説明

トロイダル型無段変速機

【課題】原動機始動時のハンチングの防止またはハンチングの早期収拾を図ることができるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】駆動装置32によって、トラニオン15が傾転しない中立位置からトラニオン15を枢軸14の軸方向に沿って変位させることによりトラニオン15を傾転させて入力側ディスクと出力側ディスクとの変速比を変更する。駆動装置32が非作動状態の場合に、トラニオン15の枢軸14の軸方向に沿った位置をトラニオン15が傾転しない中立位置に略一致した状態に保持する皿バネ38,39を備えている。これにより、油圧室の油圧上昇が不十分な時間は、駆動装置の往復運動を停止させることができるので、原動機始動時のハンチング防止またはハンチングの早期収束を図ることができる。つまり、油圧室の油圧が低い場合は、駆動装置の往復運動が固定され、油圧が上がると従来と同様の駆動装置の動きとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図6および図7に示すように構成されている。図5に示すように、ケーシング50の内側には入力軸(中心軸)1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図7参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図6中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図6の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図7は、図6のA−A線に沿う断面図である。図7に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図7においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図7の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部(第1の軸部)23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部(第2の軸部)23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図7の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図7の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は球状凹面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図7で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図7の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図7の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
上述のように、駆動装置32の駆動ピストン33を油圧により変位させて、入力軸1と出力歯車4との間の変速比を変化させる際の駆動装置32の駆動シリンダ31への圧油の給排の制御は、トラニオン15の動き(枢軸の軸方向変位および枢軸を中心とする揺動変位(傾転角度の変位))が例えばプリンセスカム等を備える機械式のフィードバック機構を介してフィードバックされることで行われている。すなわち、制御弁を開放して駆動装置32を作動させた後に、フィードバック機構によりトラニオン15の軸方向の変位量や揺動方向の変位量(傾転角度)が目的とする変位量となると、制御弁を閉じて駆動ピストン33、33への圧油の給排を停止させる。
【0017】
なお、トラニオン15は、入力側ディスク2と出力側ディスク3とに対する配置が所定の中立位置にある場合に、傾転せずに現状の傾転角度を維持し、中立位置から変位すると傾転する。すなわち、傾転角度を変化させる。このトラニオン15の傾転角度によりパワーローラ11,11の入力側ディスク2および出力側ディスク3への油膜を介しての接地位置が変化し、変速比が変化する。したがって、トラニオン15の傾転角度によって変速比が決まる。また、トラニオン15の枢軸の軸方向(以下、枢軸方向と称する場合がある)に沿った中立位置からの変位量(オフセット量)が大きいと、トラニオンの傾転速度が速くなり、変速比の単位時間当たりの変化率(変速比の変化速度)が早くなる。すなわち、オフセット量は、変速比の微分値としての変速比の変化速度に対応する。
【0018】
このような機械式のフィードバック機構においては、各構成部材の組み付け隙間や、弾性変形等の影響により変速比が所望の変速比からずれる虞があるとともに、入力トルクの変動に基づいて変速比が変化してしまう虞がある(例えば、特許文献1参照)。
それに対して、トラニオン15の軸方向および揺動方向の変位量を検知して電気信号を出力するセンサと、センサからの電気信号に基づいて前記制御弁を制御する制御装置とを備えた電気式のフィードバック機構を用いた制御も行われている。この場合には、上述の機械式の場合のような変速比のずれや変化を防止することができる。
【0019】
しかし、トラニオン15の軸方向および揺動方向の変位を検知するのに、直動検出センサと回転検出センサとの2種類のセンサを必要とする。このため、これら2種類のセンサを配置することにより、他の構成部材の配置の自由度の減少を招いたり、信頼性の低下を招いたり、コストの上昇を招いたりする虞がある。また、2種類のセンサの配置状況によっては、不必要な変速が行われる虞があった。さらに、2種類のセンサは、振動や高温に耐えられる性能が求められ、コスト増の要因となる。
【0020】
そこで、特許文献1においては、トラニオン15の軸方向および揺動方向の変位を検出して、検出された変位をフィードバックして制御するのではなく、入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転速度をそれぞれ回転検出センサで検出し、これら入力側ディスク2の回転速度と、出力側ディスクの回転速度との回転速度比に基づいて変速比を求めるとともに、変速比の変化速度(変速比の微分値)を算出し、算出された変速比の微分値からトラニオン15の動きを推測して、上述の制御弁を制御することが提案されている。上述のように、トラニオン15の傾転角度が変速比に対応し、トラニオン15の枢軸方向に沿ったオフセット量が変速比の微分値に対応することから、前記変速比の微分値をトラニオン15のオフセット量の代用特性として、駆動装置32をフィードバック制御することが可能である。
【0021】
この場合に、トラニオン15の複雑な動きを検出するのではなく、基本的に回転するだけの入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転速度を計測するだけなので、トラニオン15の動きをフィードバックする機械式のフィードバック機構や、電気式のフィードバック機構の問題を解決できるとともに、駆動装置32を制御して変速比を制御する制御装置のコストの低減を図ることができる。
【0022】
