説明

デンプンの品質改良剤およびこれを用いた食品

【課題】 デンプン含有食品の種類にあったデンプンの品質改良剤、即ち、デンプンの増粘効果やとろみ付与を補強し、デンプンの老化を抑制及び又は促進する品質改良剤を提供する。
【解決手段】デンプンの品質改良剤として、分子量が5.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムを含有することにより、デンプンの短期間老化を抑制する。デンプンの品質改良剤として、分子量が15.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムを含有することにより、デンプン糊の粘度を相乗的に上昇させ、デンプンの長期間老化を抑制する。更にデンプンの品質改良剤として分子量が15.0×104g/mol以下のフェヌグリークガムを含有することにより、デンプンの長期間老化を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプンの品質改良剤に関する。詳細には、アミロースおよび長鎖アミロペクチンのゲル化に起因するデンプンの短期間老化を抑制及び/又は促進するデンプンの品質改良剤、又はそれに加えて、アミロースおよび短鎖アミロペクチンの結晶化に起因するデンプンの長期間老化を抑制及び/又は促進するデンプンの品質改良剤、及び、当該デンプンの品質改良剤を用いた食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デンプン含有食品として、従来、食パン・菓子パン等のパン類、うどん・そば・中華麺等の麺類、ホワイトソース・グラタン等の調理ソース類、スポンジケーキ・バターケーキ・フルーツケーキ等のケーキ類、ドーナツ類、餃子・焼売・春巻き・ワンタン等の皮類、蒸しパン・中華饅頭・蒸し饅頭等の饅頭類、コロッケ、お好み焼き、たこ焼き、鯛焼き、今川焼き、大福、団子、ういろう等の多種多様な食品が上市されている。
【0003】
この様なデンプン含有食品においては、その製造過程においてデンプンの弾性率が経時的に変化し、その弾性が安定化するのに時間がかかるため、デンプン含有食品の品質にバラツキが生じ一定しにくいという問題があった。また、デンプンの老化による、食感の劣化(ソフト感、しっとり感の消失)が問題となっていた。よって、ホワイトソースなどのとろみがあるデンプン含有食品について、デンプンの含量が多くなると、とろみは付与されるものの老化が早く進む傾向がある。
【0004】
こういった問題を解決するために、デンプンあるいはデンプン含有食品に多糖類等のハイドロコロイドを添加する方法が従来より提案されている。例えば、キサンタンガム単独あるいは、ローカストビーンガム、グァーガム、タラガム、カラヤガム及び寒天等の紅藻類抽出物から選ばれる少なくとも一種類以上の素材と併用により、餅生地の老化を抑制する方法(特許文献1)、デンプン類に共処理したガラクトマンナン−グルコマンナンを配合することにより、デンプン類を含む組成物の老化を抑制する方法(特許文献2)、グルコース、マンノース、およびガラクトースのうちの少なくとも一つを構成糖とする天然多糖類またはその分解物を配合することにより、デンプンの膨潤を抑制し、糊化とそれに伴う食品の付着や食感の劣化を防ぐ方法(特許文献3)、もち米に小麦デンプン・白糠、ワキシースターチ等のデンプンを添加して、餅生地の老化を促進する方法(特許文献4)等が提案されている。また、ガラクトマンナン、グルコマンナン等の食品ハイドロコロイドを添加することにより、デンプン性食品の食感改良、保水性改良、老化抑制効果がみられることは、学問的にも公知である(非特許文献1)。
【0005】
天然多糖類のデンプンに対する機能は、その分子特性によって大きく異なることが予想される。つまり、同一の天然多糖類でも、例えば分子量等の物理化学的性質が異なれば、デンプンに及ぼす作用が異なる可能性がある。しかし、上記の発明においては、単に天然多糖類を単独あるいは併用して、デンプンおよびデンプン含有食品の品質を改良する方法のみが記載されており、使用する天然多糖類の分子特性、つまりどのような分子特性を有する多糖類が真に有効であるかについては全く言及されていない。
【0006】
更には天然多糖類でも、分子特性の異なる多数の製品が上市されており、客観的指標による効果の分類が急務とされていた。
【0007】
