関し、エンジンが始動に至っていないことをそのカウントの条件の一つとした。これにより、エンジン始動後の通常運転中、エンジン・スイッチがイグニッション・オンの位置にあるときに、実グロー待ち時間T1のカウントが進むことを回避できる。
【0031】
なお、この実施の形態では、補正対象とする始動パラメータを、始動時の燃料のメイン噴射時期としたが、これ以外に、始動時のコモンレール圧、燃料のパイロット噴射量、燃料のパイロット噴射時期、目標グロー温度のいずれかもしくはその組み合わせを補正するようにしてもよい。
【0032】
このとき、始動時のコモンレール圧は、グロー待ち不足時間が大きいほど低くするようにするとよい。これにより、燃焼室内での燃料の壁面付着量を減らして燃料を着火しやすくすることができる。
【0033】
また、燃料のパイロット噴射量は、グロー待ち不足時間が大きいほど多くするようにするとよい。これにより、予混合される燃料の分量が多くなるため、燃料が燃焼されやすくなる。
【0034】
また、燃料のパイロット噴射時期は、グロー待ち不足時間が大きいほど全体を進角するとともに、パイロット噴射を複数回行う場合にはその間隔を狭めるようにするとよい。これによっても、予混合が促進され、燃料が燃焼されやすくなる。
【0035】
また、目標グロー温度は、グロー待ち不足時間が大きいほど高くするようにするとよい。これにより、グローランプへの通電量を増やしてグローランプを急速に昇温することができる。
【0036】
このように、これらの始動パラメータの補正は、グロー待ち不足時間が大きいほどエンジンの始動性を鈍らせる傾向にて行われる。
以上説明したように、この実施の形態にかかるディーゼルエンジンの始動制御装置によれば、以下のような効果が得られるようになる。
【0037】
(1)グロープラグの温度がエンジンの始動に適した温度に上昇するまでに要するグロープラグへの通電時間である要求グロー待ち時間T0と、クランキングが開始されるまでの間のグロープラグへの実際の通電時間である実グロー待ち時間T1とを比較し、その比較結果に応じて始動パラメータを適合制御するようにした。これにより、グロー待ちが十分に行われた場合には、円滑な始動が可能であるとともに、グロー待ち時間が不足してグロープラグ5の温度が低い場合にも、適切な燃料の燃焼が行われるように始動パラメータの適合がなされる。したがって、グロー待ち時間が不足した場合であれ、適切な燃焼を実現することができるようになる。
【0038】
(2)始動パラメータの補正を、実グロー待ち時間T1が要求グロー待ち時間T0よりも短いときの時間差に応じて行うようにした。これにより、グロー待ち時間の不足度合いに合わせて、始動パラメータを適切に適合させることが可能となる。
(第2の実施の形態)
次に、この発明にかかるディーゼルエンジンの始動制御装置の第2の実施の形態を、第1の実施の形態との相違点を中心に、図4〜図6を参照して説明する。なお、この実施の形態にかかる始動制御装置も、その基本的な構成は第1の実施の形態と同等であり、図4においても第1の実施の形態と実質的に同一の要素にはそれぞれ同一の符号を付して示し、重複する説明は割愛する。
【0039】
図4に示すように、この実施の形態においても、電子制御装置10は、グロープラグ5の通電制御を行うとともに、エンジンの始動性を変更可能な始動パラメータの適合制御を行っている。ただし、この実施の形態の電子制御装置10内のメモリ12には、始動パラメータの定数値として通常始動定数とグロー待ち不足始動定数が記憶されている。具体的には、例えば、始動時の燃料のメイン噴射時期、始動時のコモンレール圧、燃料のパイロット噴射量、燃料のパイロット噴射時期、目標グロー温度といったパラメータが上記2種の定数として記憶されている。そして、これらの通常始動定数およびグロー待ち不足始動定数の切り替えにより、始動パラメータの適合制御が行われる。なお、上記メモリ12も、データ書き換え可能なROM(リード・オンリー・メモリ)であってもよいし、電子制御装置10への電源投入の都度、図示しないROM等から必要データが転送書き込みされるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)であってもよい。
【0040】
次に、この実施の形態のディーゼルエンジンの始動制御について、図5を参照して詳しく説明する。図5に示すルーチンは、これも電子制御装置10を通じて、所定の演算周期で繰り返し実行される処理である。
【0041】
この制御でも、第1の実施の形態と同様、まずステップS21において、エンジン・スイッチ22がイグニッション・オン状態となっているか否か、ステップS22において、エンジンが始動に至っているか否か、ステップS23において、エンジン・スイッチ22がスタータ・オンに切り替えられたかどうかが判断される。これらの条件が満たされていると、すなわち、エンジン・スイッチ22がイグニッション・オン状態となっており、かつ、エンジンが始動に至っておらず、かつ、エンジン・スイッチ22がスタータ・オンに切り替えられていないと判断されると、ステップS24に進み、実グロー待ち時間T1がカウントされる。