また、トロイダル型無断変速機では、駆動装置32の駆動シリンダ31の駆動ピストン33で仕切られる内部の一方側に皿バネを内蔵させ、駆動ピストン33をLow側に付勢するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。これは、エンジンを停止させた後に車両を惰力で走行させたり、車両を牽引して移動したりした場合に、変速比がHigh側に変化してしまうのを防止している。もし、エンジン停止時に駆動ピストン33に連結されたトラニオン15がHigh側にオフセットされている場合に、エンジン作動開始時に変速比がHigh側に向ってからLow側に戻されることになり、作動開始時に変速比が滑らかに変化せずに急激に変化してしまう。そこで、エンジン停止時にトラニオン15を皿ばねによりLow側に付勢することで、エンジン始動時に変速比がLow側となるようにしておき、次の発進時にLow側から滑らかに発進させるための構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2003−269598号公報
【特許文献2】特開2000−9197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
ところで、特許文献1に記載されるように、変速比とその微分値からトラニオン15をその軸方向に沿って移動させる駆動装置32を制御する場合に、特許文献2で示されるように、皿バネで駆動ピストン33を付勢する構成となっていると、エンジンの起動時に以下のような問題が生じる。
すなわち、エンジンの起動時には、皿バネの付勢力によりトラニオン15がその軸方向(枢軸方向)に沿ってLow側となるように中立位置より変位した状態(オフセットした状態)となっている。この際のトラニオン15のオフセット量(中立位置からの変化量)は、駆動装置32に油圧が作用していない状態では、皿バネにより、駆動ピストン33が駆動シリンダ31の皿バネの反対側となる内面に突き当てられた状態となることから大きなものとなっている。
【0025】
また、入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転速度から変速比の微分値を求めて駆動装置32を制御することから、これら入力側ディスク2および出力側ディスク3が回転していない状態では、トラニオン15のオフセット量を制御することができない。したがって、トロイダル型無段変速機を車両に搭載した場合に、変速装置において停車状態(すなわち、変速装置がP(パーキング)ポジションや、N(ニュートラル)ポジションとなっている場合)から、走行状態(変速装置をD(ドライブ)ポジション)を選択して入力側ディスク2および出力側ディスク3が回転を開始した瞬間に、上述のトラニオン15のオフセット量に対応してトロイダル型無段変速機もしくはトロイダル型無段変速機を含む変速装置が大きく変速してしまうことになる。
【0026】
このときの入力側ディスク2と出力側ディスク3の回転数が大きい場合には、トラニオン15のオフセット量が大きい事もあいまってトラニオン15の揺動力(傾転力)や揺動速度(傾転速度)が大きく、トラニオン15の傾転角度の限界を規制する傾転ストッパに、トラニオン15が強く当たる虞があり、これを防止する構造を設けるためにコストがかかる虞がある。
【0027】
なお、このような問題は、上述のトラニオン15の位置を検出する機械式もしくは電気式のフィードバック機構を用いる場合には問題にならない。
このようなフィードバック機構を用いている場合には、駆動装置32に油圧がかかっていない状態で、上述の皿ばねによるトラニオン15の軸方向の位置が中立位置に対して大きくオフセットされていても、実際のトラニオン15の傾転角と目標とする傾転角が略一致している場合に油圧がかかればすぐにトラニオン15のオフセット量の制御が行われ、トラニオン15が中立位置に戻され、上述のような問題が生じない。
【0028】
すなわち、発車時にトラニオン15がLow側に傾転するようにトラニオン15が中立位置よりLow側にオフセットされている場合に、走行状態となると、変速制御でLow側に制御されるが、油圧がかかっていない状態でのトラニオンの皿バネによるオフセット量に基づいて、トラニオン15がLow側に傾転開始するとともに、トラニオンのオフセット量やトラニオン15の傾転角がフィードバックされる。この際にトラニオンのオフセット量が大きいことに基づいて傾転角がLow側に大きくなると、目標となるトラニオンのLow側の傾転角に近づいたことになり、トラニオン15の軸方向位置を中立側に戻す制御が直ぐに入り、トラニオン15が速い回転速度で大きく傾転してストッパに当たるのが防止される。
【0029】
また、皿バネによるオフセット量に基づくトラニオン15の傾転角と、変速比制御に基づく目標とされる傾転角が大きく異なる場合には、停車状態から走行状態となって油圧が駆動装置32にかかった際に、直ぐに目的とする傾転角となるようにトラニオン15のオフセット量が調整され、トラニオン15がストッパに当たるような事態は防止される。
すなわち、トラニオン15の位置を検出してフィードバック制御を行っているので、駆動装置32に油圧が作用しているか否かにかかわらず、トラニオン15の位置が求められて、走行状態となった際に当該位置に基づいて駆動装置32の制御が開始される。この際に、直ぐにトラニオン15のオフセット量が制御されるので、トラニオン15が停車状態のオフセット量に基づいて速い速度で大きく傾転してしまうことがない。
したがって、以上のような問題は、トラニオン15の軸方向位置や揺動方向位置を機械的もしくは電気的に検出してフィードバック制御するのではなく、実際のトラニオン15の軸方向位置や揺動方向位置を検出せずに、入力側ディスク2と出力側ディスク3との変速比からその微分値を算出し、この微分値に基づいて変速比の制御を行っている場合に生じる。
【0030】
しかし、機械的や電気的にトラニオン15の動きを検出してフィードバック制御した場合には、上述のような問題があるとともに、変速比の微分値を用いて変速比を制御する場合に比較してコストが高くなるという問題がある。
【0031】
また、他の問題として、エンジン始動時(例えばアイドルストップからのスタート時など)のトランスミッション内では、油圧の立ち上がりの遅さの問題がある。すなわち、パワーローラ11(トラニオン15)を支持する駆動装置32の駆動シリンダ31内の油圧室(増速用油圧室、減速用油圧室)の油圧が立ち上がらない(作用していない)と、パワーローラ11中心がディスク2,3中心からオフセットを生じ、ハンチングが発生する虞がある。
【0032】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、入力側ディスクと出力側ディスクとの変速比の微分値を算出し、この微分値をトラニオンの軸方向の中立位置からのオフセット量の代用特性として変速比を制御する場合に、停止状態中にトラニオンを中立位置に保持することにより、停止状態から作動状態となった際に、トラニオンが大きく傾転してしまうのを防止できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【0033】
また、本発明は、原動機始動時のハンチングの防止またはハンチングの早期収拾を図ることができるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた一対の枢軸の軸方向に沿って移動するとともに前記枢軸を中心に傾転し、かつ、前記各パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、これらトラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させる駆動装置とを備えているトロイダル型無段変速機において、
前記駆動装置が非作動状態の場合に、前記トラニオンの前記枢軸の軸方向に沿った位置を前記トラニオンが傾転しない中立位置に略一致した状態に保持する中立位置保持手段を備えることを特徴とする。
【0035】