デンプンの老化にはデンプンに含まれる物質であるアミロースとアミロペクチンが寄与していると言われている。そのうち、炊飯米やうどん等のデンプン含有食品に見られるような12時間〜1日程度の比較的短期間で起こる老化は、アミロース及び長鎖アミロペクチンのゲル化に起因していると言われており(非特許文献2)、また、パウンドケーキ等の長期保存可能なデンプン含有食品に見られる1日以上1ヶ月くらいかけて起こる比較的長期間で起こる老化には、上述のアミロース及び長鎖アミロペクチンのゲル化に加え、アミロース及び短鎖アミロペクチンの結晶化に起因することが判っている(非特許文献2)。よって、デンプン含有食品の種類にあったデンプンの品質改良剤、即ち、炊飯米やうどん等の比較的短期間で老化が起こるデンプン含有食品や、パウンドケーキ等の比較的長期間保存可能なデンプン含有食品に適した品質改良剤が求められている。逆にはるさめなどのデンプン含有食品は、その製造中にデンプンの老化工程が含まれる(非特許文献3)。老化が早く進むと製造工程を短縮化できるため、老化促進を行うデンプンの品質改良剤が求められている。
【0008】
また、ホワイトソースなどの液状食品では、デンプンの増粘作用を補強することでデンプンの添加量を抑え、デンプンの老化による物性の経時変化を抑制するような品質改良剤も求められている。
【0009】
【特許文献1】特開昭52-128249号公報
【特許文献2】特開平11-290001号公報
【特許文献3】特開平5-276882号公報
【特許文献4】特開昭52-102465号公報
【0010】
【非特許文献1】吉村美紀、食品混合ゲル、日本調理科学会誌、34,424-431(2001)
【非特許文献2】吉村美紀、高谷友久、西成勝好、でん粉・ハイドロコロイド混合系の特性について、食品加工技術、18, 139-148 (1998)
【非特許文献3】高橋禮治著、でん粉製品の知識 (1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたものであり、デンプン含有食品の種類にあったデンプンの品質改良剤、即ち、ホワイトソース等のデンプンによるとろみ付与を補強する品質改良剤、炊飯米やうどん等の比較的短期間での老化が起こるデンプン含有食品や、パウンドケーキ等の比較的長期間保存可能なデンプン含有食品に適した品質改良剤を提供すること、また、はるさめなどのデンプン含有食品用の、老化促進を行うデンプンの品質改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、ガラクトマンナンの一種ではあるが、グァーガム、タラガム、およびローカストビーンガム等と比べると食品添加物としての利用頻度が低いフェヌグリークガムを用い、その分子量による効果の相違に注目して鋭意研究を重ねていたところ、分子量が15.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムが、アミロースおよび長鎖アミロペクチンとの相互作用により、相乗的に増粘すること、分子量が5.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムが、アミロースおよび長鎖アミロペクチンのゲル化を阻害してデンプンの短期間老化を抑制すること、分子量が15.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムが、短鎖アミロペクチンの結晶化を阻害してデンプンの長期間老化を抑制すること、更に分子量が15.0×104g/mol以下のフェヌグリークガムがアミロースの結晶化を促進してデンプンの長期間老化を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、下記項1乃至5に掲げるデンプンの品質改良剤である:
項1.分子量が5.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムを含有することを特徴とするデンプンの品質改良剤。
項2.分子量が15.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムを含有することを特徴とするデンプンの品質改良剤。
項3.分子量が15.0×104g/mol以下のフェヌグリークガムを含有することを特徴とするデンプンの品質改良剤。
【0014】
項4.項1乃至3に記載のデンプンの品質改良剤及びデンプンを含有することを特徴とするデンプン含有食品。
