説明

トランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置の製造方法

【課題】通過帯域内リップルを抑圧することができ、かつ特性ばらつきが少ないトランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置の製造方法を提供する。
【解決手段】ウエハ上に、入力側IDT電極5及び出力側IDT電極6を形成し、ウレタン樹脂からなる主剤と、ポリイミド樹脂からなる副剤とを含む二液型のウレタン系熱硬化型ダンピング剤を付与し、加熱により硬化し、ダンピング材26,27を形成し、ウエハを切断して個々の弾性表面波フィルタ素子を得た後に、各弾性表面波フィルタ素子をパッケージに収納し、さらにダンピング材26,27の硬化温度よりも高い温度で加熱処理する、トランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスバーサル型の弾性表面波フィルタ素子がパッケージに収納されている弾性表面波フィルタ装置の製造方法に関し、より詳細には、入力側及び出力側IDT電極の外側にダンピング材が付与されている弾性表面波装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、帯域フィルタなどに、トランスバーサル型の弾性表面波フィルタ装置が広く用いられている。図8(a),(b)は、従来のトランスバーサル型弾性表面波素子の平面図及び正面断面図である。
【0003】
トランスバーサル型弾性表面波素子101では、圧電基板102上において、所定距離を隔てて、入力側IDT電極103及び出力側IDT電極104が形成されている。入力側IDT電極103の表面波伝搬方向外側の領域においては、ダンピング材105が付与されている。同様に、出力側IDT電極104の表面波伝搬方向外側の領域においても、ダンピング材106が付与されている。入力側IDT電極103及び出力側IDT電極104の外側に伝搬し、圧電基板102の端面で反射されて戻ってくる表面波は不要波となる。従って、この不要波による通過帯域内リップルを抑制するために、ダンピング材105,106が付与されている。
【0004】
例えば下記の特許文献1には、このようなダンピング材として、シリコーン樹脂系ダンピング材が開示されており、下記の特許文献2では、感光性ポリイミド樹脂やウレタン樹脂からなるダンピング材が開示されている。特許文献2では、感光性ポリイミド樹脂をダンピング材として用いた場合の不要表面波の減衰効果が0.8dBλであり、ウレタン樹脂を用いた場合には1.6dBλであることが記載されている。
【特許文献1】特開2005−33402号公報
【特許文献2】特開2007−306493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のように、シリコーン樹脂系ダンピング材を用いた場合、不要波を十分に抑制することができなかった。
【0006】
他方、特許文献2には、ウレタン樹脂を用いた場合、感光性ポリイミド樹脂に比べてダンピング効果が高いことが記載されている。しかしながら、ウレタン樹脂からなるダンピング材を用いた場合でも、不要波をなお十分に抑制することはできなかった。そのため、得られたトランスバーサル型弾性表面波装置において、特性のばらつきが比較的大きかった。
【0007】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、不要波をダンピング材により十分に抑制することができ、それによって特性ばらつきが少ないトランスバーサル型の弾性表面波装置を得ることを可能とする製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、圧電材料からなるウエハ上において、複数のトランスバーサル型弾性表面波フィルタ素子を形成するために、各弾性表面波フィルタ素子の入力側IDT電極及び出力側IDT電極を形成する工程と、ウレタン樹脂からなる主剤と、ポリイミド樹脂からなる副剤とを含む二液型のウレタン系熱硬化型ダンピング剤を用意する工程と、前記圧電ウエハ上において、各弾性表面波フィルタ素子が形成される部分において、入力側IDT電極の弾性表面波伝搬方向外側の領域内及び出力側IDT電極の弾性表面波伝搬方向外側の領域内に前記ダンピング剤を付与する工程と、前記ダンピング剤を加熱により硬化し、硬化物からなるダンピング材を形成する工程と、前記圧電ウエハを隣り合う弾性表面波フィルタ素子間の境界に沿って切断する工程と、切断により得られた各弾性表面波フィルタ素子をパッケージに収納する工程と、前記パッケージを前記ダンピング剤の硬化温度よりも高い温度で加熱処理する工程とを備える、トランスバーサル型弾性表面波フィルタ素子の製造方法が提供される。