請求項1に記載の発明においては、駆動装置が非作動状態の場合に、トラニオンの枢軸の軸方向に沿った位置をトラニオンが傾転しない中立位置に略一致した状態に保持する中立位置保持手段を備えているので、油圧室の油圧上昇が不十分な時間は、駆動装置の往復運動を停止させることができ、これにより原動機始動時のハンチング防止またはハンチングの早期収束を図ることができる。つまり、油圧室の油圧が低い場合は、駆動装置の往復運動が固定され、油圧が上がると従来と同様の駆動装置の動きとなる。
【0036】
請求項2に記載のトロイダル型無段変速機は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた一対の枢軸の軸方向に沿って移動するとともに前記枢軸を中心に傾転し、かつ、前記各パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、これらトラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させる駆動装置とを備え、
前記駆動装置によって、前記トラニオンが傾転しない中立位置から前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させることにより、変速比を制御する際に、前記入力側ディスクおよび出力側ディスクの回転速度から求めた変速比の微分値を、前記トラニオンの前記中立位置から前記枢軸の軸方向に沿った変位量の代用特性として用いるトロイダル型無段変速機において、
前記駆動装置が非作動状態の場合に、前記トラニオンの前記枢軸の軸方向に沿った位置を前記中立位置に略一致した状態に保持する中立位置保持手段を備えることを特徴とする。
【0037】
請求項2に記載の発明においては、上述のように変速比の微分値を用いて変速比を制御する場合に、例えば、停止状態(停車状態)から作動状態(走行状態)となる起動時に、トラニオンの枢軸方向に沿った位置が、中立位置保持手段により中立位置となっているので、トラニオンが傾転することなく、変速比を制御するためにトラニオンのオフセット量が変更された段階でトラニオンが傾転を開始することになる。
すなわち、例えば、皿バネにLow側に付勢されて停止状態のトラニオンのオフセット量が大きくなっている場合のように、トラニオンが速い速度で大きく傾転するようなことがない。したがって、トラニオンが、このトラニオンの傾転角度の範囲を規制するストッパに強く当たるのを防止することができる。
【0038】
請求項3に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記駆動装置は、駆動シリンダと、この駆動シリンダ内を2つの油圧室に分割するとともに、これら油圧室の油圧に基づいて直動して前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させる駆動ピストンとを備え、
前記中立位置保持手段は、2つの前記油圧室内にそれぞれ設けられ、かつ、前記駆動ピストンの位置を前記トラニオンが前記中立位置となる側にそれぞれ互いに対向して付勢する付勢手段を備えていることを特徴とする。
【0039】
請求項3に記載の発明においては、中立位置保持手段が、駆動装置の駆動シリンダの駆動ピストンにより区切られる2つの油圧室に設けられた付勢手段からなるので、この中立位置保持手段がトロイダル型無段変速機の他の構成部材の邪魔になることがなく、大きな設計変更をすることなく、トロイダル型無段変速機に中立位置保持手段を設けることができる。
【0040】
請求項4に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項3に記載の発明において、二つの前記付勢手段はそれぞれ、二つの前記油圧室内にそれぞれ移動自在に設けられた油圧室用ピストンを介して前記駆動ピストンを付勢することを特徴とする。
【0041】
請求項4に記載の発明においては、付勢手段が油圧室用ピストンを介して駆動ピストンを押すので、油圧が上昇すれば差圧から正確な入力トルクを算出することができる。
【0042】
請求項5に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項3または請求項4に記載の発明において、前記付勢手段は、付勢力を調整する付勢力調整手段を備えることを特徴とする。
【0043】
請求項5に記載の発明においては、トラニオンをより中立位置に近い位置に保持することが可能となる。
ここで、2つの付勢手段が対向して駆動ピストンを付勢することにより、駆動ビストンにより駆動されるトラニオンの位置を中立位置に保持する際に、付勢手段の個体差や、付勢手段の配置等により、これら付勢手段による付勢力のバランスが崩れていると、駆動ピストンがトラニオンを中立位置とする位置からずれる虞がある。しかし、付勢力調整手段により、付勢手段の付勢力を調整することが可能となっていることによって、トラニオンをより中立位置に近い位置に保持し、確実に起動時にトラニオンが早い速度で大きく傾転するのを防止できる。
【0044】
請求項6に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記駆動装置は、駆動シリンダと、この駆動シリンダ内を2つの油圧室に分割するとともに、これら油圧室の油圧に基づいて直動して前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させる駆動ピストンと、駆動シリンダ側の部材の内周面と、前記駆動ピストン側の部材の外周面との間に配置される環状のピストンシールとを備え、前記中立位置保持手段は、前記ピストンシールと、前記駆動装置が非作動状態になる直前に、前記駆動装置により前記トラニオンを前記中立位置に移動させる駆動制御手段とを備え、前記ピストンシールでは、当該ピストンシールを介して前記駆動シリンダ側の部材と、前記駆動ピストン側の部材とが摺動する際に、前記ピストンシールと前記駆動シリンダ側の部材または前記駆動ピストン側の部材との間に生じる摩擦力が、前記駆動装置に駆動されて一体に移動する全ての部材の総重量に作用する重力より大きくされていることを特徴とする。
【0045】
請求項6に記載の発明においては、駆動シリンダ側の部材と、駆動シリンダ側の部材に対してピストンシールを介して摺動する駆動ピストン側の部材との間に生じるピストンシールに対応した摩擦力が、駆動装置に駆動されて一体に移動する全ての部材の総重量に作用する重力より大きくなっている。すなわち、ピストンシールにより生じる摩擦力(フリクション)が、トラニオンやパワーローラを含み、駆動装置に駆動される全ての部材に作用する重力より大きくなっているので、例えば、トロイダル型無段変速機にトルクを入力するエンジンが停止した状態(すなわち、駆動装置の非作動状態)で、トラニオンやパワーローラや駆動ピストンを含み、駆動装置に駆動される全ての部材が重力により駆動ピストンとともに、駆動シリンダに対してずり落ちることがない。
【0046】
したがって、エンジン停止時にトラニオンを中立位置に戻すように制御すれば、エンジンが停止している間は、トラニオンがピストンシールの摩擦力によって中立位置に保持される。したがって、変速比の微分値を用いて変速比を制御する場合に、停止状態から作動状態になる起動時に、トラニオンの枢軸方向に沿った位置が、ピストンシールにより中立位置になっているので、トラニオンが傾転することなく、変速比を制御するためにトラニオンのオフセット量が変更された段階でトラニオンが傾転を開始することになる。これにより、起動時にトラニオンが速い速度で大きく傾転するようなことがなく、トラニオンが、このトラニオンの傾転角度の範囲を規制するストッパに強く当たるのを防止することができる。
【0047】