項5.デンプンに対するフェヌグリークガムの添加量が0.2〜20重量%である、項4に記載のデンプン含有食品。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、デンプン含有食品の種類にあったデンプンの品質改良剤、即ち、ホワイトソース等のデンプンによるとろみ付与を補強する品質改良剤、炊飯米やうどん等の比較的短期間での老化が起こるデンプン含有食品や、パウンドケーキ等の比較的長期間保存可能なデンプン含有食品に適した品質改良剤を提供すること、また、はるさめなどのデンプン含有食品用の、老化促進を行うデンプンの品質改良剤を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のデンプンの品質改良剤は、分子量の異なるフェヌグリークガムを含有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明の品質改良剤の対象となるデンプンとしては、トウモロコシ、モチトウモロコシ、馬鈴薯、甘藷、小麦、米、餅米、タピオカ、サゴヤシ等由来のデンプン、ならびに、これらに物理的又は、化学的処理を施した加工澱粉(酸分解澱粉、酸化澱粉、α化澱粉、グラフト化澱粉、カルボキシメチル基、ヒドロキシアルキル基等を導入したエーテル化デンプン、2カ所以上のデンプンの水酸基間に多官機能基を結合させた架橋澱粉、湿熱処理澱粉等)を挙げることができる。
【0018】
本発明で使用するフェヌグリークガムとは、地中海地方を原産地とする1年草のマメ科植物フェヌグリークの胚乳に含まれる多糖類であり、日本では香辛料の原料(別名コロハ)として、天然香料起原物質リストに収載されている。フェヌグリークガムは、β-1,4 D-マンナンの主鎖骨格に側鎖としてα-D-ガラクトースが1,6結合した、いわゆるガラクトマンナンを主成分とする。マンノースとガラクトースのモル比率は約1:1であり、工業的に生産されている他のガラクトマンナン類(グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム)に比べて側鎖基含量が高く、水への溶解性も高い。フェヌグリークガムは、血中コレステロールや脂質の低下に効果があるといわれており、健康食品の基材として使用されている。また、前述のように香辛料の原料として使用されているが、食品添加物としての使用はあまり報告されていない。
【0019】
まず、本発明のデンプンの品質改良剤は、前記フェヌグリークガムのうち、分子量が5.0×105g/mol以上のものである。当該分子量を有するフェヌグリークガムをデンプンの品質改良剤として使用することにより、デンプンのアミロースおよび長鎖アミロペクチンのゲル化に起因するデンプンの短期間、即ち、炊飯米やうどん等のデンプン含有食品に見られるような、12時間〜1日間程度の比較的短期間で起こるような老化を抑制することができる。
【0020】
更に、好ましくは、本発明のデンプンの品質改良剤として、前記フェヌグリークガムのうち、分子量が15.0×105g/mol以上のものが含有されているものである。当該分子量を有するフェヌグリークガムをデンプンの品質改良剤として使用することにより、前記作用に加えて、アミロースおよび短鎖アミロペクチンの結晶化に起因するデンプンの長期間、即ち、パウンドケーキ等のデンプン含有食品にみられるような1日間〜1ヶ月間程度の比較的長期間で起こる老化をも抑制することができる。また、当該分子量を有するフェヌグリークガムは、デンプン糊の増粘作用を補強することもできる。つまり、より少ない添加量でデンプン含有食品を増粘させることが出来るため、食品に含まれるデンプンの含有量を減らすことが出来、結果として、デンプンに起因する老化を抑制することが出来る。
【0021】
一方で、本発明のデンプンの品質改良剤として、前記フェヌグリークガムのうち、分子量が15.0×104g/mol以下のものが含有されているものは、アミロースおよび短鎖アミロペクチンの結晶化に起因するデンプンの長期間老化を促進する。よって、はるさめなどの製造工程中デンプンの老化を起こす必要のあるデンプン含有食品には、製造時間の短縮化を行うことができ、有用性が高い。
【0022】
なお、これらフェヌグリークガムは、天然物から得られるものであり、分子量分布がある。従って、本発明で規定する分子量はフェヌグリークガムの平均分子量を表すこととする。平均分子量の測定方法としては、後述する実験例1の方法などを用いて測定する。また、分子量の大小は、主にフェヌグリークガムのβ-1,4 D-マンナンの主鎖の長短で決まる。分子量の調整方法として、得られた原料を酸分解や酵素分解してガムの調製を行う際に、その反応条件(酸の種類、酵素の種類、反応時間、反応温度、処理濃度等)を任意に調整して行うことができる。なお、その反応条件について、例えば、特許第2603470号、特開平2−229117号公報、特開平4−210639号公報などに記載がされており、それらから、目的とする分子量になるように適宜調整する。
【0023】
