データ解析装置、それを用いた製造装置、データ解析方法、そのコンピュータ・プログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体
【課題】早期に製品の最終特性を安定化させることができ、不良品の製造を未然に防止することが可能なデータ解析装置を提供すること。
【解決手段】第1要因分析部22は、第1マハラノビス距離計算部21によって計算されたマハラノビスの距離MD1の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する。第2要因分析部24は、第2マハラノビス計算部23によって計算されたマハラノビスの距離MD2の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する。そして、製造パラメータ項目調整部25は、第2マハラノビス計算部23によって計算されたマハラノビスの距離MD2が減少するように、第2要因分析部24によって特定された製造パラメータ項目を調整する。したがって、早期に製品の最終特性を安定化させることができ、不良品の製造を未然に防止することが可能となる。
【解決手段】第1要因分析部22は、第1マハラノビス距離計算部21によって計算されたマハラノビスの距離MD1の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する。第2要因分析部24は、第2マハラノビス計算部23によって計算されたマハラノビスの距離MD2の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する。そして、製造パラメータ項目調整部25は、第2マハラノビス計算部23によって計算されたマハラノビスの距離MD2が減少するように、第2要因分析部24によって特定された製造パラメータ項目を調整する。したがって、早期に製品の最終特性を安定化させることができ、不良品の製造を未然に防止することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造中の製品の良否判定を行なう技術に関し、特に、MTS(マハラノビス・タグチシステム)法を用いて製品の良否判定を行なうデータ解析装置、それを用いた製造装置、データ解析方法、そのコンピュータ・プログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の生産システムにおいて、MTS法を用いて製品の良否を判定する技術が盛んに開発されている。これに関連する技術として、下記の特許文献1〜3に開示された発明がある。
【0003】
特許文献1は、半導体製造装置の異常動作を正確に判定することのできる管理方法を提供することを目的とする。半導体製造装置の正常動作状態下で少なくとも1つのパラメータについて複数のデータをサンプリングし、サンプリングされたデータ群に基づいてマハラノビス空間Aを作成する。そして、このマハラノビス空間に基づいて、半導体製造装置の動作状態で得られるパラメータについての測定値からマハラノビス距離D2を算出し、当該マハラノビス距離の値が所定の値を超えたとき、半導体製造装置が異常動作を生じたと判定する。
【0004】
特許文献2は、現象の変化に対応するためにMTS法を利用して製造回毎に判別に使用する項目をダイナミックに変化させることにより、製品の良否判別を精度良く行うことができるようにすることを目的とする。射出成形機の場合、直交表の組み合わせに従い、毎ショットの複数項目Mの実績値を使ってn通りのマハラノビスの距離を算出する。そして、マハラノビスの距離からn通り分のSN比を算出する。そして、算出されたSN比を使って各項目の水準平均(直交表における第1水準、第2水準)を算出し、水準平均差(第1水準平均−第2水準平均)の大きいものからm項目見つける。これら最適なm項目を使って、再度マハラノビスの距離をm個計算し、m個の距離のうちいずれか1つでも基準値を越えている場合不良とする。
【0005】
特許文献3は、時間の経過や環境変化によって樹脂の可塑化状態等に変動が生じた場合であっても適確に製品の良否を判別することのできる射出成形機の製品良否判別方法を提供することを目的とする。製品の品質に影響を与える成形データのうち相互に関連して変動する成形データを2項目以上選択し、これらの成形データを複合して乗算、除算等の関数式により演算を行い、その演算結果に基いて良品成形の許容範囲を上限値と下限値で定め、射出成形機の制御装置に設定する。成形作業に際し、各成形サイクル毎に成形データ項目の値を検出して同様の関数式により演算を行い、その演算結果が許容範囲内にあるか否かによって、各成形サイクル毎の製品の良否を判別する。複数の成形データを複合して評価した結果により製品の良否が判別されるため、時間の経過や環境変化によって成形データの値に変動が生じたような場合であっても、製品の良否が適確に判別できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−114130号公報
【特許文献2】特開2003−181874号公報
【特許文献3】特開平7−108579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献1〜3に開示された製品の良否判別方法においては、製品の最終段階で良否判定を実施することになるため、製品が不良と判定された場合には、その製品を廃棄したり、手直ししたりする必要があるため、経済性が悪くなるといった問題点があった。
【0008】
また、製品の製造過程が複数にわたっており、製造の中間段階において半製品の状態を経る場合には、半製品の状態での良否判定や、製造パラメータ単体で最終製品の良否判定を行なうことができず、製造プロセス中の修正が困難であるといった問題点もあった。
【0009】
さらに、特許文献2および3は、射出成形品の良否判定に関するものであり、射出成形における良品の製造データから基準空間を作成する。そして、作成した基準空間を用いて、現在製造中の製品の良否を判定するものである。しかしながら、最終製品である射出成形品が半製品の状態を経る場合には、半製品の状態での良否判定や、製造パラメータ単体で最終製品の良否判定を行なうことができず、製造プロセス中の修正が困難である。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、早期に製品の最終特性を安定化させることができ、不良品の製造を未然に防止することが可能なデータ解析装置、それを用いた製造装置、データ解析方法、そのコンピュータ・プログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある局面に従えば、データ解析装置は、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算する第1の計算手段と、第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する第1の分析手段と、中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算する第2の計算手段と、第1の分析手段によって特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する第2の分析手段と、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する調整手段とを含む。
【0012】
好ましくは、調整手段は、第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離がしきい値以下となるように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する。
【0013】
好ましくは、第1の分析手段は、評価特性の項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第1のマハラノビスの距離に応じて、当該第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを特定する。
【0014】
好ましくは、第2の分析手段は、製造パラメータの項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第2のマハラノビスの距離に応じて、当該第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータ項目を特定する。
【0015】