また、ピストンシールを摩擦力の強いものに変更し、かつ、停止時にトラニオンを中立位置に戻すように制御するだけで、上述のような効果を奏することができるので、ピストンシールを摩擦力の強いものに変更する以外は、設計変更を必要とせず、極めて容易に実施可能である。また、構造的には、ピストンシールの変更だけでこの発明を実施可能なので、部品の追加がなく、この発明を実施するためのコストおよび重量の増加を抑制できる。
【0048】
また、油圧室の油圧上昇が不十分な時間は、駆動装置の往復運動を停止させることができて、原動機始動時のハンチング防止またはハンチングの早期収束を図ることができる。つまり、油圧室の油圧が低い場合は、駆動装置の往復運動が固定され、油圧が上がると従来と同様の駆動装置の動きとなる。
【0049】
請求項7に記載のトロイダル型無段変速機の制御方法は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載されたトロイダル型無段変速機の制御方法であって、
前記入力側ディスクおよび出力側ディスクの両方または一方の回転数が所定値に満たない場合には、前記駆動装置によって、前記トラニオンが傾転しない中立位置から前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させることにより変速比を制御する変速制御を禁止し、前記トラニオンの枢軸方向に沿った位置を略中立位置とするように前記駆動装置を制御することを特徴とする。
【0050】
請求項7に記載の発明においては、トロイダル型無段変速機を備える機械の作動開始時に入力側ディスクおよび出力側ディスクの回転数が低いことに基づいて回転センサからの出力が不安定となっても、入力側ディスクおよび出力側ディスクの回転数が設定値以下の場合には、回転センサの出力に基づく制御を行わず、トラニオンの位置が中立位置となるように制御するので、起動時に変速比が一定となり、変速比が不安定な状態となるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、油圧室の油圧上昇が不十分な時間は、駆動装置の往復運動を停止させることができるので、始動時のハンチング防止またはハンチングの早期収束を図ることができる。
また、本発明のトロイダル型無段変速機によれば、入力側ディスクと出力側ディスクの回転数により求められる変速比の微分値に基づいてトロイダル型無段変速機の変速比を制御する場合に、トロイダル型無段変速機を備える機械の起動時等において、トラニオンが大きく傾転しすぎてしまうのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態のトロイダル型無段変速機を示す要部断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態のトロイダル型無段変速を示す要部断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態のトロイダル型無段変速機を示す要部断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態のトロイダル型無段変速機の制御方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の第5実施形態のトロイダル型無段変速機を示す要部断面図である。
【図6】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図7】図6のA−A線に沿う断面図である。ノズルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
なお、本発明の特徴は、駆動装置32に配置される中立位置保持手段の構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図6および図7と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
また、本発明のトロイダル型無段変速機の変速比の制御においては、図6および図7に示す入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転速度をそれぞれ計測することにより変速比を求めるとともに、この変速比の微分値を求め、求められた微分値をトラニオン15のオフセット量の代用特性として用いるものとなっている。すなわち、本発明のトロイダル型変速機では、変速比の微分値をトラニオン15のオフセット量の代用特性とする周知の制御方法により変速比を制御するものとなっている。
【0054】
図1は、本発明の第1実施形態を示す図である。
図1に示すように、この例の駆動装置32においては、従来例と同様に、各トラニオン15の一端部の枢軸14にはそれぞれ駆動ロッド29が枢軸方向に沿って設けられており、各駆動ロッド29の中間部外周面に駆動ピストン33がナット29Aにより固設されている。これら各駆動ピストン33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。
駆動ピストン33は、駆動ロッド29の外周面に固定される円筒部34と、当該円筒部34の上下の略中央部から周囲に円板状に広がるピストン本体35とからなっている。
【0055】
駆動シリンダ31の内部空間は、その中心部が前記駆動ビストン33および駆動ピストン33の外周面に固定される円筒部34が貫通する円柱状の空間とされ、その円柱状の空間の上下の中央部分が、周囲に円板状に広がるシリンダ空間となっており、このシリンダ空間内に上述のピストン本体35が配置されている。また、駆動シリンダ31の内部空間であるシリンダ空間内がピストン本体35により上下の円板状の油圧室36,37に区画されている。これら油圧室36,37内には、ピストン本体35を付勢する皿バネ38,39がそれぞれ設けられている。
【0056】
上側の油圧室36内に配置される皿バネ38は、ピストン本体35を下側に付勢し、下側の油圧室37内に配置される皿バネ39は、ピストン本体35を上側に付勢している。
また、皿バネ38は、中央に円筒部34が挿通される孔が形成された円板状で、この孔の周囲となる内周部から外周部までが斜めに形成され、上下方向(厚み方向)に圧縮されることにより上下方向に沿って付勢力を生じるようになっている。
上側の油圧室36内の皿バネ38は、外周部分を上にし、内周部分を下にして、ピストン本体35の上面と、油圧室36の上端側の内面との間に挟まれた状態に配置されている。
【0057】
また、下側の油圧室37内の皿バネ39は、外周部分を下にし、内周部分を上にして、ピストン本体35の下面と、油圧室37の下端側の内面との間に挟まれた状態に配置されている。ここで、上下の皿バネ38,39は、互いに対向してピストン本体35を逆方向に付勢する付勢手段となる弾性体である。
【0058】
このトロイダル型無段変速機が備えられる機械が停止状態で、各油圧室36,37に油圧が作用していない状態となっている際に、これら互いに対向して逆方向に付勢する二つの皿バネ38,39によりピストン本体35をトラニオン15が傾転しない中立位置に略一致する位置に保持するようになっている。すなわち、二つの皿バネ38,39は、トラニオン15を中立位置に保持する中立位置保持手段を構成するものである。
【0059】
これらの皿バネ38,39は、トラニオン15およびトラニオン15に付随する駆動ロッド29、駆動ピストン33およびその他の部材からなるトラニオンアッシー(アッセンブリー)の自重を少なくとも支持可能なバネ荷重(弾性体荷重)を有するものとなっている。すなわち、皿バネ38,39のバネ荷重(弾性体荷重)は、少なくともトラニオンアッシーの質量を支持できる値より大きなものとなっている。また、駆動装置32が、これら皿バネ38,39の付勢力に抗して、駆動ピストン33を変位させる必要があり、これら皿バネ38,39のバネ荷重が上述の値よりもあまり大きくならないことが好ましい。
