説明

トロイダル型無段変速機

【課題】最小限の潤滑油供給量で効果的にトラクション面の潤滑を行なうことができる優れた潤滑油供給構造を備えるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機のポスト64(68)には、パワーローラ15とディスク2,3との間の界面であるトラクション面2a,3aへ向けて潤滑油を供給するための複数の油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)が設けられ、これらの油供給路の油噴出穴120,121,122が全て同一のディスク2(3)のトラクション面2a(3a)へと方向付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図7および図8に示すように構成されている。図7に示すように、ケーシング50の内側には入力軸(中心軸)1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図8参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図7中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図7の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図8は、図7のA−A線に沿う断面図である。図8に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図8においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、パワーローラ11を支持する支持板部16の長手方向(図8の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸(軸部)23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、ラジアルニードル軸受99を介して各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図8の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図7の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は球状凹面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図8で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図8の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図8の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
ところで、上記構成のトロイダル型無段変速機において、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間の動力伝達は、これらの部材表面の損傷を防止するべく、油膜を介したトラクション力により非接触で行なわれる(以下、油膜によって形成されるパワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間の界面をトラクション面と称し、本明細書中では、便宜上、パワーローラ11の周面11aをトラクション面と称することがある)。そのため、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間に形成されるトラクション面には、トルクを非接触で伝達するための油膜を形成できる量の潤滑油(トラクション油)を供給する必要がある。
【0017】
従来、パワーローラ11のトラクション面に対する潤滑油の供給は、様々な構造形態によって行なわれている(特許文献1〜3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−132045号公報
【特許文献2】特開平6−280960号公報
【特許文献3】特開2003−207011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
近年、トラクション面への潤滑油の供給量を少なくし、また、潤滑油をトラクション面へと方向付ける潤滑油供給形態が提案されてきている。しかしながら、そのような潤滑油供給形態では、その微少な供給量および温度変化に伴う油の粘度によっては、トラクション面に対して潤滑油が適切な量だけ確実に供給されているか否かを確認することが難しい。
【0020】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、最小限の潤滑油供給量で効果的にトラクション面の潤滑を行なうことができる優れた潤滑油供給構造を備えるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し且つ前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記トラニオンの前記枢軸をそれぞれ傾転自在且つ軸方向に変位自在に支持するとともに、前記トラニオンの変位により揺動する一対のヨークと、ヨークを揺動自在に支持するポストとを備え、前記パワーローラと前記ディスクとの間の動力伝達が油膜を介して行なわれるトロイダル型無段変速機において、前記ポストには、前記パワーローラと前記ディスクとの間の界面であるトラクション面へ向けて潤滑油を供給するための複数の油供給路が設けられ、これらの油供給路の油噴出穴が全て同一のディスクのトラクション面へと方向付けられていることを特徴とする。
【0022】