本発明の別の局面に従えば、押出し成形機における製品の良否を判定する製造装置であって、金属材料に樹脂コーティングを施す押出し成形機と、押出し成形機によって製造された成形製品を冷却する冷却機と、押出し成形機によって製造された成形製品の樹脂厚を測定する第1の測定機と、押出し成形機によって製造された成形製品の断面形状を測定する第2の測定機と、押出し成形機、冷却機、第1の測定機および第2の測定機から収集されたデータを解析するデータ解析装置とを含み、データ解析装置は、少なくとも第1の測定機および第2の測定機によって測定された評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算する第1の計算手段と、第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する第1の分析手段と、少なくとも押出し成形機および冷却機において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算する第2の計算手段と、第1の分析手段によって特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する第2の分析手段と、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する調整手段とを含む。
【0016】
本発明のさらに別の局面に従えば、製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるデータ解析方法であって、コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む。
【0017】
本発明のさらに別の局面に従えば、製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるためのコンピュータ・プログラムであって、コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む。
【0018】
本発明のさらに別の局面に従えば、製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるためのコンピュータ・プログラムを記録したコンピュータで読取可能な記録媒体であって、コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明のある局面によれば、調整手段が、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整するので、早期に製品の最終特性を安定化させることができ、不良品の製造を未然に防止することが可能となる。
【0020】
また、調整手段が、第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離がしきい値以下となるように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整するので、目的に応じた製造パラメータ項目の調整を行なうことが可能となる。
【0021】
また、第1の分析手段が、評価特性の項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第1のマハラノビスの距離に応じて、当該第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを特定するので、的確に評価特性データの特定を行なうことが可能となる。
【0022】
また、第2の分析手段が、製造パラメータの項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第2のマハラノビスの距離に応じて、当該第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータ項目を特定するので、的確に製造パラメータ項目の特定を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置の良否判定方法の概念を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置を機能的構成によって示したブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図5】要因分析を行なう際に用いられる直交表の一例を示す図である。
【図6】目標値がある場合の損失関数を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置を用いた製造装置の具体例を示す図である。
【図8】押出し成形機31によって製造される成形製品の断面形状を示す図である。
【図9】製造過程におけるMD1の経時変化を示す図である。
【図10】図9に示すP1時点で要因分析を実施した結果を示すグラフである。
【図11】樹脂厚3に関して、樹脂温度、金型温度、冷却水温度など、12項目の製造パラメータデータを用い、被覆厚3が安定である領域を基準空間とした場合に求めたマハラノビスの距離MD2の経時変化を示す図である。
【図12】図11に示すパラメータ調整の実施時点で要因分析を行なった結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置の良否判定方法の概念を説明するための図である。たとえば、最終製品に求められる特性Yとの相関が大きい中間製品(半製品)の評価特性A〜Mが存在するとする。また、中間製品の製造過程において製造パラメータの項目a〜mが存在するとする。
【0025】
まず、図1(a)に示すような、最終製品の特性Yとの相関が大きい中間工程(半製品の製造工程)における評価データA〜Mから、マハラノビスの距離MD1を計算する。このとき、基準空間には、最終製品の特性Yが安定する領域のデータを用いる。
【0026】
図1(b)は、マハラノビスの距離MD1と最終製品の特性Yとの関係をグラフにしたものであり、MD1と特性Yとの相関が大きいことを示している。また、図1(c)は、MD1の計算結果をグラフにしたものである。
【0027】
また、図1(d)に示すような、中間製品の製造パラメータ項目のデータa〜mから、マハラノビスの距離MD2を計算する。このとき、評価特性A〜Mが安定する領域を基準空間とし、それぞれについてMD2を計算する。図1(e)は、MD2の計算結果をグラフにしたものである。
【0028】
次に、中間工程におけるMD1の値を監視し、要因分析によって、MD1の増加に寄与の大きい評価データの項目を特定する。ここで、図1(f)に示すように、たとえば評価データの項目Aが、MD1の増加に寄与の大きい評価データの項目として特定されたとする。
【0029】
項目Aの安定領域を基準空間として、製造パラメータ項目のデータa〜mを用いてマハラノビスの距離MD2を計算する。そして、MD2について要因分析を行ない、項目AのMD2の増加に寄与の大きい製造パラメータ項目を特定する。図1(g)は、製造パラメータ項目a〜m毎の要因分析図である。製造パラメータ項目cが、項目AのMD2の増加に寄与の大きい製造パラメータ項目として特定されたことを示している。
【0030】
最後に、MD2が小さくなる方向に製造パラメータ項目cを調整する。MD2が減少することによって、MD1も減少する。その結果、最終製品の特性Yも安定化させることができるようになる。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。このデータ解析装置は、一般的なコンピュータによって実現され、コンピュータ本体1と、ディスプレイ装置2と、FD(Flexible Disk)4が装着されるFDドライブ3と、キーボード5と、マウス6と、CD−ROM(Compact Disc-Read Only Memory)8が装着されるCD−ROM装置7と、ネットワーク通信装置9とを含む。
【0032】
データ解析プログラムは、FD4またはCD―ROM8等の記録媒体によって供給される。データ解析プログラムはコンピュータ本体1によって実行され、データ解析が行なわれる。また、データ解析プログラムは他のコンピュータより通信回線を経由し、コンピュータ本体1に供給されてもよい。
【0033】
なお、記録媒体はFD4、CD−ROM8に限定されるものではなく、磁気テープ、MO(Magnetic Optical disk)、MD(Mini Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、IC(Integrated Circuit)カードなどであってもよい。
【0034】
また、コンピュータ本体1は、CPU10、ROM(Read Only Memory)11、RAM(Random Access Memory)12およびハードディスク13を含む。CPU10は、ディスプレイ装置2、FDドライブ3、キーボード5、マウス6、CD−ROM装置7、ネットワーク通信装置9、ROM11、RAM12またはハードディスク13との間でデータを入出力しながら処理を行なう。FD4またはCD−ROM8に記録されたデータ解析プログラムは、CPU10によりFDドライブ3またはCD−ROM装置7を介してハードディスク13に格納される。CPU10は、ハードディスク13から適宜データ解析プログラムをRAM12にロードして実行することによってデータ解析を行なう。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置を機能的構成によって示したブロック図である。このデータ解析装置は、第1マハラノビス距離計算部21と、第1要因分析部22と、第2マハラノビス距離計算部23と、第2要因分析部24と、製造パラメータ項目調整部25とを含む。これらの構成は、CPU10がデータ解析プログラムを実行することによって実現される。また、データ解析装置はさらに、データ記憶部27を含む。