【0009】
本発明に係るトランスバーサル型弾性表面波装置の製造方法のある特定の局面では、前記パッケージを加熱処理する際の温度が240℃〜300℃の範囲の温度で行われる。それによって、不要波の抑圧効果をより一層高めることができ、特性のばらつきの少ないトランスバーサル型弾性表面波装置をより安定に製造することが可能となる。より好ましくは、前記パッケージを加熱処理する際の温度をT(℃)としたときに、加熱処理する際の時間が式(1)で規定された時間Pを中心とし、式(2)で規定される時間Pを下限とし、式(3)で規定される時間Pを上限とする範囲内である。
【0010】
式(1)…時間P(秒)=1.6885×1010×EXP(−0.0695×T)
式(2)…時間P(秒)=5.0800×10×EXP(−0.0695×T)
式(3)…時間P(秒)=2.8222×1010×EXP(−0.0695×T)
【0011】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置の製造方法の他の特定の局面では、前記パッケージを加熱処理した後における前記パッケージ内の前記ダンピング材の弾性率が2GPa〜5GPaの範囲内とされる。その場合には、不要波を抑圧する効果をより一層高めることができ、特性ばらつきの少ないトランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置をより安定に製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置の製造方法では、ウエハ上において、入力側IDT電極及び出力側IDT電極の表面波伝搬方向外側の領域に、ウレタン樹脂からなる主剤と、ポリイミド樹脂からなる副剤とを含む2液型の熱硬化型ダンピング剤を付与し、該ダンピング剤の硬化温度で加熱してダンピング材を形成し、個々の弾性表面波フィルタ素子をパッケージに収納した後にさらに上記加熱処理が施されるため、上記2液型熱硬化型ダンピング剤を十分に硬化させ、しかも硬化物の物性のばらつきを小さくすることができる。従って、圧電基板の端面で反射してきた不要波を確実にかつ安定に抑制することが可能となる。
【0013】
よって、不要波によるリップルが少なく、特性のばらつきの少ないトランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置を安定に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0015】
図1〜図4を参照して、本発明の一実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置の製造方法を説明する。
【0016】
まず、図4に示すように、圧電材料からなるウエハWを用意する。ウエハWを構成する圧電材料としては、LiTaO、LiNbOまたは水晶などの圧電単結晶、あるいは圧電セラミックスを用いることができる。また、ガラス基板に形成されたZnOからなる圧電膜を用いることができる。
【0017】
上記ウエハWの上面に、複数のトランスバーサル型弾性表面波フィルタ素子を形成するために、電極構造を形成する。すなわち、ウエハWにおいて、マトリクス状に配置された複数の矩形の領域W1のそれぞれにおいて、各弾性表面波フィルタ素子のための電極構造を形成する。
【0018】
図2は、最終的に得られる弾性表面波フィルタ素子の上記電極構造を説明するための模式的平面図である。図2に示すように、1つの弾性表面波フィルタ素子では、上記ウエハWを後述するように分割することにより得られた基板4を有する。この基板4の上面に図示の電極構造が形成されている。この電極構造は、入力側IDT電極5と、出力側IDT電極6とを有する。入力側IDT電極5と出力側IDT電極6とは、表面波伝搬方向において隔てられている。入力側IDT電極5及び出力側IDT電極6は、それぞれ、互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対のくし歯電極5a,5b,6a,6bを有する。
【0019】
以下においては、各種電極の位置を明確にするために、基板4の4つのコーナー部を、第1〜第4のコーナー部4a〜4dとして説明を行う。なお、第1のコーナー部4a及び第2のコーナー部4bは、基板4の入力側IDT電極5が設けられている領域の外側に位置している一方の短辺の両端に位置するコーナー部である。他方、第3,第4のコーナー部4c,4dは、基板4において、出力側IDT電極6が設けられている領域の外側に位置する基板4の他方の短辺の両側に位置している。