この請求項1に記載の発明においては、トラクション面へ向けて潤滑油を供給するための複数の油供給路がポストに設けられ、これらの油供給路の油噴出穴が全て同一のディスクのトラクション面へと方向付けられているので、同一のディスクのトラクション面へと潤滑油を供給すべき油供給路を選択することにより、最小限の潤滑油供給量で効果的にトラクション面の潤滑を行なうことが可能になる。
【0023】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記トラクション面へと潤滑油を供給すべき油供給路を前記トラニオンの傾転角に応じて選択するための選択手段を更に備えることを特徴とする。
【0024】
この請求項2に記載の発明においては、トラクション面へと潤滑油を供給すべき油供給路がトラニオンの傾転角に応じて選択されるので、トラニオンの傾転動作に応じて変化する噴射対象面の変化に追従でき、最小限の潤滑油供給量で効果的にトラクション面の潤滑を行なうことができる。
【0025】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記選択手段は、潤滑油供給源側に対して連通する油供給路を選択的に切り換える油路切換板から成ることを特徴とする。
【0026】
この請求項3に記載の発明においては、油供給路の選択を機械的に行なえるので、機械的な選択制御が可能になる。
【0027】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記油路切換板が前記トラニオンの傾転動作に連動することを特徴とする。
【0028】
この請求項4に記載の発明においては、トラニオンの傾転角の変化を油路切換板による油路選択に直接に反映させることができるので、トラニオンの傾転角に応じた正確な油路選択が可能になる。
【0029】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記ポストは、ポスト本体と、前記油噴出穴を有する先端部とから成り、前記ポスト本体と前記先端部とが別体であることを特徴とする。
【0030】
この請求項5に記載の発明においては、ポスト本体と油噴出穴を有する先端部とが別体であるので、ポストおよびその油供給路の形成加工を容易化でき、ひいては、製造コストの低減を図ることができる。
【0031】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記各油供給路は、前記ポストから延出する別個のパイプによって形成されることを特徴とする。
【0032】
この請求項6に記載の発明においては、各油供給路が前記ポストから延出する別個のパイプによって形成されるので、ポスト構造を簡略化でき、製造コストの低減に寄与できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、最小限の潤滑油供給量で効果的にトラクション面の潤滑を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係るポストの油供給路の形成形態を示す断面図である。
【図2】(a)は図1のポストに付設される油路切換板とトラニオンとの連動構造を示す断面図、(b)は油路切換板の平面図である。
【図3】油路切換板の油穴とポストの油供給路との連通形態の変形例を示す平面図である。
【図4】ポストに設けられる油噴出穴の形成形態の変形例を示す平面図である。
【図5】ポスト構造の変形例を示す断面図である。
【図6】ポストの油供給路の構造形態の変形例を示す一部断面を伴う概略図である。
【図7】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図8】図7のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の特徴は、トラクション面に対する潤滑油の供給構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図7および図8と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0036】
図1は本発明の実施形態に係る球面ポスト64(68)の油供給路の形成形態を示している。図示のように、球面ポスト64(68)には、入力側ディスク2に対向する側および図1に示されない出力側ディスク3(図7参照)と対向する側のそれぞれに3つずつ油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)が形成されている。これらの油供給路110a,110b,110c,110a’,110b’,110c’は、図2の(b)に破線で明確に示されるように、断面が円形の通路として形成されており、球面ポスト64(68)の径方向に沿って一列に配列されて設けられている。そして、3つの油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)のうち、径方向最も外側に位置する油供給路110a(110a’)は、高速回転時(High)用の油供給路としてその油噴出穴120がディスク2,3のトラクション面2a,3aの径方向外側部位と対向し、また、径方向最も内側に位置する油供給路110c(110c’)は、低速回転時(Low)用の油供給路としてその油噴出穴122がディスク2,3のトラクション面2a,3aの径方向内側部位と対向し、更に、油供給路110a(110a’)と油供給路110c(110c’)との間に位置する中間の油供給路110b(110b’)は、中速回転時(1:1/トラニオン15の傾転角が90°のとき)用の油供給路としてその油噴出穴121がディスク2,3のトラクション面2a,3aの中央部位と対向するようになっている。すなわち、これらの油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)の油噴出穴120,121,122は全て同一のディスク2(3)のトラクション面2a(3a)へと方向付けられている。