【0036】
データ記憶部27は、製造工程に配置されたセンサによって測定された評価特性や、製造パラメータ項目のデータなどを記憶する。このデータ記憶部27は、図2に示すハードディスク13、RAM12などに対応している。
【0037】
第1マハラノビス距離計算部21は、データ記憶部27に格納される、最終製品の特性との相関が大きい中間工程(半製品の製造工程)における評価データを取得し、評価データからマハラノビスの距離MD1を計算する。
【0038】
第1要因分析部22は、第1マハラノビス距離計算部21によって計算されたMD1の値を監視する。そして、データ記憶部27に格納されるデータを参照しながらMD1について要因分析を行なうことによって、MD1の増加に寄与の大きい評価データの項目を特定する。
【0039】
第2マハラノビス距離計算部23は、データ記憶部27に格納される、中間製品の製造パラメータ項目のデータを取得し、製造パラメータ項目のデータからマハラノビスの距離MD2を計算する。
【0040】
第2要因分析部24は、データ記憶部27に格納されるデータを参照しながらMD2について要因分析を行なうことによって、MD2の増加に寄与の大きい製造パラメータ項目を特定する。
【0041】
製造パラメータ項目調整部25は、第2要因分析部24によってMD2の増加に寄与の大きいと判定された製造パラメータ項目について、MD2が小さくなる方向にその製造パラメータ項目を調整する。
【0042】
図4は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。ここで、最終製品Zは、複数の工程を経て製造され、要求される製品特性Yを有する。最終製品Zの中間工程における半製品をV,W,Xとする。また、最終製品Zに求められる製品特性Yと相関の高い評価特性をA〜Mとする。
【0043】
まず、第1マハラノビス距離計算部21は、製品特性Yが安定する場合の評価特性A〜Mのデータを用いて、半製品V,W,Xのそれぞれについてマハラノビスの距離MD1を計算する(S11)。
【0044】
ここで、マハラノビスの距離の計算方法について、簡単に説明する。
製造工程に配置されたセンサによって得られたデータをYip、データ項目数をi=1〜k、データセット数をp=1〜nとし、データ項目ごとにデータYipの平均値miと、標準偏差σiとを計算する。
【0045】
次に、平均値miおよび標準偏差σiを用いて、次式(1)により基準化値yipを計算する。
【0046】
【数1】
【0047】
次に、基準化値yipを用いて、次式(2)および(3)により基準化値の相関行列Rを作成する。
【0048】
【数2】
【0049】
次に、次式(4)により相関行列Rの逆行列Aを作成する。
【0050】
【数3】
【0051】
最後に、次式(5)によりマハラノビスの距離D2を計算する。
【0052】
【数4】
【0053】
再び、図4に示す処理手順の説明に戻る。次に、第1要因分析部22は、第1マハラノビス距離計算部21によって計算された半製品V,W,XのそれぞれのMD1を監視し、要因分析によりMD1の増加に寄与の大きい評価特性を特定する(S12)。
【0054】
ここで、要因分析の方法について簡単に説明する。
図5は、要因分析を行なう際に用いられる直交表の一例を示す図である。マハラノビスの距離MDの演算に使用する項目がk個あるとすると、項目I1〜Ikのそれぞれを直交表の1〜k列に割り当てる。このとき使用する直交表は、列数が項目数よりも大きい直交表の中で最小のものを使用する。図5に示すように、項目数m=9の場合には、L12の直交表が使用される。
【0055】
ここで、直交表の2つの水準に対して、第1水準=その項目を使用する、第2水準=その項目を使用しない、として直交表のそれぞれの行ごとにMD演算に使用する項目を記載する。
【0056】
次に、直交表から選択したMD演算に使用する項目の組み合わせごとに、基準空間データを用いて平均値、標準偏差、相関行列の逆行列を計算する。
【0057】
次に、指定したn個分のサンプリングデータ群yi=(yi1,yi2,yi3,...,yik)(i=1〜n)に対して、MD値であるD2ji(j=1〜L,i=1〜n)を直交表で設定された項目の組み合わせごとに計算する。
【0058】
そして、次式(6)により項目の組み合わせごとのSN比η=(η1,η2,...,ηL)を求める。
【0059】
【数5】
【0060】
次に、項目I1〜Ikごとに、水準1である行のηj平均値、水準2である行のηj平均値をそれぞれ計算し、その値をそれぞれのSN比とする。このとき、項目を割り当てていない直交表の列に対してもSN比を計算する。たとえば、図5に示す表の項目I2の場合は、次のようになる。
【0061】
水準1のSN比=(η1+η2+η3+η7+η8+η9)/6 ・・・(7)
水準2のSN比=(η4+η5+η6+η10+η11+η12)/6 ・・・(8)
ここで、(水準1のSN比)−(水準2のSN比)の値が大きいものが、MDの増加に対する原因項目であると推定できる。
【0062】
再び、図4に示す処理手順の説明に戻る。次に、第2マハラノビス距離計算部23は、データ記憶部27に格納される、半製品V,W,Xの製造過程において測定された製造パラメータ項目のデータa〜mを取得し、製造パラメータデータからマハラノビス距離MD2を計算する(S13)。このとき、評価特性A〜Mの各項目でそれぞれ安定な領域を基準空間とし、上述の式(1)〜(5)を用いてMD2を計算する。
【0063】
次に、第2要因分析部24は、MD1の増加に寄与の高い評価特性に対して、MD2の増加要因となる製造パラメータ項目を要因分析によって特定する(S14)。このとき、図5を用いて説明した原因分析と同様の方法が用いられる。
【0064】
次に、製造パラメータ項目調整部25は、第2要因分析部24によって特定された製造パラメータ項目に関し、MD2が減少するように製造パラメータの値を調整する(S15)。
【0065】
そして、MD1の値を再度計算し、MD1がしきい値以下となっているか否かを判定する(S16)。MD1がしきい値よりも大きければ(S16,No)、ステップS15に戻って製造パラメータ項目の調整を行なう。また、MD1がしきい値以下であれば(S16,Yes)、処理を終了する。
【0066】
MD1のしきい値として、次式(9)の損失関数を用いて損失Lを計算し、LがA0(消費者損失)に達する値を用いる。
【0067】
【数6】
【0068】
ここで、Δは製品の目的特性の許容差、Aは目的特性が許容差外になったときの損失(円)、Bは工程における特性の1回あたりの点検コスト(円)、Cは工程における特性の修正コスト(円)、n0は工程における特性の現状の測定間隔、u0は工程における特性の現状の平均修正間隔を示す。
【0069】
また、nは工程における特性の最適測定間隔、uは工程における特性の最適平均修正間隔、D0は工程における特性の修正限界、Dは工程における特性の最適修正限界、lは工程における特性のタイムラグ、σmは工程における特性の測定誤差の標準偏差を示す。
【0070】
なお、工程における特性の最適測定間隔n、最適平均修正間隔u、最適修正限界Dは、次式(10)〜(12)によって表される。
【0071】
【数7】
【0072】
図6は、目標値がある場合の損失関数を説明するための図である。図6において、目標値であるmが0(円)であり、許容差が大きくなるに従って損失L(円)が大きくなることを示している。本実施の形態においては、損失Lが消費者損失A0(許容限界上限m+Δ0)に達するときのMD1の値をしきい値とする。
【0073】
(具体例)
図7は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置を用いた製造装置の具体例を示す図である。この製造装置は、データ解析装置1と、押出し成形機31と、データ収集装置32と、パラメータ制御部33と、予備加熱機34と、冷却機35と、樹脂厚測定機36と、外側形状測定機37とを含む。
【0074】
この製造装置は、押出し成形機31によって金属材料に複数回樹脂コーティングを施し、金属材料と樹脂との複合材料を作成して、他部品との接触磨耗や疲労劣化を防止し、成形製品を長寿命化させるものである。
【0075】
押出し形成機31は、被覆する金属材料表面にポリエチレン樹脂(PE樹脂)38を被覆コーティングする。このとき、硬化のために架橋反応材39が用いられる。製品を連続して生産するため、1つの製品の全長は数100m〜数1000mに達する。
【0076】
予備加熱機34は、金属材料などを予備加熱して押出し成形機31に搬送する。冷却機35は、押出し成形機31によって成形された中間製品や最終製品を冷却する。樹脂厚測定機36は、中間製品や最終製品の被覆厚を測定する。また、外側形状測定機37は、中間製品や最終製品の外側形状を測定する。
【0077】