【0020】
くし歯電極5aは、配線電極7a,7bにより、第1の特性測定用パッド8及び第1のワイヤーボンディングパッド9に電気的に接続されている。また、くし歯電極5bは、配線電極10により、第2の特性測定用パッド11及び第2のワイヤーボンディングパッド12に電気的に接続されている。
【0021】
第1の特性測定用パッド8は、第1のコーナー部4a近傍に配置されている。また、第1のワイヤーボンディングパッド9、第2のワイヤーボンディングパッド12及び第2の特性測定用パッド11は、第2のコーナー部4b近傍に配置されている。従って、くし歯電極5aに接続されている、第1の特性測定用パッド8と、第1のワイヤーボンディングパッド9とは、基板4の短辺に沿うように設けられた配線電極7bにより電気的に接続されている。
【0022】
さらに、本実施形態では、IDT電極5,6間の領域において表面波伝搬方向と交差するように帯状の電極13が形成されている。この帯状の電極13の両端に配線電極14,15が接続されている。配線電極14,15は、基板4の長辺に沿うように該長辺近傍に配置されている。配線電極14の一方端部が第1のコーナー部4a近傍に延ばされており、第1のコーナー部4a近傍に設けられた第3の特性測定用パッド16に電気的に接続されている。同様に、配線電極10の一方端部は第2のコーナー部4b近傍に延ばされており、第2のコーナー部4b近傍に設けられた第3のワイヤーボンディングパッド17に電気的に接続されている。
【0023】
他方、くし歯電極6aは、配線電極18a,18bにより、第5の特性測定用パッド19と、第5のワイヤーボンディングパッド20とに電気的に接続されている。第5の特性測定用パッド19は、第3のコーナー部4cの近傍に配置されている。他方、第5のワイヤーボンディングパッド20は、第4のコーナー部4d近傍に配置されている。
【0024】
くし歯電極6bは、配線電極21により、第4の特性測定用パッド22及び第4のワイヤーボンディングパッド23に電気的に接続されている。特性測定用パッド22及びワイヤーボンディングパッド23は、第4のコーナー部4dの近傍に配置されている。
【0025】
弾性表面波フィルタ素子3では、トランスバーサル型弾性表面波フィルタが構成されている。
【0026】
上記電極構造の形成は、フォトリソグラフィーパターニング法などの適宜の薄膜形成法により行い得る。また、電極材料としては、Al、Cu、Ag、Pd、Wまたはこれらの金属の合金を用いることができ、特に限定されない。
【0027】
上記ウエハW上に、上記電極構造を形成した後に、個々の弾性表面波フィルタ素子が形成される領域において、入力側IDT電極5の表面波伝搬方向外側の領域及び出力側IDT電極6の表面波伝搬方向外側の領域に、ダンピング剤を付与する。ダンピング剤として、本実施形態では、ウレタン樹脂からなる主剤と、ポリイミド樹脂からなる副剤とを含む二液型のウレタン系熱硬化型ダンピング剤を用いる。このような二液型ウレタン系熱硬化型ダンピング剤としては、二液型ウレタン系熱硬化型レジストインクとして用いられている材料、例えば味の素ファインテクノ社製、品番AR−7100、AR−7100HFなどを用いることができる。
【0028】
上記二液型のウレタン系熱硬化型ダンピング剤は、加熱により硬化し、硬化物を与える。この硬化物からなるダンピング材が、圧電基板上に形成されると、ダンピング効果を発揮し、不要振動を抑制する。
【0029】
本実施形態の製造方法では、上記ダンピング剤をウエハWウエハにおいて、個々の弾性表面波フィルタ素子形成部分において、入力側IDT電極5及び出力側IDT電極6の表面波伝搬方向外側の領域内に付与する。ダンピング剤の付与は、スクリーン印刷などの適宜の印刷法、またはディスペンサを用いた吐出法などの適宜の方法を用いることができる。
【0030】
次に、加熱により上記ダンピング剤を硬化する。この加熱は、ダンピング剤が付与されたウエハWを加熱用オーブン内に配置することにより、あるいは加熱炉内に上記ウエハWを配置することにより行われ得る。あるいは、熱風等を吹き付けることによりダンピング剤を加熱してもよい。上記加熱温度は、使用するダンピング剤によっても異なるが、ダンピング剤が熱硬化する適宜の温度が用いられ、上述した二液型ウレタン系熱硬化型ダンピング剤の硬化温度は、150℃であるため、150℃〜160℃程度の温度に加熱すればよい。加熱時間については、1時間程度とすればよい。
【0031】