【0060】
また、図1に示すように駆動装置32の上にトラニオン15を配置する上下配置では、上側の皿バネ38より下側の皿バネ39を強くするものとしてもよい。なお、基本的には、上述のように互いに逆方向にピストン本体35を付勢する二つの皿バネ38,39により、トラニオン15が略中立位置に配置される状態となればよい。
【0061】
このトロイダル型無段変速機にあっては、上述のように変速比の微分値をトラニオン15のオフセット量の代用特性として変速比を制御する場合に、トロイダル型無段変速機を停止状態(非作動状態)から作動状態に変化させた際に、トラニオン15が略中立位置にあり、トラニオン15のオフセット量が略0となっているので、トラニオン15が傾転せず、トラニオン15がその傾転範囲を規制するストッパに強く当たることがない。
【0062】
その後、入力側ディスクおよび出力側ディスクが回転開始して、これらの回転速度に基づく変速比が計測可能となってから目標とする変速比に現状の変速比を近づけるために、駆動装置32によるトラニオン15のオフセット量の変更が行われることになる。
【0063】
なお、中立位置保持手段の付勢手段は、皿バネ38,39に限られるものではなく、例えば、波型バネを用いてもよい。さらに、油圧室36,37に配置可能な形状で、駆動ピストン33の駆動シリンダ31内の移動を邪魔しない形状ならば、各種バネおよび各種弾性体を付勢手段として使用可能である。
【0064】
さらに、付勢手段の配置位置は、トラニオン15の枢軸方向に沿った位置を中立位置に付勢可能ならば、駆動シリンダ31内の油圧室36,37に限られるものではなく、例えば、複数のトラニオン15の傾転角度を同期させるためのプーリ40の下面と、上側シリンダボディ61の上面との間、トラニオン15上部とケーシング50のトラニオン15の上側となる部分の間などの他の場所に付勢手段を配置してもよい。
また、ダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機であっても、左右の2つの駆動装置32のうちの少なくとも一方の駆動装置32に前記付勢手段(皿バネ38、39)を設ければ良い。一対のヨーク23A,23Bが設けられているので、ヨークのシーソー機能(同期機能)が働くからである。
【0065】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図2に示すように、第2実施形態のトロイダル型無段変速機は、第1実施形態のトロイダル型無段変速機の皿バネ38,39に、皿バネ38,39のバネ荷重、すなわち、付勢力(弾性力)を調整する環座41を上側の皿バネ38と上側油圧室36の上端側の内面との間に配置するとともに、環座41を下側の皿バネ39と下側油圧室37の下端側の内面との間に配置したものである。
【0066】
環座41は、円板にこの円板と同心となる円形の孔を空けた部材であり、皿バネ38,39の外径と同様の外径を有するものとなっている。上述のように駆動ピストン33の上面もしくは下面と、駆動シリンダ31の上端側の内面もしくは下端側の内面との間に挟まれた状態の皿バネ38,39の外周部分に環座41が接触している。この状態で、皿バネ38,39と駆動シリンダ31の上端側の内面もしくは下端側の内面との間に環座41が配置されている。
【0067】
これにより、皿バネ38,39が環座41の厚み分だけ圧縮された状態となり、皿バネ38,39のバネ荷重が増加する。すなわち、皿バネ38,39による付勢力が大きくなるように、環座41によって調整されたことになり、環座41は、付勢手段としての皿バネ38,39の付勢力を調整する付勢力調整手段となる。
なお、図2においては、一対の皿バネ38,39の両方に対応してそれぞれ環座41を配置したが、どちらか一方の皿バネ38,39にだけ環座41を配置して、一つの環座41で皿バネ38,39の付勢力を調整するようにし、これによりトラニオン15が中立位置となるように駆動ピストン33の位置を調整するようにしてもよい。
【0068】
例えば、一対の皿バネ38,39を同じものとし、トラニオンアッシーの荷重がかかる下側の皿バネ39の方にだけ、環座41を配置するものとしてもよい。これにより、図2に示す上下配置において、一対の皿バネ38,39として同じ皿バネ38,39を用いた場合に、トラニオンアッシーの荷重により、トラニオン15の位置が中立位置より下側となってしまうのを防止することができる。
また、環座41による皿バネ38,39の付勢力の調整は、環座41の厚みによって調整することが可能であり、厚さの異なる環座41から使用する環座41を選択することで、付勢力の調整が可能である。
【0069】
また、各皿バネ38,39に対応して配置される環座41は、一枚である必要はなく、1枚もしくは複数枚の環座41を使用することで、環座41の枚数により皿バネ38,39のバネ荷重を調整するものとしてもよい。
また、環座41が無い状態では、例えば、図2に示す上下配置で、上側の皿バネ38と、駆動シリンダ31の上端側の内面との間に隙間があるような場合に、環座41をスペーサとして配置することにより、上下両方の皿バネ38,39の付勢力が駆動ピストン33に作用するような構造となっていてもよい。この場合も、皿バネ38,39の付勢力の調整は行われることになり、環座41は、付勢力調整手段として機能する。
【0070】
また、環座41以外の部材を皿バネ38,39と、駆動シリンダ31の上端側もしくは下端側の内面との間に配置して、バネの圧縮率を変化させてバネ荷重を変化させてもよい。この場合に、付勢手段が皿バネ38、39以外の場合に、付勢手段の形状に合った付勢力調整手段を用いることができる。
【0071】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図3に示すように、第3実施形態のトロイダル型無段変速機では、第1実施形態のトロイダル型無段変速機の皿バネ38,39の代わりにそれぞれ、圧縮コイルバネ51,52が駆動シリンダ31のシリンダ空間内に設けられている。これらの圧縮コイルバネ51,52は、これらの上下の圧縮コイルバネ51,52とピストン本体35との間にそれぞれ配置された移動自在な円環板状の上下の油圧室用ピストン53,54を介して、ピストン本体35を下側および上側に付勢している。油圧室用ピストン53,54はそれぞれ、内周側の突起部がピストン本体35の上面および下面に接触してピストン本体35を押すようになっている。油圧室用ピストン53,54の外周面および内周面にはそれぞれ、油密に保つためのシール56が設けられている。上下の圧縮コイルバネ51,52は、互いに対向してピストン本体35を逆方向に付勢する付勢手段となる弾性体である。油圧が上昇し、圧縮コイルバネ51,52の付勢力に油圧力が勝つとピストン本体35が動く。
【0072】
また、上側の油圧室36および下側の油圧室37を形成する外周側の壁面にはそれぞれ、止め輪等からなる上下のストッパ57,58が設けられている。これらのストッパ57,58に上下の油圧室用ピストン53,54が当接することにより、上下の油圧室用ピストン53,54がそれ以上ピストン本体35に接近するのを規制されるようになっている。上下のストッパ57,58は、上下の油圧室用ピストン53,54がピストン本体35をトラニオン15が傾転しない中立位置に略一致する位置以上に押せないようにしている。
なお、第3実施形態の他の構成は、図1の第1実施形態と同様である。
【0073】
このトロイダル型無段変速機が備えられる機械が停止状態で、各油圧室36,37に油圧が作用していない状態となっている際に、これら互いに対向して逆方向に付勢する二つの圧縮コイルバネ51,52が油圧室用ピストン53,54を介してピストン本体35をトラニオン15が傾転しない中立位置に略一致する位置に保持するようになっている。すなわち、二つの圧縮コイルバネ51,52および油圧室用ピストン53,54は、トラニオン15を中立位置に保持する中立位置保持手段を構成するものである。