【0037】
また、本実施形態では、トラクション面2a(3a)へと潤滑油を供給すべき油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)をトラニオン15の傾転角に応じて選択するための選択手段が球面ポスト64(68)に付設されている。具体的に、本実施形態において、この選択手段は、潤滑油供給源側、すなわち、駆動装置32(図8参照)に連じる油路250に対して連通する油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)を選択的に切り換える油路切換板260から成っている。
【0038】
図2の(a)に示すように、油路切換板260は、その一端に設けられる歯260Aがトラニオン15の枢軸14の端面に形成された歯270と噛み合っており、トラニオン15の傾転動作に応じて回動する(トラニオン15の傾転動作に連動する)ようになっている。そして、油路切換板260は、トラニオン15の傾転動作に応じて回動してその油穴260a,260b,260c(260a’,260b’,260c’)が球面ポスト64(68)の油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)と選択的に連通することにより、トラニオン15の傾転角に応じてトラクション面2a(3a)へと潤滑油を供給すべき油供給路110a,110b,110c(油供給路110a’,110b’,110c’)を油路250に対して選択的に連通させるようになっている。
【0039】
具体的には、油路切換板260は、図2の(b)に明確に示されるように、入力側ディスク2の側に設けられ且つ互いに径方向および周方向に所定の間隔を隔てて離間される3つの長穴状の油穴260a,260b,260cと、出力側ディスク2の側に設けられ且つ互いに径方向および周方向に所定の間隔を隔てて離間される3つの長穴状の油穴260a’,260b’,260c’とを有しており、また、入力側ディスク2の側に設けられる油穴260a,260b,260cと、出力側ディスク2の側に設けられる油穴260a’,260b’,260c’は、入力側ディスク2の側と出力側ディスク3の側とを境界付ける球面ポスト64(68)の対称軸線Lに対して線対称に配置されている。したがって、低速回転時(Low)には、トラニオン15の傾転動作に伴う油路切換板260の回動によって、油路切換板260の径方向最も内側に位置する油穴260cが球面ポスト64(68)の径方向最も内側に位置する油供給路110cと連通するとともに、油路切換板260の径方向最も外側に位置する油穴260a’が球面ポスト64(68)の径方向最も外側に位置する油供給路110a’と連通して、油路250からの潤滑油が油噴出穴122を介して入力側ディスク2のトラクション面2aの径方向内側部位に噴射されるとともに、油路250からの潤滑油が油噴出穴120を介して出力側ディスク3のトラクション面3aの径方向外側部位に噴射される。一方、高速回転時(High)には、トラニオン15の傾転動作に伴う油路切換板260の回動によって、油路切換板260の径方向最も外側に位置する油穴260aが球面ポスト64(68)の径方向最も外側に位置する油供給路110aと連通するとともに、油路切換板260の径方向最も内側に位置する油穴260c’が球面ポスト64(68)の径方向最も内側に位置する油供給路110c’と連通して、油路250からの潤滑油が油噴出穴120を介して入力側ディスク2のトラクション面2aの径方向外側部位に噴射されるとともに、油路250からの潤滑油が油噴出穴122を介して出力側ディスク3のトラクション面3aの径方向内側部位に噴射される。更に、中速回転時(1:1/トラニオン15の傾転角が90°のとき)には、図1および図2に示されるように、トラニオン15の傾転動作に伴う油路切換板260の回動によって、油路切換板260の中間の油穴260bが球面ポスト64(68)の中間の油供給路110bと連通するとともに、油路切換板260の中間の油穴260b’が球面ポスト64(68)の中間の油供給路110b’と連通して、油路250からの潤滑油が油噴出穴121を介して入力側ディスク2のトラクション面2aの中央部位に噴射されるとともに、油路250からの潤滑油が油噴出穴121を介して出力側ディスク3のトラクション面3aの中央部位に噴射される。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、トラクション面2a,3aへ向けて潤滑油を供給するための複数の油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)がポスト64(68)に設けられ、これらの油供給路の油噴出穴120,121,122が全て同一のディスク2(3)のトラクション面2a,3aへと方向付けられているとともに、トラクション面2a,3aへと潤滑油を供給すべき油供給路がトラニオン15の傾転角に応じて選択されるため、トラニオン15の傾転動作に応じて変化する噴射対象面の変化に追従でき、最小限の潤滑油供給量で効果的にトラクション面2a,3aの潤滑を行なうことができる。
【0041】
なお、本実施形態では、トラニオン15と油路切換板260との連動がギアによってなされているが、ベルトによる連動であってもよい。
【0042】