上記加熱によりダンピング剤を硬化することにより、図3に平面図で示すように、ダンピング材26,27がIDT電極5,6の外側の領域に形成される。
【0032】
次に、上記ウエハWを、隣り合う弾性表面波フィルタ素子間の境界に沿って切断する。すなわち、図4の各弾性表面波フィルタ素子間を区画している境界に沿って切断することにより、個々の弾性表面波フィルタ素子を得る。この切断は、ダイシングブレードを用いる方法、レーザー光の照射等により切断するレーザーダイシング法などの適宜の方法により行われ得る。
【0033】
上記のようにして、図3に示した弾性表面波フィルタ素子3を得ることができる。この弾性表面波フィルタ素子3を、次に、図1に示すパッケージ2内に収納する。そして、ボンディングワイヤー41〜43,44,45により、弾性表面波フィルタ素子3と、リード端子36〜40とを適宜接続する。
【0034】
上記パッケージ2は、適宜の絶縁性材料からなる。このような絶縁性材料としては、合成樹脂や絶縁性セラミックスなどを挙げることができる。パッケージ2は、図1に示されている開口2aを有し、開口2a内に、弾性表面波フィルタ素子3が収納されている。開口2aは、上記弾性表面波フィルタ素子3を収納した後、破線で示す蓋材2Aにより閉成され、パッケージが完成される。蓋材2Aは適宜の樹脂、セラミックスまたは金属などからなる。このようにして、弾性表面波フィルタ装置1を得ることができる。
【0035】
本実施形態では、上記パッケージ2と蓋材2Aとからなるパッケージに弾性表面波フィルタ素子3を収納し、弾性表面波フィルタ装置1を得た後に、さらに、上記ダンピング材26,27の硬化温度よりも高い温度で加熱処理する。上記二液型ウレタン系熱硬化型のダンピング剤の硬化温度は150℃である。本実施形態では、240℃〜300℃の範囲で16分〜23秒程度の時間維持することにより、加熱処理が行われる。
【0036】
加熱処理の時間は、240℃では16分、270℃では2分、300℃では23秒の加熱処理である。加熱処理の時間は所定の範囲内であればよい。すなわち、240℃で4分50秒〜27分、270℃では36秒〜3分20秒、300℃では7秒〜39秒の範囲内の加熱処理でよい。パッケージを加熱処理する際の条件は、240℃〜300℃の範囲内の加熱処理温度をT(℃)としたときに、時間が式(1)で規定される時間Pを中心とし、式(2)で規定される時間Pを下限とし、式(3)で規定とする時間Pを上限とする範囲内であればよいことがわかっている。
【0037】
式(1)…時間P(秒)=1.6885×1010×EXP(−0.0695×T)
式(2)…時間P(秒)=5.0800×10×EXP(−0.0695×T)
式(3)…時間P(秒)=2.8222×1010×EXP(−0.0695×T)
【0038】
なお、式(1)〜(3)のEXP(−0.0695×T)はe−0.0695×Tを意味する。
【0039】
パッケージに弾性表面波フィルタ素子3を収納した後に上記加熱処理を行うことにより、内部のダンピング材26,27がより確実に硬化される。それによって、ダンピング材の弾性率が2GPa〜5GPa程度とされる。ダンピング材の弾性率がこの範囲にある場合、不要波によるリップルを効果的に抑圧することができる。
【0040】
2GPa未満の場合には、ダンピング材が柔らかくなりすぎ、不要波を十分に減衰させ得ないことがある。5GPaを越えると、固くなりすぎ、やはり不要波を十分に減衰させ得ないことがある。
【0041】
ここで、加熱時間とは弾性表面波フィルタ装置1を所定の温度に保持する時間である。所定の温度に設定したオーブンに弾性表面波フィルタ装置1を入れて、オーブンのふたを閉めてからの時間ではない。ふたの開閉や弾性表面波フィルタ装置1を整列する治具の熱容量によりオーブン内の温度が下がるため、所定の温度に達するまでの時間が保持時間に付加される。
【0042】
次に、二液型のウレタン系熱硬化型ダンピング剤AR−7100の成分について説明する。主剤の成分は、変性ウレタン樹脂40重量%、フィラー18重量%、フタロシアニングリーン2重量%、カルビトールアセテート20重量%、石油ナフサ20重量%である。添加剤の成分は、変性ポリイミド樹脂50重量%、カルビトールアセテート30重量%、石油ナフサ20重量%である。
【0043】
AR−7100HFの成分について説明する。異なる点は、主剤の色素成分であるAR−7100におけるフタロシアニングリーンが、AR−7100HFではフタロシアニンブルーに変更された点である。主剤の他の成分はAR−7100の成分と同じである。添加剤はAR−7100の添加剤と同じ成分を用いる。
【0044】