本発明のデンプンの品質改良剤には、フェヌグリークガムの効果を妨げない範囲において、L-アスパラギン酸ナトリウム等のアミノ酸、5'−イノシン酸二ナトリウム等の核酸、クエン酸一カリウム等の有機酸、および塩化カリウム等の無機塩類に代表される調味料、カラシ抽出物、ワサビ抽出物、およびコウジ酸等の日持向上剤、シラコたん白抽出物、ポリリシン、およびソルビン酸等の保存料、α、βアミラーゼ、α、βグルコシダ−ゼ、パパイン等の酵素、クエン酸、フマル酸、コハク酸等のpH調整剤、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン等の乳化剤、香料、色素、キサンタンガム、グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンド種子多糖類、サイリウムシードガム、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、ペクチン、グルコマンナン、カラギナン、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、ジェランガム、ネイティブジェランガム、カードラン、プルラン、マクロホモプシスガム、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム等のセルロース誘導体、微結晶セルロース、発酵セルロース、加工・化工でん粉、未加工・未化工でん粉(生でん粉)等の増粘多糖類、ゼラチン、乳由来のタンパク質、卵由来のタンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質等のタンパク質、膨張剤、ショ糖、果糖、還元デンプン糖化物、エリスリトール、キシリトール等の糖類、スクラロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム、アスパルテーム等の甘味料、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類、鉄、カルシウム等のミネラル類等を添加することができる。
【0024】
本発明に係るデンプンの品質改良剤は、従来公知の方法により調製されるが、例えば、フェヌグリークガムと他の食品ハイドロコロイドを併用する場合は、複数の原料を粉体混合して調製することができる。
【0025】
本発明に係るデンプンの品質改良剤のデンプンへの添加方法としては、デンプンの品質改良剤を予め水和し溶液状にしてデンプンへ添加する方法や、デンプンの品質改良剤を粉末のままデンプンに含有する方法等を挙げることができるが、特に限定されない。なお、本発明のデンプンの品質改良剤をデンプンに含有させる場合の含有量として、デンプンに対するフェヌグリークガムの添加量が0.2〜20重量%、好ましくは0.5〜5重量%となるように調整することができる。また、フェヌグリークガムとして未精製品および精製品のいずれも使用することができる。
【0026】
更に、本発明は、前記のデンプンの品質改良剤及びデンプンを含有することを特徴とするデンプン含有食品に関する。
【0027】
本発明のデンプン含有食品としては、デンプンが含有される食品で有れば特に限定はされないが、例えば、食パン・菓子パン等のパン類、うどん・そば・中華麺等の麺類、ホワイトソース・グラタン等の調理ソース類、スポンジケーキ・バターケーキ・フルーツケーキ等のケーキ類、ドーナツ類、餃子・焼売・春巻き・ワンタン等の皮類、蒸しパン・中華饅頭・蒸し饅頭等の饅頭類、コロッケ、お好み焼き、たこ焼き、鯛焼き、今川焼き、大福、団子、ういろう、はるさめ、みたらし団子のたれ、カスタードクリーム、フラワーペースト等の多種多様な食品を挙げることができる。
【0028】
中でも、とろみが付与されたデンプン含有増粘食品として、ホワイトソース、グラタン、ソース、ドレッシング、みたらし団子のたれ、カスタードクリーム、フラワーペースト等を挙げることができる。これらに、本発明に係るデンプンの品質改良剤のうち、分子量が15.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムを使用すると、デンプンが付与する、増粘やとろみ付与効果を補強することが出来、更には、老化を抑制することが出来る。
【0029】
更に、比較的短期間(12時間〜1日間程度)で老化が起こるデンプン含有食品には、分子量が5.0×105g/mol以上のものを使用すると、短期間で起こる老化を抑制できる。更には、比較的長期間(1日〜1ヶ月間程度)かけて老化が起こるデンプン含有食品には、15.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムを使用すると、比較的長期間で起こる老化も制することが出来る。
【0030】