データ収集装置32は、予備加熱機34による予備加熱温度、押出し成形機31における成形温度、押出し速度、成形圧力、モータ電流、樹脂温度、架橋材量、冷却機35による冷却温度、膜厚測定機36および外側形状測定機37による測定結果である製品特定データなどを収集して、データ解析装置1に出力する。なお、予備加熱機34、押出し成形機31、冷却機35などにはセンサが設けられており、センサによる測定結果がデータ収集装置32に出力される。
【0078】
パラメータ制御部33は、データ解析装置1から出力されるフィードバック信号によって押出し成形機31の製造パラメータ項目を制御する。
【0079】
図8は、押出し成形機31によって製造される成形製品の断面形状を示す図である。図8(a)は、PE樹脂38を1回被覆した後の中間製品を示している。図8(b)に示すように、金属材料で表面をコーティングし、PE樹脂38による被覆を3回繰り返すことによって最終製品が製造される。
【0080】
図7に示すような製造装置において、最終製品の製造後の引張強度、および曲げ疲労試験後の引張強度が最終製品の評価特性となる。しかしながら、最終製品特性である引張強度と、中間製品(半製品)の製造パラメータデータである、樹脂温度、金型温度、冷却温度等との相関は低い。
【0081】
本実施の形態においては、図8に示すように、PE樹脂38による被覆を実施する際に被覆の厚さを4箇所、被覆後の製品断面形状を2箇所測定し、これらを評価特性データとしてデータ収集装置32が収集する。この評価特性データは、実際の製品特性である引張強度、曲げ疲労試験後の引張強度と相関係数0.7以上の高い相関を有している。
【0082】
第1マハラノビス距離計算部21は、これら被覆厚さデータおよび被覆後の断面形状データを用いて、マハラノビスの距離MD1を計算する。ここで、MD1の基準空間に用いるデータとして、引張強度および曲げ疲労試験後の引張強度が高い場合の評価特性データを使用することにする。
【0083】
図9は、製造過程におけるMD1の経時変化を示す図である。図9に示すように、経過時間の増加とともにMD1が増加する傾向がある。
【0084】
図10は、図9に示すP1時点で要因分析を実施した結果を示すグラフである。図10に示すように、樹脂厚3を項目として使用した場合(水準1)と、使用しない場合(水準2)とでMD値の差が大きく、原因項目であると推定される。
【0085】
図11は、被覆厚3に関して、樹脂温度、金型温度、冷却水温度など、12項目の製造パラメータデータを用い、被覆厚3が安定である領域を基準空間とした場合に求めたマハラノビスの距離MD2の経時変化を示す図である。図11に示すように、MD2に関しても、経過時間とともに増加する傾向が観察される。
【0086】
図12は、図11に示すパラメータ調整の実施時点で要因分析を行なった結果を示すグラフである。図12に示すように、MD2の増加の原因項目を分析した結果、樹脂圧力、押出し成形機31のスクリュー回転数、冷却温度が原因項目であることが推定される。その結果から、製造パラメータ項目調整部25は、樹脂圧力、押出し成形機31のスクリュー回転数、冷却温度を初期の値に近くなるように製造パラメータ項目の値を調整する。そして、フィードバック信号によってその製造パラメータ項目が調整されるようにパラメータ制御部33を制御する。
【0087】
図11に示すように、パラメータ調整の実施後にMD2の値が減少した。また、図9に示すように、MD1の値も減少した。このように、最終製品特性においても、不良品を製造することなく、安定して良品を製造することができるようになる。
【0088】
以上説明したように、本実施の形態におけるデータ解析装置によれば、MD1の増加に寄与の高い評価特性に対して、MD2の増加要因となる製造パラメータ項目を要因分析によって特定し、その製造パラメータ項目を調整するようにしたので、早期に製品の最終特性を安定化させることができ、不良品の製造を未然に防止することが可能となった。
【0089】
また、最終製品が複数の中間工程(半製品)を経て製造され、製品の最終評価までに長い時間を要する場合であっても、製造の中間段階で最終製品の特性を安定化させることが可能となった。
【0090】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
1 コンピュータ本体、2 ディスプレイ装置、3 FDドライブ、4 FD、5 キーボード、6 マウス、7 CD−ROM装置、8 CD−ROM、9 ネットワーク通信装置、10 CPU、11 ROM、12 RAM、13 ハードディスク、21 第1マハラノビス距離計算部、22 第1要因分析部、23 第2マハラノビス距離計算部、24 第2要因分析部、25 製造パラメータ項目調整部、27 データ記憶部、31 押出し成形機、32 データ収集装置、33 パラメータ制御部、34 予備加熱機、35 冷却機、36 樹脂厚測定機、37 外側形状測定機。
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造中の製品の良否判定を行なう技術に関し、特に、MTS(マハラノビス・タグチシステム)法を用いて製品の良否判定を行なうデータ解析装置、それを用いた製造装置、データ解析方法、そのコンピュータ・プログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の生産システムにおいて、MTS法を用いて製品の良否を判定する技術が盛んに開発されている。これに関連する技術として、下記の特許文献1〜3に開示された発明がある。
【0003】
特許文献1は、半導体製造装置の異常動作を正確に判定することのできる管理方法を提供することを目的とする。半導体製造装置の正常動作状態下で少なくとも1つのパラメータについて複数のデータをサンプリングし、サンプリングされたデータ群に基づいてマハラノビス空間Aを作成する。そして、このマハラノビス空間に基づいて、半導体製造装置の動作状態で得られるパラメータについての測定値からマハラノビス距離D2を算出し、当該マハラノビス距離の値が所定の値を超えたとき、半導体製造装置が異常動作を生じたと判定する。
【0004】
特許文献2は、現象の変化に対応するためにMTS法を利用して製造回毎に判別に使用する項目をダイナミックに変化させることにより、製品の良否判別を精度良く行うことができるようにすることを目的とする。射出成形機の場合、直交表の組み合わせに従い、毎ショットの複数項目Mの実績値を使ってn通りのマハラノビスの距離を算出する。そして、マハラノビスの距離からn通り分のSN比を算出する。そして、算出されたSN比を使って各項目の水準平均(直交表における第1水準、第2水準)を算出し、水準平均差(第1水準平均−第2水準平均)の大きいものからm項目見つける。これら最適なm項目を使って、再度マハラノビスの距離をm個計算し、m個の距離のうちいずれか1つでも基準値を越えている場合不良とする。
【0005】
特許文献3は、時間の経過や環境変化によって樹脂の可塑化状態等に変動が生じた場合であっても適確に製品の良否を判別することのできる射出成形機の製品良否判別方法を提供することを目的とする。製品の品質に影響を与える成形データのうち相互に関連して変動する成形データを2項目以上選択し、これらの成形データを複合して乗算、除算等の関数式により演算を行い、その演算結果に基いて良品成形の許容範囲を上限値と下限値で定め、射出成形機の制御装置に設定する。成形作業に際し、各成形サイクル毎に成形データ項目の値を検出して同様の関数式により演算を行い、その演算結果が許容範囲内にあるか否かによって、各成形サイクル毎の製品の良否を判別する。複数の成形データを複合して評価した結果により製品の良否が判別されるため、時間の経過や環境変化によって成形データの値に変動が生じたような場合であっても、製品の良否が適確に判別できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−114130号公報
【特許文献2】特開2003−181874号公報
【特許文献3】特開平7−108579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献1〜3に開示された製品の良否判別方法においては、製品の最終段階で良否判定を実施することになるため、製品が不良と判定された場合には、その製品を廃棄したり、手直ししたりする必要があるため、経済性が悪くなるといった問題点があった。
【0008】
また、製品の製造過程が複数にわたっており、製造の中間段階において半製品の状態を経る場合には、半製品の状態での良否判定や、製造パラメータ単体で最終製品の良否判定を行なうことができず、製造プロセス中の修正が困難であるといった問題点もあった。
【0009】