本実施形態の弾性境界波フィルタ装置の製造方法によれば、ダンピング材26,27を入力側IDT電極5及び出力側IDT電極6の外側の領域に付与した後に、加熱により硬化させ、さらにパッケージに実装した後に、上記加熱処理が行われるため、適度な弾性率を有するダンピング材26,27を形成することができる。それによって、不要波を確実に減衰させ、通過帯域内におけるリップルを効果的に抑圧することができる。これを具体的な実験例に基づき説明する。
【0045】
ウエハWとしてLiNbOを用い、入力側IDT電極及び出力側IDT電極を以下のように形成した。
【0046】
入力側IDT電極5:71対
出力側IDT電極6:6対
【0047】
電極材料としては、Alを用い、膜厚は400nmとした。
【0048】
入力側IDT電極5と出力側IDT電極6との間の距離は610μmとした。
【0049】
味の素ファインテクノ社製、品番:AR−7100を用い、塗布厚みを40μmとし、150℃の温度で60分維持し、硬化させ、ダンピング材26,27を形成した。パッケージ後の加熱処理はオーブンを用い、270℃の温度に2分維持することにより行った。保持時間に所定温度が達するまでの時間が付加される。
【0050】
パッケージ後の加熱処理を施した後の実施形態の弾性表面波フィルタ素子の減衰量周波数特性を図5に実線で示す。比較のために、パッケージ後の加熱処理を行わなかったことを除いては上記と同様にして得られた比較例の弾性表面波フィルタ装置の減衰量周波数特性を図5に破線で示す。
【0051】
図5の破線と実線とを比較すれば明らかなように、パッケージ後の加熱処理を施した実施形態によれば、比較例に比べ、通過帯域内におけるリップルを効果的に抑圧し得ることがわかる。また、通過帯域群遅延時間特性についても改善されていることがわかる。
【0052】
上記のように、実施形態において、比較例に比べ、通過帯域内リップル及び通過帯域内群遅延時間特性が改善されるのは、パッケージ後の加熱処理により、ダンピング材26,27の弾性率が適度な値になったことによると考えられる。本願発明者の実験によれば、上記実施形態で得られた弾性表面波フィルタ装置を分解し、上記ダンピング材26,27を取り出しその弾性率を測定したところ、3GPaであった。これに対して、比較例の弾性表面波フィルタ装置から取り出されたダンピング材では、弾性率は0.2GPaと低くかった。
【0053】
また、上記比較例の弾性表面波フィルタ装置から取り出されたダンピング材の赤外吸収スペクトル及び実施形態の弾性表面波フィルタ装置から取り出されたダンピング材の赤外吸収スペクトルをそれぞれ測定した。結果を図6及び図7にそれぞれ示す。
【0054】
図6と図7とを比較すれば明らかなように、図6では大きく表されていた3070cm−1、1640cm−1、1420cm−1、990cm−1に表れる−CH=CHによる吸収が実施形態では小さくなっていることがわかる。パッケージ後の加熱処理により、エチレン性不飽和結合が消費され、それによって、硬化物がある程度硬くなり、弾性率が高められていると考えられる。すなわち、パッケージ後のさらなる加熱処理を施すことにより、ダンピング材26,27の弾性率を適度に高めることができ、それによって、ダンピング効果が著しく高められているものと考えられる。
【0055】
上記のように、パッケージ後の加熱処理をさらに施すことにより、ダンピング材の硬化物の弾性率を適度な値にすることができ、しかも弾性率のばらつきを小さくすることができるので、本実施形態によれば、通過帯域内リップルが少なく、特性ばらつきの少ない弾性表面波フィルタ装置を安定に提供することができる。
【0056】
なお、本発明において、入力側IDT電極5及び出力側IDT電極6の電極構造については、図示の構造に限定されるものではない。また、ダンピング材26,27が付与される領域についても、IDT電極5,6の表面波伝搬方向外側の領域内に位置する限り、図示の不要領域に限定されるものではない。さらに、上記実施形態では、ウエハW上で電気的特性を測定することを可能とするために、端子電極だけでなく、測定パッド等も形成されていたが、測定パッド等は必ずしも必要ではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置を説明するための模式的正面図である。
【図2】本発明の一実施形態の弾性表面波フィルタ装置に用いられる弾性表面波フィルタ素子の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態で用いられる弾性表面波フィルタ素子の模式的平面図である。
【図4】本発明の一実施形態で用意されるウエハを説明するための斜視図である。