図3は、油路切換板260の油穴と球面ポスト64(68)の油供給路との連通形態の変形例を示している。図3の(a)の変形例は、第1の実施形態における油路切換板260の油穴の形状および配置形態と球面ポスト64(68)の油供給路の形状および配置形態とが互いに置き換えられている(逆になっている)。すなわち、油路切換板260の油穴260a,260b,260c,260a’,260b’,260c’は、断面が円形の穴として形成されており、球面ポスト64(68)の径方向に沿って一列に配列されて設けられている。一方、球面ポスト64(68)は、入力側ディスク2の側に設けられ且つ互いに径方向および周方向に所定の間隔を隔てて離間される3つの長穴状の油供給路110a,110b,110cと、出力側ディスク2の側に設けられ且つ互いに径方向および周方向に所定の間隔を隔てて離間される3つの長穴状の油供給路110a’,110b’,110c’とを有しており、また、入力側ディスク2の側に設けられる油供給路110a,110b,110cと、出力側ディスク2の側に設けられる油供給路110a’,110b’,110c’は、入力側ディスク2の側と出力側ディスク3の側とを境界付ける球面ポスト64(68)の対称軸線Lに対して線対称に配置されている。また、図3の(b)の変形例は、図3の(a)の変形例であり、図3の(a)の変形例の配置形態において、油路切換板260の油穴を長穴状に連続させ、一方、球面ポスト64(68)を円形断面の油供給路としている。
【0043】
図4は、球面ポスト64(68)に設けられる油噴出穴の形成形態の変形例を示している。この変形例では、油噴出穴120,121,122の配列が入力側ディスク2のトラクション面2aおよび出力側ディスク3のトラクション面3aの両方に向けて延びるように方向付けられている。このようにすると、トラクション面2a,3aへの潤滑油の供給を更に確実に行なうことができる。
【0044】
図5は、球面ポスト64(68)の構造の変形例を示している。図示のように、この変形例において、球面ポスト64(68)は、ポスト本体270と、油噴出穴120,121,122を有する先端部272とから成る。そして、ポスト本体270と先端部272とが別体に形成されている。このような構成によれば、ポスト本体270と油噴出穴を有する先端部272とが別体であるため、ポスト64(68)およびその油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)の形成加工を容易化でき、ひいては、製造コストの低減を図ることができる。
【0045】
図6はポスト64(68)の油供給路の構造形態の変形例を示している。この変形例では、油供給路110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)が、ポスト64(68)の一部を成す油路切換板260から延出する別個のパイプによって形成されている。この構成によれば、ポスト構造を簡略化でき、製造コストの低減に寄与できる。また、パイプ110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’)の油噴出穴120,121,122をトラクション面へ向けることにより、潤滑油の供給効率を更に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 入力軸
2 入力側ディスク
2a トラクション面
3 出力側ディスク
3a トラクション面
11 パワーローラ
11a トラクション面
14 枢軸
15 トラニオン
23A,23B ヨーク
64,68 ポスト
110a,110b,110c(110a’,110b’,110c’) 油供給路
120,121,122 油噴出穴
260 油路切換板
270 ポスト本体
272 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し且つ前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記トラニオンの前記枢軸をそれぞれ傾転自在且つ軸方向に変位自在に支持するとともに、前記トラニオンの変位により揺動する一対のヨークと、ヨークを揺動自在に支持するポストとを備え、前記パワーローラと前記ディスクとの間の動力伝達が油膜を介して行なわれるトロイダル型無段変速機において、
前記ポストには、前記パワーローラと前記ディスクとの間の界面であるトラクション面へ向けて潤滑油を供給するための複数の油供給路が設けられ、これらの油供給路の油噴出穴が全て同一のディスクのトラクション面へと方向付けられていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記トラクション面へと潤滑油を供給すべき油供給路を前記トラニオンの傾転角に応じて選択するための選択手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記選択手段は、潤滑油供給源側に対して連通する油供給路を選択的に切り換える油路切換板から成ることを特徴とする請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記油路切換板が前記トラニオンの傾転動作に連動することを特徴とする請求項3に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項5】
前記ポストは、ポスト本体と、前記油噴出穴を有する先端部とから成り、
前記ポスト本体と前記先端部とが別体であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項6】
前記各油供給路は、前記ポストから延出する別個のパイプによって形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−189145(P2012−189145A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53221(P2011−53221)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】