【0074】
圧縮コイルバネ51,52は、トラニオン15およびトラニオン15に付随する駆動ロッド29、駆動ピストン33およびその他の部材からなるトラニオンアッシー(アッセンブリー)の自重を少なくとも支持可能なバネ荷重(弾性体荷重)を有するものとなっている。すなわち、圧縮コイルバネ51,52のバネ荷重(弾性体荷重)は、少なくともトラニオンアッシーの質量を支持できる値より大きなものとなっている。また、駆動装置32が、これら圧縮コイルバネ51,52の付勢力に抗して、駆動ピストン33を変位させる必要があり、これら圧縮コイルバネ51,52のバネ荷重が上述の値よりもあまり大きくならないことが好ましい。
【0075】
また、図3に示すように駆動装置32の上にトラニオン15を配置する上下配置では、上側の圧縮コイルバネ51より下側の圧縮コイルバネ52を強くするものとしてもよい。なお、基本的には、上述のように互いに逆方向にピストン本体35を付勢する二つの圧縮コイルバネ51,52により、トラニオン15が略中立位置に配置される状態となればよい。
【0076】
この第3実施形態のトロイダル型無段変速装置にあっては、第1実施形態のトロイダル型無段変速機と同様に、変速比の微分値をトラニオン15のオフセット量の代用特性として変速比を制御する場合に、トロイダル型無段変速機を停止状態(非作動状態)から作動状態に変化させた際に、トラニオン15が略中立位置にあり、トラニオン15のオフセット量が略0になっているので、トラニオン15が傾転せず、起動時にトラニオン15がその傾転範囲を規制するストッパに強く当たることがない。
【0077】
また、図1の第1実施形態では、油圧室36、37に直接皿バネ38,39が配置されているので、差圧からバリエータ入力トルクを算出する際などに皿バネ38,39の推力分がどのくらいか予想し難いが、第3実施形態では、圧縮コイルバネ51,52が油圧室用ピストン53,54を介してピストン本体35を押すので、油圧が上昇すれば差圧から正確な入力トルクを算出することができる。
【0078】
また、第3実施形態では、上下のストッパ57,58が設けられているので、上下の油圧室用ピストン53,54がピストン本体35をトラニオン15が傾転しない中立位置に略一致する位置以上に押せないようにしてピストン本体35の位置を決めることができる。すなわち、上下のストッパ57,58が設けられていないと、二つの圧縮コイルバネ51,52の付勢力の釣り合った位置にピストン本体35が位置してしまうので、サイドスリップ力が大きくなってしまい、変速してしまう虞がある。また、圧縮コイルバネ51,52のバネ特性に多少差があっても、上下のストッパ57,58でピストン本体35の位置を決めることができる。
【0079】
なお、中立位置保持手段の付勢手段は、圧縮コイルバネ51,52に限られるものではなく、例えば、皿バネ、波型バネなどの各種バネおよび各種弾性体を付勢手段として使用可能である。
【0080】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。
図4に示すように、第4実施形態のトロイダル型無段変速機は、変速比の微分値をトラニオン15のオフセット量の代用特性として用いる第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態の制御方法の一部を変更したものである。第3実施形態のトロイダル型無段変速機の構造は、図1に示す第1実施形態と同様の構造となっている。なお、第4実施形態のトロイダル型無段変速機の構造は、第2実施形態または第3実施形態のトロイダル型無段変速機と同様のものであってもよい。
【0081】
この第4実施形態のトロイダル型無段変速機においては、通常時には、第1実施形態と同様に、入力側ディスク2の回転速度および出力側ディスク3の回転速度の比から変速比を求めるとともに、この変速比と、この変速比の微分値を用いて、駆動装置32への油圧の給排を制御することで、トロイダル型無段変速機の変速比が所望の変速比となるように制御している。
【0082】
但し、この例においては、例えば、トロイダル型無段変速機を備えた車両やその他の機械において、停車状態(停止状態)から走行状態(作動状態)となる際に、入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転数が設定された基準値である設定値(例えば、300rpm)以下の場合に、上述の通常時の制御を行わずに、例えば、駆動装置32の駆動シリンダ31の第1油圧室36と第2油圧室37とが同じ油圧となるように制御する。これにより、停車状態の際に2つの皿バネ38,39により、トラニオン15を中立位置とする状態で、停車状態から走行状態となっても、駆動装置32の駆動ピストン33が変位せずに、トラニオン15は、中立位置に保持され、変速比の変更が行われない状態となる。
【0083】
すなわち、図4のフローチャートに示すように、停車状態から走行状態となった際に、
入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転数が基準値(設定値)以上か否かを判定し(ステップS1)、基準値以下の場合には、2つの油圧室(シリンダ室)36,37に同じ油圧を供給する(ステップS2)ことにより、2つの油圧室36,37の油圧を等しくし、駆動ピストン33の位置をトラニオン15が中立位置となる位置に保持する。
また、入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転数が基準値以上となった場合には、上述のように変速比の微分値を用いた駆動装置32の油圧の制御を開始する(ステップS3)。
【0084】
このトロイダル型無段変速機にあっては、入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転数が基準値以上となるまでは、停車状態において上述の皿バネ38,39により、トラニオン15を中立位置とする状態が走行状態となっても保持されることになり、変速比の変更が行われない状態となる。したがって、入力側ディスクおよび出力側ディスクの回転を検出するセンサからの信号の出力が不安定な状態で、この不安定な信号に基づいて変速比を求めるとともに変速比の微分値を求めて、これら変速比および微分値に基づいて、変速比を制御することにより変速比が不安定となるのを防止することができる。
この場合に、上述のように停車状態で皿バネ38,39により、トラニオン15が中立位置にある状態が走行開始時も維持されるので、変速比を一時的に制御しない状態としても、変速比が一定となり問題が生じない。
【0085】
すなわち、トラニオン15がオフセットされた状態で駆動装置32において各油圧室の油圧を一定にしてしまうと、変速比が一定の割合でLow側もしくはHigh側に変化しつづけてしまう虞があるが、2つの油圧室に同じ油圧が供給される際に、トラニオン15が中立位置にあるので、変速比は変化しない。
【0086】
上述の処理では、ステップS1において、入力側ディスク2および出力側ディスク3の両方の回転数が基準値以上か否かを判定する。すなわち、入力側ディスク2および出力側ディスク3のいずれか一方が未だ基準値以下の場合には、回転数が基準値以下と判定する。なお、入力側ディスク2および出力側ディスク3のいずれか一方が基準値以上となった段階で、回転数が基準値以上となったと判定してもよい。さらに、入力側ディスク2および出力側ディスク3のいずれか一方の回転数だけを基準値と比較するようにして、基準値と比較された回転数が基準値以下か以上かを判定するようにしてもよい。
【0087】