【図5】本発明の実施形態及び比較例の弾性表面波フィルタ装置の減衰量周波数特性及び通過帯域内群遅延時間特性を示す図である。
【図6】比較例による弾性表面波フィルタ装置のダンピング材の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図7】本発明の一実施形態による弾性表面波フィルタ装置のダンピング材の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図8】(a)及び(b)は、従来のトランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置の模式的平面図及び正面断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1…弾性表面波フィルタ装置
2…パッケージ
2a…開口
2A…蓋材
3…弾性表面波フィルタ素子
4…基板
4a〜4d…第1〜第4のコーナー部
5…入力側IDT電極
5a,5b…くし歯電極
6…出力側IDT電極
6a,6b…くし歯電極
7a,7b…配線電極
8…第1の特性測定用パッド
9…第1のワイヤーボンディングパッド
10…配線電極
11…第2の特性測定用パッド
12…第2のワイヤーボンディングパッド
13…電極
14,15…配線電極
16…第3の特性測定用パッド
17…第3のワイヤーボンディングパッド
18a,18b…配線電極
19…第5の特性測定用パッド
20…第5のワイヤーボンディングパッド
21…配線電極
22…第4の特性測定用パッド
23…第4のワイヤーボンディングパッド
26,27…ダンピング材
36〜40…リード端子
41〜45…ボンディングワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料からなるウエハ上において、複数のトランスバーサル型弾性表面波フィルタ素子を形成するために、各弾性表面波フィルタ素子の入力側IDT電極及び出力側IDT電極を形成する工程と、
ウレタン樹脂からなる主剤と、ポリイミド樹脂からなる副剤とを含む二液型のウレタン系熱硬化型ダンピング剤を用意する工程と、
前記圧電ウエハ上において、各弾性表面波フィルタ素子が形成される部分において、入力側IDT電極の弾性表面波伝搬方向外側の領域内及び出力側IDT電極の弾性表面波伝搬方向外側の領域内に前記ダンピング剤を付与する工程と、
前記ダンピング剤を加熱により硬化し、硬化物からなるダンピング材を形成する工程と、
前記圧電ウエハを隣り合う弾性表面波フィルタ素子間の境界に沿って切断する工程と、
切断により得られた各弾性表面波フィルタ素子をパッケージに収納する工程と、
前記パッケージを前記ダンピング剤の硬化温度よりも高い温度で加熱処理する工程とを備える、トランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置の製造方法。
【請求項2】
前記パッケージを加熱処理する際の温度が240℃〜300℃の範囲である、請求項1に記載のトランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置の製造方法。
【請求項3】
前記パッケージを加熱処理する際の温度をT(℃)としたときに、加熱処理する際の時間が下記の式(1)で規定された時間Pを中心とし、式(2)で規定される時間Pを下限とし、式(3)で規定される時間Pを上限とする範囲内である、請求項2に記載のトランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置の製造方法。
式(1)…時間P(秒)=1.6885×1010×EXP(−0.0695×T)
式(2)…時間P(秒)=5.0800×10×EXP(−0.0695×T)
式(3)…時間P(秒)=2.8222×1010×EXP(−0.0695×T)
【請求項4】
前記パッケージを加熱処理した後における前記パッケージ内の前記ダンピング材の弾性率が2GPa〜5GPaである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスバーサル型弾性表面波フィルタ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−147679(P2010−147679A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321224(P2008−321224)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】