デンプン含有食品の製造方法としては、常法により行うことができる。本発明のデンプンの品質改良剤は、デンプンと予め混合してから添加しても、また、デンプンと別途添加しても良い。本発明に係るデンプンの品質改良剤の添加量として、デンプンの含有量により大きく左右されるが、デンプンに対するフェヌグリークガムの添加量が0.2〜20重量%となるように任意に調整して添加することが出来る。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。特に記載のない限り、「部」は「重量部」、「%」は、「重量/容積%」とする。
【0032】
実験例1:フェヌグリークガムの平均分子量測定
フェヌグリークガムとしてビストップ[商標]D-2417(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を用い、水溶解、アセトン沈澱によりフェヌグリークガムを回収・精製した(試料番号F-6)。精製したフェヌグリークガムをβ-mannanaseにより酵素処理し、5種類の低分子化試料を調製した(試料番号F-1〜F-5)。
【0033】
フェヌグリークガムの平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィーと連結した多角度光散乱法(SEC-MALLS)により決定した。サイズ排除クロマトグラフィー用カラムとしてTSKgel G-6000 PWxLとTSKgel GMPWxL (東ソー製、いずれも排除限界50.0×106g/mol)を連結したものを用い、 移動相として0.05M 硝酸ナトリウム/0.02% アジ化ナトリウムを使用し、流速0.5ml/minで分画を行った。次に、静的光散乱測定装置DAWN-DSP(Wyatt Technology社)により、分画した試料の散乱強度(散乱角26-132度)を、温度25℃、波長632.8nm(He-Neレーザー)で測定した。測定試料のフェヌグリークガム濃度は0.05%(w/v)とし、ポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターでろ過した後、測定に供した。
【0034】
Zimm-Plot法により求めたフェヌグリークガムの重量平均分子量(以下、「分子量」と略す)について、結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実験例2:デンプン糊の増粘試験
アミロース含量26%の(未化工)コーンデンプンを使用し、6種類のフェヌグリークガム(表1に掲げる試料番号F-1〜F-6)をそれぞれ併用して、コーンデンプンの膨潤挙動をRVA(Rapid Visco Analyzer)により評価した。それぞれ、デンプン濃度は15%、フェヌグリークガム濃度は0.5%とした。具体的には、予め調製したフェヌグリークガム水溶液あるいは脱イオン水をコーンデンプンに加え、1)50℃で1分間保持後、2)50℃〜95℃まで昇温速度6℃/分、3)95℃で5分保持、4)95℃〜50℃まで降温速度6℃/分、5)50℃で2分間保持してRVA曲線を得た。得られたRVA曲線から膨潤ピーク粘度を求めた。
【0037】
対照として、フェヌグリークガムを添加しない、デンプン15%添加のみの系も調製し、同様に膨潤ピーク粘度を求めた。デンプンのみ添加系を「対照」とし、各試料番号F-1〜F-6を添加した系を、それぞれ「F-1」、「F-2」、「F-3」、「F-4」、「F-5」、「F-6」として、膨潤ピーク粘度の結果を示すグラフを図1に示す。
【0038】
F-5,F-6は(18.3×105g/mol以上の分子量を有するフェヌグリークガムの添加)、デンプン糊の粘度が有意に上昇した。それに対し、F-1,F-2,F-3,F-4(54.0×104g/mol以下の分子量を有するフェヌグリークガムの添加)はデンプン糊の粘度は逆に低下した。
【0039】
以上の結果より、分子量約15.0×105g/mol以上のフェヌグリークガム(例えば、試料番号F-5,F-6のフェヌグリークガム)の添加により、デンプン粒から流出したアミロースおよび/または長鎖アミロペクチンとフェヌグリークガムが相互作用し、あるいはフェヌグリークガムの水和によってデンプン成分の実効濃度が上昇し、デンプン糊を増粘させることが分かった。
【0040】
実験例3:デンプンの短期間老化試験
実験例2で調製したデンプン糊(コーン)の動的粘弾性の時間依存性を、温度4℃で24時間測定した。デンプン濃度は5%、フェヌグリークガム濃度は0.5%とした。測定は動的粘弾性測定装置ARES(レオメトリックサイエンティフィック社)により、冶具としてCone-plate型プランジャー(直径50mm、ギャップ0.05mm)を用い、周波数6.28rad/s、歪0.5%で測定を行った。24時間測定後、検体間の損失正接(tan δ)を比較した。損失正接は、その値が小さいほど試料が弾性的(ゲル的)であることを表し、デンプンの老化が進行していることを示す。