さらに、特許文献2および3は、射出成形品の良否判定に関するものであり、射出成形における良品の製造データから基準空間を作成する。そして、作成した基準空間を用いて、現在製造中の製品の良否を判定するものである。しかしながら、最終製品である射出成形品が半製品の状態を経る場合には、半製品の状態での良否判定や、製造パラメータ単体で最終製品の良否判定を行なうことができず、製造プロセス中の修正が困難である。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、早期に製品の最終特性を安定化させることができ、不良品の製造を未然に防止することが可能なデータ解析装置、それを用いた製造装置、データ解析方法、そのコンピュータ・プログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある局面に従えば、データ解析装置は、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算する第1の計算手段と、第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する第1の分析手段と、中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算する第2の計算手段と、第1の分析手段によって特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する第2の分析手段と、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する調整手段とを含む。
【0012】
好ましくは、調整手段は、第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離がしきい値以下となるように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する。
【0013】
好ましくは、第1の分析手段は、評価特性の項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第1のマハラノビスの距離に応じて、当該第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを特定する。
【0014】
好ましくは、第2の分析手段は、製造パラメータの項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第2のマハラノビスの距離に応じて、当該第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータ項目を特定する。
【0015】
本発明の別の局面に従えば、押出し成形機における製品の良否を判定する製造装置であって、金属材料に樹脂コーティングを施す押出し成形機と、押出し成形機によって製造された成形製品を冷却する冷却機と、押出し成形機によって製造された成形製品の樹脂厚を測定する第1の測定機と、押出し成形機によって製造された成形製品の断面形状を測定する第2の測定機と、押出し成形機、冷却機、第1の測定機および第2の測定機から収集されたデータを解析するデータ解析装置とを含み、データ解析装置は、少なくとも第1の測定機および第2の測定機によって測定された評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算する第1の計算手段と、第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する第1の分析手段と、少なくとも押出し成形機および冷却機において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算する第2の計算手段と、第1の分析手段によって特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する第2の分析手段と、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する調整手段とを含む。
【0016】
本発明のさらに別の局面に従えば、製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるデータ解析方法であって、コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む。
【0017】
本発明のさらに別の局面に従えば、製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるためのコンピュータ・プログラムであって、コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む。
【0018】
本発明のさらに別の局面に従えば、製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるためのコンピュータ・プログラムを記録したコンピュータで読取可能な記録媒体であって、コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、特定された評価特性に対して、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明のある局面によれば、調整手段が、第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整するので、早期に製品の最終特性を安定化させることができ、不良品の製造を未然に防止することが可能となる。
【0020】
また、調整手段が、第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離がしきい値以下となるように、第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整するので、目的に応じた製造パラメータ項目の調整を行なうことが可能となる。
【0021】
また、第1の分析手段が、評価特性の項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第1のマハラノビスの距離に応じて、当該第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを特定するので、的確に評価特性データの特定を行なうことが可能となる。
【0022】
また、第2の分析手段が、製造パラメータの項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第2のマハラノビスの距離に応じて、当該第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータ項目を特定するので、的確に製造パラメータ項目の特定を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置の良否判定方法の概念を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置を機能的構成によって示したブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図5】要因分析を行なう際に用いられる直交表の一例を示す図である。
【図6】目標値がある場合の損失関数を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるデータ解析装置を用いた製造装置の具体例を示す図である。
【図8】押出し成形機31によって製造される成形製品の断面形状を示す図である。
【図9】製造過程におけるMD1の経時変化を示す図である。
【図10】図9に示すP1時点で要因分析を実施した結果を示すグラフである。
【図11】樹脂厚3に関して、樹脂温度、金型温度、冷却水温度など、12項目の製造パラメータデータを用い、被覆厚3が安定である領域を基準空間とした場合に求めたマハラノビスの距離MD2の経時変化を示す図である。
【図12】図11に示すパラメータ調整の実施時点で要因分析を行なった結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置の良否判定方法の概念を説明するための図である。たとえば、最終製品に求められる特性Yとの相関が大きい中間製品(半製品)の評価特性A〜Mが存在するとする。また、中間製品の製造過程において製造パラメータの項目a〜mが存在するとする。
【0025】
まず、図1(a)に示すような、最終製品の特性Yとの相関が大きい中間工程(半製品の製造工程)における評価データA〜Mから、マハラノビスの距離MD1を計算する。このとき、基準空間には、最終製品の特性Yが安定する領域のデータを用いる。
【0026】
図1(b)は、マハラノビスの距離MD1と最終製品の特性Yとの関係をグラフにしたものであり、MD1と特性Yとの相関が大きいことを示している。また、図1(c)は、MD1の計算結果をグラフにしたものである。
【0027】
また、図1(d)に示すような、中間製品の製造パラメータ項目のデータa〜mから、マハラノビスの距離MD2を計算する。このとき、評価特性A〜Mが安定する領域を基準空間とし、それぞれについてMD2を計算する。図1(e)は、MD2の計算結果をグラフにしたものである。
【0028】