また、上記処理は、実際には、停車状態から走行状態となった際に、短い時間間隔で繰り返し行われ、入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転数が基準値以上となって、通常の変速制御が行われた段階で終了するようになっている。
また、基準値を例えば300rpmとしたが、例えば、入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転数を検出するセンサの特性に対応して基準値を決める必要があり、基準値は300rpmに限られるものではない。すなわち、センサが安定して入力側ディスク2および出力側ディスク3の回転数を検出可能となる値もしくはそれに近い値を基準値として設定することが好ましい。
【0088】
次に、本発明の第5実施形態を説明する。
図5に示すように、第5実施形態のトロイダル型無段変速機の特徴部分は、駆動装置32に設けられたピストンシール71の構造(特性)と、駆動装置32の制御方法にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、第5実施形態の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図6および図7と同一の符号を付して簡潔に説明する。
【0089】
また、第5実施形態のトロイダル型無段変速機は、第1実施形態の皿バネ38,39に代えて、ピストンシール71の摩擦力を後述のように高めるとともに、駆動装置が非動作状態、すなわち、エンジンが停止して駆動装置が動作しない状態になる前に、トラニオン15を中立位置に移動するものである。
【0090】
上述のように、第5実施形態のトロイダル型無段変速の構造は、ピストンシール71以外は、従来と同様である。なお、シリンダとピストンとを備えて油圧で作動する装置において、ピストンシールは必須であり、ピストンシール71は従来から設けられている。
【0091】
この第5実施形態では、通常と異なり、あえて摩擦力の大きなピストンシール71を備えている。
第5実施形態において、駆動ロッド29が挿入される円筒部34とピストン本体35とからなる駆動ピストン33の外周面に、複数のピストンシール71が固定されている。例えば、ピストンシール71は、ピストン本体35の外周面と、円筒部34のピストン本体35より上の部分と、円筒部34のピストン本体35より下の部分と、円筒部34のさらに下の部分との4箇所に取り付けられている。なお、ピストンシール71の各取り付け位置には、円環状の取付溝が設けられ、これら取付溝にピストンシール71が嵌合して取り付けられている。また、ピストンシール71の外周面は、取付溝より外側に突出している。
【0092】
ピストン本体35より上のピストンシール71は、駆動シリンダ31を構成する上側シリンダボディ61のシリンダ本体になる上側の油圧室36より上側で、内側に駆動ロッド29が挿入された円筒部34が貫通する部分の内周面に当接している。また、ピストン本体35のピストンシール71は、駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61のシリンダ本体になる部分の内面に当接している。
ピストン本体35より下の2つのピストンシール71は、駆動シリンダ31を構成する下側シリンダボディ62の内側に駆動ロッド29が挿入された円筒部34が貫通する部分の内周面に当接している。
【0093】
これらのピストンシール71の駆動シリンダ31(上側シリンダボディ61および下側シリンダボディ62)に対する摩擦力が、駆動装置32により駆動されるトラニオン15を含む全ての部材の総重量に作用する重力より大きくされている。
駆動装置32に駆動される部材としては、枢軸14を有するトラニオン15および枢軸14に取り付けられる駆動ロッド29、パワーローラ11、変位軸23、外輪28等を備えるスラスト玉軸受24、スラストニードル軸受25等の部材であり、駆動装置32に駆動されて枢軸14の軸方向に移動させられる部材である。
【0094】
このように、ピストンシール71の駆動シリンダ31に対する摩擦力が、駆動装置32により駆動されるトラニオン15を含む全ての部材の総重量に作用する重力より大きくされているので、駆動装置32がトロイダル型無段変速機にトルクを供給するエンジンが停止等により非作動状態になって、駆動装置32に油圧が作用してない状態で、かつ、トラニオンが中立位置にある場合に、トラニオン等の駆動装置32により駆動される部材が重力により下側に移動してしまうのを防止できる。
【0095】
例えば、トロイダル型無段変速機が図5に示す上下配置になっている場合に、4つのピストンシール71の摩擦力により、例えば、中立位置に配置されたトラニオン15が重力により図中下側にずり落ちることがないようになっている。すなわち、ピストンシール71の駆動シリンダ31に対する摩擦力を、駆動装置32に油圧が作用していない状態で、重力によりトラニオン15が枢軸14方向に移動するのを規制可能な大きさ以上とする。
【0096】
なお、ピストン本体35に以外の円筒部34に設けられたピストンシール71を駆動シリンダ31側に設けるものとしてもよい。この場合に、ピストンシール71と駆動ピストン33との間に摩擦力が発生することになる。
【0097】
ピストンシール71と、駆動シリンダ31または駆動ピストン33との摩擦力を、上述のように駆動装置32が非作動状態の場合に重力等でトラニオン15が枢軸方向に移動するのを防止する大きさにする場合には、ピストンシール71の材質をより弾性力の高い材質とするか、ピストンシール71の半径方向の厚さや、軸方向の厚さをより厚くすることによって、ピストンシール71の駆動シリンダ31の内周面もしくは駆動ピストン32の外周面への押し付け力を大きくして摩擦力を大きくする。また、ピストンシール71の駆動シリンダ31の内周面もしくは駆動ピストン32の外周面への接触面積を大きくして摩擦力を大きくする。これらを組合わせて摩擦力を大きくしてもよい。
【0098】
また、第5実施形態においては、車両のエンジン等のトロイダル型無段変速にトルクを入力する駆動源が停止して駆動装置32が非作動状態になる際に、トラニオン15が中立位置に配置されるように駆動装置3への油圧の供給を制御する。この油圧の供給を制御する制御装置が駆動装置32を制御する駆動制御手段になる。
この際には、車両が止まってエンジンがアイドリング状態でエンジンを停止する際に、エンジンが停止される直前に、上述のように入力側ディスク2の回転速度と、出力側ディスクの回転速度との回転速度比に基づいて変速比を求めるとともに、変速比の変化速度(変速比の微分値)を算出し、算出された変速比の微分値からトラニオン15の動きを推測し、この推測に基づいてフィードバック制御を行って、トラニオン15を中立位置に移動させるものとしてもよい。
【0099】
これにより、駆動装置が非作動状態になった後は、上述のように中立位置になったトラニオン15を上述のピストンシール71の摩擦力により、中立位置に保持することができる。したがって、ピストンシール71と、駆動制御手段とがトラニオン15を中立位置に保持する中立位置保持手段を構成する。
【0100】
この第5実施形態のトロイダル型無段変速装置にあっては、第1実施形態のトロイダル型無段変速機と同様に、変速比の微分値をトラニオン15のオフセット量の代用特性として変速比を制御する場合に、トロイダル型無段変速機を停止状態(非作動状態)から作動状態に変化させた際に、トラニオン15が略中立位置にあり、トラニオン15のオフセット量が略0になっているので、トラニオン15が傾転せず、起動時にトラニオン15がその傾転範囲を規制するストッパに強く当たることがない。
【0101】