【0041】
対照として、フェヌグリークガムを添加しない、デンプン15%添加のみの系も調製し、損失正接(tanδ)を求めた。デンプンのみ添加系を「対照」とし、各試料番号F-1〜F-6を添加した系を、それぞれ「F-1」、「F-2」、「F-3」、「F-4」、「F-5」、「F-6」として、損失正接(tan δ)の結果を示すグラフを図2に示す。
結果を図2に示す。
【0042】
F-4,F-5,F-6(54.0×104g/mol以上の分子量を有するフェヌグリークガムの添加)は、24時間後の損失正接が上昇した。特に、F-5,F-6(18.3×105g/mol以上の分子量を有するフェヌグリークガムの添加)は効果が大きかった。
【0043】
以上の結果より、分子量約5.0×105g/mol以上のフェヌグリークガム(例えば、試料番号F-4,F-5,F-6のフェヌグリークガム)の添加により、デンプン粒から溶出したアミロースあるいは長鎖アミロペクチンのゲル化が阻害され、デンプンの短期間老化が抑制されることが分かった。
【0044】
実験例4:デンプンの長期間老化試験
デンプン(コーン)濃度15%、6種類のフェヌグリークガム(表1に掲げる試料番号F-1〜F-6)をそれぞれ0.5%添加してデンプン糊を調製した。これを直径20mm、高さ20mmの円柱鋳型に充填、20℃で1時間保持してデンプンゲルを調製した。得られたゲルは4℃で最大14日間保存し、20℃に戻してクリープ試験に供した。クリープ試験はレオメーターTA-XT2i(StableMicro Systems社)により、直径75mmの円板型プランジャーを用いて、歪10−15%、歪付加時間1分で行った。得られたクリープ曲線から歪付加1分後のコンプライアンスを求めた。コンプライアンスは弾性率の逆数であり、値が小さいほど試料が弾性的(ゲル的)であることを表し、デンプンの老化が進行していることを示す。
【0045】
各検体でコンプライアンスの対数を時間に対してプロットし、次式に示す回帰式で一次回帰して、速度定数を求めた。速度定数が小さいほど、時間的な物性変化が小さいことを表す。
【0046】
LogJ=-kt+LogJ0 (J:コンプライアンス、k: 速度定数、t:時間、J0:初期コンプライアンス)
【0047】
対照として、フェヌグリークガムを添加しない、デンプン15%添加のみの系も調製し、同様にして速度定数を求めた。デンプンのみ添加系を「対照」とし、各試料番号F-1〜F-6を添加した系を、それぞれ「F-1」、「F-2」、「F-3」、「F-4」、「F-5」、「F-6」として、速度定数の結果を示すグラフ。結果を図3に示す。
【0048】
F-5,F-6(18.3×105g/mol以上の分子量を有するフェヌグリークガムの添加)は、速度定数は有意に低下した。よって、分子量約15.0×105g/mol以上のフェヌグリークガム(例えば、試料番号F-5, F-6のフェヌグリークガム)の添加により、短鎖アミロペクチンの結晶化が阻害され、デンプンの長期間老化が抑制されることが分かった。
【0049】
実験例5:デンプンの老化促進試験
実験例2で調製したデンプン糊(コーン)を4℃で2週間保存し、保水性を測定した。具体的にはデンプン糊を50mL容の遠心管に計り取り、所定期間冷蔵保持後、5000gで10分間遠心処理した。遊離水を除去して、次式に従ってデンプン糊の離水を算出した。離水が多いほど、デンプンの老化が進行し、保水性が低下することを表す。
【0050】
離水(%)=(遊離水の重量)/(デンプン糊の重量)
【0051】
対照として、フェヌグリークガムを添加しない、デンプン15%添加のみの系も調製し、同様にして離水(%)を求めた。デンプンのみ添加系を「対照」とし、各試料番号F-1〜F-6を添加した系を、それぞれ「F-1」、「F-2」、「F-3」、「F-4」、「F-5」、「F-6」として、離水(%)の結果を示すグラフ。結果を図4に示す。
【0052】
F-1,F-2(12.4×104以下の分子量を有するフェヌグリークガムの添加)は、デンプン糊の離水が増加した。よって、分子量約15.0×104以下のフェヌグリークガム(例えば、試料番号F-1,F-2のフェヌグリークガム)の添加により、アミロースの結晶化が促進され、デンプンの長期間老化が促進されることが分かった。
【0053】
実施例1:ホワイトソース(増粘)
下記表1の処方のうち、バターをゆっくり溶かして、強力粉を弱火でいためた。表面に細かい泡が立ってきた時点で牛乳300部及びフェヌグリークガムを加え、泡立て器でよく混合した。ソースが透明になってきた時点で残りの牛乳300部を加え、均一になるまで混合した。最後に塩およびナツメグで加え、ホワイトソースを調製した。