次に、中間工程におけるMD1の値を監視し、要因分析によって、MD1の増加に寄与の大きい評価データの項目を特定する。ここで、図1(f)に示すように、たとえば評価データの項目Aが、MD1の増加に寄与の大きい評価データの項目として特定されたとする。
【0029】
項目Aの安定領域を基準空間として、製造パラメータ項目のデータa〜mを用いてマハラノビスの距離MD2を計算する。そして、MD2について要因分析を行ない、項目AのMD2の増加に寄与の大きい製造パラメータ項目を特定する。図1(g)は、製造パラメータ項目a〜m毎の要因分析図である。製造パラメータ項目cが、項目AのMD2の増加に寄与の大きい製造パラメータ項目として特定されたことを示している。
【0030】
最後に、MD2が小さくなる方向に製造パラメータ項目cを調整する。MD2が減少することによって、MD1も減少する。その結果、最終製品の特性Yも安定化させることができるようになる。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。このデータ解析装置は、一般的なコンピュータによって実現され、コンピュータ本体1と、ディスプレイ装置2と、FD(Flexible Disk)4が装着されるFDドライブ3と、キーボード5と、マウス6と、CD−ROM(Compact Disc-Read Only Memory)8が装着されるCD−ROM装置7と、ネットワーク通信装置9とを含む。
【0032】
データ解析プログラムは、FD4またはCD―ROM8等の記録媒体によって供給される。データ解析プログラムはコンピュータ本体1によって実行され、データ解析が行なわれる。また、データ解析プログラムは他のコンピュータより通信回線を経由し、コンピュータ本体1に供給されてもよい。
【0033】
なお、記録媒体はFD4、CD−ROM8に限定されるものではなく、磁気テープ、MO(Magnetic Optical disk)、MD(Mini Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、IC(Integrated Circuit)カードなどであってもよい。
【0034】
また、コンピュータ本体1は、CPU10、ROM(Read Only Memory)11、RAM(Random Access Memory)12およびハードディスク13を含む。CPU10は、ディスプレイ装置2、FDドライブ3、キーボード5、マウス6、CD−ROM装置7、ネットワーク通信装置9、ROM11、RAM12またはハードディスク13との間でデータを入出力しながら処理を行なう。FD4またはCD−ROM8に記録されたデータ解析プログラムは、CPU10によりFDドライブ3またはCD−ROM装置7を介してハードディスク13に格納される。CPU10は、ハードディスク13から適宜データ解析プログラムをRAM12にロードして実行することによってデータ解析を行なう。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置を機能的構成によって示したブロック図である。このデータ解析装置は、第1マハラノビス距離計算部21と、第1要因分析部22と、第2マハラノビス距離計算部23と、第2要因分析部24と、製造パラメータ項目調整部25とを含む。これらの構成は、CPU10がデータ解析プログラムを実行することによって実現される。また、データ解析装置はさらに、データ記憶部27を含む。
【0036】
データ記憶部27は、製造工程に配置されたセンサによって測定された評価特性や、製造パラメータ項目のデータなどを記憶する。このデータ記憶部27は、図2に示すハードディスク13、RAM12などに対応している。
【0037】
第1マハラノビス距離計算部21は、データ記憶部27に格納される、最終製品の特性との相関が大きい中間工程(半製品の製造工程)における評価データを取得し、評価データからマハラノビスの距離MD1を計算する。
【0038】
第1要因分析部22は、第1マハラノビス距離計算部21によって計算されたMD1の値を監視する。そして、データ記憶部27に格納されるデータを参照しながらMD1について要因分析を行なうことによって、MD1の増加に寄与の大きい評価データの項目を特定する。
【0039】
第2マハラノビス距離計算部23は、データ記憶部27に格納される、中間製品の製造パラメータ項目のデータを取得し、製造パラメータ項目のデータからマハラノビスの距離MD2を計算する。
【0040】
第2要因分析部24は、データ記憶部27に格納されるデータを参照しながらMD2について要因分析を行なうことによって、MD2の増加に寄与の大きい製造パラメータ項目を特定する。
【0041】
製造パラメータ項目調整部25は、第2要因分析部24によってMD2の増加に寄与の大きいと判定された製造パラメータ項目について、MD2が小さくなる方向にその製造パラメータ項目を調整する。
【0042】
図4は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。ここで、最終製品Zは、複数の工程を経て製造され、要求される製品特性Yを有する。最終製品Zの中間工程における半製品をV,W,Xとする。また、最終製品Zに求められる製品特性Yと相関の高い評価特性をA〜Mとする。
【0043】
まず、第1マハラノビス距離計算部21は、製品特性Yが安定する場合の評価特性A〜Mのデータを用いて、半製品V,W,Xのそれぞれについてマハラノビスの距離MD1を計算する(S11)。
【0044】
ここで、マハラノビスの距離の計算方法について、簡単に説明する。
製造工程に配置されたセンサによって得られたデータをYip、データ項目数をi=1〜k、データセット数をp=1〜nとし、データ項目ごとにデータYipの平均値miと、標準偏差σiとを計算する。
【0045】
次に、平均値miおよび標準偏差σiを用いて、次式(1)により基準化値yipを計算する。
【0046】
【数1】
【0047】
次に、基準化値yipを用いて、次式(2)および(3)により基準化値の相関行列Rを作成する。
【0048】
【数2】
【0049】
次に、次式(4)により相関行列Rの逆行列Aを作成する。
【0050】
【数3】
【0051】
最後に、次式(5)によりマハラノビスの距離D2を計算する。
【0052】
【数4】
【0053】
再び、図4に示す処理手順の説明に戻る。次に、第1要因分析部22は、第1マハラノビス距離計算部21によって計算された半製品V,W,XのそれぞれのMD1を監視し、要因分析によりMD1の増加に寄与の大きい評価特性を特定する(S12)。
【0054】
ここで、要因分析の方法について簡単に説明する。
図5は、要因分析を行なう際に用いられる直交表の一例を示す図である。マハラノビスの距離MDの演算に使用する項目がk個あるとすると、項目I1〜Ikのそれぞれを直交表の1〜k列に割り当てる。このとき使用する直交表は、列数が項目数よりも大きい直交表の中で最小のものを使用する。図5に示すように、項目数m=9の場合には、L12の直交表が使用される。
【0055】
ここで、直交表の2つの水準に対して、第1水準=その項目を使用する、第2水準=その項目を使用しない、として直交表のそれぞれの行ごとにMD演算に使用する項目を記載する。
【0056】
次に、直交表から選択したMD演算に使用する項目の組み合わせごとに、基準空間データを用いて平均値、標準偏差、相関行列の逆行列を計算する。
【0057】
次に、指定したn個分のサンプリングデータ群yi=(yi1,yi2,yi3,...,yik)(i=1〜n)に対して、MD値であるD2ji(j=1〜L,i=1〜n)を直交表で設定された項目の組み合わせごとに計算する。
【0058】
そして、次式(6)により項目の組み合わせごとのSN比η=(η1,η2,...,ηL)を求める。
【0059】
【数5】
【0060】
次に、項目I1〜Ikごとに、水準1である行のηj平均値、水準2である行のηj平均値をそれぞれ計算し、その値をそれぞれのSN比とする。このとき、項目を割り当てていない直交表の列に対してもSN比を計算する。たとえば、図5に示す表の項目I2の場合は、次のようになる。
【0061】
水準1のSN比=(η1+η2+η3+η7+η8+η9)/6 ・・・(7)
水準2のSN比=(η4+η5+η6+η10+η11+η12)/6 ・・・(8)
ここで、(水準1のSN比)−(水準2のSN比)の値が大きいものが、MDの増加に対する原因項目であると推定できる。
【0062】
再び、図4に示す処理手順の説明に戻る。次に、第2マハラノビス距離計算部23は、データ記憶部27に格納される、半製品V,W,Xの製造過程において測定された製造パラメータ項目のデータa〜mを取得し、製造パラメータデータからマハラノビス距離MD2を計算する(S13)。このとき、評価特性A〜Mの各項目でそれぞれ安定な領域を基準空間とし、上述の式(1)〜(5)を用いてMD2を計算する。
【0063】
次に、第2要因分析部24は、MD1の増加に寄与の高い評価特性に対して、MD2の増加要因となる製造パラメータ項目を要因分析によって特定する(S14)。このとき、図5を用いて説明した原因分析と同様の方法が用いられる。
【0064】