【0042】
以後、ステップS23でエンジン・スイッチ22がスタータ・オンに切り替えられたと判断されるまで、ステップS23、ステップS24の処理が繰り返され、実グロー待ち時間T1のカウントが継続される。そして、ステップS23でエンジン・スイッチ22がスタータ・オンに切り替えられたと判断されると、ステップS25に進み、実グロー待ち時間T1のカウントが停止される。そして、ステップS26で、要求グロー待ち時間T0と実グロー待ち時間T1の差であるグロー待ち不足時間T’が求められる。
【0043】
そして、この実施の形態では、ステップS27において、グロー待ち不足時間T’が判定値αより小さいかどうかが判定される。この判定値αは、「0」に近い値、例えば「500ms(ミリ秒)」に設定されている。ステップS27でグロー待ち不足時間T’が判定値αより小さいと判定されると、ステップS28でグロー待ち時間が充足していると判断され、グロー待ち時間充足フラグがたてられる(フラグオン)。このグロー待ち時間充足フラグがオンになっていると、始動パラメータの定数値が上述の通常始動定数に切り替えられ、その値に従ってエンジンが始動される。
【0044】
一方、ステップS27でグロー待ち不足時間T’が判定値α以上であると判定されると、ステップS29に進み、グロー待ち時間充足フラグはたてられない(フラグオフ)。グロー待ち時間充足フラグがオフになっていると、上述のグロー待ち不足始動定数に従った始動パラメータによりエンジンが始動される。すなわちこの実施の形態では、始動パラメータの定数値として、グロー待ち不足始動定数が初期設定されており、グロー待ち時間充足フラグがオンになっていると、始動パラメータの定数値を通常始動定数に切り替えるようにしている。
【0045】
次に、図6を参照しつつ、上述したこの実施の形態のディーゼルエンジンの始動制御の制御態様についてさらに詳述する。
いま、図6(b)に示すように、時刻t1にエンジン・スイッチ22がイグニッション・オン状態となったとする。すると、図6(e),(f)に示すように、グローランプ点灯時間(要求グロー待ち時間T0)が設定されてグローランプが点灯し、グロープラグ5への通電が開始される。これに伴い、図6(g)に示すように、実グロー待ち時間T1のカウントが開始される。実グロー待ち時間T1は、エンジン・スイッチ22がスタータ・オンに切り替えられるまでカウントされ続け、この実グロー待ち時間T1の増加に伴い、図6(h)に示すように、グロー待ち不足時間T’が減少していく。そして、グロー待ち不足時間T’が「500ms」より小さくなる時刻t3において、図6(i)に示すように、グロー待ち時間充足フラグがオンとされる。
【0046】
ここで、図6(c)に実線で示すように、グローランプがオフとなる時刻t4でエンジン・スイッチ22をスタータ・オンに切り替えたとすると、グロー待ち時間充足フラグがオンとなっているため、始動パラメータの定数値が通常始動定数に切り替えられ、その値に従ってエンジンが始動される。その後、図6(a),(d)に示すように、エンジンの回転数が上昇してエンジンが自立回転を始めたとみなすことができる回転数を超えた時刻t5でエンジンが始動に至ったと判定されると、図6(c)に示すように、時刻t6でスタータがオフとされる。
【0047】
一方、図6(c)に一点鎖線で示すように、グローランプ点灯中の時刻t2でエンジン・スイッチ22をスタータ・オンに切り替えたとすると、グロー待ち時間充足フラグがオフ状態であるため、始動パラメータの定数値の切り替えは行われず、初期設定であるグロー待ち不足始動定数によってエンジンが始動される。
【0048】
ここで、このような始動制御が行われるこの実施の形態のディーゼルエンジンの始動制御装置の作用について述べる。
上述のように、グロー待ち不足時間T’に応じて始動時の始動パラメータの定数値が切り替えられるため、運転者による操作状況にあわせて適切なエンジンの始動が行われる。すなわち、グロー待ちが十分に行われた場合には、円滑な始動が可能であるとともに、グロー待ち時間が不足してグロープラグ5の温度が低い場合にも、グロー待ち不足始動定数によってエンジンが始動されることにより適切な燃料の燃焼が行われるようになる。
【0049】
また、始動パラメータの定数値の切り替えの判定を、判定値αを用いて行うようにしたことにより、グロー待ち不足時間T’がごく小さい値である場合には、グロー待ち時間が充足したとして、始動パラメータを通常始動定数に切り替えてエンジンの始動が行われる。したがって、より始動性のよい適切な始動制御を行うことが可能となる。
【0050】
また、始動パラメータの定数値として、初期設定をグロー待ち不足始動定数とし、グロー待ち時間充足フラグがオンである場合に、通常始動定数に切り替えるようにした。これにより、スタータが駆動されてエンジンの始動が行われている最中に定数が切り替えられるような事態を防いでいる。
【0051】