【0054】
【表2】

【0055】
試験区は小麦粉含量が対照区の60%であるにもかかわらず、食感はほぼ同等の粘性、ボディ感であった。また対照区に比べてデンプン含量が低いため、経時的な物性の変化が少なく、食感の変化も小さかった。
【0056】
実施例2:うどん(短期間老化の防止)
下記表2の処方のうち、食塩を水に溶解して食塩水を調製した。中力粉及びフェヌグリークガムの粉体混合物に食塩水を徐々に添加して生地を調製し、ポリ袋に密封して60分間、室温で放置した。60分間放置した生地を軽くこね直し、更に20分間、室温で放置した。生地を厚さ3mm程度に圧延し、幅3mm程度に裁断後、麺重量の10倍量の水(90℃)で茹で上げ、水洗い、水切りしてうどんを調製した。
【0057】
【表3】

【0058】
うどんをポリ袋に密封し、4℃で1日間保存した。試験区は対照区に比べて物性の経時変化が少なく、こしのある滑らかな食感であった。
【0059】
実施例3:パウンドケーキ(長期間の老化防止)
下記表3の処方のうち、全卵を卵黄と卵白にわけ、卵白は予め軽く泡立てた。これに上白糖を2〜3回に分けて加え、次に卵黄を加えて混合した。予め篩いにかけた薄力粉及びフェヌグリークガムの粉体混合物を徐々に添加し、最後に湯せんして溶かしたバターを混合し、ケーキ生地を調製した。生地を型枠に流し込み、170℃30分間焼成してスポンジケーキを調製した。
【0060】
【表4】

【0061】
スポンジケーキをポリ袋に密封し、4℃で14日間保存した。試験区は対照区に比べて物性の経時変化が少なく、しっとりとした柔らかい食感であった。
【0062】
実施例4:はるさめ(老化促進)
下記表4の処方のうち、甘藷デンプン50部のうち3部を水に分散し、キャリア糊液を調製した。これに、47部の甘藷デンプン、あるいは甘藷デンプン47部とフェヌグリークガム(FNG-1)1部の混合粉末を添加し、スラリーを調製した。これを細孔から98℃の熱水中に押し出し、形成した麺線を流水中で冷却、硬化により組織を固定化した後、乾燥(最終水分含量15%)した。
【0063】
【表5】

【0064】
試験区はフェヌグリークガムの添加によりデンプンの老化が促進されるため、硬化に要する時間が約25%程度短縮でき、製造の効率化が図れた。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実験例2における、添加したフェヌグリークガムとデンプン糊の膨潤ピーク粘度との関係を表すグラフである。
【図2】実験例3における、添加したフェヌグリークガムとデンプン糊の損失正接(4℃、24時間保持後)との関係を表すグラフである。
【図3】実験例4における、添加したフェヌグリークガムとデンプンゲルの老化速度との関係を表すグラフである。
【図4】実験例5における、添加したフェヌグリークガムとデンプン糊の離水との関係を表すグラフである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、デンプン含有食品の種類にあったデンプンの品質改良剤、即ち、デンプンの増粘効果やとろみ付与を補強し、デンプンの老化を抑制及び又は促進する品質改良剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が5.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムを含有することを特徴とするデンプンの品質改良剤。
【請求項2】
分子量が15.0×105g/mol以上のフェヌグリークガムを含有することを特徴とするデンプンの品質改良剤。
【請求項3】
分子量が15.0×104g/mol以下のフェヌグリークガムを含有することを特徴とするデンプンの品質改良剤。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のデンプンの品質改良剤及びデンプンを含有することを特徴とするデンプン含有食品。
【請求項5】
デンプンに対するフェヌグリークガムの添加量が0.2〜20重量%である、請求項4に記載のデンプン含有食品。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−61046(P2006−61046A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245899(P2004−245899)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】