次に、製造パラメータ項目調整部25は、第2要因分析部24によって特定された製造パラメータ項目に関し、MD2が減少するように製造パラメータの値を調整する(S15)。
【0065】
そして、MD1の値を再度計算し、MD1がしきい値以下となっているか否かを判定する(S16)。MD1がしきい値よりも大きければ(S16,No)、ステップS15に戻って製造パラメータ項目の調整を行なう。また、MD1がしきい値以下であれば(S16,Yes)、処理を終了する。
【0066】
MD1のしきい値として、次式(9)の損失関数を用いて損失Lを計算し、LがA0(消費者損失)に達する値を用いる。
【0067】
【数6】
【0068】
ここで、Δは製品の目的特性の許容差、Aは目的特性が許容差外になったときの損失(円)、Bは工程における特性の1回あたりの点検コスト(円)、Cは工程における特性の修正コスト(円)、n0は工程における特性の現状の測定間隔、u0は工程における特性の現状の平均修正間隔を示す。
【0069】
また、nは工程における特性の最適測定間隔、uは工程における特性の最適平均修正間隔、D0は工程における特性の修正限界、Dは工程における特性の最適修正限界、lは工程における特性のタイムラグ、σmは工程における特性の測定誤差の標準偏差を示す。
【0070】
なお、工程における特性の最適測定間隔n、最適平均修正間隔u、最適修正限界Dは、次式(10)〜(12)によって表される。
【0071】
【数7】
【0072】
図6は、目標値がある場合の損失関数を説明するための図である。図6において、目標値であるmが0(円)であり、許容差が大きくなるに従って損失L(円)が大きくなることを示している。本実施の形態においては、損失Lが消費者損失A0(許容限界上限m+Δ0)に達するときのMD1の値をしきい値とする。
【0073】
(具体例)
図7は、本発明の実施の形態におけるデータ解析装置を用いた製造装置の具体例を示す図である。この製造装置は、データ解析装置1と、押出し成形機31と、データ収集装置32と、パラメータ制御部33と、予備加熱機34と、冷却機35と、樹脂厚測定機36と、外側形状測定機37とを含む。
【0074】
この製造装置は、押出し成形機31によって金属材料に複数回樹脂コーティングを施し、金属材料と樹脂との複合材料を作成して、他部品との接触磨耗や疲労劣化を防止し、成形製品を長寿命化させるものである。
【0075】
押出し形成機31は、被覆する金属材料表面にポリエチレン樹脂(PE樹脂)38を被覆コーティングする。このとき、硬化のために架橋反応材39が用いられる。製品を連続して生産するため、1つの製品の全長は数100m〜数1000mに達する。
【0076】
予備加熱機34は、金属材料などを予備加熱して押出し成形機31に搬送する。冷却機35は、押出し成形機31によって成形された中間製品や最終製品を冷却する。樹脂厚測定機36は、中間製品や最終製品の被覆厚を測定する。また、外側形状測定機37は、中間製品や最終製品の外側形状を測定する。
【0077】
データ収集装置32は、予備加熱機34による予備加熱温度、押出し成形機31における成形温度、押出し速度、成形圧力、モータ電流、樹脂温度、架橋材量、冷却機35による冷却温度、膜厚測定機36および外側形状測定機37による測定結果である製品特定データなどを収集して、データ解析装置1に出力する。なお、予備加熱機34、押出し成形機31、冷却機35などにはセンサが設けられており、センサによる測定結果がデータ収集装置32に出力される。
【0078】
パラメータ制御部33は、データ解析装置1から出力されるフィードバック信号によって押出し成形機31の製造パラメータ項目を制御する。
【0079】
図8は、押出し成形機31によって製造される成形製品の断面形状を示す図である。図8(a)は、PE樹脂38を1回被覆した後の中間製品を示している。図8(b)に示すように、金属材料で表面をコーティングし、PE樹脂38による被覆を3回繰り返すことによって最終製品が製造される。
【0080】
図7に示すような製造装置において、最終製品の製造後の引張強度、および曲げ疲労試験後の引張強度が最終製品の評価特性となる。しかしながら、最終製品特性である引張強度と、中間製品(半製品)の製造パラメータデータである、樹脂温度、金型温度、冷却温度等との相関は低い。
【0081】
本実施の形態においては、図8に示すように、PE樹脂38による被覆を実施する際に被覆の厚さを4箇所、被覆後の製品断面形状を2箇所測定し、これらを評価特性データとしてデータ収集装置32が収集する。この評価特性データは、実際の製品特性である引張強度、曲げ疲労試験後の引張強度と相関係数0.7以上の高い相関を有している。
【0082】
第1マハラノビス距離計算部21は、これら被覆厚さデータおよび被覆後の断面形状データを用いて、マハラノビスの距離MD1を計算する。ここで、MD1の基準空間に用いるデータとして、引張強度および曲げ疲労試験後の引張強度が高い場合の評価特性データを使用することにする。
【0083】
図9は、製造過程におけるMD1の経時変化を示す図である。図9に示すように、経過時間の増加とともにMD1が増加する傾向がある。
【0084】
図10は、図9に示すP1時点で要因分析を実施した結果を示すグラフである。図10に示すように、樹脂厚3を項目として使用した場合(水準1)と、使用しない場合(水準2)とでMD値の差が大きく、原因項目であると推定される。
【0085】
図11は、被覆厚3に関して、樹脂温度、金型温度、冷却水温度など、12項目の製造パラメータデータを用い、被覆厚3が安定である領域を基準空間とした場合に求めたマハラノビスの距離MD2の経時変化を示す図である。図11に示すように、MD2に関しても、経過時間とともに増加する傾向が観察される。
【0086】
図12は、図11に示すパラメータ調整の実施時点で要因分析を行なった結果を示すグラフである。図12に示すように、MD2の増加の原因項目を分析した結果、樹脂圧力、押出し成形機31のスクリュー回転数、冷却温度が原因項目であることが推定される。その結果から、製造パラメータ項目調整部25は、樹脂圧力、押出し成形機31のスクリュー回転数、冷却温度を初期の値に近くなるように製造パラメータ項目の値を調整する。そして、フィードバック信号によってその製造パラメータ項目が調整されるようにパラメータ制御部33を制御する。
【0087】
図11に示すように、パラメータ調整の実施後にMD2の値が減少した。また、図9に示すように、MD1の値も減少した。このように、最終製品特性においても、不良品を製造することなく、安定して良品を製造することができるようになる。
【0088】
以上説明したように、本実施の形態におけるデータ解析装置によれば、MD1の増加に寄与の高い評価特性に対して、MD2の増加要因となる製造パラメータ項目を要因分析によって特定し、その製造パラメータ項目を調整するようにしたので、早期に製品の最終特性を安定化させることができ、不良品の製造を未然に防止することが可能となった。
【0089】
また、最終製品が複数の中間工程(半製品)を経て製造され、製品の最終評価までに長い時間を要する場合であっても、製造の中間段階で最終製品の特性を安定化させることが可能となった。
【0090】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
1 コンピュータ本体、2 ディスプレイ装置、3 FDドライブ、4 FD、5 キーボード、6 マウス、7 CD−ROM装置、8 CD−ROM、9 ネットワーク通信装置、10 CPU、11 ROM、12 RAM、13 ハードディスク、21 第1マハラノビス距離計算部、22 第1要因分析部、23 第2マハラノビス距離計算部、24 第2要因分析部、25 製造パラメータ項目調整部、27 データ記憶部、31 押出し成形機、32 データ収集装置、33 パラメータ制御部、34 予備加熱機、35 冷却機、36 樹脂厚測定機、37 外側形状測定機。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算する第1の計算手段と、
前記第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する第1の分析手段と、
前記中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算する第2の計算手段と、
前記第1の分析手段によって特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する第2の分析手段と、
前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する調整手段とを含むデータ解析装置。
【請求項2】
前記調整手段は、前記第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離がしきい値以下となるように、前記第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する、請求項1記載のデータ解析装置。
【請求項3】