また、第5実施形態では、トラニオン15を中立位置に保持する手段として、ピストンシール71を兼用しているので、上述の皿バネ38,39等の従来用いていなかった部材を必要としない。したがって、新たに部材を追加することによるトロイダル型無段変速機のコスト増および重量増を抑制することができる。
【0102】
なお、前述の各実施形態では、本発明を駆動装置によって、トラニオンが傾転しない中立位置からトラニオンを枢軸の軸方向に沿って変位させることにより、変速比を制御する際に、入力側ディスクおよび出力側ディスクの回転速度から求めた変速比の微分値を、トラニオンの中立位置から枢軸の軸方向に沿った変位量の代用特性として用いるトロイダル型無段変速機に適用した。
しかし、本発明は、これに限らず、次のようなことにも対処できる。すなわち、パワーローラ11(トラニオン15)を支持する駆動装置32の駆動シリンダ31内の油圧室(増速用油圧室、減速用油圧室)の油圧が立ち上がらない(作用していない)と、パワーローラ11中心がディスク2,3中心からオフセットを生じ、ハンチングが発生する虞があるが、前記各実施の形態のトロイダル型無段変速機によれば、駆動装置32が非作動状態の場合に、トラニオン15の枢軸14の軸方向に沿った位置をトラニオン15が傾転しない中立位置に略一致した状態に保持する中立位置保持手段を備えているので、油圧室の油圧上昇が不十分な時間は、駆動装置32のピストン本体35の上下運動(往復運動)を停止させることができ、これによりエンジン(原動機)始動時のハンチング防止またはハンチングの早期収束を図ることができる。つまり、油圧室の油圧が低い場合は、駆動装置32のピストン本体35の上下運動(往復運動)が固定され、油圧が上がると従来と同様の駆動装置32の動きとなる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機、さらにはハーフトロイダル型無段変速機と遊星歯車を組み合わせた変速比無限大変速機(IVT)などの種々の変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
31 駆動シリンダ
32 駆動装置
33 駆動ピストン
34 円筒部(駆動ピストン側の部材)
35 ピストン本体(駆動ピストン側の部材)
36 油圧室
37 油圧室
38 皿バネ(付勢手段、中立位置保持手段)
39 皿バネ(付勢手段、中立位置保持手段)
41 環座(付勢力調整手段)
51 圧縮コイルバネ(付勢手段、中立位置保持手段)
52 圧縮コイルバネ(付勢手段、中立位置保持手段)
53 油圧室用ピストン
54 油圧室用ピストン
61 上側シリンダボディ(駆動シリンダ側の部材)
62 下側シリンダボディ(駆動シリンダ側の部材)
71 ピストンシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた一対の枢軸の軸方向に沿って移動するとともに前記枢軸を中心に傾転し、かつ、前記各パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、これらトラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させる駆動装置とを備えているトロイダル型無段変速機において、
前記駆動装置が非作動状態の場合に、前記トラニオンの前記枢軸の軸方向に沿った位置を前記トラニオンが傾転しない中立位置に略一致した状態に保持する中立位置保持手段を備えることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた一対の枢軸の軸方向に沿って移動するとともに前記枢軸を中心に傾転し、かつ、前記各パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、これらトラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させる駆動装置とを備え、
前記駆動装置によって、前記トラニオンが傾転しない中立位置から前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させることにより、変速比を制御する際に、前記入力側ディスクおよび出力側ディスクの回転速度から求めた変速比の微分値を、前記トラニオンの前記中立位置から前記枢軸の軸方向に沿った変位量の代用特性として用いるトロイダル型無段変速機において、
前記駆動装置が非作動状態の場合に、前記トラニオンの前記枢軸の軸方向に沿った位置を前記中立位置に略一致した状態に保持する中立位置保持手段を備えることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記駆動装置は、駆動シリンダと、この駆動シリンダ内を2つの油圧室に分割するとともに、これら油圧室の油圧に基づいて直動して前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させる駆動ピストンとを備え、
前記中立位置保持手段は、二つの前記油圧室内にそれぞれ設けられ、前記駆動ピストンの位置を前記トラニオンが前記中立位置となる側にそれぞれ互いに対向して付勢する付勢手段を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
二つの前記付勢手段はそれぞれ、二つの前記油圧室内にそれぞれ移動自在に設けられた油圧室用ピストンを介して前記駆動ピストンを付勢することを特徴とする請求項3に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項5】
前記付勢手段は、付勢力を調整する付勢力調整手段を備えることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項6】
前記駆動装置は、駆動シリンダと、この駆動シリンダ内を2つの油圧室に分割するとともに、これら油圧室の油圧に基づいて直動して前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させる駆動ピストンと、駆動シリンダ側の部材の内周面と、前記駆動ピストン側の部材の外周面との間に配置される環状のピストンシールとを備え、
前記中立位置保持手段は、前記ピストンシールと、前記駆動装置が非作動状態になる直前に、前記駆動装置により前記トラニオンを前記中立位置に移動させる駆動制御手段とを備え、
前記ピストンシールでは、当該ピストンシールを介して前記駆動シリンダ側の部材と、前記駆動ピストン側の部材とが摺動する際に、前記ピストンシールと前記駆動シリンダ側の部材または前記駆動ピストン側の部材との間に生じる摩擦力が、前記駆動装置に駆動されて一体に移動する全ての部材の総重量に作用する重力より大きくされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載されたトロイダル型無段変速機の制御方法であって、
前記入力側ディスクおよび出力側ディスクの両方または一方の回転数が所定値に満たない場合には、前記駆動装置によって、前記トラニオンが傾転しない中立位置から前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に沿って変位させることにより変速比を制御する変速制御を禁止し、前記トラニオンの枢軸方向に沿った位置を略中立位置とするように前記駆動装置を制御することを特徴とするトロイダル型無段変速機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−122605(P2012−122605A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28217(P2011−28217)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】