以上説明したように、この実施の形態にかかるディーゼルエンジンの始動制御装置によれば、上述の第1の実施の形態の(1)の効果に加え、以下の効果が得られるようになる。
【0052】
(3)始動パラメータの適合を、要求グロー待ち時間T0と実グロー待ち時間T1との比較結果に応じた始動パラメータの通常始動定数と同始動パラメータのグロー待ち不足始動定数との切り替えによって行うようにした。これにより、2種の定数の切り替えという簡易な構成にて始動パラメータの適合を行うことができる。なお、始動パラメータの種類によっては、第1の実施の形態のようにグロー待ち不足時間T’の時間に応じて始動パラメータの補正を行うよりも、この実施の形態のように2種の定数を切り替える方が適している場合もある。
【0053】
(4)要求グロー待ち時間T0と実グロー待ち時間T1との差が判定値αよりも小さいとき、始動パラメータの始動定数をグロー待ち不足始動定数から通常始動定数へ切り替えるようにした。このように始動パラメータの初期設定をグロー待ち不足始動定数とすることで、スタータが駆動されてエンジンの始動が行われている最中に定数が切り替えられるような事態を回避することができるようになる。
(他の実施の形態)
なお、上記実施の形態は、以下のような形態にて実施することもできる。
【0054】
・上記第2の実施の形態では、判定値αを「0」に近い値、例えば「500ms」に設定するようにしたが、「0」に設定するようにしてもよい。
・上記各実施の形態では、始動パラメータとして、始動時のメイン噴射時期、および始動時のコモンレール圧、およびパイロット噴射量、およびパイロット噴射時期、および目標グロー温度の適合制御を行うこととしたが、対象とする始動パラメータはこれらに限られない。例えば、始動時の燃料噴射量や燃料の増量パターンなど、エンジンの始動性を変更可能なパラメータであれば、同様に適合制御の対象パラメータとすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1…ディーゼルエンジン、4…燃焼室、5…グロープラグ、6…インジェクタ、10…電子制御装置、11,12…メモリ、20…水温センサ、21…クランクセンサ、22…エンジン・スイッチ、30…通電ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン・スイッチがイグニッション・オンに切り替えられてからスタータ・オンに切り替えられるまでの期間中グロープラグへの通電を行いつつ、エンジンの始動性を変更可能な始動パラメータを適合制御するディーゼルエンジンの始動制御装置であって、
前記グロープラグの温度がエンジンの始動に適した温度に上昇するまでに要するグロープラグへの通電時間である要求グロー待ち時間と、前記エンジン・スイッチがイグニッション・オンに切り替えられてからスタータ・オンに切り替えられるまでのグロープラグへの実際の通電時間である実グロー待ち時間とを比較し、その比較結果に応じて前記始動パラメータの適合を制御する
ことを特徴とするディーゼルエンジンの始動制御装置。
【請求項2】
前記始動パラメータの適合が、前記要求グロー待ち時間と前記実グロー待ち時間との比較結果に応じた前記始動パラメータの通常始動定数と同始動パラメータのグロー待ち不足始動定数との切り替えである
請求項1に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置。
【請求項3】
前記切り替えは、前記要求グロー待ち時間と前記実グロー待ち時間との差が所定値よりも小さいとき、前記始動パラメータの始動定数を前記グロー待ち不足始動定数から前記通常始動定数へ切り替えるものである
請求項2に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置。
【請求項4】
前記始動パラメータの適合が、前記実グロー待ち時間が前記要求グロー待ち時間よりも短いときの時間差に応じた前記始動パラメータの補正である
請求項1に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置。
【請求項5】
前記始動パラメータの補正は、前記時間差が大きいほど、前記エンジンの始動性を鈍らせる傾向にて行われる
請求項4に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置。
【請求項6】
前記適合が制御される始動パラメータが、始動時のメイン噴射時期、および始動時のコモンレール圧、およびパイロット噴射量、およびパイロット噴射時期、および目標グロー温度の少なくとも1つである
請求項1〜5のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2322(P2013−2322A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132160(P2011−132160)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】