前記第1の分析手段は、前記評価特性の項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第1のマハラノビスの距離に応じて、当該第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを特定する、請求項1または2記載のデータ解析装置。
【請求項4】
前記第2の分析手段は、前記製造パラメータの項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第2のマハラノビスの距離に応じて、当該第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータ項目を特定する、請求項1〜3のいずれかに記載のデータ解析装置。
【請求項5】
押出し成形機における製品の良否を判定する製造装置であって、
金属材料に樹脂コーティングを施す押出し成形機と、
前記押出し成形機によって製造された成形製品を冷却する冷却機と、
前記押出し成形機によって製造された成形製品の樹脂厚を測定する第1の測定機と、
前記押出し成形機によって製造された成形製品の断面形状を測定する第2の測定機と、
前記押出し成形機、前記冷却機、前記第1の測定機および前記第2の測定機から収集されたデータを解析するデータ解析装置とを含み、
前記データ解析装置は、少なくとも前記第1の測定機および前記第2の測定機によって測定された評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算する第1の計算手段と、
前記第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する第1の分析手段と、
少なくとも前記押出し成形機および前記冷却機において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算する第2の計算手段と、
前記第1の分析手段によって特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する第2の分析手段と、
前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する調整手段とを含む、製造装置。
【請求項6】
製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるデータ解析方法であって、
前記コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む、データ解析方法。
【請求項7】
製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるためのコンピュータ・プログラムであって、
前記コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む、コンピュータ・プログラム。
【請求項8】
製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるためのコンピュータ・プログラムを記録したコンピュータで読取可能な記録媒体であって、
前記コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む、記録媒体。
【請求項1】
最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算する第1の計算手段と、
前記第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する第1の分析手段と、
前記中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算する第2の計算手段と、
前記第1の分析手段によって特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する第2の分析手段と、
前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する調整手段とを含むデータ解析装置。
【請求項2】
前記調整手段は、前記第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離がしきい値以下となるように、前記第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する、請求項1記載のデータ解析装置。
【請求項3】
前記第1の分析手段は、前記評価特性の項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第1のマハラノビスの距離に応じて、当該第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを特定する、請求項1または2記載のデータ解析装置。
【請求項4】
前記第2の分析手段は、前記製造パラメータの項目を直交表に割り当てて、項目の組み合わせごとに計算された第2のマハラノビスの距離に応じて、当該第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータ項目を特定する、請求項1〜3のいずれかに記載のデータ解析装置。
【請求項5】
押出し成形機における製品の良否を判定する製造装置であって、
金属材料に樹脂コーティングを施す押出し成形機と、
前記押出し成形機によって製造された成形製品を冷却する冷却機と、
前記押出し成形機によって製造された成形製品の樹脂厚を測定する第1の測定機と、
前記押出し成形機によって製造された成形製品の断面形状を測定する第2の測定機と、
前記押出し成形機、前記冷却機、前記第1の測定機および前記第2の測定機から収集されたデータを解析するデータ解析装置とを含み、
前記データ解析装置は、少なくとも前記第1の測定機および前記第2の測定機によって測定された評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算する第1の計算手段と、
前記第1の計算手段によって計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定する第1の分析手段と、
少なくとも前記押出し成形機および前記冷却機において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算する第2の計算手段と、
前記第1の分析手段によって特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定する第2の分析手段と、
前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記第2の分析手段によって特定された製造パラメータ項目を調整する調整手段とを含む、製造装置。
【請求項6】
製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるデータ解析方法であって、
前記コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む、データ解析方法。
【請求項7】
製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるためのコンピュータ・プログラムであって、
前記コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む、コンピュータ・プログラム。
【請求項8】
製品の良否の判定をコンピュータに行なわせるためのコンピュータ・プログラムを記録したコンピュータで読取可能な記録媒体であって、
前記コンピュータに、最終製品の特性との相関が大きい中間工程における評価特性データから第1のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第1のマハラノビスの距離の増加要因となる評価特性データを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記中間工程において測定された製造パラメータデータから第2のマハラノビスの距離を計算させるステップと、
前記コンピュータに、前記特定された評価特性に対して、前記第2の計算手段によって計算された第2のマハラノビスの距離の増加要因となる製造パラメータデータを要因分析によって特定させるステップと、
前記コンピュータに、前記計算された第2のマハラノビスの距離が減少するように、前記特定された製造パラメータ項目を調整させるステップとを含む、記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−110799(P2011−110799A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269006(P2009−269006)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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